説明

食用起泡剤

【課題】ケーキ等の生地には、安定な気泡を形成させる目的で起泡剤が添加されているが、従来用いられている起泡剤は、気泡を安定化させ過ぎる結果、気泡が細かくなり過ぎて食感がべた付いたものとなったり、芯と呼ばれる不均一な組織が形成される虞があったり、食感を重くしたり風味を低下させる等の虞があった。生地中に適度な大きさの気泡を安定に形成させることができ、食感、風味、口溶け感等に優れたケーキ類等の気泡含有食品を製造することのできる食用起泡剤を提供する。
【解決手段】食用起泡剤は、ショ糖脂肪酸エステルと糖アルコールとのラメラ液晶構造体中に、グリセリン脂肪酸モノエステル及びジグリセリン脂肪酸モノエステルが、重量比でグリセリン脂肪酸モノエステル:ジグリセリン脂肪酸モノエステル=55:45〜10:90の割合で含有されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポンジケーキ等の気泡含有食品を製造する際に用いる食用起泡剤に関し、生地中の気泡を安定化させて適度な大きさの気泡を形成することができ、食感、風味、口溶けの良い気泡含有食品を得ることのできる食用起泡剤に関する。
【背景技術】
【0002】
スポンジケーキ、パウンドケーキ等のケーキ類の気泡構造は、ケーキ類の食感、ボリューム感の良否を左右する。このため、従来より起泡力を高めたり気泡を安定化させるため、生地中に起泡剤を添加使用している。この種の起泡剤としては、グリセリン脂肪酸エステルとプロピレングリコール脂肪酸エステルとの特定な比率の混合物からなる親油性界面活性剤、油脂、特定のHLBの親水性界面活性剤とを含む液状の起泡剤(特許文献1)、グリセリン脂肪酸エステルとHLB7以上のショ糖脂肪酸エステルとを特定の比率で含む水中油型乳化物よりなる起泡剤(特許文献2)、ジグリセリンエステルやポリグリセリンエステルを必須成分として用いる起泡剤(特許文献3、特許文献4、特許文献5)等が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平2−227019号公報
【特許文献2】特開平6−339340号公報
【特許文献3】特開平5−284897号公報
【特許文献4】特開平11−243839号公報
【特許文献5】特開2002−247952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1に記載されている起泡剤は、気泡を安定化し過ぎるため気泡のキメが細かくなり過ぎ、この結果、ケーキ類がべたついて食感や口溶け感が低下すると言う問題があり、また生地中の卵配合量が多くなると気泡が不安定となって芯と呼ばれる不均一な組織が形成される虞があった。特許文献2に記載されている起泡剤は、油脂を含むため食感の軽いケーキ類を作るには不向きという問題があった。また、引用文献3〜5に記載されている起泡剤は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを、生地に直接添加したり水や油脂に分散させて添加して用いるものであるが、ポリグリセリン脂肪酸エステル特有の苦み、渋みによりケーキ類の風味を低下させるという問題があった。
【0005】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ショ糖脂肪酸エステルと糖アルコールとのラメラ液晶構造体中に、グリセリン脂肪酸モノエステル及びジグリセリン脂肪酸モノエステルを含有させることにより、上記従来技術の欠点を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、
(1)ショ糖脂肪酸エステルと糖アルコールとのラメラ液晶構造体中に、グリセリン脂肪酸モノエステル及びジグリセリン脂肪酸モノエステルが、重量比でグリセリン脂肪酸モノエステル:ジグリセリン脂肪酸モノエステル=55:45〜10:90の割合で含有されていることを特徴とする食用起泡剤、
(2)X線回折によるラメラ液晶構造の面間隔が120〜250Åである上記(1)記載の食用起泡剤、
(3)乳化剤添加前の糖アルコール水溶液の糖濃度が58以上の糖アルコール水溶液を用いる上記(1)又は(2)記載の食用起泡剤、
(4)ショ糖脂肪酸エステルの全乳化剤成分中の割合が10〜30重量%である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の食用起泡剤、
(5)食用起泡剤の糖濃度が55〜65である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の食用起泡剤、
を要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の食用起泡剤は適切なラメラ液晶構造体を形成していることにより、ケーキ生地等の気泡を細かくし過ぎることがなく、適度な大きさの気泡に安定化することができるため、ボリューム感の良い、風味、食感、口溶け感の良好なケーキ類等の気泡含有食品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明においてショ糖脂肪酸エステルとしては、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステルやショ糖オレイン酸エステル等が挙げられる。これらのうち、飽和脂肪酸のショ糖脂肪酸エステルでHLB9〜16のショ糖脂肪酸エステルが好ましい。飽和脂肪酸のショ糖脂肪酸エステルでHLBが9〜16のものとしては、例えばショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル等が挙げられる。
【0009】
糖アルコールとしては、例えばソルビトール、エリスリトール、キシリトール等が挙げられるが、ソルビトールが好ましい。ショ糖脂肪酸エステルと糖アルコールとのラメラ液晶構造体を形成するために、乳化剤添加前の糖アルコール水溶液の糖濃度(初期糖濃度)が58以上の糖アルコール水溶液を用いることが好ましく、糖濃度58〜65の糖アルコール水溶液を用いることがより好ましい。上記初期糖濃度は、糖濃度計により測定した値である。
【0010】
グリセリン脂肪酸モノエステルとしては、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の脂肪酸とグリセリンとのモノエステルが挙げられるが、パルミチン酸、ステアリン酸等の脂肪酸とのモノエステルが好ましい。またジグリセリン脂肪酸モノエステルとしては、例えばパルミチン酸、ステアリン酸等の脂肪酸とジグリセリンとのモノエステルが挙げられる。グリセリン脂肪酸モノエステル、ジグリセリン脂肪酸モノエステルは、それぞれ2種以上を併用することができる。
【0011】
本発明の食用起泡剤は、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸モノエステル、ジグリセリン脂肪酸モノエステル等の乳化剤の他に、更に他の乳化剤を含有していても良いが、他の乳化剤は全乳化剤中の5重量%以下が好ましい。また起泡剤中の乳化剤の割合は、10〜25重量%であることが好ましい。本発明において、ショ糖脂肪酸エステルの全乳化剤中の割合は10〜30重量%が好ましい。ショ糖脂肪酸エステルが全乳化剤中、10重量%未満ではラメラ液晶構造体が形成され難くなり、30重量%を超えると風味を低下させる虞がある。またグリセリン脂肪酸モノエステル、ジグリセリン脂肪酸モノエステルは合計で、全乳化剤中の70重量%以上含むことが好ましい。
【0012】
本発明の起泡剤において、グリセリン脂肪酸モノエステルとジグリセリン脂肪酸モノエステルとの割合は、重量比でグリセリン脂肪酸モノエステル:ジグリセリン脂肪酸モノエステル=55:45〜10:90であり、55:45〜35:65がより好ましい。グリセリン脂肪酸エステルの割合が55重量部を超える場合(ジグリセリン脂肪酸モノエステルが45重量部未満の場合)、ケーキ類に芯が形成されたり、起泡剤製造上において不均一なツブが形成され、またグリセリン脂肪酸モノエステルが10重量部未満の場合(ジグリセリン脂肪酸モノエステルが90重量部を超える場合)には起泡性が低下する虞がある。
【0013】
本発明の食用起泡剤は、ショ糖脂肪酸エステルと糖アルコールとのラメラ液晶構造体中に、グリセリン脂肪酸モノエステルとジグリセリン脂肪酸モノエステルとが含有されている。ショ糖脂肪酸エステルと糖アルコールとのラメラ液晶構造体を形成するためには、まず室温において糖アルコール水溶液にショ糖脂肪酸エステルを添加することが好ましい。次いで昇温して40℃〜50℃の温度域でショ糖脂肪酸エステルと糖アルコールとのラメラ液晶構造体を形成させた後、これに60〜75℃の温度領域でグリセリン脂肪酸モノエステルとジグリセリン脂肪酸モノエステルとを添加することにより、ショ糖脂肪酸エステルと糖アルコールとのラメラ液晶構造体中に、グリセリン脂肪酸モノエステルとジグリセリン脂肪酸モノエステルと含有させることができるが、ショ糖脂肪酸エステルと糖アルコールとのラメラ液晶構造体が形成されさえすれば、グリセリン脂肪酸モノエステル、ジグリセリン脂肪酸モノエステルは、糖アルコールに添加して用いても良い。上記ラメラ液晶構造とは、乳化剤と糖アルコール水溶液により層状に配列された構造体を指し、起泡剤作成中の昇温時にその構造体が形成された場合を意味する。起泡剤作成後に再度昇温することにより、再びラメラ液晶の構造体が形成され、偏光顕微鏡やX線回折により判別可能である。なお、ラメラ液晶以外の構造体の場合は、起泡剤作成中に不均一にゲル状のツブができたり、全体的にゲル状の塊が形成されたりしてラメラ液晶ではないことがはっきりと判別できる。
【0014】
本発明の食用起泡剤は、糖濃度が55〜65のものが起泡性が良好で好ましい。糖濃度を55〜65の起泡剤は、目的とする起泡剤の糖濃度と同等か高めの糖濃度の糖アルコールを用いて起泡剤を調製するか、必要に応じて起泡剤調整後に加水して、糖濃度を調節することにより得ることができる。
【0015】
本発明の食用起泡剤は、X線回折によるラメラ液晶構造の面間隔が120〜250Åであることが好ましいが、170〜250Åであることがより好ましい。
【実施例】
【0016】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1〜3
下記表1に示す配合に基づき、実施例1、2、3では、まずソルビトール水溶液にショ糖脂肪酸エステル(HLB=11)を分散させた後、45℃に昇温してショ糖脂肪酸エステルと糖アルコールとのラメラ液晶構造体を形成させた後、さらに昇温し70℃に到達した時点で75℃で融解したグリセリン脂肪酸モノエステル、ジグリセリン脂肪酸モノエステルを添加した後、75℃に保温した水を添加した。尚、表1における起泡剤配合量は重量部単位である。
得られた起泡剤のX線回折によって、ラメラ液晶構造特有の長周期の2次回折線や短面の回折線の消失からラメラ液層構造の存在を確認し、ラメラ液晶構造面間隔を測定した。また、糖濃度計により糖濃度を測定した。結果を表1に示す。
上記ケーキ用起泡剤を用い、以下の配合・条件にてスポンジケーキを焼成した。得られたスポンジケーキの評価を表1にあわせて示す。
スポンジケーキ配合
薄力粉 100重量部
砂糖 110重量部
全卵 160重量部
水 25重量部
ベーキングパウダー 1重量部
起泡剤 12重量部
生地調整は20コートミキサーを用い、オールイン法で低速で15秒間ミキシングした後、生地比重0.45を目安として表1に示す時間ホイップした。得られた生地を7号のデコ型に500g充填し、160℃のオーブンで40分間焼成した。
【0017】
【表1】

【0018】
比較例1〜3
下記表2に示す配合に基づき、比較例1および3は実施例1、2、3と同様に、比較例2は室温においてソルビトール水溶液にショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸モノエステル、ジグリセリン脂肪酸モノエステルと共にソルビタン脂肪酸エステルを分散させた後、70℃まで昇温を行ない、75℃に保温した水を添加した。尚、表2における起泡剤配合量は重量部である。X線回折により、ラメラ液晶構造の有無を確認し、ラメラ液晶構造を有するものについては面間隔を測定した。また糖濃度計により糖濃度を測定した。結果を表2にあわせて示す。
比較例2、3の起泡剤を用いて実施例と同様にしてスポンジケーキを焼成した。得られたケーキの性状を表2にあわせて示す。比較例1は起泡剤製造途中でキュービック液晶由来のツブが形成されてしまい、起泡剤が得られなかったためスポンジケーキの焼成試験は行なわなかった。
【0019】
【表2】

【0020】
※1:グリセリン脂肪酸エステル/ジグリセリン脂肪酸エステル/ショ糖脂肪酸エステルの重量比。
※2:グリセリン脂肪酸エステル/ジグリセリン脂肪酸エステルの重量比。
※3:芯の有無は、ケーキの縦・横断面においての目視判定した。
※4:ケーキの風味は官能試験により、
◎・・・・非常に卵風味あり
○・・・・若干卵風味あり
△・・・・卵の風味はしない
×・・・・乳化剤の苦味や渋みを感じる
として評価した。
※5:ケーキの口溶け、食感は、官能試験によって
◎・・・・非常に軽く、口溶け良好
○・・・・軽く、口溶け良好
△・・・・やや重く、口溶けあまり良くない
×・・・・非常に重く、口溶け悪い
として評価した。
※6:内相の状態は、ケーキの縦・横断面を観察し、
◎・・・・キメが均一に開き、黄色
○・・・・キメが比較的細かく、黄色み薄い
△・・・・キメが非常に細かく、白色
×・・・・キメが壊れていて、商品価値なし
として評価した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショ糖脂肪酸エステルと糖アルコールとのラメラ液晶構造体中に、グリセリン脂肪酸モノエステル及びジグリセリン脂肪酸モノエステルが、重量比でグリセリン脂肪酸モノエステル:ジグリセリン脂肪酸モノエステル=55:45〜10:90の割合で含有されていることを特徴とする食用起泡剤。
【請求項2】
X線回折によるラメラ液晶構造の面間隔が120〜250Åである請求項1記載の食用起泡剤。
【請求項3】
乳化剤添加前の糖アルコール水溶液の糖濃度が58以上の糖アルコール水溶液を用いる請求項1又は2記載の食用起泡剤。
【請求項4】
ショ糖脂肪酸エステルの全乳化剤成分中の割合が10〜30重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の食用起泡剤。
【請求項5】
食用起泡剤の糖濃度が55〜65である請求項1〜4のいずれかに記載の食用起泡剤。

【公開番号】特開2006−246800(P2006−246800A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68705(P2005−68705)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】