説明

飴類の製造方法及び該製造方法によって得られた飴類

【課題】 有効成分である燕窩及び/又はその酵素分解物の生理活性を損なうことなく飴類に配合することができる飴類の製造方法及び該製造方法によって得られた飴類を提供する。
【解決手段】 燕窩以外の原料を混合、加熱して飴類の生地を調製した後、該飴類の生地を冷却する工程で燕窩及び/又はその酵素分解物を添加することにより飴類を製造する。前記飴類の生地を100〜130℃に冷却してから前記燕窩及び/又はその酵素分解物を添加することが好ましい。また、前記燕窩及び/又はその酵素分解物を0.1〜5質量%添加することが好ましい。更に、前記燕窩及び/又はその酵素分解物として、燕窩の水抽出物及び/又は燕窩の水抽出物の酵素分解物を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス感染予防効果が期待できる飴類の製造方法及び該製造方法によって得られた飴類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、病原体としてわれわれの生活に深い関わりをもっており、ヒトに感染するウイルスとして、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、EBウイルス、B型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、ポリオウイルス、日本脳炎ウイルス、エイズウイルス、サーズウイルス等の様々なウイルスが知られている。
【0003】
例えば、インフルエンザは、主に鼻腔や口等から体内に侵入して気道内の粘膜に付着して感染する。インフルエンザに感染すると、高熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、のどの痛み、鼻汁等の症状を示し、更に、気管支炎、肺炎等を併発して重症化することも多い。また、インフルエンザは流行が始まると短期間に小児から高齢者まで膨大な数の人を巻き込み、高齢者の死亡率が高くなる。
【0004】
従来、インフルエンザの予防法としては、ワクチンを接種してインフルエンザウイルスへの抗体反応によってウイルス感染を防止する方法や、ウイルスが人体に入るのを防止するためにマスクを装着することが行われている。
【0005】
しかしながら、ワクチン接種による予防法は、ウイルスの変異株に合わせたワクチンを短期間に大量生産することが困難であり、流行株の予測が外れた場合等には対応できないという問題がある。一方、マスクによる予防法は簡便ではあるものの、予防法としては十分満足できるものではない。
【0006】
また、近年、インフルエンザ治療薬としてアマンタジン等も用いられるようになっているが、症状出現後48時間以内に投与しなければ効果が期待できず、更に、副作用、耐性株の出現の危険性等の問題から使用上の制限が多い。
【0007】
そのため、天然物を原料とする安全性の高いインフルエンザの予防・治療剤の開発が盛んに行われており、例えば、下記特許文献1には、出雲在来種の蕎麦の抽出物を有効成分とすることを特徴とする抗インフルエンザウイルス剤が開示されている。
【0008】
下記特許文献2には、粉砕した燕窩を水で抽出して得られた燕窩水抽出物を有効成分として含有することを特徴とするウイルス感染抑制剤が開示されている。
【0009】
下記特許文献3には、カラギーナンを分解することにより得られるオリゴ糖を有効成分として含有することを特徴とするインフルエンザウイルス感染阻害剤が開示されている。
【0010】
下記特許文献4には、グァバ葉抽出物を有効成分とするウイルス感染予防・治療剤が開示されている。
【特許文献1】特開2004−2361号公報
【特許文献2】特開2002−68988号公報
【特許文献3】特開2001−181188号公報
【特許文献4】特開2000−273048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような天然物を原料とするインフルエンザの予防・治療剤は、日常的に摂取することによってより高い効果が期待できることから、飲食品等に配合されることも多い。特に、口腔内で徐々に溶かしながら摂取する飴類に配合することにより、有効成分が口腔内に長く留まり、口腔や喉の粘膜に直接接触するため、インフルエンザウイルスの感染防止を目的とする場合には非常に効率的であると考えられる。
【0012】
しかしながら、インフルエンザの予防・治療剤を飲食品に配合する場合、飲食品の製造過程で熱履歴等の様々な変性を受けるため、その効能が低下したり、全く無くなってしまうという可能性があった。例えば、本発明者らは、上記特許文献2において粉砕した燕窩を水で抽出して得られた燕窩水抽出物を有効成分として含有するウイルス感染抑制剤を提案しているが、このウイルス感染抑制剤を飴類に配合しようとした場合、過度の熱履歴を受けるため、有効成分である燕窩水抽出物が変性してしまいほとんど効果が期待できないことが明らかとなった。
【0013】
したがって、本発明の目的は、有効成分である燕窩及び/又はその酵素分解物の生理活性を損なうことなく飴類に配合することができる飴類の製造方法及び該製造方法によって得られた飴類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の一つは、燕窩以外の原料を混合、加熱して飴類の生地を調製した後、該飴類の生地を冷却する工程で燕窩及び/又はその酵素分解物を添加することを特徴とする飴類の製造方法を提供するものである。
【0015】
本発明の飴類の製造方法によれば、ウイルス感染予防効果を有する燕窩及び/又はその酵素分解物を、飴類の生地を冷却する工程で添加することにより、燕窩及び/又はその酵素分解物が過度な熱履歴を受けることを防止することができる。その結果、燕窩及び/又はその酵素分解物の生理活性効果が損なわれることがなく、十分なウイルス感染予防効果が期待できる飴類を得ることができる。
【0016】
本発明の飴類の製造方法においては、前記飴類の生地を100〜130℃に冷却してから前記燕窩及び/又はその酵素分解物を添加することが好ましい。これによれば、燕窩及び/又はその酵素分解物が過度な熱履歴を受けることを防止することができるとともに、飴類の生地の流動性を十分に保った状態で燕窩及び/又はその酵素分解物を添加することができ、均一に混合することができる。
【0017】
また、前記燕窩及び/又はその酵素分解物を0.1〜5質量%添加することが好ましい。これによれば、比較的低コストで十分なウイルス感染予防効果が期待できる飴類を得ることができる。
【0018】
更に、前記燕窩及び/又はその酵素分解物として、燕窩の水抽出物及び/又は燕窩の水抽出物の酵素分解物を用いることが好ましい。これによれば、より高いウイルス感染予防効果が期待できる飴類を得ることができる。
【0019】
また、本発明のもう一つは、上記いずれかの製造方法で得られた飴類を提供するものである。
【0020】
本発明の飴類は、ウイルス感染防止効果を有する燕窩及び/又はその酵素分解物が、その生理活性効果を損なうことなく配合されている。そして、該飴類を口腔内で徐々に溶かしながら摂取することにより、有効成分が口腔内に長く留まり、口腔や喉の粘膜に直接接触させることができるので、より高いウイルス感染予防効果が期待できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ウイルス感染防止効果を有する燕窩及び/又はその酵素分解物の生理活性効果を損なうことなく飴類に配合することができ、安全性が高く、より高いウイルス感染予防効果が期待できる飴類を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明でいう「燕窩」とは、燕窩そのものだけでなく、燕窩の水抽出物も含む意味であり、「燕窩の酵素分解物」とは、燕窩そのものの酵素分解物だけでなく、燕窩の水抽出物の酵素分解物も含む意味である。
【0023】
燕窩は、アナツバメが自らの唾液を糸状にして作る巣であり、中国では古くから高級な食材として食されているほか、肺疾患、健胃、去痰、皮膚の若返り、滋養強壮等の漢方薬としても用いられている。また、その成分としては、タンパク質と糖質を多く含み、また、脂質はほとんど含まれていない。
【0024】
一般に市販されている燕窩には、毛や糞等の汚れを取り除いて洗浄しただけのものから、燕窩のクズを集めて漂白と洗浄を繰り返して成形したものまで様々な種類があるが、本発明においては、前処理において過度の洗浄や漂白などが行われていない燕窩が好ましく用いられる。なお、燕窩そのものを用いる場合は、粉砕したものを用いることが好ましく、好ましくは粒径300μm以下、より好ましくは150μm以下の大きさに粉砕した燕窩を用いる。
【0025】
また、燕窩の水抽出物は、例えば以下のようにして調製することができる。すなわち、好ましくは粒径2mm以下、より好ましくは150μm以下の大きさに粉砕した燕窩に、その質量の10〜1000倍の水を加えて、1〜100℃、0.5〜48時間静置又は撹拌して抽出を行い、不溶物を除去するために濾過を行う。得られた濾液をそのまま、あるいは適宜濃縮した後、凍結乾燥又は噴霧乾燥して粉末化すればよい。
【0026】
一方、燕窩の酵素分解物、あるいは燕窩の水抽出物の酵素分解物は、例えば以下のようにして調製することができる。すなわち、上記と同様にして抽出した抽出液(濾過前の溶液)、あるいは前記抽出液を濾過した濾液を60〜130℃、5〜30分間加熱処理した後、溶液のpHを酵素の至適pHに調整して酵素を適量加え、酵素の至適温度で0.5〜24時間酵素処理を行い、反応液を加熱処理するなどして酵素を失活させる。この時、酵素分解物の平均分子量が好ましくは500〜20万、より好ましくは2000〜7万となるように酵素処理条件を設定する。また、上記酵素としては、プロテアーゼが好ましく、例えば一般に食品用の酵素として市販されているものを1種又は2種以上組合せて用いることができる。
【0027】
次いで、反応液中の不溶物を除去するために濾過した後、得られた濾液を、そのまま、あるいは適宜濃縮してから凍結乾燥又は噴霧乾燥して粉末化すればよい。
【0028】
本発明においては、燕窩の水抽出物及び/又は燕窩の水抽出物の酵素分解物が好ましく用いられ、特に燕窩の水抽出物の酵素分解物が好ましく用いられる。なお、燕窩の水抽出物の酵素分解物として、例えば、商品名「コロカリア」(コンビ株式会社製)等の市販のものを用いることもできる。
【0029】
以下、本発明の飴類の製造方法について説明する。なお、本発明において、「飴類」とは、ドロップ、タフィー、ブリットル、飴玉等のハードキャンデーやキャラメル等のソフトキャンデーを含む意味である。
【0030】
i)ハードキャンデーの場合
まず、鍋や蒸発釜に、砂糖、水飴を水に加えて加熱・溶解し、水分が1〜2.5質量%になるまで煮詰めて飴生地を調製する。この時、鍋で煮詰めた場合は飴生地の温度が150〜165℃になり、蒸発釜で煮詰めた場合でも135℃以上になる。なお、砂糖や水飴等の配合割合は、製造しようとする飴の種類や煮詰め方法に応じて適宜調整すればよく、例えば、常圧で煮詰める場合(常圧法)は、質量比で砂糖80〜70、水飴20〜30であり、減圧下で煮詰める場合(真空法)は、質量比で砂糖65〜50、水飴35〜50である。
【0031】
得られた飴生地を冷却して飴生地の温度が好ましくは115〜130℃になったときに、上記燕窩及び/又はその酵素分解物を添加して均一に混合する。燕窩及び/又はその酵素分解物を添加する際の飴生地の温度が高すぎると、燕窩及び/又はその酵素分解物が過度の熱履歴を受けてウイルス感染防止効果が低下してしまい、飴生地の温度が低過ぎると、燕窩及び/又はその酵素分解物を飴生地と均一に混合できなくなるため好ましくない。
【0032】
また、燕窩及び/又はその酵素分解物は粉末状態で添加することが好ましく、その添加量は0.1〜5質量%が好ましく、0.2〜1質量%がより好ましい。燕窩及び/又はその酵素分解物の添加量が少な過ぎるとウイルス感染予防効果が期待できず、添加量が多過ぎるとコストが高くなるため好ましくない。
【0033】
なお、色素、香料、酸味料等の他の原料は、燕窩及び/又はその酵素分解物と一緒に添加してもよく、別々に添加しても良い。
【0034】
そして、飴生地が適当な硬さになるまで冷却した後、所定の形状に成型してから更に冷却することによりハードキャンデーを得ることができる。
【0035】
ii)ソフトキャンデーの場合
まず、鍋や蒸発釜に、砂糖、水飴、練乳、バター等を加熱しながら混合して煮詰め、飴生地を調製する。なお、上記各原料の配合割合は、製造しようとする飴の種類や煮詰め方法に応じて適宜調整すればよい。
【0036】
得られた飴生地(飴生地の温度は110〜140℃)を冷却して飴生地の温度が好ましくは100〜130℃、より好ましくは105〜120℃になったときに、上記燕窩及び/又はその酵素分解物を添加して均一に混合する。
【0037】
燕窩及び/又はその酵素分解物は粉末状態で添加することが好ましく、その添加量はハードキャンデーの場合と同様である。また、色素、香料、酸味料等の他の原料は、燕窩及び/又はその酵素分解物と一緒に添加してもよく、別々に添加しても良い。
【0038】
そして、飴生地が適当な硬さになるまで冷却した後、所定の形状に成型してから更に冷却することによりソフトキャンデーを得ることができる。
【0039】
上記のようにして得られた飴類は、燕窩及び/又はその酵素分解物が、その生理活性効果を損なうことなく配合されているので、これを口腔内で徐々に溶かしながら摂取することにより、有効成分が口腔内に長く留まるとともに口腔や喉の粘膜に有効成分を直接接触させることができるので、より高いウイルス感染予防効果が期待できる。特にハードキャンデーは、口腔内での滞留時間が長いので効果的である。
【0040】
本発明の飴類の有効燕窩含有量は、燕窩及び/又はその酵素分解物換算で、好ましくは飴1個当り0.1〜50mgであり、より好ましくは0.5〜10mgである。
【実施例1】
【0041】
水飴30g、砂糖70g、水50gを鍋に入れて加熱・溶解し、常法にしたがって煮詰めて飴生地を調製した。
【0042】
そして、飴生地を冷却し、該飴生地の温度が150℃の時に、燕窩の水抽出物の酵素分解物(商品名「コロカリア」、コンビ株式会社製)250mg(粉末)を添加して均一に混合した後、成型、冷却してハードキャンデーを製造した(サンプル1)。
【0043】
また、燕窩の水抽出物の酵素分解物を添加する際の飴生地の温度を、135℃(サンプル2)、130℃(サンプル3)、あるいは120℃(サンプル4)にした以外は上記と同様にしてハードキャンデーを製造した。
【0044】
上記のようにして得られたサンプル1〜4のハードキャンデーを用いて、以下のようにして鶏赤血球凝集阻害反応によるウイルス感染防止能を測定した。
【0045】
まず、サンプル1〜4から燕窩の水抽出物の酵素分解物を抽出するために、各サンプル40gにそれぞれ蒸留水200mLを加えて少し加熱してキャンデーを溶解した後、α−アミラーゼ(シグマ社製)を400μL添加し、45℃で2時間反応させてデキストリンを分解した。得られた各溶液を透析チューブに入れ、5Lの蒸留水を外液として透析(5℃、24時間)を2回行った。そして、透析内液をそれぞれ回収し、凍結乾燥して各サンプルから粉末を得た。また、コントロールとして水飴、砂糖及び燕窩の水抽出物の酵素分解物の混合物を用いて上記と同様の処理を行い、透析内液から粉末を得た。
【0046】
そして、上記の各粉末をリン酸緩衝液に溶解して、濃度0〜30mg/mLのサンプル溶液を調製し、2倍希釈したウイルス溶液(インフルエンザウイルスA型(PR8株/H1N1)、入手先:信州大学大学院農学研究科)に加えて室温で1時間反応させた後、96穴マイクロプレート上で2倍段階希釈列を作り、0.5%赤血球溶液(鶏の赤血球をリン酸緩衝液に懸濁させたもの)を加えて混合し、室温で1時間放置した。そして、赤血球の凝集が見られた希釈倍数(HA価)を測定した。この試験によれば、HA価が高いほどインフルエンザウイルスの感染防止能が低いと考えられる。試験は3回行い、その平均値を求め、Student-t検定を用いて有意差を判定した。その結果を表1に示す。















【0047】
【表1】

【0048】
表1から、サンプル1、2においては、全てのサンプル濃度でHA価が高く、過度の熱履歴によりインフルエンザウイルスの感染防止効果が失われていることが分かる。一方、サンプル3、4はサンプル濃度2mg/mL以上でHA価が低くなっており、インフルエンザウイルスの感染防止効果を保持していることが分かる。特にサンプル4は、コントロールと同程度のインフルエンザウイルスの感染防止効果を有していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の製造方法は、ウイルス感染予防効果を有する飴類の製造に適している。そして、本発明の飴類は、インフルエンザウイルス等のウイルス感染防止を目的とした健康食品等として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燕窩以外の原料を混合、加熱して飴類の生地を調製した後、該飴類の生地を冷却する工程で燕窩及び/又はその酵素分解物を添加することを特徴とする飴類の製造方法。
【請求項2】
前記飴類の生地を100〜130℃に冷却してから前記燕窩及び/又はその酵素分解物を添加する請求項1記載の飴類の製造方法。
【請求項3】
前記燕窩及び/又はその酵素分解物を0.1〜5質量%添加する請求項1又は2記載の飴類の製造方法。
【請求項4】
前記燕窩及び/又はその酵素分解物として、燕窩の水抽出物及び/又は燕窩の水抽出物の酵素分解物を用いる請求項1〜3のいずれか一つに記載の飴類の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つの記載の方法により得られた飴類。

【公開番号】特開2006−115732(P2006−115732A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305560(P2004−305560)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(504210385)
【出願人】(503188106)株式会社ブロマ研究所 (3)
【Fターム(参考)】