説明

飛散石綿量の測定方法

【課題】飛散する石綿量の回収率を従来よりも高め、飛散する石綿量の測定精度を高めることが可能な飛散石綿量の測定方法を提供する。
【解決手段】石綿を含む測定対象物11に所定容量のカバー部材12を被せ、測定対象物11から石綿を発塵させ、カバー部材12の上流側に設けた吸気口19から、カバー部材12の下流側に設けた排気口21へかけて形成される気流により、カバー部材12内の空気の半分以上を入れ替えながら発塵させた石綿を排気口21に設けたフィルター23で回収してその本数を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、石綿(アスベスト)を含む廃棄物の撤去作業の際に飛散する石綿を、精度よく測定可能な飛散石綿量の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、住宅の断熱材として、石綿を含む材料が使用されてきた。しかし、この石綿は、人体がその粉塵を吸入することにより、肺癌または悪性中皮腫のような健康障害をもたらすことから、現在は除去作業が行われている。
この除去作業においては、例えば、作業環境または大気環境での石綿の飛散量を測定することで、作業環境の管理をより一層厳密に行わなければならない。そこで、例えば、特許文献1〜3には、作業環境下で回収した石綿量を測定する種々の方法が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−134128号公報
【特許文献2】特開2005−351642号公報
【特許文献3】特開2006−250844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の方法は、いずれも回収後の石綿量を測定する方法であり、飛散した石綿を回収する際の方法については、詳細な検討がなされていない。このため、回収後の石綿量を、いかに精度よく測定できたとしても、その前段階である飛散した石綿の回収が適切に行われていなければ、除去作業の環境が悪くなる恐れがある。
なお、従来は、石綿が取付けられた部屋の四隅に、石綿が付着可能なフィルターを設置して付着させ、飛散した石綿量を測定しているが、部屋の容積が大きければ、飛散した石綿が部屋全体に拡散して落下し、回収される石綿量が減少するため、測定精度が低下する問題がある。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、飛散する石綿量の回収率を従来よりも高め、飛散する石綿量の測定精度を高めることが可能な飛散石綿量の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る飛散石綿量の測定方法は、石綿を含む測定対象物に所定容量のカバー部材を被せ、該測定対象物から前記石綿を発塵させ、該カバー部材の上流側に設けた吸気口から、該カバー部材の下流側に設けた排気口へかけて形成される気流により、該カバー部材内の空気の半分以上を入れ替えながら発塵させた前記石綿を前記排気口に設けたフィルターで回収してその本数を計測する。
【0007】
本発明に係る飛散石綿量の測定方法において、前記カバー部材はドーム型となって、その側部に設けられた開口部に開閉シート材が設けられ、前記カバー部材の天井部に、前記吸気口が形成された吸気配管が位置調整可能に取付けられ、前記開閉シート材に、前記排気口が形成された排気配管が取付けられ、前記吸気配管の位置調整を行うことで、前記気流の流れを調整することが好ましい。
【0008】
本発明に係る飛散石綿量の測定方法において、前記カバー部材内の容積は、3リットル以上10リットル以下であることが好ましい。
本発明に係る飛散石綿量の測定方法において、前記カバー部材内の空気の90体積%以上を入れ替えることが好ましい。
本発明に係る飛散石綿量の測定方法において、前記測定対象物からの前記石綿の発塵は、該測定対象物に打ち付けた釘を抜く、または該測定対象物を折ることにより行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
請求項1〜5記載の飛散石綿量の測定方法は、従来のように、広い部屋内で石綿を回収することなく、所定容積内で発塵した石綿を気流にのせて回収するので、発塵した石綿の大半を回収でき、飛散する石綿量の測定精度を向上できる。これにより、作業時における石綿の飛散量の管理をより厳密にでき、作業環境の改善に貢献できる。
【0010】
特に、請求項2記載の飛散石綿量の測定方法は、吸気配管の位置調整を行って、カバー部材内に形成される気流の流れを調整するので、飛散する石綿量の回収率を更に向上できる。
請求項3記載の飛散石綿量の測定方法は、カバー部材の容積が従来の場合と比較して十分に小さいので、石綿の拡散を抑制でき、飛散した石綿が落下する前に回収でき、回収率を更に向上できる。
【0011】
請求項4記載の飛散石綿量の測定方法は、カバー部材内の空気の大半を入れ替えるので、空気中に飛散した石綿の大部分を回収できる。
請求項5記載の飛散石綿量の測定方法は、測定対象物に打ち付けた釘を抜く、または測定対象物を折ることにより、飛散した石綿量を測定するので、通常行う除去作業と同じ状況下で発塵する石綿量の測定ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1(A)、(B)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係る飛散石綿量の測定方法に使用する飛散石綿量の測定装置の側面図、平面図である。
まず、本発明の一実施の形態に係る飛散石綿量の測定方法に使用する飛散石綿量の測定装置について説明した後、本発明の一実施の形態に係る飛散石綿量の測定方法について説明する。
【0013】
図1(A)、(B)に示すように、飛散石綿量の測定装置(以下、単に測定装置ともいう)10は、石綿を含む測定対象物(例えば、壁材、板材)11の一部または全部を覆うカバー部材12を有している。
カバー部材12は、例えば、金属製の骨組みにビニル樹脂製のカバー13が取付けられたものであり、下部開口のドーム型(半球型)に形造られている。
このカバー部材12の側部前方には、半楕円形の開口部14が設けられ、作業者(図示しない)がカバー部材12内に手を出し入れ可能な構成となっている。なお、開口部14には、例えば、ビニル樹脂製の開閉シート材15が取付けられ、カバー部材12の内部と外部とを遮断可能な構成となっている。
また、カバー部材12の内部には、カバー部材12の天井部16内面から底部へかけて、開口部14側へ傾斜した状態で取付けられた仕切り部材17が設けられている。作業者は、この仕切り部材17で仕切られた開口部14側のカバー部材12、即ち作業領域18で、石綿を発塵させる作業を行う。
【0014】
このカバー部材12の作業領域18内の容積は、所定容量、即ち3リットル以上10リットル以下(本実施の形態では、5.3リットル)にすることが好ましい。
ここで、作業領域内の容積が3リットル未満の場合、容積が狭くなり過ぎ、例えば、飛散した石綿がカバー部材の内面に付着し易くなり、飛散する石綿量の回収率が低下し、測定精度が低下する恐れがある。一方、作業領域内の容積が10リットルを超える場合、容積が大きくなり、飛散した石綿がカバー部材内に拡散して落下し、飛散する石綿量の回収率が低下して、測定精度が低下する恐れがある。
従って、カバー部材12の作業領域18内の容積を3リットル以上10リットル以下としたが、下限を5リットルとすることが好ましく、上限を8リットルとすることが好ましい。
【0015】
カバー部材12の天井部16に位置するカバー13には、吸気口19が形成された吸気配管20が、カバー13を貫通した状態で、仕切り部材17に沿って取付けられている。なお、カバー13は、前記したように、ビニル樹脂製で構成されているため、これに吸気配管20を取付けることで、天井部16に対して傾動可能(例えば、水平面に対して、60度以上85度以下程度)にでき、カバー部材12内部に配置される吸気配管20の下流側端部の位置調整が自在にできる。
また、開閉シート材15の中央部には、排気口21が形成された排気配管22が、開閉シート材15を貫通し水平に配置された状態で取付けられている。この排気配管22の長手方向中央部には、石綿を回収するためのフィルター23が設けられ、またカバー部材12の外に配置される排気配管22の下流側端部には、フレキシブルホース24を介して吸引ポンプ25が設けられている。
【0016】
以上のように構成することにより、吸引ポンプ25を作動させ、排気配管22を介してカバー部材12の作業領域18内の空気を外部へ吸引することで、吸気配管20を介して外部の空気が作業領域18内に吸気されるので、作業領域18の上流側から下流側へかけて気流を形成できる。
なお、排気配管22の内径は、例えば、15〜35mm(本実施の形態では、25mm)程度で、吸気配管20の内径よりも小さく設定してあるので、外気を作業領域18内へスムーズに取り込むことができる。
また、形成される気流は、吸気配管20の位置調整を行うことで、その流れを調整できる。更に、気流の形成には、吸引ポンプ25の吸引能力も重要であり、吸引ポンプ25の1分間の吸引能力を、作業領域18内の容積と同等(ここでは、5リットル/分)にしているが、作業領域内の容積を超える量としてもよい。
【0017】
次に、本発明の一実施の形態に係る飛散石綿量の測定方法について、前記した飛散石綿量の測定装置10を参照しながら説明する。
まず、作業者は、石綿を含む測定対象物11に、測定装置10のカバー部材12を被せる。そして、カバー部材12の天井部16に吸気配管20を取付け、開閉シート材15にフィルター23が取付けられた排気配管22を取付け、更にこの排気配管22の下流側端部に、吸引ポンプ25が取付けられたフレキシブルホース24を接続する。
次に、作業者は、カバー部材12の開口部14を覆った開閉シート材15を外し、開口部14からカバー部材12内に手を入れ、作業領域18内に位置する測定対象物11の点Pに対し、金槌を使用して釘を打ち付ける。このとき、開閉シート材15は、可能な限りカバー部材12内と外部とを遮断するように、作業者の腕の上から開口部14を覆うように配置することが好ましい。
【0018】
続いて、測定対象物11に打ち付けた釘を、釘抜きにより引き抜き、測定対象物11から石綿を発塵させる。このとき、吸引ポンプ25を作動させ、吸気配管20の吸気口19から、排気配管22の排気口21へかけて気流を形成し、石綿をこの気流の流れにのせて、排気配管22に設けたフィルター23に付着させる。
ここで、吸引ポンプ25の作動は、発塵前に行うことが好ましいが、発塵と同時、または発塵の直後でもよい。
また、測定対象物11からの石綿の発塵は、作業領域18内に配置された測定対象物11を折ることにより行ってもよい。
そして、気流の流れが悪ければ、吸気配管20の位置調整(傾斜角度の調整)を行うことで、気流の流れを調整する。
【0019】
このとき、カバー部材12の作業領域18内の空気の半分以上、好ましくは90体積%以上、更に好ましくは95体積%以上を入れ替えながら、測定対象物11から発塵させた石綿を、排気口21に設けたフィルター23で回収する。
本実施の形態では、前記したように、作業領域18内の容積が5.3リットルであり、吸引ポンプ25の吸引流量が5リットル/分であることから、吸引ポンプ25を、例えば、5分間作動させることにより、作業領域18内の空気のほぼ全量を採取できる。これは、以下に示す気体の完全混合式からわかる。
X=(1−e−θ)×100≒99.1(%)
θ=5(リットル/分)×5(分)/5.3(リットル)=4.717
【0020】
吸引ポンプ25を所定時間作動させた後、停止して、フィルター23を回収し、フィルター23に付着した石綿の繊維の本数を計測する。この計測方法としては、従来公知の位相差分散顕微鏡によるマウンティング方法(JIS K3850−1)を使用できるが、他の方法により、計測してもよい。
以上の方法により、飛散する石綿が落下する前に回収でき、その回収率を従来よりも高め、飛散する石綿量の測定精度が高められるので、作業環境の管理をより一層厳密に行うことができる。
【実施例】
【0021】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、実施例として、前記した飛散石綿量の測定装置10を用い、本発明の飛散石綿量の測定方法により、飛散した石綿を回収した結果について説明する。なお、作業領域18内の容積を5.3リットル、吸引ポンプ25の吸引流量を5リットル/分とし、この吸引ポンプ25を5分間作動させた。
また、石綿の繊維の本数を計測する方法として、従来公知の位相差分散顕微鏡によるマウンティング方法(JIS K3850−1)を使用した。以下、その方法について、簡単に説明する。
分析機器としては、位相差分散顕微鏡(ニコン製、80i TP−DPH)とアセトン蒸着装置を使用した。
【0022】
まず、捕集したフィルターをスライドガラスの上に載せ、アセトンを蒸着させた後、トリアセチンを2〜3滴滴下し、カバーガラスをのせて固定する。
これを一昼夜放置した後、位相差分散顕微鏡により400倍の倍率で50視野の石綿(繊維)の本数(N本)を読み取る。このとき、1視野ごとに、同一視野を生物顕微鏡に切り替え、400倍の倍率で50視野の石綿の本数(Na)を読み取る。
そして、フィルターに付着した石綿の本数を、以下の式により算出する。
F1=A×(N−Na)/(a×n)
F1:フィルターの捕集総繊維数
A :フィルターの有効面積(ここでは、380mm
N :位相差分散顕微鏡の計数総繊維数(f)
Na:生物顕微鏡の計数(f)
a :顕微鏡の視野の面積(ここでは、0.0707mm
n :計数視野数(ここでは、50箇所)
【0023】
以上に示した実施例のように、石綿を含む測定対象物から釘を抜く際、所定容積内で発塵した石綿を気流にのせて回収するので、例えば、釘1本あたり3000本程度の石綿を回収できることを確認できた。一方、従来の方法では、発塵させる容積が広く、しかも気流による回収を行わないため、飛散した石綿が床に落下し、石綿の本数をほとんど確認できなかった。
このように、本発明では、発塵した石綿の大半を回収でき、飛散する石綿量の測定精度を向上できるので、作業時における石綿の飛散量の管理をより厳密にでき、作業環境の改善に貢献できる。
【0024】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部または全部を組合せて本発明の飛散石綿量の測定方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(A)、(B)はそれぞれ本発明の一実施の形態に係る飛散石綿量の測定方法に使用する飛散石綿量の測定装置の側面図、平面図である。
【符号の説明】
【0026】
10:飛散石綿量の測定装置、11:測定対象物、12:カバー部材、13:カバー、14:開口部、15:開閉シート材、16:天井部、17:仕切り部材、18:作業領域、19:吸気口、20:吸気配管、21:排気口、22:排気配管、23:フィルター、24:フレキシブルホース、25:吸引ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石綿を含む測定対象物に所定容量のカバー部材を被せ、該測定対象物から前記石綿を発塵させ、該カバー部材の上流側に設けた吸気口から、該カバー部材の下流側に設けた排気口へかけて形成される気流により、該カバー部材内の空気の半分以上を入れ替えながら発塵させた前記石綿を前記排気口に設けたフィルターで回収してその本数を計測することを特徴とする飛散石綿量の測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の飛散石綿量の測定方法において、前記カバー部材はドーム型となって、その側部に設けられた開口部に開閉シート材が設けられ、前記カバー部材の天井部に、前記吸気口が形成された吸気配管が位置調整可能に取付けられ、前記開閉シート材に、前記排気口が形成された排気配管が取付けられ、前記吸気配管の位置調整を行うことで、前記気流の流れを調整することを特徴とする飛散石綿量の測定方法。
【請求項3】
請求項1および2のいずれか1項に記載の飛散石綿量の測定方法において、前記カバー部材内の容積は、3リットル以上10リットル以下であることを特徴とする飛散石綿量の測定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の飛散石綿量の測定方法において、前記カバー部材内の空気の90体積%以上を入れ替えることを特徴とする飛散石綿量の測定方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の飛散石綿量の測定方法において、前記測定対象物からの前記石綿の発塵は、該測定対象物に打ち付けた釘を抜く、または該測定対象物を折ることにより行うことを特徴とする飛散石綿量の測定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−249398(P2008−249398A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88793(P2007−88793)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000248196)株式会社コトガワ (13)
【出願人】(507102469)株式会社下関環境技術センター (1)
【Fターム(参考)】