説明

食品添加用の乳化剤、及び、その製造方法

【課題】 卵黄成分が半変性状態となっている加糖卵黄と同様の利点を有しつつ、乳化作用においては従来の加糖卵黄よりも優れている食品添加用の乳化剤を提供する。
【解決手段】 pH12〜13を示すアルカリ性の水と、当該アルカリ性の水の4.5〜5.5倍の重量に相当する生卵黄とを混合し、この混合物の温度を20〜30℃の範囲に保ちながら前記アルカリ性の水と前記生卵黄とが混ざり合うまで攪拌し、この攪拌した混合物に前記生卵黄の0.9〜1.1倍の重量に相当する糖質を加えた後、これを1〜10気圧の条件下において、80〜90℃の範囲に保ちながら少なくとも1時間以上攪拌して、食品添加用の乳化剤を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品添加用の乳化剤、及び、その製造方法に関し、特に、卵黄、糖質、及び、アルカリ性の水を原料とする食品添加用の乳化剤、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、食品添加用の乳化剤として、生卵黄と糖質とを原料とする加糖卵黄が知られている。加糖卵黄は、肉や魚等の生臭さや、小麦粉等の粉臭さを抑えるマスキング効果、及び、解凍時における離水を防止して冷凍食品の風味を維持する効果等を有している。そのため、様々な食品の製造において乳化剤として広く使用されている。また、加糖卵黄は、一般的に、生卵黄とほぼ同量の糖質を含んでおり、非常に糖度が高く保存性に優れている。そのため、合成保存料等を必要としない安全性の高い乳化剤として使用されている。
【0003】
このような加糖卵黄に関しては、例えば、本願発明者が提案して特許を取得した、生卵黄と糖質とを高圧条件下で加熱することによって、卵黄成分が半変性状態となっている加糖卵黄(特開平2−203768号)についての発明がある。
【0004】
この発明によれば、生卵黄と糖質との混合物を高圧条件下で加熱し、卵黄成分を半変性状態としているため、加糖卵黄の製造時間を大幅に短縮することができる。また、この発明に係る加糖卵黄は、卵黄成分が半変性状態で水溶性となっているため、卵黄成分が完全に変性した加糖卵黄と比べて、他の食材と混ざりやすく、乳化剤として使いやすいという利点を有している。
【0005】
【特許文献1】特開平2−203768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような加糖卵黄であっても、乳化させる際の方法が不適当であると、油脂(サラダ油、バター等)と、水溶性の液体(水、卵黄、卵白、牛乳等)との乳化がうまく行われず、乳化剤として好適に作用しない、という問題があった。
【0007】
この問題は、通常、加糖卵黄を使用して油脂と水溶性の液体とを乳化させる際に、加糖卵黄を加えた油脂に水溶性の液体を少しずつ加えて攪拌しなければならないところ、この水溶性の液体を少しずつ加えなかったことによって起こるものである。水溶性の液体を少しずつ加えないと、その後、いくら油脂と水溶性の液体とを攪拌しても、これらが好適に混ざり合うことはなく、乳化は失敗してしまうことになる。
【0008】
特に、このような問題は、食品製造の現場において、比較的頻繁に起こり得る。なぜなら、このような現場では、常に、製造時間の短縮が要求されており、各工程における時間的制約が多いため、作業者が、作業を急ぐ余り、油脂に少しづつ水溶性の液体を加えずに、まとめてこれを加えてしまうことがあるからである。また、乳化の作業工程について熟知していない作業者が、水溶性の液体をまとめて加えてしまうことによっても、このような問題が起こることがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、このような問題を解決するため、卵黄成分が半変性状態となっている加糖卵黄と同様の利点を有し、且つ、乳化作用においては、従来の加糖卵黄よりも優れていて、油脂に少しづつ水溶性の液体を加えずとも、好適に乳化を行うことのできる乳化剤について研究を行ってきた。そして、鋭意検討を重ねた結果、以下のような方法で食品添加用の乳化剤を製造することによって、卵黄成分が半変性状態となっている加糖卵黄と同様の利点を有しつつ、乳化作用においては従来の加糖卵黄よりも優れている食品添加用の乳化剤を完成するに至った。
【0010】
そのような食品添加用の乳化剤を得るための手段として、本発明に係る食品添加用の乳化剤は、pH12〜13を示すアルカリ性の水と、当該アルカリ性の水の4.5〜5.5倍の重量に相当する生卵黄とを混合し、この混合物の温度を20〜30℃の範囲に保ちながら前記アルカリ性の水と前記生卵黄とが混ざり合うまで攪拌し、この攪拌した混合物に前記生卵黄の0.9〜1.1倍の重量に相当する糖質を加えた後、これを1〜10気圧の条件下において、80〜90℃の範囲に保ちながら少なくとも1時間以上攪拌して製造することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る食品添加用の乳化剤は、生卵黄と糖質とを含んでいるため、これを使用して食品を製造した場合、従来の加糖卵黄が有している、マスキング効果や冷凍食品の風味を維持する効果を得ることができる。
【0012】
また、従来の加糖卵黄と比べて、乳化作用において優れているので、本発明に係る食品添加用の乳化剤を使用した場合には、油脂と水溶性の液体とを混合して攪拌する際に、水溶性の液体を少しずつ加えなくても、これらを好適に乳化させることができる。
【0013】
従って、本発明に係る食品添加用の乳化剤を使用すれば、製造時間の短縮が要求されている食品製造の現場において、乳化作業の工程時間を大幅に短縮することができる。また、乳化の作業工程について熟知していない作業者が、水溶性の液体をまとめて加えてしまったとしても、乳化に失敗するようなこともない。
【0014】
尚、なぜ、本発明に係る食品添加用の乳化剤が、従来の加糖卵黄と比べて乳化作用において優れているのかは、必ずしも明らかではないが、製造過程において、生卵黄に糖質を加える前に水を加えること、また、この水が、pH12〜13を示すアルカリ性の水であることが、深く関係していると考えられる。
【0015】
なぜなら、生卵黄と糖質とを混合してからアルカリ性の水を加えて乳化剤を製造した場合や、加える水がpH12未満のもの、或いは、pH13を超えるものを使用して乳化剤を製造した場合には、本発明に係る乳化剤のように、従来の加糖卵黄と比べて、乳化作用において優れた乳化剤を得られないからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る食品添加用の乳化剤の製造方法を実施するための最良の形態について説明する。
【0017】
まず、pH12〜13を示す適当な量のアルカリ性の水と、このアルカリ性の水の4.5〜5.5倍の重量に相当する生卵黄とを用意する。そして、これらを一つの容器に入れて混合し、この混合物の温度を20〜30℃の範囲に保ちながら、これを攪拌する。
【0018】
次に、この混合物に、前記生卵黄の0.9〜1.1倍の重量に相当するショ糖を加える。尚、ショ糖を加える際は、ショ糖が前記混合物と好適に混ざるようにするため、前記混合物をよく攪拌しながら少しずつ加えることが好ましい。また、ここではショ糖を使用しているが、糖質であれば、ショ糖に限らず、ブドウ糖、トレハロース等を使用することも可能である。
【0019】
そして、ショ糖を加えたら、これを耐圧容器に入れ、1〜10気圧の条件下において、このショ糖を加えた混合物の温度を80〜90℃の範囲に保ちながら、少なくとも1時間以上攪拌する。このようにして、卵黄成分が半変性状態となっている食品添加用の乳化剤を得る。
【0020】
尚、以上の製造過程において80℃以上で加熱されているのにも関わらず、得られた食品添加用の乳化剤の卵黄成分が完全には変性せず、半変性状態となっているのは、生卵黄に、多量(生卵黄とほぼ同じ重さに相当する量)のショ糖が加えられることによって、卵黄成分の凝固点が上昇しているからであると考えられる。
【0021】
また、本実施形態において、アルカリ性の水のpHを12〜13としているのは、pH12未満、或いは、pH13を超えると、本発明に係る所定の効果が得られないからである。このようなアルカリ性の水は、例えば、特開平8−24865号公報に記載されているような方法によって製造することができる。
【0022】
更に、アルカリ性の水に混合する生卵黄の量を、アルカリ性の水の4.5〜5.5倍の重量に相当する量としているのは、この範囲とすることで、製造後の乳化剤において、最も乳化の効果が認められ、この範囲外とすると、その効果が著しく損なわれてしまうからである。
【実施例】
【0023】
次に、以下に示す実施例により、本発明について更に詳細に説明を行う。
【0024】
[実施例1]
<本発明に係る食品添加用の乳化剤の製造>
pH12.5を示すアルカリ性の水200gと、生卵黄1000gを用意した。これらを容器に入れて混合し、この混合物を20〜30℃の範囲に保ちながら攪拌した。そして、この混合物を攪拌しながら、ショ糖1000gを少しずつ加えた。ショ糖を加えた混合物を、耐圧容器に入れ、5気圧の条件下において、温度を85℃に保ちながら、1時間20分間攪拌した。その後、これを網で漉し、卵黄成分が半変性状態となっているペースト状の食品添加用の乳化剤を得た。
【0025】
<本発明の乳化剤を使用したうどんの麺の製造>
こうして得た乳化剤を使用して、次の工程によりうどんの麺を製造した。まず、乳化剤9gとサラダ油4.5gとを容器内で混ぜ合わせてから、この容器内に水145gを一度に加えて混ぜ合わせた。ここに、小麦粉300g、塩15gを加えて良く練り、麺生地を作った。この麺生地から常法によってうどんの麺を製造した。
【0026】
上記麺生地には、油脂が分離している様子は見られなかった。また、この麺生地から製造したうどんの麺を茹でてみたところ、茹で汁に油が浮遊するようなことはなかった。この結果から、上記製造過程において、乳化剤とサラダ油とを混ぜ合わせたものに分量の水を一度に加えたのにも関わらず、乳化が好適に行われたことが確認された。また、上記製造過程では、分量の水を一度に加えたため、生地を作るまでの時間を、分量の水を少しずつ加える場合と比べて、大幅に短縮できた。
【0027】
[比較例1]
次に、上記実施例1と比較するため、従来の方法(特許文献1に記載の方法)により加糖卵黄を製造し、これを使用してうどんの麺を製造した。
【0028】
<従来の加糖卵黄の製造>
生卵黄1000gを攪拌しながら、これにショ糖1000gを少しずつ加えた。これを耐圧容器に入れ、600〜800気圧の加圧条件下で50℃まで加熱し、30分後に耐圧容器から取り出して、網で漉し、卵黄成分が半変性状態となっているペースト状の加糖卵黄を得た。
【0029】
<従来の加糖卵黄を使用したうどんの麺の製造>
こうして得た加糖卵黄を使用して、次の工程によりうどんの麺を製造した。まず、加糖卵黄6gとサラダ油3gとを容器内で混ぜ合わせてから、この容器内に水145gを一度に加えて混ぜ合わせた。ここに、小麦粉300g、塩15gを加えて良く練り、麺生地を作った。この麺生地から常法によってうどんの麺を製造した。
【0030】
上記麺生地からは、油脂が分離している様子が確認された。また、この麺生地から製造したうどんの麺を茹でてみたところ、茹で汁に油が浮遊していた。この結果から、麺生地において、サラダ油と水とが分離しており、乳化に失敗していたことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH12〜13を示すアルカリ性の水と、当該アルカリ性の水の4.5〜5.5倍の重量に相当する生卵黄とを混合し、この混合物の温度を20〜30℃の範囲に保ちながら前記アルカリ性の水と前記生卵黄とが混ざり合うまで攪拌し、この攪拌した混合物に前記生卵黄の0.9〜1.1倍の重量に相当する糖質を加えた後、これを1〜10気圧の条件下において、80〜90℃の範囲に保ちながら少なくとも1時間以上攪拌して製造することを特徴とする食品添加用の乳化剤。
【請求項2】
pH12〜13を示すアルカリ性の水と、当該アルカリ性の水の4.5〜5.5倍の重量に相当する生卵黄とを混合し、この混合物の温度を20〜30℃の範囲に保ちながら前記アルカリ性の水と前記生卵黄とが混ざり合うまで攪拌し、この攪拌した混合物に前記生卵黄の0.9〜1.1倍の重量に相当する糖質を加えた後、これを1〜10気圧の条件下において、80〜90℃の範囲に保ちながら少なくとも1時間以上攪拌して製造することを特徴とする食品添加用の乳化剤の製造方法。

【公開番号】特開2006−141272(P2006−141272A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335323(P2004−335323)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(591087703)株式会社アロンワールド (13)
【Fターム(参考)】