説明

食後高血糖改善剤

【課題】食品又は医薬品として有用な食後高血糖改善剤の提供。
【解決手段】構成脂肪酸中のω9系不飽和脂肪酸含量が35質量%以上である、ジグリセリド及び/又はモノグリセリドを5質量%以上含有する油脂組成物を有効成分とする食後高血糖改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品又は医薬品として有用な食後高血糖改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、食後、特に糖質を含む食事を摂取した後は、血糖値が上昇することにより、インスリン分泌が促進される。インスリンは、脂肪組織・筋肉への糖取込みを促進し、中性脂肪(脂肪細胞)やグリコーゲン(筋細胞)として貯蔵する。また、インスリンは肝臓において糖新生(糖放出)を抑制する。このようにインスリンは肝臓・筋肉・脂肪などに作用し、食後の急激な血糖値上昇を抑制する。しかし、高血糖状態が維持され、インスリンの分泌が続くと、インスリンの標的臓器である筋肉、肝臓、脂肪組織でのインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)が生じ、さらに膵臓からインスリンがより多く分泌されるようになる。そして、インスリン分泌が繰り返されると、最終的に膵臓が疲弊し、膵β細胞からのインスリンの分泌が低下するが、各標的臓器のインスリン抵抗性は増大したままの状態となる。斯くしてインスリン作用機構が正常に機能しなくなると、肥満や糖尿病等になりやすい体質、更には肥満やII型糖尿病(高血糖症)等になることが知られている。
【0003】
近年、食後高血糖や高脂血症が心血管イベントの独立した危険因子であることが報告され(非特許文献1、2)、空腹時高血糖と循環器疾患が原因で死亡する確率の相関は低いが、糖負荷試験(OGTT)2時間値が200mg/dL以上の高血糖者は循環器疾患が原因で死亡する確率の相関が高いことが報告されている(非特許文献2)。さらに、血管内皮細胞を高血糖の状態で培養した場合、継続的に高血糖の状態にした場合よりも断続的に高血糖の状態にした場合に細胞のアポトーシスが高頻度に起こること(非特許文献3)も報告されている。
従って、食後の急激な血糖上昇とそれに伴う高インスリン血症を改善することが、糖尿病、動脈硬化症の予防につながると考えられている。
【0004】
更に、健常者と比較し、I型糖尿病ではインスリン分泌が低いこと、II型糖尿病では身体組織のインスリンに対する応答に障害があることが特質である。健常者の食後血糖値は、インスリンにより調節され、通常、食事に反応して7.8mmol/L(140mg/dL)よりも上昇することはなく、一般的に2〜3時間以内に食前値に戻る(非特許論文4、5)。しかしながら、インスリン作用が低下しているI型およびII型糖尿病患者では、極めて頻繁に食後高血糖の現象が認められる。更に、食後高血糖は進行性のインスリン作用の低下やβ細胞機能(インスリン分泌低下)という臨床的に明らかな糖尿病よりも前に生じる現象であり、食後の高血糖を防ぐことは、糖尿病、動脈硬化症の予防にもつながると考えられている。
【0005】
このような観点から、食後高血糖の改善のために、小腸における糖質の消化・吸収を遅延させるα−グルコシダーゼ阻害薬の投与や、インスリンの分泌を促すスルフォニウムウレア系製剤、速効型インスリン分泌促進薬等の投与が有効な方法として知られている。
【0006】
しかし、α−グルコシダーゼ阻害薬は、糖質摂取前の投与でないと効果が発揮できないこと、単糖であるグルコース摂取による血糖上昇には作用しないこと、大腸内での糖の異常発酵による下痢・ガスの貯留などの腸管症状が問題となっている。また、スルフォニウムウレア系製剤は糖質摂取前の投与でないと効果が発揮できないことや過剰に投与するとインスリンの過剰分泌を招き、低血糖を来すことがあり、注意が必要である。さらにこれら医療用合成製剤は、処方箋を必要とするため、簡易には入手できないばかりか、製剤の投与又は服用により種々の副作用を伴うことがあり、その使用にあたっては医師の厳格な管理・指導が必要である。
このため、日常的に用いることができ、かつ副作用の少ない食後高血糖改善剤が求められていた。
【0007】
一方、ジグリセリドは、食後の血中中性脂肪の上昇抑制作用(特許文献1、非特許文献6)や、血中HDLコレステロール上昇作用を有し(特許文献2)、調理油や種々の油脂加工食品に使用されている。また、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、α−リノレン酸等のω3系不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするジグリセリド等を肥満・糖尿病モデル動物に長期に摂取させた場合に血糖値低下作用があること(特許文献3)が知られている。
【0008】
更に、ジグリセリドと食後高血糖との関連については、構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15質量%未満であるジグリセリドでかつ、ジグリセリドの構成脂肪酸の39.41%がオレイン酸であるジグリセリド等を含む食事を単回摂取した場合、健常者では、インスリン分泌低下作用があるが、血糖値低下はないこと(特許文献4)が知られている。一方、インスリン作用の低下している糖尿病患者に対するこのジグリセリドと食後高血糖との関連については、何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−2835号公報
【特許文献2】特開2001−64170号公報
【特許文献3】特開2001−247457号公報
【特許文献4】特開2007−45789号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Diabetes Care.1999;22:920−924
【非特許文献2】Arch Intern Med.2001;161:397−405
【非特許文献3】Am J Physiol Endocrinol Metab.2001;281:E924−930
【非特許文献4】Diabetes Care.2001;24(4):775−778
【非特許文献5】J Clin Invest.1988;81(2):442−448
【非特許文献6】J Am Coll Nutr.2000;19(6):789−796
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、食品又は医薬品として有用な食後高血糖改善剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、食後に上昇する血糖値をコントロールするための素材について検討したところ、構成脂肪酸にω9系不飽和脂肪酸を多く含むジグリセリド及び/又はモノグリセリドを含有する油脂組成物が、食後の血糖上昇を有効に低下させることができ、特に、血糖上昇に対するインスリンの作用が相対的に低下している糖尿病患者や耐糖能異常やインスリン分泌に障害のない健常者においても、特定の脂肪酸組成のジグリセリドが食後高血糖を改善する作用を有すること、すなわち当該油脂組成物が糖尿病予防又は改善のための食品又は医薬品として有用であることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の1)〜2)に係るものである。
1)構成脂肪酸の35質量%以上がω9系不飽和脂肪酸である、ジグリセリド及び/又はモノグリセリドを5質量%以上含有する油脂組成物を有効成分とする食後高血糖改善剤。
2)構成脂肪酸の35質量%以上がω9系不飽和脂肪酸である、ジグリセリド及び/又はモノグリセリドを5質量%以上含有する油脂組成物を含有する食後高血糖改善用食品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の食後高血糖改善剤によれば、食後に上昇する血糖値を良好な範囲内に抑制できることから、これを用いることにより糖尿病(高血糖症)や肥満や動脈硬化、これらの予備軍の予防や体質改善を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】グルコースと油脂組成物1あるいは3を含む乳剤を投与した各ラット群の血糖値の480分間までの経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、ω9系不飽和脂肪酸とは、炭素−炭素不飽和結合の位置をω位(カルボキシル基から最も離れた位置)から特定し、ω位から9番目の炭素原子に最初の不飽和結合が位置する不飽和脂肪酸を意味する。当該ω9系不飽和脂肪酸の炭素数に特に制限はないが、炭素数8〜24が好ましく、16〜22がより好ましい。
好適なω9系不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、エイコサモノエン酸、ドコサモノエン酸、エルカ酸等が挙げられ、特にオレイン酸が好ましい。
本発明の食後高血糖改善剤に用いられるモノグリセリド及び/又はジグリセリドの構成脂肪酸としてのω9不飽和脂肪酸含量は、35質量%以上が必要であり、好ましくは37質量%以上、より好ましくは40質量%〜100質量%、さらに好ましくは50質量%〜95質量%である。また、ω9系不飽和脂肪酸であるエルカ酸は5質量%以下が好ましく、1質量%以下が特に好ましい。
なお、本発明の油脂組成物を投与又は摂取する対象が耐糖能異常やインスリン分泌に障害のある者(例えば、I型糖尿病患者やII型糖尿病患者など)である場合には、上記ω9不飽和脂肪酸含量が35質量%以上であれば良好な食後高血糖の改善効果が認められるが、耐糖能異常やインスリン分泌に障害のない健常者である場合、殊更上記ω9不飽和脂肪酸含量が50質量%以上、特に60質量%以上であることが好ましい。このように、上記剤に使用により、糖尿病(高血糖症)や肥満や動脈硬化症を予防でき、またこれらの予備軍の予防や体質改善を行うことができる。
【0017】
また、モノグリセリド及び/又はジグリセリドの構成脂肪酸としてのω9系不飽和脂肪酸以外の脂肪酸としては、ω3系不飽和脂肪酸、ω6系不飽和脂肪酸および飽和脂肪酸が挙げられる。ここで、構成脂肪酸としてのω3系不飽和脂肪酸の含量は1質量%〜14質量%であるのが好ましく、さらに5質量%〜14質量%であるのが好ましく、より更に7質量%〜14質量%であるのが好ましく、特に8質量%〜14質量%であるのが好ましい。また、構成脂肪酸としてのω6系不飽和脂肪酸の含量は0.5質量%〜75質量%であるのが好ましく、さらに2質量%〜60質量%であるのが好ましい。さらに構成脂肪酸として飽和脂肪酸の含量は30質量%以下が好ましく、さらに10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下が特に好ましい。更に、食後高血糖を改善する効果をより高めるという点から、(シス型不飽和+飽和)/(トランス型不飽和+飽和)は6以上が好ましく、より好ましくは9〜25、更に好ましくは9〜20である。また、ジグリセリド中のトランス型不飽和脂肪酸は5質量%以下が特に好ましい。
【0018】
ω3系不飽和脂肪酸とは、炭素−炭素不飽和結合の位置をω位から特定し、ω位から3番目の炭素原子に最初の不飽和結合が位置する脂肪酸であって、かつ炭素−炭素不飽和結合を2以上有するものをいうが、このうち、炭素−炭素不飽和結合を3〜6有するものが好ましい。ω3系不飽和脂肪酸の炭素数に特に制限はないが、8〜24が好ましく、16〜22がより好ましい。このうち、炭素数20以上のω3系不飽和脂肪酸としては、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸が好ましく、炭素数20未満のω3系不飽和脂肪酸としては、α−リノレン酸が好ましい。
【0019】
ω6系不飽和脂肪酸とは、炭素−炭素不飽和結合の位置をω位から特定し、ω位から6番目の炭素原子に最初の不飽和結合が位置する脂肪酸であって、かつ炭素−炭素不飽和結合を2以上有するものをいうが、このうち、炭素−炭素不飽和結合を2〜6有するものが好ましく、特に2〜4が好ましい。ω6系不飽和脂肪酸としては、リノール酸、γ−リノレン酸、アラキドン酸等が挙げられ、リノール酸が好ましい。
【0020】
構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸の量は、全構成脂肪酸の55質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0021】
本発明の油脂組成物には、ジグリセリド及び/又はモノグリセリドが5質量%以上含まれるが、ジアシルグリセリドの含有量は、血糖値上昇抑制効果の点から、好ましくは5質量%〜100質量%、より好ましくは15質量%〜100質量%、更に好ましくは40質量%〜99質量%、より更に好ましくは50質量%〜95質量%、特に好ましくは55質量%〜90質量%である。
また、モノグリセリドの含量は、風味、酸化安定性の点から好ましくは0質量%〜30質量%であり、より好ましくは0.1質量%〜10質量%、更に好ましくは0.1質量%〜5質量%、特に好ましくは0.1質量%〜2質量%、最も好ましくは0.1質量%〜1.5質量%である。
また、上記ジグリセリド及びモノグリセリド以外に、トリグリセリドを含んでいてもよく、その含有量は、0.1質量%〜95質量%、好ましくは0.1質量%〜85質量%、より好ましくは0.1質量%〜60質量%、さらに好ましくは0.1質量%〜50質量%である。トリグリセリドを構成する脂肪酸の組成も、上記ジグリセリド及びモノグリセリドの脂肪酸組成と同様であるのが好ましい。
【0022】
斯かる油脂組成物には、酸化安定性を向上させるために、グリセリド重合物を含有していてもよい。グリセリド重合物は、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリドといったグリセリドが、分子間で重合したもので(例えば、化学と生物21巻179頁1983年)、グリセリドの重合度、脂肪酸エステルの位置等に特に制限はない。
油脂中のグリセリド重合物の含有量は、油脂組成物の酸化安定性の向上及び風味の観点から、0.1質量%〜10質量%が好ましく、0.2質量%〜5質量%がより好ましく、0.3質量%〜4質量%が特に好ましい。斯かるグリセリド重合物は、グリセリド合成時、反応温度条件等を適宜調整することにより、その量を調整できる。グリセリド重合物はゲル濾過クロマトグラフィーカラムを接続したHPLC法により定量できる。また、油脂組成物中の遊離脂肪酸含有量は5質量%以下が好ましい。
【0023】
本発明の油脂組成物は、例えばナタネ油、オリーブ油、米油等のω9系不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含有する油脂組成物とグリセリンとのエステル交換反応等により得られたトリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド等を分画し、次いでこれらを適宜混合することによって製造することができる。あるいは、目的の構成脂肪酸またはそのエステルとグリセリンとの混合物にリパーゼを作用させてエステル化反応を行うことにより製造できる。また、上記製造方法の他、天然食用油脂組成物の分別により得ることもできる。
【0024】
通常の植物油には植物ステロールが0.05〜1.2質量%程度含まれている。ジグリセリドを含有する油脂組成物は上記の方法により得ることが出来るが、製造方法により、植物ステロールが低下することがある。このような場合には、植物ステロールを0.05質量%以上になるように添加してもよい。また、植物ステロール含量の上限は限定されないが、好ましくは0.3〜2質量%が含有することが好ましい。ここで、植物ステロールとしては、α−シトステロール、β−シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、α−シトスタノール、β−シトスタノール、スチグマスタノール、カンペスタノール、及びこれらの脂肪酸エステル、フェルラ酸エステル、桂皮酸エステル体が挙げられる。
【0025】
本発明の食後高血糖改善剤に用いられる油脂組成物は、ジグリセリド及び/又はモノグリセリドを5質量%以上含むものであり、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%〜100質量%、更に好ましくは40質量%〜95質量%である。
【0026】
後記実施例に示すように、本発明の構成脂肪酸中のω9系不飽和脂肪酸含量が35質量%以上であるジグリセリド及び/又はモノグリセリドを含有する油脂組成物は、糖尿病モデル動物及びノーマル動物のいずれにおいても、食後の血糖値の上昇を有意に抑制することができ、この効果は、ω3系不飽和脂肪酸含量が多いジグリセリド及び/又はモノグリセリドを含有する油脂組成物(前記特許文献3)と比べて遥かに優れていた。従って、当該油脂組成物は食後高血糖改善剤として使用することができ、また、当該食後高血糖改善剤を製造するために使用することができる。
斯かる食後高血糖改善剤は、糖尿病(高血糖症)、肥満等の予防・改善効果を発揮し得る、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品又は食品として使用可能である。
また、当該食後高血糖改善剤は、食後血糖値の上昇を抑制するものであり、必要に応じてその旨を表示した美容食品、病者用食品若しくは特定保健用食品等の機能性食品として使用することができる。
なお、「食後高血糖の改善」とは、食後、特に糖質を含む食事を摂取することに伴う一時的な血糖値の上昇を抑制することをいう。
【0027】
本発明の食後高血糖改善剤を医薬品やサプリメントとして用いる場合の投与経路としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、外用剤等による非経口投与が挙げられる。また、このような種々の剤型の医薬製剤やサプリメントを調製するには、本発明の油脂を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。これらの投与経路のうち、好ましい経路は経口投与であり、経口投与用製剤として用いる場合の該製剤中の本発明の油脂の含有量は、全組成中の0.1質量%〜100質量%、好ましくは1質量%〜100質量%、さらに好ましくは5質量%〜100質量%である。
【0028】
本発明の食後高血糖改善剤を食品として用いる場合の形態としては、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、飲料、マヨネーズやサラダドレッシング等のマヨネーズ様食品などの各種食品の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が挙げられる。
種々の形態の食品を調製するには、本発明の油脂組成物を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。当該食品中の本発明の油脂の含有量は、全組成中の0.1質量%〜90質量%、好ましくは1質量%〜85質量%、さらに好ましくは5質量%〜80質量%である。
【0029】
本発明の食後高血糖改善剤を医薬品又は食品として使用する場合、成人1人当たりの1日の投与又は摂取量は、本発明の油脂として、0.05〜50gとすることが好ましく、特に1〜10gであることが好ましい。また、本発明の食後高血糖改善剤は、食前・食中・食後に用いると効果的である。
【0030】
本発明の食後高血糖改善剤を食事中に摂取する場合は、通常の調理に使用する食用油の全部または一部を構成脂肪酸中のω9系不飽和脂肪酸含量が35質量%以上である、ジグリセリド及び/又はモノグリセリドを含有する油脂組成物に替えれば良い。この際、食事中の脂質に占める当該油脂組成物の含有量は15質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは40〜90質量%、更に60〜95%、特に70〜95質量%、殊更80〜95%とすることが、食後高血糖を改善する点で好ましい。また、本発明の食後高血糖改善剤は、食事の総カロリーに占める糖質のカロリーが10〜90%、更に15〜80%、特に20〜70%、殊更30〜60%である食事と共に、又はその食後に摂取することが好ましい。更に、本発明の食後高血糖改善剤は、食事の総カロリーに占めるジグリセリドのカロリーが5〜60%、更に10〜50%、特に15〜45%となるように、食事中又は食後に摂取することが、好ましい。尚、本発明においては、カロリー数は、脂質1gが9kcal、糖質1gが4kcal、蛋白質1gが4kcalとして計算する。
【0031】
本発明の食後高血糖改善剤を用いた食事としては、揚げ物、焼き物、炒め物、煮物、蒸し物、米飯等の加熱調理品やドレッシングやマヨネーズを使用したサラダ、サンドイッチ等の非加熱調理品等が挙げられる。
本発明の食後高血糖改善剤を用いることで、従来の食事療法では、厳密なカロリー制限の為に全く提供されないか少量しか提供されない調理品を提供されることが可能となり、QOLが向上する。
【実施例】
【0032】
実施例1
以下の方法によりジグリセリドを製造した。
市販ナタネ油を加水分解して得た脂肪酸中の飽和脂肪酸含有量をウィンタリングにより低減させた。次いで、固定化1,3−位選択的リパーゼである市販リパーゼ製剤(商品名リポザイムIM(ノボ・ノルディスクインダストリーA.S.社))を触媒として、この脂肪酸とグリセリンとを40℃でエステル化反応を行った。リパーゼ製剤を濾別した後、反応終了品を分子蒸留にかけ、精製して表1の脂肪酸組成を有するジグリセリドを得た。
次に、表1のジグリセリドの脂肪酸組成と同じ脂肪酸組成とするように、ナタネ油、大豆油、サフラワーおよびシソ油の混合によりトリグリセリドを作成した(以下、「質量%」を「%」とする)。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例2 重度I型糖尿病モデルラットを用いたジグリセリドの食後血糖上昇抑制作用
6週令雄性SD系ラットを用い、重度I型糖尿病モデルラットを作成した。すなわち、17時間絶食したSD系ラットにクエン酸緩衝液(pH4.5)に溶解したストレプトゾトシンを体重1kgあたり70mg量腹腔内投与し、1週間後に随時血糖値が300mg/dL以上(平均431mg/dL)のラットを重度I型糖尿病モデルラットした。重度I型糖尿病モデルラットを1群10匹とし、17時間絶食後、グルコース2mg/g体重と表1の油脂組成物1あるいは3を2mg/g体重をレシチン、卵製(和光純薬株式会社)0.04mg/g体重および牛血清アルブミン(シグマ社)0.4mg/g体重により乳化させた乳化物を、ゾンデにより経口投与した。投与後60分まで経時的に尾静脈より採血し、血糖値を測定した。尚、血糖値は簡易血糖測定装置(アキュチェックアビバ、ロッシュ・ダイアグノスティクス社)にて測定した。
【0035】
グルコースと油脂組成物3を含む乳剤を投与したラットの投与60分後までの最大血糖上昇量を100とした最大血糖上昇相対値とグルコースと油脂組成物3を含む乳剤を投与したラットの投与60分後までの血糖上昇AUC量を100とした血糖上昇AUC相対値を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2の結果から、グルコースと共に油脂組成物1を摂取することにより食後の最大血糖上昇および血糖上昇量を抑制する効果が認められることがわかる。
【0038】
実施例3 軽度I型糖尿病モデルラットを用いたジグリセリドの食後血糖上昇抑制作用
6週令雄性SD系ラットを用い、軽度I型糖尿病モデルラットを作成した。すなわち、摂食下のSD系ラットにクエン酸緩衝液(pH4.5)に溶解したストレプトゾトシンを体重1kgあたり55mg量腹腔内投与し、1週間後に随時血糖値が190mg/dL以上(平均264mg/dL)のラットを軽度I型糖尿病モデルラットした。軽症I型糖尿病モデルラットを1群6匹とし、17時間絶食後、グルコース2mg/g体重と表1の油脂組成物1あるいは3を2mg/g体重をレシチン、卵製(和光純薬株式会社)0.04mg/g体重および牛血清アルブミン(シグマ社)0.4mg/g体重により乳化させた乳化物を、ゾンデにより経口投与した。投与後60分まで経時的に尾静脈より採血し、血糖値を測定した。尚、血糖値は簡易血糖測定装置(アキュチェックアビバ、ロッシュ・ダイアグノスティクス社)にて測定した。
【0039】
グルコースと油脂組成物3を含む乳剤を投与したラットの投与60分後までの最大血糖上昇量を100とした最大血糖上昇相対値とグルコースと油脂組成物3を含む乳剤を投与したラットの投与60分後までの血糖上昇AUC量を100とした血糖上昇AUC相対値を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3の結果から、グルコースと共に油脂組成物1をI型糖尿病モデルラットが摂取することにより食後の最大血糖上昇および血糖上昇量を抑制する効果、言い換えれば上昇した血糖値を低下する効果が認められることがわかる。
【0042】
実施例4 II型糖尿病モデルラットを用いたジグリセリドの食後血糖上昇抑制作用
随時血糖値が300mg/dL以上になった11週令雄性ZDF−Leprfa/CrlCrljラット8匹(チャールズリバーより購入)を試験に用いた。17時間絶食後、グルコース2mg/g体重と表1の油脂組成物1あるいは3を2mg/g体重をレシチン、卵製(和光純薬株式会社)0.04mg/g体重および牛血清アルブミン(シグマ社)0.4mg/g体重により乳化させた乳化物を、ゾンデにより経口投与した。投与後480分まで経時的に尾静脈より採血し、血糖値を測定した。更に1回目の試験終了10日後に体重、随時血糖値の回復を確認し、投与乳剤を入れ替えた2回目の試験を実施した(クロスオーバー試験)。尚、血糖値は簡易血糖測定装置(アキュチェックアビバ、ロッシュ・ダイアグノスティクス社)にて測定した。
【0043】
グルコースと油脂組成物1あるいは3を含む乳剤を投与したラットの血糖値の480分間までの経時変化を図1に示す。また、グルコースと油脂組成物3を含む乳剤を投与したラットの120分後までの血糖上昇AUC量を100とした血糖上昇AUC相対値を表4に示す。
【0044】
【表4】

【0045】
図1および表4の結果から、グルコースと共に油脂組成物1をII型糖尿病モデルラットが摂取することにより食後の血糖上昇および血糖上昇量を抑制する効果、言い換えれば上昇した血糖値を低下する効果が認められることがわかる。
【0046】
実施例5 ノーマルマウスを用いたジグリセリドの食後血糖上昇抑制作用
17時間絶食させた8週令雄性C57BL/6Jマウスを表5記載の食餌を1時間自由摂取させた後、摂食開始から1,2,5時間後に眼底静脈より採血した。血糖値は簡易血糖測定装置(アキュチェックアビバ、ロッシュ・ダイアグノスティクス社)にて測定した。1時間自由摂食した際の摂食量および油脂組成物4を含む食餌を摂取したマウスの摂取開始から5時間後までの最大血糖上昇量を100とした最大血糖上昇相対値と油脂組成物4を含む食餌を摂取したマウスの摂取開始から5時間後までの血糖上昇AUC量を100とした血糖上昇AUC相対値を表5に示す。
【0047】
【表5】

【0048】
表5の結果から、食餌としてオレイン酸含有率が60質量%以上と云う高い油脂組成物2をノーマルマウスが摂取することにより食後の最大血糖上昇および血糖上昇量を抑制する効果、言い換えれば上昇した血糖値を低下する効果が認められることがわかる。尚、長期投与により血糖低下作用があるとされている(前記特許文献3)油脂組成物6については、本発明品に比べて食後高血糖の改善作用は低いものであった。
【0049】
参考例
17時間絶食させた8週令雄性C57BL/6Jマウスを1群11〜12匹とし、グルコース2mg/g体重あるいはグルコースと脂質(トリオレイン)を各2mg/g体重をレシチン、卵製(和光純薬株式会社)0.02mg/g体重により乳化させた乳化物を、ゾンデにより経口投与した。投与後60分まで経時的に眼底静脈より採血し、血糖値を測定した。尚、血糖値は簡易血糖測定装置(アキュチェックアビバ、ロッシュ・ダイアグノスティクス社)にて測定した。グルコースのみを投与したマウスの最大血糖上昇量を100とした最大血糖上昇相対値を表6に示す。
【0050】
【表6】

表6に示すように、最大血糖上昇量はグルコースのみの投与と、グルコース及び脂質(トリオレイン)の投与で差は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸の35質量%以上がω9系不飽和脂肪酸である、ジグリセリド及び/又はモノグリセリドを5質量%以上含有する油脂組成物を有効成分とする食後高血糖改善剤。
【請求項2】
構成脂肪酸の35質量%以上がω9系不飽和脂肪酸である、ジグリセリド及び/又はモノグリセリドを5質量%以上含有する油脂組成物を含有する食後高血糖改善用食品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−180195(P2010−180195A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30088(P2009−30088)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】