説明

顕微鏡プレパラート作成キット

【課題】顕微鏡プレパラート作成キットとして、検体試料を顕微鏡観察に適した保持状態に容易に設定可能とし、プレパラート用空間を一定厚みとして観察位置の移動に伴うフォーカスずれを防止し、フォーカスの再調整のための煩雑な操作を排して観察能率を向上させ、検体の計数や濃度測定等の自動化における測定の信頼性を高め、検体試料を安定状態で長時間保持し得るものを提供する。
【解決手段】検体液Lを載せる検出基板1と、検出基板1上に配置して内側に検体試料を収容する平面視環形のシリコンゴムシート2と、シリコンゴムシート2上に配置して検体試料を覆う透明性カバー板3と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学顕微鏡で検体試料を観察するためのプレパラートを作成するキットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、細菌等の微生物やプランクトンを含む液、エマルジョン、動植物の細胞や組織を含む培地、血液を始めとする体液等、液状の検体試料ならびに液に分散ないし浸漬した検体試料を光学顕微鏡で観察する場合、ガラスや硬質合成樹脂からなる検出基板(所謂スライドガラス)上に載せた検体試料を薄い透明性カバー板(所謂カバーガラス)で覆うのが一般的であり、この両板間に挟まれた状態の検体試料をプレパラートと称している。そして、プランクトンのように厚みのある検体の潰れ防止、液成分の蒸発による乾燥防止、プレパラートの定量化等の目的で、両板間にスペーサーとしてOリング、シリコングリス、接着テープ等を介在させることにより、検出基板と透明性カバー板との間にある程度の厚みのプレパラート用空間を確保する手法が採用されている。
【0003】
前記スペーサーとするシリコングリスは、検出基板上に環状に盛り付けることにより、その内側をプレパラート用空間とする。同じく接着テープでは、検出基板の表面に接着させた上で、中央部を窓状に切除してプレパラート用空間を構成する。しかして、このような該窓付きの接着テープをスペーサーとする構成において、該接着テープを貼った検出基板と透明性カバー板の辺縁部とを、シーリング材及びプライマーを介して接着する方法も提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−229548号公報
【0004】
しかるに、前記シリコングリスを用いる方法では、その盛り付け高さによってプレパラート用空間の厚みが大きく変動する上、周方向にも盛り付け高さを均一に設定できないため、フォーカスの操作が非常に困難になる。また、前記のOリングを介在させる方法では、該Oリングとして線径の小ささに限度があるため、プレパラート用空間の厚さが過大になり、高倍率の観察ではフォーカスが適正位置まで届かないという致命的な欠点がある上、該Oリングと両側の検出基板及び透明性カバー板との密着性に劣ることから、液の漏れや蒸発を生じ易く、プレパラートを安定した状態で長時間保持できないという問題があった。
【0005】
更に、前記の接着テープの窓によってプレパラート用空間を確保する方法では、その貼着と窓形成に手間がかかることに加え、接着テープが元来より厚みの均一性に乏しく、貼着時の押さえ加減で粘着層の厚みが変動し、部位による厚み差も生じ易いため、観察位置を少し移動させただけでフォーカスがずれ易く、その再調整に煩雑な操作を余儀なくされて能率が非常に悪いという難点があった。そして、前記提案のように、この接着テープに加えてシーリング材とプライマーによる接着を行う方法では、これら接着成分を塗着するための工程・操作が増え、より労力及び時間を費やす上、これらシーリング材及びプライマーの層がプレパラート用空間の新たな厚み変動要因になるから、観察位置の移動によるフォーカスずれがより顕著になり、観察能率の更なる低下が否めない。
【0006】
一方、近年においては、顕微鏡のフォーカス設定や視野移動をコントローラで電子制御し、観察部位を空間座標で指示すると共に、顕微鏡の拡大視野を撮影してディスプレイで映像化し、画像処理によって検体の計数や濃度測定等を自動化する技術の研究開発が進展しつつある。ところが、このような自動化技術では、座標設定等で検体試料側を一定状態を保つことが基本条件になるから、プレパラート用空間の厚み変化による検体試料の量的変動やフォーカスずれがあれば、測定の信頼性が大きく損なわれてしまう。また、同様な自動化技術の一環として、例えば検体である微粒子を電気泳動や誘電泳動で所要部位へ移動させる等、検体成分に何らかの電気的作用を及ぼして観察・計測を行う場合、検出基板として検体試料に接する表面部に薄膜電極を設けたものを使用することになるが、前記の接着テープによってプレパラート用空間を確保する方法では、該テープを窓状に切除する際に薄膜電極を傷付ける懸念がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の状況に鑑み、顕微鏡プレパラート作成キットとして、検体試料を顕微鏡観察に適した保持状態に容易に設定可能とし、且つプレパラート用空間を一定厚みとして観察位置の移動に伴うフォーカスずれを防止し、もって従来のようなフォーカスの再調整のための煩雑な操作を排して観察能率を向上させ、また検体の計数や濃度測定等の自動化における測定の信頼性を高め、更に検体試料を安定状態で長時間保持し得るものを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る顕微鏡プレパラート作成キットKは、図面の参照符号を付して示せば、検体試料(検体液L)を載せる検出基板1と、該検出基板1上に配置して内側に検体試料を収容する平面視環形のシリコンゴムシート2と、このシリコンゴムシート2上に配置して検体試料を覆う透明性カバー板3と、を備えるものとしている。
【0009】
請求項2の発明は、上記請求項1の顕微鏡プレパラート作成キットKにおいて、シリコンゴムシート2の厚みが50〜200μmである構成としている。
【0010】
請求項3の発明は、上記請求項1又は2の顕微鏡プレパラート作成キットKにおいて、シリコンゴムシート2の周方向複数カ所に断裂部2b,2bを有してなる構成としている。
【0011】
請求項4の発明は、上記請求項1〜3のいずれかの顕微鏡プレパラート作成キットKにおいて、未使用状態でのシリコンゴムシート2が硬質プラスチックの台紙21と軟質プラスチックの保護フィルム22との間に挟持される構成としている。
【0012】
請求項5の発明は、上記請求項1〜4のいずれかの顕微鏡プレパラート作成キットKにおいて、検出基板1は、絶縁性材料からなる板体10の試料載置側の表面10aに一対の薄膜電極4A,4Bが形成され、該板体10の試料載置部に両薄膜電極4A,4Bを小間隔で隔てる電極間隙5が配置する構成としている。
【0013】
請求項6の発明は、上記請求項5の顕微鏡プレパラート作成キットKにおいて、電極間隙5が、両薄膜電極4A,4Bの相互に噛み合うように配置した櫛歯状パターン部41,41間に構成されるものとしている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明に係る顕微鏡プレパラート作成キットでは、顕微鏡観察に際し、検出基板上に環形のシリコンゴムシートを配置し、このシリコンゴムシートの内側の凹所に検体試料を収容し、その上に透明性カバー板を被せて封入型のプレパラートを作成するが、検出基板と透明性カバー板との間に介在するシリコンゴムシートにより、プレパラート用空間が全体的に均等な一定厚みになることから、フォーカス操作が容易になり、観察位置を移動してもフォーカスずれを生じず、従来のようなフォーカスの再調整のための煩雑な操作が不要になって観察能率が著しく向上すると共に、検体の計数や濃度測定等の自動化における測定の信頼性が増す。そして、このキットによれば、検体試料の調製からプレパラートの作成までを迅速に行えるから、検体試料が新鮮さを喪失しない内に顕微鏡観察に供することができ、特に生菌のように短時間で増減したり性状変化するような検体が測定対象であっても、経時的変化の少ない段階で観察できる。更に、シリコンゴムシートがシリコンゴム特有の粘弾性によって両側の検出基板及び透明性カバー板の表面に密着するから、作成したプレパラートからの液漏れや液成分の蒸発が防止され、これによってプレパラートを安定状態で長時間保持することが可能となり、顕微鏡観察の時間的余裕が得られ、またプレパラートにて細菌を培養して生育状況を観察することもできる。
【0015】
請求項2の発明によれば、前記シリコンゴムシートが特定範囲の厚みを有するから、高倍率での観測でもフォーカスを適正位置に支障なく設定できる。
【0016】
請求項3の発明によれば、シリコンゴムシートが周方向複数カ所に断裂部を有するから、これら断裂部を出入り口としてプレパラート用空間に液体を流通させることができ、この流通機能を利用して微生物検体における培地液の更新、電気的作用を伴う検体微粒子の濃集、薬液の注入等を行うことが可能となる。
【0017】
請求項4の発明によれば、未使用状態でのシリコンゴムシートが硬質プラスチックの台紙と軟質プラスチックの保護フィルムとの間に挟持されていることから、プレパラートの作成に際し、保護フィルムを剥がしてシリコンゴムシートの片面を露呈させ、この片面を検出基板の表面にシリコンゴムの粘弾性によって貼着し、次いで台紙を剥離することにより、極めて簡単に該シリコンゴムシートを検出基板に貼着させることができる。
【0018】
請求項5の発明によれば、検出基板が絶縁性板体の試料載置側の表面に一対の薄膜電極を備え、該板体の試料載置部に両薄膜電極を隔てる電極間隙を有するから、検体が細菌の如き微生物を始めとする微粒子物質である場合に、両電極間への交流電界の印加による誘電泳動や直流電界の印加による電気泳動により、該微粒子物質を電極間隙に誘引して固定化でき、その観察や計数を行い易くなる。
【0019】
請求項6の発明によれば、前記電極間隙が両薄膜電極の相互に噛み合う櫛歯状パターン部間に構成されており、特に薄膜電極間に交流電界を印加して誘電泳動によって微粒子を電極間隙に集める場合に、誘電泳動力が電極間隙の幅方向中間から両側の櫛歯電極部の幅方向中央位置まで及ぶことになるから、検出領域を両電極の櫛歯状パターンの噛み合い部分に設定し、顕微鏡の拡大視野を電極間隙に沿って走査する形で順次に計数してゆく方式により、検出領域全体の微粒子を漏れなく合算計数できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る顕微鏡プレパラート作成キットの実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。図1は該キットの基本構成、図2はキット構成部材であるシリコンゴムシートの使用前形態、図3は該キットによるプレパラート作成状態、図4は該キットを利用した微粒子検出装置、図5は該検出装置の光学顕微鏡による拡大視野のディスプレイ画面映像、図6は該キットの検出基板の電極パターンの一部、図7は断裂部を有するシリコンゴムシートを用いたプレパラート作成状態、をそれぞれ示す。
【0021】
図1に示すように、この顕微鏡プレパラート作成キットKは、表面10aに一対の薄膜電極4A,4Bを設けた矩形の検出基板1と、外形が略正方形で中央に円形の開口部2aを有して平面視環形のシリコンゴムシート2と、該シート2よりも大きい略正方形の透明性カバー板3とで構成されている。そして、図2に示すように、未使用状態でのシリコンゴムシート2は、硬質プラスチックの台紙21と軟質プラスチックの保護フィルム22との間に挟まれたサンドイッチ形態20になり、その両面がシリコンゴム特有の粘弾性によって該台紙21及びフィルム22にそれぞれ張り付いている。
【0022】
検出基板1の薄膜電極4A,4Bは、絶縁性板体10の片側表面10aに真空蒸着、スパッタリング、メッキ、スクリーン印刷等によってクロム等の金属薄膜を形成し、これをフォトリソグラフィー等の微細加工技術によってパターン化したものであり、図3(A)でも示すように、相互に噛み合うように配置した櫛歯状パターン部40を有している。そして、検出基板1の該表面10aには、両櫛歯状パターン部40,40間に一定長さで折り返して蛇行状に連続する電極間隙5が構成され、この電極間隙5が薄膜電極の厚み分だけ深くなって溝状をなすと共に、前後両側位置で電極間隙5に連通した広い矩形の無電極領域51,51を有している。
【0023】
しかして、絶縁性板体10は、一般的な顕微鏡用のスライドガラスに対応するが、ガラス製のもの以外に、硬質合成樹脂やセラミックからなるものも使用可能である。また、透明性カバー板3は、一般的な顕微鏡用のカバーガラス(18mm角、厚さ0.17mm)に対応しており、やはりガラス製以外にアクリル系樹脂等の透明性硬質合成樹脂からなるものも使用可能であるが、剛性及び屈折率の点からカバーガラスが最適である。
【0024】
プレパラートの作成においては、まず図2のサンドイッチ形態20から図示仮想線の如く保護フィルム22を剥がし、シリコンゴムシート2の露呈した片側表面を、検出基板1の上向きにした薄膜電極4A,4B側の表面10aの中央位置に貼り付け、次いで台紙21を剥離する。そして、この検出基板1に貼着したシリコンゴムシート2の開口部2aより構成される円形の凹所に、適量の検体液Lをマイクロピペッター等によって滴下し、その上に図3(A)の如く透明性カバー板3を被せ、検体液Lの余剰分を外側へ溢れ出させると共に、該カバー板3をシリコンゴムシート2に貼着させればよい。これにより、図3(B)に示すように、検出基板1及び透明性カバー板3とシリコンゴムシート2の間で構成されるプレパラート用空間6内に検体液Lが封入され、顕微鏡観察用のプレパラートが出来上がる。
【0025】
この顕微鏡プレパラート作成キットKによれば、検出基板1と透明性カバー板3との間に介在するシリコンゴムシート2によってプレパラート用空間6の厚み及び容積が定まるから、プレパラートとして封入される検体液Lの厚さ及び量を一定に設定でき、しかもレパラート上の位置による厚さの違いも生じない。従って、顕微鏡観察におけるフォーカス操作が容易になる上、観察位置を移動してもフォーカスずれがないから、従来のようなフォーカスの再調整のための煩雑な操作が不要になり、もって観察能率が著しく向上すると共に、後述する誘電泳動を利用した検体微粒子の計数や濃度測定等の自動化における測定の信頼性が増す。また、検体試料の調製からプレパラートの作成までを迅速に行えるから、検体試料が新鮮さを喪失しない内に顕微鏡観察に供することができ、特に生きた細菌のように短時間で増減したり性状変化するような検体を測定対象とする場合に、時間経過に伴う変化が少ない段階で観察できるので好都合となる。
【0026】
そして、シリコンゴムシート2は、シリコンゴム特有の粘弾性によって両側の検出基板1及び透明性カバー板3に対して高い密着性を発揮する上、シートとして広面積で検出基板1及び透明性カバー板3に貼着するから、プレパラートの封止性が高く、検体液Lの漏れや蒸発が防止される。従って、プレパラートを安定状態で長時間保持でき、顕微鏡観察における時間的余裕が得られる一方、該プレパラートにて細菌等を培養して生育状況を観察することも可能となる。また、プレパラート作成後の透明性カバー板3と検出基板1との間を、図3(B)の仮想線で示すように、全周にわたってマネキュア等のシーリング剤7で封着すれば、検体サンプルとして長期保存可能なプレパラートとなる。
【0027】
ここで、シリコンゴムシート2の厚みは、 〜 μm程度が好ましく、薄過ぎては観察対象とする検体試料の種類の制約が大きく、逆に厚過ぎてはプレパラートのフォーカスすべき底面位置が深くなって高倍率での観察に困難をきたす。なお、このようなシリコンゴムシート2は、元来よりシートとして一定厚さのものを容易に入手できるが、近年ではμm単位での薄膜フィルム加工技術が確立されているので、極めて厚み精度の高いものも使用可能である。
【0028】
一方、この顕微鏡プレパラート作成キットKでは、検出基板1に薄膜電極4A,4Bを設けていることから、細菌等の微生物を始めとする微粒子物質を分散含有する検体液Lを対象として、両電極4A,4B間への交流電界の印加による誘電泳動や直流電界の印加による電気泳動により、該微粒子物質を電極間隙に誘引して固定化し、その観察や計数を行い易くできると共に、例えば図4で示す微粒子検出装置等を利用した顕微鏡の拡大視野の映像表示や計数及び濃度測定の自動化が容易になる。
【0029】
図4で示す微粒子検出装置は、装置本体11内に、対物レンズ8a側を下向きにして垂直に配置した光学顕微鏡8と、該顕微鏡8の頂端に連結されたCCD(Chargre Coupled Device)カメラ9と、該顕微鏡8の下方に配置して前後左右及び上下方向に移動可能なXYZステージ12と、このXYZステージ12の動作を司る走査用コントローラ13とを備えており、XYZステージ12上にプレパラート作成後の前記キットKを載せ、プレパラートの所要部位を顕微鏡8で捉え,その拡大視野をCCDカメラ9にて撮影して電気信号に変換するようになっている。また、図中の14はパーソナルコンピュータであり、キーボード15及びマウス16の操作により、CCDカメラ9からの電気信号によって顕微鏡8の拡大視野を直接に映像として、更には該電気信号を画像処理ボード17にて種々加工した画像として、それぞれディスプレイ18に表示させたり、誘電泳動制御ユニット19による検出基板1の電極への交流電界の印加条件を指示したり、走査用コントローラ13の設定を行うようになされている。
【0030】
このような微粒子検出装置を用い、プレパラート中の微粒子を検出するには、誘電泳動制御ユニット19を介して検出基板1の両薄膜電極4A,4B間に、検出対象の微粒子に正の誘電泳動力を作用させる交流電界を印加すると共に、ディスプレイ18の画面でモニターしつつ、検体液Lの層を通して電極間隙5付近に集合した微粒子に顕微鏡8の焦点を合わせる。
【0031】
すなわち、上記交流電界の印加により、図5(A)の如く検体液L中に分散していた各微粒子Pと媒体液との相対的な電位のずれにより、当該微粒子Pに正の誘電泳動力が作用するため、これら微粒子P…は電界の強い側へ引き寄せられるように移動し、最終的に同図(B)の如く最も電界が強い部位となる電極間隙5に臨む電極縁部41a,41aに沿って平面的に整列集合し、且つ一端側を電極縁部41aに付着した形でブラウン運動のない固定状態になる。従って、微粒子Pが生きた細菌のように本来は高速で動き回るような微生物でも、また検体液L中の微粒子濃度が低い場合でも、顕微鏡8の拡大視野に確実に捉えてディスプレイ18の画面に表示でき、その映像から微粒子P…を容易に観察及び計数することができる。
【0032】
なお、図3(A)において、検出基板1の中央部分に仮想線で記した正方形は、微粒子検出装置による検出領域Z1を示している。この検出領域Z1の対角線方向の両端外側部において、電極間隙5の各溝3本に設けた拡幅部5aは、検出操作に際して光学顕微鏡の拡大視野に捉えることにより、検出始端及び検出終端の位置を確認できるようにしたものである。また、図5(A)(B)で示す矩形の表示域は、顕微鏡8による一回の拡大視野として捉えられる検出単位面Z2に相当し、図6(A)とその一点鎖線円C内を拡大した図6(B)とに示すように、電極間隙5とその両側の薄膜電極4A,4Bの一部とを含む幅で、検出領域Z1内における電極間隙5の各直線部の全長を数十分割する大きさに設定されている。そして、各検出単位面Z2に対応して誘電泳動力の及ぶ範囲は、図6(B)で幅Eとして示すように、電極間隙5の幅方向中央位置から両側の櫛歯電極部41,41の幅方向中央位置まで、つまり同図の仮想線で示す矩形の作用領域Z3になる。
【0033】
ここで、幅Eは櫛歯電極部41の幅W1と電極間隙5の幅W2の合計に等しい(E=W1+W2)から、各検出単位面Z2において作用領域Z3内に存在していた全ての微粒子P…が誘電泳動によって電極間隙5内へ移動して固定化されることになる。従って、検出領域Z1内の微粒子Pの総数は全部の検出単位面Z2…で計数された微粒子数の総和となり、この微粒子数と既知である当該検出領域Z1の容積から検体液Lの微粒子濃度を算出できる。
【0034】
薄膜電極4A,4Bとしては、微粒子Pの観察及び計数を的確に行う上で、電極厚さを0.1〜1μm程度、櫛歯状パターン部40の各櫛歯電極部41の幅W1を10〜500μm程度、検出始端及び終端の拡幅部5aを除く電極間隙5の幅W2を1〜100μm程度に設定することが推奨される。なお、このように薄膜電極4A,4Bの膜厚が非常に薄く、プレパラート用空間6における電極間隙5と無電極領域51,51による凹部の容積は該空間6の全容積に対して格段に小さいため、通常の微粒子濃度の算定では該凹部の容積を無視して差し支えないが、該凹部の容積も既知であるから、これを含めて微粒子濃度を算定してもよい。
【0035】
更に、この検出装置では、検体液L中の微粒子Pを光学顕微鏡7の拡大視野に捉えたサイズや形態等から特定できる場合、画像処理ボード14で識別条件のパラメーターを設定しておけば、画像処理によって検出される該微粒子Pの計数とその合算を自動的に迅速に行うことができる。また、検体液L中に複数種の微粒子Pが存在していても、互いの識別条件が重複しなければ、これら微粒子Pの種類ごとに自動計数することも可能となる。なお、識別条件のパラメーターとしては、径や長さ、長さと幅の比率、電極縁部41aに対する付着の有無等がある。
【0036】
一方、本発明の顕微鏡プレパラート作成キットKでは、例えば図1の仮想線で示すシリコンゴムシート2’のように周方向複数カ所に断裂部2b,2bを設けたものを用いることにより、これら断裂部2b,2bを出入り口としてプレパラート用空間6に液体を流通させることができる。
【0037】
図7(A)は上記シリコンゴムシート2’を用いたプレパラート作成状態を示す。この場合、シリコンゴムシート2’は、その環形の同一径方向に沿う2カ所に断裂部2b,2bを有しており、両断裂部2b,2bが検出基板1上面の前後に対向配置した無電極部51,51の各中央に位置するように配置している。これにより、プレパラート用空間6が両断裂部2b,2bの細い隙間を介して外部に通じた状態になるから、例えば図7(B)に示すように、検出基板1上の一方の断裂部2bに臨む外側位置に液溜まりL0を造ると共に、他方の断裂部2bに臨む外側位置に液吸収材23を配置すれば、液吸収材23の毛管現象による液吸収に伴い、その液流出分を補う形で液溜まりL0からプレパラート用空間6内へ液が流入する。
【0038】
従って、例えばプレパラートを微生物の生育状況を顕微鏡観察するための培地とする場合に、上記の液体流通機能を利用して培地液を更新することができる。また、同様の液体流通機能を利用して、プレパラートに種々の薬液を注入して作用を調べることも可能である。更に、検体液Lが低濃度の微粒子分散液である場合に、既述の薄膜電極4A,4B間に交流電界を印加して誘電泳動を行いながら該検体液Lを流通させれば、該検体液L中の微粒子Pが電極間隙5内に補集され、残った液媒体のみが流出するから、プレパラート用空間6内に微粒子を濃集させることができ、もって顕微鏡観察が容易になると共に、微粒子を含む検体液Lがプレパラートの液量程度では微粒子の有無の判定が困難なほど低濃度であっても、通過量を多くすることによって検出が可能になる。
【0039】
なお、断裂部2b,2bを有するシリコンゴムシート2’は、予め環形を半割した形態でも製作できるが、図2で示すサンドイッチ形態20にした環形のシリコンゴムシート2を、鋏やカッターで台紙21及び保護フィルム22ごと外縁から開口部2aまでの切り込みを入れれば、台紙21及び保護フィルム22を分断することなく内側のシリコンゴムシート2のみを半割できるから、このサンドイッチ形態20から既述同様にして検出基板1上に簡単に貼着することが可能となる。また、断裂部2bは例示した2カ所に限らず、3カ所以上に設定してもよい。
【0040】
液吸収材23としては、繊維質で毛管現象による液吸収能を発揮できるものであれば特に制約はなく、例えば濾紙、吸取紙、脱脂綿等を利用できる。また、液溜まりL0の液は、マイクロピペッターや注射器等で滴下する以外に、超小型ポンプによってチューブを介して連続的又は間欠的に供給してもよい。
【0041】
本発明の顕微鏡プレパラート作成キットKは、検出基板1として薄膜電極のない単なる板体を用いた構成や、シリコンゴムシート2を予め検出基板1や透明性カバー板3に貼着一体化した構成も包含する。また、本発明においては、検出基板1に薄膜電極4A,4Bを設ける場合の電極パターン及び電極間隙5の形態、シリコンゴムシート2の開口部2aの形状、検出基板1及び透明性カバー板3の外形等、細部構成については実施形態以外に種々設計変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る顕微鏡プレパラート作成キットの基本構成を示す分解斜視図である。
【図2】同キットに用いるシリコンゴムシートの使用前形態を示す縦断面図である。
【図3】同キットによるプレパラート作成状態を示し、(A)は平面図、(B)は(A)のX−X線における厚み方向を強調した断面矢視図である。
【図4】同キットを利用する微粒子検出装置を示す模式図である。
【図5】同微粒子検出装置の光学顕微鏡による拡大視野のディスプレイ画面映像を示し、(A)は誘電泳動前の映像図、(B)は誘電泳動後の映像図である。
【図6】同キットに用いる検出基板における薄膜電極の櫛歯状パターン部を示し、(A)は要部の平面図、(B)は(A)の一点鎖線円C内の拡大図である。
【図7】断裂部を有するシリコンゴムシートを用いた同キットによるプレパラート作成状態を示し、(A)は平面図、(B)は(A)のY−Y線における厚み方向を強調した断面矢視図である。
【符号の説明】
【0043】
1 検出基板
10 絶縁性板体
10a 表面
2 シリコンゴムシート
2a 開口部
2b 断裂部
20 サンドイッチ形態
21 台紙
22 保護フィルム
3 透明性カバー板
4A,4B 薄膜電極
40 櫛歯状パターン部
41 櫛歯電極部(櫛歯1本)
41a 電極縁部
5 電極間隙
6 プレパラート用空間
8 光学顕微鏡
L 検体液
K 顕微鏡プレパラート作成キット
P 微粒子
Z1 検出領域
Z2 検出単位面
Z3 作用領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体試料を載せる検出基板と、該検出基板上に配置して内側に検体試料を収容する平面視環形のシリコンゴムシートと、このシリコンゴムシート上に配置して検体試料を覆う透明性カバー板と、を備えてなる顕微鏡プレパラート作成キット。
【請求項2】
前記シリコンゴムシートの厚みが50〜200μmである請求項1に記載の顕微鏡プレパラート作成キット。
【請求項3】
前記シリコンゴムシートの周方向複数カ所に断裂部を有してなる請求項1又は2に記載の顕微鏡プレパラート作成キット。
【請求項4】
未使用状態での前記シリコンゴムシートが硬質プラスチックの台紙と軟質プラスチックの保護フィルムとの間に挟持されてなる請求項1〜3の何れかに記載の顕微鏡プレパラート作成キット。
【請求項5】
前記検出基板は、絶縁性材料からなる板体の試料載置側の表面に一対の薄膜電極が形成され、該板体の試料載置部に両薄膜電極を小間隔で隔てる電極間隙が配置してなる請求項1〜4の何れかに記載の顕微鏡プレパラート作成キット。
【請求項6】
前記電極間隙が、両薄膜電極の相互に噛み合うように配置した櫛歯状パターン部間に構成されてなる請求項5に記載の顕微鏡プレパラート作成キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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