説明

香料組成物

【課題】他の様々な香料との調和性に優れ、調合することでより強いフルーティグリーン感やフレッシュ感を与えることができる化合物を含有する香料組成物、及びその化合物の賦香成分としての使用を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される化合物を含有する香料組成物、及び当該化合物の賦香成分としての使用。


(式中、R1とR2は、各々互いに独立してメチル基又はエチル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定構造の芳香族不飽和アルコール化合物を含有する香料組成物、及び当該化合物の賦香成分としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
香りは製品等の嗜好性や高級感、安心感、効果への期待感等を演出する重要な要素である。さらに特徴ある香りは製品識別効果、顧客吸引力を与える。グリーン、フローラル、シトラス、フルーティ等の香調はトイレタリー製品において好まれる。これらの香調においてはよりみずみずしくフレッシュな香りが望まれる。
製品への賦香は、香りのバランスや持続性等を制御するために、複数の香料素材を混合した香料組成物を用いて行われるのが一般的である。香料組成物を構成する香料素材は他の香料素材との調和性がよいことが求められる。
非特許文献1には、下記式(1)の構造を有するアルコールにおいて、Ra、Rb共に水素原子である化合物、すなわちシンナミックアルコールが開示されており、当該化合物はヒヤシンス様の香気を有する香料として使用されることが記載されている。
【0003】
【化1】

【0004】
他に、上記式(1)のような構造を有する各種3−フェニル−2−プロペニルアルコール誘導体としては、例えば、特許文献1や非特許文献2には、Raがメチル基、Rbが水素原子又はメチル基の化合物が、特許文献2には、Raがエチル基、Rbが水素原子の化合物が、特許文献3、4には、Raがイソプロピル基、Rbが水素原子又はメチル基の化合物が開示されている。
しかしながら、これらの文献には、これらの化合物についての匂いに関する記載は見当たらず、上記化合物を香料として用いる旨の開示はされていない。
香料素材は、極めて大雑把には、構造が類似していれば類似の香調を有するが、例外も多く、特に複数の置換基を組み合わせて変化させた場合、その香調がどのように変化していくかは予測しがたく、また、他の香料素材との調和性も予測しがたいものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭38−9870号公報
【特許文献2】WO2008−30838
【特許文献3】米国特許2448047
【特許文献4】特公昭36−7364公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】第4刷 香料と香調の基礎知識(産業図書株式会社)146項
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society (1931), 53 1605-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
香料素材によっては、他の香料成分と干渉して香調が変わったり、弱めあったりする場合があるので、調香の自由度を挙げるためには、香料素材のバリエーションの拡大が望まれる。特に、清潔感がある瑞々しいグリーンな香調を有し、トイレタリー製品の賦香に好適に用いられる香料組成物が望まれていた。
本発明の課題は、他の様々な香料との調和性に優れ、調合することでより強いフルーティグリーン感やフレッシュ感を与えることができる化合物を含有する香料組成物、及びその化合物の賦香成分としての使用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定構造の芳香族不飽和アルコールが、様々な香料組成物においてフルーティグリーン感を強め、フレッシュ感を与えることを見出した。
すなわち、本発明は、下記一般式(I)で表される化合物を含有する香料組成物を提供する。
【化2】

(式中、R1とR2は、各々互いに独立してメチル基又はエチル基を表す。)
また、本発明は、上記一般式(I)で表される化合物の賦香成分としての使用を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の香料組成物は、一般式(I)で表される化合物を含有しているため、他の様々な香料との調和性に優れ、調合することでより強いフルーティグリーン感やフレッシュ感を与えることができる。また、一般式(I)で表される化合物は、賦香成分として使用することができ、トイレタリー製品の賦香等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔一般式(I)で表される化合物〕
本発明の香料組成物は、上記一般式(I)で表される化合物である芳香族不飽和アルコールを含有する。
一般式(I)中、R1は、メチル基又はエチル基であるが、フレッシュな香調の発現と他の香料素材との調合性を得る観点から、メチル基が好ましい。また、R2も、メチル基又はエチル基であるが、同様の観点から、エチル基が好ましい。当該観点から、R1がメチル基で、R2がエチル基の組み合わせが好ましい。
【0011】
一般式(I)で表される化合物は、二重結合における置換基の位置により、シス体とトランス体の混合物として得られる場合がある。本発明においては、シス体とトランス体それぞれ単独のものであってもよいが、任意の比率の混合物であってもよい。匂いの質の観点から、シス体とトランス体の質量比(シス体:トランス体)は、0:100〜90:10が好ましく、0:100〜50:50がより好ましく、0:100〜20:80がより好ましく、0:100〜10:90が更に好ましく、0:100〜5:95が更に好ましい。
上記のような一般式(I)で表される化合物は、ライラック様で清潔感がある瑞々しいグリーンな香調を有し、香料組成物に好ましく含有させることができ、香料組成物にフレッシュ感を与えることができる。
【0012】
[一般式(I)で表される化合物の製造方法]
本発明の一般式(I)の芳香族不飽和アルコールは、一般的な有機化学反応を用いて合成することができる。例えば、下記一般式(II)で表されるアルデヒド化合物を還元すること等により得ることができる。
【0013】
【化3】

(式中、R1とR2は、上記式(I)と同じである。)
【0014】
一般式(II)で表されるアルデヒド化合物は、例えば、一般式(III)で表される芳香族アルデヒド化合物と、一般式(IV)で表される脂肪族アルデヒド化合物とを用いて塩基触媒存在下アルドール付加反応を行うこと等により得ることができる。
【0015】
【化4】

(式中、R1は、上記式(I)と同じである。)
【0016】
【化5】

(式中、R2は、上記式(I)と同じである。)
【0017】
[香料組成物]
本発明の香料組成物は、一般式(I)で表される芳香族不飽和アルコールを含有するものである。一般式(I)で表される芳香族不飽和アルコールは、単独又は2種以上を組み合わせて含有させることもできる。この芳香族不飽和アルコールの含有量は、香料組成物中、好ましくは0.01〜99質量%、より好ましくは0.1〜15質量%、更に好ましくは0.3〜3質量%である。
【0018】
また、本発明の香料組成物は、一般式(I)で表される芳香族不飽和アルコール以外にも、その他の香料素材として、通常用いられる他の香料成分や、所望組成の調合香料を含有させ、例えば、フローラル調、ブーケ調、ヒヤシンス調、ゼラニウム調、ローズ調、ベルガモット調、ラン調の香気を付与することができる。
【0019】
本発明の香料組成物において、芳香族不飽和アルコールと組み合わせて用いることができるその他の香料素材としては、一般式(I)で表される化合物以外のアルコール類、炭化水素類、フェノール類、エステル類、カーボネート類、アルデヒド類、ケトン類、アセタール類、エーテル類、カルボン酸、ラクトン類、ニトリル類、シッフ塩基類、天然精油や天然抽出物等の香料が挙げられる。
これらの中でも、一般式(I)で表される化合物以外のアルコール類香料、エステル類香料、ラクトン類香料が好ましく、中でも、エステル類香料がより好ましく使用される。
【0020】
一般式(I)で表される化合物以外のアルコール類としては、リナロール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、テルピネオール、ジヒドロミルセノール、エチルリナロール、ファルネソール、ネロリドール、シス−3−ヘキセノール、セドロール、メントール、ボルネオール、フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、ジメチルベンジルカルビノール、フェニルエチルジメチルカルビノール、フェニルヘキサノール、2,2,6−トリメチルシクロヘキシル−3−ヘキサノール、アンバーコア(花王株式会社商品名)等が挙げられる。
【0021】
炭化水素類としては、リモネン、α−ピネン、β−ピネン、テルピネン、セドレン、ロンギフォレン、バレンセン等が挙げられる。
フェノール類としては、グアヤコール、オイゲノール、イソオイゲノール、チモール、パラクレゾール、バニリン等が挙げられる。
【0022】
エステル類としては、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、吉草酸エステル、ヘキサン酸エステル、ヘプタン酸エステル、ノネン酸エステル、安息香酸エステル、桂皮酸エステル、サリチル酸エステル、ブラシル酸エステル、チグリン酸エステル、ジャスモン酸エステル、グリシド酸エステル、アントラニル酸エステル等が挙げられる。
【0023】
ギ酸エステルとしては、リナリルホルメート、シトロネリルホルメート、ゲラニルホルメート等が挙げられる。
酢酸エステルとしては、n−ヘキシルアセテート、シス−3−ヘキセニルアセテート、リナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、テルピニルアセテート、ノピルアセテート、ボルニルアセテート、イソボルニルアセテート、o−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、p−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、フェニルエチルフェニルアセテート、3−ペンチルテトラヒドロピラン−4−イルアセテート、パラクレジルフェニルアセテート等が挙げられる。
プロピオン酸エステルとしては、シトロネリルプロピオネート、トリシクロデセニルプロピオネート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、エチル2−シクロヘキシルプロピオネート、ベンジルプロピオネート等が挙げられる。
酪酸エステルとしては、シトロネリルブチレート、ジメチルベンジルカルビニルn−ブチレート、トリシクロデセニルイソブチレート等が挙げられる。
吉草酸エステルとしては、メチルバレレート、エチルバレレート、ブチルバレレート、アミルバレレート、ベンジルバレレート、フェニルエチルバレレート等;ヘキサン酸エステルとしては、メチルヘキサノエート、エチルヘキサノエート、アリルヘキサノエート、リナリルヘキサノエート、シトロネリルヘキサノエート等が挙げられる。
ヘプタン酸エステルとしては、メチルヘプタノエート、アリルヘプタノエート等が挙げられる。
【0024】
ノネン酸エステルとしては、メチル2−ノネノエート、エチル2−ノネノエート、エチル3−ノネノエート等が挙げられる。
安息香酸エステルとしては、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、3,6−ジメチルベンゾエート等が挙げられる。
桂皮酸エステルとしては、メチルシンナメート、ベンジルシンナメート等が挙げられる。
サリチル酸エステルとしては、メチルサリシレート、n−ヘキシルサリシレート、シス−3−ヘキセニルサリシレート、シクロヘキシルサリシレート、ベンジルサリシレート等が挙げられる。
【0025】
さらに、ブラシル酸エステルとしては、エチレンブラシレート等が挙げられる。
チグリン酸エステルとしては、ゲラニルチグレート、1−ヘキシルチグレート、シス−3−ヘキセニルチグレート等が挙げられる。
ジャスモン酸エステルとしては、メチルジャスモネート、メチルジヒドロジャスモネート等が挙げられる。
グリシド酸エステルとしては、メチル2,4−ジヒドロキシ−エチルメチルフェニルグリシデート、4−メチルフェニルエチルグリシデート等が挙げられる。
アントラニル酸エステルとしては、メチルアントラニレート、エチルアントラニレート、ジメチルアントラニレート等が挙げられる。
さらにその他のエステルとしては、フルテート(花王株式会社商品名)等が挙げられる。
【0026】
これらのエステル類の中でも、ベンジルアセテート等の酢酸エステル、メチルヘプタノエート等のヘプタン酸エステル、メチルジヒドロジャスモネート等のジャスモン酸エステル、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート等の安息香酸エステルが好ましく使用される。
【0027】
カーボネート類としては、市販品として、ジャスマシクラット(花王株式会社商品名)、フロラマット(花王株式会社商品名)等が挙げられる。
アルデヒド類としては、n−オクタナール、n−ノナナール、n−デカナール、n−ドデカナール、2−メチルウンデカナール、10−ウンデセナール、シトロネラール、シトラール、ヒドロキシシトロネラール、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、フェニルプロピルアルデヒド、シンナミックアルデヒド、ジメチルテトラヒドロベンズアルデヒド、リラール(IFF社、商品名)、2−シクロヘキシルプロパナール、p−tert−ブチル−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p−イソプロピル−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p−エチル−α,α−ジメチルヒドロシンナミックアルデヒド、α−アミルシンナミックアルデヒド、α−ヘキシルシンナミックアルデヒド、ヘリオトロピン、α−メチル−3,4−メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒド等が挙げられる。
ケトン類としては、α−イオノン、β−イオノン、γ−イオノン、α−メチルイオノン、β−メチルイオノン、γ−メチルイオノン、ダマセノン、メチルヘプテノン、4−メチレン−3,5,6,6−テトラメチル−2−ヘプタノン、アセトフェノン、アミルシクロペンタノン、ジヒドロジャスモン、ローズケトン、カルボン、メントン、樟脳、アセチルセドレン、イソロンギフォラノン、ヌートカトン、ベンジルアセトン、アニシルアセトン、メチルβ−ナフチルケトン、2,5−ジメチル−4−ヒドロキシ−3(2H)−フラノン、マルトール、ムスコン、シベトン、シクロペンタデカノン等が挙げられる。
【0028】
アセタール類としては、アセトアルデヒドエチルフェニルプロピルアセタール、シトラールジエチルアセタール、フェニルアセトアルデヒドグリセリンアセタール、エチルアセトアセテートエチレングリコールアセタール、ボアザンブレンフォルテ(花王株式会社商品名)等が挙げられる。
エーテル類としては、セドリルメチルエーテル、エストラゴール、アネトール、β−ナフチルメチルエーテル、β−ナフチルエチルエーテル、リモネンオキサイド、ローズオキサイド、ネロールオキサイド、1,8−シネオール、ローズフラン、アンブロキサン(花王株式会社商品名)、ハーバベール(花王株式会社商品名)等が挙げられる。
カルボン酸類としては、安息香酸、フェニル酢酸、桂皮酸、ヒドロ桂皮酸、酪酸、2−ヘキセン酸等が挙げられる。
【0029】
ラクトン類としては、γ−デカラクトン、δ−デカラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ノナラクトン、γ−ウンデカラクトン、δ−ヘキサラクトン、γ−ジャスモラクトン、ウイスキーラクトン、クマリン、シクロペンタデカノリド、シクロヘキサデカノリド、アンブレットリド、11−オキサヘキサデカノリド、ブチリデンフタリド等が挙げられる。
ニトリル類としては、ゲラニルニトリル、シトロネリルニトリル、ドデカンニトリル等が挙げられる。
【0030】
シッフ塩基類としては、オーランチオール、リガントラール等が挙げられる。
天然精油や天然抽出物としては、オレンジ、レモン、ライム、ベルガモット、バニラ、マンダリン、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミル、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ロックローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、セダー、ヒノキ、ベチバー、パチュリ、レモングラス、ラブダナム等が挙げられる。
【0031】
これらのその他の香料の含有量は、調合香料の種類、目的とする香気の種類及び香気の強さ等により適宜選択することができるが、香料組成物中、好ましくは0.001〜99.99質量%、より好ましくは0.1〜80質量%である。
【0032】
本発明の香料組成物は、式(I)で表される芳香族不飽和アルコール及びその他の香料素材を含有させるベースとして、それ自身は匂いを持たない油剤を含有させることができる。かかる油剤は、香料成分を均一に混合させ、製品に含有しやすく、適度な強度の香りを賦香しやすくする。
このような油剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール類、ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジエチル等のエステル類、流動パラフィン、スクワラン等の炭化水素類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル等の界面活性剤等が挙げられる。
かかる油剤の含有量は、香料組成物中、好ましくは1〜95質量%、より好ましくは10〜80質量%、更に好ましくは20〜50質量%である。
【0033】
〔賦香成分としての使用〕
一般式(I)で表される化合物及びそれを含有する香料組成物は、ライラック様で清潔感がある瑞々しいグリーンな香調を有する香料素材又は調合香料として、各種製品の賦香成分として使用することができる。一般式(I)で表される化合物の賦香成分としての使用方法としては、単独で又は他の成分と組み合わせて、石鹸、シャンプー、リンス、洗剤、化粧品、スプレー製品、芳香剤、香水、入浴剤等のトイレタリー製品のベースに含有させることができる。
【実施例】
【0034】
以下の製造例において行った測定法の詳細を以下にまとめて示す。
〔化合物の同定〕
以下の製造例で得られた芳香族不飽和アルコールの構造を、核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR、13C−NMR)により同定した。核磁気共鳴スペクトルは、溶媒としてクロロホルム−dを用いて、Varian社製の製品名「Mercury 400」により測定した。
【0035】
〔香気、匂い強度の評価〕
以下の製造例で得られた化合物について、調香・香料評価業務を7年経験した熟練者1名により、におい紙法により香調を判定した。におい紙(幅6mm長さ150mmの香料試験紙)の先端約5mmを、試料に浸漬し、評価した。
香気は、主として感じられる香り(主香気)を、より強く感じられるものから順に列挙し、さらに、副次的に感じられる香り(副香気)を付記した。
匂い強度は、無臭を0、きわめて強いものを5とする相対評価で表した。
【0036】
製造例1
3−(4−エチルフェニル)−2−メチル−2−プロペン−1−オールの合成
フラスコに水酸化カリウム4gとメタノール60gと4−エチルベンズアルデヒド80gを入れ、攪拌しながら35℃でプロピオンアルデヒド35gを4.5時間で滴下し、さらに0.5時間攪拌した。反応液に氷酢酸4gを加えて中和して2,6−ジ−tert−ブチルフェノール0.04gを加えてからエーテル抽出とNaCl水洗を行い、エーテル層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥後、濾過と濃縮を行ってから単蒸留して3−(4−エチルフェニル)−2−メチル−2−プロペン−1−アールを72g得た。
続いて、フラスコにメタノール45g、1.5%水酸化ナトリウム水溶液14g、水素化ホウ素ナトリウム(以下、SBHともいう)9gを入れ、5℃で、3−(4−エチルフェニル)−2−メチル−2−プロペン−1−アール46gを1時間で滴下した。反応液に20%硫酸水と水を加えて余剰のSBHを分解した後、エーテル抽出と水洗をしたエーテル層を硫酸マグネシウムで乾燥してから濃縮を行い、反応物41gを得た。得られた反応物のうち10gをシリカゲルカラムと蒸留で精製して、3−(4−エチルフェニル)−2−メチル−2−プロペン−1−オールを7g製造した。
【0037】
得られた3−(4−エチルフェニル)−2−メチル−2−プロペン−1−オールの純度は97%であり、シス体とトランス体の質量比は、0:100であった。
また、1H−NMR、及び13C−NMRの測定結果、及び香気評価を以下に示す。
・1H-NMR(CDCl3, 400MHz, δppm) : 1.23(t, J=7.6Hz, 3H), 1.88(s, 3H), 2.34(s, 1H), 2.62(q, J=7.5Hz, 2H), 4.13(s, 2H), 6.46(s, 1H), 7.12-7.19(m, 4H)
・13C-NMR(CDCl3, 100MHz, δppm) : 15.8(CH3), 16.0(CH3), 29.0(CH2), 69.4(CH2), 125.2(CH), 127.9(CH), 129.1(CH), 135.1(C), 137.1(C), 142.6(C)
・香気:(主香気)フローラル−ライラック様。(副香気)グリーン感と清潔感あり。
・匂い強度:3。
【0038】
製造例2
2−(4−エチルベンジリデン)ブタン−1−オールの合成
フラスコに水酸化カリウム3gとメタノール50gと4−エチルベンズアルデヒド67gを入れ、攪拌しながら35℃でブチルアルデヒド35gを2.8時間で滴下し、さらに0.5時間攪拌した。反応液に氷酢酸3gを加えて中和して2,6−ジ−tert−ブチルフェノール0.04gを加えてからエーテル抽出とNaCl水洗を行い、エーテル層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥後、濾過と濃縮を行ってから単蒸留して2−(4−エチルベンジリデン)ブタン−1−アールを61g得た。
続いて、フラスコにメタノール51g、1.5%水酸化ナトリウム水溶液17g、SBH5gを入れ、5℃で、2−(4−エチルベンジリデン)ブタン−1−アール50gを20分で滴下し15分攪拌した。反応液に20%硫酸水と水を加えて余剰のSBHを分解した後、エーテル抽出と水洗をしたエーテル層を硫酸マグネシウムで乾燥してから濃縮を行い、反応物44gを得た。得られた反応物のうち10gをシリカゲルカラムと蒸留で精製して、2−(4−エチルベンジリデン)ブタン−1−オールを7g製造した。
【0039】
得られた2−(4−エチルベンジリデン)ブタン−1−オールの純度は98%であり、シス体とトランス体の質量比は、1:99であった。
また、1H−NMR、及び13C−NMRの測定結果、及び香気評価を以下に示す。
・1H-NMR(CDCl3, 400MHz, δppm) : 1.10(t, J=7.4Hz, 3H), 1.23(t, J=7.6Hz, 3H), 2.13(s, 1H), 2.33(q, J=7.5Hz, 2H), 2.63(q, J=7.6Hz, 2H), 4.20(s, 2H), 6.45(s, 1H), 7.12-7.20(m, 4H)
・13C-NMR(CDCl3, 100MHz, δppm) : 13.6(CH3), 16.0(CH3), 22.2(CH2), 29.0(CH2), 67.1(CH2), 125.2(CH), 127.9(CH), 128.8(CH), 135.0(C), 142.7(C), 143.0(C)
・香気:(主香気)フローラル−ライラック様。(副香気)ローズケトン様でグリーン感と清潔感あり。
・匂い強度:3。
【0040】
比較製造例1
2−(4−メチルベンジリデン)ブタン−1−オールの合成
フラスコに水酸化カリウム3gとメタノール36gと4−メチルベンズアルデヒド48gを入れ、攪拌しながら35℃でブチルアルデヒド35gを3時間で滴下し、さらに3時間攪拌した。反応液に氷酢酸3gを加えて中和して2,6−ジ−tert−ブチルフェノール0.09gを加えてからエーテル抽出とNaCl水洗を行い、エーテル層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥後、濾過と濃縮を行ってから単蒸留して2−(4−メチルベンジリデン)ブタン−1−アールを48g得た。
続いて、フラスコにメタノール30g、1.5%水酸化ナトリウム水溶液11g、SBH3gを入れ、5℃で、2−(4−メチルベンジリデン)ブタン−1−アール40gを2.3時間で滴下し1時間攪拌した。反応液に20%硫酸水と水を加えて余剰のSBHを分解した後、エーテル抽出と水洗をしたエーテル層を硫酸マグネシウムで乾燥してから濃縮を行い、反応物40gを得た。得られた反応物のうち8gをシリカゲルカラムと蒸留で精製して、2−(4−メチルベンジリデン)ブタン−1−オールを4g製造した。
【0041】
得られた2−(4−メチルベンジリデン)ブタン−1−オールの純度は98%であり、シス体とトランス体の質量比は、0:100であった。
また、1H−NMR、及び13C−NMRの測定結果、及び香気評価を以下に示す。
・1H-NMR(CDCl3, 400MHz, δppm) : 1.09(t, J=7.6Hz, 3H), 2.31(q, J=7.6, 2H), 2.32(s, 3H), 4.19(s, 2H), 6.44(s, 1H), 7.09-7.14(m, 4H)
・13C-NMR(CDCl3, 100MHz, δppm) : 13.6(CH3), 21.6(CH3), 22.2(CH2), 67.0(CH2), 125.2(CH), 128.8(CH), 129.1(CH), 134.8(C), 136.3(C), 143.0(C)
・香気:(主香気)アニス様(フローラル−ライラック感は弱い)。
・匂い強度:2。
【0042】
実施例1、2
製造例1で得られた3−(4−エチルフェニル)−2−メチル−2−プロペン−1−オール、もしくは製造例2で得られた2−(4−エチルベンジリデン)ブタン−1−オールを用いて、第1表に示すように含有させ、天然の梅様の香料組成物を調製した。表1中の数値は質量%である(以下同じ)。
【0043】
比較例1
実施例1、2において、3−(4−エチルフェニル)−2−メチル−2−プロペン−1−オールもしくは2−(4−エチルベンジリデン)ブタン−1−オールを含有させず、ジプロピレングリコールの量を29.6質量%とした以外は、実施例1、2と同様にして、天然の梅様の香料組成物を調製した。
【0044】
比較例2、3
実施例1、2において、3−(4−エチルフェニル)−2−メチル−2−プロペン−1−オールもしくは2−(4−エチルベンジリデン)ブタン−1−オールを含有させず、比較製造例1で得られた2−(4−メチルベンジリデン)ブタン−1−オール、もしくはシンナミックアルコールを用いて、表1に示すような質量比で含有させた以外は、実施例1、2と同様にして、天然の梅様の香料組成物を調製した。
【0045】
【表1】

【0046】
〔香気評価〕
(1)熟練者による定性評価
調香・香料評価業務7年の熟練者に表1に示す実施例1,2、及び比較例1〜3の香料組成物の香気評価を、上述のにおい紙によるにおい紙法にて評価させた。
その結果、実施例1、2の香料組成物は、「3−(4−エチルフェニル)−2−メチル−2−プロペン−1−オール」もしくは「2−(4−エチルベンジリデン)ブタン−1−オール」を含有したことにより、比較例1の香料組成物に比べて、驚くべきことに天然の果実を想起させるジューシーでフルーティな甘さとグリーン様の香気が強まり、優れた梅様の調合香料であると判定された。
また、「3−(4−エチルフェニル)−2−メチル−2−プロペン−1−オール」もしくは「2−(4−エチルベンジリデン)ブタン−1−オール」の代わりに、「2−(4−メチルベンジリデン)ブタン−1−オール」もしくは「シンナミックアルコール」を含有した比較例2、3では、実施例1、2の香料組成物に比べて、香り立ちが暗くなりフレッシュ感が薄れると判定された。
(2)専門パネラーによる比較評価
表1に示す実施例1、2、及び比較例1〜3の香料組成物に関して、香料開発6ヶ月以上の専門パネラーにより、におい紙法により香気評価を行った。具体的な評価方法としては、パネラー10人により、実施例1又は2の香料組成物と、比較例1〜3のいずれかの香料組成物との香気を比較し、ジューシーでフルーティな甘さとグリーン様がより優れていると感じた方に投票する方法を用いた。
【0047】
実施例1の香料組成物と、比較例1の香料組成物とを対比した香気評価では、10人中9人が、実施例1の香料組成物の方が、ジューシーでフルーティな甘さが強くより優れていると評価した結果が得られた。
実施例2の香料組成物と、比較例1の香料組成物との香気を比較したところ、10人中9人が、実施例2の香料組成物の方が、香り立ちが明るく、ジューシーでフルーティな甘さが強くより優れていると評価した結果が得られた。
【0048】
また、実施例1の香料組成物と、比較例3の香料組成物とを対比した香気評価では、10人中9人が、実施例1の香料組成物の方が優れていると評価した結果が得られた。パネラーからは、実施例1の香料組成物では、様々な香料との調和性に優れ、グリーン様の香気が強まるという評価意見が得られた。一方、比較例3ではシンナミックアルコールの匂いが香りのバランスを崩しているとの評価意見が得られた。
【0049】
以上のとおり、実施例1及び2の一般式(I)で表される化合物を含有する香料組成物は、様々な香料との調和性に優れ、天然の果実を想起させるジューシーでフルーティな甘さとグリーン様の香気が強まり、優れた梅様の調合香料と評価結果が得られた。一方、比較例1〜3の香料組成物は、香り立ちが暗くなりフレッシュ感が薄れる評価結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の香料組成物は、一般式(I)で表される化合物を含むため、ライラック様で清潔感がある瑞々しいグリーンな香調を有する香料素材として用いることができる。一般式(I)で表される化合物及びそれを含有する芳香族組成物は、単独で又は他の成分と組み合わせて、例えば、石鹸、シャンプー、リンス、洗剤、化粧品、スプレー製品、芳香剤、香水、入浴剤等の賦香成分として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物を含有する、香料組成物。
【化1】

(式中、R1とR2は、各々互いに独立してメチル基又はエチル基を表す。)
【請求項2】
一般式(I)におけるR1がメチル基である、請求項1記載の香料組成物。
【請求項3】
さらに、エステル類香料、ラクトン類香料、一般式(I)で表される化合物以外のアルコール類香料のうち1種以上を含有する、請求項1又は2記載の香料組成物。
【請求項4】
下記一般式(I)で表される化合物の賦香成分としての使用。
【化2】

(式中、R1とR2は、各々互いに独立してメチル基又はエチル基を表す。)

【公開番号】特開2012−140536(P2012−140536A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294146(P2010−294146)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】