説明

食品原料の湿熱処理装置および湿熱処理方法

【課題】作業者が危険に晒されることなしに、食品原料の排出効率を飛躍的に高める。
【解決手段】食品原料の湿熱処理装置(10)は、食品原料のための入口(12)と出口(15)とが形成されたハウジング(11)と、ハウジング内に蒸気を供給する蒸気供給部(35)と、ハウジング内部の入口と出口との間に配置された二つの可動板(25、26)と、を具備し、二つの可動板は互いに協働してハウジング内部に仕切部(29)を形成するようになっており、さらに、可動板のそれぞれを独立して動作させる二つの駆動部(31、32)を含んでいる。駆動部はチェーンブロックであるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品原料、例えば芋類または穀類を湿熱処理する湿熱処理装置および湿熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、食品原料、例えば芋類または穀類をバッチ式に湿熱処理する湿熱処理装置が使用されている。図5は、従来技術における湿熱処理装置の正面図である。図5に示されるように、湿熱処理装置100のハウジング110には、食品原料を投入するための投入口120が上方に形成されている。ハウジング110は下方に向かって収斂しており、ハウジング110の下方には、食品原料を排出するための排出スクリュ130が配置されている。また、湿熱処理装置100は、ハウジング110内に蒸気を供給する蒸気源(図示しない)を含んでいる。
【0003】
さらに、ハウジング110の前面には、回動軸部230、240回りでそれぞれ回動可能なアーム210、220が取付けられている。これらアーム210、220は、ハウジング110内部において回動可能な可動板250、260(従来技術における湿熱処理装置の動作を説明するための略図である図6(a)を参照されたい)にそれぞれ連結されている。
【0004】
また、図示されるように、単一のチェーンブロック300がハウジング110の前面上方に懸架されており、チェーンブロック300から延びる二つのチェーン410、420はそれぞれアーム210、220の先端に連結している。図5に示される状態においては、二つの可動板250、260は閉位置に在り、それにより、これら可動板250、260は協働して仕切部をハウジング110内部に形成するようになる。
【0005】
図6(a)に示されるように、投入口120から食品原料、例えば芋類または穀類を仕切部上に投入する。そして、蒸気源からの蒸気をハウジング110に供給して、食品原料を所定時間にわたって湿熱処理する。次いで、チェーンブロック300のチェーン410、420を緩めると、アーム210、220に連動して可動板250、260は下方に回動して仕切部が開放する。これにより、食品原料が排出スクリュ130まで落下する。その後、排出スクリュ130を駆動させると、食品原料がハウジング110の出口から取出される。
【0006】
特許文献1においても同様に、上部から食品原料を投入すると共に、下部から処理後の食品原料を取出すようにした蒸煮装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-289005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、食品原料が湿熱処理されると、食品原料に含まれるデンプンが蒸気を吸収して膨潤し、糊状になる。そして、自重などにより、食品原料は湿熱処理装置100のハウジング110内において互いに接着する場合がある。これにより、ハウジング110内の食品原料のほぼ全体が一つの塊になる。
【0009】
従って、図6(b)に示されるように、可動板250、260を開放したとしても、塊状の食品原料Mの全体がハウジング110から排出されない場合がある。そのような場合には、可動板250、260の両方に隣接する食品原料Mの一部分のみが落下し、食品原料Mの下方部分にブリッジM0(アーチ状の空洞)が形成される(図6(c)を参照されたい)。
【0010】
その後、図6(d)に示されるように、可動板250、260を閉鎖しても、食品原料Mが互いに接着しているので、ブリッジM0は崩れることなくハウジング110内で維持される。従って、可動板250、260の開閉作用を繰返したとしても、ブリッジM0を排除するのは困難である。このようなブリッジM0は、食品原料Mが芋類である場合に特に発生しやすい。
【0011】
ブリッジM0が形成された場合には、複数の作業者が投入口120から櫂棒で食品原料を突いて排出口に向かって排出させる必要がある。ハウジング110内部は比較的高温であり、また櫂棒がハウジング110内の排出スクリュ130に巻き込まれる可能性がある。従って、このような作業には危険が伴うと共に、多大な時間が必要とされ、その結果、排出効率も低下する。さらに、作業時間が長くなると、食品原料Mが微生物により汚染される可能性も生じ、衛生的にも好ましいものではない。
【0012】
本発明者らは、上記のような課題に鑑み、鋭意研究した結果、湿熱処理された食品原料に剪断力を加えることによって、作業者が危険にさらされることなしに、排出効率を飛躍的に高められることを見いだし本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するために1番目の発明によれば、食品原料の湿熱処理装置において、前記食品原料のための入口と出口とが形成されたハウジングと、該ハウジング内に蒸気を供給する蒸気供給部と、前記ハウジング内部において前記入口と前記出口との間に配置された二つの可動板と、を具備し、前記二つの可動板は互いに協働して前記ハウジング内部に仕切部を形成するようになっており、さらに、該可動板のそれぞれを独立して動作させる二つの駆動部を具備する湿熱処理装置が提供される。
すなわち1番目の発明においては、可動板が互いに独立して動作可能であるので、一方の可動板を動作させることにより、湿熱処理済みの食品原料に対して、剪断力を生じさせられる。このため、食品原料が互いに接着している場合であっても、食品原料は容易に分離され、ハウジングの出口から良好に排出できる。従って、作業者が食品原料を手動で排出させる必要はなく、作業者が危険にさらされることなしに、排出効率を飛躍的に高めることができる。
【0014】
2番目の発明によれば、1番目の発明において、前記駆動部がチェーンブロックである。
すなわち2番目の発明においては、比較的簡易な構成で、駆動部を構成することができる。
【0015】
3番目の発明によれば、食品原料のための入口と出口とが形成されたハウジングと、該ハウジング内に蒸気を供給する蒸気供給部と、前記ハウジング内部において前記入口と前記出口との間に配置された二つの可動板と、を具備し、前記二つの可動板は互いに協働して前記ハウジング内部に仕切部を形成するようになっており、さらに、該可動板のそれぞれを独立して動作させる二つの駆動部を具備する湿熱処理装置における前記食品原料の湿熱処理方法において、前記二つの駆動部により前記二つの可動板を駆動して仕切部を形成し、前記食品原料を前記ハウジングの前記入口から前記仕切部上に供給し、前記蒸気供給部により蒸気を前記ハウジング内に供給して前記食品原料を湿熱処理し、少なくとも一方の前記駆動部により、対応する少なくとも一方の前記可動板を動作させて、前記食品原料に対して剪断力を生じさせつつ、前記食品原料を前記ハウジングの出口から排出する湿熱処理方法が提供される。
すなわち3番目の発明においては、湿熱処理済みの食品原料に対して、排出すべき方向に沿って剪断力を生じさせられるので、食品原料が互いに接着している場合であっても、食品原料は分離され、ハウジングの出口から良好に排出できる。従って、作業者が食品原料を手動で排出させる必要はなく、作業者が危険にさらされることなしに、排出効率を飛躍的に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に基づく湿熱処理装置の正面図である。
【図2】本発明に基づく湿熱処理装置の側面図である。
【図3】湿熱処理装置の断面図である。
【図4】(a)〜(e)湿熱処理装置の動作を説明するための略図である。
【図5】従来技術における湿熱処理装置の正面図である。
【図6】(a)〜(d)従来技術における湿熱処理装置の動作を説明するための略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面において同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これら図面は縮尺を適宜変更している。
図1は本発明に基づく湿熱処理装置の正面図であり、図2は本発明に基づく湿熱処理装置の側面図である。これら図面に示されるように、湿熱処理装置10のハウジング11には、食品原料Mを投入するための投入口12が上方に形成されている。ハウジング11は下方に向かって収斂しており、ハウジング11の下方には、食品原料Mを排出する出口15が形成されている。出口15には排出スクリュ13が配置されており、排出スクリュ13を駆動することによって食品原料Mがハウジング11から排出される。
【0018】
図1に示されるように、ハウジング11の上方から延びる蒸気通路17、18に、蒸気源35が接続されている。従って、蒸気源35により発生した蒸気は蒸気通路17、18を通ってハウジング11内部に供給される。なお、図2および後述する図3においては、簡潔にする目的で蒸気通路17、18の図示を省略している。また、ハウジング11に接続された送風機36は、ハウジング11内で湿熱処理された食品原料Mを冷却する役目を果たす。さらに、ハウジング11の前面には、要求される場合にハウジング11内部にアクセスするための扉19が取付けられている。
【0019】
図1から分かるように、ハウジング11の前面には、回動軸部23、24回りでそれぞれ回動可能なアーム21、22が取付けられている。これらアーム21、22は、ハウジング11内部において開閉可能な可動板25、26(後述する)にそれぞれ連結されている。
【0020】
図1および図2に示されるように、ハウジング11の前面上方から、係止部33、34が設けられている。そして、アーム21、22のそれぞれに対応するチェーンブロック31、32がこれら係止部33、34に懸架されている。図示されるように、チェーンブロック31、32から延びる二つのチェーン41、42はそれぞれアーム21、22の先端に連結している。従って、アーム21、22は、チェーンブロック31、32によってそれぞれ独立して上方および下方に回動する。
【0021】
図3は湿熱処理装置10の断面図である。図3に示されるように可動板25、26は回動軸部23、24回りに回動可能であり、前述したアーム21、22とそれぞれ一体的に動作する。図3に示されるように、可動板25、26の幅はハウジング11の幅の半分に概ね等しい。また、図2から分かるように、可動板25、26の長さはハウジング11の奥行に概ね等しい。
【0022】
図2および図3から分かるように、アーム21、22が水平面に対して或る角度だけ上方に傾斜しているときに、可動板25、26は水平面に対して他の角度だけ下方に傾斜してハウジング11内部を閉鎖している。なお、図示しない実施形態においては、アーム21、22の水平面に対する角度と可動板25、26の水平面に対する角度とは、図示される角度に限定されないものとする。
【0023】
図3に示されるように、可動板25、26は互いに協働してハウジング11内部を閉鎖する仕切部29を形成する。仕切部29によって、ハウジング11の内部空間を上方部分と下方部分とに仕切ることができる。
【0024】
なお、図2から分かるように、同様な構成のチェーンブロック31’、32’がハウジング11の背面に設けられていて、チェーン41’、42’によってアーム21’、22’に連結されていてもよい。また、図面においてはチェーンブロックが示されているが、アーム21、22を回動させられる他の駆動部材をチェーンブロックの代わりに使用してもよい。
【0025】
なお、可動板25、26にはその全体に亙って多数の貫通孔(図示しない)が形成されている。従って、送風機36からの空気は可動板25、26の貫通孔を通ってハウジング11の上方部分まで供給される。
【0026】
図4(a)から図4(e)は湿熱処理装置の動作を説明するための略図である。はじめに、図4(a)に示されるようにチェーンブロック31、32を駆動して、アーム21、22が水平面に対して所定の角度をなすようにし、それにより、可動板25、26に仕切部29を形成させる。
【0027】
次いで、投入口12から食品原料M、例えば芋類または穀類をハウジング11内に投入し、仕切部29上に載置させる。所定量の食品原料Mが投入されると、蒸気源35からの蒸気を蒸気通路17、18に通してハウジング11内に供給する。これにより、食品原料Mが湿熱処理される。なお、本願明細書における湿熱処理は、蒸気を用いた相対湿度100%にて、温度100℃で所定時間保持する工程を含む処理のことを指す。湿熱処理は、常圧下で行ってもよく、また投入口12を閉鎖した加圧下で行ってもよい。湿熱処理が終了すると、送風機36を駆動して空気をハウジング11内に供給し、食品原料Mを冷却する。
【0028】
ところで、食品原料Mに含まれるデンプンは湿熱処理によって糊化されて、酵素作用を受けやすい状態となる。従って、湿熱処理後の食品原料Mを喫食する際には、デンプンがアミラーゼによってブドウ糖に分解され、喫食者に対して甘味を感じさせる場合がある。また、食品原料Mが酒類の製造に使用される場合には、食品原料Mが湿熱処理によって液化、糖化酵素の作用を受けやすくなる場合がある。
【0029】
このような場合には、湿熱処理された食品原料Mは蒸気を吸収して糊状となり、互いに接着して、ハウジング11内において単一の塊になりうる。そのような場合には、図4(b)に示されるように、一方のチェーンブロック31のみを駆動して、一方の可動板25を下方に回動させる。つまり、仕切部29を半分だけ開放させる。
【0030】
これにより、可動板25の上方に位置する食品原料Mの半部分M1は下方に移動開始するので、食品原料Mに剪断力が生じる。これにより、食品原料Mは半部分M1、M2に分離する。そして、図4(b)に矢印で示されるように、半部分M1は可動板25に沿って滑落し、可動板25、26の間を通ってハウジング11の下方部分まで移動する。その後、半部分M1は排出スクリュ13(図4(a)から図4(d)には示さない)によって出口15から排出される。
【0031】
全ての半部分M1が排出されると、図4(c)に示されるように他方のチェーンブロック32を駆動して他方の可動板26を下方に回動させる。その結果、残りの半部分M2は可動板25に向かって倒れて崩壊し、可動板25、26の間を通ってハウジング11の下方部分まで移動する。その後、前述したのと同様に、半部分M2は排出スクリュ13によって出口15から排出される。
【0032】
ところで、図4(d)に示されるように、食品原料Mの接着力が強い場合には、一方の可動板25を開放したとしても、食品原料Mに剪断力が生じず、従って、食品原料Mは半部分M1および半部分M2に分離しないことがある。せいぜい、食品原料Mの一部分のみが食品原料Mから離脱して、食品原料Mの下方部分にブリッジM3(アーチ状の空洞)が形成されるだけである。
【0033】
そのような場合には、図4(e)に示されるように、他方のチェーンブロック32を駆動して他方の可動板26を上方に回動させる。これにより、食品原料Mに剪断力が発生して、食品原料Mは半部分M1および半部分M2に分離する。その後は、図4(b)および図4(c)を参照して前述した処理を行うことにより、半部分M1、M2をハウジング11の出口15から順次排出することができる。
【0034】
このように、本発明においては、二つの可動板25、26が互いに独立して動作可能であるので、一方の可動板を動作させることにより、湿熱処理済みの食品原料Mに対して、排出すべき方向に沿って剪断力を生じさせられる。このため、食品原料Mが互いに接着している場合であっても、食品原料Mを分離して、ハウジング11の出口15から良好に排出することが可能である。特に、本発明は食品原料MにブリッジM0、M3が形成される場合であっても、食品原料Mを良好に排出できるのが分かるであろう。
【0035】
このため、本発明においては、食品原料Mの排出時に作業者が櫂棒で食品原料Mを突いて排出させる必要はなく、従って、櫂棒が例えば排出スクリュ13に巻込まれる等の危険性を排除できる。それゆえ、本発明においては、作業者が危険にさらされることなしに、排出効率を飛躍的に高めることが可能である。
【0036】
このため、本発明においては、食品原料Mを排出するための追加の装置、例えば回転式スクレーパを導入する必要もない。さらに、両方の可動板を上方に回動させることにより、図示しない洗浄装置を用いて可動板25、26の両面を容易に洗浄することも可能である。
【0037】
なお、図面を参照して説明した実施形態においては、アーム21、22のそれぞれに連結された可動板25、26を回動させている。しかしながら、可動板25、26の数は二つに限定されず、さらに多数の可動板を回動させる構成であってもよい。また、二つの可動板25、26を同時に同方向または逆方向に移動させて食品原料Mをハウジング11から排出するようにしてもよい。さらに、可動板25、26を回動軸部23、24回りに回動させる必要はなく、可動板25、26のそれぞれを独立して昇降させることにより食品原料Mに剪断力を与えて食品原料Mを半部分M1、M2に分離してもよい。そのような場合であっても、本発明の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0038】
10 湿熱処理装置
11 ハウジング
12 投入口
13 排出スクリュ
15 出口
17、18 蒸気通路
19 扉
21、22、21’、22’ アーム
23、24 回動軸部
25、26 可動板
29 仕切部
31、32、31’、32’ チェーンブロック(駆動部)
33、34 係止部
35 蒸気源
36 送風機
41、42、41’、42’ チェーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品原料の湿熱処理装置において、
前記食品原料のための入口と出口とが形成されたハウジングと、
該ハウジング内に蒸気を供給する蒸気供給部と、
前記ハウジング内部において前記入口と前記出口との間に配置された二つの可動板と、を具備し、前記二つの可動板は互いに協働して前記ハウジング内部に仕切部を形成するようになっており、
さらに、
該可動板のそれぞれを独立して動作させる二つの駆動部を具備する湿熱処理装置。
【請求項2】
前記駆動部がチェーンブロックである請求項1に記載の湿熱処理装置。
【請求項3】
食品原料のための入口と出口とが形成されたハウジングと、該ハウジング内に蒸気を供給する蒸気供給部と、前記ハウジング内部において前記入口と前記出口との間に配置された二つの可動板と、を具備し、前記二つの可動板は互いに協働して前記ハウジング内部に仕切部を形成するようになっており、さらに、該可動板のそれぞれを独立して動作させる二つの駆動部を具備する湿熱処理装置における前記食品原料の湿熱処理方法において、
前記二つの駆動部により前記二つの可動板を駆動して仕切部を形成し、
前記食品原料を前記ハウジングの前記入口から前記仕切部上に供給し、
前記蒸気供給部により蒸気を前記ハウジング内に供給して前記食品原料を湿熱処理し、
少なくとも一方の前記駆動部により、対応する少なくとも一方の前記可動板を動作させて、前記食品原料に対して剪断力を生じさせつつ、前記食品原料を前記ハウジングの出口から排出する湿熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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