顎顔面形態計測装置および顎顔面形態計測方法
【課題】 放射線被曝を伴うことなく、簡便に上下顎骨の前後的位置関係を把握することができる顎顔面形態計測装置および顎顔面形態計測方法を提供する。
【解決手段】 第1の圧接端子3を顔面のsN点またはsN’点に、第2の圧接端子11を顔面のsA点に、第3の圧接端子21を顔面のsB点にそれぞれ圧接し、sN点またはsN’点とsB点とを結ぶ線分とsN点またはsN’点とsA点とを結ぶ線分とのなす角度を計測することにより顎顔面形態を計測する。第1の圧接端子3、第2の圧接端子11および第3の圧接端子21の圧接により計測される上記角度と、セファログラム分析により計測されるANB角との相関関係をあらかじめ求めておき、この相関関係に基づき、第1の圧接端子3、第2の圧接端子11および第3の圧接端子21の圧接により計測される上記角度からセファログラム分析により計測されるANB角を推定する。
【解決手段】 第1の圧接端子3を顔面のsN点またはsN’点に、第2の圧接端子11を顔面のsA点に、第3の圧接端子21を顔面のsB点にそれぞれ圧接し、sN点またはsN’点とsB点とを結ぶ線分とsN点またはsN’点とsA点とを結ぶ線分とのなす角度を計測することにより顎顔面形態を計測する。第1の圧接端子3、第2の圧接端子11および第3の圧接端子21の圧接により計測される上記角度と、セファログラム分析により計測されるANB角との相関関係をあらかじめ求めておき、この相関関係に基づき、第1の圧接端子3、第2の圧接端子11および第3の圧接端子21の圧接により計測される上記角度からセファログラム分析により計測されるANB角を推定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、顎顔面形態計測装置および顎顔面形態計測方法に関し、特に、不正咬合の診断に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
不正咬合には反対咬合、上顎前突、叢生、開咬、過蓋咬合などがある(非特許文献1、2)が、これらの不正咬合の多くは顎顔面骨格系また上下顎骨の形態、位置の不調和が原因となっているものが多い。平成7年度より学校保健法施行規則が一部改正され、歯科検診に「歯列・咬合・顎関節」の項目が新たに加わり、歯並びや咬み合わせなど口腔全体の健康についてより適切に指導ができるようになった。これにより多くの不正咬合者がスクリーニングされるようになったが、いまだに顎顔面骨格系の形態、位置の不調和を有する潜在的な不正咬合が見過ごされてきた可能性が考えられる。
【0003】
【非特許文献1】Angle, E. H. : Classification of malocclusion. Dent. Cosmos, 41: 248-264, 1899
【0004】
【非特許文献2】高橋新次郎: 新編歯科矯正学. 51-73, 永末書店, 東京・京都, 1971
【0005】
矯正臨床において、永久歯列期前の子供に対しては必要に応じて成長を利用した治療が行われ(1期治療)、そして永久歯列に交換し成長のピークを過ぎた後は最終的に個性正常咬合を付与する治療が行われる(2期治療)。つまり成長期にある子供においては、顎顔面骨格形態を適切に把握し、そこに永久歯列における正常咬合を自然に獲得するのに障害となるものがあるならば早期にその不正を改善することが望まれる。
【0006】
これまで顎顔面部の骨格形態を調べる方法としては、セファログラム(頭部X線規格写真)が用いられてきた。セファログラムによる分析の利点は規格写真のため撮影条件の再現性が高く、多くの骨格形態の情報が高い信頼性で得られることがあげられる。
矯正臨床において、セファログラム分析法は、診断、治療方針の決定のため通常利用されているが、セファログラム分析法が確立される以前は、歯列模型の計測や顔面軟組織からの計測だけで歯列と顔面骨格の調和を診断する方法が用いられていた(非特許文献3、4)。
【0007】
【非特許文献3】Simon, P. W. : Fundamental principles of a systematic diagnosis of dental anomalies. 49-198, The Stratford Company, Boston, 1922.
【0008】
【非特許文献4】Hellman, M.: A preliminary study in development as it affects the human face. Dent. Cosmos, 69: 250-269, 1927
【0009】
1931年、Broadbent, B.H. (非特許文献5), Hofrath, H. (非特許文献6)によるセファログラム分析の論文がきっかけで、放射線を利用した顎顔面骨格形態の分析が急速に広まり、さまざまな分析法が考案されていった。
【0010】
【非特許文献5】Broadbent B. H. : A new X-ray technique and its application to orthodontia. Angle Orthodontist. 1:45-66, 1931
【0011】
【非特許文献6】Hofrath, H: Die Bedeutung der Rontgenfern-und Abstandsaufnahme fur die Diagnostik der Kieferanomalien. Fortschr. Orthod., 1:232-258, 1931
【0012】
セファログラム分析が考案された後にも、顎態を計測する装置はいくつか考案され研究されてきた(非特許文献7〜14)。最近では放射線に代わり超音波で計測する方法も開発されつつある(非特許文献15)。また、接触型三次元形状計測装置を利用した形態計測の研究も行われている(非特許文献16)。
【0013】
【非特許文献7】Salzman, J. A. : The Maxillator: A New Instrument for Measuring the Frankfort-Mandibular Base Angle, the incisor-Mandibular Base Angle, and the Component Part of the Face and Jaws. Am. J. Orthod., 31:608-617, 1945
【0014】
【非特許文献8】Savitz, M. J.: The Angulator an Instrument for measuring the Frankfort-Mandibular Plane Angle. Am. J. Orthod., 34: 1014-1016, 1948
【0015】
【非特許文献9】本橋康助: Frankfort-Mandibular Plane Angleとその計測機械について.日矯歯誌, 12:23-25, 1952
【0016】
【非特許文献10】河上直人: Hellman 氏の顔の計測学的分析法について, 日矯歯誌.15:42-51,1956
【0017】
【非特許文献11】榎 恵: 矯正診断における顔の計測の分析法について, 歯界展望.11:297-312, 1954
【0018】
【非特許文献12】粥川 浩: 所謂反対咬合の形態学的研究(第2編 顔の成長分析法による研究). 日矯歯誌, 16:13-35, 1957
【0019】
【非特許文献13】山内和夫, 石沢命久: Head-Spannerによる計測値の信頼性に関する考察. 日矯歯誌, 17:193-200, 1958
【0020】
【非特許文献14】飯塚哲夫: 日本人における顔面および頭部の生体計測学的研究(第一報 成人男女の計測成績). 日矯歯誌, 15:70-74, 1956
【0021】
【非特許文献15】sang, K. H. S., Cooke, M. S. : Comparison of cephalometric analysis using a non-radiographic sonic digitizer (DigiGraph Workstation) with conventional radiography. Eur. J. Orthod., 21: 1-13, 1999
【0022】
【非特許文献16】Nagasaka, S.: Development of a non-radiographic cephalometric system.Eur. J. Orthod., 25(1):77-85, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかし近年、放射線被曝という欠点のために、セファログラム分析の使用は制限されてきている。放射線被曝は少なからず人体に影響を及ぼすため(石川富士郎, 井上直彦: 頭部X線規格写真撮影時の散乱線量と被曝線量について, 日矯歯誌, 21:59-63, 1962)、矯正臨床の場でもあまり頻繁にセファログラムを撮影することはできない。
また、放射線を使用しない従来の顎態計測装置、超音波で顎態を計測する方法、接触型三次元形状計測装置を利用した顎態計測装置では、簡便に上下顎骨の前後的位置関係を把握することができない。
【0024】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、放射線被曝を伴うことなく、簡便に上下顎骨の前後的位置関係を把握することができる顎顔面形態計測装置および顎顔面形態計測方法を提供することである。
上記課題およびその他の課題は、添付図面を参照した本明細書の以下の記述により明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、従来技術が有する上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、上記課題を解決するためには、三つの圧接端子を用い、一つを顔面のsN点またはsN’点、他の一つを顔面のsA点、もう一つを顔面のsB点に所定の圧接力でそれぞれ圧接し、これらの諸点の幾何学的位置関係、取り分け、sN点またはsN’点とsB点とを結ぶ線分とsN点またはsN’点とsA点とを結ぶ線分とのなす角度を計測することが有効であることを見出し、実験的にも有効性を確認し、この発明を案出するに至ったものである。これらの角は、上顎骨と下顎骨との相対的な前後関係を表す非常に重要な計測値である(Riedel, R. A. : The relation of maxillary structures to cranium in malocclusion and in normal occlusion. Angle Orthodontist, 22: 142-145, 1952、Graber, T. M.: New horizons in case analysis-clinical cephalometrics. Am. J. Orthod., 38: 603-624, 1952)。上記のように顔面の軟組織を介して計測点を圧接した状態で計測する検討は今まで行われていないことである。ただし、sN点、sN’点、sA点およびsB点の定義は図1に示すとおりである(宮下邦彦: 頭部X線規格写真法の基礎. 330-345,クインテッセンス出版, 東京, 1999、Ashley-Montagu, M. F. : Location of the nasion in the living. Am. J. Phys. Anthropol., 20: 81-93, 1935、Farkas, L. G. : Anthropometry of the head and face (2 nd edition). 57-70, Raven Press, New York, 1994)。sN点は、左右上眼瞼溝(眼瞼部と眼窩部の皮膚の境にある移行帯)の最も上方の2点を結んだ直線と正中矢状面との交点を圧接した点である。sN’点は、sB点圧接端子をsB点に圧接した後、sN点圧接端子を軟組織を介して鼻根部骨上に圧接し、彎曲最陥凹部と触知した点である。sA点は、正中矢状面上で鼻の下縁と上唇の起始点とが交わる点を圧接し、軟組織を介した骨上の最陥凹部と触知した点である。sB点は、下唇と軟組織オトガイに引いた接線からの最陥凹部を圧接し、軟組織を介した骨上の最陥凹部と触知した点である。
【0026】
すなわち、上記課題を解決するために、第1の発明は、
第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子を有し、
上記第1の圧接端子を顔面のsN点またはsN’点に圧接し、上記第2の圧接端子を顔面のsA点に圧接し、上記第3の圧接端子を顔面のsB点に圧接し、上記sN点またはsN’点、上記sA点および上記sB点の幾何学的位置関係により顎顔面形態を計測することを特徴とする顎顔面形態計測装置である。
【0027】
第2の発明は、
第1の圧接端子を顔面のsN点またはsN’点に圧接し、第2の圧接端子を顔面のsA点に圧接し、第3の圧接端子を顔面のsB点に圧接し、
上記sN点またはsN’点、上記sA点および上記sB点の幾何学的位置関係により顎顔面形態を計測することを特徴とする顎顔面形態計測方法である。
【0028】
第1および第2の発明においては、典型的には、第1の方向に第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子を順次設け、これらの第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子を第1の方向に互いに相対的に移動可能とし、少なくとも第2の圧接端子は第1の方向と直交する第2の方向に第1の圧接端子および第3の圧接端子に対して移動可能とする。典型的には、sN点またはsN’点とsB点とを結ぶ線分とsN点またはsN’点とsA点とを結ぶ線分とのなす角度を計測することにより顎顔面形態を計測する。好ましくは、第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子の圧接により計測される上記角度と、セファログラム分析により計測されるANB角(骨上のN点と骨上のB点とを結ぶ線分と骨上のN点と骨上のA点とを結ぶ線分とのなす角度)との相関関係をあらかじめ求めておき、この相関関係に基づいて、第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子の圧接により計測される上記角度からセファログラム分析により計測されるANB角を推定する。
【0029】
第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子は、顔面の軟組織を介して計測点を圧接するため、圧接による軟組織の変位量に起因する計測誤差を十分に小さく抑える観点より、所定値以上の圧接力で圧接することができるように構成するのが好ましい。好ましい圧接力の範囲は、人種などにより異なり得るが、例えば、日本人などの東洋人の場合には、圧接力は250〜500gとするのが好ましく、300〜450gとするのがより好ましい。
【0030】
第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子は、典型的には、第1の方向に延在する支持部材に取り付けられる。例えば、第1の圧接端子を支持部材に固定し、第2の圧接端子および第3の圧接端子を支持部材に対して第1の方向に移動可能に取り付けてもよいし、第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子を支持部材に対して第1の方向に移動可能に取り付けてもよい。また、第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子を支持部材に対して第2の方向に移動可能に取り付けてもよい。第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子の第1の方向および/または第2の方向の移動は、手動により行ってもよいし、モータ駆動などにより行ってもよい。
顎顔面形態計測装置は携帯型(ポータブル型)に構成してもよいし、設置型(据え置き型)に構成してもよい。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、sN点またはsN’点、sA点およびsB点の幾何学的位置関係、典型的には、sN点またはsN’点とsB点とを結ぶ線分に対するsN点またはsN’点とsA点とを結ぶ線分とのなす角度を計測することにより顎顔面形態を計測するので、放射線被曝を伴うことなく、上下顎骨の前後的位置関係を把握することができる。また、計測に際しては、第1の圧接端子をsN点またはsN’点に圧接し、第2の圧接端子をsA点に圧接し、第3の圧接端子をsB点に圧接するだけでよいため、簡便である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、この発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施形態の全図において、同一または対応する部分には同一の符号を付す。
図2〜図6はこの発明の第1の実施形態による携帯型かつ手動型の顎顔面形態計測装置を示し、図2は正面図、図3は右側面図、図4は左側面図、図5は上面図、図6は底面図である。
図2〜図6に示すように、この顎顔面形態計測装置においては、細長い長方形の支持部1の一端に、この支持部1に直交する方向に圧接板2が一体に設けられている。この圧接板2の先端には、この圧接板2と直交する面内に板状のsN/sN’点圧接端子3が設けられている。sN/sN’点圧接端子3の先端部には、このsN/sN’点圧接端子3の厚さと等しい直径の半円柱状の丸みが付けられている。
【0033】
支持部1には、この支持部1の長手方向に移動可能にスライド部材4が取り付けられている。このスライド部材4には長方形断面の穴5が設けられており、この穴5の中に支持部1が通されている。この穴5の断面寸法は、支持部1が移動する際にぶれることがないようにするため、可能な限り支持部1の断面寸法と近づけるようにするのが好ましい。スライド部材4は、その一側面に取り付けられた固定ねじ6を締めてその先端部を支持部1の側面に押圧することで、支持部1に固定することができるようになっている。また、スライド部材4には、支持部1と直交する方向に移動可能に細長い圧接板7が取り付けられている。スライド部材4には支持部1と直交する方向に長方形断面の穴8が設けられており、この穴8の中に圧接板7が通されている。この穴8の断面寸法は、圧接板7が移動する際にぶれることがないようにするため、可能な限り圧接板7の断面寸法と近づけるようにするのが好ましい。この圧接板7は、スライド部材4の上面に取り付けられた固定ねじ9を締めてその先端部を圧接板7の上面に押圧することで、スライド部材4に固定することができるようになっている。圧接板7の先端には、この圧接板7と直交する面内に長方形板状の圧接端子支持板10が設けられている。そして、この圧接端子支持板10の先端に、中空のパイプからなるローラー11が、その中に通されたワイヤー12の周りに回転可能に設けられている。このローラー11がsA点圧接端子となる。ワイヤー12の両端部は、圧接端子支持板10の両側面に固定されている。一方、圧接板7の後端には細長い円柱状の軸13が設けられ、この軸13にスプリング14が取り付けられている。スプリング14の一端は圧接板7の後端面に固定されている。軸13の先端は、押圧部材15の先端に設けられた穴16に移動自在に嵌め込まれている。スプリング14の他端は押圧部材15の先端に固定されている。このスプリング14は、押圧部材15を押してスプリング14が最も縮んだときにその弾性力が圧接板7、ひいてはローラー11に加わり、顔面に所定の圧接力を加えることができるように、ばね定数が決められている。
【0034】
支持部1にはさらに、この支持部1の長手方向に移動可能にスライド部材17が取り付けられている。このスライド部材17には長方形断面の穴18が設けられており、この穴18の中に支持部1が通されている。この穴18の断面寸法は、支持部1が移動する際にぶれることがないようにするため、可能な限り支持部1の断面寸法と近づけるようにするのが好ましい。スライド部材17は、その一側面に取り付けられた固定ねじ19を締めてその先端部を支持部1の側面に押圧することで、支持部1に固定することができるようになっている。スライド部材17には、支持部1と直交する方向に圧接板20が取り付けられている。この圧接板20の先端には、この圧接板20と直交する面内に板状のsB点圧接端子21が設けられている。このsB点圧接端子21の先端部には、このsB点圧接端子21の厚さと等しい直径の半円柱状の丸みが付けられている。支持部1の長手方向の一辺からこのsB点圧接端子21の先端までの距離は、この一辺からsN/sN’点圧接端子3の先端までの距離と等しく設定されている。
【0035】
支持部1の一方の面には分度器22が形成されている。この分度器22は、sN点またはsN’点とsB点とを結ぶ線分に対するsN点またはsN’点とsA点とを結ぶ線分とのなす角度を計測するためのものである。この分度器22の中心は、sN/sN’点圧接端子3の中心軸の延長線上に位置する。この分度器22の0度の線は、支持部1の中心線上に位置する。支持部1にはさらに、その長手方向の一辺に沿って目盛り23が形成されていて定規となっている。
【0036】
スライド部材4の穴5の内部の、支持部1の分度器22と対向する面に十字マーカ24が形成されている。この十字マーカ24の中心は、sN/sN’点圧接端子3の先端、sA点圧接端子であるローラー11の先端およびsB点圧接端子21の先端が同一線上に位置するときに、分度器22の0度の線と一致するようになっている。
スライド部材4、17が支持部1上をスライドする滑走面および接合板7がスライド部材4上をスライドする滑走面には、計測時にスライド部材4、17および接合板7を移動させる際の磨耗を減らすために、必要に応じて潤滑剤を塗布する。例えば、支持部1、スライド部材4、17および接合板7の材質としてアクリル樹脂を用いる場合には、潤滑材として例えばシリコーンスプレー(株式会社エーゼット,東京)を滑走面に塗布する。
【0037】
この顎顔面形態計測装置を構成する各部材の材質は、必要な計測精度が得られる機械的強度を得ることができ、携帯や操作に支障が生じない重量である限り特に制限はなく、必要に応じて選ぶことができる。具体例を挙げると、支持部1、圧接板2、sN/sN’点圧接端子3、スライド部材4、圧接板7、圧接端子支持板10、軸13、押圧部材15、スライド部材17、圧接板20およびsB点圧接端子21は各種のプラスチック、例えばアクリル樹脂などにより構成することができる。このうち、スライド部材4および圧接板7は、スライド部材4に形成された十字マーカ24と支持部1に形成された分度器22とを外部から見ることができるように、透明に構成される。ローラー11の材質は、例えば金属または合金、具体的にはステンレス鋼である。ワイヤー12としては、例えば直径が1.2mmの矯正用線(テクノフレックス、ロッキーマウンテンモリタ株式会社、東京)を用いることができる。
【0038】
この顎顔面形態計測装置の各部の寸法は、使用する材質の機械的強度によっても異なるが、必要な計測を行うことができ、携帯や操作に支障を生じない限り特に制限はなく、必要に応じて選ぶことができる。具体例を挙げると次のとおりである。なお、支持部1以外の部材についての長さとは、支持部1の長手方向と直交する方向の寸法を意味する。支持部1の全長は15〜18cm(例えば、16.5cm)、幅は2〜4cm、厚さは2〜4mm(例えば、3mm)である。目盛り23が形成された定規の長さは例えば16cmである。支持部1の一辺から測った圧接板2の長さは2〜5cm(例えば、3cm)、幅は8〜12mm(例えば、10mm)、厚さは2〜4mm(例えば、3mm)である。sN/sN’点圧接端子3の長さは1.5〜2.5cm(例えば、2cm)、幅は3〜4cm(例えば、3.5cm)、厚さは2〜4mm(例えば、3mm)である。スライド部材4の長さは4〜6cm、幅は2〜4cm(例えば、3cm)、厚さは8〜12mm(例えば、10mm)である。圧接板7の長さは8〜14cm(例えば、11cm)、幅は8〜12mm(例えば、10mm)、厚さは2〜4mm(例えば、3mm)である。圧接端子支持板10の長さは1.5〜2.5cm(例えば、2cm)、幅は3〜4cm(例えば、3.5cm)、厚さは2〜4mm(例えば、3mm)である。中空パイプからなるローラー11の直径は例えば1.6〜2mm(例えば、1.8mm)である。押圧部材15の長さは1〜3cm、幅は8〜12mm(例えば、10mm)、厚さは2〜4mm(例えば、3mm)である。スライド部材17の長さは4〜6cm、幅は1〜2cm、厚さは8〜12mm(例えば、10mm)である。圧接板20の長さは2〜5cm(例えば、3.5cm)、幅は8〜12mm(例えば、10mm)、厚さは2〜4mm(例えば、3mm)である。sB点圧接端子21の長さは1.5〜2.5cm(例えば、2cm)、幅は3〜4cm(例えば、3.5cm)、厚さは2〜4mm(例えば、3mm)である。
【0039】
次に、上述のように構成された顎顔面形態計測装置を用い、被験者の顔面のsN点またはsN’点とsB点とを結ぶ線分とsN点またはsN’点とsA点とを結ぶ線分とのなす角度(以下、sN点とsB点とを結ぶ線分とsN点とsA点とを結ぶ線分とのなす角度をQ−ANB角、sN’点とsB点とを結ぶ線分とsN’点とsA点とを結ぶ線分とのなす角度をQ−AN’B角という)を計測する方法について説明する。
まず、被験者を安定した椅子に座らせる。
次に、被験者に中心咬合位をとるよう指示し、計測者が顎顔面形態計測装置を手に持ってsB点圧接端子21を被験者の顔面の下唇の下部に当て、計測点の定義に従ってsB点を決定する。
【0040】
次に、sB点圧接端子21をsB点に位置決めしたまま、スライド部材17に対して支持部1をスライドさせることでsN/sN’点圧接端子3を被験者の顔面の鼻の上部に当て、計測点の定義に従ってsN点またはsN’点を決定する。この後、固定ねじ19を締めて支持部1に対してスライド部材17を固定する。
次に、sN点またはsN’点がずれないように被験者に顎顔面形態計測装置を固定してもらいながら、支持部1に対してスライド部材4をスライドさせ、さらに圧接板7をスライド部材4に対して左右方向にスライドさせることで、sA点圧接端子11をsA点に合わせる。このとき、このsA点圧接端子11、sN/sN’点圧接端子3およびsB点圧接端子21が正中矢状面内に位置するように支持部1を保持することが重要である。この後、固定ねじ6を締めて支持部1に対してスライド部材4を固定する。
【0041】
次に、計測者が押圧部材15を押してスプリング14を縮め、このスプリング14の弾性力を圧接板7に加え、それによってsA点圧接端子であるローラー11によりsA点をこの弾性力に等しい圧接力で圧接する。後述のように、この圧接力は例えば300gとする。また、このとき、sN点またはsN’点とsB点とは、sA点の圧接力と同じかそれ以上の圧接力を蝕知するように指示する。この後、固定ねじ9を締めてスライド部材4に対して圧接板7を固定する。
この状態を図7に示す。
【0042】
次に、顎顔面形態計測装置を顔面から離し、Q−ANB角またはQ−AN’B角を次のようにして読み取る。図8はスライド部材4の十字マーカ24の近傍の拡大図である。図8に示すように、分度器22上に十字マーカ24が位置しているが、この十字マーカ24の位置から、分度器22の角度を示す線を参照して角度を読み取ることができる。こうして読み取った角度がQ−ANB角またはQ−AN’B角である。
一方、詳細は後述するが、別途セファログラム分析により、セファログラム上のANB角(以下、cepANB角という)を求め、Q−ANB角またはQ−AN’B角との相関関係を求めておく。そして、この相関関係に基づいてQ−ANB角またはQ−AN’B角の値から、cepANB角を推測することができる。
【0043】
次に、この顎顔面形態計測装置の計測精度および計測誤差について検討する。
(1)アクリル板計測による顎顔面形態計測装置の計測精度
図9に示すように、厚さ3mmのアクリル板にて顔面プロファイルの模型25を作成し、sN点、sA点、sB点に相当する部分を油性ペンにて印記した。そして、北海道大学大学院歯学研究科に所属する矯正臨床経験2年以上の医局員12人が実際に模型25のプロファイルにおけるsN点、sA点、sB点の3点から得られるANB角(以下、acrylQ−ANB角という)を、また模型25をトレース用紙の上に置いて直接トレースし、トレーシングペーパー上で分度器にてsN点、sA点、sB点の3点からなる角度(以下、acrylANBという)を計測した。計測回数はそれぞれ5回とし、各計測値の平均値を求め各計測者の計測値とした上でacrylANBおよびacrylQ−ANBの2群間における等分散性の検定をF検定を用いて、また平均値の差の検定をt検定にて行った。
【0044】
(2)軟組織の被圧変位性の検討
北海道大学大学院歯学研究科の医局員の成人男性5名を対象とし、顔面軟組織の圧接力による軟組織の変化量(被圧変位性)を調べた。図10に被圧変位量計測装置を示す。図10において、符号26は圧接棒、27は圧接端子、aは圧接端子27の支持板、bは定規、c〜eは支持板aを定規bに対して移動させる際のガイド部材、f〜hは圧接棒26を定規bに固定するための部材を示す。図11に示すように、この被圧変位量計測装置の圧接棒26をsN’点とsB点とを結んだ線に垂直に設定し、装置を被験者の歯で固定した後に、sN’点、sA点、sB点の3点をバネばかりを用いて圧接した。被圧変位量計測装置の圧接端子27が顔面に接触した点を0mmとし、0g〜450gまで50g間隔で圧接した。圧接による変位量を0.1mmの精度で計測し、圧接力と変位量との関係を調べた。計測回数は5回とした。なお、計測者は圧接する者と変位量を読み取る者との各1名で行った。
【0045】
(3)生体計測時の計測誤差の検討
北海道大学大学院歯学研究科の医局員で既にセファログラムを有する成人男性7名、成人女性1名を対象とし、矯正臨床経験4年以上の医局員10名が各被験者に対してQ−ANB角およびQ−AN’B角の計測を5回ずつ、またセファログラムより通法に従いcepANB角の計測を5回行った。計測者ごとに上記で行った5回の計測値における最大値と最小値との差をそれぞれの被験者においてまず算出し、計測者ごとに被験者8名の平均値を求めた。そしてその値をQ−ANB角、Q−AN’B角およびcepANB角の3群間で比較するとともに、3群間の有意差の検定をウィルコクスン検定にて行った。なお、セファログラムの計測点の定義を図12に示す。図12において、N点は前頭鼻骨縫合の最前点、N’点は前頭骨、鼻骨からなる彎曲部で、B点を通る直線が接する点(彎曲部の最深点)、A点は前鼻棘とプロスチオンとの間で、上顎骨上の正中最深点、B点はインフラデンターレとポゴニオンとの間で下顎の正中線上の最深点である。
【0046】
次に、セファログラムおよびこの顎顔面形態計測装置の計測値の比較について説明する。
北海道大学歯学部学生および上記医局員で既にセファログラムを有するもの77名(成人男性53名、成人女性24名)を対象として比較を行った。計測者は1名とし、1枚のセファログラムに対しcepANB角を5回、また各被験者に対しQ−ANB角、Q−AN’B角を5回ずつ計測し、その平均値を各被験者における計測値とした。
【0047】
(1)被験者の上下顎関係の分布に関する検討
上記77名のセファログラムよりcepANB角を計測し、分布の正規性を検討した。正規性の検定には歪度、尖度を用いた。
(2)顎顔面形態計測装置の計測値からセファログラムの計測値を推定する方法の検討
上記77名についてこの顎顔面形態計測装置を用いて得られたQ−ANB角,Q−AN’B角およびセファログラムから得られたcepANB角より、この顎顔面形態計測装置の各計測値とcepANB角との相関を検討するとともに、この顎顔面形態計測装置の計測値からcepANB角を推定する回帰方程式および決定係数R2 を求めた。なお、統計解析には統計ソフト(Dr.SPSSII,SPSS Japan Inc.,東京)を用いた。
【0048】
以上の検討の結果について説明する。
まず、この顎顔面形態計測装置の計測精度および計測誤差の検討結果について説明する。
(1)アクリル板計測による顎顔面形態計測装置の計測精度の検討結果
acrylQ−ANB角、acrylANB角の分布を図13に示す。acrylQ−ANB角の平均値は7.82°、標準偏差は0.13°、acrylANBの平均値は7.81°で標準偏差は0.13°であった。計測値の最小値と最大値との差はacrylQ−ANB角とacrylANB角ともに0.5°であった。F検定とt検定の結果、p<0.01で2群間の分布と平均値に有意差は認められなかった。
【0049】
(2)軟組織の被圧変位性の検討結果
軟組織の圧接による0g〜150g、150g〜300gと300g〜450gそれぞれの圧接力の変化に対するsN’点、sA点、sB点の変化量を表1に示す。圧接による軟組織の変位量はsN’点、sA点、sB点においていずれも0〜150g、150g〜300gまでは個人差があるものの、300〜450gの圧接力の変化に対する変位量はsN’点で最大0.1mm、sA点で最大0.4mm、sB点では最大0.3mmと小さい値であった。
【0050】
【表1】
【0051】
例として被験者1名のsN’点、sA点、sB点の圧接力−変位量曲線を図14に示す。図14からわかるように、0gから50gずつ圧接力を増加したとき、いずれのグラフにおいても最初の50gで変位が急激におこり圧接力が300gを超えると変位はほとんど認められなかった。
【0052】
(3)生体計測時の計測誤差の検討結果
Q−ANB角、Q−AN’B角およびcepANB角の各計測者における計測誤差を表2に示す。この表2には計測者ごとに、被験者8名における最大値と最小値との差の平均値を示すが、実際の個々の計測値における最大値と最小値との差において最も大きな値はcepANB角で1.8°、Q−ANB角で2.5°、Q−AN’B角で1.5°であった。ウィルコクスン検定の結果、Q−ANB角とQ−AN’B角との間にp<0.01で、Q−ANB角とcepANB角との間にp<0.05で有意差が認められたが、Q−AN’B角とcepANB角との間には有意差は認められなかった。
【0053】
【表2】
【0054】
次に、セファログラムおよびこの顎顔面形態計測装置の計測値の比較結果について説明する。
(1)被験者の上下顎関係の分布に関する検討結果
被験者全体におけるcepANB角の分布を図15に示す。図15より、平均値2.82°、標準偏差3.30°であり、また検定の結果、正規分布していると判断された(p<0.05)。
【0055】
(2)顎顔面形態計測装置の計測値からセファログラムの計測値を推定する方法の検討結果
図16にcepANB角およびQ−ANB角の散布図、図17にcepANB角およびQ−AN’B角の散布図を示す。図16よりcepANB角とQ−ANB角との間におけるピアソンの相関係数はr=0.93、図17よりcepANB角とQ−AN’B角との間におけるピアソンの相関係数はr=0.94となり、両方ともp<0.01で相関が認められた。そして、Q−ANB角からcepANB角を予測する回帰方程式y=0.92x−0.12および決定係数R2 =0.86が得られた。また、Q−AN’B角からcepANB角を予測する回帰方程式y=0.93x−0.59および決定係数R2 =0.89が得られた。
【0056】
次に、以上の検討結果について考察を行う。
まず、この顎顔面形態計測装置の計測精度および計測誤差について考察する。
物体を計測するときにはさまざまな誤差が生じる。顎顔面形態計測装置による計測時に誤差が生じる要因として、(1)顎顔面形態計測装置の計測精度(2)軟組織の圧接時におこる誤差(3)実際の生体計測時に生じる計測者、被験者が潜在的に保有する誤差が考えられる。
【0057】
(1)顎顔面形態計測装置の計測精度および計測誤差について
アクリル板計測において、この顎顔面形態計測装置の計測値とトレースからの計測値との間に平均値および分散の差はほとんど認められなかった。従って、顎顔面形態計測装置自体が有する計測誤差は、従来用いられているセファログラム分析の方法が潜在的に有する計測誤差と同等のものであると判断された。
【0058】
(2)軟組織の圧接時におこる誤差について
この顎顔面形態計測装置は、軟組織上の3点より硬組織上の3点からなる角度を推定する計測器であるので、軟組織の被圧変位性を調査する必要がある。各計測部位における軟組織の被圧変位量はそれぞれに違いがあるものの、一定以上の圧で軟組織を圧接すれば軟組織上の3点からなる角度は収束してくると考え、本実験においては各計測点に対して何g以上で圧接すればよいかを調査した。本実験において、0〜150gまでの変位量はsN’点で1.5〜3.3mm、sA点で5.8〜8.7mm、sB点では5.1〜8.6mmとかなりの幅があったが300〜450gまでの間ではsN’点で0〜0.1mm、sA点で0.2〜0.4mm、sB点では0.2〜0.3mmとなり、わずかな変位しか認められなかった。300〜450gの力を加えた場合の3点の変位量のばらつきにより、Q−ANB角がばらつく量を飯塚、石川の基準値(飯塚哲夫, 石川富士郎: 頭部X線規格写真による症例分析法の基準値について−日本人正常咬合群−. 日矯歯誌, 16(1):4-12, 1957)による平均的なN,A,B点の位置関係を利用して計算すると、最大でも0.6°の誤差を生じる可能性があることがわかった。この値をセファログラム分析におけるcepANB角と比較してみた。すなわち被験者77名のセファログラムを5回計測したときの各被験者における最大値と最小値との差を求めたところその差の最大値は1.85°(平均値0.63°,標準偏差0.34°)となり、顎顔面形態計測装置を正確に顔面の3点に位置付けることができれば誤差はセファログラム分析において別々に3点をプロットするよりも小さくなる可能性が高いということがわかった。
【0059】
(3)生体計測時の計測誤差について
実際に生体計測をする場合には、上記に検討を加えた顎顔面形態計測装置の精度から生じる誤差、また軟組織の圧接時に生じる誤差の他にも、計測者間に存在するばらつきの要素、被験者間に存在する不特定の誤差の要因などが総合されて計測誤差を生じるものと考えられる。そこで、実際に生体の計測時にこの総合的な誤差がどの程度生じるかを検討した。まず、骨上のN点に相当する軟組織上の点を設定するにあたり本実験においてsN点とsN’点とを用いた。sN点は、計測者が視覚的に認識しやすく、硬組織Nasionと比較的近似した位置にあることよりAshley-Montaguの方法(Ashley-Montagu, M. F. :
Location of the nasion in the living. Am. J. Phys. Anthropol., 20: 81-93, 1935)に従って上眼瞼溝を利用することとした。またsN’点は鼻根部の最陥凹点を触知する方法なので計測者にとって把握しやすいため、再現性が高く計測誤差が小さくなると考え設定した。
【0060】
実験の結果、Q−AN’B角の誤差はcepANB角の誤差と同等でQ−ANB角の誤差と比較すると有意に小さかった(p<0.01)。また個々の計測値における最大値と最小値との差の最も大きな値においてもQ−AN’B角が1.5°、Q−ANB角が2.5°とQ−AN’B角の方が小さいものであった。以上の結果から誤差の点から見るとsN’点を用いた計測値Q−AN’B角のほうが優れていることがわかった。その理由は計測者が同じ点をより正確に位置付けられることによるのではないかと思われる。
【0061】
次に、セファログラムおよびこの顎顔面形態計測装置の計測値の比較結果について考察する。
(1)被験者の上下顎関係の分布に関する検討について
上記の77名の被験者におけるcepANB角の分布は飯塚、石川の基準値(飯塚哲夫, 石川富士郎: 頭部X線規格写真による症例分析法の基準値について−日本人正常咬合群−. 日矯歯誌, 16(1):4-12, 1957)である成人男子3.28±2.66°、成人女子3.39±1.77°と比べやや小さかった。しかしこの集団の平均値は正常咬合者におけるANB角の分布の±0.5S.D.(標準偏差)内にありまた正規分布していることより、上記の検討は一般集団の標本を対象としていると判断した。
【0062】
(2)顎顔面形態計測装置の計測値からセファログラムの計測値を推定する方法の検討
これまでの矯正治療の診断において顎顔面骨格形態の特徴を判断する時には、正常咬合者の集団から得られたセファログラム分析値の平均値、標準偏差が参考となって、その方法や標準的な数値がほぼ確立している。その現状を考えると、この顎顔面形態計測装置のような新たな手法により得られた計測値も従来のセファログラムにおける標準値に換算して被験者の形態の特徴を判断する方が汎用性に優れたものとなると考えられる。そこで、ここでは、被験者77名に対してこの顎顔面形態計測装置により得られた計測値とセファログラム分析による計測値との比較を行い、この顎顔面形態計測装置から得られた計測値からcepANB角を推定する回帰方程式を求めることとした。その結果、cepANB角とQ−ANB角との間、および、cepANB角とQ−AN’B角との間には強い相関が認められた。なかでもQ−AN’Bの方が相関係数が高く、回帰直線のあてはまりの良さをあらわす決定係数R2 値も高かった。すなわち、本検討において導出されたこの回帰方程式を用いると変数の分散の89%が説明されるものと理解される。また、決定係数すなわち得られた回帰直線のあてはまりの良さが、Q−ANB角とcepANB角との回帰直線よりもQ−AN’B角とcepANB角との回帰直線のほうが大きかったことは、計測に用いたsN’点がsN点よりも正確に位置付けられることにより計測者間の誤差が少なかったことに起因すると考えられる。
【0063】
一方、回帰直線の定数項の絶対値はQ−AN’B角の方が大きかった。これは計測されたQ−AN’B角の値はQ−ANB角の値よりもcepANB角の値との差が大きいことを意味する。この原因は、計測誤差を小さくすることを目的としてsN点より後下方にあるsN’点を定義したためと考えられる。しかし得られた回帰方程式の決定係数からQ−AN’B角とcepANB角における方が回帰方程式のあてはまりが良いことを考えるとQ−AN’Bを使用してcepANBを予測する方が妥当であると思われる。
【0064】
以上のように、この第1の実施形態による顎顔面形態計測装置によれば、通常のセファログラム分析時に行われるトレーシングによる計測精度とほぼ等しい計測精度を得ることができる。また、この顎顔面形態計測装置の各計測点への圧接力を300g〜450gとすることにより、計測値の変動を0.6°以内に抑えることができる。これはセファログラム分析時に生じる計測誤差と同等である。また、この顎顔面形態計測装置による計測時のばらつき(最大値−最小値)はQ−AN’B角の方がQ−ANB角より小さく、このことからsN’点を採用することの妥当性が確かめられた。また、この顎顔面形態計測装置による計測値(Q−ANB角、Q−AN’B角)とセファログラム分析による値(cepANB角)との間には強い相関が認められた(Q−ANB角:r=0.93,Q−AN’B角:r=0.94)。そして、Q−ANB角からcepANB角を推定する回帰方程式としてy=0.92x−0.12、決定係数:R2 =0.86が導出され、Q−AN’B角らcepANB角を推定する回帰方程式としてy=0.93x−0.59、決定係数:R2 =0.89が導出され、Q−AN’B角からcepANB角を推定する回帰方程式の方が当てはまりがよいと判断された。
【0065】
この顎顔面形態計測装置は、放射線被曝を伴うことなく簡便に上下顎骨の前後的位置関係を把握することができるため、矯正相談にきた患者に対して有用であり、不正咬合の予備診査に有効に用いることができ、歯科検診そして疫学研究において非常に役立つものと考えられる。あるいは、この顎顔面形態計測装置は歯科検診時に追加診査として利用することができる簡便な計測器であり、また歯科医院に相談にくる患者に対して、骨格的な特徴を即座に捉えた上で説明できる有用な道具であると考えられる。
【0066】
次に、この発明の第2の実施形態による顎顔面形態計測装置について説明する。この顎顔面形態計測装置は携帯型かつ自動型である。
図18はこの顎顔面形態計測装置を示す正面図である。
図18に示すように、この顎顔面形態計測装置においては、支持部1は平たい直方体の形状を有するケースにより構成されている。図示は省略するが、この支持部1の内部に、圧接板7の、支持部1の長手方向(上下方向)およびこれと直交する方向(左右方向)の移動機構および圧接板20の上下方向の移動機構が設けられている。また、支持部1の後端面にはボタンスイッチ28〜30が設けられている。ボタンスイッチ28は、その押し方により、圧接板7の上方への移動、下方への移動および停止の三段階に切り換えられるようになっている。ボタンスイッチ29は、その押し方により、圧接板20の上方への移動、下方への移動および停止の三段階に切り換えられるようになっている。また、ボタンスイッチ30は、これを操作することにより圧接板7を左右方向に移動させることができるとともに、sA点圧接端子であるローラー11がsA点を所定の圧接力で圧接したときにそれを圧力センサーなどにより自動認識して圧接板7の左右方向の移動を停止するものである。支持部1の面にはランプ31が設けられている。このランプ31は、sN/sN’点圧接端子3によるsN点またはsN’点の圧接力、sA点圧接端子であるローラー11によるsA点の圧接力およびsB点圧接端子21によるsB点の圧接力が所定の値(例えば、300g)以上になると点灯するようになっている。支持部1の面にはさらに、ディスプレイ32、33が設けられている。ディスプレイ32には、Q−ANB角またはQ−AN’B角が表示されるようになっている。また、ディスプレイ33には、cepANB角が表示されるようになっている。
この第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様な利点を得ることができる。
【0067】
次に、この発明の第3の実施形態による顎顔面形態計測装置について説明する。この顎顔面形態計測装置は設置型である。
図19はこの顎顔面形態計測装置を示す正面図である。
図19に示すように、この第3の実施形態においては、第2の実施形態による顎顔面形態計測装置にさらに、圧接板2の上下方向および左右方向の移動機構と圧接板20の左右方向の移動機構とを設けた顎顔面形態計測装置が箱34に固定されている。この箱34は図示省略した支持具により床面に固定されている。符号35、36は頭位を安定させるためのパッドを示す。
【0068】
この顎顔面形態計測装置においては、被験者を安定した椅子に座らせ、箱34の中に顔を入れて額および下顎をパッド35、36に押し付けて頭位を安定させた状態で横顔のシルエットを光学的に自動認識し、sN点またはsN’点、sA点およびsB点の高さを自動的に決定した後、sN/sN’点圧接端子3、sA点圧接端子であるローラー11およびsB点圧接端子21を自動的に位置させることができるようになっている。そして、Q−ANB角またはQ−AN’B角を計測することができるようになっている。
この第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様な利点を得ることができる。
【0069】
以上、この発明の実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施形態において挙げた数値、材料、形状、配置などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じて、これらと異なる数値、材料、形状、配置などを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】sN点、sN’点、sA点およびsB点の定義を示す略線図である。
【図2】この発明の第1の実施形態による顎顔面形態計測装置を示す正面図である。
【図3】この発明の第1の実施形態による顎顔面形態計測装置を示す右側面図である。
【図4】この発明の第1の実施形態による顎顔面形態計測装置を示す左側面図である。
【図5】この発明の第1の実施形態による顎顔面形態計測装置を示す上面図である。
【図6】この発明の第1の実施形態による顎顔面形態計測装置を示す底面図である。
【図7】この発明の第1の実施形態による顎顔面形態計測装置のスライド部材の十字マーカの近傍の拡大図である。
【図8】この発明の第1の実施形態による顎顔面形態計測装置による計測方法を示す略線図である。
【図9】アクリル板による顔面プロファイルの模型を示す略線図である。
【図10】被圧変位量計測装置を示す略線図である。
【図11】被圧変位量計測装置を用いた顔面軟組織の圧接力による軟組織の変化量を調べる方法を説明するための略線図である。
【図12】セファログラムの計測点の定義を示す略線図である。
【図13】acrylQ−ANB角およびacrylANB角の分布を示す略線図である。
【図14】sN’点、sA点およびsB点の圧接力−変位量曲線の例を示す略線図である。
【図15】被験者全体におけるcepANB角の分布を示す略線図である。
【図16】cepANB角およびQ−ANB角の散布図を示す略線図である。
【図17】cepANB角およびQ−AN’B角の散布図を示す略線図である。
【図18】この発明の第2の実施形態による顎顔面形態計測装置を示す正面図である。
【図19】この発明の第3の実施形態による顎顔面形態計測装置を示す正面図である。
【符号の説明】
【0071】
1…支持部、2、7、20…圧接板、3…sN/sN’点圧接端子、4、17…スライド部材、5、8、18…穴、6、9、19…固定ねじ、10…圧接端子支持板、11…ローラー、12…ワイヤー、13…軸、14…スプリング、15…押圧部材、21…sB点圧接端子、22…分度器、23…目盛り、24…十字マーカ
【技術分野】
【0001】
この発明は、顎顔面形態計測装置および顎顔面形態計測方法に関し、特に、不正咬合の診断に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
不正咬合には反対咬合、上顎前突、叢生、開咬、過蓋咬合などがある(非特許文献1、2)が、これらの不正咬合の多くは顎顔面骨格系また上下顎骨の形態、位置の不調和が原因となっているものが多い。平成7年度より学校保健法施行規則が一部改正され、歯科検診に「歯列・咬合・顎関節」の項目が新たに加わり、歯並びや咬み合わせなど口腔全体の健康についてより適切に指導ができるようになった。これにより多くの不正咬合者がスクリーニングされるようになったが、いまだに顎顔面骨格系の形態、位置の不調和を有する潜在的な不正咬合が見過ごされてきた可能性が考えられる。
【0003】
【非特許文献1】Angle, E. H. : Classification of malocclusion. Dent. Cosmos, 41: 248-264, 1899
【0004】
【非特許文献2】高橋新次郎: 新編歯科矯正学. 51-73, 永末書店, 東京・京都, 1971
【0005】
矯正臨床において、永久歯列期前の子供に対しては必要に応じて成長を利用した治療が行われ(1期治療)、そして永久歯列に交換し成長のピークを過ぎた後は最終的に個性正常咬合を付与する治療が行われる(2期治療)。つまり成長期にある子供においては、顎顔面骨格形態を適切に把握し、そこに永久歯列における正常咬合を自然に獲得するのに障害となるものがあるならば早期にその不正を改善することが望まれる。
【0006】
これまで顎顔面部の骨格形態を調べる方法としては、セファログラム(頭部X線規格写真)が用いられてきた。セファログラムによる分析の利点は規格写真のため撮影条件の再現性が高く、多くの骨格形態の情報が高い信頼性で得られることがあげられる。
矯正臨床において、セファログラム分析法は、診断、治療方針の決定のため通常利用されているが、セファログラム分析法が確立される以前は、歯列模型の計測や顔面軟組織からの計測だけで歯列と顔面骨格の調和を診断する方法が用いられていた(非特許文献3、4)。
【0007】
【非特許文献3】Simon, P. W. : Fundamental principles of a systematic diagnosis of dental anomalies. 49-198, The Stratford Company, Boston, 1922.
【0008】
【非特許文献4】Hellman, M.: A preliminary study in development as it affects the human face. Dent. Cosmos, 69: 250-269, 1927
【0009】
1931年、Broadbent, B.H. (非特許文献5), Hofrath, H. (非特許文献6)によるセファログラム分析の論文がきっかけで、放射線を利用した顎顔面骨格形態の分析が急速に広まり、さまざまな分析法が考案されていった。
【0010】
【非特許文献5】Broadbent B. H. : A new X-ray technique and its application to orthodontia. Angle Orthodontist. 1:45-66, 1931
【0011】
【非特許文献6】Hofrath, H: Die Bedeutung der Rontgenfern-und Abstandsaufnahme fur die Diagnostik der Kieferanomalien. Fortschr. Orthod., 1:232-258, 1931
【0012】
セファログラム分析が考案された後にも、顎態を計測する装置はいくつか考案され研究されてきた(非特許文献7〜14)。最近では放射線に代わり超音波で計測する方法も開発されつつある(非特許文献15)。また、接触型三次元形状計測装置を利用した形態計測の研究も行われている(非特許文献16)。
【0013】
【非特許文献7】Salzman, J. A. : The Maxillator: A New Instrument for Measuring the Frankfort-Mandibular Base Angle, the incisor-Mandibular Base Angle, and the Component Part of the Face and Jaws. Am. J. Orthod., 31:608-617, 1945
【0014】
【非特許文献8】Savitz, M. J.: The Angulator an Instrument for measuring the Frankfort-Mandibular Plane Angle. Am. J. Orthod., 34: 1014-1016, 1948
【0015】
【非特許文献9】本橋康助: Frankfort-Mandibular Plane Angleとその計測機械について.日矯歯誌, 12:23-25, 1952
【0016】
【非特許文献10】河上直人: Hellman 氏の顔の計測学的分析法について, 日矯歯誌.15:42-51,1956
【0017】
【非特許文献11】榎 恵: 矯正診断における顔の計測の分析法について, 歯界展望.11:297-312, 1954
【0018】
【非特許文献12】粥川 浩: 所謂反対咬合の形態学的研究(第2編 顔の成長分析法による研究). 日矯歯誌, 16:13-35, 1957
【0019】
【非特許文献13】山内和夫, 石沢命久: Head-Spannerによる計測値の信頼性に関する考察. 日矯歯誌, 17:193-200, 1958
【0020】
【非特許文献14】飯塚哲夫: 日本人における顔面および頭部の生体計測学的研究(第一報 成人男女の計測成績). 日矯歯誌, 15:70-74, 1956
【0021】
【非特許文献15】sang, K. H. S., Cooke, M. S. : Comparison of cephalometric analysis using a non-radiographic sonic digitizer (DigiGraph Workstation) with conventional radiography. Eur. J. Orthod., 21: 1-13, 1999
【0022】
【非特許文献16】Nagasaka, S.: Development of a non-radiographic cephalometric system.Eur. J. Orthod., 25(1):77-85, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかし近年、放射線被曝という欠点のために、セファログラム分析の使用は制限されてきている。放射線被曝は少なからず人体に影響を及ぼすため(石川富士郎, 井上直彦: 頭部X線規格写真撮影時の散乱線量と被曝線量について, 日矯歯誌, 21:59-63, 1962)、矯正臨床の場でもあまり頻繁にセファログラムを撮影することはできない。
また、放射線を使用しない従来の顎態計測装置、超音波で顎態を計測する方法、接触型三次元形状計測装置を利用した顎態計測装置では、簡便に上下顎骨の前後的位置関係を把握することができない。
【0024】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、放射線被曝を伴うことなく、簡便に上下顎骨の前後的位置関係を把握することができる顎顔面形態計測装置および顎顔面形態計測方法を提供することである。
上記課題およびその他の課題は、添付図面を参照した本明細書の以下の記述により明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、従来技術が有する上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、上記課題を解決するためには、三つの圧接端子を用い、一つを顔面のsN点またはsN’点、他の一つを顔面のsA点、もう一つを顔面のsB点に所定の圧接力でそれぞれ圧接し、これらの諸点の幾何学的位置関係、取り分け、sN点またはsN’点とsB点とを結ぶ線分とsN点またはsN’点とsA点とを結ぶ線分とのなす角度を計測することが有効であることを見出し、実験的にも有効性を確認し、この発明を案出するに至ったものである。これらの角は、上顎骨と下顎骨との相対的な前後関係を表す非常に重要な計測値である(Riedel, R. A. : The relation of maxillary structures to cranium in malocclusion and in normal occlusion. Angle Orthodontist, 22: 142-145, 1952、Graber, T. M.: New horizons in case analysis-clinical cephalometrics. Am. J. Orthod., 38: 603-624, 1952)。上記のように顔面の軟組織を介して計測点を圧接した状態で計測する検討は今まで行われていないことである。ただし、sN点、sN’点、sA点およびsB点の定義は図1に示すとおりである(宮下邦彦: 頭部X線規格写真法の基礎. 330-345,クインテッセンス出版, 東京, 1999、Ashley-Montagu, M. F. : Location of the nasion in the living. Am. J. Phys. Anthropol., 20: 81-93, 1935、Farkas, L. G. : Anthropometry of the head and face (2 nd edition). 57-70, Raven Press, New York, 1994)。sN点は、左右上眼瞼溝(眼瞼部と眼窩部の皮膚の境にある移行帯)の最も上方の2点を結んだ直線と正中矢状面との交点を圧接した点である。sN’点は、sB点圧接端子をsB点に圧接した後、sN点圧接端子を軟組織を介して鼻根部骨上に圧接し、彎曲最陥凹部と触知した点である。sA点は、正中矢状面上で鼻の下縁と上唇の起始点とが交わる点を圧接し、軟組織を介した骨上の最陥凹部と触知した点である。sB点は、下唇と軟組織オトガイに引いた接線からの最陥凹部を圧接し、軟組織を介した骨上の最陥凹部と触知した点である。
【0026】
すなわち、上記課題を解決するために、第1の発明は、
第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子を有し、
上記第1の圧接端子を顔面のsN点またはsN’点に圧接し、上記第2の圧接端子を顔面のsA点に圧接し、上記第3の圧接端子を顔面のsB点に圧接し、上記sN点またはsN’点、上記sA点および上記sB点の幾何学的位置関係により顎顔面形態を計測することを特徴とする顎顔面形態計測装置である。
【0027】
第2の発明は、
第1の圧接端子を顔面のsN点またはsN’点に圧接し、第2の圧接端子を顔面のsA点に圧接し、第3の圧接端子を顔面のsB点に圧接し、
上記sN点またはsN’点、上記sA点および上記sB点の幾何学的位置関係により顎顔面形態を計測することを特徴とする顎顔面形態計測方法である。
【0028】
第1および第2の発明においては、典型的には、第1の方向に第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子を順次設け、これらの第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子を第1の方向に互いに相対的に移動可能とし、少なくとも第2の圧接端子は第1の方向と直交する第2の方向に第1の圧接端子および第3の圧接端子に対して移動可能とする。典型的には、sN点またはsN’点とsB点とを結ぶ線分とsN点またはsN’点とsA点とを結ぶ線分とのなす角度を計測することにより顎顔面形態を計測する。好ましくは、第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子の圧接により計測される上記角度と、セファログラム分析により計測されるANB角(骨上のN点と骨上のB点とを結ぶ線分と骨上のN点と骨上のA点とを結ぶ線分とのなす角度)との相関関係をあらかじめ求めておき、この相関関係に基づいて、第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子の圧接により計測される上記角度からセファログラム分析により計測されるANB角を推定する。
【0029】
第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子は、顔面の軟組織を介して計測点を圧接するため、圧接による軟組織の変位量に起因する計測誤差を十分に小さく抑える観点より、所定値以上の圧接力で圧接することができるように構成するのが好ましい。好ましい圧接力の範囲は、人種などにより異なり得るが、例えば、日本人などの東洋人の場合には、圧接力は250〜500gとするのが好ましく、300〜450gとするのがより好ましい。
【0030】
第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子は、典型的には、第1の方向に延在する支持部材に取り付けられる。例えば、第1の圧接端子を支持部材に固定し、第2の圧接端子および第3の圧接端子を支持部材に対して第1の方向に移動可能に取り付けてもよいし、第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子を支持部材に対して第1の方向に移動可能に取り付けてもよい。また、第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子を支持部材に対して第2の方向に移動可能に取り付けてもよい。第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子の第1の方向および/または第2の方向の移動は、手動により行ってもよいし、モータ駆動などにより行ってもよい。
顎顔面形態計測装置は携帯型(ポータブル型)に構成してもよいし、設置型(据え置き型)に構成してもよい。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、sN点またはsN’点、sA点およびsB点の幾何学的位置関係、典型的には、sN点またはsN’点とsB点とを結ぶ線分に対するsN点またはsN’点とsA点とを結ぶ線分とのなす角度を計測することにより顎顔面形態を計測するので、放射線被曝を伴うことなく、上下顎骨の前後的位置関係を把握することができる。また、計測に際しては、第1の圧接端子をsN点またはsN’点に圧接し、第2の圧接端子をsA点に圧接し、第3の圧接端子をsB点に圧接するだけでよいため、簡便である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、この発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施形態の全図において、同一または対応する部分には同一の符号を付す。
図2〜図6はこの発明の第1の実施形態による携帯型かつ手動型の顎顔面形態計測装置を示し、図2は正面図、図3は右側面図、図4は左側面図、図5は上面図、図6は底面図である。
図2〜図6に示すように、この顎顔面形態計測装置においては、細長い長方形の支持部1の一端に、この支持部1に直交する方向に圧接板2が一体に設けられている。この圧接板2の先端には、この圧接板2と直交する面内に板状のsN/sN’点圧接端子3が設けられている。sN/sN’点圧接端子3の先端部には、このsN/sN’点圧接端子3の厚さと等しい直径の半円柱状の丸みが付けられている。
【0033】
支持部1には、この支持部1の長手方向に移動可能にスライド部材4が取り付けられている。このスライド部材4には長方形断面の穴5が設けられており、この穴5の中に支持部1が通されている。この穴5の断面寸法は、支持部1が移動する際にぶれることがないようにするため、可能な限り支持部1の断面寸法と近づけるようにするのが好ましい。スライド部材4は、その一側面に取り付けられた固定ねじ6を締めてその先端部を支持部1の側面に押圧することで、支持部1に固定することができるようになっている。また、スライド部材4には、支持部1と直交する方向に移動可能に細長い圧接板7が取り付けられている。スライド部材4には支持部1と直交する方向に長方形断面の穴8が設けられており、この穴8の中に圧接板7が通されている。この穴8の断面寸法は、圧接板7が移動する際にぶれることがないようにするため、可能な限り圧接板7の断面寸法と近づけるようにするのが好ましい。この圧接板7は、スライド部材4の上面に取り付けられた固定ねじ9を締めてその先端部を圧接板7の上面に押圧することで、スライド部材4に固定することができるようになっている。圧接板7の先端には、この圧接板7と直交する面内に長方形板状の圧接端子支持板10が設けられている。そして、この圧接端子支持板10の先端に、中空のパイプからなるローラー11が、その中に通されたワイヤー12の周りに回転可能に設けられている。このローラー11がsA点圧接端子となる。ワイヤー12の両端部は、圧接端子支持板10の両側面に固定されている。一方、圧接板7の後端には細長い円柱状の軸13が設けられ、この軸13にスプリング14が取り付けられている。スプリング14の一端は圧接板7の後端面に固定されている。軸13の先端は、押圧部材15の先端に設けられた穴16に移動自在に嵌め込まれている。スプリング14の他端は押圧部材15の先端に固定されている。このスプリング14は、押圧部材15を押してスプリング14が最も縮んだときにその弾性力が圧接板7、ひいてはローラー11に加わり、顔面に所定の圧接力を加えることができるように、ばね定数が決められている。
【0034】
支持部1にはさらに、この支持部1の長手方向に移動可能にスライド部材17が取り付けられている。このスライド部材17には長方形断面の穴18が設けられており、この穴18の中に支持部1が通されている。この穴18の断面寸法は、支持部1が移動する際にぶれることがないようにするため、可能な限り支持部1の断面寸法と近づけるようにするのが好ましい。スライド部材17は、その一側面に取り付けられた固定ねじ19を締めてその先端部を支持部1の側面に押圧することで、支持部1に固定することができるようになっている。スライド部材17には、支持部1と直交する方向に圧接板20が取り付けられている。この圧接板20の先端には、この圧接板20と直交する面内に板状のsB点圧接端子21が設けられている。このsB点圧接端子21の先端部には、このsB点圧接端子21の厚さと等しい直径の半円柱状の丸みが付けられている。支持部1の長手方向の一辺からこのsB点圧接端子21の先端までの距離は、この一辺からsN/sN’点圧接端子3の先端までの距離と等しく設定されている。
【0035】
支持部1の一方の面には分度器22が形成されている。この分度器22は、sN点またはsN’点とsB点とを結ぶ線分に対するsN点またはsN’点とsA点とを結ぶ線分とのなす角度を計測するためのものである。この分度器22の中心は、sN/sN’点圧接端子3の中心軸の延長線上に位置する。この分度器22の0度の線は、支持部1の中心線上に位置する。支持部1にはさらに、その長手方向の一辺に沿って目盛り23が形成されていて定規となっている。
【0036】
スライド部材4の穴5の内部の、支持部1の分度器22と対向する面に十字マーカ24が形成されている。この十字マーカ24の中心は、sN/sN’点圧接端子3の先端、sA点圧接端子であるローラー11の先端およびsB点圧接端子21の先端が同一線上に位置するときに、分度器22の0度の線と一致するようになっている。
スライド部材4、17が支持部1上をスライドする滑走面および接合板7がスライド部材4上をスライドする滑走面には、計測時にスライド部材4、17および接合板7を移動させる際の磨耗を減らすために、必要に応じて潤滑剤を塗布する。例えば、支持部1、スライド部材4、17および接合板7の材質としてアクリル樹脂を用いる場合には、潤滑材として例えばシリコーンスプレー(株式会社エーゼット,東京)を滑走面に塗布する。
【0037】
この顎顔面形態計測装置を構成する各部材の材質は、必要な計測精度が得られる機械的強度を得ることができ、携帯や操作に支障が生じない重量である限り特に制限はなく、必要に応じて選ぶことができる。具体例を挙げると、支持部1、圧接板2、sN/sN’点圧接端子3、スライド部材4、圧接板7、圧接端子支持板10、軸13、押圧部材15、スライド部材17、圧接板20およびsB点圧接端子21は各種のプラスチック、例えばアクリル樹脂などにより構成することができる。このうち、スライド部材4および圧接板7は、スライド部材4に形成された十字マーカ24と支持部1に形成された分度器22とを外部から見ることができるように、透明に構成される。ローラー11の材質は、例えば金属または合金、具体的にはステンレス鋼である。ワイヤー12としては、例えば直径が1.2mmの矯正用線(テクノフレックス、ロッキーマウンテンモリタ株式会社、東京)を用いることができる。
【0038】
この顎顔面形態計測装置の各部の寸法は、使用する材質の機械的強度によっても異なるが、必要な計測を行うことができ、携帯や操作に支障を生じない限り特に制限はなく、必要に応じて選ぶことができる。具体例を挙げると次のとおりである。なお、支持部1以外の部材についての長さとは、支持部1の長手方向と直交する方向の寸法を意味する。支持部1の全長は15〜18cm(例えば、16.5cm)、幅は2〜4cm、厚さは2〜4mm(例えば、3mm)である。目盛り23が形成された定規の長さは例えば16cmである。支持部1の一辺から測った圧接板2の長さは2〜5cm(例えば、3cm)、幅は8〜12mm(例えば、10mm)、厚さは2〜4mm(例えば、3mm)である。sN/sN’点圧接端子3の長さは1.5〜2.5cm(例えば、2cm)、幅は3〜4cm(例えば、3.5cm)、厚さは2〜4mm(例えば、3mm)である。スライド部材4の長さは4〜6cm、幅は2〜4cm(例えば、3cm)、厚さは8〜12mm(例えば、10mm)である。圧接板7の長さは8〜14cm(例えば、11cm)、幅は8〜12mm(例えば、10mm)、厚さは2〜4mm(例えば、3mm)である。圧接端子支持板10の長さは1.5〜2.5cm(例えば、2cm)、幅は3〜4cm(例えば、3.5cm)、厚さは2〜4mm(例えば、3mm)である。中空パイプからなるローラー11の直径は例えば1.6〜2mm(例えば、1.8mm)である。押圧部材15の長さは1〜3cm、幅は8〜12mm(例えば、10mm)、厚さは2〜4mm(例えば、3mm)である。スライド部材17の長さは4〜6cm、幅は1〜2cm、厚さは8〜12mm(例えば、10mm)である。圧接板20の長さは2〜5cm(例えば、3.5cm)、幅は8〜12mm(例えば、10mm)、厚さは2〜4mm(例えば、3mm)である。sB点圧接端子21の長さは1.5〜2.5cm(例えば、2cm)、幅は3〜4cm(例えば、3.5cm)、厚さは2〜4mm(例えば、3mm)である。
【0039】
次に、上述のように構成された顎顔面形態計測装置を用い、被験者の顔面のsN点またはsN’点とsB点とを結ぶ線分とsN点またはsN’点とsA点とを結ぶ線分とのなす角度(以下、sN点とsB点とを結ぶ線分とsN点とsA点とを結ぶ線分とのなす角度をQ−ANB角、sN’点とsB点とを結ぶ線分とsN’点とsA点とを結ぶ線分とのなす角度をQ−AN’B角という)を計測する方法について説明する。
まず、被験者を安定した椅子に座らせる。
次に、被験者に中心咬合位をとるよう指示し、計測者が顎顔面形態計測装置を手に持ってsB点圧接端子21を被験者の顔面の下唇の下部に当て、計測点の定義に従ってsB点を決定する。
【0040】
次に、sB点圧接端子21をsB点に位置決めしたまま、スライド部材17に対して支持部1をスライドさせることでsN/sN’点圧接端子3を被験者の顔面の鼻の上部に当て、計測点の定義に従ってsN点またはsN’点を決定する。この後、固定ねじ19を締めて支持部1に対してスライド部材17を固定する。
次に、sN点またはsN’点がずれないように被験者に顎顔面形態計測装置を固定してもらいながら、支持部1に対してスライド部材4をスライドさせ、さらに圧接板7をスライド部材4に対して左右方向にスライドさせることで、sA点圧接端子11をsA点に合わせる。このとき、このsA点圧接端子11、sN/sN’点圧接端子3およびsB点圧接端子21が正中矢状面内に位置するように支持部1を保持することが重要である。この後、固定ねじ6を締めて支持部1に対してスライド部材4を固定する。
【0041】
次に、計測者が押圧部材15を押してスプリング14を縮め、このスプリング14の弾性力を圧接板7に加え、それによってsA点圧接端子であるローラー11によりsA点をこの弾性力に等しい圧接力で圧接する。後述のように、この圧接力は例えば300gとする。また、このとき、sN点またはsN’点とsB点とは、sA点の圧接力と同じかそれ以上の圧接力を蝕知するように指示する。この後、固定ねじ9を締めてスライド部材4に対して圧接板7を固定する。
この状態を図7に示す。
【0042】
次に、顎顔面形態計測装置を顔面から離し、Q−ANB角またはQ−AN’B角を次のようにして読み取る。図8はスライド部材4の十字マーカ24の近傍の拡大図である。図8に示すように、分度器22上に十字マーカ24が位置しているが、この十字マーカ24の位置から、分度器22の角度を示す線を参照して角度を読み取ることができる。こうして読み取った角度がQ−ANB角またはQ−AN’B角である。
一方、詳細は後述するが、別途セファログラム分析により、セファログラム上のANB角(以下、cepANB角という)を求め、Q−ANB角またはQ−AN’B角との相関関係を求めておく。そして、この相関関係に基づいてQ−ANB角またはQ−AN’B角の値から、cepANB角を推測することができる。
【0043】
次に、この顎顔面形態計測装置の計測精度および計測誤差について検討する。
(1)アクリル板計測による顎顔面形態計測装置の計測精度
図9に示すように、厚さ3mmのアクリル板にて顔面プロファイルの模型25を作成し、sN点、sA点、sB点に相当する部分を油性ペンにて印記した。そして、北海道大学大学院歯学研究科に所属する矯正臨床経験2年以上の医局員12人が実際に模型25のプロファイルにおけるsN点、sA点、sB点の3点から得られるANB角(以下、acrylQ−ANB角という)を、また模型25をトレース用紙の上に置いて直接トレースし、トレーシングペーパー上で分度器にてsN点、sA点、sB点の3点からなる角度(以下、acrylANBという)を計測した。計測回数はそれぞれ5回とし、各計測値の平均値を求め各計測者の計測値とした上でacrylANBおよびacrylQ−ANBの2群間における等分散性の検定をF検定を用いて、また平均値の差の検定をt検定にて行った。
【0044】
(2)軟組織の被圧変位性の検討
北海道大学大学院歯学研究科の医局員の成人男性5名を対象とし、顔面軟組織の圧接力による軟組織の変化量(被圧変位性)を調べた。図10に被圧変位量計測装置を示す。図10において、符号26は圧接棒、27は圧接端子、aは圧接端子27の支持板、bは定規、c〜eは支持板aを定規bに対して移動させる際のガイド部材、f〜hは圧接棒26を定規bに固定するための部材を示す。図11に示すように、この被圧変位量計測装置の圧接棒26をsN’点とsB点とを結んだ線に垂直に設定し、装置を被験者の歯で固定した後に、sN’点、sA点、sB点の3点をバネばかりを用いて圧接した。被圧変位量計測装置の圧接端子27が顔面に接触した点を0mmとし、0g〜450gまで50g間隔で圧接した。圧接による変位量を0.1mmの精度で計測し、圧接力と変位量との関係を調べた。計測回数は5回とした。なお、計測者は圧接する者と変位量を読み取る者との各1名で行った。
【0045】
(3)生体計測時の計測誤差の検討
北海道大学大学院歯学研究科の医局員で既にセファログラムを有する成人男性7名、成人女性1名を対象とし、矯正臨床経験4年以上の医局員10名が各被験者に対してQ−ANB角およびQ−AN’B角の計測を5回ずつ、またセファログラムより通法に従いcepANB角の計測を5回行った。計測者ごとに上記で行った5回の計測値における最大値と最小値との差をそれぞれの被験者においてまず算出し、計測者ごとに被験者8名の平均値を求めた。そしてその値をQ−ANB角、Q−AN’B角およびcepANB角の3群間で比較するとともに、3群間の有意差の検定をウィルコクスン検定にて行った。なお、セファログラムの計測点の定義を図12に示す。図12において、N点は前頭鼻骨縫合の最前点、N’点は前頭骨、鼻骨からなる彎曲部で、B点を通る直線が接する点(彎曲部の最深点)、A点は前鼻棘とプロスチオンとの間で、上顎骨上の正中最深点、B点はインフラデンターレとポゴニオンとの間で下顎の正中線上の最深点である。
【0046】
次に、セファログラムおよびこの顎顔面形態計測装置の計測値の比較について説明する。
北海道大学歯学部学生および上記医局員で既にセファログラムを有するもの77名(成人男性53名、成人女性24名)を対象として比較を行った。計測者は1名とし、1枚のセファログラムに対しcepANB角を5回、また各被験者に対しQ−ANB角、Q−AN’B角を5回ずつ計測し、その平均値を各被験者における計測値とした。
【0047】
(1)被験者の上下顎関係の分布に関する検討
上記77名のセファログラムよりcepANB角を計測し、分布の正規性を検討した。正規性の検定には歪度、尖度を用いた。
(2)顎顔面形態計測装置の計測値からセファログラムの計測値を推定する方法の検討
上記77名についてこの顎顔面形態計測装置を用いて得られたQ−ANB角,Q−AN’B角およびセファログラムから得られたcepANB角より、この顎顔面形態計測装置の各計測値とcepANB角との相関を検討するとともに、この顎顔面形態計測装置の計測値からcepANB角を推定する回帰方程式および決定係数R2 を求めた。なお、統計解析には統計ソフト(Dr.SPSSII,SPSS Japan Inc.,東京)を用いた。
【0048】
以上の検討の結果について説明する。
まず、この顎顔面形態計測装置の計測精度および計測誤差の検討結果について説明する。
(1)アクリル板計測による顎顔面形態計測装置の計測精度の検討結果
acrylQ−ANB角、acrylANB角の分布を図13に示す。acrylQ−ANB角の平均値は7.82°、標準偏差は0.13°、acrylANBの平均値は7.81°で標準偏差は0.13°であった。計測値の最小値と最大値との差はacrylQ−ANB角とacrylANB角ともに0.5°であった。F検定とt検定の結果、p<0.01で2群間の分布と平均値に有意差は認められなかった。
【0049】
(2)軟組織の被圧変位性の検討結果
軟組織の圧接による0g〜150g、150g〜300gと300g〜450gそれぞれの圧接力の変化に対するsN’点、sA点、sB点の変化量を表1に示す。圧接による軟組織の変位量はsN’点、sA点、sB点においていずれも0〜150g、150g〜300gまでは個人差があるものの、300〜450gの圧接力の変化に対する変位量はsN’点で最大0.1mm、sA点で最大0.4mm、sB点では最大0.3mmと小さい値であった。
【0050】
【表1】
【0051】
例として被験者1名のsN’点、sA点、sB点の圧接力−変位量曲線を図14に示す。図14からわかるように、0gから50gずつ圧接力を増加したとき、いずれのグラフにおいても最初の50gで変位が急激におこり圧接力が300gを超えると変位はほとんど認められなかった。
【0052】
(3)生体計測時の計測誤差の検討結果
Q−ANB角、Q−AN’B角およびcepANB角の各計測者における計測誤差を表2に示す。この表2には計測者ごとに、被験者8名における最大値と最小値との差の平均値を示すが、実際の個々の計測値における最大値と最小値との差において最も大きな値はcepANB角で1.8°、Q−ANB角で2.5°、Q−AN’B角で1.5°であった。ウィルコクスン検定の結果、Q−ANB角とQ−AN’B角との間にp<0.01で、Q−ANB角とcepANB角との間にp<0.05で有意差が認められたが、Q−AN’B角とcepANB角との間には有意差は認められなかった。
【0053】
【表2】
【0054】
次に、セファログラムおよびこの顎顔面形態計測装置の計測値の比較結果について説明する。
(1)被験者の上下顎関係の分布に関する検討結果
被験者全体におけるcepANB角の分布を図15に示す。図15より、平均値2.82°、標準偏差3.30°であり、また検定の結果、正規分布していると判断された(p<0.05)。
【0055】
(2)顎顔面形態計測装置の計測値からセファログラムの計測値を推定する方法の検討結果
図16にcepANB角およびQ−ANB角の散布図、図17にcepANB角およびQ−AN’B角の散布図を示す。図16よりcepANB角とQ−ANB角との間におけるピアソンの相関係数はr=0.93、図17よりcepANB角とQ−AN’B角との間におけるピアソンの相関係数はr=0.94となり、両方ともp<0.01で相関が認められた。そして、Q−ANB角からcepANB角を予測する回帰方程式y=0.92x−0.12および決定係数R2 =0.86が得られた。また、Q−AN’B角からcepANB角を予測する回帰方程式y=0.93x−0.59および決定係数R2 =0.89が得られた。
【0056】
次に、以上の検討結果について考察を行う。
まず、この顎顔面形態計測装置の計測精度および計測誤差について考察する。
物体を計測するときにはさまざまな誤差が生じる。顎顔面形態計測装置による計測時に誤差が生じる要因として、(1)顎顔面形態計測装置の計測精度(2)軟組織の圧接時におこる誤差(3)実際の生体計測時に生じる計測者、被験者が潜在的に保有する誤差が考えられる。
【0057】
(1)顎顔面形態計測装置の計測精度および計測誤差について
アクリル板計測において、この顎顔面形態計測装置の計測値とトレースからの計測値との間に平均値および分散の差はほとんど認められなかった。従って、顎顔面形態計測装置自体が有する計測誤差は、従来用いられているセファログラム分析の方法が潜在的に有する計測誤差と同等のものであると判断された。
【0058】
(2)軟組織の圧接時におこる誤差について
この顎顔面形態計測装置は、軟組織上の3点より硬組織上の3点からなる角度を推定する計測器であるので、軟組織の被圧変位性を調査する必要がある。各計測部位における軟組織の被圧変位量はそれぞれに違いがあるものの、一定以上の圧で軟組織を圧接すれば軟組織上の3点からなる角度は収束してくると考え、本実験においては各計測点に対して何g以上で圧接すればよいかを調査した。本実験において、0〜150gまでの変位量はsN’点で1.5〜3.3mm、sA点で5.8〜8.7mm、sB点では5.1〜8.6mmとかなりの幅があったが300〜450gまでの間ではsN’点で0〜0.1mm、sA点で0.2〜0.4mm、sB点では0.2〜0.3mmとなり、わずかな変位しか認められなかった。300〜450gの力を加えた場合の3点の変位量のばらつきにより、Q−ANB角がばらつく量を飯塚、石川の基準値(飯塚哲夫, 石川富士郎: 頭部X線規格写真による症例分析法の基準値について−日本人正常咬合群−. 日矯歯誌, 16(1):4-12, 1957)による平均的なN,A,B点の位置関係を利用して計算すると、最大でも0.6°の誤差を生じる可能性があることがわかった。この値をセファログラム分析におけるcepANB角と比較してみた。すなわち被験者77名のセファログラムを5回計測したときの各被験者における最大値と最小値との差を求めたところその差の最大値は1.85°(平均値0.63°,標準偏差0.34°)となり、顎顔面形態計測装置を正確に顔面の3点に位置付けることができれば誤差はセファログラム分析において別々に3点をプロットするよりも小さくなる可能性が高いということがわかった。
【0059】
(3)生体計測時の計測誤差について
実際に生体計測をする場合には、上記に検討を加えた顎顔面形態計測装置の精度から生じる誤差、また軟組織の圧接時に生じる誤差の他にも、計測者間に存在するばらつきの要素、被験者間に存在する不特定の誤差の要因などが総合されて計測誤差を生じるものと考えられる。そこで、実際に生体の計測時にこの総合的な誤差がどの程度生じるかを検討した。まず、骨上のN点に相当する軟組織上の点を設定するにあたり本実験においてsN点とsN’点とを用いた。sN点は、計測者が視覚的に認識しやすく、硬組織Nasionと比較的近似した位置にあることよりAshley-Montaguの方法(Ashley-Montagu, M. F. :
Location of the nasion in the living. Am. J. Phys. Anthropol., 20: 81-93, 1935)に従って上眼瞼溝を利用することとした。またsN’点は鼻根部の最陥凹点を触知する方法なので計測者にとって把握しやすいため、再現性が高く計測誤差が小さくなると考え設定した。
【0060】
実験の結果、Q−AN’B角の誤差はcepANB角の誤差と同等でQ−ANB角の誤差と比較すると有意に小さかった(p<0.01)。また個々の計測値における最大値と最小値との差の最も大きな値においてもQ−AN’B角が1.5°、Q−ANB角が2.5°とQ−AN’B角の方が小さいものであった。以上の結果から誤差の点から見るとsN’点を用いた計測値Q−AN’B角のほうが優れていることがわかった。その理由は計測者が同じ点をより正確に位置付けられることによるのではないかと思われる。
【0061】
次に、セファログラムおよびこの顎顔面形態計測装置の計測値の比較結果について考察する。
(1)被験者の上下顎関係の分布に関する検討について
上記の77名の被験者におけるcepANB角の分布は飯塚、石川の基準値(飯塚哲夫, 石川富士郎: 頭部X線規格写真による症例分析法の基準値について−日本人正常咬合群−. 日矯歯誌, 16(1):4-12, 1957)である成人男子3.28±2.66°、成人女子3.39±1.77°と比べやや小さかった。しかしこの集団の平均値は正常咬合者におけるANB角の分布の±0.5S.D.(標準偏差)内にありまた正規分布していることより、上記の検討は一般集団の標本を対象としていると判断した。
【0062】
(2)顎顔面形態計測装置の計測値からセファログラムの計測値を推定する方法の検討
これまでの矯正治療の診断において顎顔面骨格形態の特徴を判断する時には、正常咬合者の集団から得られたセファログラム分析値の平均値、標準偏差が参考となって、その方法や標準的な数値がほぼ確立している。その現状を考えると、この顎顔面形態計測装置のような新たな手法により得られた計測値も従来のセファログラムにおける標準値に換算して被験者の形態の特徴を判断する方が汎用性に優れたものとなると考えられる。そこで、ここでは、被験者77名に対してこの顎顔面形態計測装置により得られた計測値とセファログラム分析による計測値との比較を行い、この顎顔面形態計測装置から得られた計測値からcepANB角を推定する回帰方程式を求めることとした。その結果、cepANB角とQ−ANB角との間、および、cepANB角とQ−AN’B角との間には強い相関が認められた。なかでもQ−AN’Bの方が相関係数が高く、回帰直線のあてはまりの良さをあらわす決定係数R2 値も高かった。すなわち、本検討において導出されたこの回帰方程式を用いると変数の分散の89%が説明されるものと理解される。また、決定係数すなわち得られた回帰直線のあてはまりの良さが、Q−ANB角とcepANB角との回帰直線よりもQ−AN’B角とcepANB角との回帰直線のほうが大きかったことは、計測に用いたsN’点がsN点よりも正確に位置付けられることにより計測者間の誤差が少なかったことに起因すると考えられる。
【0063】
一方、回帰直線の定数項の絶対値はQ−AN’B角の方が大きかった。これは計測されたQ−AN’B角の値はQ−ANB角の値よりもcepANB角の値との差が大きいことを意味する。この原因は、計測誤差を小さくすることを目的としてsN点より後下方にあるsN’点を定義したためと考えられる。しかし得られた回帰方程式の決定係数からQ−AN’B角とcepANB角における方が回帰方程式のあてはまりが良いことを考えるとQ−AN’Bを使用してcepANBを予測する方が妥当であると思われる。
【0064】
以上のように、この第1の実施形態による顎顔面形態計測装置によれば、通常のセファログラム分析時に行われるトレーシングによる計測精度とほぼ等しい計測精度を得ることができる。また、この顎顔面形態計測装置の各計測点への圧接力を300g〜450gとすることにより、計測値の変動を0.6°以内に抑えることができる。これはセファログラム分析時に生じる計測誤差と同等である。また、この顎顔面形態計測装置による計測時のばらつき(最大値−最小値)はQ−AN’B角の方がQ−ANB角より小さく、このことからsN’点を採用することの妥当性が確かめられた。また、この顎顔面形態計測装置による計測値(Q−ANB角、Q−AN’B角)とセファログラム分析による値(cepANB角)との間には強い相関が認められた(Q−ANB角:r=0.93,Q−AN’B角:r=0.94)。そして、Q−ANB角からcepANB角を推定する回帰方程式としてy=0.92x−0.12、決定係数:R2 =0.86が導出され、Q−AN’B角らcepANB角を推定する回帰方程式としてy=0.93x−0.59、決定係数:R2 =0.89が導出され、Q−AN’B角からcepANB角を推定する回帰方程式の方が当てはまりがよいと判断された。
【0065】
この顎顔面形態計測装置は、放射線被曝を伴うことなく簡便に上下顎骨の前後的位置関係を把握することができるため、矯正相談にきた患者に対して有用であり、不正咬合の予備診査に有効に用いることができ、歯科検診そして疫学研究において非常に役立つものと考えられる。あるいは、この顎顔面形態計測装置は歯科検診時に追加診査として利用することができる簡便な計測器であり、また歯科医院に相談にくる患者に対して、骨格的な特徴を即座に捉えた上で説明できる有用な道具であると考えられる。
【0066】
次に、この発明の第2の実施形態による顎顔面形態計測装置について説明する。この顎顔面形態計測装置は携帯型かつ自動型である。
図18はこの顎顔面形態計測装置を示す正面図である。
図18に示すように、この顎顔面形態計測装置においては、支持部1は平たい直方体の形状を有するケースにより構成されている。図示は省略するが、この支持部1の内部に、圧接板7の、支持部1の長手方向(上下方向)およびこれと直交する方向(左右方向)の移動機構および圧接板20の上下方向の移動機構が設けられている。また、支持部1の後端面にはボタンスイッチ28〜30が設けられている。ボタンスイッチ28は、その押し方により、圧接板7の上方への移動、下方への移動および停止の三段階に切り換えられるようになっている。ボタンスイッチ29は、その押し方により、圧接板20の上方への移動、下方への移動および停止の三段階に切り換えられるようになっている。また、ボタンスイッチ30は、これを操作することにより圧接板7を左右方向に移動させることができるとともに、sA点圧接端子であるローラー11がsA点を所定の圧接力で圧接したときにそれを圧力センサーなどにより自動認識して圧接板7の左右方向の移動を停止するものである。支持部1の面にはランプ31が設けられている。このランプ31は、sN/sN’点圧接端子3によるsN点またはsN’点の圧接力、sA点圧接端子であるローラー11によるsA点の圧接力およびsB点圧接端子21によるsB点の圧接力が所定の値(例えば、300g)以上になると点灯するようになっている。支持部1の面にはさらに、ディスプレイ32、33が設けられている。ディスプレイ32には、Q−ANB角またはQ−AN’B角が表示されるようになっている。また、ディスプレイ33には、cepANB角が表示されるようになっている。
この第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様な利点を得ることができる。
【0067】
次に、この発明の第3の実施形態による顎顔面形態計測装置について説明する。この顎顔面形態計測装置は設置型である。
図19はこの顎顔面形態計測装置を示す正面図である。
図19に示すように、この第3の実施形態においては、第2の実施形態による顎顔面形態計測装置にさらに、圧接板2の上下方向および左右方向の移動機構と圧接板20の左右方向の移動機構とを設けた顎顔面形態計測装置が箱34に固定されている。この箱34は図示省略した支持具により床面に固定されている。符号35、36は頭位を安定させるためのパッドを示す。
【0068】
この顎顔面形態計測装置においては、被験者を安定した椅子に座らせ、箱34の中に顔を入れて額および下顎をパッド35、36に押し付けて頭位を安定させた状態で横顔のシルエットを光学的に自動認識し、sN点またはsN’点、sA点およびsB点の高さを自動的に決定した後、sN/sN’点圧接端子3、sA点圧接端子であるローラー11およびsB点圧接端子21を自動的に位置させることができるようになっている。そして、Q−ANB角またはQ−AN’B角を計測することができるようになっている。
この第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様な利点を得ることができる。
【0069】
以上、この発明の実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施形態において挙げた数値、材料、形状、配置などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じて、これらと異なる数値、材料、形状、配置などを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】sN点、sN’点、sA点およびsB点の定義を示す略線図である。
【図2】この発明の第1の実施形態による顎顔面形態計測装置を示す正面図である。
【図3】この発明の第1の実施形態による顎顔面形態計測装置を示す右側面図である。
【図4】この発明の第1の実施形態による顎顔面形態計測装置を示す左側面図である。
【図5】この発明の第1の実施形態による顎顔面形態計測装置を示す上面図である。
【図6】この発明の第1の実施形態による顎顔面形態計測装置を示す底面図である。
【図7】この発明の第1の実施形態による顎顔面形態計測装置のスライド部材の十字マーカの近傍の拡大図である。
【図8】この発明の第1の実施形態による顎顔面形態計測装置による計測方法を示す略線図である。
【図9】アクリル板による顔面プロファイルの模型を示す略線図である。
【図10】被圧変位量計測装置を示す略線図である。
【図11】被圧変位量計測装置を用いた顔面軟組織の圧接力による軟組織の変化量を調べる方法を説明するための略線図である。
【図12】セファログラムの計測点の定義を示す略線図である。
【図13】acrylQ−ANB角およびacrylANB角の分布を示す略線図である。
【図14】sN’点、sA点およびsB点の圧接力−変位量曲線の例を示す略線図である。
【図15】被験者全体におけるcepANB角の分布を示す略線図である。
【図16】cepANB角およびQ−ANB角の散布図を示す略線図である。
【図17】cepANB角およびQ−AN’B角の散布図を示す略線図である。
【図18】この発明の第2の実施形態による顎顔面形態計測装置を示す正面図である。
【図19】この発明の第3の実施形態による顎顔面形態計測装置を示す正面図である。
【符号の説明】
【0071】
1…支持部、2、7、20…圧接板、3…sN/sN’点圧接端子、4、17…スライド部材、5、8、18…穴、6、9、19…固定ねじ、10…圧接端子支持板、11…ローラー、12…ワイヤー、13…軸、14…スプリング、15…押圧部材、21…sB点圧接端子、22…分度器、23…目盛り、24…十字マーカ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子を有し、
上記第1の圧接端子を顔面のsN点またはsN’点に圧接し、上記第2の圧接端子を顔面のsA点に圧接し、上記第3の圧接端子を顔面のsB点に圧接し、上記sN点またはsN’点、上記sA点および上記sB点の幾何学的位置関係により顎顔面形態を計測することを特徴とする顎顔面形態計測装置。
【請求項2】
第1の方向に上記第1の圧接端子、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子を順次有し、
上記第1の圧接端子、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子は上記第1の方向に互いに相対的に移動可能であり、
少なくとも上記第2の圧接端子は上記第1の方向と直交する第2の方向に上記第1の圧接端子および上記第3の圧接端子に対して移動可能であり、
上記第1の圧接端子を顔面のsN点またはsN’点に圧接し、上記第2の圧接端子を顔面のsA点に圧接し、上記第3の圧接端子を顔面のsB点に圧接し、上記sN点またはsN’点、上記sA点および上記sB点の幾何学的位置関係により顎顔面形態を計測することを特徴とする請求項1記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項3】
上記sN点またはsN’点と上記sB点とを結ぶ線分と上記sN点またはsN’点と上記sA点とを結ぶ線分とのなす角度を計測することにより顎顔面形態を計測することを特徴とする請求項1または2記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項4】
上記第1の圧接端子、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子の圧接により計測される上記角度とセファログラム分析により計測されるANB角との相関関係をあらかじめ求めておき、この相関関係に基づいて、上記第1の圧接端子、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子の圧接により計測される上記角度からセファログラム分析により計測されるANB角を推定することを特徴とする請求項3記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項5】
上記第1の圧接端子、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子を所定値以上の圧接力で圧接することができるように構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項6】
上記圧接力が250〜500gであることを特徴とする請求項5記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項7】
上記第1の圧接端子、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子は上記第1の方向に延在する支持部材に取り付けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項8】
上記第1の圧接端子は上記支持部材に固定され、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子は上記支持部材に対して上記第1の方向に移動可能に取り付けられていることを特徴とする請求項7記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項9】
上記第1の圧接端子、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子は上記支持部材に対して上記第1の方向に移動可能に取り付けられていることを特徴とする請求項7記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項10】
上記第1の圧接端子、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子は上記支持部材に対して上記第2の方向に移動可能に取り付けられていることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項11】
携帯型に構成されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項12】
設置型に構成されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項13】
第1の圧接端子を顔面のsN点またはsN’点に圧接し、第2の圧接端子を顔面のsA点に圧接し、第3の圧接端子を顔面のsB点に圧接し、
上記sN点またはsN’点、上記sA点および上記sB点の幾何学的位置関係により顎顔面形態を計測することを特徴とする顎顔面形態計測方法。
【請求項1】
第1の圧接端子、第2の圧接端子および第3の圧接端子を有し、
上記第1の圧接端子を顔面のsN点またはsN’点に圧接し、上記第2の圧接端子を顔面のsA点に圧接し、上記第3の圧接端子を顔面のsB点に圧接し、上記sN点またはsN’点、上記sA点および上記sB点の幾何学的位置関係により顎顔面形態を計測することを特徴とする顎顔面形態計測装置。
【請求項2】
第1の方向に上記第1の圧接端子、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子を順次有し、
上記第1の圧接端子、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子は上記第1の方向に互いに相対的に移動可能であり、
少なくとも上記第2の圧接端子は上記第1の方向と直交する第2の方向に上記第1の圧接端子および上記第3の圧接端子に対して移動可能であり、
上記第1の圧接端子を顔面のsN点またはsN’点に圧接し、上記第2の圧接端子を顔面のsA点に圧接し、上記第3の圧接端子を顔面のsB点に圧接し、上記sN点またはsN’点、上記sA点および上記sB点の幾何学的位置関係により顎顔面形態を計測することを特徴とする請求項1記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項3】
上記sN点またはsN’点と上記sB点とを結ぶ線分と上記sN点またはsN’点と上記sA点とを結ぶ線分とのなす角度を計測することにより顎顔面形態を計測することを特徴とする請求項1または2記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項4】
上記第1の圧接端子、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子の圧接により計測される上記角度とセファログラム分析により計測されるANB角との相関関係をあらかじめ求めておき、この相関関係に基づいて、上記第1の圧接端子、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子の圧接により計測される上記角度からセファログラム分析により計測されるANB角を推定することを特徴とする請求項3記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項5】
上記第1の圧接端子、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子を所定値以上の圧接力で圧接することができるように構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項6】
上記圧接力が250〜500gであることを特徴とする請求項5記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項7】
上記第1の圧接端子、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子は上記第1の方向に延在する支持部材に取り付けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項8】
上記第1の圧接端子は上記支持部材に固定され、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子は上記支持部材に対して上記第1の方向に移動可能に取り付けられていることを特徴とする請求項7記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項9】
上記第1の圧接端子、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子は上記支持部材に対して上記第1の方向に移動可能に取り付けられていることを特徴とする請求項7記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項10】
上記第1の圧接端子、上記第2の圧接端子および上記第3の圧接端子は上記支持部材に対して上記第2の方向に移動可能に取り付けられていることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項11】
携帯型に構成されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項12】
設置型に構成されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項記載の顎顔面形態計測装置。
【請求項13】
第1の圧接端子を顔面のsN点またはsN’点に圧接し、第2の圧接端子を顔面のsA点に圧接し、第3の圧接端子を顔面のsB点に圧接し、
上記sN点またはsN’点、上記sA点および上記sB点の幾何学的位置関係により顎顔面形態を計測することを特徴とする顎顔面形態計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2006−115990(P2006−115990A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305652(P2004−305652)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
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