説明

飛しょう体のジンバル機構

【課題】剛性の高いガタの無いジンバル機構を提供することを課題とする。
【解決手段】実施形態に係る飛しょう体のジンバル機構は、アンテナなどの可動体の回転軸を飛しょう体の支持部に対して回転自在に支持する2組の組合せアンギュラ玉軸受を有する。組合せアンギュラ玉軸受の内輪は、内輪押さえによって、可動体の回転軸に取り付けられ且つ軸方向に沿った与圧が与えられる。組合せアンギュラ玉軸受の外輪は、支持部に対して軸方向にスライド自在に取り付けられた保持スリーブによって保持される。この保持スリーブは、固定部材によって、そのスライド位置をガタの無い位置に調節された状態で支持部に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、飛しょう体の先端に設けたアンテナなどの可動体の回転軸の両端を組合せアンギュラ玉軸受で支持したジンバル機構に関する。
【背景技術】
【0002】
飛しょう体のジンバル機構として、例えば、撮像装置などのジンバル被搭載物(可動体)を互いに直交する2軸で回動自在に支持したジンバル機構が知られている。
【0003】
ミサイルなどの飛しょう体は、極めて高速で航行するため、この種のジンバル機構で支持された可動体には、極めて速い動作が要求され、ジンバル機構自体にも、高い剛性が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−342993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来のジンバル機構のように、可動体を2軸で支持する構造の場合、可動体の可動範囲を広げることができる反面、可動体を回動自在に支持する軸受の数が多くなり、可動体にガタを生じ易い。
【0006】
よって、飛しょう体に搭載する可動体のための、剛性の高いガタの無いジンバル機構の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る飛しょう体のジンバル機構は、アンテナなどの可動体の回転軸を飛しょう体の支持部に対して回転自在に支持する2組の組合せアンギュラ玉軸受を有する。組合せアンギュラ玉軸受の内輪は、内輪押さえによって、可動体の回転軸に取り付けられると同時に軸方向に沿った与圧が与えられる。組合せアンギュラ玉軸受の外輪は、支持部に対して軸方向にスライド自在に取り付けられた保持スリーブによって保持される。この保持スリーブは、固定部材によって、そのスライド位置をガタの無い位置に調節された状態で支持部に固定される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、参考例に係る飛しょう体のジンバル機構を示す概略図である。
【図2】図2は、図1のジンバル機構の要部を部分的に拡大して示す部分拡大断面図である。
【図3】図3は、実施形態に係るジンバル機構の要部を部分的に拡大して示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態について説明する前に、参考例として、飛しょう体100に搭載したアンテナ1(可動体)を回動自在に支持するジンバル機構10の一例について、図1および図2を参照して説明する。図1には、飛しょう体100の先端近くの概略図を示してある。また、図2には、図1の領域F2を部分的に拡大した部分拡大断面図を示してある。
【0010】
図1に示すように、参考例のジンバル機構10は、飛しょう体100の先端近くでアンテナ1を回動自在に支持している。具体的には、ジンバル機構10は、飛しょう体100の互いに離間した一対の支持フレーム102、102(支持部)の間に配置したアンテナ1の回転軸2、2を、各支持フレーム102、102に対して回動自在に取り付けた2組の組合せアンギュラ玉軸受3、3(以下、単に玉軸受3と称する場合もある)を有する。
【0011】
組合せアンギュラ玉軸受3は、周知のものであり、ここではその詳細な説明を省略するが、ここで説明する玉軸受3は、2個の単列アンギュラ玉軸受3a、3b(図2参照)を軸方向に並べてその背面同士を接合させたタイプのものである。つまり、この玉軸受3を取り付ける際には、内輪4(図2参照)に軸方向に沿った与圧を与えることで、ジンバル機構10に剛性を付与することになる。なお、アンテナ1の両側に設けられた2組の玉軸受3は、略同じ構造および機能を有するため、ここでは一方のみについて代表して説明する。
【0012】
図2に示すように、組合せアンギュラ玉軸受3は、内輪4、外輪5、および複数個のベアリング6を有する。軸方向に沿ってアンテナ1に近い内側の単列アンギュラ玉軸受3aは、内輪4aと外輪5aとの間に複数個のベアリング6を収容配置したものであり、軸方向に沿ってアンテナ1から離間した外側の単列アンギュラ玉軸受3bは、内輪4bと外輪5bとの間に複数個のベアリング6を収容配置したものである。
【0013】
つまり、組合せアンギュラ玉軸受3の内輪4は、2個の単列アンギュラ玉軸受3a、3bそれぞれの内輪4a、4bを軸方向に並べたものであり、組合せアンギュラ玉軸受3の外輪5は、2個の単列アンギュラ玉軸受3a、3bそれぞれの外輪5a、5bを軸方向に並べたものである。図示のように2個の単列アンギュラ玉軸受3a、3bの背面同士を接合させたタイプの組合せアンギュラ玉軸受3の場合、内輪4a、4bが近づく方向に押圧されることで、玉軸受3に与圧が付与されることになる。
【0014】
また、ジンバル機構10は、この他に、玉軸受3の内輪4a、4bを回転軸2の段部2aに向けて軸方向に押圧して与圧を付与すると同時に、内輪4をアンテナ1の回転軸2に固設するための円環状の内輪押さえナット11、軸方向内側の単列アンギュラ玉軸受け3aの内輪4aと回転軸2の段部2aとの間に取り付けられる円環状のシム12、および、玉軸受3の外輪5a、5bを軸方向に挟んで保持するハウジング13および外輪押さえ部材14を有する。
【0015】
内輪押さえナット11は、回転軸2のアンテナ1から離間した先端近くの外周面に設けられたねじ部2bに螺合される。
【0016】
ハウジング13は、玉軸受3の外周面に接触する筒状部分の内面13a、軸方向内側の単列アンギュラ玉軸受3aの軸方向内側の端部を当接させる環状の段部13b、支持フレーム102のアンテナ1に対向した内側面に接触する円環状の接触面13c、および支持フレーム102に対して軸方向にスライド自在に接触するスライド面13dを有する。
【0017】
また、外輪押さえ部材14は、軸方向外側の単列アンギュラ玉軸受3bの軸方向外側の端部を当接させる環状の段部14a、および支持フレーム102のアンテナ1から離間した外側面に接触する円環状の接触面14bを有する。
【0018】
ハウジング13の接触面13cおよび外輪押さえ部材14の接触面14bがそれぞれ支持フレーム102の内側面および外側面に接触した状態で、理想的には、ハウジング13の段部13bが内側の単列アンギュラ玉軸受3aの内側の端部に接触し、外輪押さえ部材14の段部14aが外側の単列アンギュラ玉軸受3bの外側の端部に接触する。
【0019】
ハウジング13および外輪押さえ部材14は、支持フレーム102の図示しない貫通孔と同軸に、図示しないボルトを挿通するための図示しない挿通孔をそれぞれ有する。そして、ハウジング13、支持フレーム102、および外輪押さえ部材14の孔を通してボルトを挿通してナットで締め付けることで、ハウジング13と外輪押さえ部材14との間で支持フレーム102が挟持され、ハウジング13および外輪押さえ部材14が支持フレーム102に固設される。
【0020】
ここで、上述した参考例の組合せアンギュラ玉軸受3の取り付け方法の一例について説明する。
まず、アンテナ1の回転軸2の段部2aに円環状のシム12を接触させて取り付ける。シム12は、後述するように、ハウジング13の段部13bと玉軸受3との間のガタGを無くすための調節代を作るため、軸方向に沿った厚さを有する。
【0021】
一方、支持フレーム102の内側からハウジング13を取り付ける。そして、ハウジング13内にアンテナ1の回転軸2を挿入し、回転軸2の外側からハウジング13との間に組合せアンギュラ玉軸受3を取り付ける。
【0022】
さらに、外輪押さえ部材14を図示しないボルトおよびナットによってハウジング13とともに支持フレーム102に仮留め固定し、玉軸受3の外輪5を保持する。この状態で、ハウジング13は、支持フレーム102に対して軸方向にわずかにスライド可能である。
【0023】
また、内輪押さえナット11をねじ部2bに螺合して、玉軸受3の内輪4をシム12との間で内輪押さえナット11により挟持し、玉軸受3の内輪4を回転軸2に固定する。このとき、内輪押さえナット11の締め具合を適当な値に調節して玉軸受3に与圧を与える。また、この後、図示しないボルトおよびナットを締め付けてハウジング13と外輪押さえ部材14を支持フレームに固定する。
【0024】
上記のように玉軸受3を取り付けると、シム12の厚みにより、図2に示すように、軸方向内側の単列アンギュラ玉軸受3aの軸方向内側の端部とハウジング13の段部13bとの間にガタGを生じる。上述したように、飛しょう体100のジンバル機構10には、比較的高い剛性が必要であり、このようなガタGを無くす必要がある。
【0025】
このため、本参考例では、ガタGを無くすため、玉軸受3を一旦取り外してシム12を削って厚さを調整し、再び玉軸受3を取り付ける作業を繰り返すようにしている。この場合、ハウジング13の段部13bと単列アンギュラ玉軸受3aとの間の隙間を見てシム12の削り量を調節することになるが、玉軸受3に適当な与圧を付与した上で、ガタGを無くす作業には熟練を要し、作業負担が大きかった。
【0026】
図3には、実施形態に係るジンバル機構20の要部の構造を部分的に拡大した部分拡大断面図を示してある。このジンバル機構20は、組合せアンギュラ玉軸受3の支持フレーム102に対する取り付け構造が異なる以外、上述した参考例のジンバル機構10と同様に機能する。よって、ここでは、参考例と同様に機能する構成要素には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0027】
本実施形態のジンバル機構20は、組合せアンギュラ玉軸受3の内輪4a、4bを回転軸2の段部2aに向けて軸方向に押圧して与圧を付与すると同時に、内輪4をアンテナ1の回転軸2に固設するための円環状の内輪押さえナット11を有する。この内輪押さえナット11は、回転軸2のねじ部2bに螺合される。
【0028】
また、このジンバル機構20は、玉軸受3の外輪5の外周面に接触する内周面21a、および支持フレーム102の取り付け孔の内周面102aに接触する外周面21bを有する略円筒形の保持スリーブ21を有する。保持スリーブ21の外周面21bは、支持フレーム102の取り付け孔に対して軸方向に沿ってスライド自在となっている。
【0029】
保持スリーブ21の内周面21aには、組合せアンギュラ玉軸受3の軸方向内側の単列アンギュラ玉軸受3aの軸方向内側の端部を当接させるための環状の段部21c、および外輪押さえナット22を螺合せしめるためのねじ部21dが設けられている。しかして、玉軸受3の外輪5は、段部21cと外輪押さえナット22によって挟持されて、保持スリーブ21に固定される。
【0030】
一方、保持スリーブ21の外周面21bには、支持フレーム102の軸方向内側から取り付けられる内側ナット23aを螺合せしめるためのねじ部21e、および支持フレーム102の軸方向外側から取り付けられる外側ナット23bを螺合せしめるためのねじ部21fが設けられている。各ナット23a、23bと支持フレーム102との間には、それぞれ、ワッシャー24a、24bが挿入配置される。
【0031】
保持スリーブ21は、ねじ部21eに螺合した内側ナット23aおよびねじ部21fに螺合した外側ナット23bを互いに近づく方向に締め付けることで、支持フレーム102の取り付け孔102aの縁に固定される。このとき、内側ナット23aおよび外側ナット23bの軸方向に沿った位置を調節することで、保持スリーブ21の軸方向に沿ったスライド位置を任意の位置に決めることができる。すなわち、内側ナット23aおよび外側ナット23bは、保持スリーブ21を軸方向に位置決めして支持フレーム102に固定する固定部材として機能する。
【0032】
ここで、本実施形態のジンバル機構20における組合せアンギュラ玉軸受3の取り付け方法の一例について説明する。
まず、保持スリーブ21を支持フレーム102の取り付け孔102aに取り付ける。この際、保持スリーブ21を支持フレーム102の取り付け孔102aに挿入した後、軸方向内側から、ワッシャー24aを介して、保持スリーブ21の外周面にあるねじ部21eに内側ナット23aを螺合する。また、この際、保持スリーブ21の反対側(軸方向外側)から、ワッシャー24bを介して、ねじ部21fに外側ナット23bを螺合する。
【0033】
このとき、保持スリーブ21を支持フレーム102に対して軸方向にわずかに移動可能にするため、内側ナット23aおよび外側ナット23bは、支持フレーム102を締め付けることなく、緩く取り付けられる。この状態で、保持スリーブ21が支持フレーム102に仮留めされる。
【0034】
次に、保持スリーブ21の軸方向内側から、保持スリーブ21の中にアンテナ1の回転軸2が挿通配置され、組合せアンギュラ玉軸受3が、軸方向外側から、回転軸2の外周面と保持スリーブ21の内周面21aとの間に挿入配置される。このとき、玉軸受3の軸方向内側の端部が、回転軸2の段部2aおよび保持スリーブ21の段部21cに当接して係合する。
【0035】
そして、この次に、内輪押さえナット11を、軸方向外側から、アンテナ1の回転軸2のねじ部2bに螺合し、回転軸2の段部2aとの間で玉軸受3の内輪4を挟持する。この際、内輪押さえナット11の締め付け具合を調節することで、玉軸受3に付与する与圧が調節される。同時に、玉軸受3の内輪4が回転軸2にガタなく固定される。
【0036】
この後、軸方向外側から、保持スリーブ21の内面21aに形成されたねじ部21dに外輪押さえナット22が螺合され、保持スリーブ21の段部21cとの間で玉軸受3の外輪5が挟持される。このとき、外輪押さえナット22を締めることで、保持スリーブ21が軸方向に移動して位置決めされる。
【0037】
最後に、位置決めされた保持スリーブ21を支持フレーム102に固定するため、内側ナット23aおよび外側ナット23bを締め付ける。このとき、保持スリーブ21が軸方向に移動しないように、2つのナット23a、23bを締め付ける。例えば、内側ナット23aが止まるまで締めた後に、外側ナット23bを締め付ける。
【0038】
以上のように、本実施形態によると、可動体10の回転軸2の両端に組合せアンギュラ玉軸受3を備えたジンバル機構20において、ガタ調整の必要がなく、玉軸受3に対して所望の与圧を付与することができる。よって、飛しょう体100のジンバル機構20に必要とされる程度の高い剛性を付与することができる。
【0039】
1つの実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0040】
例えば、上述した実施形態では、飛しょう体のジンバル機構に本発明を適用した場合について説明したが、これに限らず、他の比較的イナーシャの大きい回転体のジンバル機構に本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0041】
1…アンテナ、2…回転軸、3…組合せアンギュラ玉軸受、4、4a、4b…内輪、5、5a、5b…外輪、6…ベアリング、10、20…ジンバル機構、11…内輪押えナット、12…シム、13…ハウジング、14…外輪押さえ部材、21…保持スリーブ、22…外輪押さえナット、23a…内側ナット、23b…外側ナット、G…ガタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動体の回転軸の両端をそれぞれ飛しょう体の支持部に対して回転自在に支持する2組の組合せアンギュラ玉軸受を有するジンバル機構であって、
上記組合せアンギュラ玉軸受の内輪を上記可動体の回転軸に取り付けると同時に当該アンギュラ玉軸受に軸方向の与圧を与える内輪押さえと、
上記組合せアンギュラ玉軸受の外輪を保持するとともに上記支持部に対して軸方向にスライド自在に取り付けられた保持スリーブと、
この保持スリーブのスライド位置を調節可能に上記支持部に固定する固定部材と、
を有するジンバル機構。
【請求項2】
上記内輪押さえは、上記可動体の回転軸の周りに設けられた環状の段部との間で、上記アンギュラ玉軸受の内輪を軸方向に挟んで締め付けるナットを有する請求項1のジンバル機構。
【請求項3】
上記保持スリーブは、上記アンギュラ玉軸受の外輪の外周面に接する内面に、上記外輪の軸方向端部を当接させる環状の段部と、この段部との間で上記外輪を軸方向に挟んで締め付けるナットを螺合するためのねじ部と、を有する請求項1のジンバル機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−36512(P2013−36512A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172036(P2011−172036)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000221155)東芝電波プロダクツ株式会社 (62)
【Fターム(参考)】