説明

顕微鏡法および顕微鏡

【課題】試料の所望の情報を、短時間で、しかも光源の強度を高くすることなく、極めて高いS/Nで顕微鏡観察できる顕微鏡法および顕微鏡を提供する。
【解決手段】波長の異なる第1電磁波と第2電磁波とを、少なくとも一部重ねて試料に照射する同時照射ステップと、該同時照射ステップにより、前記第1電磁波および前記第2電磁波が重ねて照射された前記試料の照射領域において、前記第1電磁波の照射により発生する屈折率変化の空間分布を、前記試料を透過した前記第2電磁波の位相差像として可視化する同時照射可視化ステップと、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二波長の電磁波を用いる顕微鏡法および顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学顕微鏡の技術は古く、様々なタイプの顕微鏡が開発されてきた。また、近年では、レーザ技術および電子画像技術をはじめとする周辺技術の進歩により、更に高機能の顕微鏡システムが開発されている。特に、ナノ・バイオサイエンスの現場においては、波長の異なる2波長の照明光を用いた顕微計測法が開発されている。この顕微計測法は、2波長のレーザ光を試料上に重ねて同時集光し、試料からの蛍光や散乱光等の光応答データを測定するもので、空間計測と同時に時間領域の光応答を解析する計測法として注目されている。
【0003】
その代表的な顕微計測法として、複数の光源を用いて複数の波長のパルスレーザ光を試料に照射し、その照射領域からの蛍光をはじめとする光応答信号を検出する顕微鏡法が知られている。その一例として、赤外光と可視光との2重共鳴を用いた赤外・可視2重共鳴顕微鏡法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
赤外・可視2重共鳴顕微鏡法では、図9(a)および(b)に示すように、基底状態S0にある蛍光性分子を赤外光の照射によって、基底状態に属する高振動励起状態S0′に励起する。さらに、励起された分子を可視光の照射によって、高い電子励起状態S1に励起する。これにより、S1状態に励起された分子は、蛍光を放って再び基底状態S0に緩和する。
【0005】
この赤外・可視2重共鳴顕微鏡法では、例えば、パルス化した赤外光および可視光を試料の同じ領域に集光させるようにして、その集光点と試料とを相対的に2次元走査し、各集光点における蛍光信号を計測して2次元の蛍光画像をコンピュータ上で形成する。この場合、赤外光が共鳴して分子のS0′状態を生成しない限り、蛍光は発せられないので、得られる蛍光画像は、赤外振動励起状態の分子の空間分布を示すことになる。
【0006】
この顕微鏡法の特徴は、従来の赤外の顕微分光法では、空間分解能が赤外光の回折限界である数ミクロンに留まるのに対して、可視光の分解能(数100nm)で赤外振動励起状態の分子の空間分布を観察できる点にある。
【0007】
その具体例として、試料中に含まれるローダミン6G分子のCH基の分布を検出する場合を説明する。ローダミン6G分子は、図10(a)に分子構造を示すように、側鎖にCH基を持っており、例えば、3200cm−1(波長:3.1μm、光子エネルギー:0.4eV)近傍にCH収縮振動による吸収バンドが存在している。また、基底状態S0から電子励起状態S1に遷移・吸収する際の波長は、532nm(光子エネルギー:2.33eV)となっている。
【0008】
このため、図10(b)にダイヤグラムを示すように、波長3.1μmの赤外光で、ローダミン6Gを基底状態に帰属するv=1の振動・回転準位S0′に励起する。また、S0′状態からS1状態までのエネルギー差は1.9eVであるので、これに相応する波長(約640nm)のレーザ光(可視光)で2重励起する。
【0009】
これにより、ローダミン6G分子は、最終的には電子励起状態S1に到達して、蛍光を放射して基底状態S0に緩和することになる。この蛍光過程は、試料上で可視光と赤外光とが空間的かつ時間的に重複しないと生じない。しかも、可視光および赤外光の波長も、分子の量子状態間のエネルギー差すなわち波長に相応する必要がある。すなわち、ローダミン6Gに対して可視光と赤外光とが2重共鳴吸収の条件を満たさなくてはならない。
【0010】
したがって、赤外光が存在しないときは、試料から蛍光は検出されず、赤外光と可視光とが存在するときに、CH収縮振動による赤外吸収が起きて蛍光が放射されるので、得られる蛍光画像は、CH基の振動励起状態の空間分布を可視化したものに相当することになる。
【0011】
一般に、分子は、CH基の他に、OH、SH、NHをはじめとする様々な化学基を有しており、それらの化学基は固有の共鳴周波数を有している。したがって、可視光および赤外光の波長を化学基ごとに同調させるようにすれば、化学基の空間分布に対応した蛍光像を得ることが可能となる。
【0012】
ここで、蛍光信号が得られる空間領域は、試料の赤外領域の光応答にもかかわらず、可視光と赤外光との重なり領域なので、得られる蛍光画像の空間分解能は可視の回折限界で決定されることになる。例えば、可視光の波長を500nmとし、使用する顕微鏡対物レンズの開口数を1.4とすると、200nm近くの空間分解能を得ることができる。
【0013】
さらに、空間分解能という点では、深さ分解能を持たすことも可能である。すなわち、蛍光信号は、可視光と赤外光とが十分な強度で同時に集光された焦点面近傍でのみ得られるので、焦点位置に対して試料を光軸方向に移動させることで、3次元断層像を得ることも可能である。
【0014】
また、可視光および赤外光の光源がパルス光源であれば、時間領域でも重なった時刻でのみ蛍光信号が得られるので、可視光と赤外光との発振タイミングをずらすことにより、振動励起状態の緩和過程に関する時間応答を追跡することも可能となる。
【特許文献1】特許第3020453号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、本発明者による実験検討によると、上述した従来の光応答信号の検出方法には、以下に説明するような改良すべき点があることが判明した。先ず、上述した検出方法は、基本的には、蛍光を検出するものであるため、観察対象となる分子は蛍光収率の高いものである必要がある。このため、生体試料では観察対象が自家蛍光性の分子に限られ、他の分子を観察する場合には、蛍光色素による染色などが必要となる。
【0016】
また、S1状態に励起した分子は、原理的に1分子当たり1光子しか蛍光を出すことができないため、検出信号量が、光照射の間の励起回数と蛍光収率とで決定されてしまう。しかも、励起サイクルの間に、分子が褪色してしまうため、信号量が限られてしまう。その結果、S/Nが著しく劣化したり、また、S/Nを向上させようとすると、計測に長時間を要したり、光源の強度を高くしなければならなかったり、する必要がある。
【0017】
したがって、かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、試料の所望の情報を、短時間で、しかも光源の強度を高くすることなく、極めて高いS/Nで顕微鏡観察できる顕微鏡法および顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成する請求項1に係る顕微鏡法の発明は、
波長の異なる第1電磁波と第2電磁波とを、少なくとも一部重ねて試料に照射する同時照射ステップと、
該同時照射ステップにより、前記第1電磁波および前記第2電磁波が重ねて照射された前記試料の照射領域において、前記第1電磁波の照射により発生する屈折率変化の空間分布を、前記試料を透過した前記第2電磁波の位相差像として可視化する同時照射可視化ステップと、
を含むことを特徴とするものである。
【0019】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の顕微鏡法において、
前記第1電磁波は、前記試料中の所定物質を、基底状態から該基底状態に帰属する振動・回転準位に励起する波長または光子エネルギーを有することを特徴とするものである。
【0020】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の顕微鏡法において、
前記第2電磁波は、少なくとも、前記試料中の所定物質を、基底状態から第1電子励起状態に励起するエネルギーと、基底状態に帰属する振動・回転準位に励起するエネルギーとの差よりも小さい光子エネルギーを有することを特徴とするものである。
【0021】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の顕微鏡法において、
前記試料上における前記第2電磁波の照射領域は、前記第1電磁波の照射領域よりも小さいことを特徴とするものである。
【0022】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の顕微鏡法において、
前記試料は、前記第1電磁波で振動励起可能な振動・回転準位をもつ分子で染色することを特徴とするものである。
【0023】
請求項6に係る発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の顕微鏡法において、
前記試料は、第1電子励起状態のエネルギーと基底状態に帰属する振動・回転準位に励起するエネルギーとの差が、前記第2電磁波の光子エネルギーよりも大きい分子で染色することを特徴とするものである。
【0024】
請求項7に係る発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の顕微鏡法において、
前記試料は、前記第1電磁波で振動励起可能な振動・回転準位を有し、かつ、第1電子励起状態のエネルギーと基底状態に帰属する振動・回転準位に励起するエネルギーとの差が、前記第2電磁波の光子エネルギーよりも大きい分子で染色することを特徴とするものである。
【0025】
請求項8に係る発明は、請求項2に記載の顕微鏡法において、
前記試料中の所定物質は、非蛍光性の分子であることを特徴とするものである。
【0026】
請求項9に係る発明は、請求項2〜8のいずれか一項に記載の顕微鏡法において、
前記試料は、C≡C,C=C,C=C=C,C=C=C=C,CH,CO,C-C,C≡N,C-C-CN,C-C≡C,N=C=O,N=C=N,C=N,NNN,N=N,C-N,ONO,N=O,O-O,SH,CS,S-S,SO,S=O,C-S-C,OH,NH,CO,CH-C,CH-(C=O),-CH-,-CH-(C=O),-CH-(C=N),>C=CH,>C=CH-,-C=C-H,-C≡C-,-CO-OH,P=O,Si-CH,CF,CCl,CCl,P=S,Si-C,CH-S-CH,C-O-P,R-O-SO-O-R,R-O-SO-R,H-CO-O-R,-CH-CO-C-R,=CH-CO-O-R,C-CO-O-R,CH-CHO,C-CHO,CH-CO-CH,C-CO-C,C-CO-CO-C,-CO-NH,-CO-NH-R,-CO-NR,CH-NH,>CH-NH,C-NH,CH-NH-CH,CH-NH-CH,(CH)N,C-N-R,>C=NH,>C=N-C,-C≡N,PH,SiH,O=C(O-R),HN=C(O-R),R-O-NO,R-NO,R-O-NO,CH-O-CH,C-O-CH,CH-OH,CH-OH,C-CH,C-OH・R-SO-R,R-SO-R,R-SO-NH、のいずれかの化学基を含む分子を有することを特徴とするものである。
【0027】
請求項10に係る発明は、請求項8または9に記載の顕微鏡法において、
前記分子は、孤立電子励起を有することを特徴とするものである。
【0028】
請求項11に係る発明は、請求項1に記載の顕微鏡法において、
前記第1電磁波の波長は、前記試料中の所定物質を、基底状態から第1電子励起状態に励起遷移する際の共鳴吸収バンド内に存在することを特徴とするものである。
【0029】
請求項12に係る発明は、請求項11に記載の顕微鏡法において、
前記第2電磁波は、前記試料中の所定物質を、第1電子励起状態から該第1電子励起状態よりも高エネルギー準位の励起状態に遷移する際に要する励起エネルギーよりも小さい光子エネルギーを有することを特徴とするものである。
【0030】
請求項13に係る発明は、請求項12に記載の顕微鏡法において、
前記第2電磁波は、蛍光波長帯域とは異なる波長帯域に属することを特徴とするものである。
【0031】
請求項14に係る発明は、請求項13に記載の顕微鏡法において、
前記第1電磁波の波長は、前記試料中の所定物質を、基底状態から第1電子励起状態に励起遷移する際の共鳴吸収バンド内に存在し、かつ、前記試料は、第1電子励起状態から該第1電子励起状態よりも高エネルギー準位の励起状態に遷移する際に要する励起エネルギーが、前記第2電磁波の光子エネルギーよりも大きい分子で染色することを特徴とするものである。
【0032】
請求項15に係る発明は、請求項1〜14のいずれか一項に記載の顕微鏡法において、
さらに、前記第2電磁波を前記試料に単独照射する単独照射ステップと、
該単独照射ステップにより、前記第2電磁波が照射された前記試料の照射領域において発生する屈折率変化の空間分布を、前記試料を透過した前記第2電磁波の位相差像として可視化する単独照射可視化ステップと、
前記同時照射可視化ステップで可視化した位相差像と、前記単独照射可視化ステップで可視化した位相差像との差分画像を生成する差分画像生成ステップと、
を含むことを特徴とするものである。
【0033】
さらに、上記目的を達成する請求項16に係る顕微鏡の発明は、
第1電磁波を発生する第1放射源と、
前記第1電磁波とは波長の異なる第2電磁波を発生する第2放射源と、
前記第1放射源から発生された前記第1電磁波および前記第2放射源から発生される前記第2電磁波を、少なくとも一部重ね合わせて試料に照射する照明光学系と、
前記第1電磁波および前記第2電磁波が重ねて照射される領域において、前記第1電磁波の照射により発生する屈折率変化の空間分布を、前記試料を透過する前記第2電磁波の位相差像として可視化する検出手段と、
を有することを特徴とするものである。
【0034】
請求項17に係る発明は、請求項16に記載の顕微鏡において、
前記第1放射源および/または前記第2放射源は、波長可変のレーザ光源を有することを特徴とするものである。
【0035】
請求項18に係る発明は、請求項16または17に記載の鏡顕微において、
前記第1放射源および/または前記第2放射源は、パルス光源であることを特徴とするものである。
【0036】
請求項19に係る発明は、請求項16または17に記載の顕微鏡において、
前記第1放射源および前記第2放射源は、それぞれ、前記第1電磁波および前記第2電磁波の放射期間を相対的に調整可能なパルス光源からなることを特徴とするものである。
【0037】
請求項20に係る発明は、請求項16〜19のいずれか一項に記載の顕微鏡において、
前記検出手段は、前記試料を透過する前記第1電磁波の除去手段を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、第1電磁波および第2電磁波が重ねて照射された試料の照射領域において、第1電磁波の照射により発生する屈折率変化の空間分布を、試料を透過した第2電磁波の位相差像として可視化するので、試料の所望の情報を、短時間で、しかも光源の強度を高くすることなく、極めて高いS/Nで顕微鏡観察できる。したがって、生体試料においては、無染色で細胞の生命活動をトレースすることが可能になるとともに、染色する場合でも、第1電磁波および第2電磁波に対する量子準位が存在れば良いので、一部分子に限られることなく多くの種類の機能性マーカを用いることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
(本発明の概要)
先ず、本発明の実施の形態の説明に先立って、本発明の概要を、赤外・可視2重共鳴顕微鏡法を例にとって説明する。
【0040】
本発明の一例では、赤外・可視2重共鳴顕微鏡法に、位相差検出法を導入する。位相差検出法の優れている点は、検出感度の高さにある。この点に着目して、本発明の一例では、赤外・可視2重共鳴における光応答過程に伴う位相差の変化を画像化する。
【0041】
図1は、分子における吸収端近傍の屈折率分布を示している。図1において、横軸は、光の周波数(ω)を示しており、ωが大きいほど波長が短くなる。ωは、共鳴吸収バンドの最大値の周波数を示している。また、nは屈折率の実数部を示し、kは虚数部(いわゆる、吸収係数)を示している。ここで、n−1は、真空の屈折率に対する変異量を示し、この変異量が大きいほど、媒質中での位相遅れが大きくなる。
【0042】
通常の位相差顕微鏡法では、kが小さい透明領域おけるn−1を光振幅に変換して、画像化を行っている。
【0043】
図2は、位相差顕微鏡法の原理を説明するための図である。図2において、位相物体である観察試料1に、平面波の照明光2を入射させると、観察試料1により平面波が散乱されて、観察試料1を起点として、n−1に比例した振幅をもつ球面波が発生する。
【0044】
発生した球面波は、対物レンズ3により、2次元の検出器4上に結像する。同時に、散乱されない残余の平面波は、一度、対物レンズ3により距離fの像側焦点位置に集光し、再び、拡散しながら検出器4に到達する。対物レンズ3の像側焦点位置には、微小ピンホールを有するλ/4板5が設置されているとともに、微小ピンホールとほぼ同じサイズの減衰フィルタ6が設置されている。
【0045】
位相差顕微鏡法は、基本的には、散乱された球面波と非散乱光(照明光)とを干渉させて、位相を振幅強度の明暗に変換する。散乱理論によれば(例えば、砂川重信、「理論電磁気学」紀伊国屋書店、1973、p235)、散乱光は、照明光に対してλ/4だけ位相遅れをもち、散乱による屈折率差による位相遅れ(δ)に比例した振幅をもつ。
【0046】
この散乱された球面波と非散乱光との位相遅れλ/4を補償して、干渉させるために、散乱光の位相をλ/4板5で整合を取る。また、非散乱光の強度を減衰フィルタ6により、散乱光の振幅強度程度まで減衰させる。このようにして、散乱された球面波と非散乱光とを結像面(検出器4上)で重ね合わすことで、位相差顕微鏡像が得られる。
【0047】
通常の位相差顕微鏡法では、試料に対して透明領域の波長の光を発する1つ光源を用いている。これは、基底状態の試料を照明することに対応するが、試料の屈折率分布は、図1に示したように、分子固有の電子状態や、各状態に帰属する振動・回転準位による吸収バンドによって形成される。
【0048】
この照明光の波長は、一般に、S1電子状態までは励起しない大きさの光子エネルギーに設定される。すなわち、図3(a)において、S0状態とS1状態との間のエネルギー差(E)よりも小さい光子エネルギー(E)の波長に設定される。言い換えると、図3(b)に示すように、吸収バンドの長波長側の透明領域を用い、この領域で発生する屈折率の変化を用いて位相差画像を得ている。
【0049】
一方、赤外・可視2重共鳴過程を用いると、赤外光および可視光の照射条件を調整することにより、興味深い分散現象を誘導することができる。その様子を、図4(a)および(b)に示す。図4(a)は、光子エネルギーEpumpの赤外光で、S0状態に帰属する振動・回転準位S0′に分子を励起し、同時に、光子エネルギーEprobeの可視光を該分子に照射した状態を示している。ここで、Eprobeは、分子をS0′状態からS1状態へ遷移させるエネルギーよりも小さい。すなわち、Eprobe<(E−Epump)を満たしている。
【0050】
赤外光を分子に照射しない場合は、図3に示したように、S0状態からS1状態に遷移する光子エネルギーはEであるので、この近傍の領域で吸収が起こり、分散現象が観測される。すなわち、対応する周波数領域ω、波長λで観測される(通常分散)。
【0051】
ところが、赤外光を照射すると、図4(b)に示すように、E−Epumpの光子エネルギー(対応する周波数領域ωdouble、波長λdouble)の2重共鳴による吸収帯が現れる。したがって、赤外光照射時には、E−Epump 近傍の領域で分散現象が観測される(2重共鳴分散)。
【0052】
本発明では、ポンプ光として赤外線を試料に照射し、同時に、E−Epumpの光子エネルギーを有するプローブ光を照射して、プローブ光の位相差像を観測する。ここで、プローブ光の光子エネルギーは、2重共鳴による吸収帯よりも低エネルギー、すなわち長波長側に位置し、この光子エネルギーでは、通常分散から離れ、かつ、2重共鳴による吸収はないので、試料に対して透明となる。しかし、プローブ光は、2重共鳴分散による位相遅れが生じるので、ポンプ光照射による位相物体すなわち振動励起した分子の出現により、プローブ光は散乱される。
【0053】
言い換えると、プローブ光で得られる位相差像は、振動励起した分子の空間分布を画像化したものに他ならない。これは、従来の赤外・可視2重共鳴顕微鏡と同等の情報を与える。しかも、本発明が優れているのは、位相差顕微鏡法であるので、得られた画像は高いS/Nの画質を有する。
【0054】
特に、本発明では、屈折率の変化を捉えるので、感度の点で更に優れている。本発明の一例では、先ず、ポンプ光を照射しない条件で、プローブ光の位相差画像を計測し(背景画像)、次に、ポンプ光を照射して、プローブ光の位相差画像を計測する(位相差赤外・可視2重共鳴顕微鏡画像)。この場合、ポンプ光を照射しない条件で測定した画像がバックグラウンド信号となる。したがって、位相差赤外・可視2重共鳴顕微鏡画像と背景画像との差分をとれば、振動励起した分子の空間分布のみの強度成分を取り出すことができる。
【0055】
さらに、本発明で観察する分子は、必ずしも蛍光性分子である必要はなく、光源で励起可能な振動・回転準位と、幾つかの高位の電子状態とが存在する分子であればよい。したがって、従来のような褪色の問題もない、特に、赤外光の波長をチューニングし、様々な化学基に対応する振動・回転準位に同調させれば、化学基毎の空間分布像を得ることができる。
【0056】
このように、本発明によれば、基本的には試料を無染色で観察することができる。しかし、無染色に限らず、マーカを導入することも効果的である。例えば、生体試料では、興味ある病理部位など選択して観察する場合、該部位と選択的に結合するプローブ分子を導入している。この際、プローブ分子は、ポンプ光およびプローブ光に対応した振動励起準位や電子励起状態に相応した光子エネルギー(波長)を有していれば良い。
【0057】
また、マーカも、現在多く用いられている蛍光性のマーカである必要はないので、マーカとして用いる分子の選択の幅も広がる。例えば、細胞間の情報伝達物質にマーカを結合させれば、in-vivo生体内の代謝の様子を、位相差像として感度良く可視化することができる。
【0058】
なお、蛍光性のマーカを選択する場合には、蛍光がプローブ光のバックグラウンド信号となるため、プローブ光の波長は、マーカ分子の蛍光波長帯域に存在していないことが望ましい。この意味でも、本発明は、むしろ無蛍光性の分子について位相差像を得る方が有利となる。
【0059】
無蛍光性の分子としては、孤立電子対(いわゆる、n軌道)をはじめとする、電子密度の高い分子側鎖をもつ分子が挙げられる。このような分子を選択することにより、バックグラウンド信号となる蛍光信号自体を減らすことができる。
【0060】
本発明によれば、赤外・可視2重共鳴顕微鏡と同様に、赤外光単独では数μmに留まっていた分解能を、可視光の分解能(数100nm)まで向上させることができる。もちろん、3次元断層像を得ることも可能である。
【0061】
なお、本発明は、赤外光および可視光の組み合わせに限られるものではない。本発明は、基本的には、第1電磁波で分子を特定の量子状態に励起し、その励起した分子に固有の量子状態によって誘導される分散により位相差を検出するものである。言い換えれば、第1電磁波で励起された分子の空間分布像を、第2電磁波の位相差像に変換するものである。したがって、第1電磁波で分子を高い電子状態に励起し、更に別の第2電磁波を照射して、より高位の電子状態による分散を利用して位相差を計測することも可能である。
【0062】
ここで、本発明で使用可能な電磁波には、広い意味では、マイクロ波、テラヘルツ波、赤外光、可視光、紫外光、極端紫外光、X線、ガンマ線が含まれるが、各波長帯域の電磁波が量子的状態遷移による吸収帯を持つならば、この中から任意の2波長の電磁波を組み合わせて用いることができる。また、試料に関しても、対応する波長で量子的な励起状態を生成できるのであれば、検出対象は分子に限らず、原子、原子核、結晶であっても良いし、量子ドットのような人工的な量子構造体であっても良い。
【0063】
図5は、本発明のベースとなる典型的な位相差顕微鏡を説明するための図である。この位相差顕微鏡では、図示しない光源からの照明光を、絞り11を通して球面波とした後、照明レンズ12で平行光として試料13に照射し、この試料13を透過した照明光(参照光)に対して位相差をもった回折光を、対物レンズ14により結像面15に結像する。対物レンズ14の像側焦点位置には、微小面積のλ/4板16を設置する。このλ/4板16は、同時に、減衰フィルタとしての役目を果たし、参照光を回折光と同等の振幅強度に減衰させる。
【0064】
このようにして、参照光と回折光とを結像面15で干渉させて、位相差像を形成する。なお、対物レンズ14の像側焦点位置では、回折光の広がりが、λ/4板16と比較して大きいので、結像面15における影響は無視できる。
【0065】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
【0066】
(第1実施の形態)
図6は、本発明の第1実施の形態に係る顕微鏡の概略構成を示す図である。この顕微鏡は、位相差赤外・可視2重共鳴顕微鏡で、第1放射源であるポンプ光用光源21として、赤外領域で波長可変のCW赤外オプトパラメトリックレーザを用い、第2放射源であるプローブ光用光源22として、可視領域で波長可変の連続発振型の色素レーザを用いる。ポンプ光用光源21を構成するCW赤外オプトパラメトリックレーザは、波長変換結晶の角度を調整することで、波長3μm帯で波長を可変できる。また、プローブ光用光源22を構成する色素レーザは、レーザ媒質である色素を選択することで、ほぼ全可視領域をカバーできる。
【0067】
本実施の形態では、ポンプ光用光源21の発振波長(ポンプ光)を、分子を基底状態S0から振動励起準位S0′に遷移させる光子エネルギーをもつ波長に同調させる。また、プローブ光用光源22の発振波長(プローブ光)は、分子をS0′状態からS1状態へ遷移させるエネルギーよりも小さい光子エネルギーをもつ波長に同調させる。例えば、観察対象の分子がローダミン6Gの場合には、ポンプ光波長を3.1μmに設定し、プローブ光の波長は640nmに設定する。この場合の色素レーザ22における色素は、例えば、ローダミンBが適当である。
【0068】
ポンプ光用光源21から出射される第1電磁波であるポンプ光は、電気光学変調素子(EOM)23で必要に応じてパルス化した後、偏向ミラー24および25で光軸調整して、ダイクロイックプリズム26に入射させる。同様に、プローブ用光源22から出射される第2電磁波であるプローブ光は、EOM27で必要に応じてパルス化した後、偏向ミラー28および29で光軸調整して、ダイクロイックプリズム26に入射させる。これにより、ダイクロイックプリズム26において、ポンプ光とプローブ光とを同軸にアライメントして出射させる。なお、EOM23はポンプ光に対するシャッタとしての機能も果たしており、同様に、EOM27はプローブ光に対するシャッタとしての機能も果たしている。
【0069】
ダイクロイックプリズム26から出射される光は、ピンホール照明レンズ31によりピンホール32を通過させることにより球面波に変換し、さらに、試料照明レンズ33により平面波に変換して、試料35を照明する。したがって、本実施の形態では、ダイクロイックプリズム26、ピンホール照明レンズ31、ピンホール32、および試料照明レンズ33を含んで照明光学系を構成している。
【0070】
ポンプ光およびプローブ光の照射により、試料35の空間的屈折率変化によって発生する回折光は、回折を受けないプローブ光とともに、対物レンズ36により撮像素子であるCCDカメラ37上に結像させる。
【0071】
なお、試料35と対物レンズ36との間には、ポンプ光をカットするバンドパスフィルタ38を配置して、プローブ光のみがCCDカメラ37に到達するようにする。また、対物レンズ36の像側焦点位置には、回折を受けないプローブ光(参照光)を位相シフトするとともに、プローブ光の振幅強度を回折光と同等に減衰させるλ/4板39を配置する。このようにして、参照光と回折光とをCCDカメラ37上で重ね合わせて、試料35の位相差像を形成する。この、CCDカメラ37から得られる画像信号は、コンピュータ40に入力して処理する。したがって、本実施の形態では、対物レンズ36、CCDカメラ37、バンドパスフィルタ38、λ/4板39、およびコンピュータ40を含んで検出手段を構成している。
【0072】
本実施の形態では、先ず、ポンプ光をEOM23で遮断し、プローブ光のみを試料35に照射して、CCDカメラ37上に形成されたプローブ光単独照射による位相差像を撮影してコンピュータ40に取り込む。次に、EOM23を開放して、ポンプ光とプローブ光とを試料35に同時に照射して、CCDカメラ37上に形成された位相差像を撮影して、コンピュータ40に取り込む。なお、このプローブ光のみによる位相差像の取得と、ポンプ光およびプローブ光による位相差像の取得の順序は、逆であってもよい。
【0073】
ここで、プローブ光単独照射により形成された位相差像は背景光となるので、コンピュータ40において、ポンプ光およびプローブ光の同時照射により形成された位相差像から、プローブ光単独照射による位相差像の成分を差し引く演算処理を行い、これにより位相差赤外・可視2重共鳴顕微鏡画像を得る。したがって、観察対象の分子がローダミン6Gの場合には、CH基の空間分布像を得ることができる。このようにして得られた位相差赤外・可視2重共鳴顕微鏡画像は、図示しない表示装置に表示したり、記憶装置に記憶したり、適宜処理する。
【0074】
なお、EOM23および27は、必要に応じて、例えばナノ秒オーダで同期してパルス駆動するようにコンピュータ40で制御することにより、ポンプ光およびプローブ光のパルス光をそれぞれ発生させて、パルス毎の画像の時間応答を観察することもできる。また、この場合、ポンプ光およびプローブ光のパルス光の放射期間を相対的に調整することも可能である。したがって、この場合には、EOM23および27を含めてパルス光源を構成する。
【0075】
次に、試料35がポルフィリンを含む場合について説明する。ポリフィリンは生体内に含まれる分子であり、波長2.8μm近傍にNH基の振動吸収帯が散在し、可視領域には、500nm近傍に電子遷移による強い吸収帯が存在する。したがって、この場合には、プローブ光の波長を、例えば600nmに設定すれば、プローブ光は吸収されることなく、蛍光も発光しない。
【0076】
この場合の顕微鏡は、例えば図6において、ポンプ光用光源21の発振波長を2.8μmに調整するとともに、プローブ光用光源22の発振波長を600nmに調整し、バンドパスフィルタ38を、波長600nmのポンプ光をカットするものに交換することで構成することができる。これにより、ポリフィリンを含む試料35を無染色で観察することができる。
【0077】
観察対象の分子は、上記のCH基やNH基を含む分子に限らず、C≡C,C=C,C=C=C,C=C=C=C,CH,CO,C-C,C≡N,C-C-CN,C-C≡C,N=C=O,N=C=N,C=N,NNN,N=N,C-N,ONO,N=O,O-O,SH,CS,S-S,SO,S=O,C-S-C,OH,NH,CO,CH-C,CH-(C=O),-CH-,-CH-(C=O),-CH-(C=N),>C=CH,>C=CH-,-C=C-H,-C≡C-,-CO-OH,P=O,Si-CH,CF,CCl,CCl,P=S,Si-C,CH-S-CH,C-O-P,R-O-SO-O-R,R-O-SO-R,H-CO-O-R,-CH-CO-C-R,=CH-CO-O-R,C-CO-O-R,CH-CHO,C-CHO,CH-CO-CH,C-CO-C,C-CO-CO-C,-CO-NH,-CO-NH-R,-CO-NR,CH-NH,>CH-NH,C-NH,CH-NH-CH,CH-NH-CH,(CH)N,C-N-R,>C=NH,>C=N-C,-C≡N,PH,SiH,O=C(O-R),HN=C(O-R),R-O-NO,R-NO,R-O-NO,CH-O-CH,C-O-CH,CH-OH,CH-OH,C-CH,C-OH・R-SO-R,R-SO-R,R-SO-NH,のいずれか一つの化学基を含む分子の場合でも、化学基に対応する固有の振動励起準位にポンプ光で励起して、同様に計測することにより、各分子に帰属する振動励起準位の空間分布を位相差法でマッピングすることができる。
【0078】
(第2実施の形態)
本発明の第2実施の形態では、第1実施の形態の赤外光および可視光に代えて、紫外線およびX線を用いる。
【0079】
図7(a)および(b)は、ベンゼンの電子状態と、内殻の炭素1s電子が係わる2重共鳴吸収過程とを示している。この場合には、ベンゼンの価電子を紫外線でπ*軌道に励起し、その後、X線により炭素の1s電子を、空孔となった価電子軌道に共鳴吸収させる。ここで、価電子の励起に必要なエネルギーは、約4.7eVであるので、260nm前後の紫外(UV)光で励起することができる。
【0080】
一方、炭素の1s電子が、外側のπ*軌道に共鳴吸収するときに要するエネルギーは、約284eVである。したがって、この場合には、UV光がポンプ光となり、X線がプローブ光となる。そのときのプローブ光のエネルギーは、約284eVから、UV励起光の光子エネルギーである4.7eVを差し引いた値より小さくする必要がある。すなわち、279eVより小さくする必要があるので、波長としては、4.4nm前後となる。
【0081】
図8は、第2実施の形態に係る顕微鏡の概略構成を示す図である。本実施の形態では、ポンプ光用光源として、例えばNd:YAGレーザを用い、その基準波長の4倍波(266nm)であるUV光を、照明レンズ51により試料52に照射する。また、プローブ光用光源としては、波長可変であればシンクロトロンを用い、波長固定であれば、炭素をターゲットしたX線管(発光波長4.4nm)を用い、そのX線を平面波として試料52に照射する。
【0082】
UV光およびX線の照射により、試料52の空間的屈折率変化によって発生する回折光は、回折を受けないX線とともに、X線領域の結像光学素子として知られているフレネルゾーンプレート53により、X線CCDカメラ54上に結像させて、干渉による試料52の位相差像を形成し、その位相差像をコンピュータ55に取り込む。
【0083】
なお、フレネルゾーンプレート53の像側焦点位置には、ピンホールを有するλ/4板56を配置して、回折光の位相を調整するとともに、ピンホールには非散乱光を減衰させる減衰フィルタ57を配置する。ここで、λ/4板56は、例えば、グラファイト薄膜やポリエチレン膜を用いて構成することができ、減衰フィルタ57は、例えば、UV光をカットし、X線を通す機能を有するボロン薄膜フィルタを用いることができる。
【0084】
本実施の形態においても、好ましくは、第1実施の形態と同様に、先ず、X線のみを試料52に照射して、X線CCDカメラ54上に形成されたX線単独照射による位相差像を撮影してコンピュータ55に取り込む。次に、UV光とX線とを試料52に同時に照射して、X線CCDカメラ54上に形成された位相差像を撮影して、コンピュータ55に取り込む。その後、コンピュータ55において、UV光およびX線の同時照射により形成された位相差像から、X線単独照射による位相差像の成分を差し引く演算処理を行って、位相差紫外・X線2重共鳴顕微鏡画像を得る。なお、図8では、X線領域の結像光学素子としてフレネルゾーンプレート53を用いたが、多層膜を鏡面に積層した反射対物型のシュバルツシルド型光学系を用いることもできる。
【0085】
本実施の形態による観察対象分子は、タンパクを構成する基本的な生体分子であるベンゼン環を含むチロシン、フェニールアラニン、トリプトファンなどが挙げられる。この場合は、それらの分子の中に含まれるπ*軌道が励起したベンゼン環の空間分布を得ることができる。
【0086】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、幾多の変更または変形が可能である。例えば、第2実施の形態においては、窒素塩基なども、ほぼ、ベンゼン環と同じ電子構造を持つので、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、ウラシル等の核酸塩基の空間分布を示す位相差像も得ることができる。したがって、本発明による観察対象は、分子に限らず、物質が振動・回転・電子励起・核励起等で量子力学的な共鳴準位をもち、かつ、それぞれの組み合わせで2重共鳴が可能な場合に、本発明を有効に適用することができる。
【0087】
また、本発明では、試料そのものに存在する励起状態の空間分布を位相差情報として可視化するので、選択した観察部位をより積極的に強調するために、その部位に選択的に化学結合する特性をもつマーカを用いて染色することも可能である。この場合のマーカは、原子、原子核、結晶であってもよいし、量子ドットのような人工的な量子構造体でも良い。例えば、CdSe等に半導体量子ドットを導入しても構わない。特に、CdSeは、ZnSを表面にコートすることにより、様々な化学修飾基を結合させることができるので、観察部位を強調することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】分子における吸収端近傍の屈折率分布を示す図である。
【図2】位相差顕微鏡法の原理を説明するための図である。
【図3】通常の位相差顕微鏡法で用いられる照明光の光子エネルギーと試料の屈折率分布を示す図である。
【図4】赤外・可視2重共鳴過程を説明するための図である。
【図5】本発明のベースとなる典型的な位相差顕微鏡を説明するための図である。
【図6】本発明の第1実施の形態に係る顕微鏡の概略構成を示す図である。
【図7】ベンゼンの電子状態と内殻の炭素1s電子が係わる2重共鳴吸収過程とを説明するための図である。
【図8】本発明の第2実施の形態に係る顕微鏡の概略構成を示す図である。
【図9】赤外・可視2重共鳴顕微鏡法を説明するための図である。
【図10】ローダミン6Gの分子構造およびダイヤグラムを示す図である。
【符号の説明】
【0089】
21 ポンプ光用光源
22 プローブ光用光源
23,27 電気光学変調素子(EOM)
24,25,28,29 偏向ミラー
26 ダイクロイックプリズム
31 ピンホール照明レンズ
32 ピンホール
33 試料照明レンズ
35 試料
36 対物レンズ
37 CCDカメラ
38 バンドパスフィルタ
39 λ/4板
40 コンピュータ
51 照明レンズ
52 試料
53 フレネルゾーンプレート
54 X線CCDカメラ
55 コンピュータ
56 λ/4板
57 減衰フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長の異なる第1電磁波と第2電磁波とを、少なくとも一部重ねて試料に照射する同時照射ステップと、
該同時照射ステップにより、前記第1電磁波および前記第2電磁波が重ねて照射された前記試料の照射領域において、前記第1電磁波の照射により発生する屈折率変化の空間分布を、前記試料を透過した前記第2電磁波の位相差像として可視化する同時照射可視化ステップと、
を含むことを特徴とする顕微鏡法。
【請求項2】
前記第1電磁波は、前記試料中の所定物質を、基底状態から該基底状態に帰属する振動・回転準位に励起する波長または光子エネルギーを有することを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡法。
【請求項3】
前記第2電磁波は、少なくとも、前記試料中の所定物質を、基底状態から第1電子励起状態に励起するエネルギーと、基底状態に帰属する振動・回転準位に励起するエネルギーとの差よりも小さい光子エネルギーを有することを特徴とする請求項2に記載の顕微鏡法。
【請求項4】
前記試料上における前記第2電磁波の照射領域は、前記第1電磁波の照射領域よりも小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の顕微鏡法。
【請求項5】
前記試料は、前記第1電磁波で振動励起可能な振動・回転準位をもつ分子で染色することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の顕微鏡法。
【請求項6】
前記試料は、第1電子励起状態のエネルギーと基底状態に帰属する振動・回転準位に励起するエネルギーとの差が、前記第2電磁波の光子エネルギーよりも大きい分子で染色することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の顕微鏡法。
【請求項7】
前記試料は、前記第1電磁波で振動励起可能な振動・回転準位を有し、かつ、第1電子励起状態のエネルギーと基底状態に帰属する振動・回転準位に励起するエネルギーとの差が、前記第2電磁波の光子エネルギーよりも大きい分子で染色することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の顕微鏡法。
【請求項8】
前記試料中の所定物質は、非蛍光性の分子であることを特徴とする請求項2に記載の顕微鏡法。
【請求項9】
前記試料は、C≡C,C=C,C=C=C,C=C=C=C,CH,CO,C-C,C≡N,C-C-CN,C-C≡C,N=C=O,N=C=N,C=N,NNN,N=N,C-N,ONO,N=O,O-O,SH,CS,S-S,SO,S=O,C-S-C,OH,NH,CO,CH-C,CH-(C=O),-CH-,-CH-(C=O),-CH-(C=N),>C=CH,>C=CH-,-C=C-H,-C≡C-,-CO-OH,P=O,Si-CH,CF,CCl,CCl,P=S,Si-C,CH-S-CH,C-O-P,R-O-SO-O-R,R-O-SO-R,H-CO-O-R,-CH-CO-C-R,=CH-CO-O-R,C-CO-O-R,CH-CHO,C-CHO,CH-CO-CH,C-CO-C,C-CO-CO-C,-CO-NH,-CO-NH-R,-CO-NR,CH-NH,>CH-NH,C-NH,CH-NH-CH,CH-NH-CH,(CH)N,C-N-R,>C=NH,>C=N-C,-C≡N,PH,SiH,O=C(O-R),HN=C(O-R),R-O-NO,R-NO,R-O-NO,CH-O-CH,C-O-CH,CH-OH,CH-OH,C-CH,C-OH・R-SO-R,R-SO-R,R-SO-NH、のいずれかの化学基を含む分子を有することを特徴とする請求項2〜8のいずれか一項に記載の顕微鏡法。
【請求項10】
前記分子は、孤立電子励起を有することを特徴とする請求項8または9に記載の顕微鏡法。
【請求項11】
前記第1電磁波の波長は、前記試料中の所定物質を、基底状態から第1電子励起状態に励起遷移する際の共鳴吸収バンド内に存在することを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡法。
【請求項12】
前記第2電磁波は、前記試料中の所定物質を、第1電子励起状態から該第1電子励起状態よりも高エネルギー準位の励起状態に遷移する際に要する励起エネルギーよりも小さい光子エネルギーを有することを特徴とする請求項11に記載の顕微鏡法。
【請求項13】
前記第2電磁波は、蛍光波長帯域とは異なる波長帯域に属することを特徴とする請求項12に記載の顕微鏡法。
【請求項14】
前記第1電磁波の波長は、前記試料中の所定物質を、基底状態から第1電子励起状態に励起遷移する際の共鳴吸収バンド内に存在し、かつ、前記試料は、第1電子励起状態から該第1電子励起状態よりも高エネルギー準位の励起状態に遷移する際に要する励起エネルギーが、前記第2電磁波の光子エネルギーよりも大きい分子で染色することを特徴とする請求項13に記載の顕微鏡法。
【請求項15】
さらに、前記第2電磁波を前記試料に単独照射する単独照射ステップと、
該単独照射ステップにより、前記第2電磁波が照射された前記試料の照射領域において発生する屈折率変化の空間分布を、前記試料を透過した前記第2電磁波の位相差像として可視化する単独照射可視化ステップと、
前記同時照射可視化ステップで可視化した位相差像と、前記単独照射可視化ステップで可視化した位相差像との差分画像を生成する差分画像生成ステップと、
を含むことを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の顕微鏡法。
【請求項16】
第1電磁波を発生する第1放射源と、
前記第1電磁波とは波長の異なる第2電磁波を発生する第2放射源と、
前記第1放射源から発生された前記第1電磁波および前記第2放射源から発生される前記第2電磁波を、少なくとも一部重ね合わせて試料に照射する照明光学系と、
前記第1電磁波および前記第2電磁波が重ねて照射される領域において、前記第1電磁波の照射により発生する屈折率変化の空間分布を、前記試料を透過する前記第2電磁波の位相差像として可視化する検出手段と、
を有することを特徴とする顕微鏡。
【請求項17】
前記第1放射源および/または前記第2放射源は、波長可変のレーザ光源を有することを特徴とする請求項16に記載の顕微鏡。
【請求項18】
前記第1放射源および/または前記第2放射源は、パルス光源であることを特徴とする請求項16または17に記載の顕微鏡。
【請求項19】
前記第1放射源および前記第2放射源は、それぞれ、前記第1電磁波および前記第2電磁波の放射期間を相対的に調整可能なパルス光源からなることを特徴とする請求項16または17に記載の顕微鏡。
【請求項20】
前記検出手段は、前記試料を透過する前記第1電磁波の除去手段を有することを特徴とする請求項16〜19のいずれか一項に記載の顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−157873(P2008−157873A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349694(P2006−349694)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】