説明

養液栽培設備および養液栽培方法

【課題】養液中に直接オゾンを生成して養液の殺菌が可能な養液栽培設備および養液栽培方法を提供すること。
【解決手段】植物が配置される栽培ベッド1と、栽培ベッド1に供給する養液を貯留する養液タンク2と、オゾンを発生させるオゾン殺菌装置3と、養液タンク2からオゾン殺菌装置3に養液を送り、オゾン殺菌装置3から養液タンク2に養液を戻す養液殺菌経路12とを備えている。そして、オゾン殺菌装置3において養液中に直接オゾンを生成し、養液を殺菌することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養液栽培設備および養液栽培方法に関する。さらに詳しくは、養液そのものや養液栽培設備の消毒・殺菌にオゾンを利用して、栽培する植物の病害防除を行う養液栽培設備および養液栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
養液栽培とは、固形培地や水中に根系を形成させ、生育に必要な栄養成分を液肥と希釈水とを所定比率で混合した養液(培養液)を介して与えて、土壌を用いることなく作物などの植物を栽培する栽培方法のことをいう。養液栽培で発生する植物の主な病害としては、青枯病、萎ちょう病、根腐病などがあり、これら病害における病害虫の侵入経路の多くは、種子による伝染、空気中からの伝染、水や養液による伝染、および育苗資材やホース・水道管などからの伝染、と言われている。特に、栽培ベッド内や養液タンク内の養液に病原菌が混入した場合には、壊滅的な被害に拡大することがあり、これが養液栽培の生産安定や面積拡大の阻害要因の一つとなっている。さらに、現在、登録農薬がないため十分な消毒は不可能とされてきた。また、病害防除の対策として、紫外線照射による方法、超音波による方法、加熱殺菌による方法などが研究されているが、いずれも実用化技術に至っていない。このような実情の下、近年、紫外線照射による方法、超音波による方法、加熱殺菌による方法などに替え、オゾンを用いた消毒・殺菌による方法が検討されている。例えば、下記のような方法が挙げられる。
【0003】
従来、マイナスイオンおよびオゾン含有ガスを培養液中に注入混和して培養液を消毒活性化する水耕栽培用培養液の消毒方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の消毒方法では、マイナスイオンおよびオゾン含有ガスを培養液調整槽内の培養液中に注入混和して培養液を消毒活性化し、また水耕用培養液の酸素富化をはかるために培養液の一部を培養液調整槽内で曝気している。
【0004】
また、養液タンクと栽培ベッドとの間で養液を循環させる養液栽培装置の殺菌装置も知られている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2に記載の殺菌装置は、インジェクタによりオゾンガスを養液中に吹き込む槽と、その槽から越流した養液中にさらに空気を吹き込み溶解されている未分解オゾンガスの分解を促進する槽とから構成された殺菌槽を有し、その殺菌槽の上部に未溶解オゾンガスの分解処理部(触媒分解および触媒加熱ヒータ)を設けたものである。
【0005】
さらに、脱塩処理した原水を用いて調整した養液を栽培ベッドに供給し、栽培ベッドからの余剰の養液排水を中空糸膜からなる除菌装置で除菌して養液を循環使用する養液栽培方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。この特許文献3に記載の養液栽培方法では、植物生育が不活発になる夜間に、養液が流れる配管やタンクの内部にオゾンを含有する液を流して、それらに付着するバイオフィルムを除去するなどの殺菌を行っている。尚、オゾンを含有する液は、ミキシングポンプにより脱塩した原水中にオゾンガスを注入混合して生成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平03−236728号公報
【特許文献2】特開平05−336856号公報
【特許文献3】特開2001−299116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された水耕栽培用培養液の消毒方法では、培養液中に溶解されなかったオゾンガスが、培養液調整槽上部の排ガスパイプを経由して栽培ベッドが設置されている栽培施設内の空気中に排出されるので、植物のクロロシス(白化)などの障害が生じる。また、植物のみならず、作業環境中にオゾンガスが蓄積すると、作業者への影響も認められる場合がある。さらに、培養液調整槽内の培養液中に直接オゾンガスを吹き込み混合するため、高濃度のオゾンガスが培養液に接触し、培養液中の微量成分が酸化物を生成し、その結果酸化物が沈殿物として析出し培養液組成が大きく変化して、植物に栄養障害が発生する可能性もある。なお、培養液の成分中、マンガン>鉄>カルシウムの順に酸化されやすいが、高濃度のオゾンガスは比較的酸化されにくいカルシウムまでも酸化するため、栄養障害が甚大となりやすい。
【0008】
また、特許文献2に記載された養液栽培装置の殺菌装置においても、特許文献1に記載された消毒方法と同様、養液中に直接オゾンガスを吹き込み混合するため、養液組成が大きく変化して植物に栄養障害が発生する可能性がある。また、この殺菌装置は、養液中に空気注入することで未溶解のオゾンガスを養液中から除去するため、オゾンガスの分解装置が必要となる。また、オゾンガスを積極的に養液中から除外するため、オゾンガス分解装置が本技術の危険回避、安全確保の生命線となり、一般の農家で管理するには困難を伴う。さらに、養液中への空気注入によって養液中にはオゾンが残留していないため、養液に関しては殺菌できたとしても、栽培ベッドに発生した病原菌の殺菌は難しく、特に植物の根系に付着した病原菌の殺菌は困難で病害防除効果は不十分となる。
【0009】
また、特許文献3に記載された養液栽培方法は、特許文献1、2に記載された技術のように養液を直接オゾンガスで殺菌するものではないが、ミキシングポンプにより溶解度の小さいオゾンガスを原水(RO水)中に注入しているため、未溶解のオゾンガスを含んだ液が栽培ベッドに供給される。そのため、栽培ベッドにおいて配管からオゾンを含有した液が散布されると、未溶解のオゾンガスが栽培施設内の空気中に排出され、オゾンガスによる植物の障害が生じる。なお、0.3ppmのオゾンガス濃度で植物に致命的な障害を与えるとされている。また、本技術は、養液中の塩分濃縮防止のための脱塩用RO膜設備、除菌のための中空糸膜設備など、機器構成の多い複雑な構成であり、設備のメンテナンスを含め非現実的な設備である。さらに、特許文献3に記載の実施例では固形培地を使用する方式を対象としているため、配管やタンク内部の殺菌が可能であっても固形培地内に生存する病原菌の殺菌までは難しい。固形培地内に生存する病原菌の殺菌を可能とするためには、比較的大量のオゾン含有水を供給することが必要であり、オゾンガスによる植物への障害を増加させる結果となってしまう。また、固形培地を用いる養液栽培においては、養液を供給する配管に酸化物が堆積し、配管或いはノズルを閉塞させる原因になっている。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、従来のオゾンガスを発生させてから水中にオゾンを溶解させる工程を必要とせずに、養液中に直接オゾンを生成して養液の殺菌が可能な養液栽培設備および養液栽培方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、養液栽培設備および養液栽培方法に関する。そして、本発明に係る養液栽培設備および養液栽培方法は、上記課題を解決するために以下のようないくつかの特徴を有している。すなわち、本発明の養液栽培設備および養液栽培方法は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0012】
上記課題を達成するための第1の発明に係る養液栽培設備は、植物が配置される栽培ベッドと、前記栽培ベッドに供給する養液を貯留する養液タンクと、オゾン殺菌装置と、前記養液タンクから前記オゾン殺菌装置に前記養液を送り、前記オゾン殺菌装置から前記養液タンクに前記養液を戻す養液殺菌経路と、を備えていることを特徴とするものである。
【0013】
この構成によると、養液中に直接オゾンを生成することができる。そして、このオゾンにより養液を瞬時に殺菌することができるため、任意の残留溶解オゾン濃度で殺菌された養液(以下、便宜、電解処理養液と記載する)が生成される。この電解処理養液は、従来のようにオゾンガスを水中に吹き込み溶解させて生成するオゾン水(以下、適宜、ガス溶解オゾン水と記載する)に比して、揮散するオゾンガス量が極めて少ない。このため、植物のクロロシス(白化)などのオゾンガスによる植物障害を防止することができる。
【0014】
また、当該養液栽培設備では、電解処理養液が養液タンクに戻るように構成されている。このため、特許文献1、2に開示された従来技術のように、オゾンガスが発生することがないため過剰なオゾンガスが養液に接触することはなく、その結果、オゾンによる養液殺菌において養液組成が大きく変化することはない。
【0015】
また、栽培ベッドに供給する養液中にオゾン殺菌装置を使って直接オゾンを生成することができる。そして、養液から直接オゾンを生成するため、養液由来の病原菌の殺菌を確実に達成できる。すなわち、殺菌に必要なオゾンを、瞬時に確実な再現性をもって得られることから、確実な殺菌効果が得られ、養液を汚染源とした病害の発生を防除できる。
【0016】
また、電解処理養液が養液タンクから栽培ベッドに供給されるため、栽培ベッドに配置された植物に付着した菌の増加を抑制することができ、病害の発生を防除することができる。
【0017】
このように、従来のようなガス溶解オゾン水での「オゾンガスを発生させてから水中にオゾンを溶解させる」工程や「生成したオゾン水を培養液と混合する」工程を必要とせずに、直接的に養液の殺菌が可能となる。また、養液タンク内の養液がオゾン殺菌装置を経由してオゾンにより殺菌された後、再度養液タンクに戻る工程を繰り返しながら、当該養液栽培設備全体に使用される養液全量を殺菌処理することができる。
【0018】
第2の発明に係る養液栽培設備は、第1の発明において、前記オゾン殺菌装置は、電解質膜と前記電解質膜の一方に設けられた陽極側流路と前記電解質膜の他方に設けられた陰極側流路とを有し、前記陽極側流路にオゾンを発生させ、前記養液殺菌経路は、前記養液タンクから前記オゾン殺菌装置の前記陽極側流路に前記養液を送り、前記陽極側流路から前記養液タンクに前記養液を戻すことを特徴とするものである。
【0019】
この構成によると、栽培ベッドに供給する養液をオゾン殺菌装置の陽極側流路内で電気分解して養液中に直接オゾンを生成することができる。そして、養液から直接オゾンを生成するため、養液由来の病原菌の殺菌を確実に達成できる。すなわち、殺菌に必要なオゾンを、オゾン殺菌装置の陽極側流路内での電解反応によって、瞬時に確実な再現性をもって得られることから、確実な殺菌効果が得られ、養液を汚染源とした病害の発生を防除できる。
【0020】
また、オゾン殺菌装置の陽極側流路内での電気分解により養液中に電流が流れるため、電気的なショックにより養液中の病原菌等への殺菌効果を向上させることができる。
【0021】
また、養液中に硫酸塩・硝酸塩・リン酸塩等が含まれる場合には、養液中に含まれた硫酸塩・硝酸塩・リン酸塩等が陽極側流路において電気分解することにより養液中のpH値が低下し(酸性化)、養液を養液タンクに貯留しても、菌数の増加を抑制でき、殺菌効果を維持することができる。
【0022】
第3の発明に係る養液栽培設備は、第2の発明において、前記養液殺菌経路は、前記養液タンクから前記オゾン殺菌装置の前記陽極側流路を経由して前記栽培ベッドに前記養液を供給し、前記栽培ベッドから前記養液タンクに前記養液を戻すことを特徴とするものである。
【0023】
この構成によると、オゾン殺菌装置が、栽培ベッドの手前に配置されているため、栽培ベッドに配置された植物に養液が供給される手前で殺菌処理をすることができる。また、オゾン殺菌装置と栽培ベッドとが同じ養液殺菌経路上に配置されているため、養液栽培設備の構成を簡単なものとすることができる。
【0024】
第4の発明に係る養液栽培設備は、第1〜第3の何れかの発明において、前記養液タンクにアルカリ性物質を添加するアルカリ供給手段を設けたことを特徴とするものである。
【0025】
養液中に硫酸塩・硝酸塩・リン酸塩等が含まれる場合には、養液中に含まれた硫酸塩・硝酸塩・リン酸塩等が陽極側流路において電気分解することにより養液中のpH値が低下し酸性化する。ある程度の酸性化は、菌数の増加を抑制でき、殺菌効果を維持するのに効果を発揮するが、養液中のpH値が低下しすぎる(極度の酸性化)と栽培された植物に酸による障害が生じる場合がある。そこで、上記構成により、養液タンクにアルカリ性物質を添加するアルカリ供給手段を設けることにより、酸性化した養液にアルカリ性物質を添加して養液を中和して、植物の酸による障害を回避することができる。なお、ここで使用されるアルカリ性物質には、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどが上げられる。また、この場合でも、養液は一旦酸性となるため、pH値の低下による殺菌効果も期待できる。
【0026】
第5の発明に係る養液栽培設備は、第2の発明において、前記養液殺菌経路は、前記養液タンクから前記オゾン殺菌装置の前記陽極側流路および前記陰極側流路の順序で経由して前記栽培ベッドに前記養液を供給し、前記栽培ベッドから前記養液タンクに前記養液を戻すことを特徴とするものである。
【0027】
この構成によると、養液を陽極側流路および陰極側流路の順序で栽培ベッドに供給することができる。そして、陽極側流路において電気分解されてpH値が低下した(酸性化)養液を、陰極側流路において電気分解することで、中和することができる。このため、アルカリ性物質などを添加せずに、養液中のpH値を中和して植物の酸による障害を回避することができる。
【0028】
第6の発明に係る養液栽培設備は、第2〜第5の何れかの発明において、前記陰極側流路を酸により洗浄する酸洗浄手段を設けたことを特徴とするものである。
【0029】
オゾン殺菌装置での長時間の電解処理に伴い陰極側流路内に設けられた陰極電極に付着した不純物により電解電圧が上昇してしまい長時間の養液栽培設備の連続運転ができない場合がある。そこで、酸洗浄手段を設けて陰極側流路を酸洗浄することで陰極電極に付着した不純物を溶解除去し、電解電圧を低下させて長時間の養液栽培設備の連続運転を可能とすることができる。
【0030】
第7の発明に係る養液栽培方法は、栽培ベッドに供給する養液を貯留する養液タンクからオゾン殺菌装置に前記養液を送り、前記オゾン殺菌装置において、電解により前記養液中にオゾンを発生させ、前記オゾン殺菌装置から前記養液タンクに前記養液を戻すことを特徴とするものである。
【0031】
この方法によると、栽培ベッドに供給する養液中にオゾン殺菌装置を使って直接オゾンを生成することができる。そして、養液から直接オゾンを生成するため、養液由来の病原菌の殺菌を確実に達成できる。すなわち、殺菌に必要なオゾンを、瞬時に確実な再現性をもって得られることから、確実な殺菌効果が得られ、養液を汚染源とした病害の発生を防除できる。
【0032】
また、電解処理養液が養液タンクから栽培ベッドに供給されるため、栽培ベッドに配置された植物に付着した菌の増加を抑制することができ、病害の発生を防除することができる。
【0033】
このように、従来のようなガス溶解オゾン水での「オゾンガスを発生させてから水中にオゾンを溶解させる」工程や「生成したオゾン水を培養液と混合する」工程を必要とせずに、直接的に養液の殺菌が可能となる。また、養液タンク内の養液がオゾン殺菌装置を経由してオゾンにより殺菌された後、再度養液タンクに戻る工程を繰り返しながら、当該養液栽培設備全体に使用される養液全量を殺菌処理することができる。
【0034】
第8の発明に係る養液栽培方法は、第7の発明において、前記オゾン殺菌装置は、電解質膜と前記電解質膜の一方に設けられた陽極側流路と前記電解質膜の他方に設けられた陰極側流路とを有し、栽培ベッドに供給する養液を貯留する養液タンクから前記オゾン殺菌装置の前記陽極側流路に前記養液を送り、前記陽極側流路において、電解により前記養液中にオゾンを発生させ、前記陽極側流路から前記養液タンクに前記養液を戻すことを特徴とするものである。
【0035】
この方法によると、栽培ベッドに供給する養液をオゾン殺菌装置の陽極側流路内で電気分解して養液中に直接オゾンを生成することができる。そして、養液から直接オゾンを生成するため、養液由来の病原菌の殺菌を確実に達成できる。すなわち、殺菌に必要なオゾンを、オゾン殺菌装置の陽極側流路内での電解反応によって、瞬時に確実な再現性をもって得られることから、確実な殺菌効果が得られ、養液を汚染源とした病害の発生を防除できる。また、従来のようなガス溶解オゾン水での「オゾンガスを発生させてから水中にオゾンを溶解」の工程や「生成したオゾン水を培養液と混合する」工程を必要とせずに、直接的に養液の殺菌が可能となる。また、養液タンク内の養液がオゾン殺菌装置の陽極側流路を経由して電解殺菌されて後再度養液タンクに戻る工程を繰り返しながら、当該養液栽培設備全体に使用される養液全量を殺菌処理することができる。
【0036】
第9の発明に係る養液栽培方法は、第8の発明における前記陽極側流路において、電解により前記養液中にオゾンを発生させた後、前記陽極側流路から前記栽培ベッドに前記養液を供給し、前記栽培ベッドから前記養液タンクに前記養液を戻すことを特徴とするものである。
【0037】
この方法によると、栽培ベッドに配置された植物に養液が供給される手前で殺菌処理をすることができる。
【0038】
第10の発明に係る養液栽培方法は、第8の発明における前記陽極側流路において、電解により前記養液中にオゾンを発生させた後、前記陽極側流路から前記オゾン殺菌装置の前記陰極側流路に前記養液を送り、前記陰極側流路から前記栽培ベッドに前記養液を供給し、前記栽培ベッドから前記養液タンクに前記養液を戻すことを特徴とするものである。
【0039】
この方法によると、養液を陽極側流路および陰極側流路の順序で栽培ベッドに供給することができる。そして、陽極側流路において電気分解されてpH値が低下した(酸性化)養液を、陰極側流路において電気分解することで、中和することができる。このため、アルカリ性物質などを使用せずに、養液中のpH値を中和して植物の酸による障害を回避することができる。
【発明の効果】
【0040】
従来のようなガス溶解オゾン水での「オゾンガスを発生させてから水中にオゾンを溶解させる」工程や「生成したオゾン水を培養液と混合する」工程を必要とせずに、直接的に養液の殺菌が可能となる。また、養液タンク内の養液がオゾン殺菌装置を経由してオゾンにより殺菌された後、再度養液タンクに戻る工程を繰り返しながら、当該養液栽培設備全体に使用される養液全量を殺菌処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態に係る養液栽培設備を示すブロック図である。
【図2】オゾン殺菌装置における電気分解処理前後の養液内の菌数を示すグラフである。
【図3】養液タンク内の時間経過に伴う菌数の変化及び養液のpH値の変化を示したグラフである。
【図4】本発明の第2実施形態に係る養液栽培設備を示すブロック図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る養液栽培設備を示すブロック図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係る養液栽培設備を示すブロック図である。
【図7】本発明の第5実施形態に係る養液栽培設備を示すブロック図である。
【図8】本発明の第6実施形態に係る養液栽培設備を示すブロック図である。
【図9】オゾン殺菌装置における電気分解処理の時間経過に伴う養液のpH値及び電解電圧の変化を表すグラフである。
【図10】本発明の第7実施形態に係る養液栽培設備を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明の養液栽培設備および養液栽培方法は、固形培地耕、湛液型水耕、およびNFT方式の養液栽培などのいずれの方式の養液栽培に対しても適用できる養液栽培設備および養液栽培方法である。
【0043】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る養液栽培設備100を示すブロック図である。
【0044】
図1に示すように、本実施形態に係る養液栽培設備100は、植物が配置される栽培ベッド1と、栽培ベッド1に供給する養液を貯留する養液タンク2と、養液に所定の電流値の電流を印加して電解処理するオゾン殺菌装置3と、養液タンク2内の養液の濃度調整(いわゆるEC調整)のために養液タンク2に供給する液肥を貯留する追肥タンク4と、後述するオゾン殺菌装置3の陰極側流路35を酸洗浄するためのクエン酸を貯留する洗浄剤タンク5(酸洗浄手段)とを備えている。そして、これら各装置は、配管などの経路で相互に連結されている。養液給排経路10および11は、それぞれ、養液タンク2と栽培ベッド1とを連結する経路である。養液殺菌経路12は、養液タンク2とオゾン殺菌装置3とを連結する経路である。そして、養液殺菌経路12は、後述するオゾン殺菌装置3の陽極側流路34を通過するように構成されている。また、経路13は、追肥タンク4と養液タンク2とを連結する経路である。さらに、洗浄経路14は、洗浄剤タンク5とオゾン殺菌装置3とを連結する経路である。そして、洗浄経路14(酸洗浄手段)は、後述するオゾン殺菌装置3の陰極側流路35を通過するように構成されている。
【0045】
養液殺菌経路12には、その上流側から、供給ポンプP1、逆止弁40が取り付けられている。逆止弁40は、養液殺菌経路12の養液の逆流を防止するための弁である。また、養液給排経路10および11の上流側端部には、養液供給ポンプP2が接続され、養液供給ポンプP2は、養液タンク2内底部に設置されている。また、洗浄経路14には、その上流側から、供給ポンプP3、逆止弁41が取り付けられている。逆止弁41は、洗浄経路14内のクエン酸の逆流を防止するための弁である。
【0046】
次に、図1に示すオゾン殺菌装置3について説明する。図1に示すように、このオゾン殺菌装置3は、固形電解質膜31(電解質膜)と、その一方に設けられた陽極側流路34と、他方に設けられた陰極側流路35と、陽極電極32と、陰極電極33とを備えており、直流電圧が印加される陽極電極32が、陽極側流路34内で固形電解質膜31と接触するように配置され、直流電圧が印加される陰極電極33が、陰極側流路35内で固形電解質膜31と接触するように配置されている。そして、陽極側流路34に供給された養液を電気分解して、陽極側流路34内においてオゾンを生成するように構成されている。なお、陰極側流路35には、洗浄経路14を経由して洗浄剤タンク5内のクエン酸が供給され、陰極側流路35内に配置された陰極電極33を酸洗浄する。
【0047】
即ち、オゾン殺菌装置3においては、ガス溶解オゾン水生成における、「オゾンガスを発生させた後、そのオゾンガスを水中に吹き込んで溶解させる」、という工程や、「生成したオゾン水を培養液と混合する」、という工程を必要とせずに、養液に含まれた水の電気分解に基づき電解処理養液を生成できる。尚、陽極側流路34内においては、養液の電気分解により酸素も発生するため、生成された電解処理養液は、ガス溶解オゾン水に比して溶存酸素濃度が高くなる。また、当該オゾン殺菌装置3によると、電気分解する際の電解電流の値により、利用範囲で任意の残留溶解オゾン濃度の電解処理養液を得ることができる。
【0048】
次に、図1に基づいて本実施形態の養液栽培設備100の動作(本設備を用いた養液栽培方法)を説明する。
【0049】
養液栽培設備100が作動されると、まず、所定時間(例えば、20分間:殺菌時間)、供給ポンプP1により養液を養液タンク2からオゾン殺菌装置3の陽極側流路34に養液殺菌経路12を経由して供給する。そして、陽極側流路34内で電気分解により養液中にオゾンを発生させ、電解処理養液を生成する。なお、上記所定時間(20分間:殺菌時間)経過後所定時間(例えば、5分間:酸洗浄時間)、陰極側流路35には、供給ポンプP3により洗浄経路14を経由して洗浄剤タンク5内に貯留されたクエン酸を含んだ水が供給され、陰極側流路35内を酸洗浄する。これは、陰極電極33に付着した不純物を溶解除去し、電気分解時の電圧を一定に維持し長時間の養液栽培設備の連続運転を可能とするためである。
【0050】
そして、陽極側流路34から養液タンク2に養液殺菌経路12を経由して電解処理養液が戻される。また、追肥タンク4からは、適時液肥が経路13を介して養液タンク2に供給される。
【0051】
そして、定期的に養液タンク2から栽培ベッド1へ養液給排経路10を介して、養液タンク2内の電解処理養液と液肥を含んだ養液を養液供給ポンプP2により栽培ベッド1へ供給する。養液タンク2内の電解処理養液と液肥を含んだ養液を栽培ベッド1に供給することにより、栽培ベッド1に配置された植物への栄養成分の供給を行うと共に、栽培ベッド1を構成する栽培タンク、ベッド、配管などの設備資材を電解処理養液の残留溶解オゾンによって殺菌処理を行うことができる。なお、養液供給ポンプP2は養液タンク2内の養液に浸漬された、いわゆる水中ポンプに限るものではなく、養液タンク2外に配設された送水ポンプでもよい。また、洗浄剤タンク5内に貯留された酸はクエン酸に限られず、クエン酸以外の有機酸や、その有機酸に中性塩を添加したものでもよい。
【0052】
栽培ベッド1で植物に吸収されずに栽培ベッド1から排出された養液は、養液給排経路11を経由して養液タンク2に戻り、養液タンク2内で追肥タンク4から供給される液肥及びオゾン殺菌装置3から供給される電解処理養液を含んだ養液と混合されて、養液タンク2と栽培ベッド1との間で循環使用される。栽培ベッド1から養液タンク2に戻された養液は、病原菌などに汚染されている場合があるが、オゾン殺菌装置3に供給される過程で電解により直接殺菌されることに加えて、オゾン殺菌装置3から養液タンク2に供給される電解処理養液の残留溶解オゾンによって殺菌されるので、養液の循環使用に伴う病原菌などによる汚染は防止できる。
【0053】
このようにオゾン殺菌装置3に生成された電解処理養液は、養液給排経路10を経由して栽培ベッド1に供給される。供給された電解処理養液により、栽培ベッド1を構成する栽培タンク、ベッド、配管などの設備資材、ならびに植物の根系も洗浄、殺菌されるため、栽培ベッド1および植物に付着する病原菌を殺菌でき発病を抑制できる。すなわち、電解処理養液を適宜、栽培ベッド1に直接供給して、ベッド、配管などの設備資材および植物を殺菌することにより、水や養液からの病原菌の植物への伝染、育苗資材、ホース、配管などからの病原菌の植物への伝染、などの病害を効果的に防除することが可能となり、病害の発生防止、拡大防止が可能である。特に、定期的に栽培ベッド1に電解処理養液を供給することで、病原菌の温床であるバイオフィルムの形成を防止できる。また、湛液方式養液栽培、或いはNFT養液栽培システムでは、植物の根系が直接、養液に触れるため、これら方式の養液栽培に、定期的に電解処理養液を栽培ベッド1へ供給する構成を採用すれば、根に付着する病原菌由来の病害(根腐病、黒根病など)の防除効果をより高めることができる。
【0054】
ここで、図2は、オゾン殺菌装置3における電気分解処理前後の養液内の菌数を示すグラフである。図2の左のグラフは、電気分解処理前の養液内の菌数を示すものであり、図2の右のグラフは、電気分解処理直後の養液(電解処理養液)内の菌数を示すものである。また、縦軸は、菌の数(一般細菌の数)を示している(CFU/mL)。オゾン殺菌装置3への養液の供給量は、3リッター/minであり、電気分解する際の電解電流の値は、40Aであった。また、図3は、養液タンク2内の時間経過に伴う菌数の変化及び養液のpH値の変化を示したグラフである。横軸は、オゾン殺菌装置3で電気分解してからの時間経過(min)であり(処理時間)、縦軸は、養液タンク2内の菌数(log10CFU/mL)及び養液のpH値である。
【0055】
図2に示すように、電気分解処理前の養液内の初発菌数は、10CFU/mLであるが、電気分解処理直後の養液内の菌数は、10CFU/mL以下にまで減少している。即ち、養液がオゾン殺菌装置3を通過するわずかの時間で、その養液中の菌数が急激に減少している。また、図3に示すように、電気分解処理前の養液タンク2内の初発菌数は、10CFU/mLであったのに対し、約60分で養液タンク2内の菌数は、検出限界以下にまで減少している。また、電気分解処理前の養液タンク2内の養液のpH値は、pH7であったのに対して、約60でpH値がpH3にまで低下して酸性化している。
【0056】
このように、養液タンク2内の養液がオゾン殺菌装置3を経由して殺菌された後、再度養液タンク2に戻る工程を繰り返しながら、当該養液栽培設備100全体に使用される養液全量及び養液栽培設備100全体を殺菌処理することができる。
【0057】
以上説明した第1実施形態によると、栽培ベッド1に供給する養液をオゾン殺菌装置3の陽極側流路34内で電気分解して養液中に直接オゾンを生成することができる。そして、養液から直接オゾンを生成するため、養液由来の病原菌の殺菌を確実に達成できる。また、オゾン殺菌装置3の陽極側流路34内での電気分解により養液中に電流が流れるため、電気的なショックにより養液中の病原菌等への殺菌効果を向上させることができる。また、養液中の液肥に硫酸塩・硝酸塩・リン酸塩等が含まれる場合には、養液中に含まれた硫酸塩・硝酸塩・リン酸塩等が陽極側流路34において電気分解することにより養液中のpH値が低下し(酸性化)、養液を養液タンク2に貯留しても、菌数の増加を抑制でき、殺菌効果を維持することができる。
【0058】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係る養液栽培設備200を示すブロック図である。尚、以下の説明においては、上述の第1実施形態に係る養液栽培設備100と同一の構成部材については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0059】
第2実施形態と第1実施形態との主要な相違点は、図4に示すように、第2実施形態では、養液タンク2からオゾン殺菌装置3の陽極側流路34を経由して栽培ベッド1に養液を供給し、栽培ベッド1から養液タンク2に養液を戻す構成になっている点である。即ち、養液タンク2と栽培ベッド1との間の養液給排経路10中にオゾン殺菌装置3が設けられている点が第1実施形態との相違点である。
【0060】
具体的には、養液給排経路10(養液殺菌経路)は、養液タンク2内の養液をオゾン殺菌装置3を経由して栽培ベッド1に供給する経路としている。養液給排経路11(養液殺菌経路)は、栽培ベッド1と養液タンク2とを連結する経路である。そして、養液給排経路10は、オゾン殺菌装置3の陽極側流路34を通過するように構成されている。また、経路13は、追肥タンク4と養液タンク2とを連結する経路である。さらに、洗浄経路14は、洗浄剤タンク5とオゾン殺菌装置3とを連結する経路である。そして、洗浄経路14は、オゾン殺菌装置3の陰極側流路35を通過するように構成されている。
【0061】
上記第2実施形態の養液栽培設備200によれば、オゾン殺菌装置3が、栽培ベッド1の手前に配置されているため、栽培ベッド1に配置された植物に養液が供給される手前で電解処理養液による殺菌処理をすることができる。また、オゾン殺菌装置3と栽培ベッド1とが同じ経路上に配置されているため、養液栽培設備200の構成を簡単なものとすることができる。
【0062】
なお、第2実施形態に係る養液栽培設備200では、オゾン殺菌装置3と栽培ベッド1とが同じ経路上に配置されているため、栽培ベッド1への養液の供給時に養液の殺菌処理することができるという利点がある。これに対し、第1実施形態に係る養液栽培設備100では、オゾン殺菌装置3を経由する経路が、栽培ベッド1を経由していないため養液タンク2の養液を個別に殺菌することができる。即ち、便宜、必要に応じて養液の殺菌処理を実行することができるという利点がある。
【0063】
(第3実施形態)
図5は、本発明の第3実施形態に係る養液栽培設備300を示すブロック図である。尚、以下の説明においては、上述の第1実施形態に係る養液栽培設備100と同一の構成部材については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0064】
第3実施形態と第1実施形態との主要な相違点は、図5に示すように、第3実施形態では、アルカリ供給手段としての水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等のアルカリ性物質を貯留するアルカリ水貯水槽301と、養液タンク2にアルカリ水を供給するアルカリ水供給経路302と、養液タンク2内の養液のpH値を計測するpH値測定器303とを設けた点にある。
【0065】
追肥タンク4から養液タンク2内の養液中に供給される液肥に硫酸塩・硝酸塩等が含まれる場合には、養液中に含まれた硫酸塩・硝酸塩等が陽極側流路34において電気分解することにより養液中のpH値が低下し酸性化する。ある程度の酸性化は、菌数の増加を抑制でき、殺菌効果を維持するのに効果を発揮するが、養液中のpH値が低下しすぎる(極度の酸性化)と栽培ベッド1に栽培された植物に酸による障害が生じる場合がある。
【0066】
そこで、上記第3実施形態の養液栽培設備300によれば、上記構成により、酸性化した養液にアルカリ性物質を添加して養液を中和して、植物の酸による障害を回避することができる。ここで、pH値測定器303の値が所定の値(例えば、pH4未満)になった場合に、上記アルカリ性物質が、アルカリ水貯水槽301から養液タンク2に添加される。なお、ここで使用されるアルカリ性物質には、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどが上げられる。この場合でも、養液は一旦酸性となるため、pH値の低下による殺菌効果が期待できる。
【0067】
(第4実施形態)
図6は、本発明の第4実施形態に係る養液栽培設備400を示すブロック図である。尚、以下の説明においては、上述の第1実施形態に係る養液栽培設備100と同一の構成部材については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0068】
第4実施形態と第1実施形態との主要な相違点は、図6に示すように、第4実施形態では、養液タンク2からオゾン殺菌装置3の陽極側流路34および陰極側流路35の順序で経由して栽培ベッド1に養液を供給し、栽培ベッド1から養液タンク2に養液を戻す構成になっている点である。なお、本実施形態では、洗浄経路14及び洗浄剤タンク5は備えていない。
【0069】
具体的には、養液給排経路10(養液殺菌経路)は、養液タンク2内の養液を養液タンク2からオゾン殺菌装置3の陽極側流路34および陰極側流路35の順序で経由させて栽培ベッド1に養液を供給する経路である。養液給排経路11は、栽培ベッド1から養液タンク2に養液を戻す経路である。即ち、養液給排経路10は、オゾン殺菌装置3の陽極側流路34を通過した後に陰極側流路35を通過するように構成されている。また、経路13は、追肥タンク4と養液タンク2とを連結する経路である。
【0070】
上記第4実施形態の養液栽培設備400によれば、養液を陽極側流路34および陰極側流路35の順序で栽培ベッド1に供給することができる。そして、陽極側流路34に通液されて電気分解されてpH値が低下した(酸性化)養液を、陰極側流路35に通液されて電気分解することで、中和することができる。このため、アルカリ性物質などを添加せずに、養液中を中和して栽培ベッド1に栽培された植物の酸による障害を回避することができる。
【0071】
(第5実施形態)
図7は、本発明の第5実施形態に係る養液栽培設備500を示すブロック図である。尚、以下の説明においては、上述の第4実施形態に係る養液栽培設備400と同一の構成部材については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0072】
第5実施形態と第4実施形態との主要な相違点は、図7に示すように、第5実施形態では、第2養液タンク502を備えている点にある。即ち、養液は、養液タンク2からオゾン殺菌装置3の陽極側流路34を経由した後、第2養液タンク502に一旦貯留される。そして、便宜必要に応じてポンプP5を使用して、第2養液タンク502に貯留された養液を、第2養液タンク502からオゾン殺菌装置3の陰極側流路35を経由して栽培ベッド1に供給し、栽培ベッド1から養液タンク2に養液を戻すことができる構成になっている。
【0073】
上記第5実施形態の養液栽培設備500によれば、オゾン殺菌装置3の陽極側流路34で養液にオゾンを発生させ、電解処理養液を生成した後、第2養液タンク502に一旦貯留することができる。そして、適宜、栽培ベッド1への電解処理養液による殺菌が必要になった場合に、第2養液タンク502に貯留された電解処理養液を栽培ベッド1に供給することができる。また、陽極側流路34において、電気分解されてpH値が低下した(酸性化)養液を、陰極側流路35に通液されて電気分解することで、中和することができる。
【0074】
(第6実施形態)
図8は、本発明の第6実施形態に係る養液栽培設備600を示すブロック図である。尚、以下の説明においては、上述の第5実施形態に係る養液栽培設備500と同一の構成部材については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0075】
第6実施形態と第5実施形態との主要な相違点は、図8に示すように、第6実施形態では、オゾン殺菌装置3の陰極側流路35を酸洗浄するためのクエン酸と塩化ナトリウムの混合液を貯留する洗浄剤タンク601と、洗浄剤タンク601とオゾン殺菌装置3の陰極側流路35とを連結する洗浄経路602と、洗浄経路602中にオゾン殺菌装置3の陰極側流路35から洗浄剤タンク601に供給されるクエン酸と塩化ナトリウムの注入を制御するための電磁弁V2と、経路504中にオゾン殺菌装置3の陰極側流路35から栽培ベッド1に供給される養液の注入を制御するための電磁弁V1が設けられている点にある。
【0076】
上記第6実施形態の養液栽培設備600によれば、オゾン殺菌装置3の陽極側流路34で養液にオゾンを発生させ、殺菌した後、第2養液タンク502に一旦貯留することができる。ここで、第2養液タンク502に貯留された養液は、陽極側流路34において電気分解されてpH値が低下(酸性化)したものとなっている。
【0077】
そして、電磁弁V2を閉め電磁弁V1を開けた状態で、ポンプP5により、便宜第2養液タンク502に貯留された養液を、陰極側流路35に供給する。そして、陰極側流路35において電気分解することで、pH値が低下(酸性化)した養液を中和する。そして、中和した養液を栽培ベッド1に供給することができる。
【0078】
なお、所望のタイミングで、電磁弁V1を閉め電磁弁V2を開けた状態で、供給ポンプP3により、適宜洗浄剤タンク601に貯留されたクエン酸と塩化ナトリウムの混合液を、陰極側流路35に供給する。即ち、陰極側流路35には、洗浄経路602を経由して洗浄剤タンク601内のクエン酸と塩化ナトリウムの混合液が供給され、陰極側流路35内に配置された陰極電極33を酸洗浄する。
【0079】
ここで、図9は、オゾン殺菌装置3における電気分解処理の時間経過に伴う養液のpH値及び電解電圧の変化を表すグラフである。横軸は、オゾン殺菌装置3で電気分解してからの時間経過(min)であり(処理時間)、縦軸は、オゾン殺菌装置3における陽極側流路34及び陰極側流路35から排出される養液のpH値とオゾン殺菌装置3の電解電圧(V)である。電解電流は、20Aである。また、陽極側流路34に供給される養液の供給量は、2リッター/minであり、陰極側流路35に供給される養液の供給量は、1.7リッター/minである。また、上述したように、陰極側流路35内の陰極電極33の酸洗浄には、クエン酸と塩化ナトリウムの混合液を使用している。そして、オゾン殺菌装置3における電気分解処理の継続運転時間は、約20分間とし、その直後約5分間、陰極側流路35内の陰極電極33の酸洗浄を行い、この工程を120分間繰り返している。なお、図9において、四角のプロットは、陽極側流路34から排出された養液のpH値を示し、三角のプロットは、陰極側流路35から排出された養液のpH値を示し、丸のプロットは、電解電圧を示している。
【0080】
図9に示すように、陽極側流路34から排出され、電気分解された電解処理養液のpH値は、約3程度の酸性を示している。この養液を陰極側流路35に通水し、電気分解すると養液のpH値は、約5〜6程度に中和される。もっとも、上記運転を約20分間程度継続すると、電解電圧が6Vから12Vに上昇する。そして、この電解電圧の上昇に伴い電解効率が低下し、陰極側流路35内での電気分解による養液の中和性能が低下していくのが分かる(三角のプロット参照)。このとき、上記運転を一旦停止して、陰極側流路35の陰極電極33をクエン酸と塩化ナトリウムの混合液を通水して約5分間酸洗浄すると、電解電圧が初期の6Vに低下して、電気分解による養液の中和性能が回復する。
【0081】
このように、オゾン殺菌装置3での20分間の電気分解処理に伴い陰極側流路35内に設けられた陰極電極33に付着した不純物により電解電圧が上昇してしまい長時間の養液栽培設備600の運転ができない場合がある。そこで、陰極側流路35を酸洗浄することで陰極電極33に付着した不純物を溶解除去し、電解電圧を低下させて長時間の養液栽培設備600の連続運転を可能とすることができる。
【0082】
(第7実施形態)
図10は、本発明の第7実施形態に係る養液栽培設備700を示すブロック図である。尚、以下の説明においては、上述の第1実施形態に係る養液栽培設備100と同一の構成部材については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0083】
図10に示すように、本実施形態に係る養液栽培設備700は、植物が配置される栽培ベッド1と、栽培ベッド1に供給する養液を貯留する養液タンク2と、養液に所定の電流値の電流を印加して電解処理するオゾン殺菌装置3と、養液タンク2に供給する液肥を貯留する追肥タンク4と、オゾン殺菌装置3を酸洗浄するためのクエン酸を貯留する洗浄剤タンク710と、アルカリ性の水を貯留するアルカリ水貯水槽711と、水を供給する軟水器701とを備えている。そして、これら各装置は、配管などの経路で相互に連結されている。
【0084】
養液給排経路10および11は、それぞれ、養液タンク2と栽培ベッド1とを連結する経路である。養液殺菌経路12は、養液タンク2とオゾン殺菌装置3とを連結する経路である。そして、養液殺菌経路12は、オゾン殺菌装置3の陽極側流路34を通過するように構成されている。また、経路13は、追肥タンク4と養液タンク2とを連結する経路である。また、洗浄経路14は、洗浄剤タンク710とオゾン殺菌装置3とを連結する経路である。そして、洗浄経路14は、オゾン殺菌装置3の陰極側流路35を通過するように構成されている。また、アルカリ水供給経路302は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等のアルカリ水を貯留するアルカリ水貯水槽711と養液タンク2とを連結する経路である。また、経路704は、オゾン殺菌装置3の陰極側流路35とアルカリ水貯水槽711とを連結する経路である。また、経路705は、オゾン殺菌装置3の陽極側流路34と栽培ベッド1とを連結する経路である。更に、経路702は、軟水器701とオゾン殺菌装置3の陽極側流路34とを連結する経路であり、経路703は、軟水器701とオゾン殺菌装置3の陰極側流路35とを連結する経路である。
【0085】
養液殺菌経路12には、その上流側から、供給ポンプP1、逆止弁40が取り付けられている。逆止弁40は、養液殺菌経路12の養液の逆流を防止するための弁である。また、養液給排経路10および11の上流側端部には、養液供給ポンプP2が接続され、養液供給ポンプP2は、養液タンク2内底部に設置されている。また、洗浄経路14には、その上流側から、供給ポンプP3、逆止弁41が取り付けられている。逆止弁41は、洗浄経路14のクエン酸の逆流を防止するための弁である。また、アルカリ水供給経路302の上流側端部には、ポンプP4が接続され、ポンプP4は、アルカリ水貯水槽711内底部に設置されている。
【0086】
また、経路702中には、軟水器701から供給される水のオゾン殺菌装置3の陽極側流路34への注入を制御するための電磁弁V4が設けられている。経路703中には、軟水器701から供給される水のオゾン殺菌装置3の陰極側流路35への注入を制御するための電磁弁V3が設けられている。養液殺菌経路12中には、オゾン殺菌装置3の陽極側流路34で生成された電解処理養液の養液タンク2への注入を制御するための電磁弁V10が設けられている。経路705中には、オゾン殺菌装置3の陽極側流路34で生成された電解処理養液の栽培ベッド1への注入を制御するための電磁弁V11が設けられている。洗浄経路14中には、オゾン殺菌装置3の陰極側流路35から洗浄剤タンク710に供給されるクエン酸の注入を制御するための電磁弁V2が設けられている。経路704中には、オゾン殺菌装置3の陰極側流路35からアルカリ水貯水槽711に供給される水(アルカリ性の水)の注入を制御するための電磁弁V1が設けられている。
【0087】
上記構成によれば、まず、供給ポンプP1による陽極側流路34への養液の供給を中断した状態で、電磁弁V4及び電磁弁V3を開けて陽極側流路34及び陰極側流路35に軟水器701からの水を供給し電気分解を行い陰極側流路35において、アルカリ性の水を得る。そして、電磁弁V2を閉め、電磁弁V1を開けた状態で、このアルカリ性の水をアルカリ水貯水槽711に貯留する。そして、このアルカリ性の水をアルカリ水供給経路302を通じて養液タンク2に供給して、養液タンク2内の養液のpH値の調整を行う。このとき、陽極側流路34内で生成したオゾン水を、栽培ベッド1に供給して殺菌に利用する。なお、電磁弁V4を閉めて、陽極側流路34に養液を供給して電気分解による電解処理養液の生成を利用して殺菌をする場合は、陰極側流路35において酸洗浄をする必要があるため電磁弁V3及び電磁弁V1を閉め、電磁弁V2を開けることにより、軟水器701から供給される水を止めて洗浄剤タンク710内のクエン酸を供給する。また、電磁弁V10及び電磁弁V11の開閉を便宜選択することで、電解処理養液を含んだ養液を養液タンク2に戻したり、栽培ベッド1に供給したりすることができる。
【0088】
上記第7実施形態の養液栽培設備700によれば、アルカリ水貯水槽711に貯水された養液のpH値の調整に使用するアルカリ性物質に関して、陰極側流路35内での電気分解によって発生するアルカリ水を活用することができる。
【0089】
なお、上述した実施形態では、殺菌に利用する酸、その酸を含んだ洗浄液にクエン酸、クエン酸とナトリウムの混合液等を示したが、これらに替わり、コハク酸、フマル酸、グルコン酸等、Ca塩の溶解度が高い有機酸や、硫酸ナトリウムや硝酸カリウム等の中性塩を採用しても良い。
【0090】
以上、本発明の各種実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。
【符号の説明】
【0091】
1 栽培ベッド
2 養液タンク
3 オゾン殺菌装置
4 追肥タンク
5 洗浄剤タンク
10、11 養液給排経路
12 養液殺菌経路
14 洗浄経路
34 陽極側流路
35 陰極側流路
100、200、300、400、500、600、700 養液栽培設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物が配置される栽培ベッドと、
前記栽培ベッドに供給する養液を貯留する養液タンクと、
オゾン殺菌装置と、
前記養液タンクから前記オゾン殺菌装置に前記養液を送り、前記オゾン殺菌装置から前記養液タンクに前記養液を戻す養液殺菌経路と、
を備えていることを特徴とする養液栽培設備。
【請求項2】
前記オゾン殺菌装置は、
電解質膜と前記電解質膜の一方に設けられた陽極側流路と前記電解質膜の他方に設けられた陰極側流路とを有し、前記陽極側流路にオゾンを発生させ、
前記養液殺菌経路は、前記養液タンクから前記オゾン殺菌装置の前記陽極側流路に前記養液を送り、前記陽極側流路から前記養液タンクに前記養液を戻すことを特徴とする請求項1に記載の養液栽培設備。
【請求項3】
前記養液殺菌経路は、前記養液タンクから前記オゾン殺菌装置の前記陽極側流路を経由して前記栽培ベッドに前記養液を供給し、前記栽培ベッドから前記養液タンクに前記養液を戻すことを特徴とする請求項2に記載の養液栽培設備。
【請求項4】
前記養液タンクにアルカリ性物質を添加するアルカリ供給手段を設けたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の養液栽培設備。
【請求項5】
前記養液殺菌経路は、前記養液タンクから前記オゾン殺菌装置の前記陽極側流路および前記陰極側流路の順序で経由して前記栽培ベッドに前記養液を供給し、前記栽培ベッドから前記養液タンクに前記養液を戻すことを特徴とする請求項2に記載の養液栽培設備。
【請求項6】
前記陰極側流路を酸により洗浄する酸洗浄手段を設けたことを特徴とする請求項2〜5の何れかに記載の養液栽培設備。
【請求項7】
栽培ベッドに供給する養液を貯留する養液タンクからオゾン殺菌装置に前記養液を送り、
前記オゾン殺菌装置において、電解により前記養液中にオゾンを発生させ、
前記オゾン殺菌装置から前記養液タンクに前記養液を戻すことを特徴とする、養液栽培方法。
【請求項8】
前記オゾン殺菌装置は、
電解質膜と前記電解質膜の一方に設けられた陽極側流路と前記電解質膜の他方に設けられた陰極側流路とを有し、
栽培ベッドに供給する養液を貯留する養液タンクから前記オゾン殺菌装置の前記陽極側流路に前記養液を送り、
前記陽極側流路において、電解により前記養液中にオゾンを発生させ、
前記陽極側流路から前記養液タンクに前記養液を戻すことを特徴とする、請求項7に記載の養液栽培方法。
【請求項9】
前記陽極側流路において、電解により前記養液中にオゾンを発生させた後、
前記陽極側流路から前記栽培ベッドに前記養液を供給し、
前記栽培ベッドから前記養液タンクに前記養液を戻すことを特徴とする、請求項8に記載の養液栽培方法。
【請求項10】
前記陽極側流路において、電解により前記養液中にオゾンを発生させた後、
前記陽極側流路から前記オゾン殺菌装置の前記陰極側流路に前記養液を送り、
前記陰極側流路から前記栽培ベッドに前記養液を供給し、
前記栽培ベッドから前記養液タンクに前記養液を戻すことを特徴とする、請求項8に記載の養液栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−70(P2011−70A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146459(P2009−146459)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】