説明

駆動用モータを備える自動車

【課題】モータを備える自動車の電気系統の接地の状態をチェックする機構を低コストで実現する技術を提供する。
【解決手段】自動車100は、メインバッテリとドライブトレインとDCDCコンバータと電流センサを備える。メインバッテリは、車両駆動用モータに電力を供給する。ドライブトレインは、絶縁体(制振のためのゴム材)を介して車両ボディに搭載される。DCDCコンバータは、メインバッテリの電圧を降圧して車両の他のデバイスへ電力を供給する。DCDCコンバータは、ドライブトレインに固定されている。電流センサは、DCDCコンバータの負極端子に流れる電流を検知する。DCDCコンバータの負極端子は、ケーブルを介して車両ボディと導通しており、電流センサは、DCDCコンバータのケースから突出している負極端子の周囲に取り付けられており、負極端子の先端に車両ボディと導通するケーブルが結線されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車や電気自動車など、駆動用モータ(走行のためのモータ)を備える自動車に関する。本明細書における自動車には、燃料電池車も含まれる。
【背景技術】
【0002】
従来のエンジンのみを有する自動車と異なり、ハイブリッド車や電気自動車など駆動用モータを備える自動車は、電気系統が複雑である。まず、そのような自動車は、駆動用モータに電力を供給するための高電圧バッテリ(メインバッテリ)を備える。さらにそのような自動車は、駆動用モータ以外のデバイス、例えば、電気回路、エアコン、ワイパ、パワーウインドウなど(それらのデバイスは「補機」と総称される)、従来のエンジン車と共通する車載デバイスを駆動する低電圧のバッテリ(補機バッテリ)を備える。メインバッテリは100V以上の高電圧であり、補機バッテリは、典型的には、12V、24V、あるいは、42Vであり、メインバッテリよりもはるかに低い電圧を出力する。駆動用モータを備える自動車は、電圧の異なる2個のバッテリを備えるので、電気系統が複雑になり、その分コストが嵩む。電気系統をできるだけ簡便に構成し、コストを抑える様々な技術が提案されている。例えば特許文献1には、メインバッテリの電力をモータ駆動用電力に変換するためのコンバータとインバータに着目し、それらの接地(アース)に関する結線構造を工夫してコスト低減を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−9301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、電気自動車(ハイブリッド車含む)の構造の近年の特徴に着目して、電気系統の接地に関する構造を工夫し、コスト低減を図る技術を提供する。
【0005】
近年のハイブリッド車や電気自動車の分野においては、半導体デバイス技術や実装技術の向上により、コンバータ(DCDCコンバータ)やインバータの小型化が進んでいる。モータを制御するためのコンバータとインバータを合わせたパワーコントローラと呼ばれるユニットが小型化し、そのユニットがドライブトレイン(エンジン、モータ、及びトランスミッションの総称であり、トランスアクスルと呼ばれることもある)に取り付けられるようになってきた。また、パワーコントローラには、メインバッテリの電圧を、補機を駆動するのに適した電圧に降圧するDCDCコンバータも備えられている。このDCDCコンバータは、従来のエンジンのみの自動車のオルタネータに相当し、補機バッテリを充電する電力を作るのにも使われる。他方、ドライブトレインは、振動抑制のため、ゴム材(制振マウント)を介して車両ボディに取り付けられる。ゴム材は非導体であるため、ドライブトレインに固定されたDCDCコンバータと車両ボディは、そのままでは絶縁された状態となる。通常、車両ボディは補機のアースとして機能するが、DCDCコンバータを車両ボディに直接に固定できるのであれば、DCDCコンバータのケースと車両ボディが接するのでわざわざ結線する必要はない。しかし、DCDCコンバータを搭載するドライブトレインが車両ボディに対して絶縁されている場合、DCDCコンバータの負極と車両ボディをケーブルで結線する必要がある。DCDCコンバータの負極は全ての補機の負極(アース)と接続するため、DCDCの負極の結線は重要であり、結線が外れていないかチェックするメカニズムを備えることが望まれる。本発明は上記の課題に鑑み、DCDCコンバータがドライブトレインに固定される近年の電気自動車(ハイブリッド車を含む)特有の構造に着目し、その電気系統の接地の状態をチェックする機構を低コストで実現する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する技術は、駆動用モータを備えた自動車に具現化することができる。その自動車は、メインバッテリとドライブトレインとDCDCコンバータと電流センサを備える。メインバッテリは、車両駆動用モータに電力を供給するためのバッテリである。ドライブトレインは、絶縁体(制振のためのゴム材)を介して車両ボディに搭載される。DCDCコンバータは、メインバッテリの電圧を降圧して車両の他のデバイス(補機)へ電力を供給することができる。DCDCコンバータは、ドライブトレインに固定されている。電流センサは、DCDCコンバータの負極端子に流れる電流を検知する。本明細書が開示する一つの技術は、次の特徴を備える。即ち、DCDCコンバータの負極端子が、ケーブルを介して車両ボディと導通しており、電流センサは、DCDCコンバータのケースから突出している負極端子の周囲に取り付けられており、負極端子の先端に車両ボディと導通するケーブルが結線されている。電流センサは、負極端子の先端が露出するようにして負極端子に取り付けられている。DCDCコンバータの負極端子は、DCDCコンバータのケースに設けられた突起でよく、ケースを鋳造する際に形成されればよい。
【0007】
電流センサは、リング状のプローブ(磁性体のリング)を有するものが低コストで一般的であるが、上記の構成によれば、DCDCコンバータと車両ボディを導通させるケーブルを接続する前に、DCDCコンバータに電流センサを組み込むことができる。具体的には、電流センサのリングにケースの突起(負極端子)を通し、電流センサをケースに固定する。そのような構成は、電流センサを組み込んだ状態でケーブルをDCDCコンバータの負極端子の先端に結線することができる。上記の構造を採用することによって、電流センサを含むDCDCコンバータの組み立て、及び、DCDCコンバータの車両ボディへの組み付け作業を簡単化することができ、電計系統の接地に関わる製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】車両搭載機器のブロック図である。
【図2】電流センサ周辺の構造を表す模式的斜視図である。
【図3】電流モニタ処理のフローチャートである。
【実施例】
【0009】
図1に、実施例の自動車の模式的ブロック図(搭載機器のブロック図)を示す。実施例の車両100は、エンジンとモータ(車両駆動用モータ)を備えるハイブリッド車である。図1では、エンジンとモータ、及び、トランスミッションをドライブトレイン4として描いてある。良く知られているように、ハイブリッド車は、状況に応じてエンジンとモータを切り換えて用いる。大トルクが必要な場合はエンジンとモータを同時に用いる。ドライブトレイン4内部のトランスミッションが、エンジンの出力とモータの出力を切り換えたり、あるいは両者を加えてデフに伝達する。ドライブトレイン4は、パワートレイン、あるいは、トランスアクスルと呼ばれることもある。ドライブトレイン4の詳細な構造については説明を省略する。なお、モータは、ブレーキ時の減速エネルギ(回生エネルギ)を電気エネルギに変換するジェネレータも兼用する。
【0010】
ドライブトレイン4は、制振マウント5を介してボディ6に搭載されている。制振マウント5はゴム製であり、非導体である。なお、図1では、車の輪郭を表す太い線が、車両のボディを示している。ドライブトレイン4の上部に、パワーコントローラ2が固定されている。パワーコントローラ2は、モータへ駆動電力を供給するとともに、モータを制御する。パワーコントローラ2には、2個のDCDCコンバータとインバータが内蔵されている。第1のDCDCコンバータは、メインバッテリ3の電圧を、モータ駆動に適した電圧に昇圧する。例えば、200Vのバッテリ電圧を600Vへ昇圧する。昇圧された電圧はインバータによって交流に変換される。また、インバータは、交流の周波数を変えることもできる。パワーコントローラ2は、周波数を変えることによってモータの回転数を制御する。モータ制御に関する詳しい説明は省略する。
【0011】
パワーコントローラ2が有する第2のDCDCコンバータは、メインバッテリ3の電圧を、補機(パワーウインドウ、ナビゲーションシステムなどの電子機器、ワイパ、エアコンなど、通常のエンジン車両も有する電気デバイス)に適した電圧に変換する。補機に適した電圧の一例は、典型的には12Vである。図1では、符号9が示す矩形が種々の補機を代表して表している。以下、第2のDCDCコンバータが電力を供給するデバイス群を補機群9と称する。第2のDCDCコンバータの出力は、補機バッテリ8の充電にも使われる。本実施例では、パワーコントローラのうち、上記第2のDCDCコンバータに着目するので、以後、符号2が表すデバイスを「DCDCコンバータ2」と称する。なお、DCDCコンバータ2が停止している間は、補機バッテリ8が補機群9に対して電力を供給する。
【0012】
DCDCコンバータ2の正極端子2bは、補機群9や補機バッテリ8の正極端子と接続されている。補機群9と補機バッテリ8の負極端子(アース)は車両のボディ6に接続されている。車のボディ6自体がアースの機能を果たす。DCDCコンバータ2の負極端子2aもGNDケーブル21を介してボディ6に接続されている。即ち、DCDCコンバータ2の出力電流は、正極端子2bから出力され、補機群9及び補機バッテリ8の正極端子に流れ、補機群9及び補機バッテリ8の負極からボディ6へと流れ、ボディ6からDCDCコンバータ2の負極端子2aへと環流する。
【0013】
DCDCコンバータ2のケースはアルミ製(導体)であり、DCDCコンバータ内の回路の負極と導通している。即ち、DCDCコンバータ2のケース自体が負極である。DCDCコンバータ2が固定されているドライブトレイン4のケースもアルミ(導体)で作られているから、DCDCコンバータ2のケースとドライブトレイン4のケースは導通する。しかし、ドライブトレイン4は、非導体(絶縁体)の制振マウント5を介して固定されているため、DCDCコンバータ2とボディ6は直接には導通していない。DCDCコンバータ2の負極2aとボディ6は、GNDケーブル21によって導通する。
【0014】
図2に、DCDCコンバータ2の負極端子2aの周辺の模式的斜視図を示す。DCDCコンバータ2のケース2cの上面に突起Sが形成されており、この突起Sが、負極端子2aとして機能する。突起Sは、ケース2cと一体であり、ケース2cの鋳造の際に成形される。なお、先に述べたように、DCDCコンバータ2のアルミ製のケース2cの全体が突起Sと同電位であるが、ここでは特に突起Sを「負極端子2a」と呼ぶ。突起Sの根元には電流センサ15のリング状プローブ13が取り付けられている。別言すれば、電流センサ15のリング状のプローブ13を突起S(負極端子2a)が貫いている。プローブ13は、負極端子2a(突起S)の先端が露出するように、突起Sを囲んで取り付けられている。プローブ13からケーブルが伸びており、センサ本体14に繋がっている。
【0015】
電流センサ15について簡単に説明する。プローブ13は磁性体でできており、リング中央の空間を電流が貫くと、磁性体内部に磁界が発生する。電流センサはこの磁界を検知し、リング内側の空間を通過する電流を計測する。具体的には、ある種の電流センサは、リングの途中にホール素子が配置されているとともにリングにコイルが巻かれており、ホール素子が検知する磁界とコイルを流れる誘導起電力の大きさから、リング中央を貫く電流の大きさを計測する。
【0016】
突起S(負極端子2a)の先端に、GNDケーブル21の端部のリング端子23が、ボルト25で固定されている。GNDケーブル21の他端はボディ6(図1参照)に接続されている。また、GNDケーブル21はその途中で、絶縁シールド22を介してケース2cの縁2dに固定されている。
【0017】
図2に示す構成により、電流センサ15が、GNDケーブル21を介して負極端子2aに流れ込む電流を計測する。図2に示す構成から明らかなとおり、DCDCコンバータ2は、電流センサ15(リング状のプローブ13)を組み付けた後に、GNDケーブル21を結線することができる。即ち、DCDCコンバータ2は、電流センサ15を組み込んだ後に、車両に搭載し、その後にGNDケーブル21を結線することができる。そのような組み立て手順を採用することができるため、車両製造におけるDCDCコンバータ2の接地(アース)構造に関わるコストを抑制することができる。
【0018】
図3を参照して、電流センサ15による電流モニタリング処理について説明する。図3のフローチャートの処理は、DCDCコンバータ2内の演算ユニット(CPU)が実行する。図3のフローチャートのルーチンは、DCDCコンバータ2が動作を開始すると、即ち、DCDCコンバータ2が12V電圧を出力し始めたときに起動される。DCDCコンバータ2は、電流センサ15の他に、出力電流を計測する別の電流センサも備えており、その電流センサにより、演算ユニットは出力電流Ioutを取得する(S2)。次に、前述した電流センサ15により、GNDケーブル21から負極端子2aに流れ込むGND電流Iinを計測する(S4)。演算ユニットは、出力電流IoutとGND電流Iinとの差分が閾値Thを超えているか否かをチェックする(S6)。演算ユニットは、DCDCコンバータ2が出力を停止するまで、上記の処理を繰り返し実行する(S6:NO、S10:NO、S2)。電流差分が閾値Thを超えていた場合、演算ユニットは、DCDCコンバータ2の出力を停止するとともに、車両のインパネに配置された警告ランプを点灯させる(S8)。
【0019】
出力電流IoutとGND電流Iinとの差分が閾値Thを超えていることは、電流がどこかへ洩れているか(漏電)、あるいは、負極端子2aに全く電流が流れていないことを意味する。特に、後者の場合は、GNDケーブル21が外れている可能性を示唆する。そのような場合は(漏電しているか、あるいは、GNDケーブルが外れている可能性がある場合)、異常事態であるとして、演算ユニットは、DCDCコンバータ2の出力を停止するとともに、警告ランプを点灯させる。なお、閾値Thは、小さい値でよく、好ましくは、電流計測の誤差程度の大きさでよい。わずかでも漏電した場合にはDCDCコンバータを停止することが好ましいからである。
【0020】
実施例に示した技術に関する留意点を述べる。本明細書が開示する技術は、ハイブリッド車だけでなく、燃料電池車を含む電気自動車に適用してよい。実施例におけるドライブトレイン4は、エンジンを含んでもよいし、含まなくともよい。当然ではあるが、電気自動車の場合、ドライブトレインはエンジンを含まない。
【0021】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0022】
2:DCDCコンバータ(パワーコントローラ)
2a:負極端子
2b:正極端子
2c:ケース
3:メインバッテリ
4:ドライブトレイン
5:制振マウント
6:ボディ
8:補機バッテリ
9:補機群
13:プローブ
14:センサ本体
15:電流センサ
21:GNDケーブル
22:絶縁シールド
23:リング端子
25:ボルト
100:車両
S:突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両駆動用モータに電力を供給するメインバッテリと、
車両ボディに絶縁体を介して搭載されるドライブトレインと、
ドライブトレインに固定されており、メインバッテリの電圧を降圧して車両の他のデバイスへ電力を供給するDCDCコンバータと、
DCDCコンバータの負極端子に流れる電流を検知する電流センサと、を備えており、
電流センサは、DCDCコンバータのケースから突出している負極端子の先端が露出するように負極端子の周囲に取り付けられており、負極端子の先端に車両ボディと導通するケーブルが結線されていることを特徴とする自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−27086(P2013−27086A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157583(P2011−157583)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】