説明

食用ミカン皮およびその製造方法、ならびにこれを用いた脂質代謝改善用組成物および飲食品

【課題】未完熟摘果果皮のような完熟度が低いミカン皮中の有効成分を、効率良く利用できるようにする。
【解決手段】未熟ミカン皮と完熟ミカン皮とを混合し、かつ揉捻する工程を経て得られる食用ミカン皮。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食用ミカン皮、該食用ミカン皮の抽出物、該食用ミカン皮またはその抽出物からなる脂質代謝改善用組成物、該食用ミカン皮またはその抽出物を含む飲食品、および食用ミカン皮の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミカンには、抗酸化作用、抗ガン作用、血中コレステロール低下作用、血圧上昇抑制作用等を有する成分が含まれることが知られている。
ミカンは安全性の高い食品であり習慣的に摂取することが可能であるので、健康の維持・増進および疾病の改善に有効な食品であると考えられる。
ミカン皮にもヒトの健康に寄与する成分が含まれることが知られており、ミカン皮を飲食品等に有効に利用するための新規な方法の開発が期待されている。
【0003】
下記特許文献1には、各種柑橘類に含まれている特定のフラボノイド類を有効成分とする脂肪蓄積阻害剤が記載されている。該特定のフラボノイド類は果実、果皮、未完熟摘果果皮等に含有されることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、柑橘類の粉砕物、または該粉砕物の抽出物を有効成分として含む血糖値調整剤およびまたは血中コレステロール値調整剤が記載されている。柑橘類の粉砕物として、加工品製造の際の果皮、未完熟摘果およびまたは未完熟摘果果皮の粉砕物を有効利用できることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、特定のフラボノイド類およびそれらの配糖体からなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含有するリパーゼ阻害剤が記載されている。該有効成分の具体例としてヘスペリジンが挙げられている。ヘスペリジンは、ミカン、レモン、橙などの果皮や生薬の陳皮に含まれており、その抽出エキスをリパーゼ阻害剤として用いることができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−273935号公報
【特許文献2】特開2008−247826号公報
【特許文献3】特開平9−143070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等の知見によれば、ヘスペリジンは未完熟摘果果皮のような完熟度が低いミカン皮に比較的多く含まれるものの、その多くはペクチンと結合しており、体内に吸収されにくい。
【0008】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、未完熟摘果果皮のような完熟度が低いミカン皮中の有効成分を、効率良く利用できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、未熟ミカン皮と完熟ミカン皮とを混合し、かつ揉捻する工程を経て得られる食用ミカン皮を提供する。
本発明は、本発明の食用ミカン皮の抽出物を提供する。
本発明は、本発明の食用ミカン皮からなる、脂質代謝改善用組成物を提供する。
本発明は、本発明の抽出物からなる、脂質代謝改善用組成物を提供する。
本発明は、本発明の食用ミカン皮を含有する飲食品を提供する。
本発明は、本発明の食用ミカン皮と、未熟ミカンの果汁を含有する、飲食品を提供する。
本発明は、本発明の抽出物を含有する飲食品を提供する。
本発明の飲食品は脂質代謝改善用として好適である。
本発明は、未熟ミカン皮と完熟ミカン皮とを混合し、かつ揉捻する工程を有する、食用ミカン皮の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、未熟ミカン皮と完熟ミカン皮とを混合し、かつ揉捻することによって、未熟ミカン皮中においてペクチンと結合していた成分を、ペクチンと結合していない形態に変換できるため、かかる成分を効率良く利用できる形態で含む食用ミカン皮、またはその抽出物が得られる。
本発明によれば、未熟ミカン皮と完熟ミカン皮とを混合し、かつ揉捻することによって、未熟ミカン皮中においてペクチンと結合していた、脂質代謝改善に寄与する有効成分を、ペクチンと結合していない形態に変換できるため、かかる有効成分を効率良く利用できる形態で含む脂質代謝改善用組成物が得られる。
本発明によれば、未熟ミカン皮中においてペクチンと結合していた成分を、効率良く利用できる形態で含有する飲食品が得られる。
本発明によれば、未熟ミカン皮中においてペクチンと結合していた、脂質代謝改善に寄与する有効成分を、効率良く利用できる形態で含有する、脂質代謝改善用の飲食品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ミカン皮>
本発明において、原料として用いられるミカン皮は、いわゆるミカン科の常緑果樹(Citrus.L)の果皮である。ミカンの品種は特に制限されない。例えば温州ミカンが好ましい。
ミカン皮に含まれる成分のうち、例えばヘスペリジン、ナリルチン、ペクチンは、ミカンの完熟度が低いほど多く含まれる。
ヘスペリジンは前述のようにリパーゼ阻害活性を有するほか、毛細血管強化、抗アレルギー作用等の薬効を有する。ナリルチンはヘスペリジンと類似の構造を有し、植物の細胞内ではナリルチンからヘスペリジンが合成される。ナリルチンは抗アレルギー作用、抗炎症作用等の薬効を有する。ペクチンは、植物の細胞壁および細胞間物質を形成する多糖類である。
一方、ペクチナーゼなどの酵素は、完熟度が高いミカン皮に含まれ、完熟度が低いミカン皮には含まれない。
【0012】
ミカンの栽培においては、一般に、ミカン果実の肥大を促進し、毎年果実を実らせるために、収穫期よりも前に、未完熟の果実を間引きする摘果を行う。
ミカンの収穫期は品種によって異なるが、例えば中生温州では10月中旬〜11月中旬頃であり、晩生温州も降霜の害を避けるために、11月中旬月〜12月中旬頃に収穫される。摘果は、通常、自然に実が落ちる生理落果が終わった7月中、下旬頃から8月にかけて行われる。
【0013】
本発明において未熟ミカン皮として、摘果されたミカンの果皮が好適に用いられる。摘果ミカン皮は、ヘスペリジンを多く含み、該ヘスペリジンの多く(例えば90質量%以上)はペクチンに結合しており、かつペクチナーゼを含まないという特徴を有する。
例えば摘果ミカン皮の乾燥物(含水率5質量%)中のヘスペリジンの含有量は、ペクチンに結合しているものと結合していないものの合計で、15質量%以上、好ましくは20質量%以上である。
本発明において、ミカン皮の乾燥物(含水率5質量%)中のヘスペリジンの含有量が、ペクチンに結合しているものと結合していないものの合計で、15質量%以上、好ましくは20質量%以上であるミカン皮を未熟ミカン皮として用いることができる。
特に、未熟ミカン皮として摘果ミカン皮を用いると、これまで有効に利用されていない摘果ミカンの皮を有効に利用できる点で好ましい。
【0014】
本発明において完熟ミカン皮としては、収穫期に収穫されたミカンの果皮が用いられる。また、収穫期に収穫された後、変質しないように低温(例えば2〜8℃)で保存された完熟ミカン皮を用いることもできる。
完熟ミカン皮は、ヘスペリジンの含有量が少なく、ペクチナーゼを含むという特徴を有する。例えば完熟ミカン皮の乾燥物(含水率5質量%)中のヘスペリジンの含有量は、ペクチンに結合しているものと結合していないものの合計で、10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。
本発明において、ミカン皮の乾燥物(含水率5質量%)中のヘスペリジンの含有量が、ペクチンに結合しているものと結合していないものの合計で、10質量%以下、好ましくは5質量%以下であるミカン皮を完熟ミカン皮として用いることができる。
【0015】
<食用ミカン皮の製造方法>
[前処理]
まず、原料となる未熟ミカン皮および完熟ミカン皮を用意し、必要に応じて前処理を行う。前処理では、未熟ミカン皮および完熟ミカン皮を、それぞれ、適宜の寸法(例えば1〜30mm角程度の大きさ)に切断しておくことが好ましい。
また、未熟ミカン皮と完熟ミカン皮を混合する前に、それぞれを必要に応じて乾燥し、含水率を45〜65質量%、好ましくは50〜60質量%程度としておくことが好ましい。乾燥方法は、例えば茶の製造工程で用いられる手法を用いることができる。具体的には(1)、粗揉機や、直火または電気で加熱した鍋または板状の器具を用い、ミカン皮を撹拌しつつ、温度40〜80℃の加熱空気を当てる方法、(2)密閉撹拌容器内にミカン皮を投入し、容器内の空気を吸引して内部を減圧状態として撹拌して乾燥する方法、(3)萎凋槽を用いてネット上に散布したミカン皮の下方から通気する方法などが用いられる。
未熟ミカン皮および完熟ミカン皮の含水率を、それぞれ上記の範囲に減少させておくと、次の揉捻工程でミカン皮から水分が揉み出難くなるため、有効成分の流出を防止できるとともに品質の低下を抑えることができる。また、後の乾燥工程を短縮できる点でも好ましい。
【0016】
[揉捻工程]
次いで、未熟ミカン皮と完熟ミカン皮とを混合し、かつ揉捻する。本発明における揉捻とは、未熟ミカン皮と完熟ミカン皮とを、加圧力を加えながら混合することを意味する。一般に茶の製造工程で用いられる揉捻機を用いる方法でもよく、手で揉む方法でもよく、すりつぶす方法でもよい。
具体的には、未熟ミカン皮を揉捻しつつ完熟ミカン皮を添加して、両者を混合しながら揉捻する方法が好ましい。完熟ミカン皮は未熟ミカン皮の揉捻開始と同時に添加してもよく、あるいは未熟ミカン皮のみの揉捻を一定時間行った後、完熟ミカン皮を添加してさらに揉捻してもよい。
【0017】
このような揉捻工程を行うと、完熟ミカン皮に含まれるペクチナーゼなどの酵素が、未熟ミカン皮の細胞壁等を構成しているペクチン等に作用して、細胞組織の破壊が生じる。
未熟ミカン皮に多く含まれるヘスペリジンまたはナリルチンは、その多くがペクチンと結合していることから、体内に吸収されにくい。
本発明では、揉捻工程おいて、ペクチナーゼの作用によって、ヘスペリジンまたはナリルチンとペクチンとの結合が解離され、体内に吸収されやすい形態となる。
また、非アルコール脂肪性肝炎の予防または改善等の薬効を有するβ−クリプトキサンチンも、未熟ミカン皮に多く含まれ、揉捻工程を行うことにより、ペクチンとの結合が解離されて、体内に吸収されやすくなる。
【0018】
完熟ミカン皮の添加量は、完熟ミカン皮/未熟ミカン皮の絶対乾燥質量比が5/95〜35/65の範囲が好ましく、8/92〜30/70の範囲がより好ましい。完熟ミカン皮の添加量が上記範囲内であれば、未熟ミカン皮と完熟ミカン皮を混合して揉捻したことによる効果が充分に得られやすい。
揉捻時の未熟ミカン皮および完熟ミカン皮の温度は20℃以上40℃以下の範囲内が好ましい。20℃未満または40℃を超えるとペクチナーゼの酵素活性が低下する。
揉捻時間は、良好な薬効が得られるように設定することが好ましい。後述の実施例に示されるように、短すぎても、長すぎても薬効が低下する傾向が見られる。好ましい揉捻時間は、完熟ミカン皮の添加量にもよるが、10〜60分間の範囲内が好ましく、30〜60分間がより好ましく、30〜50分間がさらに好ましく、30〜40分間が特に好ましい。
【0019】
[加熱工程]
次いで、所定の揉捻時間が経過したら、揉捻した未熟ミカン皮と完熟ミカン皮の混合物を加熱して酵素を失活させることにより、食用ミカン皮が得られる。
該加熱により酵素を失活させるとともに、加熱乾燥してもよい。すなわち本発明の食用ミカン皮は乾燥物であってもよい。保存性が良い点では乾燥物が好ましい。
加熱工程では、例えば、揉捻した未熟ミカン皮と完熟ミカン皮の混合物を連続式乾燥機に投入し、これに熱風を吹き込む方法で加熱することが好ましい。加熱温度および加熱時間は食用ミカン皮の好ましい含水率が得られるように設定することができる。加熱工程後の食用ミカン皮の含水率は、例えば5質量%程度が好ましい。
加熱温度は特に限定されず、例えば40〜100℃の範囲内で適宜設定できる。特にβ−クリプトキサンチン等の熱に弱い成分を分解させないためには40〜50℃程度が好ましい。加熱時間は加熱温度にもよるが、例えば90〜120分程度で十分である。
本発明の食用ミカン皮が乾燥物である場合、加熱乾燥した食用ミカン皮を粉状に粉砕したものでもよく、粉砕しない固形物でもよい。
【0020】
<食用ミカン皮>
こうして得られる食用ミカン皮にあっては、揉捻時にペクチナーゼによってペクチンとヘスペリジンとの結合が解離されることによって、「ペクチンと結合しているヘスペリジン」の含有量が減少し、「ペクチンと結合していないヘスペリジン」の含有量が増大する。
例えば、食用ミカン皮中の「ペクチンと結合しているヘスペリジン」の含有量は、乾燥物(含水率5質量%)基準で、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、実質的に含まないことが特に好ましい。「実質的に含まない」とは、含有量が検出限界未満であることを意味する。
また、食用ミカン皮中の「ペクチンと結合していないヘスペリジン」の含有量は、乾燥物(含水率5質量%)基準で、18質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。
【0021】
また、混合かつ揉捻を行うことによって、「ペクチンと結合しているナリルチン」の含有量が減少し、「ペクチンと結合していないナリルチン」の含有量が増大する。
例えば、食用ミカン皮中の「ペクチンと結合しているナリルチン」の含有量は、乾燥物(含水率5質量%)基準で、0.3質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましく、実質的に含まないことが特に好ましい。
また、食用ミカン皮中の「ペクチンと結合していないナリルチン」の含有量は、乾燥物(含水率5質量%)基準で、2質量%以上が好ましく、2.5質量%以上がより好ましい。
【0022】
<食用ミカン皮の抽出物>
食用ミカン皮の抽出物は、食用ミカン皮の可溶性成分を、公知の方法で抽出溶媒中に抽出して得られる。抽出溶媒は水(温水または熱水を含む)でもよく、有機溶媒でもよい。有機溶媒の具体例としてはメタノール、エタノール、アセトン等が挙げられる。
ミカン皮中においてペクチンと結合している成分は、抽出溶媒が水であると、特に抽出されにくい。したがって、本発明による効果が大きい点で、抽出溶媒が水であることが好ましい。
抽出物を、有機溶媒を含む形態で飲食品に用いる場合は、有機溶媒としてエタノールが用いられる。
【0023】
抽出条件は特に制限されないが、水で抽出する場合は、温度40〜100℃の温水または熱水に食用ミカン皮を3分間〜60分間程度浸して抽出することが好ましい。水と食用ミカン皮との割合は、例えば水100質量部に対して、食用ミカン皮(含水率5質量%)0.5〜20質量部程度が好ましく、0.5〜5質量部程度がより好ましい。
有機溶媒で抽出する場合は、有機溶媒100質量部に対して食用ミカン皮(含水率5質量%)0.1〜20質量部程度を用い、常圧または加圧下で、温度−20〜60℃、時間1〜60分の条件で行うことが好ましいが、この範囲に限定されず、適宜変更することができる。抽出処理後、ろ過、遠心分離などで、固形分を除去して抽出液が得られる。
本発明の食用ミカン皮の抽出物は、抽出液でもよく、その濃縮物でもよく、さらに凍結乾燥等により乾燥させた固体でもよい。固体の場合は、塊状であってもよく、さらにそれを適宜の大きさに粉砕した粉末状であってもよい。
【0024】
<脂質代謝改善用組成物>
本発明の製造方法で得られる食用ミカン皮またはその抽出物は、リパーゼ阻害活性を有しており、脂質代謝改善用組成物として使用できる。
食用ミカン皮の抽出物を、薬学的に許容され得る賦形剤その他任意の添加剤を用い、公知の方法によって製剤化したものも本発明の脂質代謝改善用組成物に含まれる。
本発明における脂質代謝改善効果とは、リパーゼの阻害によってもたらされる効果である。例えば、中性脂肪低減効果または体脂肪蓄積抑制効果等が挙げられる。これらの効果を同時に得ることもできる。
【0025】
<飲食品>
本発明の飲食品は、本発明の食用ミカン皮またはその抽出物を含有するものであって、経口摂取できる形態のものであれば特に限定されない。食用ミカン皮およびその抽出物の両方を含有してもよい。
本発明の飲食品は、例えば、食用ミカン皮の抽出物を含有する各種飲料である。または、食用ミカン皮またはその抽出物を種々の食品素材に添加した食品である。
本発明の飲食品に含まれる食用ミカン皮またはその抽出物はリパーゼ阻害活性を有しており、したがって、本発明の飲食品を摂取することにより脂質代謝改善効果が得られる。すなわち本発明の飲食品は脂質代謝改善用飲食品として好適である。
特に、食用ミカン皮と、未熟ミカンから絞り出した果汁を組み合わせて飲食品に用いると、ペクチンも多く含まれるので脂質の吸収を抑制する点で好ましい。また摘果ミカン等の未熟ミカンの、果皮だけでなく果肉も有効に利用できる点で好ましい。
【0026】
食品素材としては特に限定されることはなく、納豆、豆乳、味噌、醤油などの大豆食品、はんぺん、かまぼこ、ちくわなどの練り製品、ハム、ソーセージなどの食肉加工品、飴、キャラメル、最中、羊羹などの菓子類など多岐にわたる。
本発明の飲食品における、食用ミカン皮またはその抽出物の含有量は任意であり、得ようとする薬効の程度、および期待される風味、さらには飲食品の摂取量等に応じて適宜設定することができる。
食用ミカン皮を水で抽出した抽出液であって、飲用可能な風味を有するものであれば、該抽出液を茶飲料とすることもできる。この場合、水と食用ミカン皮との割合は、水100質量部に対して、食用ミカン皮(含水率5質量%)0.5〜20質量部程度が好ましい。また抽出方法は、温度40〜100℃の温水または熱水に3分間〜60分間浸す方法が好ましい。
【実施例】
【0027】
以下において「%」は特に断りのない限り「質量%」である。以下の例で用いた原料の「ミカン皮」はいずれも長崎県で栽培した温州ミカンの摘果ミカンの皮と完熟ミカンの皮である。また、特に断りのない限り揉捻は揉捻機を用いて行った。
【0028】
[実施例1]
(食用ミカン皮の製造)
摘果ミカン皮および完熟ミカン皮を30mm角程度の大きさに切断して、揉捻機で混合するとともに揉み込んだ。使用した摘果ミカン皮:完熟ミカン皮の質量比(絶対乾燥質量比)は75:25(完熟ミカン皮投入割合25%)とした。揉捻時のミカン皮の温度は30〜40℃、揉捻時間は10分間とした。
すなわち、所定量の摘果ミカン皮と完熟ミカン皮を、同時に揉捻機に投入し、所定時間だけ揉捻した後、直ちに連続式乾燥機に投入し、100℃の熱風を吹き込む方法で45分間の加熱乾燥を行って、含水率5質量%の食用ミカン皮を得た。
【0029】
[参考例1]
(摘果ミカン皮の乾燥物の製造)
実施例1と同様に切断した摘果ミカン皮を連続式乾燥機に投入し、実施例1における加熱乾燥工程と同じ加熱温度で、含水率5質量%となるように加熱乾燥して、摘果ミカン皮の乾燥物を得た。
[参考例2]
(完熟ミカン皮の乾燥物の製造)
実施例1と同様に切断した完熟ミカン皮を連続式乾燥機に投入し、実施例1における加熱乾燥工程と同じ加熱温度で、含水率5質量%となるように加熱乾燥して、完熟ミカン皮の乾燥物を得た。
【0030】
[参考例3]
(ミカン皮の混合物の製造)
参考例1で得た摘果ミカン皮の乾燥物と、参考例2で得た完熟ミカン皮の乾燥物を、摘果ミカン皮の乾燥物:完熟ミカン皮の乾燥物の質量比(絶対乾燥質量比)が75:25(完熟ミカン皮乾燥物の投入割合25%)となるように、揉捻せずに混合した。混合時のミカン皮の温度は30〜40℃、混合時間は40分間とした。こうしてミカン皮の混合物を得た。
【0031】
[測定例1]
実施例1で得た食用ミカン皮、参考例1で得た摘果ミカン皮の乾燥物、参考例2で得た完熟ミカン皮の乾燥物、および参考例3で得たミカン皮の混合物のそれぞれについて、「ペクチンと結合しているヘスペリジン」、「ペクチンと結合しているナリルチン」、「ペクチンと結合していないヘスペリジン」、「ペクチンと結合していないナリルチン」のそれぞれ含有量を下記の測定方法で測定した。またペクチナーゼ活性を下記の測定方法で測定した。結果を表1に示す。表1において、各成分の含有量は食用ミカン皮の乾燥物(含水率5質量%)中の含有割合を示している。ペクチナーゼ活性は、参考例2で得た完熟ミカン皮の乾燥物におけるペクチナーゼ活性値を1としたときの相対値で示している。
【0032】
[ヘスペリジンおよびナリルチンの測定方法]
(試料の調製方法)
各例で得たミカン皮(含水率5%)を粉砕した粉末1gに、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH11)の100mlを添加し、60分間スタラーで撹拌したものを抽出液Xとする。
これとは別に、各例で得たミカン皮(含水率5%)を粉砕した粉末1gに、60%メタノールを100ml添加し、60分間スタラーで撹拌したものを抽出液Yとする。
ヘスペリジンまたはナリルチンとペクチンとの結合(疎水会合や水素結合)は、水中では解離しないが、メタノールを添加することで解離させることができる。したがって、抽出液Y中のヘスペリジンまたはナリルチンの含有量は、ミカン皮中において、ペクチンと結合していないヘスペリジンまたはナリルチンと、ペクチンと結合しているヘスペリジンまたはナリルチンの合計となる。
一方、アルカリ性のグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液に対して、ペクチンと結合しているヘスペリジンまたはナリルチンは難溶であるが、ペクチンと結合していないヘスペリジンまたはナリルチンは溶解する。したがって、抽出液X中のヘスペリジンまたはナリルチンの含有量は、ミカン皮中において、ペクチンと結合していないヘスペリジンまたはナリルチンの含有量となる。
よって、ヘスペリジンまたはナリルチンのそれぞれについて、抽出液Y中の含有量から、抽出液Xの含有量を差し引くことにより、ペクチンと結合しているヘスペリジンまたはナリルチンの含有量が得られる。
【0033】
(分析方法)
上記方法で調製した抽出液Xおよび抽出液Yのそれぞれを、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略記することもある。)で分析して、各抽出液中のヘスペリジンの含有量およびナリルチンの含有量を求める。
(1)移動相A及び移動相Bをアセトニトリル(HPLC用)、超純水、リン酸を用いて以下のように調製する。
A液:アセトニトリル−10mMリン酸(20+80、v/v)。
B液:アセトニトリル−10mMリン酸(70+30、v/v)。
(この際10mMリン酸はあらかじめ調製しておく。)
(2)分析条件
(2−1)検出器、恒温槽、溶媒の流量等の条件は以下の通りとする。
検出波長:285nm。
恒温槽:40℃。
流量:移動相A、移動相Bの合計で毎分0.8ml。
試料注入量:10μ1。
(2−2)移動相溶媒の混合比(グラジエント)は以下のように調整する。
0分から20分:A液100%を保つ。
20分から25分:25分の時点でB液の割合が40%になるように、B液の割合を直線的に増加させる。
25分から40分:A液60%、B液40%の状態を保つ。
40分から45分:45分の時点でB液の割合が100%になるように、B液の割合を直線に増加させる。
45分から55分:A液0%、B液100%の状態を保つ。
55分から60分:60分の時点でA液の割合が100%になるように、B液の割合を直線に減少させる。
初期の状態(A液100%、B液0%)に戻してから10分以上おいてから次の試料を分析する。
(2−3)定性方法および定量方法
分離された物質の定性は保持時間により行う。定量は標準試料を用いた、内標を用いない絶対検量線法により行う。
【0034】
[ペクチナーゼ活性の測定方法]
各例で得たミカン皮(含水率5%)に、水酸化カルシウムを0.3%の割合で添加混合した後、圧搾機を用い、30〜40kg/cmの圧力で圧搾処理したしたもの(以下、圧搾処理滓と称する)を用いた。圧搾処理滓50gに45gの水を加え、塩酸でpH4.0に調製し加熱処理(85℃、5分間)にした後、40℃に冷却した。ペクチナーゼを全量(最終100g)に対して0.1%となるように加え、40℃で24時間静置し酵素反応を行った。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示されるように、参考例1の摘果ミカン皮はヘスペリジンおよびナリルチンを多く含み、それらの多くはペクチンに結合しており、かつペクチナーゼを含まない。
参考例2の完熟ミカン皮は、これに含まれるヘスペリジンの合計量およびナリルチンの合計量が少なく、ペクチナーゼを含んでいる。また参考例2の完熟ミカン皮は、ペクチナーゼ活性が高いにもかかわらず、ペクチンと結合しているヘスペリジンおよびナリルチンが存在する。これは揉捻工程を経ていないためと考えられる。
参考例3のミカン皮の混合物は、ペクチナーゼ活性は実施例1と同程度であるが、揉捻工程を経ていないため、ペクチンと結合していないヘスペリジンより、ペクチンに結合しているヘスペリジンが多い。また、ペクチンと結合していないナリルチンより、ペクチンに結合しているナリルチンが多い。
これに対して、実施例1の食用ミカン皮は、ペクチンに結合していないヘスペリジンまたはナリルチンが、参考例1〜3のいずれよりも格段に多く、ペクチンに結合しているヘスペリジンまたはナリルチンは実質的に含まれていない。
なお、表1に示す各成分の含有量の幅は、摘果ミカンであれば摘果時期が異なることによるバラツキであり、完熟ミカンであれば収穫時期が異なることによるバラツキである。
【0037】
[実施例2]
(食用ミカン皮の製造)
実施例1において、摘果ミカン皮:完熟ミカン皮の質量比(絶対乾燥質量比)を90:10(完熟ミカン皮投入割合10%)と、75:25(完熟ミカン皮投入割合25%)の2通りとし、揉捻時間を10、20、30、40、50、60分の6通りとした。そのほかは実施例1と同様にして12種類の食用ミカン皮を製造した。
各食用ミカン皮の20gを、100℃の熱水で10分間抽出し、抽出液を凍結乾燥した。得られた凍結乾燥粉末を10mg/mlの濃度で蒸留水に溶解し、さらに蒸留水で10倍希釈した溶液(濃度1mg/ml)を最高濃度として、公比2で1L水準に蒸留水で希釈したものを試料水溶液とした。この試料水溶液を用い下記の方法でリパーゼ阻害活性を測定した。この試料水溶液は反応系で4倍希釈になるので、最終濃度は最高濃度で250μg/mlである。結果を表2に示す。
【0038】
(リパーゼ阻害活性の測定方法)
リパーゼ活性の測定は、基質に蛍光性の4−メチルウンベリフェロンのオレイン酸エステル(4−UMO)を使用し、反応によって生成した4−メチルウンベリフェロンの蛍光を測定することにより実施した。
測定にあたり、緩衝液は、150mMのNaCl、1.36mMのCaClを含む、13mMのTris−HCl(pH8.0)を用いた。基質である4−UMO(Sigma社製)は0.1MのDMSO溶液として調製したものを上記緩衝液で1000倍希釈したものを、また、リパーゼはブタ膵リパーゼ(Sigma社製)を同様に上記緩衝液を用い400U/ml溶液として調製したものを酵素測定に供した。
【0039】
酵素反応は、25℃条件下において、96穴マイクロプレートに50μLの4−UMO緩衝液溶液、25μLの蒸留水または試料水溶液を添加し混合した後に、25μLのリパーゼ緩衝液溶液を添加することにより反応開始させた。30分間反応を行った後に、100μLの0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.2)を添加して反応を停止させ、反応によって生成した4−メチルウンベリフェロンの蛍光(励起波長355nm、蛍光波長460nm)を蛍光プレートリーダー(Labsystems社製、Fluoroskan Asent CF)を用いて測定した。
表2において、リパーゼ阻害活性は、酵素活性を50%阻害する終濃度(IC50値、単位:mM)で表す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2に示されるように、本例の食用ミカン皮はいずれもリパーゼ阻害活性を有する。特に完熟ミカン皮の投入割合10%、揉捻時間30〜40分でリパーゼ阻害活性が高くなった。また完熟ミカン皮の添加量が多くなると阻害率が低くなる傾向が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未熟ミカン皮と完熟ミカン皮とを混合し、かつ揉捻する工程を経て得られる食用ミカン皮。
【請求項2】
請求項1に記載の食用ミカン皮の抽出物。
【請求項3】
請求項1に記載の食用ミカン皮からなる、脂質代謝改善用組成物。
【請求項4】
請求項2に記載の抽出物からなる、脂質代謝改善用組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の食用ミカン皮を含有する、飲食品。
【請求項6】
請求項1に記載の食用ミカン皮と、未熟ミカンの果汁を含有する、飲食品。
【請求項7】
請求項2に記載の抽出物を含有する、飲食品。
【請求項8】
脂質代謝改善用である、請求項5〜7のいずれか一項に記載の飲食品。
【請求項9】
未熟ミカン皮と完熟ミカン皮とを混合し、かつ揉捻する工程を有する、食用ミカン皮の製造方法。

【公開番号】特開2012−183050(P2012−183050A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50267(P2011−50267)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(505225197)長崎県公立大学法人 (31)
【出願人】(593036844)
【Fターム(参考)】