説明

風味の改善された粕取り焼酎の製造方法

【課題】 これまで嫌われていたアルデヒドを主体とする粕取り焼酎香がなく、タケ又はササの香りを有する粕取り焼酎を提供する。
【解決手段】 酒粕100重量部に平均粒径20〜10,000μmに細砕したタケ又はササ類を1〜150重量部加えて混合し、次いで蒸留してアルコール含有濃度が20〜45%(v/v)の粕取り焼酎を取得する。
蒸留によって粕取り焼酎を取得した蒸留残渣は飼料として使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タケ(竹)又はササ(笹)類の粉砕物を使用して製造される粕取り焼酎と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
清酒製造の副産物として生産される酒粕には10%程度のエチルアルコールが残存している。古くから酒粕を蒸留してアルコールを回収し、粕取り焼酎として飲用されてきた。
一般的な製法は、新しい酒粕を適度な大きさに細断し酒粕の体積の約1〜2倍の籾殻を加えよく混ぜる。小さな団子状の混合物として蒸留装置に移し蒸留して焼酎を取得する。
籾殻は酒粕の水分調整と、蒸留時の蒸気の流れをスムースにするために使用される。
また酒粕を貯蔵し、貯蔵中の糖化作用と残存酵母によるアルコール発酵によりアルコール度を幾分高め、同様にして籾殻と混合して蒸留し、粕取り焼酎を取得する方法もある。
蒸留方法は常圧が一般的であるが、減圧蒸留で行うこともある。
籾殻からの異臭の発生を抑制するため、籾殻をアルカリ液で洗浄したものを使用し蒸留する方法などが実施されている。
粕取り焼酎に残存する個性的な香り(アルデヒド類)はかなり強烈であり、古くから一部の愛好者以外、一般には嫌われ敬遠されてきた。そのため、籾殻を使用しない方法が考案されたりした(非特許文献1参照)。
この方法は、新鮮酒粕に約倍量の水を加水して25〜30℃に保温して残存酵母又は酵母を添加し再発酵させる、数日後発酵が終了し上澄みした時上槽し搾汁液を蒸留し原焼酎を取得する(籾殻は使用しない)。
この粕取り原焼酎には粕取り焼酎香があるため、さらに過マンガン酸カリウムと活性炭を使用し無臭粕取り焼酎とする方法である(非特許文献1参照)。
その後、籾殻を全く使用せず常圧又は減圧で蒸留する方法が実施されてきた。しかしこの場合でも酒粕由来の粕取り焼酎香(アルデヒド臭)は残存している。
粕取り焼酎の製法が確立した大正時代にはハイカラ焼酎として珍重され、戦後の混乱期には労働者の酒として大量に消費された。しかし、その後消費は減少し、焼酎の消費量が爆発的に増加し、清酒の消費量を追い越した現代でも、酒粕由来の粕取り焼酎香(アルデヒド臭)が一般消費者には受け入れられないため粕取り焼酎の消費量は極めて少ない。
【非特許文献1】醸造試験所研究特報 35巻 779−780頁(1940)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
粕取り焼酎の消費が減退した主因は、このアルデヒドに起因する粕取り焼酎香があまりにも個性的で強烈であるため、現代の一般消費者からは敬遠された結果と考えられる。
粕取り焼酎(籾殻を使用する伝統的な方法で製造される粕取り焼酎や、酒粕のみ使用して再発酵を行い籾殻を使用しないで蒸留した粕取り焼酎)には、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−ブチルアルコール、酢酸アミル、i−アミルアルコール等の揮発性芳香成分と、アセトアルデヒド、イソバレルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、オキシメチルフルフラール等のアルデヒド類が存在している。この中で特にアルデヒド類は刺激的な臭いを有し、品質にダメージを与える個性的な粕取り焼酎香の成分であるとされている〔醸造試験所研究特報 35巻 779−780(1940)〕。しかもアルデヒドは粕取り焼酎に特異的に多く含まれている〔醸造物の成分126頁 日本醸造協会〕。
個性的な粕取り焼酎香の生成については、新鮮酒粕そのものに含有される香りに由来する場合や、貯蔵中に増加した各種アルデヒド類に由来する場合、籾殻由来成分と酒粕に含有される油脂や糖質アミノ酸の蒸留加熱時の反応により生成する香りに由来する場合が考えられている。
籾殻を全く使用せず減圧で蒸留する粕取り焼酎を製造する場合、籾殻を洗浄して籾殻の香りを極力低減させても粕取り焼酎には粕取り焼酎香が残存する。 酒粕に籾殻を加え蒸留する方法は蒸留装置さえあれば極めて簡単なアルコール回収方法であるが、粕取り焼酎香を嫌う消費者が多いため、広く浸透しないのが現状である。
酒粕は有用成分を多く含有するにもかかわらず、漬け物以外の用途には殆ど使用されていない。特に比較的新しい液化法による清酒製造時に副生する酒粕は産業廃棄物とされている。
よって、前記液化法により排出される酒粕から得られる粕取り焼酎としてのアルコール回収は廃棄物の資源化となる。資源のリサイクルの視点から有意義なことである。そのためにできるだけ簡易な操作で多くの消費者に受け入れられる粕取り焼酎又は類似の製品の提供が待望されている。
本発明の目的は、蒸留時に粕取り焼酎香の特徴であるアルデヒド類が殆ど無い粕取り焼酎を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、酒粕に細断したタケ又はササ類を加え良く混合し蒸留することにより、酒粕からの個性的な香りをマスクするだけでなく、タケ又はササ類が本来有する新鮮な香りが付加された、全く新規な粕取り焼酎が製造できることを見いだし、本発明に到達した。微細粉体にしたタケ又はササ類、あるいは細断したタケ又はササ類の小粒体が蒸留工程で使用された粕取り焼酎の製造はまだ例を見ないものである。
すなわち本発明は下記の風味の改善された粕取り焼酎の製造方法及び粕取り焼酎である。さらには、蒸留の残渣物を飼料として利用する発明である。
[1] 酒粕100重量部に平均粒径20〜10,000μmに細砕したタケ又はササ類を1〜150重量部加えて混合し、次いで蒸留してアルコール分を含有する粕取り焼酎を取得することを特徴とする粕取り焼酎の製造方法。
[2] 酒粕100重量部に平均粒径500〜1,000μmに細砕したタケ又はササ類を5〜30重量部加えて混合し、次いで蒸留してアルコール分を含有する粕取り焼酎を取得することを特徴とする粕取り焼酎の製造方法。
[3] 酒粕が、液化法の清酒製造により得られたものであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の粕取り焼酎の製造方法。
[4] 蒸留が減圧蒸留によって行われることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載の粕取り焼酎の製造方法。
[5] 蒸留によって得られる粕取り焼酎のアルコール含有濃度が、20〜45%(v/v)であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の粕取り焼酎の製造方法。
[6] 平均粒径20〜1,000μmの微細な粉体のタケ又はササ類として、タケ又はササ類の葉部を使用することを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1項に記載の粕取り焼酎の製造方法。
[7] 蒸留によって粕取り焼酎を取得した残渣を飼料として使用することを特徴とする[1]〜[6]のいずれか1項に記載の粕取り焼酎の製造方法。
[8] 酒粕100重量部に平均粒径20〜10,000μmに細砕したタケ又はササ類を1〜150重量部添加・混合した混合物から蒸留により得られた粕取り焼酎。
[9] 細砕したタケ又はササ類の平均粒径が500〜1,000μm、タケ又はササ類の添加量が5〜30重量部であることを特徴とする[8]記載の粕取り焼酎。
[10] [8]又は[9]に記載の酒粕と細砕したタケ又はササ類の混合物から蒸留により粕取り焼酎が分取された残渣よりなる飼料。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、これまで嫌われていたアルデヒドを主体とする粕取り焼酎香がない焼酎が提供でき、好ましい香りであるタケ又はササの香りを有する全く新しいタイプの粕取り焼酎が提供できる。
原料となる酒粕も従来法で生産されるものはもとより、大量生産方式で生産される液化法による清酒製造による酒粕も使用でき、新タイプの優れた粕取り焼酎としてアルコールが回収できる。
しかも本発明により副生する残渣は、アルコール等の揮発性成分が殆どなく、加熱処理されてはいるものの清酒酵母由来の各種ビタミン等の機能性物質が残存し、タケ又はササ粉体からの炭素源が付与されてC/Nバランスが良く良質の家畜飼料となる。
したがって、アルコールが焼酎として回収でき、また残渣は家畜飼料として利用でき、酒粕が完全にリサイクルされるため、斯界に大きく貢献するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明ではまず、タケ又はササ類を物理的に破砕し、さらに微細化又は粗粒化して粉体又は小粒体とし、それらを酒粕に加え混合して均一は混合物となし、次いで加熱して蒸留する。
得られた蒸留物は、酒粕臭がタケ又はササ類に吸着又はマスクされたか、酒粕臭の原因物質とタケ又はササ類のある種の成分の化学的な反応のためか、アルデヒド臭のない新鮮なタケ又はササ類の香りを有する新たな粕取り焼酎となる。
従来、タケ又はササ類の粉粒体が無臭化・脱臭の目的で食品に添加使用された例はない。
【0007】
本発明で使用される原材料の酒粕は、清酒製造時に副生産されたものであれば、製造方法は如何なるものでも良い。伝統的な製造方法によるものは勿論、米でんぷんを酵素剤で液化・糖化して発酵させる液化法による清酒製造時に副生産する酒粕でもよい。酒粕は生産直後のものでも、あるいは長期間貯蔵され熟成したものであってもよい。
【0008】
タケ又はササ類は、植物学的にはイネ科に分類されている。本発明で用いられるタケ又はササ類としては、マダケ属、ナリヒラダケ属、トウチク属、オカメザサ属、アズマザサ属、ササ属、カンチク属、メダケ属、スズタケ属、ホウライチク属、メダケ属、マチク属、ホウライチク属などが含まれ、カンチク、ホウオウチク、モウソウチク、キンメイモウソウチク、キッコウチク、キンメイチク、クロチク、ホテイチク、ヤダケ、ナリヒラダケ、スズコナリヒラ、トウチク、シホウチク、クマザサ、ミヤコザサなどが挙げられる。
【0009】
タケの細砕には竹粉製造機(例えば、丸大鉄工株式会社製の竹粉製造機KO−II)を使用して、平均粒径150〜25μm程度まで粉砕することができる。生竹あるいは収穫後乾燥状態にあるものであっても粉砕できる。例えばモウソウチクの場合は、洗浄乾燥後、上記竹粉製造機を使用し、粒径150μm程度まで粉砕する。さらに上記竹粉製造機の回転刃を切り替えて25μmまで粉砕する。
そして更に微細化する場合には微粉砕機(例えば(株)奈良機械製作所の自由粉砕機、ホソカワミクロン(株)のロートブレックス粉砕機、増幸産業(株)のスーパーマスコロイダー等)を使用すれば25μm以下の微粉砕物が得られる。
ササの細断、粉砕にはシュガーミルやハンマーミル、ローラーミルが使用され、容易に200μm〜10μm程度に加工できる。
【0010】
粉砕後のタケ又はササの水分はできれば20%以下に調整することが望ましい。酒粕には50〜70%程度の水分が残存しており、それにタケ又はササ類粉体を添加することにより水分が調整され、かつ蒸留の際、微細な蒸気の通り道ができて蒸留操作を容易なさしめる効果がある。
【0011】
酒粕に混合するタケ又はササ類粉体としての粉砕物の粒径は20〜10,000μmが適している。10,000μmを超えると粒体が大きすぎて混合・撹拌にムラが生じ均一に混合できないことがある。また蒸留残渣を飼料とするときに家畜の咀嚼が困難になることがある。、
そして、20μm未満では混合体積比が増加したり、粉体が飛散して混合操作に時間がかかり、かつ製造コストが嵩む。平均粒径500〜1000μmがより好ましく、酒粕との混合がスムースにできる。
タケ又はササ類の細砕物は球状をしているのが作業性もよく混合し易いが、一部がスライス状であっても針状であっても立方体状であっても特に問題はない。
【0012】
タケ又はササ類粉体の酒粕への添加混合割合は、酒粕100重量部に対してタケ又はササ類の粉粒体1〜150重量部である。1重量部未満では特徴ある粕取り焼酎香のマスキングが不充分で、粕取り焼酎香が残存することがある。150重量部を越えると、混合物全体の体積が増加し嵩張るため、混合操作に時間を要し、また蒸留効率が低下し、かつ得られた粕取り焼酎は、タケ又はササ由来の香りが高くなり過ぎて、酒粕本体からの良好な香りとのバランスが崩れる。タケ又はササ類粉体の酒粕への混合割合は、5〜30重量部が好ましく、10〜20重量部の添加が最適である。
【実施例】
【0013】
本発明を実施例により具体的に説明する。また、粕取り焼酎の製造として知られている従来の各方式を比較例として例示した。
実施例1、2では、従来法の清酒製造による酒粕、液化法の清酒製造による酒粕の各々について、タケ粉体を使用し蒸留した事例を示し、それぞれを籾殻を使用した場合と比較し比較例1、2とした。
また液化法酒粕とササを使用した新規粕取り焼酎を実施例3として示した。比較例3は、「粕もろみ取り焼酎」ともよばれ、粕取り焼酎に分類されているものであって、酒粕に加水して酵母を加えて再発酵させたものを蒸留した焼酎である。これらの概略を表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
実施例1:
モウソウチク生竹をよく洗い乾燥し、竹粉製造機(丸大鉄工株式会社製の竹粉製造機KO−II)を使用して平均粒径800μmのタケ粉体30kgを得た。これを酒粕240kgに加え、酒粕をよくほぐしながら均一に混ざり込むように混合した。(酒粕は、「五百万石」を原料として、従来法で純米酒を製造した上槽直後に得られた新しいものを使用した。なお、含有アルコール濃度は12.3%(v/v)であった)
次に、上記タケ粉体を均一に混合した酒粕・タケ粉体混合物約270kgを粕取り焼酎製造装置(徳島精工(株)製)の円筒3段のステンレス製の甑(こしき)に分けた後、同装置下部より蒸気を送り込んで蒸留を行った。
蒸留時間1時間15分で、42リットル(アルコール含有濃度44.8%(v/v))の本発明の新鮮なタケ風味のある焼酎を得た。
【0016】
比較例1:
天日でよく乾燥した籾殻30kgをネットに入れ、水を張った容器に浸漬した後、これに蒸気を吹き込みお湯を流出させながらよく洗浄した。さらに2〜3日天日で乾燥した後、これを実施例1に使用したものと同じ酒粕240kgに加え、酒粕をよくほぐしながら(均一に小さな団子状にバラバラにする)籾殻が均一に混ざり込むように混合した。
次に、上記の籾殻を加え均一に混合した酒粕・籾殻混合物約270kgを粕取り焼酎製造装置(徳島精工(株)製)の円筒3段のステンレス製の甑に分け、蒸留した。蒸留時間1時間10分で、39リットル(アルコール含有濃度50.6%(v/v))の粕取り焼酎特有の香りを有する焼酎を得た。
【0017】
実施例2:
液化法による酒粕(精米歩合75%・日本晴を原料にしたもの:アルコール含有濃度10.6%(v/v))240kgに実施例1で使用したものと同じモウソウチク粉体40kgを加え、両者が均一になるように混合した。こうして均一に混合した酒粕・竹粉体混合物約280kgを実施例1で使用した粕取り焼酎製造装置の円筒3段のステンレス製の甑に分け、蒸留した。蒸留時間1時間15分で、45リットル(アルコール含有濃度40.0%(v/v))の本発明の新鮮なタケ風味のある焼酎を得た。
【0018】
比較例2:
実施例2で使用した液化法による酒粕(精米歩合75%・「日本晴」を原料にしたもの:アルコール含有濃度10.6%(v/v))と同じもの240kgに、比較例1で使用した同じ籾殻40kgを加え均一に混合した酒粕・籾殻混合体280kgを、実施例2で使用した粕取り焼酎製造装置を使用して粕取り焼酎を得た。蒸留時間1時間10分で、42リットル(アルコール含有濃度43.2%(v/v))の粕取り焼酎を得た。粕取り焼酎特有の焼酎香が高いものであった。
【0019】
実施例3:
液化法による酒粕(精米歩合75%・「日本晴」を原料にしたもの:アルコール含有濃度10.6%(v/v))240kgにクマザサの粉体(ハンマーミルで粉砕後5ミリメッシュのふるいを通過したもの:平均粒径5,000μm)30kgを加え、両者が均一になるように混合した。均一に混合した酒粕・クマザサ粉体混合物約270kgを実施例1で使用した粕取り焼酎製造装置の円筒3段のステンレス製の甑に分け、蒸留した。蒸留時間1時間20分で、48リットル(アルコール含有濃度38.0%(v/v))のチマキ(粽)の様な香りがする本発明の焼酎を得た。
【0020】
比較例3:
実施例1で使用した従来法による酒粕50kgに固形酵母901号10gを溶解した水50リットルを加え、20〜25℃で7日間発酵させた。これを上槽し、濾液84リットルを得た(アルコール含有濃度7.2%(v/v))。この上槽濾液を減圧蒸留装置(IWAKI社製ロタリー・エバポレーターRE10−N(10リットル容))を使用し、8回に分けて減圧蒸留した。その結果、粕取り焼酎12リットル(アルコール含有濃度40.5%(v/v))を得た。酒粕臭と粕取り焼酎香がミックスされた特異臭があった。
【0021】
次に、上記各事例で得られた焼酎を、官能審査と成分分析を実施しその特性を比較した。
官能審査:
上記各焼酎に水を添加してアルコール含有濃度を20%(v/v)に調整したものについて官能審査を行った。山口県産業技術センター食品技術部研究員5名で官能評価を行った。各審査員に各焼酎から受ける印象やその感想を聞き取り5名のコメントを記述した。
各審査員のコメント:
〈審査員A〉
実施例と比較例では香りに明らかに違いがある。実施例1、2、3で得られた焼酎はタケの香りが高く新鮮・清涼感のある焼酎である。味がまろやかである。
他方、比較例1、2はアルデヒド臭、焦げ臭が強い。比較例1、2で得られた焼酎は蒸留直後の舌を指すピリピリ感がある。比較例3はエステル香があるがその裏に高くはないがアルデヒド臭があり、古いタイプの焼酎である。
〈審査員B〉
実施例1、2で得られた焼酎は生竹を割った香りがある。実施例3で得られた焼酎はササの香りが高い。比較例1、2で得られたものは粕取り臭が強すぎる。味は実施例1、2、比較例3は焦げ臭あり淡麗。比較例1、2は味が重く粗い。実施例3はお茶のような感覚で飲める。
〈審査員C〉
実施例1、2、3で得られた焼酎の風味は新鮮なハーブを感じさせる香りである。
実施例3で得られた焼酎はササを日光で乾燥した臭いがある。比較例1、2、3で得られた焼酎は焦げ臭、粕取り臭があり好ましくない。味は各実施例は軽く、実施例1は甘みがある。比較例3は味が薄い。
〈審査員D〉
各実施例で得られた焼酎はタケ又はササの香りがある。実施例3で得られたものはチマキの香りが好ましい。親近感を感じる臭いである。各比較例で得られた焼酎は粕取り臭、焦げ臭、酸臭が混在している。特に比較例1は粕取り臭が重く強く嫌悪感がある。比較例3は、芳香成分と粕取り焼酎香が混在している。
〈審査員E〉
実施例1で得られた焼酎は新鮮な竹林を連想する香りがある。実施例2で得られたものはタケの香りと吟醸酒のような香りが混在している。実施例3で得られたものは乾いたタケ皮の香りがある。各実施例で得られた焼酎には清酒のエステル香がタケの香りに隠れて存在している。味もさわやかで従来にない新鮮な焼酎である。
比較例1で得られた焼酎は焦げ臭、粕取り臭、漬け物臭が強く現代人には向かないと思う。比較例2も油臭、酵母臭が残り活性炭等で除去することを検討する必要がある。比較例3にはかすかにアルデヒド臭、末ダレ臭がある。単独では商品化は難しい。異臭を除去すればブレンド用に使用できる。
【0022】
以上の官能評価の結果、本発明による、タケ又はササ類を使用した3種類の粕取り焼酎は、籾殻を使用したものより明らかに香りが良好で、本発明で得られる焼酎と従来の粕取り焼酎は、はっきり差別化された。本発明で得られる焼酎は、官能的には粕取り焼酎香がなくタケ又はササ由来の芳香るユニークな焼酎である。
成分分析は粕取り焼酎の品質の負の指標となる3成分について行った。すなわち、刺激的な異臭の成分であるアルデヒド(アセトアルデヒド・イソバレルアルデヒド)、油臭に相関のあるチオバルビツール酸価(TBA価)、酢酸等の揮発成分含量と相関があり品質の指標とされている酸度を定量し比較した。
成分分析の方法:
各焼酎に水を添加してアルコール含有濃度を25%(v/v)に調整したものについて分析した。測定は第4回改正・国税庁所定分析法注解(p−40〜49)により定量した。
測定結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

成分分析結果によると各実施例で得られた焼酎は異臭成分が極めて微量であることがわかる。粕取り焼酎の特異臭と油臭が本発明によると激減することが示されている。これは官能審査の結果と一致する。酸度は焼酎の種類によりその目安は異なるが一般に0.2以下が良質の目安とされている。酢酸等の揮発成分が微量であることが判る。
以上を総合的に判断すると、本発明ではこれまで嫌われていたアルデヒドを主体とする粕取り焼酎香がなく、好ましい香りであるタケ又はササの香りを有する全く新しいタイプの粕取り焼酎が製造できる。
原料となる酒粕も従来法で生産されるものはもちろん、大量生産方式で生産される液化法による清酒製造による酒粕においても、新タイプの焼酎としてアルコールが回収できる。
これまで産業廃棄物として廃棄されていた酒粕廃棄物が有用資源としてリサイクル可能になった。しかも本発明により副生する残渣は、アルコール等の揮発性成分が殆どなく、加熱処理されてはいるものの清酒酵母由来の各種ビタミン等の機能性物質が残存し、タケ又はササ粉体からの炭素源が付与されてC/Nバランスが良く良質の家畜飼料として好ましい。
本発明によれば、アルコールが焼酎として回収でき、また残渣は家畜飼料として利用でき、酒粕が完全にリサイクルされるため、清酒業界にとって非常に有益である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒粕100重量部に平均粒径20〜10,000μmに細砕したタケ又はササ類を1〜150重量部加えて混合し、次いで蒸留してアルコール分を含有する粕取り焼酎を取得することを特徴とする粕取り焼酎の製造方法。
【請求項2】
酒粕100重量部に平均粒径500〜1,000μmに細砕したタケ又はササ類を5〜30重量部加えて混合し、次いで蒸留してアルコール分を含有する粕取り焼酎を取得することを特徴とする粕取り焼酎の製造方法。
【請求項3】
酒粕が、液化法の清酒製造により得られたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の粕取り焼酎の製造方法。
【請求項4】
蒸留が減圧蒸留によって行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の粕取り焼酎の製造方法。
【請求項5】
蒸留によって得られる粕取り焼酎のアルコール含有濃度が、20〜45%(v/v)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の粕取り焼酎の製造方法。
【請求項6】
平均粒径20〜1,000μmの微細な粉体のタケ又はササ類として、タケ又はササ類の葉部を使用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の粕取り焼酎の製造方法。
【請求項7】
蒸留によって粕取り焼酎を取得した残渣を飼料として使用することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の粕取り焼酎の製造方法。
【請求項8】
酒粕100重量部に平均粒径20〜10,000μmに細砕したタケ又はササ類を1〜150重量部添加・混合した混合物から蒸留により得られた粕取り焼酎。
【請求項9】
細砕したタケ又はササ類の平均粒径が500〜1,000μm、タケ又はササ類の添加量が5〜30重量部であることを特徴とする請求項8記載の粕取り焼酎。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の酒粕と細砕したタケ又はササ類の混合物から蒸留により粕取り焼酎が分取された残渣よりなる飼料。


【公開番号】特開2008−131924(P2008−131924A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−322373(P2006−322373)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(399079759)酒井酒造株式会社 (1)
【Fターム(参考)】