説明

顔面紅潮の治療のためのSミルタザピン

本発明は、Sミルタザピンによる顔面紅潮の治療方法、及び顔面紅潮の治療のための薬剤の製造のためのSミルタザピンの使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔面紅潮の治療のためのミルタザピンに関連する薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
閉経期の間およびその後の女性におけるよく知られている病訴は、ほてり、顔面紅潮又は寝汗の症状である。これらの用語は、突然の熱又は灼熱感を意味し、これは、頭部及び頸部の領域において始まり、次いで、多くの場合、波のように全身を通り抜ける。その直後、発汗及び末梢血管拡張による体熱放散の客観的な兆候が、通常、観察される(Freedman; Physiology of hot flashes; Am. J. Human Biology, Vol 13 pp 453−464, 2001)。
【0003】
これらの症状は、西洋社会において、60から80%であると推測される有病率で閉経後の女性の大部分において生じる。発症の平均年齢は、約51歳である。この病訴は、卵巣が摘出された女性にも生じ、有病率は約90%である。
【0004】
エストロゲンによるホルモン補充は、適切な治療であるが、そのような治療は、高齢まで続けることができない(Johnson 1998, Menopause and hormone replacement therapy. Med Clin. North Am 82: 297−320)。
【0005】
非ホルモン剤治療は、より安全な治療方法を提供することを約束する。幾つかの薬剤による経験が報告され、そのうちフルオキセチン、パロキセチン及びミルタザピンが例としてここに記述されている(Heath and Plouffe, 1999, EP0943329; Stearns et al.; Paroxetine controlled release in the treatment of menopausal hot flashes 2003; JAMA Vol 289; pp 2827−2834; Loprinzi et al Phase III Evaluation of Fluoxetine for treatment of Hot Flashes, J Clin Oncology Vol 20 pp 1578−1583, 2002; Waldinger MD, Berendsen HHG, Schweitzer DH. Treatment of hot flushes with mirtazapine: 4 case studies. Maturitas 2000;36: 165−168; Berendsen, Maturitas Vol 36, pp 155−164, 2000; Plouffe et al., Delaware Medical Journal 69: pp 481−482, 1997, Roth and Scher, Psycho−Oncology 7, pp 129−132, 1998, and Stearns et al., Annals of Oncology 11, pp 17−22, 2000; Berendsen, Kloosterboer Oestradiol and mirtazapine restore the disturbed tail−temperature of oestrogen−deficient rats. European Journal of Pharmacology 2003; 482: 329−333)。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、顔面紅潮の治療のためにミルタザピンのS鏡像異性体を選択することにより利点が得られる分野に寄与する。αレセプター遮断、選択的セロトニンレセプター遮断(特に5−HT2C及び5−TH2Aレセプター遮断)、薬物動態及び代謝特性による作用の持続などのその薬理学的特性の、睡眠の質の改善などのその医療効果の、その抗頭痛効果及びその抗うつ剤特性の組み合わせが、顔面紅潮の治療のための特有の、特性の混合を構成する。ミルタザピンの2つの鏡像異性体のうち最も強力なαアデノレセプターアンタゴニストが、この用途にこのように効果的な化合物であることは予想されず、αアンタゴニストヨヒンビンが温度の上昇を引き起こし、αアゴニストクロニジンが女性において顔面紅潮を低減すると報告されているので、尚更、予測されない(前掲引用Freedmanを参照)。また、ミルタザピンの2つの鏡像異性体のうち最も強力な5−HTセロトニンレセプターアンタゴニストが、この用途にこのように効果的な化合物であることも予想されず、中枢5−HT2Aレセプターの拮抗作用でなく活性化が、卵巣摘出誘発体温調節機能障害のラットモデルにおいて温度上昇を元に戻すと報告されているので、尚更、予測されない(Sipe et al., Brain Research Vol 1028, pp 191−202, 2004を参照)。したがって、本発明は、ミルタザピンに関連する薬剤による顔面紅潮の治療方法であり、前記薬剤が、純粋なSミルタザピンを活性成分として含むことを特徴とする方法を提供する。もう一つの実施態様において、本発明は、顔面紅潮の治療のための薬剤の製造のためのSミルタザピンの使用を提供する。
【0007】
本発明の薬剤による顔面紅潮の治療の効果は、個人の患者あたり及び/又はグループ効果として示すことができる効果であることを理解するべきである。全体的なグループ効果は、薬剤の有利な利益が、グループの中の全ての人に対して得られないことを除外するものではない。この治療結果は、顔面紅潮の頻度の低減として又は顔面紅潮の強度の低減として、観察することができる。使用のためにSミルタザピンを選択することは、治療域又は治療の生活の質を改善するのに有益である。より低用量のSミルタザピンが、ラセミ体ミルタザピンの従来技術の用量レベルにおける有害作用をともなって有効である場合、その結果は、より大きい治療域である。副作用が、治療される症状の効果と比較して低減する場合、その結果は、生活の質の主観的評価の改善又は患者の改善された服薬遵守において見ることができる。
【0008】
本発明の治療はホルモン補充に基づいていないので、これらの治療薬剤は、好ましくは、ホルモン又はホルモンレセプターアゴニストによる治療がより高い危険性を有しているような状況において使用される。したがって、本発明の一つの態様は、ホルモン依存性腫瘍増殖の危険性のある顔面紅潮の患者に利用可能な治療を行うことである。そのような患者は、エストロゲン依存性腫瘍増殖の観点から、卵巣摘出をうけた患者群である。
【0009】
本発明の一つの態様は、エストロゲンに対して有害な女性化反応を有する患者における顔面紅潮に対して利用可能な治療を行うことである。特に、内因性アンドロゲンを取り除く目的で機能的に又は薬理学的に去勢された男性患者は、Sミルタザピンにより顔面紅潮を治療することができる。
【0010】
顔面紅潮は、閉経期の間に病訴として生じるばかりでなく、月経周期の特定の時点、例えば月経期間の前又はその間に、特定の女性においても生じる。これらの状況における顔面紅潮を、Sミルタザピンにより非ホルモン的に極めて良好に治療することができることが、本発明の態様である。本記載で使用される用語は、これらの用語における通常の理解に従った意味を有する。
【0011】
Sミルタザピンは、遊離塩基として又は1つまたはそれ以上の通常許容される酸付加塩類として、本発明に従った目的のために使用することができる。そのような化合物は、純粋な形態で又は薬学的賦形剤との混合物で使用することができる。
【0012】
純粋なSミルタザピンの特性としての純粋の意味は、本発明の薬剤中の全活性ミルタザピン成分の鏡像異性的純度を意味する。純度は、薬剤中のミルタザピンの治療作用が、顔面紅潮の症状に対抗するに際し、R鏡像異性体からの寄与ではなく、薬剤中のSミルタザピン成分の作用に基づいていることを意味する。総ミルタザピン含有量の少なくとも90%、又は95%、又は99%、又は99.5%のようなより高い純度が好ましいが、薬剤の総ミルタザピン含有量の80%超がSミルタザピンである場合が、このような状況である。
【0013】
本明細書で活性成分とも呼ばれるSミルタザピンの、治療効果を達成するために必要な量は、当然のことながら、特定の化合物、投与経路、及びレシピエントの年齢ならびに他の状態によって変わる。本記載で定義されるミルタザピンの量は、特に示されない限り、ミルタザピンの遊離塩基の量を意味する。
【0014】
適切な1日用量は、塩基の含有重量に基づいて計算して、1人のレシピエントあたり1日に0.5から140mgの範囲、好ましくは1人のレシピエントあたり1日に1から30の範囲、より好ましくは1から10mgの範囲の塩基である。一般に、非経口投与は、吸収により依存する他の投与方法よりも低い投与量を必要とする。しかし、1日投与量は、服用者の体重あたり0.01から3mg/kgである。レシピエントは、顔面紅潮の治療のためにSミルタザピンの投与量を受けている女性又は男性である。
【0015】
耐性が発生する場合、治療は、ヒトの慢性治療の過程において用量を5倍まで増加することにより、更に最適化することができる。所望の用量は、1日を通して適切な間隔をおいて投与する1つ、2つ、3つ又はそれ以上の分割用量で提供してもよい。治療は、「必要性が生じた」場合を基準とする、患者の判断により1日であってよく、又は日数、週数若しくは月数により定められた限定された治療期間であってよい。
【0016】
本発明の医薬が併用療法のために別の活性成分も含むことは、除外されない、しかし組み合わせが、組み合わせの効果がいずれであっても、Rミルタザピンとの組み合わせは、除外される。
【0017】
活性成分を単独で投与することは可能であるが、活性成分を医薬製剤として提供することが好ましい。したがって、本発明は、更に、純粋なSミルタザピンを、薬学的に許容できる担体及び場合により他の治療薬と共に含む、顔面紅潮の治療に使用される医薬製剤を提供する。この担体は、製剤の他の成分と適合性があり、そのレシピエントに有害ではないという意味において「許容され」なければならない。適した賦形剤は、例えばHandbook of Pharmaceutical Excipients, 2nd Edition; Editors A. Wade and P.J.Weller, American Pharmaceutical Association, Washington, The Pharmaceutical Press, London, 1994に記載されている。本発明は、更に、その医薬製剤に適した包装材料と組み合わせて、本明細書前記で記載された医薬製剤を含み、前記包装材料は、顔面紅潮の治療における医薬製剤の使用のための使用説明書を含む。
【0018】
製剤として、経口又は経膣投与に適したものが挙げられる。この製剤は、例えば、Gennaro et al., Remmington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition, Lippincott, Williams and Wilkins, 2000(特にpart 5: pharmaceutical manufacturingを参照すること)に記載されているような方法を使用して、薬学技術で周知のすべての方法により調製し得る。このような方法は、活性成分と1つまたはそれ以上の副成分を構成する担体とを混合する工程を含む。そのような副成分として、充填剤、結合剤、希釈剤、崩壊剤、潤滑剤、着色剤、風味剤及び湿潤剤などの、当該技術で慣用のものが挙げられる。
【0019】
経口投与に適した製剤は、錠剤又はカプセル剤のような別々の単位として提供してもよく、それぞれ、粉末又は顆粒として、溶液又は懸濁液として、所定の量の活性成分を含有する。活性成分は、ボーラス若しくはペーストとして提供してもよく、又はリポソーム若しくは微小粒子内に含有されてよい。
【0020】
非経口(例えば、皮下)の製剤は、また、例えばMinipump(商標)のような装置内に、適切な持続放出形態において提供してもよい。
【0021】
Sミルタザピンは、幾つかの方法で、例えばミルタザピンのラセミ混合物の精製により、調製することができる。ミルタザピンは、US4,062,848に記載の方法を使用して調製してよい。Sミルタザピンは、立体選択的合成により得ることもできる。
【0022】
以下の実施例は、説明のためであり、如何なる点においても制限するものとして考慮するべきではない。
【実施例1】
【0023】
Sミルタザピンのマレイン酸塩の効果を、顔面紅潮の動物モデルで測定した。このモデルは、ラットにおける、休息から活動段階へ移った時点での尾皮膚温度の低下が、卵巣摘出後に減衰したという観察に基づいている。ラットの歩行活動も測定した。
【0024】
ラットにおいて、受動的期間(明)から活動期間(暗)に移行の際の、尾皮膚温度の降下が、卵巣摘出を介したエストロゲンの停止後に減衰したことが見出された。活動期間における卵巣摘出ラットと擬似手術を受けたラットとの差は、エストラジオール治療により元に戻り、尾皮膚温度に対するこの効果は、卵巣摘出後のエストロゲン停止により引き起こされることが示された。
【0025】
材料及び方法
本研究はオランダ政府の動物研究の指針に従って行った。
【0026】
ラットの尾皮膚温度はData Sciences International (DSI), a division of Transoma Medical, Inc., USAからの遠隔測定システムの使用により、測定した。このシステムは、植込み型無線送信機(TA10TA−F40 W/TP)、受信機(RPC−1及びRLA1020)、データ交換マトリックス(DEM)、並びにデータ収集及び分析システム(DQ ART 2.2 silver version)を含む。
【0027】
前記送信機は、生体適合性シラスチック被覆で覆われた密閉プラスチックハウジングを含み、3.5cc未満の容量を有し、約7gの重量がある。
【0028】
各送信機は、増幅器、電池、無線周波電子装置(温度及び活動データの無線送信用)、並びに装置を作動及び停止させる電磁作動スイッチを含む。送信機は、改変された温度チップを持つ13cmの長さのサーミスタープローブを含む。
【0029】
Sメルタザピンマレイン酸塩を、5% mulgofenを有する0.9%食塩水に溶解した。化合物及びビヒクルを腹腔内投与した。擬似プラセボ群及び卵巣摘出(OVX)/プラセボ群は、2ml/kg/日の食塩水を摂取し、化合物処置群は、2ml/kg/日の容量中の10、30又は100mg/kg/日を摂取した。ここで、示された量は、Sミルタザピンのマレイン酸塩の重量を意味する。
【0030】
到着時に体重225から250gのCrl:Wu系統の雌ラットは、CPB Harlan(オランダ)より供給された。ラットを、おがくず底敷き及びケージエンリッチメントとして“Enviro Dry(商標)”を有するMacrolon(商標)ケージ(38×22×15cm)の中に個別に収容した。到着の翌日、ラットに卵巣摘出又は擬似手術を施し、イソフルランで麻酔をかけ、送信機を腹腔内に植え込んだ。手術の後、ラットを、適合させた明/暗サイクル(午前9時30分に明かりを消し、午後7時30分に明かりをつける)の温度調整室(2.15±1℃)の中に置いた。手術から回復させ、明/暗サイクルに少なくとも2週間適合させた。食餌及び水は自由に与えた。
【0031】
処置期間の合間に、少なくとも2週間の間隔をおき、ラットを連続実験において再使用した。
【0032】
送信機TA10TA−F40 W/TPを、2%グルタルアルデヒドの中に約16時間置き、滅菌した。それらをすすぎ、植え込むまで70%エタノール中に保持した。植え込む前に、無菌食塩水ですすいだ。
【0033】
ラットの左及び右側腹部、並びに尾植え込みよりも上の背中の後部を剃毛した。ラットを、イソフルラン(FORENE(登録商標)/1−クロロ−2,2,2−トリフルオロエチル−ジフルオロメチル−エーテル、Abbott)で麻酔した。手術領域をHibicet(登録商標)(1.5%m/vクロロヘキシジンジグルコナート及び1.5%m/vセトリミド)で消毒した。ラットに両側卵巣摘出術(OVX)又は擬似手術を施した。右側腹部で行った切開も、送信機を腹膜腔へ植え込むために使用した。腹を閉じる際、送信機を、縫合により腹筋に固定した。
【0034】
股関節部の高さのラットの背中で、皮膚に小さい切開を行い、先端にサーミスターを付けたプローブをラットの背中に導いた。ここからプローブを、尾の皮下を通し、尾の基底部から約2cmまで運んだ。リード線を、大腿二頭筋に縫合して固定した。手術を完了するために、皮膚を創傷クリップで閉じた。手術の直後、ラットを鎮痛剤ブプレノルフィン50μg/kg皮下(Temgesic(登録商標)、Schering−Plough)で処置した。
【0035】
処置群をOVX群について無作為化した。ラットに、ビヒクル又はSミルタザピンマレイン酸塩を、午前11時に1日1回、5日間、腹腔内注入した。ラットの尾皮膚温度及び歩行運動を、連続して5分毎に測定した、しかし午前12時から午後2時(Sミルタザピンの最大効果が観察された期間)の測定値は、処置効果を計算するために使用した。この期間の間、ラットを完全に平静な状態に維持した。午前9時30分(明かりを消す時間)の前にラットを保護することができた。
【0036】
ラットの体重を、処置期間の前及び後で測定した。データは、特に指示がない限り、平均±S.E.M.として表した。統計的有意性を調べるために、分散分析(ANOVA)を使用した。データを対数的に変換して、変数を正規化した。P<0.05の値は有意であると考えた。
【0037】
薬剤投与(午前11時)の1時間後から始めて2時間の間に、5分毎に7秒間それぞれのラットのデータを収集した。この2時間の間の平均尾皮膚温度を各ラットで計算した。加えて、群平均を標準誤差(SEM)と共に計算した。尾皮膚温度は、摂氏(℃)で表わし、歩行運動は、1分あたりのカウント(cpm)で表わす。
【0038】
異なる試験群の動物の数は、5から8匹の間で異なった。
【0039】
結果
結果は、卵巣摘出ラットの尾皮膚温度(TST)及び歩行運動に対する処置の効果を示す。
【0040】
結果は、10mg/kgでなく30mg/kgのSミルタザピンマレイン酸塩が、尾皮膚温度のOVX誘発低下の減衰を元に戻したことを示す。歩行運動は、30mg/kgの後で低減したが、この効果は、統計的に有意ではなかった。
【0041】
実験1において、Sミルタザピンマレイン酸塩を、10mg/kg/日の腹腔内の用量で、5日間試験した。
【0042】
開始時(処置を始める前の3日間の平均)、Sミルタザピンマレイン酸塩の10mg/kg/日の腹腔内投与の間、及び処置を停止した後の2日間で、OVXラットの尾皮膚温度の平均±SEMについてデータを得た。Sミルタザピンマレイン酸塩は、処置1日目の後、約2℃のTSTの増加を示し、処置期間の間、擬似/プラセボと比較して、及び4日目にOVX/プラセボと比較して、有意に高いレベルを維持した。5日目には、Sミルタザピンマレイン酸塩は、尾皮膚温度に影響を与えなかった。処置の終了後、全群のTSTは、OVXラットの正常値の約29℃に戻った。ビヒクルで処置された、擬似手術を受けたラットと卵巣摘出ラットの歩行運動は、実験の間、1分あたりおよそ1.0カウント(cpm)で変動した。Sミルタザピンマレイン酸塩は、擬似手術を受けたプラセボ群と比較したとき、3日目に、歩行運動の有意な低減を示した。
【0043】
OVXプラセボ群と比較したとき、Sミルタザピンマレイン酸塩は、10mg/kg腹腔内で、歩行運動に対して有意な効果を示さず、実験の間、処置されたラットの体重(BW)に対し有意な効果はなかった。
【0044】
実験2において、Sミルタザピンマレイン酸塩を、10、30及び100mg/kg/日の腹腔内の用量範囲で、5日間試験した。
【0045】
OVXラットと比較したとき、10mg/kgにおいて、最初の処置後、TSTに1から3℃の上昇を引き起こし、処置の期間中、2日目及び3日目で有意に高いレベルを維持した。処置の終了後、TSTは、OVXラットの正常なTST値である約28から29℃に戻った。
【0046】
30及び100mg/kgの腹腔内において、TSTの低下は有意に回復した。2日目以降、30及び100mg/kgの腹腔内のSミルタザピンマレイン酸塩は、擬似手術群より低いTST(2から4℃)を示した。30mg/kgの腹腔内において、5日目に、TSTは、擬似手術を受けたプラセボ群と統計的に有意に異なっていた。
【0047】
処置の終了後、30mg/kgの腹腔内群のTSTは、OVXラットの正常値に戻り、一方、100mg/kgの腹腔内群のTSTは、処置の終了の2日後まで、より低いレベルを維持した。
【0048】
連続した5日間の処置の後、最低用量(10mg/kg)は、OVXラットと比較して効果を示さなかった。30及び100mg/kgの腹腔内において、OVX群と比較して尾皮膚温度の有意な低下があった。30mg/kgの腹腔内群のTSTも、擬似手術群より有意に低かった。
【0049】
ビヒクルで処置された、擬似手術を受けたラット及びOVXラットの歩行運動は、実験の間、およそ1.2cpmで変動した。10mg/kg/日のSミルタザピンマレイン酸塩によるOVXラットの処置は、最初の処置後、歩行運動に対してのみ効果を示した。残りの実験の間、ラットの歩行運動はプラセボ処置OVXラットのレベルに留まった。
【0050】
30及び100mg/kgの腹腔内用量で投与されたSミルタザピンマレイン酸塩は、運動を約0.5cpmに低下させた。歩行運動の低下は、最初の処置以降見られた。処置期間の終了時、30mg/kgの腹腔内のSミルタザピンマレイン酸塩で処置されたラットの歩行運動は、およそ0.5cpmのレベルに留まり、一方、100mg/kgの腹腔内で処置されたラットの歩行運動は、ビヒクル処置ラットのレベルに増加した。OVXプラセボ群と比較したとき、5日間の処置後、Sミルタザピンマレイン酸塩の統計的に有意な効果は、いずれの用量群においても見られなかった。しかし30mg/kgの腹腔内では、歩行運動において50%の低下が観察された。
【0051】
結論:この方法は、ラットにおいて、30及び100mg/kgの用量レベルで、顔面紅潮に対する効果を実証した。ヒトにおける適した用量レベルについて、正確な用量レベルは予測できないが、このモデルを、ヒトレシピエントにあてはめて推定することができる。一般に、ラットは、ヒトにおいて必要とされる用量レベルより大幅に高い用量レベルで該当する効果を示す傾向がある。
【実施例2】
【0052】
ヒト服用者
Sミルタザピンマレイン酸塩による治療の利益効果を、以下の方法を用いて実証することができる。
【0053】
患者は、血清FSHレベルが>40mlU/mLである12か月の一時的無月経若しくは6か月の特発性無月経、又は子宮摘出術を受けた若しくは受けていない両側卵巣摘出術の手術後6週間、のいずれかに定義される、閉経後の女性である。
【0054】
子宮摘出のため被験者の閉経状態が不明確である場合、血清FSHレベルは>40mlU/mLでなければならない。周閉経期のホルモンの使用のため、最後の月経の日が明確でない場合、被験者は、休薬期間の終了後、>40mlU/mLの血清FSHレベルを有していなければならない。40から65歳の年齢群の中であり、肥満度指数が18から32であるレシピエントのみが、試験に含まれる。患者は、試験薬に無作為化する前に、少なくとも7日間の間、毎日の日誌記録より定量化して、少なくとも1日あたり7回又は1週間あたり50回の、中等度から重度の顔面紅潮を有する。
【0055】
患者群は、2.25、4.5、9又は18mgのSミルタザピン(塩基の重量)をSミルタザピンマレイン酸塩の形態で含有する投与単位を、経口摂取の主要な賦形剤としてトウモロコシデンプン及びラクトース一水和物により被包された錠剤として服用する。被験者は、カプセル剤1錠を、夜眠る前に摂取するように指示される。
【0056】
定義:
ベースライン:最初の薬剤投与前の、最後の評価
治療期間中:最初から最後の薬剤投与までを含み、1日を足した期間
顔面紅潮の頻度及び重症度は、前処置及び治療期間の間、被験者により毎日入力される電子日誌を介して評価する。顔面紅潮の重症度は、被験者により、以下の参照定義を用い、軽度、中等度、重度に評価付けされる。
軽度:発汗のない熱の感覚
中等度:発汗のある熱の感覚、活動を続けることはできる
重度:発汗のある熱の感覚、活動の停止を余儀なくさせる
紅潮を経験しない場合、これは「熱の感覚なし」と記録される。
【0057】
有効性は、電子日誌カード(パッド)を使用して被験者により記録された、血管運動の病訴を記録することにより、決定できる。血管運動症状の回数及び重症度(軽度、中等度又は重度)は、スクリーニングの間及び12か月の完全な治療の間、被験者により毎日記録される必要がある。
【0058】
ベースライン訪問では、被験者の試験への参加の適格性を確認するため、ベースライン訪問に先立つ最終の7日のすべての日について、中等度から重度の顔面紅潮の頻度を調べる。ベースラインスコアは、無作為化の前に記録された最終7日間の非欠測血管運動症状に基づいている。
【0059】
各週毎に、中等度から重度の血管運動症状の総数、重症度スコアA、及び複合スコアAを、下記で示される式を使用して計算することができる。
頻度スコアA=(中等度の血管運動症状の数)+(重度の血管運動症状の数)
重症度スコアA=(中等度の血管運動症状の数)×1+(重度の血管運動症状の数)×2÷中等度/重度の血管運動症状の総数
複合スコアA=(中等度の血管運動症状の数)×1+(重度の血管運動症状の数)×2
複合スコアAは、重症度スコアAに頻度スコアAを掛けたものに等しく、したがって、複合スコアAは、多くの重度の血管運動症状を経験している被験者では特に大きいことを留意すること。
【0060】
軽度から重度の血管運動症状に基づく以下の有効性変数も、導き出し分析することができる。
頻度スコアB=(軽度の血管運動症状の数)+(中等度の血管運動症状の数)+(重度の血管運動症状の数)
重症度スコアB=(軽度の血管運動症状の数)+(中等度の血管運動症状の数)×2+(重度の血管運動症状の数)×3÷血管運動症状の総数
複合スコアB=(軽度の血管運動症状の数)+(中等度の血管運動症状の数)×2+(重度の血管運動症状の数)×3。
【0061】
血管運動症状の頻度、重症度スコアA及びB、並びに複合スコアA及びBは、そのスコアに関連する重症度のすべてのレベルに対して、欠測血管運動症状データのある日には計算されない(そうでなければ、0と推定される)。関連する血管運動症状の総数が0に等しいとき、関連する複合重症度スコアは、欠測と設定される。
【0062】
複合スコアBが、重症度スコアBに頻度スコアBを掛けたものに等しいことを留意すること。
【0063】
頻度スコアAとB及び複合スコアAとBの両方とも、毎日の平均として表わされる(日数を非欠測情報で割る)。他方、重症度スコアA及びBは、無次元であり、そのように割る必要はない。更に、そのような毎日の重症度スコアは毎日の低い頻度に敏感であり、したがって平均に大きな影響を与えるので、意図的に毎日は計算しない(その結果、平均もしない)。
【0064】
一次有効性変数
4つの共同一次有効性パラメーターは、階層の順番で、最終観察繰り越し(LOCF)法を使用してそれぞれの週の血管運動症状を記録した、利用可能な治療期間中の、
1.4週目における中等度及び/又は重度の顔面紅潮の毎日の平均頻度、
2.12週目における中等度及び/又は重度の顔面紅潮の毎日の平均頻度(維持)、
3.4週目における重症度スコアB、及び
4.12週目における重症度スコアB
のベースラインからの変化であることができる。
【0065】
必要なベースライン値は、それぞれ、中等度から重度の血管運動症状の毎日の平均数、及び血管運動症状が記録された最大7日間の非欠測前処置(すなわち、1日目の前)の間の重症度スコアBとして決定される。
【0066】
欠測データ
各週毎に、その週の始まりの21日(同日を含む)前まで(又は1日目まで、制限が先にくるいずれか一方)のデータをとり、最終7日間の非欠測データを使用する。それぞれの治療週の間で血管運動症状が記録されない場合に限り、以前の治療週の有効性変数が繰り越される。したがってベースライン値は繰り越されないが、ベースライン後測定値のない被験者では、感度分析がベースライン値を繰り越して実施される。
【0067】
二次有効性変数
二次有効性変数は、
1)連続治療週(4及び12週目以外)あたりの中等度/重度血管運動症状の毎日の総頻度数の平均、
2)連続治療週あたりの血管運動症状の重症度スコアA、
3)連続治療週あたりの血管運動症状の平均複合スコアA、
4)連続治療週あたりの軽度/中等度/重度血管運動症状の毎日の総頻度数の平均、
5)連続治療週(4及び12週目以外)あたりの血管運動症状の重症度スコアB、
6)連続治療週あたりの血管運動症状の平均複合スコアB、
7)ベースラインと比較した、連続治療週あたりの中等度/重度血管運動症状の毎日の頻度数の平均の少なくとも50%の低減を有する被験者として定義される反応者の数、
8)連続治療週あたりの、平均で1日あたり最大で1つの中等度又は重度の顔面紅潮を有する被験者として定義される軽減者の数
に関する、ベースラインからの変化である。
【0068】
【表1】

【0069】
他の変数
女性の健康アンケート
健康に関連する生活の質は、ベースライン、2週目、4週目、8週目及び12週目の訪問で、自己記入アンケート(WHQ)により査定することができる。
【0070】
WHQは、4ポイントのスケールで測定され、9個のサブスコアに細分化されている36項目から構成される。各項目は、以下のようにスコアを付けることができる。「確実にそうである=1」、「時々そうである=2」、「ほとんどそうでない=3」、「全くそうでない=4」。各スコアは、スコア「1」及び「2」が値「1」に、スコア「3」及び「4」が値「0」に変換される。項目7、10、21、25、31及び32は肯定的に表現され、残りの項目は否定的に表現される。したがって、これらの6項目は、逆の順番で変換される。
【0071】
9個のサブスコアは、変換されたスコアについて下記のように計算される。
a)身体的症状:(項目14、15、16、18、23、30、35の合計)/7
b)抑うつ気分:(項目3、5、7、8、10、12、25の合計)/7
c)記憶/集中力(項目20、33、36の合計)/3
d)不安/恐怖:(項目2、4、6、9の合計)/4
e)性行動:(項目24、31*†、34の合計)/3
f)血管運動症状:(項目19、27の合計)/2
g)睡眠の問題:(項目1、11、29の合計)/3
h)月経の問題:(項目17、22、26、28の合計)/4
i)誘引性:(項目21、32の合計)/2
)項目は、逆の順番でスコアを付ける。
)両方の変数31及び34に入力がない(例えば、被験者が性的に活発でない)ときには、性行動サブスコアは、計算しない。
【0072】
したがって各サブスコアは0から1の範囲であり、スコアが低いほど良好である。
【0073】
9個のサブスコア(身体的症状、抑うつ気分、記憶/集中力、不安/恐怖、性行動、血管運動症状、睡眠の問題、月経の問題、及び誘引性)は、治療群において異なる効果を実証することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミルタザピンに関連する薬剤による顔面紅潮の治療方法であり、前記薬剤が、純粋なSミルタザピンを活性成分として含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
顔面紅潮の治療のための薬剤の製造のためのSミルタザピンの使用。

【公表番号】特表2008−519810(P2008−519810A)
【公表日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540655(P2007−540655)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【国際出願番号】PCT/EP2005/055947
【国際公開番号】WO2006/051111
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(398057282)ナームローゼ・フエンノートチヤツプ・オルガノン (93)
【Fターム(参考)】