説明

食肉加工品の製造方法

【課題】食肉塊にインジェクションするピックル液中の添加成分において、種々の増粘剤や、食物繊維、澱粉等を選択し、かつこれら特定の含有量を有する食肉加工品とすることにより、リン酸塩の添加量をより少なくし、すなわち食肉加工品中のリン酸塩含有量を減少させ、ジューシーでみずみずしく、肉の繊維感を有し、また、本来の食肉の味を失わない、美味しい食肉加工品の製造方法を提供すること。
【解決手段】食用肉塊に、少なくとも食物繊維、カードラン、及び異種タンパクを含むピックル液をインジェクションし、食用肉塊中の食物繊維含量が0.25〜3.0重量%、カードラン含量が0.008〜0.4重量%、異種タンパク含量が0.5〜5.0重量%及びリン酸塩含量が0〜0.25重量%となるように仕込みすることにより、ハムや焼豚等の食肉加工品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉加工品の製造方法に関し、より詳しくは、食肉加工品中のリン酸塩の使用量を減少させ、他方、特定量の食物繊維及びカードランを含有せしめると共に、異種タンパク及び必要に応じて澱粉の使用量を調整することにより、ジューシー感、肉の繊維感などの食感に優れたハム、焼豚等の食肉加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食肉加工品の食感形成は、食肉の筋繊維からミオシンを抽出し、このミオシンが加熱変性を受ける際、ミオシンの凝集、整列、変性が起こり、整列の際、立体的な網目構造を形成し、網目の中に、水、脂肪を保持し、ジューシーな旨味を表現することができ、また、網目構造は良好なプリッとした食感を呈する。
【0003】
ハムや焼豚などの食肉加工品の設計においては、添加する水をいかに保持させるかが重要な要素である。保水が強すぎれば、硬いが一枚板のような単調な食感となり、ジューシー感が不足する。保水を弱めれば、ジューシー感の維持は可能であるが、硬さを失い食肉の品位を維持できない。又、熱処理歩留の低下はコストメリットのダウンとなる。
【0004】
味の向上と共に、食肉加工品の歩留まりを向上するには、品質を保ちつつより多くの水を添加する必要があり、そのためリン酸塩を添加することが従来から行われている。リン酸塩は肉繊維に水を結びつける作用を有し、このため肉繊維を溶かすような食感になり、肉の繊維食感が失われ、滑らかな魚肉練り製品様の食感を呈することになる。水はミオシン網目構造、肉繊維内だけでは保持されないので、保水する物質、すなわちエクステンダー[タンパク(大豆タンパク、卵タンパク、乳タンパク)、澱粉、増粘多糖類]を配合して筋繊維中に均一に分散させる。一方、製造後の製品からの離水を防止する必要があり、エクステンダーとして離水の少ないタンパクを主体として用いると、水浮きが少なくゴム様食感を呈する製品となる。肉繊維のリン酸塩による水膨潤や、また、エクステンダーの熱ゲル性質(不可逆性)によって、みずみずしいものの最終製品は肉繊維を感じることができず、ジューシー感も少ない。
【0005】
従来、ハム等の食肉加工品の製造方法において、食肉加工品の保水性、食感等を改良するため、肉塊に注入又は浸漬して用いるピックル液に種々の添加物を配合する技術が知られており、例えば、アルカリゲネス・フェーカリス・バル.ミクソゲネスK(Alcaligenes faecalis var.myxogenes K)の生産するβ−1・3−グルコース結合を主体とする熱凝固性多糖類(いわゆるカードラン)を加熱前の工程において肉に対し0.1〜8重量%均一に添加し、原料肉塊間相互が強固に決着し得るハム類の製造法(例えば、特許文献1参照)や、焙焼デキストリン水溶液にα−アミラーゼを先ず作用させ、次いでトランスグルコシダーゼとβ−アミラーゼとを共存させて作用させて、(イ)食物繊維含量が60〜70重量%(ロ)平均分子量が600〜750、及び(ハ)甘味度が砂糖の25〜30%である食物繊維含有デキストリンを得、このデキストリンを食肉に添加して加工する食物繊維を含有する食肉加工品の製造法(例えば、特許文献2参照)や、天然糊料および合成糊料から選ばれる少なくとも1種の糊料とカードランを含有する食肉加工用ピックル液組成物(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【0006】
また、ブロック状食肉に、カードランと大豆タンパク質を加え、臭い、味、テクスチャーを改善し得る食肉加工品の製造方法(例えば、特許文献4参照)や、コラーゲン及びカードランを含有させてなる、保水性、食感、風味が改善されたハム・ベーコン類(例えば、特許文献5参照)や、カードランをアルカリ水溶液に溶解または膨潤させ、該アルカリ水溶液を食肉に添加して成形する、製品の歩留まりを向上し得る食肉加工品の製造方法(例えば、特許文献6参照)や、微結晶セルロース10〜90重量%、半精製カラギーナン10〜90重量%からなる複合体である肉製品用の安定剤(例えば、特許文献7参照)が知られている。
【0007】
さらに、常温で水不溶性の澱粉および粉末油脂を必須成分として含み、さらに液体カードランおよび/または粉末カードランを含むインジェクション用ピックル液組成物(例えば、特許文献8参照)や、食肉加工品を製造するに際し、平均粒子径30μm以下のカードランを含有する食肉加工品用品質改良剤を添加する、食肉加工品の製造における歩留まりを向上させる方法(例えば、特許文献9参照)が知られている。
【0008】
一方、食用肉塊中の食物繊維含量が0.25〜3.0重量%、カードラン含量が0.008〜0.4重量%、異種タンパク含量が0.5〜5.0重量%及びリン酸塩含量が0〜0.25重量%となるように、食用肉塊にピックル液をインジェクションすることにより食肉加工品を製造する方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭47−45101号公報
【特許文献2】特開平5−244902号公報
【特許文献3】特開平5−260927号公報
【特許文献4】特開平5−268909号公報
【特許文献5】特開平8−256732号公報
【特許文献6】特開平9−238653号公報
【特許文献7】特開平11−46723号公報
【特許文献8】特開2001−258511号公報
【特許文献9】特開2006―109730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ジューシーでみずみずしく、旨味があり、かつ安価な食肉加工品を得るには、食肉により多くの水を加え、食肉に水を保持させる必要がある。このために、一つの技術として、従来よりリン酸塩を添加して、水を肉繊維に結びつける技術が知られている。しかし、従来の食肉加工品製造時のリン酸塩の仕込み量0.3重量%以上では、肉繊維を溶かすような食感を与え、肉の繊維食感も失われる。また、食肉加工品以外にもリン酸塩を使用している加工食品が数多くあり、リンの摂取は、過剰気味である。摂取量において、カルシウムとリンとの比率が1:1を保っていない現状であるところ、より少ないリン酸塩の含有量とすることが求められている。本発明の課題は、食肉塊にインジェクションするピックル液中の添加成分において、種々の増粘剤や、食物繊維、澱粉等を選択し、かつこれら特定の含有量を有する食肉加工品とすることにより、リン酸塩の添加量をより少なくし、すなわち食肉加工品中のリン酸塩含有量を減少させ、ジューシーでみずみずしく、肉の繊維感を有し、また、本来の食肉の味を失わない、美味しい食肉加工品の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、食肉加工品、特にハムや焼豚において、従来に比べてよりジューシーでまた、リン酸塩の使用量を極力減らすべく、鋭意検討した結果、食肉加工品中に特定量の食物繊維及びカードランを含有せしめると共に、異種タンパク及び必要に応じて澱粉の使用量を調整することにより、ジューシー感、肉の繊維感などの食感に優れたハム、焼豚等の食肉加工品を安価に製造し得ることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、(1)食用肉塊に、少なくとも食物繊維、カードラン、及び異種タンパクを含むピックル液をインジェクションし、食用肉塊中の食物繊維含量が0.25〜3.0重量%、カードラン含量が0.008〜0.4重量%、異種タンパク含量が0.5〜5.0重量%及びリン酸塩含量が0〜0.25重量%となるように仕込みすることを特徴とする食肉加工品の製造方法に関する。
【0013】
また本発明は、(2)食肉加工品がハムである場合、ピックル液がさらにカラギーナンを含み、異種タンパク含量が1.5〜4.5重量%及びカラギーナン含量が0.1〜1.0重量%となるように仕込みすることを特徴とする上記(1)記載の食肉加工品の製造方法や、(3)食肉加工品が焼豚である場合、ピックル液がさらに澱粉を含み、異種タンパク含量が0.5〜3.0重量%及び澱粉含量が0.3〜1.5重量%となるように仕込みすることを特徴とする上記(1)記載の食肉加工品の製造方法や、(4)食物繊維が、不溶性セルロースであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか記載の食肉加工品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、食肉を高加水で保持することができるため、調理直後の溢れるようなジューシーさと、肉の繊維が感じられると共に、優れた食感と肉特有の旨味を有する食肉加工品を得ることができ、また、熱処理歩留の低下が少なく経済的に安価に優れた食肉加工品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の食肉加工品の製造方法としては、食用肉塊に、少なくとも食物繊維、カードラン、及び異種タンパクを含むピックル液をインジェクションし、食用肉塊中の食物繊維含量が0.25〜3.0重量%、カードラン含量が0.008〜0.4重量%、異種タンパク含量が0.5〜5.0重量%及びリン酸塩含量が0〜0.25重量%となるように仕込みする方法であれば何ら制限されるものではないが、上記食肉加工品としては、ハム、焼豚、ベーコン等を好適に例示することができる。そして、食肉加工品がハムである場合、ピックル液がさらにカラギーナンを含み、異種タンパク含量が1.5〜4.5重量%及びカラギーナン含量が0.1〜1.0重量%となるように仕込みすることが好ましく、また、食肉加工品が焼豚である場合、異種タンパク含量が0.5〜3.0重量%及び澱粉含量が0.3〜1.5重量%となるように仕込みすることが好ましい。
【0016】
前記ピックル液には、上記食物繊維、カードラン及び異種タンパク以外に、リン酸塩、食塩、糖類(還元水飴、砂糖、澱粉など)、発色剤、調味料、油脂、保存料、酸化防止剤、香辛料等を含んでいてもよい。また、食肉加工用のピックル液は、常法に従って配合成分を水中で撹拌して溶解あるいは分散することによって得られ、一般にインジェクション法で食肉塊にインジェクションされる。
【0017】
本発明でいう食肉加工品とは、公知の方法に従って、豚肉、牛肉、鶏肉等の原料肉にピックル液をインジェクションした仕込み後の肉塊に必要に応じてマッサージや静置、さらに原料肉を加熱あるいは乾燥等を行うことにより得られる。すなわち、食物繊維、カードラン及び異種タンパクの他にリン酸塩、食塩、糖、発色剤、調味料、油脂、保存料、酸化防止剤、香辛料等に水を加えてピックル液を調製し、このピックル液をインジェクターによりインジェクションし、その後必要に応じて、タンブリングや、ファイブラスや不織布などのケーシングや、ミートネット、糸巻きなどの充填や、加熱設備(スモークハウス、ボイル、スチーマー、オーブンなど)で加熱や、冷却、凍結などにより得ることができる。
【0018】
そして、ピックル液は原料の食肉塊100重量部に対して、60〜100重量部インジェクションすることが好ましく、特にハム製造の場合は90〜100重量部、焼豚の場合は60〜80重量部インジェクションすることがより好ましい。例えば、豚背ロース肉100重量部にピックル液を100重量部インジェクションしてハムを製造する場合、食物繊維0.5〜6.0重量%、カードラン0.016〜0.8重量%、異種タンパク3.0〜9.0重量%、リン酸塩0〜0.6重量%及びカラギーナン0.2〜2.0重量%を含むピックル液を有利に用いることができる。
【0019】
食肉加工品の製造におけるピックル液には、肉繊維に水を結びつける必要性から、従来からリン酸塩が必須成分とされていた。そして、ピックル液中のリン酸塩の含有量は、通常食肉加工品中のリン酸塩の含有量が0.3重量%以上となるよう配合されていた。前述したように、0.3重量%以上という含有量において、食肉は加水されるものの、食肉特有の繊維食感が失われ、滑らかな魚肉練り製品様の食感を呈することとなる。
【0020】
本発明では、ピックル液におけるリン酸塩の含有量を極力減らし、食肉加工品中の含有量が0.0〜0.25重量%という少ない含有量とするものである。特に、焼豚では、リン酸塩を0.0重量%とすることもできる。このように、本発明は、リン酸塩の含有量を減少させても、通常のリン酸塩含量の食肉加工品と比べてよりジューシーな食肉加工品を得ることができる。リン酸塩としては、ピロリン酸塩やトリポリリン酸塩などの重合リン酸塩が挙げられる。
【0021】
本発明における食物繊維は、肉の繊維間に入り込み、肉と強固に決着せず、熱ゲル化しない、また、水との結びつきも弱いと考えられ、噛み締めると水をはき出すスポンジのようなイメージである。デキストリンや多糖類も分子量が大きければ同様の作用があるが、本発明に用いられる食物繊維は、歯に当たると繊維としての硬さを感じさせるものが好ましい。実際には、微細な繊維粒なので、歯切れとしてではなく、ざらつきとして認識され、肉繊維としての繊維感に貢献する。
【0022】
本発明に用いられる食物繊維は、仕込み時に0.25〜3.0重量%、好ましくは0.5〜1.5重量%を含有させるものであり、0.25重量%未満では、ハム等製品とした場合、繊維感を感じることがなく、また、3.00重量%を超えると、ざらつきが強すぎて肉の繊維感とは異なる繊維感となる。本発明で用いる食物繊維としては、セルロース系で、水溶性又は不溶性セルロースのいずれでも用いることができるが、不溶性セルロースが好ましい。サイズ的には、不溶性の微細セルロースを用いることがより好ましい。不溶性セルロースとして具体的には、「ビバピュアー 微結晶セルロース」(登録商標、株式会社FIニュートリション製)、「NPファイバ−W−10MG2」(登録商標、日本製紙ケミカル株式会社製)、「NP−ファイバ−W−300F」(登録商標、日本製紙ケミカル株式会社製)、「トスコ麻セルロースパウダー」(登録商標トスコ株式会社製)が挙げられる。食物繊維と澱粉との混合物として「オルファイバー」(登録商標、キリン協和フーズ株式会社製)が挙げられる。
【0023】
従来からハムの製造法によく用いられる増粘剤は主としてカラギーナンであり、加熱溶解、冷却してゲルセットする。その性質はサクミのあるもろいゼリーで、程よく離水しジューシー感を付与する。このもろさを高めるため、KCl、ローカストビーンガムなどを加えた製剤が広く普及している。本発明のハムの製造方法では、カラギーナンを適宜含有させることにより、食感が良くなり、ハム製品中、異種タンパクに加えてカラギーナン含量が0.1〜1.0重量%となるように仕込みすることが好ましい。
【0024】
本発明に用いられるカードランは増粘多糖類の一種であり、β−1,3−グルコシド結合を主体とする、アルカリゲネス属又はアグロバクテリウム属などの微生物により生産される熱凝固性多糖類である。カードランは加熱の温度によって性状が異なり、たとえば、水膨潤の後、55℃以上で熱ゲルし、65〜80℃以上でゼリー強度の強い不可逆性のハイセットゲルとなる。55〜65℃程度の加熱域では熱ゲルはゼリー強度の低いローセットゲルを形成する。55℃以上の温度域で膨潤することにより、タンパク類では抱え込めなかった水分を製品内に保持することができ、高い加熱歩留を実現することができる。また、ハイセットゲル特性はサクミのあるもろいゼリーで、離水傾向はカラギーナンよりも強く、ジューシー感を付与することができる。
【0025】
本発明において、カードランは、ピックル液中に含有させて、仕込み時に0.008〜0.4重量%含有させるが、その形態は、液状、粉末又微粉末の何れでもよい。好ましくは、カードランを仕込み時に0.02〜0.2重量%、より好ましくは0.2〜0.3重量%含有させる。0.008重量%未満では、シューシーさに欠け、0.4重量%を超えるとやや硬い食感を与える。カードランとして具体的には、「カードランCD15P(溶液状)」(登録商標、キリン協和フーズ株式会社製)、「粉末状カードラン」(登録商標、キリン協和フーズ株式会社製)、カードランNS(微粉末)」(登録商標、キリン協和フーズ株式会社製)が挙げられる。
【0026】
本発明において、異種タンパクとは、食肉中のタンパクとは異なるタンパクを意味し、例えば、大豆タンパク、卵タンパク、乳タンパク等を例示することができる。
【0027】
タンパクの種類により仕込み量は異なるが、合計で0.5〜5.0重量%であり、好ましくは、1.0〜3.0重量%、より好ましくは2.0〜3.0重量%である。0.5重量%未満では保水が弱くみずみずしさは有するが、食肉製品としての適度な硬さに欠け、5.0重量%を超えると硬さは有するが、保水が強くみずみずしさに欠ける。また、風味においても肉本来の風味にも欠ける。用いる異種タンパクの含有量を種類別にみると、例えば、ハムでは大豆タンパク1.5〜3.0重量%、卵タンパク0.3〜0.8重量%、乳タンパク0.05〜0.30重量%であることが好ましく、焼豚では、大豆タンパク0.40〜1.5重量%、卵タンパク0.30〜1.0重量%、乳タンパク0〜0.005重量%であることが好ましい。
【0028】
本発明は、ピックル液中にリン酸塩や異種タンパクの存在で、食物繊維及びカードランを配合し、食用肉塊にピックル液をインジェクションし、加工することで、食肉加工品中にこれらを含ませ、リン酸塩の添加量を従来の添加量に比べて大幅に減少させた食肉加工品の製造方法に関する。かかる食肉加工製品は高加水であって、みずみずしくジューシーであり、また、繊維食感を有し、かつ熱処理歩留は高いままであることから安価に製造することができる。
【0029】
例えば、本発明のハムの製造方法として、食用肉塊に、少なくとも食物繊維、カードラン、異種タンパク、リン酸塩及びカラギーナンを含むピックル液をインジェクションし、食物繊維含量が0.4〜3.0重量%、カードラン含量が0.01〜0.400重量%、異種タンパク含量が1.5〜4.5重量%、リン酸塩含量が0.01〜0.25重量%及びカラギーナン含量が0.15〜1.0重量%となるように仕込みし、その後、通常のプロセスでハムを製造する方法を挙げることができる。また、本発明の焼豚の製造方法として、食用肉塊に、少なくとも食物繊維、カードラン、異種タンパク、リン酸塩及び澱粉を含むピックル液をインジェクションし、食物繊維含量が0.2〜1.0重量%、カードラン含量が0.008〜0.05重量%、異種タンパク含量が0.5〜3.0重量%、リン酸塩含量が0.0〜0.25重量%及び澱粉含量が0.3〜1.5重量%となるように仕込みし、その後、通常のプロセスで焼豚を製造する方法を挙げることができる。
【0030】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0031】
[実施例1]
(ロースハムの製造)
リン酸塩、大豆タンパク、乾燥卵白、乳タンパク、カードラン微粉末(商品名「カードランNS」)、食物繊維(商品名「NPファイバ−W−300」)、カラギーナン、その他食塩、香辛料、糖類、着色料等の各成分を含むピックル液99.5重量部を、豚背ロース肉100重量部にインジェクションした。その結果、表1の本発明Bに示されるピックル液成分を含有する仕込み後のロース肉塊が得られた。その後、かかる処理ロース肉塊を5℃において16時間タンブリングを行い、ファイブラスケーシングに充填し、スモークハウスにて、乾燥(65℃、30分)、スモーク(70℃、30分)、蒸煮(80℃、4時間)、水冷(30分)を行い、一晩冷蔵保存し、ロースハム(B)を製造した。
【0032】
比較例1として、ピックル液99.5重量部を、豚背ロース肉100重量部にインジェクションし、表1の比較品Aに示されるピックル液成分を含有する仕込み後のロース肉塊が得られた。その後、実施例1と同様の製造方法により製造し、従来品ロースハム(A)を製造した。
【0033】
【表1】

【0034】
(ジューシーさの確認試験)
本発明のロースハム(B)と従来品ロースハム(A)におけるジューシーさの確認試験をした。口中で噛んだ際に製品から滲み出すジュース量を求めるため、スライスした製品に重りを乗せ、滲み出すジュースをろ紙に吸わせ、ジュース量とした。共に直径91mmのロースハムを厚さ2mmにスライスし検体とした(共にn=10)。加重前に重量を測定した検体をろ紙に挟み、均一に加重を掛けるため、平らな板を用い、板の上に重りを乗せ(加重合計重量:板、重りの合計2.0kg)、1分間加重した後、検体の重量を測定し、減耗分をジュース量とした。ジュース量:加重前後の検体重量差とジュース率:ジュース量/加重前検体重量を評価項目とした。結果を表2に示す。表2に示すように、本発明のロースハム(B)は従来品ロースハム(A)と比べて1.65倍ジューシーであることが分かる。
【0035】
【表2】

【0036】
(官能評価試験)
本発明のロースハム(B)と従来品ロースハム(A)とを比較するために官能評価試験を行った。8名のパネラーにより、表4に示す評価基準に従って官能評価した。その結果を表3に示す。表3の示すように、本発明のロースハム(B)は従来品ロースハム(A)に比べて、肉の繊維感、ジューシー感、高級感、食感においてより優れていることがわかった。
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
[実施例2〜18]
(ロースハムの製造)
ピックル液の各成分と配合量を変え、実施例1と同様の製造方法でロースハムを製造し、実施例2〜実施例18とした。ピックル液の各成分と配合量、及びロース肉塊に対するピックル液の仕込み割合を表5〜表8に示す。なお、カードラン溶液における値はカードラン換算値である。
【0040】
【表5】

【0041】
【表6】

【0042】
【表7】

【0043】
【表8】

【0044】
[実施例19]
(焼豚の製造)
大豆タンパク、乾燥卵白、カードラン微粉末(商品名「カードランNS」)、食物繊維(商品名「NPファイバ−W−10MG2」)、澱粉、リン酸塩、その他食塩、香辛料、糖類、着色料等の各成分を含むピックル液70重量部を、豚もも肉100重量部にインジェクションした。その結果、表9の本発明Bに示されるピックル液成分を含有する仕込み後の肉塊が得られた。その後、かかる塩漬肉塊は、ピックル液以外に、塩漬肉塊の表面に、肉塊どうしの接着を目的としてリン酸塩や酵素が塗布され、以後常法により本発明の焼豚(B)を製造した。
【0045】
比較例2として、ピックル液70重量部を、豚もも肉100重量部にインジェクションし、表9の比較品Aに示されるピックル液成分を含有する仕込み後のもも肉塊が得られた。その後、実施例19と同様の製造方法により製造し、従来品焼豚(A)を製造した。
【0046】
【表9】

【0047】
(ジューシーさの確認試験)
本発明の焼豚(B)と従来品焼豚(A)におけるジューシーさの確認試験をした。口中で噛んだ際に製品から滲み出すジュース量を求めるため、スライスした製品に重りを乗せ、滲み出すジュースをろ紙に吸わせ、ジュース量とした。焼豚は不定形であるため、同じく4mm厚みにスライスした後、ナイフにて35mm×35mmの同一サイズに切りそろえ検体とした(共にn=10)。加重前に重量を測定した検体をろ紙に挟み、均一に加重を掛けるため、平らな板を用い、板の上に重りを乗せ(加重合計重量:板、重りの合計2.0kg)、1分間加重した後、検体の重量を測定し、減耗分をジュース量とした。ジュース量:加重前後の検体重量差とジュース率:ジュース量/加重前検体重量を評価項目とした。結果を表10に示す。表10に示すように、本発明の焼豚(B)は従来品焼豚(A)と比べて1.64倍ジューシーであることが分かる。
【0048】
【表10】

【0049】
(官能評価試験)
本発明の焼豚(B)と従来品焼豚(A)とを比較するために官能評価試験を行った。8名のパネラーにより、前記表4に示す評価基準に従って官能評価した。その結果を表11に示す。表11の示すように、本発明の焼豚(B)は従来品焼豚(A)に比べて、肉の繊維感、ジューシー感、高級感、食感においてより優れていることが分かった。
【0050】
【表11】

【0051】
[実施例20〜25]
(焼豚の製造)
ピックル液の各成分と配合量を変え、実施例19と同様の製造方法で焼豚製造し、実施例20〜実施例25とした。ピックル液の各成分と配合量、及びもも肉塊に対するピックル液の仕込み割合を表12に示す。なお、カードラン溶液における値はカードラン換算値である。
【0052】
【表12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用肉塊に、少なくとも食物繊維、カードラン、及び異種タンパクを含むピックル液をインジェクションし、食用肉塊中の食物繊維含量が0.25〜3.0重量%、カードラン含量が0.008〜0.4重量%、異種タンパク含量が0.5〜5.0重量%及びリン酸塩含量が0〜0.25重量%となるように仕込みすることを特徴とする食肉加工品の製造方法。
【請求項2】
食肉加工品がハムである場合、ピックル液がさらにカラギーナンを含み、異種タンパク含量が1.5〜4.5重量%及びカラギーナン含量が0.1〜1.0重量%となるように仕込みすることを特徴とする請求項1記載の食肉加工品の製造方法。
【請求項3】
食肉加工品が焼豚である場合、ピックル液がさらに澱粉を含み、異種タンパク含量が0.5〜3.0重量%及び澱粉含量が0.3〜1.5重量%となるように仕込みすることを特徴とする請求項1記載の食肉加工品の製造方法。
【請求項4】
食物繊維が、不溶性セルロースであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の食肉加工品の製造方法。


【公開番号】特開2012−157291(P2012−157291A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19293(P2011−19293)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000113067)プリマハム株式会社 (72)
【Fターム(参考)】