説明

香料組成物

【課題】天然柑橘精油を用いた香料と同等の賦香効果を有し、かつ香り及び香味が経時的に安定な口腔用組成物用の柑橘系香料組成物、並びにこれを含有する口腔用組成物の提供。
【解決手段】(a)リモネン、(b)ヌートカトン、(c)炭素数6〜12の直鎖脂肪族アルデヒド、(d)炭素数1〜6の脂肪酸のエステル、及び(e)メントールを含有する口腔組成物用柑橘系香料組成物、並びに当該香料組成物を含有する口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯磨剤、洗口剤等の口腔用組成物に配合される柑橘系香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
柑橘系香料は飲料及び菓子類といった食品用香料において頻用されているものであり、近年、口腔用組成物に配合される香料においてもその需要性が高まり、アクセントとして使われるようになってきている。
【0003】
その一方で、柑橘系香料を調香するにあたり、天然柑橘精油は、そのナチュラル感やボリューム感の点から使用が不可欠であるが、天然柑橘精油はシトラールに代表されるテルペン系アルデヒドを含んでいることがあり、そのような天然柑橘精油を多量に配合した場合、香料組成物の香り及び香味の経時的な変化が激しく、香り及び香味の経時的に安定な口腔用組成物を得ることが困難である。
【0004】
そのため、口腔用組成物に配合される香料においては、柑橘香料として、オレンジなどのシトラールをあまり含まないものが多用され、レモン、ライム、グレープフルーツといったシトラールを比較的多く含むものは、変調剤として少量用いられる程度であった。
【0005】
このような状況の中、消費者嗜好の多様化に対応するため、天然柑橘精油に含まれるシトラール等のアルデヒド類を安定化し、レモン、ライム、グレープフルーツ等を多量に配合するための技術が検討されてきた。口腔用組成物におけるこのような技術として、例えば、三置換二重結合含有のセスキテルペンやプレピレングリコールを添加することにより、アルデヒド類を安定化する方法が報告されている(特許文献1)。しかし、この技術は、香り及び香味の経時的な安定性という観点から、未だ十分に満足できるものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特開昭60-190706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、天然柑橘精油を用いた香料と同等の賦香効果を有し、かつ香り及び香味が経時的に安定な、口腔用組成物用の柑橘系香料組成物、並びにこれを含有する口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、従来の天然柑橘系精油を安定配合するための技術とは異なり、天然柑橘系精油を配合することなく柑橘系香料を調香する技術について鋭意研究した結果、リモネン、ヌートカトン、特定鎖長の直鎖脂肪族アルデヒド、特定鎖長の脂肪酸エステル及びメントールを組み合わせることにより、天然柑橘精油を配合した柑橘系香料と同様の効果が得られることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、(a)リモネン、(b)ヌートカトン、(c)炭素数6〜12の直鎖脂肪族アルデヒド、(d)炭素数1〜6の脂肪酸のエステル、及び(e)メントールを含有する口腔組成物用柑橘系香料組成物、並びにこれを含有する口腔用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の香料組成物は、天然柑橘精油を用いた香料と同等の賦香効果を有し、かつ、香り及び香味が安定であり、口腔組成物用の柑橘系香料組成物として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(a)リモネンとしては、l-体、d-体、dl体のいずれを用いることもできる。(a)リモネンの含有量は、本発明の香料組成物中の5〜40質量%、特に10〜30質量%が好ましい。
【0012】
(b)ヌートカトンとしては、グレープフルーツの果皮・果汁、アラスカイエローシダーの心材等から単離されたもののほか、合成品を使用することもできるが、天然型の(+)体を用いることが好ましい。
【0013】
本発明の香料組成物における(b)ヌートカトン/(a)リモネンの質量比は、香味バランスの観点より、0.001〜0.05、特に0.002〜0.005であることが好ましい。
【0014】
(c)炭素数6〜12の直鎖脂肪族アルデヒドとしては、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、シス-3-シス-6-ノナジエナール、トランス-2-シス-6-ノナジエナール、ヘキサナール、トランス-2-ヘキセナール、シス-3-ヘキセナール、ドデカナール、トランス-2-オクテナール、トランス-2-デセナール、トランス-4-デセナール、トランス-2-ドデセナール、トランス-2-ウンデセナール、2,4-ヘキサジエナール、シス-6-ノネナール、及びトランス-2-ノネナール等が例示される。この中でも、柑橘感に対する効果及び相性の観点から、2位に不飽和結合を有するアルデヒドが好ましく、特にトランス-2-オクテナールが好ましい。
【0015】
本発明の香料組成物における(c)炭素数6〜12の直鎖脂肪族アルデヒド/(a)リモネンの質量比は、香味バランスの観点より、0.001〜0.05、特に0.002〜0.005であることが好ましい。
【0016】
(d)炭素数1〜6の脂肪酸のエステルとしては、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、吉草酸エステル、2-メチル酪酸エステル、カプロン酸エステル等が例示される。また、柑橘感に対する効果及び相性の観点から、これらの脂肪族エステルの低級脂肪酸エステル、特にエチルエステルが好ましい。具体的には、酪酸エチル、2-メチル酪酸エチルが好ましいものとして挙げられる。
【0017】
本発明の香料組成物における(d)炭素数1〜6の脂肪酸のエステル/(a)リモネンの質量比は、香味バランスの観点より、0.001〜0.05、特に0.002〜0.005であることが好ましい。
【0018】
(e)メントールとしては、l-メントールが好ましい。(e)メントールの含有量は、ペパーミント、コーンミント等の精油を配合する場合には、当該精油に由来する分量を含め、本発明の香料組成物中の10〜70質量%、特に30〜50質量%が好ましい。
【0019】
本発明の香料組成物中には、これらの成分のほかに、ペパーミント、スペアミント、アネトール、シナモン、バーチ、アニス、ユーカリ、サリチル酸メチル等を添加することができる。
【0020】
なお、香料組成物中のシトラールの含有量は、香り及び香味の経時的安定性の観点より、0.3質量%以下、特に0.1質量%以下に抑制することが好ましい。
【0021】
〔口腔用組成物〕
本発明の口腔用組成物は、前記本発明の香料組成物を含有する。本発明の口腔用組成物中の香料組成物の含有量は、0.1〜2.0質量%、特に0.3〜1.0質量%が好ましい。
【0022】
また、本発明の口腔用組成物中のシトラールの含有量も、前記香料組成物の場合と同じく、香り及び香味の経時的安定性の観点より、0.003質量%以下、特に0.001質量%以下に抑制することが好ましい。
【0023】
本発明の口腔用組成物中のメントールの含有量は、0.05〜2質量%、特に0.1〜1質量%とするのが、十分な冷涼感を得るために好ましい。この場合、メントールは、香料組成物とは別個に配合することもでき、上記含有量は、香料組成物由来分と別途配合分を含めた総量である。
【0024】
本発明の口腔用組成物は、水、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤は、口腔用組成物に使用されるものであれば特に制限はないが、アニオン界面活性剤や非イオン界面活性剤を挙げることができる。
【0025】
アニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ラウロイルサルコシンナトリウム等のN-アシルアミノ酸塩;ラウロイルメチルタウリンナトリウム等のアシルタウリン塩;ヤシ油脂肪酸エチルエステルスルホン酸ナトリウム塩等の脂肪酸エステルスルホン酸塩等が挙げられる。このうち、刺激や後味の点から、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩や、ラウロイルメチルタウリンナトリウム等のアシルタウリン塩が好ましい。これらのアニオン界面活性剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
アニオン界面活性剤は、安定性及び刺激の点から、本発明の口腔用組成物中に0.001〜1質量%含有することが好ましく、更には0.001〜0.5質量%、特に0.001〜0.2質量%含有することが好ましい。
【0027】
非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンフィトスタノール、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エタノールアミド等が挙げられる。このうち、後味の点から、脂肪酸の炭素数が8〜20程度の脂肪酸エステル類が好ましい。これらの非イオン界面活性剤は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
非イオン界面活性剤は、安定性及び後味の点から、本発明の口腔用組成物中に0.001〜0.5質量%、特に0.001〜0.2質量%含有することが好ましい。
【0029】
本発明の口腔用組成物中には、これらの成分のほかに、ソルビット、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリット等の湿潤剤;カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム等の増粘剤;パラオキシ安息香酸メチル等の保存剤;塩化ベンゼトニウム、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン等の殺菌剤、消炎剤等を添加することができる。
【0030】
本発明の口腔用組成物の形態としては、歯磨剤、洗口液等が挙げられる。また、本発明の口腔用組成物のpHは、使用感、歯垢除去性能、及び分離安定性の観点より、5〜11、特に7〜9.5に調整することが好ましい。
【実施例】
【0031】
実施例1〜5及び比較例1〜4 〔香料組成物〕
表1に示す香料成分を用いて、口腔用組成物用柑橘系香料組成物を調製した。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例6〜10及び比較例5〜8 〔歯磨剤〕
表1に示す香料組成物を用い、常法に従って表2に示す歯磨き剤を調製し、歯磨き時の柑橘感及び歯磨剤の安定性を評価した。
【0034】
(i)歯磨き時の柑橘感の評価
専門パネラーに、実施例6〜10及び比較例5〜8の歯磨剤を用いて常法に従い歯磨きを行ってもらい、歯磨き時の柑橘感について、天然柑橘精油を用いた比較例8を基準として、以下のように4段階で評価した。この結果を表2に示す。
【0035】
4:比較例8と同等の柑橘感がある
3:比較例8とほぼ同等の柑橘感がある
2:比較例8の柑橘感とやや異なる
1:比較例8の柑橘感とは異なる
【0036】
(ii)歯磨剤の安定性評価
実施例6〜10及び比較例5〜8の歯磨剤を5℃及び50℃にて1ヶ月保存した後、専門パネラーに常法に従い歯磨きを行ってもらい、50℃に保存した歯磨剤の安定性について、5℃に保存した歯磨剤を基準として以下のように4段階で評価した。この結果を表2に示す。
【0037】
4:5℃保存品と同等である
3:5℃保存品とほぼ同等である
2:5℃保存品とやや異なる
1:5℃保存品と異なる
【0038】
【表2】

【0039】
実施例11〜15及び比較例9〜12 〔洗口液〕
表1に示す香料組成物を用い、常法に従って表3に示す洗口液を調製し、洗口時の柑橘感及び洗口液の安定性を評価した。
【0040】
(i)洗口時の柑橘感の評価
専門パネラーに、実施例11〜15及び比較例9〜12の洗口液を用いて常法に従い洗口を行ってもらい、洗口時の柑橘感について天然柑橘精油を用いた比較例12を基準として、以下のように4段階で評価した。この結果を表3に示す。
【0041】
4:比較例12と同等の柑橘感がある
3:比較例12とほぼ同等の柑橘感がある
2:比較例12の柑橘感とやや異なる
1:比較例12の柑橘感とは異なる
【0042】
(ii)洗口液の安定性評価
実施例11〜15及び比較例9〜12の洗口液を5℃及び50℃にて1ヶ月保存した後、専門パネラーに常法に従い洗口を行ってもらい、50℃に保存した洗口液の安定性について、5℃に保存した洗口液を基準として以下のように4段階で評価した。この結果を表3に示す。
【0043】
4:5℃保存品と同等である
3:5℃保存品とほぼ同等である
2:5℃保存品とやや異なる
1:5℃保存品と異なる
【0044】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)リモネン、(b)ヌートカトン、(c)炭素数6〜12の直鎖脂肪族アルデヒド、(d)炭素数1〜6の脂肪酸のエステル、及び(e)メントールを含有する口腔組成物用香料組成物。
【請求項2】
(c)炭素数6〜12の直鎖脂肪族アルデヒドが、2位に不飽和結合を有するアルデヒドである請求項1に記載の香料組成物。
【請求項3】
(b)ヌートカトン/(a)リモネンの質量比が、0.001〜0.05である請求項1又は2に記載の香料組成物。
【請求項4】
(c)炭素数6〜12の直鎖脂肪族アルデヒド/(a)リモネンの質量比が、0.001〜0.05である請求項1〜3のいずれかに記載の香料組成物。
【請求項5】
(d)炭素数1〜6の脂肪酸のエステル/(a)リモネンの質量比が、0.001〜0.05である請求項1〜4のいずれかに記載の香料組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の香料組成物を含有する口腔用組成物。

【公開番号】特開2007−126393(P2007−126393A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320301(P2005−320301)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】