説明

食品用木製積層板

【課題】
薄板を、その表面の物性を低下させることなく、軟質木材の樹齢が低く安価で軟質の木材からでも製造出来るようにして、大幅なコストダウンを図ること。強度や防水性において優れ、環境汚染の問題を起こすことなく木製食品容器としても利用できる安価に製造できる技術を提供する。
【解決手段】
薄板の繊維方向が互いに交差するように積層した少なくとも2〜4枚の木材スライス単板を含む複数の木材スライス単板直交にして接着剤で張り合わせた積層板を作製する、積層板を加圧成型する工程を含む木製食品容器の蓋を製造し、また、容器本体とその外周の張出縁とを備える木製容器の蓋を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製食品容器とその蓋に関する分野に属し、特に、天然木を利用した好適な木製食品容器とその蓋に関する。
【背景技術】
【0002】
松、杉、檜、ポプラ等の軟質木材などの天然木を適正に維持管理するためには間引きを行うことが必要であり、それに伴い間伐材が産出されるが、その用途は限られている。また、日本国内におけるスギ材を中心とした針葉樹林の備蓄量は年々増加しているにもかかわらず、需要は低迷しているのが現状である。
【0003】
一方、環境問題が叫ばれている昨今、産業廃棄物など不燃物の処理に対する将来への不安が募りつつあり、スチロール製食品用トレー等の石油化学製品を原料とした容器の使い捨てによる不燃ゴミの増加が問題になっている。
【0004】
そこで、松、杉、檜、ポプラ等の軟質木材などの木材を容器として新規に製品開発することができれば、焼却可能なゴミとして各家庭でも処理でき、有害ガスの発生も起こさず、併せて上記の天然木の有効利用の問題も解決するものとして期待される。
【0005】
松、杉、檜、ポプラ等の軟質木材から成るトレー状等の容器は従来からも幾つか見受けられるが、一体的に成型されたものは少なく、薄板状の本体に側壁部を別途止着したり、あるいは、薄板本体の一部に設けた切り込み部を折り曲げて側壁部を形成する等の手段により、容器の形状にしたものが多い。最近、木質単板を成型し容器として加工する方法も提案されている(特許文献3,4参照)が、成型工程が複雑である。
【0006】
また、これらの従来の木製容器は、いずれも、木材の繊維に平行な方向に裂けやすく、横方向においても折り曲げにより容易に割れる欠点を有し、さらに、時間の経過とともに割れがひどくなることがあり、その用途は限られている。
【0007】
一体成型するタイプの容器においては、特に湾曲部に当初から割れやささくれが見られることが多く外観上も好ましくない。さらに、これらの従来技術による木製容器は、防水性の点でも充分でなく、水分を多量に含む食品用トレー等の用途には適していない。
【0008】
木質素材の性状改良のためには成型前または成型後に合成樹脂を含浸させたりおよび/または合成樹脂層を接合させることが行われており、このような手段を採れば、強度や防水性が向上した木製容器を得ることも可能であろうが、製造工程が複雑となり、また、コストがかかるものが多く経済的とは言えず、さらに合成樹脂の使用により環境上の問題も引き起こすおそれがある。
【0009】
さらに、最近、天然素材として竹を用いたトレーなどの容器も見受けられるようになったが、竹に比べて強度や加工性の低い木材を用いて実用に供し得るようなトレー等を一体的に製造できる技術は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−114906号公報
【特許文献2】特開2002−326204号公報
【特許文献3】特開平09−99412号公報
【特許文献4】特開平08−25301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、強度や柔軟性において従来のものより優れ、しかも環境汚染の問題を起こすことはない木製食品容器とその蓋を安価に製造できる技術を確立することにある。
また木製の食器は、食品を充填すると、薄板自身が波打ちして、食品を収納する場合に困難をきたした。
【0012】
さらに上記のように従来の薄板は、単に高価であるだけでなく、その製造に樹齢の高い希少な広葉大木が必要となるため、地球的資源保護や環境保護の観点からも問題されていた。杉や松、桧、ポプラ、等間伐材などの安価な木材を使用して、波打ちしなく、破損し難い木製食品容器とその蓋を製造することを試みた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
繊維方向が互いに交差するように積層した少なくとも2〜4枚の木材スライス単板を含む複数の木材スライス単板を接着剤で張り合わせて、0・5〜3mmの厚さに成型する食品用木製積層板である。
前記木材スライス単板は、松、杉、檜、ポプラ、イチョウ、楠、他の木材等の軟質木材からなり、厚さ200ミクロン〜1500ミクロンである。
【0014】
接着剤として、多糖質系食品添加物プルラン(林原商事製)の水溶液にして、前記スライス単板に塗布して使用する。
積層板の加圧成形は、2〜4枚の木材スライス単板の表面に接着剤処理を施して、2〜100kg/cm2で処理する。
【0015】
2〜4枚のスライス単板を加圧成形した平板を、食器形状の縦30mm〜5000mm、横50mm〜5000mmに裁断して、箱型、円筒型、楕円形型、ハート型に組み立ている食品用木製積層板である。
【0016】
本発明は、上記の目的を達成するものとして、繊維方向が互いに交差するように積層した少なくとも2〜4枚の木材スライス単板を含む複数の木材スライス単板(薄板)を接着剤で張り合わせた積層板を作製する工程、該積層板を常温下で加圧する工程、および該積層板を型取りする工程を含む木製食品容器を製造するものである。
【0017】
原材料的には、松、杉、檜、ポプラ等の軟質木材を使用することが望ましい。木材スライス単板の接着積層工程および成型工程から成る簡単な工程により木製食品容器を製造することができ、使用するスライス単板を構成する木材は、広葉樹および針葉樹のいずれでもよいが、好ましい例としては、スギ、ヒノキ、スプルス、ベイマツ、アカマツ、ブナ、キリ、ファルカータ等軟質木材が挙げられる。
【0018】
採伐した材をそのまま、あるいは、乾燥された材を0.2mm 〜1.5mm に加工したものを用いる。木目は柾目、板目を問わず、単板を直交している。スライス単板の幅および長さは、製造する木製容器の大きさに応じて任意に選択し得る。
【0019】
本発明において積層板作製に用いる接着剤としては、食品などを載せる容器に適するように接着養生後有害物質を発生せず、また、使用済みの容器を廃棄して燃焼させたときに不燃物や有害ガスを発生しないように、本質的に炭素(C)、水素(H)および酸素(O)のみから構成され、且つ、後の加工成型が容易となるように接着後に弾性を有する接着剤を用いる。
【0020】
この条件を満たす好ましい接着剤の例としては、多糖類プルラン、グルコマンナン等が挙げられる。これらの接着剤は、積層した各スライス単板が軽く接着する程度に少量使用すればよい。
【0021】
本発明の方法においては、以上のようにして得られた積層板を常温下に加圧する。この冷圧処理は、積層板のスライス単板が互いに仮接着程度の強度を有するようになるまで2kg/cm2〜100kg/cm2の圧力下に行う。
【発明の効果】
【0022】
本発明の効果は、強度や柔軟性において従来のものより優れ、しかも環境汚染の問題を起こすことはなく、木製食品容器とその蓋を安価に製造することができた。
また木製の食器は、食品を充填しても、板面の薄板自身が波打ちをおこさず、食品を収納した場合に変形は全くなかった。
【0023】
さらに上記のように従来の薄板は、単に高価であるだけでなく、安価な材料を使用することができて、地球的資源保護や環境保護の観点からも優れていた。
前記圧縮固定積層体を構成する各薄板状木材は、圧縮変形時の圧縮率や加熱による変化等がなかった。
【0024】
これによって当該積層体の切断面、即ち、突板の表面には、軸方向に沿った細い縞模様が不規則に現出して、表面に柾目状の高級な木目模様を備えた薄板として食用容器に利用することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】二枚薄板接着剤付積層体図 A:斜視図 B:表面板図 C:裏面板図 D:断面細部図
【図2】円筒型食器の形状図
【図3】円筒型食器の分解図 A:縁の外面板図 B:縁の内面板図 C:蓋板図 D:底板図
【図4】箱型食器の形状図
【図5】箱型食器の分解図 A:蓋の外面板図 B:蓋の内面板図 C−1〜C−4:内側面板図 D:底板図
【図6】ハート型食器の形状図
【図7】ハート型食器の分解図A:蓋の外面板図 B:蓋の内面板図 C:底の外板面図 D:底の内面板図E:縁の外面板図 F:縁の内面板図
【図8】三枚薄板接着剤付積層体図 A:斜視図 B:表面板図 C:中間板面図 D外面板図 E:断面細部図
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に従い使用される木製食品容器と蓋を製造するには、木材を薄くスライスした単板を用い、先ず、複数の木材スライス単板を接着剤で直交に張り合わせた積層板を作製する。この際、少なくとも2〜4枚の木材スライス単板を繊維方向(木目)が互いに交差するように、容器の一方の方向を縦方向、それと直交する方向を横方向とすれば、少なくとも1枚のスライス単板の繊維方向が縦方向に平行(またはほぼ平行)であり、別の少なくとも1枚のスライス単板の繊維方向が横方向に平行(またはほぼ平行)になるように配置して積層する。
【0027】
図1は、木材スライス単板を縦方向に2枚、横方向1枚張り合わせて積層板を作成する場合を例示するものである。積層数は特に限定されるものではないが、2〜5枚が好ましく、積層後の板厚は0.9mm 〜2.0mm が成型に適している。
【実施例1】
【0028】
松材の原木をスライスして、図1(A,B)に示すような厚さ0.5mm、幅600mm、長さ600mmの薄板を数枚とり、この二枚を木目で直交にして、接着剤プルラン(林原(株)商品名)を水に溶解した20%水溶液を均一に塗布して、これを常温で70kg/cm2の圧力で加圧を10分間行って、2枚積層体を得た。この積層体を幅150mm、長さ200mmの食品容器の蓋を製造した。図1(C)に示すようにこの蓋は1mmであって、1枚ものより強度が強く、水分の吸脱着によっても波状に変形しなかった。
【実施例2】
【0029】
杉材の原木をスライスして、厚さ0.5mm、幅600mm、長さ600mmの薄板を数枚とり、この二枚を木目で直交にして、接着剤プルラン(林原(株)商品名)を水に溶解した20%水溶液を均一に塗布して、これを常温で70kg/cm2の圧力で加圧を10分間行って、2枚積層体を得た。この積層体を図3のような各部品を作製して、それらを組み立てて図2に示すような直径150mm、高さ50mmの円筒型食品容器とその蓋を製造した。図1に示すようにこの蓋は2mmであって、1枚ものより強度が強く、水分の吸脱着によっても波状に変形しなかった。
【実施例3】
【0030】
杉材の原木をスライスして、厚さ0.5mm、幅600mm、長さ600mmの薄板を数枚とり、この二枚を木目で直交にして、接着剤プルラン(林原(株)商品名)を水に溶解した20%水溶液を均一に塗布して、これを常温で70kg/cm2の圧力で加圧を10分間行って、2枚積層体を得た。この積層体を図5のような各部品を作製して、それらを組み立てて図4に示すような横150mm、縦200mm、高さ40mmの箱型食品容器とその蓋を製造した。図1に示すようにこの蓋は2mmであって、1枚ものより強度が強く、水分の吸脱着によっても波状に変形しなかった。
【実施例4】
【0031】
松材の原木をスライスして、厚さ0.5mm、幅600mm、長さ600mmの薄板を数枚とり、この二枚を木目を直交にして、接着剤プルラン(林原(株)商品名)を水に溶解した20%水溶液を均一に塗布して、これを常温で70kg/cm2の圧力で加圧を10分間行って、2枚積層体を得た。この積層体を図7のような各部品を作製して、それらを組み立てて図6に示すようなこの積層体をハート型の食品容器とその蓋を製造した。図6に示すようにこの蓋は2mmであって、1枚ものより強度が強く、水分の吸脱着によっても波状に変形しなかった。
【実施例5】
【0032】
松材の原木をスライスして、厚さ0.5mm、幅600mm、長さ600mmの薄板を数枚とり、この二枚を木目を直交にして、接着剤プルラン(林原(株)商品名)を水に溶解した20%水溶液を均一に塗布して、これを常温で70kg/cm2の圧力で加圧を10分間行って、図8のような3枚積層体を得た。この積層体を幅150mm、長さ200mmの食品容器の蓋を製造した。図1に示すようにこの蓋は1.5mmであって、1枚ものより強度が強く、水分の吸脱着によっても波状に変形しなかった。
【符号の説明】
【0033】
1.蓋板の表面
2.蓋板の裏面
3.縁板の表面
4.縁板の内面
5.底板の表面
6.底板の内面



【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維方向が互いに交差するように、積層した少なくとも2〜4枚の木材スライス単板を含む複数の木材スライス単板を接着剤で張り合わせて、0・5〜3mmの厚さに成型していることを特徴とする食品用木製積層板。
【請求項2】
前記木材スライス単板は、松、杉、檜、ポプラの軟質木材からなり、厚さ200ミクロン〜1500ミクロンであることを特徴とする、請求項1に記載の食品用木製積層板。
【請求項3】
接着剤として、多糖質系食品添加物プルラン(林原商事製)の水溶液にして、前記スライス単板の接合面に塗布していることを特徴とする請求項1又は2に記載の食品用木製積層板。
【請求項4】
積層板の加圧成形は、2〜4枚の木材スライス単板で各々接する表面に接着剤による塗布処理を施して、2〜100kg/cm2で処理していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の食品用木製積層板。
【請求項5】
2〜4枚のスライス単板を加圧成形した平板は、食器形状の縦30mm〜5000mm、横50mm〜5000mmに裁断して、箱型、多角型、円筒型、楕円形型、ハート型に組み立てた食品用容器にしていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の食品用木製積層板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−148477(P2012−148477A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8807(P2011−8807)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(711000597)株式会社イマムラ・スマイル・コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】