説明

音響発生装置

【課題】スピーカ方向に音源が定位せず、空間感のある音を再生することのできる音響発生装置を提供すること。
【解決手段】音響発生装置1は、オーディオ信号に対して信号処理部5において遅延処理と振幅を増減させる信号処理を行い、信号処理されたオーディオ信号に基づいて放出される音響ビームを部屋の壁面に反射させて、受音位置に対して複数到達させることで、遅延効果のある音が壁面の様々な方向から聞こえる効果をもつような放音を行うことができる。これにより、スピーカ方向に音源が定位せず、部屋全体から音が放音されているような空間感のある音の再生をすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間感のある音を再生する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
音場支援システム(室内の残響付加装置)において残響を付加する方法としては、オーディオ信号に対してFIR(Finite Impulse Response)フィルタやIIR(Infinite Impulse Response)フィルタを用いて信号処理を行う方法がある。また、特許文献1に記載されているように部屋の各所においてスピーカを配置、または仮想スピーカを生成して、オーディオ信号に対して適宜遅延などを行って放音することにより、空間感のある所望の音場を作り出す方法などがある。
【特許文献1】特開2001−016698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1のように、部屋の各所にスピーカを配置した場合、ステレオや音場合成の効果により空間感のある再生音が得られるポイントは、限られたエリアとなってしまう。また、特に特定のスピーカの近くでは、音像はそのスピーカに定位することになってしまい、例えば音場支援装置などでは、スピーカからの音として認識されて自然な残響付加ができなかった。
【0004】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、スピーカ方向に音源が定位せず、空間感のある音を再生することのできる音響発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、本発明は、部屋に設置される音響発生装置において、前記部屋の形状を示す部屋形状情報と、前記部屋の壁面での音の反射率を示す反射率情報と、前記音響発生装置が設置される位置および設置される向きを示す設置位置情報と、前記音響発生装置から放出される音を聞く受音位置を示す受音位置情報とを有する部屋情報を記憶する記憶手段と、入力される信号に対して、設定される遅延時間の遅延処理を行う遅延手段と、設定される増幅率の増幅処理を行う増幅手段とを有する信号処理手段と、前記信号処理手段から出力される遅延、増幅された信号を所定の指向方向と指向角とを有する指向状態の音響ビームとして放出する放音手段と、設定された指向情報に基づいて前記指向状態を制御する指向制御手段と、前記部屋情報と前記指向情報とに基づいて、前記遅延手段に設定される遅延時間と前記増幅手段に設定される増幅率とを決定する補正手段とを有する放音系を複数具備し、前記各放音系の指向情報は他の放音系とは異なるように設定されていることを特徴とする音響発生装置を提供する。
【0006】
また、別の好ましい態様において、前記指向制御手段に設定される指向情報、前記遅延手段に設定される遅延時間、または前記増幅手段に設定される増幅率のうち、少なくとも一つを時間の経過とともに変化させる変更手段をさらに具備していてもよい。
【0007】
また、別の好ましい態様において、前記信号処理手段は、入力信号に対して残響効果を付与した信号を出力する残響付与手段をさらに有し、前記信号処理手段からの出力信号は、遅延、増幅されるとともに、前記残響付与手段によって残響を付与された信号であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スピーカ方向に音源が定位せず、空間感のある音を再生することのできる音響発生装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態>
図1は、本発明の実施形態に係る音響発生装置1の構成を示したブロック図であり、図2は、音響発生装置1の外観を示す斜視図である。音響発生装置1は、36台のスピーカ2−1、2−2、・・・、2−36を有するアレイスピーカ2を具備し、図2に示すように、スピーカ2−1、2−2、・・・、2−36は、縦横6台ずつ配置されている。アンプ3−1、3−2、・・・、3−36は、制御部11からの制御に基づいて入力された信号を増幅し、それぞれ接続されているスピーカ2−1、2−2、・・・、2−36から放音させる。アンプ3−1、3−2、・・・、3−36によって、増幅部3が構成されている。
【0011】
指向制御部4は、指向制御回路4−1、4−2、・・・、4−36を有している。指向制御回路4−1、4−2、・・・、4−36は、制御部11からの制御に基づいて、入力された信号の遅延量と音量を制御して、それぞれに接続されたアンプ3−1、3−2、・・・、3−36に出力する。ここで、後述するように複数の乗算器の出力信号が1つの指向性制御回路に入力された場合には、それぞれの出力信号に対して、制御部11からの制御に基づいて、遅延量と音量を制御する。
【0012】
信号処理部5は、遅延回路(遅延手段)51−1、51−2、・・・、51−n、乗算器(増幅手段)52−1、52−2、・・・、52−n、および接続器53を有し、遅延回路と乗算器の組(信号処理手段)の数は、制御部11からの制御に基づいて設定される。図1においては、遅延回路と乗算器の組の数は、4、すなわちn=4であるものとして記載している。遅延回路51−1、51−2、・・・、51−nは、信号入力部6から入力された信号に対して、制御部11から設定された遅延時間に基づいて遅延処理を行った信号を乗算器52−1、52−2、・・・、52−nに出力する。乗算器52−1、52−2、・・・、52−nは、入力された信号に対して、制御部11から設定された増幅率に基づいて振幅の増減を行った信号を出力する。
【0013】
接続器53は、各乗算器に対して複数の指向制御回路(指向制御手段)を接続し、乗算器52−1、52−2、・・・、52−nから出力された信号を指向制御回路4−1、4−2、・・・、4−36に分配する。このように、接続することにより、1つの乗算器から出力された信号が、各指向制御回路4−1、4−2、・・・、4−36を介して、各スピーカ(放音手段)2−1、2−2、・・・、2−36から指向制御された音(以下、音響ビームという。)として放出される。例えば、乗算器52−1から出力された信号は、各指向制御回路4−1、4−2、・・・、4−36において、遅延量と音量がそれぞれ制御され、スピーカ2−1、2−2、・・・、2−36から放音されることにより、乗算器52−1から出力された信号が所定の指向方向と指向角(音響ビームの指向の拡がり)を示す指向状態の音響ビームとして放出される。また、乗算器52−2から出力された信号も同様にして、別の指向状態の音響ビームとして放出される。
【0014】
記憶部12は、音響発生装置1が設置された部屋の形状の情報(部屋形状情報)、部屋の壁面での音の反射率の情報(反射率情報)、音響発生装置1が設置された位置の座標や設置された向きの情報(設置位置情報)、音響発生装置1から放出された音を聞く位置(以下、受音位置という)の座標の情報(受音位置情報)が記憶されている部屋情報記憶領域を有する。当該情報は、音響発生装置1を部屋に設置したときに、情報入力部13を介して入力され、記憶部12に記憶される。また記憶部12は、制御部11が音響発生装置1を制御するためのプログラムが記憶されているプログラム記憶領域を有している。
【0015】
操作部14は、音響発生装置1から放出される音の音量を設定する操作子、空間感を設定する操作子を有し、制御部11からの要求に応じて、設定された値の情報を制御部11に出力する。
【0016】
制御部11は、記憶部12のプログラム記憶領域からプログラムを読み出して実行し、増幅部3、指向制御部4、信号処理部5を制御する。以下、制御部11の制御について、説明する。まず、制御部11は、操作部14で設定された音量の情報を取得し、その音量の情報に基づいて増幅部3の各アンプ3−1、3−2、・・・、3−36の増幅量を制御する。
【0017】
また、制御部11は、操作部14で設定された空間感の情報に基づいて、空間感を増加させるように設定されると、音響ビームの数、つまり、遅延回路と乗算器の組の数が増加するようにして、遅延回路と乗算器の組の数を決定し、信号処理部5を制御する。そして、音響ビームの指向状態を示す指向情報と、オーディオ信号を遅延させる時間を示す遅延時間と、オーディオ信号の振幅を増減させる割合を示す増幅率とを組になるようにして、決定した組の数だけ生成する。本実施形態においては、増幅率は、組になっている遅延時間に応じて、指数関数的に減少するように生成される。また、指向情報は、それぞれの音響ビームの指向状態が全て異なるように生成される。
【0018】
そして、制御部11は、生成した指向情報に基づいて、乗算器から入力された信号の遅延量と音量を複数の指向制御回路の各々に制御させる。このとき、音響ビームの指向方向だけでなく、指向角についても制御できるように、複数の指向制御回路が制御される。そして、他の乗算器に接続された複数の指向制御回路についても、同様にして制御され、遅延回路と乗算器の組の数の音響ビームが、それぞれ異なる指向状態で放出される。
【0019】
次に、制御部11が行う信号処理部5の遅延回路51−1、51−2、・・・、51−nおよび乗算器52−1、52−2、・・・、52−nの制御について説明する。制御部11は、生成した音響ビームが受音位置において制御部11において生成された遅延時間と音量で到達するように、遅延回路51−1、51−2、・・・、51−nに遅延時間(以下、補正遅延時間という)を設定し、乗算器52−1、52−2、・・・、52−nに増幅率(以下、補正増幅率という)を設定(補正手段)する。ここで、遅延回路51−1に設定される補正遅延時間は、制御部11が生成した遅延時間を、当該遅延時間と組になっている指向情報と、部屋形状情報と、受音位置情報と、設置位置情報とから算出される音響ビームが音響発生装置1から放出されてから受音位置に到達するまでの時間に基づいて補正したものである。そして、乗算器52−1に設定される補正増幅率は、制御部11が生成した増幅率を、当該増幅率と組になっている指向情報と、部屋形状情報と、受音位置情報と、設置位置情報と、反射率情報とから算出される音響ビームの強度の減衰に基づいて補正したものである。制御部11は、同様にして、他の遅延回路と乗算器の組に対しても補正遅延時間と補正増幅率とを設定する。なお、この補正は行わずに、制御部11が生成した遅延時間および増幅率をそのまま設定してもよい。
【0020】
次に、部屋100に設置された音響発生装置1の動作について説明する。図3は、部屋100の上面図であり、音響発生装置1は、壁面100a付近にアレイスピーカ2が受音領域110の方向を向くように設置されている。ここで、説明の簡略化のため、受音領域110を代表して、以下、受音位置111とする。
【0021】
まず、CADデータなどの部屋100の形状を示す情報、壁面における音の反射率、受音位置111、および音響発生装置1が設置されている座標、向きについて、情報入力部13を介して、記憶部12の部屋情報記憶領域に記憶させる。そして、操作部14を操作して、音量、空間感を設定する。
【0022】
制御部11は、記憶部12のプログラム記憶領域からプログラムを読み出して実行する。そして、操作部14で設定された音量の情報に応じて増幅部3を制御し、設定された空間感の情報に応じて指向制御部4と信号処理部5を制御する。ここで、設定された空間感の情報に応じて決定される遅延回路と乗算器の組の数は4であるとし、音響発生装置1は4本の音響ビームsa、sb、sc、sdを放出できるものとして、以下説明する。なお、本実施形態においては、説明の簡易化のために、遅延回路と乗算器の組の数は4としたが、30程度としてもよいし、さらに多くしてもよく、2以上であればどのような数としてもよい。
【0023】
制御部11は、操作部14で設定された空間感の情報により、図1に示すように、4組の遅延回路と乗算器、すなわち遅延回路51−1、51−2、51−3、51−4、乗算器52−1、52−2、52−3、52−4を有するように信号処理部5を制御する。そして、接続器53は、各乗算器52−1、52−2、52−3、52−4を各指向制御回路4−1、4−2、・・・、4−36と接続させる。これにより、乗算器52−1から出力された信号は、各指向制御回路によって遅延量と音量を制御され、スピーカ2−1、2−2、・・・、2−36から音響ビームsaとして放出される。同様にして、乗算器52−2から出力された信号は音響ビームsb、乗算器52−3から出力された信号は音響ビームsc、乗算器52−4から出力された信号は音響ビームsbとして放出される。
【0024】
次に制御部11は、遅延時間と増幅率と指向情報とを組にして4組生成し、例えば、図4に示すように生成する。ここで、図4の(ta,pa,da)は、遅延時間がta、増幅率がpa、指向情報がdaであることを示している。そして、指向情報da、db、dc、ddはそれぞれ異なった指向状態を示し、それぞれの音響ビームsa、sb、sc、sdに対応している。図4に示す例では、増幅率は組になっている遅延時間に応じて指数的に減少するようになっている。なお、この遅延時間と増幅率と指向情報とについては、ランダムに生成してもよいし、所定のアルゴリズムによって生成してもよいし、事前に設定されたたものを用いてもよい。
【0025】
続いて、制御部11は、生成した遅延時間のそれぞれに補正を行った補正遅延時間を遅延回路51−1、51−2、51−3、51−4に、生成した増幅率のそれぞれに補正を行った補正増幅率を乗算器52−1、52−2、52−3、52−4に設定する。ここで、音響ビームsaに対応する遅延回路51−1に設定される補正遅延時間について説明する。音響ビームsaの経路長をLa、音速をvとすると、音響ビームsaが音響発生装置1から放出された後、受音位置111へ届くまでの時間ta’はLa/vとなる。そこで、この時間だけ前もって放音しておくことで、音響ビームsaの経路長に係る時間のずれを補正することができる。そして、全体に対する補正時間tsを加えて、制御部11は遅延回路51−1に補正遅延時間としてta−ta’+tsを設定する。同様にして、遅延回路51−2にtb−tb’+ts、遅延回路51−3にtc−tc’+ts、遅延回路51−4にtd−td’+tsを補正遅延時間として設定する。ここで、全体に対する補正時間tsは、全ての補正遅延時間が正の値になるように設定される。
【0026】
続いて、遅延回路51−1に接続されている乗算器52−1に設定される補正増幅率について説明する。音響発生装置1から放出された音の音量に対して受音位置111で聞こえる音の音量の比を減衰率pa’とする。ここで、減衰率pa’は、壁面における音の反射率、音響ビームsaの経路長や指向角に基づいた減衰から計算される。この減衰率pa’を前もって考慮しておくことで、減衰に係る音量のずれを補正することができる。そして、制御部11は、乗算器52−1に補正増幅率としてpa/pa’を設定する。同様にして、乗算器52−2にpb/pb’、乗算器52−3にpc/pc’、乗算器52−4にpd/pd’をそれぞれ補正増幅率として設定する。
【0027】
そして、信号入力部6からオーディオ信号が入力されると、入力されたオーディオ信号に対して、遅延回路51−1は補正遅延時間ta−ta’+tsに基づいて遅延処理を行い、乗算器52−1は補正増幅率pa/pa’に基づいて振幅を変化させる。そして、接続器53によって乗算器52−1に接続された指向制御回路4−1、4−2、・・・、4−36において、指向情報daに基づいて、乗算器52−1から出力された信号の遅延量と音量をそれぞれ制御し、スピーカ2−1、2−2、・・・、2−36から放音することにより、音響ビームsaを放出させる。音響ビームsb、sc、sdについても、音響ビームsaと同様にして放出させる。そして、例えば、図3に示すように、音響ビームsaは図中の1点鎖線、音響ビームsbは図3の2点鎖線のように放出され、壁面に反射して受音位置111に到達する。
【0028】
このようにして、音響発生装置1は、オーディオ信号に対して信号処理部5において遅延処理と振幅を増減させる信号処理を行い、信号処理されたオーディオ信号に基づいて放出される音響ビームを部屋100の壁面に反射させて、受音位置111に対して複数到達させることで、異なる遅延時間と音量をもつ音が、壁面の様々な方向から聞こえる効果をもつような放音を行うことができる。これにより、スピーカ方向に音源が定位せず、部屋全体から音が放音されているような空間感のある音の再生をすることができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以下のように、さまざまな態様で実施可能である。
【0030】
<変形例1>
実施形態においては、音響発生装置1を1台だけ用いていたが、これを複数台として、部屋の各所に設置しても良い。この場合は、それぞれの音響発生装置1の信号入力部6から入力されるオーディオ信号は、他の音響発生装置1のオーディオ信号と同一のソースから供給されるようにしておけばよい。また、音響発生装置1は1台のみとして、音響発生装置1が複数のアレイスピーカ2を具備するようにして、アレイスピーカ2を部屋の各所に設置しても良い。この場合は、アレイスピーカ2を設置した位置を複数の設置位置情報として記憶部12の部屋情報記憶領域に記憶させればよい。このようにすると、実施形態の効果をより高めることができる。
【0031】
<変形例2>
実施形態においては、増幅率は遅延時間に対して指数関数的に減少するようになっていたが、遅延時間と独立して増幅率を生成するようにしてもよい。このようにすると、より複雑な空間感を得ることができる。
【0032】
<変形例3>
実施形態においては、受音位置111は、1箇所として説明したが、受音領域110として、ある範囲に効果を及ぼすようにしてもよい。この場合は、それぞれの音響ビームsa、sb、sc、sdの指向角を拡げるなどして指向状態を変化させるようにすればよい。このようにすれば、部屋100のいろいろな位置において、実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0033】
<変形例4>
実施形態においては、音響ビームsa、sb、sc、sdの指向状態、遅延時間および増幅率については、その放音中は固定されていたが、所定のアルゴリズムで指向状態を時間変化させるようにしてもよい。この場合は、時間変化に応じて、制御部11に指向制御部4を制御させればよい。指向状態が変化することにより、補正遅延時間や補正増幅率を連動して変化させるようにしてもよい。また、遅延時間および増幅率を時間に応じて変化させるようにしても良い。この場合は、制御部11に信号処理部5を制御させればよい。ここで、所定のアルゴリズムは、時刻の進行に対して連続的に変化させるものであってもよいし、一定時間の経過とともに変化させるものであってもよい。このようにすると、両耳相関度が下がり、空間感を与える効果を向上させることができる。なお、遅延時間、増幅率は、連動することなく独自に時間変化させてもよい。
【0034】
<変形例5>
実施形態においては、各音響ビームは、1つの遅延時間に基づいて遅延されて放出されていたが、複数の遅延時間に基づいて放出するようにしてもよい。この場合は、接続器53は、複数の遅延回路と乗算器の組から出力される信号をまとめて1つの信号とし、その信号を複数の指向制御回路に分配するように接続すればよい。また、図5に示すように、乗算器52−1、52−2、・・・、52−4と接続器53の間にFIRフィルタ(残響付与手段)54−1、54−2、54−3、54−4を接続し、入力された信号に対して、ディレイ効果やリバーブ効果などを付与するように信号処理させて、オーディオ信号に残響効果を付与してもよい。この際、それぞれのFIRフィルタのディレイ効果について、互いに相関が少なくなるように設定するとよい。このようにすると残響音が大きく加わり、空間感を向上させることができる。なお、FIRフィルタは信号入力部6と遅延部の間に設けてもよい。また、FIRフィルタに限らず、IIRフィルタ、その他のフィルタなど残響を付与するものであればどのようなものであってもよい。さらに、各FIRフィルタが付与する残響効果は、それぞれ異なる効果(例えば、強弱、残響時間など)であってもよい。
【0035】
<変形例6>
実施形態においては、音響ビームsa、sb、sc、sdの指向方向は特に限定していなかったが、受音位置111に直接音が到達しないように、指向方向を制限してもよい。この場合は、全ての指向方向を部屋100の壁面方向に向けるように制限してもよいし、音響発生装置1を部屋の高い位置に設置して、音響ビームが受音位置111にいる人の頭上を通過するようにして、壁面100aと対向する壁面に音響ビームを放出してもよい。このようにすると、スピーカに定位しにくくなり、より空間感を得ることができる。また、音響ビームのうち少なくとも1つの音響ビームが、壁面に反射されずに直接、受音位置111に到達するようにしてもよい。このようにすれば、音を明瞭に聞かせながら空間感を出すことができる。
【0036】
<変形例7>
実施形態においては、音速はvとして決定していたが、図6に示すように、温度センサ15を設けて周囲の温度を検出し、音速vに対して温度補正を行ってもよい。この場合は、温度センサ15によって検出された温度を制御部11が取得し、その温度情報に基づいて補正すればよい。例えば、検出された温度がt(℃)あった場合、331.5+0.61t(m/s)として計算して補正すればよい。なお、温度センサ15は、音響発生装置1と同じ場所に設置されていてもよいし、聴衆領域などの音響発生装置1と離れた場所に設置して、その検出した温度の情報を有線や無線などにより制御部11に伝達してもよい。
【0037】
<変形例8>
実施形態においては、アレイスピーカ2を用いて、放出される音の遅延や振幅を制御することにより音響ビームの指向状態を制御していたが、図7に示すように、複数の狭指向性のホーンスピーカ20−1、20−2、・・・、20−8を用いてもよい。この場合は、指向制御部4を使用せず、ホーンスピーカ20−1、20−2、・・・、20−8に方向制御機能を設けて、制御部11が、生成した指向情報に基づいてホーンスピーカの向きを制御するようにすればよい。このようにするとホーンスピーカの数、本変形例の場合は8本の音響ビームを放出することができる。遅延回路と乗算器の組の数が8に満たない場合には、接続器53は、1つの乗算器からの信号が複数のホーンスピーカから放音されるように接続するようにすればよい。これによっても、実施形態の効果を得ることができる。
【0038】
<変形例9>
実施形態においては、信号入力部6から入力されるオーディオ信号はモノラル信号であったが、L、Rのチャンネルをもつステレオ信号としてもよい。その場合は、図8に示すように信号入力部6−L、6−Rを設け、信号処理部5をL、R用に分割して用いればよい。このようにして、L、Rそれぞれに対して複数の音響ビームを割り振るようして、Lの信号に基づく音響ビームは、受音位置111から音響発生装置1に向かって左側の壁面から到達するようにし、Rの信号に基づく音響ビームは、右の壁面から到達するようにしてもよい。このようにすると、もともとのステレオ効果を損なわずに空間感を与えることができる。
【0039】
<変形例10>
実施形態においては、1つの遅延回路と乗算器で信号処理されたオーディオ信号は、1本の音響ビームとして放出していたが、2本の音響ビームから放出されるようにしてもよい。この場合は、制御部11は、2の指向情報を生成し、各指向制御回路4−1、4−2、・・・、4−36に、入力された信号に対して当該2の指向情報に基づいて遅延量と音量の制御をさせ、2本の音響ビームを放出するようにすればよい。なお、さらに多くの複数の指向情報を生成すれば、同じオーディオ信号について、複数本の音響ビームとして放出することもできる。
【0040】
<変形例11>
実施形態においては、4種類の音響ビームのそれぞれは、全てのスピーカ2−1、2−2、・・・、2−36から放出されていたが、音響ビームごとに使用するスピーカの領域を分けて放出されるようにしてもよい。この場合は、以下のような構成とすればよい。まず、制御部11は接続器53を制御し、乗算器52−1と図2の破線aで囲われたスピーカに対応する9つの指向制御回路4−1、4−2、4−3、4−7、4−8、4−9、4−13、4−14、4−15とを接続させる。これにより、乗算器52−1から出力された信号は、指向制御回路において、指向情報daに基づいて遅延量と音量を制御され、対応するスピーカ2−1、2−2、2−3、2−7、2−8、2−9、2−13、2−14、2−15から放音されて、音響ビームsaとして放出される。同様にして、乗算器52−2は破線b、乗算器52−3は破線c、乗算器52−4は破線dで囲われたスピーカに対応する指向制御回路と接続され、対応するスピーカから各音響ビームが放出される。このようにしても、実施形態の効果を得ることができ、指向制御回路の処理を軽減することもできる。
【0041】
<変形例12>
実施形態においては、指向制御回路4−1、4−2、・・・、4−36における音響ビームの指向状態の制御は遅延量と音量を制御することにより行っていたが、FIRフィルタにより振幅、位相を制御して行なってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施形態に係る音響発生装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態に係る音響発生装置の外観を示す斜視図である。
【図3】実施形態に係る音響発生装置が配置された部屋の上面図である。
【図4】制御部によって生成された遅延時間と倍率を示す説明図である。
【図5】変形例5に係る音響発生装置の構成を示すブロック図である。
【図6】変形例7に係る音響発生装置の構成を示すブロック図である。
【図7】変形例8に係る音響発生装置の構成を示すブロック図である。
【図8】変形例9に係る音響発生装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0043】
1…音響発生装置、2…アレイスピーカ、2−1,2−2,・・・,2−36…スピーカ、3…増幅部、3−1,3−2,・・・,3−36…アンプ、4…指向制御部、4−1,4−2,・・・,4−36…指向制御回路、5…信号処理部、6,6−L,6−R…信号入力部、11…制御部、12…記憶部、13…情報入力部、14…操作部、15…温度センサ、20−1,20−2,・・・,20−8…ホーンスピーカ、51−1,51−2,51−3,51−4…遅延回路、52−1,52−2,52−3,52−4…乗算器、53…接続器、54−1,54−2,54−3,54−4…FIRフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部屋に設置される音響発生装置において、
前記部屋の形状を示す部屋形状情報と、前記部屋の壁面での音の反射率を示す反射率情報と、前記音響発生装置が設置される位置および設置される向きを示す設置位置情報と、前記音響発生装置から放出される音を聞く受音位置を示す受音位置情報とを有する部屋情報を記憶する記憶手段と、
入力される信号に対して、設定される遅延時間の遅延処理を行う遅延手段と、設定される増幅率の増幅処理を行う増幅手段とを有する信号処理手段と、
前記信号処理手段から出力される遅延、増幅された信号を所定の指向方向と指向角とを有する指向状態の音響ビームとして放出する放音手段と、
設定された指向情報に基づいて前記指向状態を制御する指向制御手段と、
前記部屋情報と前記指向情報とに基づいて、前記遅延手段に設定される遅延時間と前記増幅手段に設定される増幅率とを決定する補正手段と
を有する放音系を複数具備し、
前記各放音系の指向情報は他の放音系とは異なるように設定されていることを特徴とする音響発生装置。
【請求項2】
前記指向制御手段に設定される指向情報、前記遅延手段に設定される遅延時間、または前記増幅手段に設定される増幅率のうち、少なくとも一つを時間の経過とともに変化させる変更手段
をさらに具備していることを特徴とする請求項1に記載の音響発生装置。
【請求項3】
前記信号処理手段は、入力信号に対して残響効果を付与した信号を出力する残響付与手段をさらに有し、
前記信号処理手段からの出力信号は、遅延、増幅されるとともに、前記残響付与手段によって残響を付与された信号であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の音響発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−178000(P2008−178000A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11445(P2007−11445)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】