説明

顔料分散液の製造方法及び顔料分散液

【課題】 染料に匹敵する調色が得られ、且つ印画物が高堅牢性を有し、さらに環境に配慮した簡易なプロセスにて製造可能な顔料分散液の製造方法を提供する。
【解決手段】 層間化合物中の層間イオンの少なくとも一部が、前記層間イオンと逆の極性を示す染料イオンによってイオン置換されている顔料を水に分散する顔料分散液の製造方法であって、前記層間イオンの前記染料イオンへのイオン置換と、前記顔料の水分散及び微粒子化を同一反応容器内で行うことを特徴とする顔料分散液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性着色液に含有させる顔料分散液の製造方法に関し、又、これを用いて製造される顔料分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ等の普及に伴い、前記パーソナルコンピュータで作成した画像情報等を銀塩写真と同じように記録紙に表示することが要求されている。そして、記録紙に印刷する手段として、電界や熱、圧力等を駆動源としてノズルより溶液状のインクを記録紙上に吐出させ、インクにより画像を形成して印刷を行うインクジェット記録方式等が使用されている。
【0003】
上記インクジェット記録方式においては、インクとして水性インクが使用され、記録紙として支持体上に染料受容層の形成された記録紙を使用するのが一般的である。
【0004】
尚、上記水性インクの色材としては、屋内で用いられるオフィスオートメーション機器による印刷用途及び写真用途には、目詰まりしにくく装置の保守が容易であるという利便性の観点から、あるいは、画像が高品位であることから、水溶性の染料が一般的に用いられている。一方、屋外で用いられるポスターや看板、あるいは、ダンボール紙への印刷等の産業用途には、画像の耐久性に優れた顔料が一般的に用いられている。尚、以下、染料を色材とする水性インクを染料インクと称し、顔料を色材とする水性インクを顔料インクと称す。
【0005】
顔料インクに用いられる顔料としては、安全性に問題がある無機顔料より、フタロシアニン類やキナクリドン類に代表される特定の分子構造を有する有機顔料が用いられる傾向にある。
【0006】
しかしながら、このような有機顔料は種類が限られているためにフルカラーを再現するには合成技術的な限界があり、任意の調色を得るのは困難である。さらに、顔料を構成する分子の集合体自体の屈折率が比較的大きい場合には、普通紙に印画したときにパルプ上での光散乱が大きくなり、多重内部反射の影響を受けやすくなって、画像の彩度が低下すること、及び光沢紙に印画した際に粒子が受容層内に浸透せず、粒子径に由来する散乱光を反射して彩度を低下させるが予想される。又、一般の有機分子は会合により、その分子吸光係数が低下する傾向があることから、有機顔料は同一添加量では染料に比較して着色力が低くなる。そして、着色力や彩度が低下すると、画像の鮮明さが劣化することとなる。
【0007】
又、顔料インクを実用化するためには、高精細化に伴い開口が狭まりつつあるノズル先端部分で目詰まりを誘発しないように、小さな粒子サイズの顔料を用いること、長期に亘って優れた分散安定性を確保すること等も要求される。
【0008】
このため、顔料の粒子サイズをコロイドレベルまで微細化するための製造装置についての提案(例えば、特許文献1参照)や、分散安定性を向上させるための樹脂系分散剤についての提案(例えば、特許文献2及び3参照)がなされている。又、層間化合物中の層間イオンを逆のイオン性を有する染料とイオン置換して顔料インクを調製する例(例えば、特許文献4参照)があるが、イオン置換と顔料の水分散を別工程で行うために低コスト化は不十分と思われる。又有機溶剤を使用するために環境への配慮が出来ていない。
【特許文献1】米国特許第4533254号明細書
【特許文献2】米国特許第4597794号明細書
【特許文献3】米国特許第5229786号明細書
【特許文献4】特開平10−46049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明においては、従来の実情に鑑み、染料を用いた水性インクに匹敵する調色が得られ、且つ印刷物が高堅牢性を有し、さらに環境へ配慮した簡易なプロセスにて製造可能で、低コスト化を図ることができる顔料分散液の製造方法及び前記顔料分散液の製造方法を用いて製造される顔料分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。
【0011】
層間化合物中の層間イオンの少なくとも一部が、前記層間イオンと逆の極性を示す染料イオンによってイオン置換されている顔料を水に分散する顔料分散液の製造方法であって、前記層間イオンの前記染料イオンへのイオン置換と、前記顔料の水分散及び微粒子化を同一反応容器内で行うことを特徴とする顔料分散液の製造方法及び前記顔料分散液の製造方法を用いて製造される顔料分散液。
【0012】
層間化合物中の層間イオンの少なくとも一部が、前記層間イオンと逆の極性を示す染料イオンによってイオン置換されている顔料を分散状態で含んでいる顔料分散液あって、イオン置換と顔料の水分散及び微粒子化を同一反応容器内で行うことによって製造されるものであり、前記顔料が、引火点200℃以下の有機溶剤を使用することなく、分散剤及び界面活性剤と共に水中に分散されてなることを特徴とする顔料分散液。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、被記録材側に染料受容層を形成しておく必要がないため、被記録材の種類を選ぶことなく、染料に匹敵する調色が得られる。又、簡易なプロセスで製造可能であるため、従来の顔料を用いる場合に比して、低コスト化を図れる。さらに、この顔料を用いて形成された画像は、銀塩写真像に匹敵し得る彩度、解像度、耐久性を有するものとなるため、証明写真や屋外展示用印刷物等として十分使用し得るものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る顔料分散液の製造方法は、上述の目的を達成するものであり、前記顔料分散液に用いられる顔料は層間化合物を主体とし、前記層間化合物中の層間イオンの少なくとも一部が、前記層間イオンと逆の極性を示す特定の染料イオンにてイオン置換されるものである。
【0015】
即ち、本発明は、層間化合物がイオン交換作用に基づくインターカレーション反応により染料を定着保持させることが可能であることを利用して、これを顔料として用いたものである。
【0016】
ここで、層間化合物はハイドロタルサイト類、あるいはスメクタイト構造を有するモンモリロナイト類が好ましく、いずれにおいても、染料イオンにてイオン置換された残余の層間イオンの少なくとも一部、理想的には全部が親水性イオンにてイオン置換されていることが好ましい。染料イオンのイオン置換量が少ないと着色力が不十分となるため、この顔料を用いた顔料インクを用いて形成された画像が不鮮明となる。
【0017】
層間化合物がハイドロタルサイト類よりなる場合、このハイドロタルサイト類は、下記一般式で示される天然型粘土の焼成物が好ましい。
【0018】
(一般式)
Al(OH)・mCO・nH
(式中、MはMg及び/又はZn、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦m≦2、0≦n≦2、x+y=1である。)
層間化合物がハイドロタルサイト類である場合、層間イオンの少なくとも一部とイオン置換される染料イオンが、直接染料イオン又は酸性染料イオンであることが好ましい。直接染料や酸性染料といったアニオン染料を、ハイドロタルサイト類の層間に吸着させると、耐光性と耐ガス性を著しく上昇させることができる。さらに、直接染料や酸性染料といったアニオン染料を、ハイドロタルサイト類の層間に吸着させるときに顔料の微粒子化及び水分散を同時に行うにあたり、結晶水を有するもの、及び/又は表面に油脂成分を含有しないものが特に高いイオン置換性を示す。
【0019】
又、ハイドロタルサイト類の層間イオンを上述のアニオン染料と親水性イオンとで十分にイオン置換し、他のイオンを層間に吸着させないようにしておくと、水分散性が適切に制御できるようになる。
【0020】
一方、層間化合物がモンモリロナイト類である場合、層間イオンの少なくとも一部とイオン置換される染料イオンが、塩基性直接染料イオン又はカチオン染料イオンであることが好ましく、その他の層間イオンの少なくとも一部とイオン置換される親水性イオンが、水素イオンであることが好ましい。塩基性直接染料やカチオン染料を水素イオンと共にモンモリロナイト類の層間に吸着させると、耐光性を上昇させることができる。これは、塩基性直接染料やカチオン染料は、酸性雰囲気下にて耐光性が上昇するという性質を有するからである。したがって、モンモリロナイト類の層間イオンのうち、立体障害のため上述した染料にてイオン置換されないものは、できるかぎり水素イオンでイオン置換されることが好ましい。
【0021】
又、モンモリロナイト類の層間イオンを上述の染料と水素イオンとで十分にイオン置換し、他のイオンを層間に吸着させないようにしておくと、水分散性が適切に制御できるようになる。
【0022】
本発明に係る顔料分散液を用いた顔料インクに用いられる分散剤については、以下のようなことが言える。
【0023】
層間化合物がハイドロタルサイト類又はモンモリロナイト類である場合共に、分散剤として、ノニオン性の樹脂や界面活性剤を、顔料に対して20重量%〜200重量%用いることが好ましい。ノニオン性の樹脂及び界面活性剤を用いることで、イオン置換に影響を与えることなく、イオン置換率を高くできる。
【0024】
イオン置換と顔料水分散及び微粒子化はせん断力を用いて行うことが好ましく、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、ホモジナイザー、マイクロフルイダイザーなどが使用できる。
【0025】
以下、本発明の具体的な実施の形態について示す。本発明に係る顔料分散液は、層間化合物中の層間イオンの少なくとも一部が、前記層間イオンと逆の極性を示す染料イオンによってイオン置換されている顔料を水に分散する顔料分散液の製造方法であって、前記層間イオンの前記染料イオンへのイオン置換と、前記顔料の水分散及び微粒子化を同一反応容器内で行う顔料分散液である。
【0026】
即ち、本発明は、イオン交換作用に基づくインターカレーション反応により染料を定着保持させることが可能な層間化合物を顔料として用いたものである。
【0027】
ここで、層間化合物は、層状構造を有し、その親水性の層間に水溶性染料とイオン交換しうる交換性イオンを有する層状無機物質であればよい。
【0028】
層状無機物質の交換性イオンとしては、水溶性染料が水溶性カチオン染料である場合にはナトリウムイオン等の交換性陽イオンであり、水溶性染料が水溶性アニオン染料である場合にはカルボキシルアニオンや炭酸イオン等の交換性陰イオンとなる。
【0029】
交換性陽イオンを有する層状無機物質(以下、カチオン交換性層間化合物と称する。)としては、天然もしくは合成層状珪酸塩又はそれらの焼成体を例示することができ、代表的には3−八面体型スメクタイト構造を有するモンモリロナイト類を好ましく使用することができる。
【0030】
具体的には、XとYの組み合わせと置換数に応じて、モンモリロナイト、マグネシアンモンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、鉄マグネシアンモンモリロナイト、バイデライト、アルミニアンバイデライト、ノントロナイト、アルミニアンノントロナイト、サポナイト、アルミニアンサポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト等の天然物や合成物を例示することができる。尚、上記一般式中のOH基をフッ素で置換したものも使用することができる。
【0031】
又、モンモリロナイト類の他にも、ナトリウムシリシックマイカ、ナトリウムテニオライト、リチウムテニオライト等の雲母類をカチオン交換性層間化合物として使用することも可能である。さらに、合成粘土鉱物と同様に、層状構造を有し且つ交換性陽イオンを有するカチオン交換性層間化合物として、リン酸ジルコニウム等の酸性塩、層状含水酸化チタン等がある。これらは光学的隠ぺい性もしくは固有の色を有するもので、透明性、光沢性、白色度が同時に要求されない場合に使用することができる。
【0032】
又、カチオン染料と強い親和性を示す合成珪酸塩として無定形の合成シリカ等があるが、これらは水等の高誘電率媒体中での染料定着能、即ち、イオン交換能力がモンモリロナイト類に比して十分でない。しかし、高いイオン交換能力が要求されない場合には使用することもできる。
【0033】
上述のカチオン交換性層間化合物として、夾雑物を含まない合成珪酸塩等の純白色を呈する微粉末を使用した場合、その微粉末結晶そのものは光学的に透明であるので、銀塩系写真に匹敵しうるような高い彩度を実現する顔料を形成することが可能となる。
【0034】
尚、上述のカチオン交換性層間化合物の層間に存在させる交換性陽イオンは、層間距離を広げる効果(ピラー効果)や層間を部分的に疎水化するという効果とを実現する有機陽イオンで置換されていてもよい。このような有機陽イオンとしては、第4アンモニウムイオンやホスホニウムイオン、アルキルホスホニウムイオン、アリールホスホニウムイオン等が挙げられる。第4アンモニウムイオンでイオン置換する場合、4つのアルキル基のうち少なくとも3つは各々炭素数4以上、好ましくは8以上のものを用いる。長鎖アルキルの数が少ない場合にはピラー効果が十分でなく、定着座席(交換性無機陽イオン)としての層間を確保することが困難となる。
【0035】
一方、交換性陰イオンを有する層状無機物質(以下、アニオン交換性層間化合物と称する。)としては、0:1型粘土鉱物の一種であり、AlO八面体シートからなる層状のハイドロタルサイト類を好ましく例示することができる。
【0036】
尚、天然のハイドロタルサイトの組成とは若干異なるが、合成ハイドロタルサイトも商業的に入手可能である。この合成ハイドロタルサイトの微粉末は夾雑物を含まず、純白色を呈するが、結晶自体は光学的透明であるので、その微粉末を使用した場合、銀塩写真に匹敵しうる高い彩度を実現する顔料を形成することが可能となる。
【0037】
本発明においては、特に、Mg0.75Al0.25(OH)・0.13CO・0.5HOなる組成式にて示されるハイドロタルサイトの焼成体を用いることが好ましい。
【0038】
又、上述のハイドロタルサイト類以外にも、アニオン交換性層間化合物として、チタンやジルコニウム、ランタン、ビスマス等の含水酸化物あるいは水酸化リン酸塩等があるが、これらは光学的隠ぺい性もしくは固有の色を有するので、透明性、光沢性、白色度が同時に要求されない場合に使用することができる。
【0039】
尚、上述のアニオン交換性層間化合物の層間に存在させる交換性陰イオンは、層間距離を広げる効果(ピラー効果)や層間を部分的に疎水化するという効果とを実現する有機陰イオンでイオン置換されていてもよい。このような有機陰イオンとしては、カルボン酸アニオン、スルホン酸アニオン、エステルアニオン、リン酸エステルアニオン等が挙げられる。このようなアニオンはアルキル基もしくはアルケニル基を通常有するが、それらの炭素数が少ない場合にはピラー効果が十分でなく、定着座席(交換性無機陰イオン)としての層間を確保することが困難となり、多すぎるとイオン置換しにくくなるので炭素数を5〜20とすることが好ましい。
【0040】
イオン交換作用に基づくインターカレーション反応により染料を定着保持させることが可能な層間化合物として、モンモリロナイト類のようなカチオン交換性層状化合物を用いる場合、ハイドロタルサイト類のようなアニオン交換性層状化合物を用いる場合のいずれにおいても、染料イオンにてイオン置換された残余の層間イオンの少なくとも一部、理想的には全部が親水性イオンにてイオン置換されていることが好ましい。染料イオンのイオン置換量が少ないと着色力が不十分となるため、この顔料を用いた顔料インクを用いて形成された画像が不鮮明となる。
【0041】
層間化合物がモンモリロナイト類よりなる場合、層間イオンの少なくとも一部とイオン置換される染料イオンは、塩基性染料、特に、カチオン染料と塩基性直接染料の少なくともいずれかであり、残余の層間イオンの少なくとも一部とイオン置換される親水性イオンは、水素イオンが好ましい。
【0042】
ここで、カチオン染料としては、アミン塩又は第4級アンモニウム基を有するアゾ染料、トリフェニルメタン染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料等を使用することができる。具体的には、以下の染料を例示することができる。
【0043】
イエロー系として、C.I.ベーシックイエロー:1、2、11、13、14、19、21、25、28、32、33、34、35、36等
マゼンタ系として、C.I.ベーシックレッド:1、2、9、12、13、14、15、17、18、22、23、24、27、29、32、38、39、40等、C.I.ベーシックバイオレット:7、10、15、21、25、26、27、28等
シアン系として、C.I.ベーシックブルー:1、3、5、7、9、19、21、22、24、25、26、28、29、40、41、44、45、47、54、58、59、60、64、65、66、67、68、75等
ブラック系として、C.I.ベーシックブラック:2、8等
これらカチオン染料は、通常、無機アニオンを対イオンとして有し、その多くは強酸の塩として存在する。従って、その水溶液は一般に酸性を示すので、このようなカチオン染料を含むインク組成物と接触する金属部材の腐食を防ぐには塩基性塩で中和することが好ましい。例えば、対イオンとしての無機アニオンを、カルボン酸イオンなどの有機アニオンのソーダ塩等で処理して有機アニオンにイオン置換することが好ましい。この場合、層間化合物のカチオン染料に対する親和性を減じないようにするために、有機アニオンとの造塩により層間化合物との親和性を減じないようにすることが好ましい。
【0044】
又、塩基性直接染料としては、商品名:Pergasol F(CibaGeigy製)、商品名:Cartasol K(Sandoz製)、商品名:Levacell C(Bayer製)、商品名:Fastusol C(BASF製)等が挙げられる。
【0045】
又、上述したような染料イオンでイオン置換されない残余の層間イオンを水素イオンにイオン置換するには、例えば、モンモリロナイト類のようなカチオン交換性層状化合物を、塩酸を含む液中に投入すればよい。
【0046】
以上のような塩基性直接染料やカチオン染料といった塩基性染料を、水素イオンと共にモンモリロナイト類の層間に吸着させると、耐光性を向上させることができる。これは、塩基性直接染料やカチオン染料といった塩基性染料は、酸性雰囲気下にて耐光性が向上するという性質を有するからである。したがって、モンモリロナイト類の層間イオンのうち、立体障害のため上述した染料にてイオン置換されないものは、できるかぎり水素イオンでイオン置換されることが望ましい。
【0047】
又、モンモリロナイト類の層間イオンを上述したような染料と水素イオンとで十分にイオン置換し、他のイオンを層間に吸着させないようにしておくと、これをインクとしたときに、水分散性が適切に制御できるようになる。
【0048】
一方、層間化合物がハイドロタルサイト類である場合、層間イオンの少なくとも一部とイオン置換される染料イオンが、アニオン染料、即ち、直接染料と酸性染料の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0049】
ここで、アニオン染料としては、発色団としてモノアゾ基、ジズアゾ基、アントラキノン骨格、トリフェニルメタン骨格などを有し、さらに分子中に1〜3個のスルホン酸基又はカルボキシル基などの陰イオン性の水溶性基を有するものを使用することができる。具体的には、以下のものが挙げられる。
【0050】
イエロー系直接染料として、C.I.ダイレクトイエロー:1、8、11、12、24、26、27、28、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、100、110等
マゼンタ系の直接染料として、C.I.ダイレクトレッド:1、2、4、9、11、13、17、20、23、24、28、31、33、37、39、44、46、62、63、75、79、80、81、83、84、89、95、99、113、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230、321等
シアン系の直接染科として、C.I.ダイレクトブルー:1、2、6、8、15、22、25、41、71、76、77、78、80、86、90、98、106、108、120、158、160、163、165、168、192.193、194、195、196、199、200、201、202、203、207、225、226、236、237、246、248、249等
ブラック系の直接染科として、C.I.ダイレクトブラック:17、19、22、32、38、51、56、62、71、74、75、77、94、105、106、107、108、112、113、117、118、132、133、146等
又、イエロー系の酸性染料として、C.I.アシッドイエロー:1、3、7、11、17、19、23、25、29、36、38、40、42、44、49、59、61、70、72、75、76、78、79、98、99、110、111、112、114、116、118、119、127、128、131、135、141、142、161、162、163、164、165等
マゼンタ系の酸性染料として、C.I.アシッドレッド:1、6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、37、42、51、52、57、75、77、80、82、83、85、87、88、89、92、94、97、106、111、114、115、117、118、119、129、130、131、133、134、138、143、145、154、155、158、168、180、183、184、186、194、198、199、209、211、215、216、217、219、249、252、254、256、257、262、265、266、274、276、282、283、289、303、317、318、320、321、322等
シアン系の酸性染料として、C.I.アシッドブルー:1、7、9、15、22、23、25、27、29、40、41、43、45、54、59、60、62、72、74、78、80、82、83、90、92、93、100、102、103、104、112、113、117、120、126、127、129、130、131、138、140、142、143、151、154、158、161、166、167、168、170、171、175.182、183、184、187、192、199、203、204、205、229、234、236等
ブラック系の酸性染料として、C.I.アシッドブラック:1、2、7、24、26、29、31、44、48、50、51、52、58、60、62、63、64、67、72、76、77、94、107、108、109、110、112、115、118、119、121、122、131、132、139、140、155、156、157、158、159、191等
又、本発明では層間に染料イオンを吸着させる際に、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤などの堅牢化剤を共に吸着させることで、さらに耐光性や耐ガス性を向上させることができる。上記の物質としては一般的な堅牢化剤を用いることができ、ベンゾトリアゾール類、ベンゾフェノン類、サリチル酸類、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、フェニレンジアミン類、ケトン/アミン縮合物、ジアリールアミン類、ジフェニルアミン誘導体、ナフチルアミン類、ヒンダードアミン類、ヒンダードフェノール類を好ましく例示できる。前述の化合物は色素とのモル比で0.1〜3.0量を用いるのが好ましく、発色性の観点からより好ましくは0.5〜2.0量である。
【0051】
上述したような構成を有する顔料及び顔料分散液は、層間化合物を主体とし前記層間化合物における層間イオンの少なくとも一部が前記層間イオンと逆の極性を示す特定の染料イオンにてイオン置換されてなる顔料が、分散剤及び界面活性剤と共に水中に分散されてなるものであり、着色液として用いるのが好ましい。
【0052】
ここで、顔料分散液を調製するに際して上述の顔料と共に用いられる分散剤として、ノニオン性のポリオキシエチレン又は及びポリ(オキシエチレン−ブロック−オキシプロピレン)樹脂を、顔料に対して10重量%〜200重量%用いるのが好ましい。発色性の観点からより好ましくは20〜150重量%用いるとよい。
【0053】
又、顔料分散液を調製するに際して上述の顔料と共に用いられる界面活性剤として、ノニオン性のポリオキシエチレン又は及びポリオキシエチレン誘導体を、顔料に対し5重量%〜50重量%用いるのが好ましい。発泡性の観点からより好ましくは10〜30重量%用いるとよい。
【0054】
上述のような構成を有する本発明に係る顔料分散液を用いると、印刷物の作成に際して、被記録材側に染料受容層を必要としないため、被記録材を選ばない。このため、被記録材としては、記録紙の支持体として一般的に用いられるものがいずれも使用可能であり、例えば、普通紙、合成紙等の紙類、或いはポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルム類、さらには紙類上にプラスチック類をコーティングしたもの等が挙げられる。
【0055】
以上のように、本発明に係る顔料分散液においては、顔料として、層間化合物の層間に染料イオンがイオン交換作用に基づくインターカレーション反応によって強固に固定されてなるものを用いている。したがって、保存性、定着性、耐久性に優れた画像を染料に匹敵する調色にて形成できる。又、画像の彩度、解像度も十分に確保される。
【0056】
以下、本発明を適用した好適な実施例について実験結果に基づいて説明する。本実験においては、層間化合物として、ハイドロタルサイト及びスメクタイトを、色素として染料及び顔料を、及び各種堅牢化剤を用いて顔料分散液を調製して、各種特性の評価を行った。
【0057】
用いた色素、層間化合物及び堅牢化剤の内容をそれぞれ表1、表2及び表3に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

<実施例1>
前記の表1〜3及び下記に示す調合液をマヨネーズ瓶(容量:140cc)にとり、ジルコニアビーズ(比重:6.0g/cm、直径:0.5mm)を280重量部加えて密栓し、ペイントシェーカー(東洋精機製)にて15時間振とうして、層間化合物における層間イオンを染料イオンにイオン置換させた顔料サンプルaを得た。さらに、顔料サンプルaの分散液を脱イオン水で2倍に希釈して評価サンプルAとした。
【0061】
(調合液)
・層間化合物A 1.9重量部
・ノニオン性分散樹脂 1.9重量部
(第一工業製薬製、商品名:エパン785)
・ノニオン性界面活性剤 0.38重量部
(第一工業製薬製、商品名:EA−177)
・色素1 1.9重量部
・脱イオン水 21.6重量部
<実施例2>
実施例1において、表3の堅牢化剤2を色素とのモル比率が1.0となるように加えて実施例1と同様に顔料サンプルを調製し、顔料サンプルbを得た。さらに、顔料サンプルbの分散液を用いて、評価サンプルAと同様にして評価サンプルを調製し、評価サンプルBとした。
【0062】
<実施例3〜33>
実施例1あるいは実施例2と同様にして色素、層間化合物、堅牢化剤を適宜変更して顔料サンプルを調製し、顔料サンプルcを得た。さらに、顔料サンプルcの分散液を用いて、評価サンプルAと同様にして評価サンプルを調製し、評価サンプルCとした。
【0063】
<比較例1〜20>
実施例1の層間化合物を除外し、表1に記載の色素1〜6を適宜用い、又実施例2と同様に適宜堅牢化剤を添加して実施例1又は実施例2と同様に顔料サンプルを調製し、顔料サンプルを得た。さらに、顔料サンプルの分散液を用いて、評価サンプルAと同様にして評価サンプルを調製し、評価サンプルとした。
【0064】
<比較例21〜23>
実施例1の層間化合物を除外し、表1に記載の色素9〜11を適宜用いて実施例1と同様に顔料サンプルを調製し、顔料サンプルを得た。さらに、顔料サンプルの分散液を用いて、評価サンプルAと同様にして評価サンプルを調製し、評価サンプルとした。
【0065】
(特性の評価)
ここで、上記のようにして得られた各評価サンプルを使用して分散性評価、及び画像サンプルを作製して、その画像サンプルの濃度、耐光性、耐ガス性を評価した。
【0066】
画像サンプルの作製は、上述のようにして得られた各評価サンプルをバーコーター(#0003)を用いてインクジェットプリンター用フォト光沢紙(キヤノン製、商品名:PR101)及び普通紙(キヤノン製、商品名:PBペーパー)に印画して行った。
【0067】
画像サンプルの評価は、先ず、各画像サンプルの濃度を調べるために発色濃度(反射)を測定した。測定する色種は色素の色種である。すなわち、シアン色素であればシアンの濃度、マゼンタ色素であればマゼンタの濃度、イエロー色素であればイエローの濃度を測定する。以下、初期発色濃度とする。
【0068】
評価は以下に示す基準で行った。
【0069】
評価基準
1.分散性
各サンプルを所定の濃度に希釈して粒度分布計(Microtrac製、商品名:UPA−150)を用いて分散粒子径を評価した。又、顔料を加えていないサンプルについては目視にて評価した。
【0070】
○:平均粒子径100nm未満、又は目視にて透明
△:平均粒子径100nm以上、300nm未満、又はやや凝集あり
×:平均粒子径300nm以上、又は凝集沈殿
2.発色性
各画像サンプル(上記の光沢紙)の初期発色濃度を評価した。
【0071】
○:初期発色濃度2.2以上
△:初期発色濃度1.8以上、2.2未満
×:初期発色濃度1.8未満
3.耐水性
各画像サンプル(上記の普通紙)を水中に所定時間浸漬して、乾燥後の発色濃度を測定して、初期発色濃度に対する濃度保持率を求めて耐水性を評価した。
【0072】
耐水試験後の発色濃度/初期発色濃度(%)
○:85%以上
△:70%以上、85%未満
×:70%未満
4.耐光性
耐光試験機(島津製作所製、サンテスターXF−180CPS)を用いて各画像サンプル(上記の光沢紙)に光を70時間照射した。試験後の発色濃度を測定して、初期発色濃度に対する濃度保持率を求めて、耐光性を評価した。
【0073】
耐光試験後の発色濃度/初期発色濃度(%)
◎:90%以上
○:75%以上、90%未満
△:50%以上、75%未満
×:50%未満
5.耐ガス性
オゾン試験機(スガ試験機製、オゾンウェザーメーター)を用いて各画像サンプル(上記の光沢紙)を温度40℃、相対湿度55%の条件下で2時間晒した。試験後の発色濃度を測定して、初期発色濃度に対する濃度保持率を求めて、耐ガス性を評価した。
【0074】
耐オゾン試験後の発色濃度/初期発色濃度(%)
◎:90%以上
○:75%以上、90%未満
△:50%以上、75%未満
×:50%未満
評価結果を表4及び表5に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

表4及び5より、染料、層間化合物及び/又は堅牢化剤を用いて形成された画像サンプルにおいては、分散性が良好で染料単独であるサンプルと同等の発色性を確保し、加えて、高い耐水性及び、色調がほとんど変化しないレベルの高い耐光性、耐ガス性を示した。
【0077】
これに対して、色素に顔料を用いて形成された画像サンプルにおいては、色調がほとんど変化しないレベルの高い耐水性、耐光性、耐ガス性を示したが、発色性が著しく劣る結果となった。
【0078】
以上の結果より、層間化合物の層間イオンを染料イオンと十分にイオン置換させた顔料からなる顔料分散液は、優れた分散性を有し、この分散液により形成された画像は優れた定着性を有し、発色濃度、耐光性、耐ガス性に優れたものとなることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層間化合物中の層間イオンの少なくとも一部が、前記層間イオンと逆の極性を示す染料イオンによってイオン置換されている顔料を水に分散する顔料分散液の製造方法であって、前記層間イオンの前記染料イオンへのイオン置換と、前記顔料の水分散及び微粒子化を同一反応容器内で行うことを特徴とする顔料分散液の製造方法。
【請求項2】
前記イオン置換、水分散及び微粒子化をせん断力によって行う請求項1に記載の顔料分散液の製造方法。
【請求項3】
前記層間化合物が、ハイドロタルサイト類である請求項1又は2に記載の顔料分散液の製造方法。
【請求項4】
前記層間化合物が、スメクタイト構造を有するモンモリロナイト類である請求項1又は2に記載の顔料分散液の製造方法。
【請求項5】
前記ハイドロタルサイト類が、下記一般式で示されるものである請求項3に記載の顔料分散液の製造方法。
(一般式)
Al(OH)・mCO・nH
(式中、MはMg及び/又はZn、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦m≦2、0≦n≦2、x+y=1である。)
【請求項6】
前記染料イオンが、直接染料イオン、酸性染料イオン、塩基性直接染料イオン及びカチオン染料イオンからなる群から選ばれるものである請求項1〜5何れか1項に記載の顔料分散液の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6何れか1項に記載の顔料分散液の製造方法を用いて製造される顔料分散液。
【請求項8】
層間化合物中の層間イオンの少なくとも一部が、前記層間イオンと逆の極性を示す染料イオンによってイオン置換されている顔料を分散状態で含んでいる顔料分散液あって、イオン置換と顔料の水分散及び微粒子化を同一反応容器内で行うことによって製造されるものであり、前記顔料が、引火点200℃以下の有機溶剤を使用することなく、分散剤及び界面活性剤と共に水中に分散されてなることを特徴とする顔料分散液。
【請求項9】
前記分散剤が、ノニオン性の水溶性樹脂であり、前記水溶性樹脂を前記顔料に対して10重量%〜200重量%含有する請求項8記載の顔料分散液。
【請求項10】
前記界面活性剤が、ノニオン性の界面活性剤であり、前記顔料に対して5重量%〜50重量%含有する請求項8又は9に記載の顔料分散液。

【公開番号】特開2006−160818(P2006−160818A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351036(P2004−351036)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】