説明

食品添加素材の製造方法

【課題】本発明が解決しようとする課題は、パンにワイン風味を確実に与えることができ、また種々の用途に利用することが可能で、しかも添加する食品にワイン風味のみならずワインの色合いをも付加することができる食品添加素材の製造方法を提供しようとするものである。
【解決手段】下記工程を含むことを特徴とする食品添加素材の製造方法。
a.ワイン搾汁後の残渣に対してほぼ等量を加水した上、水分を保持するよう加水しながら約30分〜1時間程度煮沸する工程
b.残渣および煮沸水ともどもミキシングして網目が2mm前後のメッシュを用いて裏漉しする工程
c.得たペースト100重量部に対し、所要量のワイン酵母を添加して温度約20〜25℃で約7〜10日間発酵する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、従来廃棄されていたワイン搾汁後の残渣を食品添加素材として有効に活用できるようにするための食品添加素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイン搾汁後の残渣は利用されずに廃棄されていたが、わずかに、脱水して乾燥し、そのまま牛の試料等に利用したり、堆肥として利用することが行なわれていた。
例えば、特開2002−171916号公報(特許文献1参照)には、ぶどう酒の絞り粕を約1ヶ月ほど、周囲から雑菌が入って正常な発酵を妨げることがない程度に環境を管理された施設で発酵させた後に乾燥させ、その後絞り粕を破砕機で砕き分級して飼料原料とすることが提案されている。
【0003】
また、食品添加素材としては、特開2002−360208号公報(特許文献2参照)のように、ワイン製造用のぶどう果実粒の種皮及び/又は種子を含む圧搾かすを、乾燥させた後、粉砕することにより含水率10%以下の粉末にして焼き菓子等に利用する食用粉末の製造方法が提案されている。
【0004】
さらに、特開2007−124996号公報(特許文献3参照)には、ブドウ酒発酵液の残渣を綿布袋に入れ圧迫或いは搾り、糖質非アルコール性発酵酵素が多量に含まれる液体を得る。これを糖液(糖濃度20〜40%)に混合し、15〜30℃にて48〜72時間培養して純粋培養液を得る。この培養液に小麦粉を添加して発酵させ、風味豊かな自然食品のパンを製造することが示されている。
【特許文献1】特開2002−171916号公報
【特許文献2】特開2002−360208号公報
【特許文献3】特開2007−124996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開2002−171916号公報(特許文献1参照)のように、ぶどう酒の絞り粕を約1ヶ月ほど発酵させた後に乾燥させ、その後絞り粕を破砕機で砕き分級して飼料原料とするものにおいては、発酵を絞り粕のブドウの果皮や種そのものを含んだ状態で行なっている。
したがって、発酵の度合いにばらつきが生じやすく、もちろん、その後絞り粕を破砕機で砕き分級したものは、食品添加素材には到底なり得ないものであった。
【0006】
また、特開2002−360208号公報(特許文献2参照)のように、ワイン製造用のぶどう果実粒の種皮及び/又は種子を含む圧搾かすを、乾燥させた後、粉砕することにより含水率10%以下の粉末にして焼き菓子等に利用する場合においては、単なるぶどう果実粒の再利用に過ぎず、ワイン風味等を食品に与えることができる食品添加素材とはなりえないものであった。
【0007】
さらに、特開2007−124996号公報(特許文献3参照)のように、純粋培養液の状態で小麦粉を添加して発酵させることによりパンを製造するものにおいては、パンにワイン風味を与えることができる可能性はあるものの、パンの製造方法が極めて限定されたものとなり、またパンにワイン風味のみならずワインの色合いをも付加することが難しいという問題があった。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、パンにワイン風味を確実に与えることができ、また種々の用途に利用することが可能で、しかも添加する食品にワイン風味のみならずワインの色合いをも付加することができる食品添加素材の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこでこの発明の食品添加素材の製造方法は下記工程を採用したことを特徴としている。
a.ワイン搾汁後の残渣に対してほぼ等量を加水した上、水分を保持するよう加水しながら約30分〜1時間程度煮沸する工程
b.残渣および煮沸水ともどもミキシングして網目が2mm前後のメッシュを用いて裏漉しする工程
c.得たペースト100重量部に対し、所要量のワイン酵母を添加して温度約20〜25℃で約7〜10日間発酵する工程
【0010】
この発明の食品添加素材の製造方法は、前記c工程が下記工程からなることをも特徴とするものである。
c.得たペースト100重量部に対して約10〜30重量部を加糖した上、所要量のワイン酵母を添加して温度約20〜25℃で約7〜10日間発酵する工程
【0011】
この発明の食品添加素材の製造方法は、前記残渣および煮沸水ともどもミキシングする作業を、回転刃付きの撹拌器を用いて行なうようにしたことをも特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
この発明の食品添加素材の製造方法は以上のように構成したので、パンにワイン風味を確実に与えることができ、また種々の用途に利用することが可能で、しかも添加する食品にワイン風味のみならずワインの色合いをも付加することができる食品添加素材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、下記実施例に基いてこの発明の食品添加素材の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
<ブドウペーストの作成>
ブドウ果実としてベリーAを用い、これをワイン用に搾汁した後の残渣100重量部に対し、ほぼ等量を加水した上、水分を保持するよう途中で加水しながら、約30分程度煮沸した。この工程により、残渣集荷後の変質や過発酵、雑菌等の感染を防ぐとともに、残った有効成分を取り出して、果皮の破砕を容易にすることができる。
得た煮沸後の残渣および煮沸水をともども回転刃付きの撹拌器(例えばフードプロセッサ類)を用いてミキシングした後、網目が約2mmのメッシュを用いて裏漉し、種子や茎類を除去した。
得たペースト100重量部に対して加糖することなく、発酵容器において通常のワイン発酵に使用するワイン酵母(YOUNG社のワインイースト)を0.2重量部添加し、温度約23℃で約8日間発酵した。
得たワイン風味と赤紫色のペーストを−25℃で冷凍保存するか、レトルトパックに包装して保存した。もちろん、缶詰にしたり、瓶詰めしてもよい。
【0015】
<ワインパンの作成>
下記配合でパン生地を作成する。
強力粉 100(重量部)
砂糖 5
塩 1.5
パン酵母 3
水 32
ワインペースト 32
前記配合物をミキサーにて低速8分で混ぜ合わせた上、一次発酵を温度30℃、湿度85%で1時間、形成二次発酵を温度38℃、湿度85%で45分、焼成を温度190℃で15分行なった。
得たワインパンを、表1をもとに風味や食感、色合い等の官能試験に付した。
【表1】

得たワインパンは、風味や食感、色合い等の官能試験において表2の特徴を有するものであった。
【表2】

n(パネル数)=20
【0016】
<ワインケーキの作成>
下記配合でケーキ生地を作成する。
薄力粉 100(重量部)
砂糖 100
全卵 90
ミルク 30
バター 20
ベーキングパウダー 15
ワインペースト 15
前記配合物をミキサーにて低速8分で混ぜ合わせた上、焼成を温度180℃で40分行なった。
なお、ベリーAのような赤ワインの場合、ワイン成分のアントシアニンとベーキングパウダーが反応して退色するので、製品にカットした後、赤ワインを噴霧してアルカリ反応でワイン色を呈するようにする。
得たワインケーキは、風味や食感、色合い等の官能試験において表3の特徴を有するものであった。
【表3】

n(パネル数)=20
【0017】
<ワインジャムの作成>
下記配合でワインジャムを作成する。
ワインペースト 100(重量部)
砂糖 90
ペクチン 50
水飴 10
レモン 3
赤ワイン 5
前記配合物をミキサーにて低速8分で混ぜ合わせた上、加熱してジャムを作成した。
得たワインジャムは、風味や食感、色合い等の官能試験において表4の特徴を有するものであった。
【表4】

n(パネル数)=20
【実施例2】
【0018】
<ブドウペーストの作成>
ブドウ果実として甲州種を用い、これをワイン用に搾汁した後の残渣100重量部に対し、ほぼ等量を加水した上、水分を保持するよう途中で加水しながら、約30分程度煮沸した。この工程により、残渣集荷後の変質や過発酵、雑菌等の感染を防ぐとともに、残った有効成分を取り出して、果皮の破砕を容易にすることができる。
得た煮沸後の残渣および煮沸水をともども回転刃付きの撹拌器(例えばフードプロセッサ類)を用いてミキシングした後、網目が約2mmのメッシュを用いて裏漉し、種子や茎類を除去した。
得たペースト100重量部に対して、20重量部の加糖を行なうとともに、発酵容器において通常のワイン発酵に使用するワイン酵母(YOUNG社のワインイースト)を0.2重量部添加し、温度約23℃で約10日間発酵した。
得たワイン風味とクリーム色のペーストを−25℃で冷凍保存するか、レトルトパックに包装して保存した。もちろん、缶詰にしたり、瓶詰めしてもよい。
【0019】
<ワインパンの作成>
下記配合でパン生地を作成する。
強力粉 100(重量部)
砂糖 5
塩 1.5
パン酵母 3
水 32
ワインペースト 32
前記配合物をミキサーにて低速8分で混ぜ合わせた上、一次発酵を温度30℃、湿度85%で1時間、形成二次発酵を温度38℃、湿度85%で45分、焼成を温度190℃で15分行なった。
得たワインパンは、風味や食感、色合い等の官能試験において表5の特徴を有するものであった。
【表5】

n(パネル数)=20
【0020】
<ワインケーキの作成>
下記配合でケーキ生地を作成する。
薄力粉 100(重量部)
砂糖 100
全卵 90
ミルク 30
バター 20
ベーキングパウダー 15
ワインペースト 15
前記配合物をミキサーにて低速8分で混ぜ合わせた上、焼成を温度180℃で40分行なった。
得たワインケーキは、風味や食感、色合い等の官能試験において表6の特徴を有するものであった。
【表6】

n(パネル数)=20
【0021】
<ワインジャムの作成>
下記配合でワインジャムを作成する。
ワインペースト 100(重量部)
砂糖 90
ペクチン 50
水飴 10
レモン 3
赤ワイン 5
前記配合物をミキサーにて低速8分で混ぜ合わせた上、加熱してジャムを作成した。
得たワインジャムは、風味や食感、色合い等の官能試験において表7の特徴を有するものであった。
【表7】

n(パネル数)=20
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上のように構成したこの発明は、ベリーAや甲州種のぶどうのみならず、他の品種のワイン醸造用ぶどうのみならず、ワインとして醸造される他の果実を用いた食品添加素材の製造にも用いることができるのはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含むことを特徴とする食品添加素材の製造方法。
a.ワイン搾汁後の残渣に対してほぼ等量を加水した上、水分を保持するよう加水しながら約30分〜1時間程度煮沸する工程
b.残渣および煮沸水ともどもミキシングして網目が2mm前後のメッシュを用いて裏漉しする工程
c.得たペースト100重量部に対し、所要量のワイン酵母を添加して温度約20〜25℃で約7〜10日間発酵する工程
【請求項2】
前記c工程が下記工程からなることを特徴とする請求項1記載の食品添加素材の製造方法。
c.得たペースト100重量部に対して約10〜30重量部を加糖した上、所要量のワイン酵母を添加して温度約20〜25℃で約7〜10日間発酵する工程
【請求項3】
残渣および煮沸水ともどもミキシングする作業を、回転刃付きの撹拌器を用いて行なうようにしたことを特徴とする請求項1記載の食品添加素材の製造方法。

【公開番号】特開2009−165427(P2009−165427A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8776(P2008−8776)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(508019252)
【Fターム(参考)】