説明

駆動用IC内蔵型蛍光表示管

【課題】フィラメント状陰極とグリッドとの距離を短くすることで、フィラメント状陰極と陽極基板上の蛍光体との距離を縮めることができ、表示品位を損なわず高い輝度が得られる。
【解決手段】陽極基板2上に蛍光体層が設けられた表示部3と、複数のフィラメント状陰極5と、グリット4と、ドライバIC6と、このICを遮蔽すると共にフィラメント状陰極端部を支持するフィラメントサポート7とを備える駆動用IC内蔵型蛍光表示管1において、フィラメント状陰極端部がフィラメントサポートの長辺側で蛍光表示管の一方の短辺側に固定されると共に、フィラメントサポートの表面に凹み部または該フィラメントサポートにスリットを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動用IC内蔵型蛍光表示管に関し、特にその蛍光表示管のフィラメント支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動用IC内蔵型蛍光表示管(以下、「CIG−VFD」ともいう)は、駆動用ICを蛍光表示管内部に実装することができるので、蛍光表示管の小型パッケージ化が可能であり、さらに高密度、大容量表示が可能な蛍光表示管である。
従来、CIG−VFDのフィラメント支持構造として、ICシールドの金属カバーにフィラメントサポートを設けた例(特許文献1)、駆動用ICをシールドする金属製ICシールドが搭載されている金属フレームの端部に金属製ICシールドとは別個にフィラメントサポートが設けられている例(特許文献2、特許文献3)が知られている。
【0003】
近年、フルドットタイプのグラフィックCIG−VFDにおいて、より高精細なドットピッチが要求されている。このグラフィックCIG−VFDは、駆動方法として一般的にダイナミックスキャン駆動を採用している。しかし、表示部の画素ピッチが0.325mmレベルの高精細になると、グリッドのカットオフ電圧の影響が大きくなり、画素ピッチが0.65mmレベルの荒い画素の表示に比較して、明暗部が著しく目立つようになる。この問題を解消するために、グリッドと陽極基板との間の距離を縮めることが知られているが、従来は、この距離を縮めると表示輝度が低下し、表示品位が損なわれるという問題がある。
このため、表示輝度の低下を防ぐために、フィラメント状陰極とグリッドとの間の距離を従来品より短く設定することで、フィラメント状陰極と陽極基板上の蛍光体との間の距離を縮めることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平1−46948号公報
【特許文献2】実開平5−36741号公報
【特許文献3】特開平6−51335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、CIG−VFDにおいて、フィラメント状陰極とグリッドとの間の距離をより短く設定できないという問題がある。
通常、CIG−VFDの駆動において、フィラメント状陰極およびフィラメントサポートはカットオフバイアス電圧にされている。
また、ドライバIC上のボンディングワイヤは、陽極、グリッド、ロジック+、ロジックGNDになっており、フィラメントサポートと接触することは避けなければならない。
このため、フィラメントサポート下部に搭載されているドライバICのボンディングワイヤがフィラメントサポートと接触しないように、フィラメントサポートは陽極基板表面より一定の距離を確保する必要がある。
フィラメント状陰極と蛍光体間を縮めて、輝度を高く設定しようとしても、上記理由でフィラメント状陰極と蛍光体の最低距離が決定されるため、ある一定以上の輝度は得られないという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、フィラメント状陰極とグリッドとの距離を短くすることで、フィラメント状陰極と陽極基板上の蛍光体との距離を縮めることができ、表示品位を損なわず高い輝度が得られる高精細グラフィックCIG−VFDの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、陽極基板上に蛍光体層が設けられた表示部と、この表示部の上方に架設された複数のフィラメント状陰極と、このフィラメント状陰極と上記表示部との間に配置されたグリットと、上記フィラメント状陰極のエンドクーリング領域内の陽極基板上に搭載されて上記表示部を駆動するIC(以下、「ドライバIC」ともいう)と、このドライバICを陰極より発生する電子から遮蔽すると共に上記フィラメント状陰極端部を支持するフィラメントサポートとを備え、上記フィラメント状陰極から発生する電子を蛍光体層に入射させることによりその蛍光体層を励起して発光させるCIG−VFDにおいて、上記フィラメント状陰極端部は上記フィラメントサポートの長辺側で蛍光表示管の一方の短辺側に固定されると共に、このフィラメント状陰極のエンドクーリング領域下方に位置する上記フィラメントサポートの表面に凹み部または該フィラメントサポートにスリットを設けることを特徴とする。
特に、フィラメントサポートの表面に形成される上記凹み部またはスリットは、複数のフィラメント状陰極のそれぞれに平行に複数個設けられていることを特徴とする。
また、上記フィラメントサポートに固定される上記フィラメント状陰極の一端は、そのフィラメントサポート表面に固定されていることを特徴とする。
また、上記フィラメント状陰極の一端が固定されている上記フィラメントサポート端部は、蛍光表示管の陽極基板との間が開口部となっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
フィラメント状陰極の一端が固定されたフィラメントサポート表面に凹み部またはフィラメントサポートにスリットを設けるので、フィラメント状陰極と蛍光体との距離を縮めることができる。そのため、本発明の駆動用IC内蔵型蛍光表示管は、高精細グラフィックCIG−VFDにおいても、表示品位を損なわずにより高い輝度が得られる。
また、フィラメント状陰極の一端がフィラメントサポート表面に固定されているので、フィラメントサポート自体のプレス形状が従来品より簡素化できる。そのため、プレス形状が安定することや、プレス金型が従来品より安価になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】CIG−VFDの構造を示す平面図である。
【図2】図1におけるA−a断面図である。
【図3】図1におけるB−b断面図である。
【図4】フィラメントサポートの平面図である。
【図5】フィラメント状陰極がフィラメントサポートに接触するときの関係図である。
【図6】従来のCIG−VFDの端部断面図である。
【図7】フィラメント状陰極高さと輝度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のCIG−VFDについて図1〜図3により説明する。図1はCIG−VFDの構造を示す平面図であり、図2は図1におけるA−a断面図であり、図3は同B−b断面図である。
CIG−VFD1は、図1〜図3に示すように、陽極基板2上にアルミニウム等からなる配線(図示せず)と、この配線の所定の領域にマトリックス状に形成され蛍光体層3aが付着した陽極とを少なくとも備えた表示部3と、この表示部3の上方に表示部3を覆うように互いに略平行に設けられた複数のグリッド4と、このグリッド4の上方に架設された複数のフィラメント状陰極5とを備えている。また、CIG−VFD1は、フィラメント状陰極5のエンドクーリング領域5a内の陽極基板2上に搭載されて表示部3を駆動するドライバIC6と、このドライバIC6を陰極5から発生する電子線より保護遮蔽すると共に、フィラメント状陰極5一端の支持体となるフィラメントサポート7とを備えている。フィラメント状陰極5の他端は、陽極基板2の対辺に設けられているアンカー7dに固定されてフィラメント状陰極5が張設されている。ドライバIC6はボンディングワイヤ6aにより陽極基板2に電気的に接続されている。8はリードピンである。
なお、CIG−VFD1は、少なくとも一部が透過性を有するフロントガラス(図示せず)およびスペーサガラス9をフリットガラスで接着してなる外囲器から構成され、真空容器を構成している。
上記CIG−VFD1は、フィラメント状陰極5から発生する電子を蛍光体層3aにグリッド4を介して入射させることによりその蛍光体層3aを励起して発光させる表示管である。
【0011】
フィラメント状陰極5は、フィラメントサポート7の端部7aに固定されている。端部7aは、フィラメント状陰極5のエンドクーリング領域5aがフィラメントサポート7の上方に位置するように端部7aに溶接等により固定されている。
また、図2および図3に示すように、フィラメント状陰極5のエンドクーリング領域5aの下方に位置するフィラメントサポート7の表面に凹み部7bが設けられている。
表面に凹み部7bを設けることにより、フィラメント状陰極5はフィラメントサポート7の表面で固定することができる。凹み部7bを設け、フィラメントサポート7の表面で固定することにより、フィラメント状陰極5と蛍光体層3との距離であるフィラメント高さt1を、凹み部7bを設けていない従来例に比較して、約20%と大幅に低くすることができる。なお、この凹み部7bに代わり、スリット7cを設けることができる。
ドライバIC6の上面とフィラメントサポート7との距離t2は、ドライバIC6の厚さt3およびボンディングワイヤ6aの形状により定められるので、フィラメントサポート7の設計上変更できない距離となる。
また、フィラメントサポート7の厚さt4は蛍光表示管1の大きさにより定められる。
【0012】
凹み部7bまたはスリット7cが設けられたフィラメントサポート7の平面図を図4に示す。図4(a)がスリット7cを設けた例であり、図4(b)が凹み部7bを設けた例である。
蛍光表示管1の大きさが図1における平面視で短辺の長さが35mm、長辺の長さが96mmの場合を例にすると、通常、フィラメント状陰極5の長さが86mm、フィラメントサポート7の厚さt4が0.25mmの場合、フィラメントサポート7の短辺長t7は、ドライバIC6の平面視での縦・横のサイズに依存するが、通常は略7.5mmである。このときのフィラメントサポート7の溶接しろ(t8×t9)は通常1.4mm×1.8mmである。
【0013】
フィラメントサポート7の表面に形成される凹み部7bまたはスリット7cは、複数のフィラメント状陰極5の下面にそれぞれに平行に設けられている。フィラメント状陰極5の下面に形成することで、フィラメント状陰極5とフィラメントサポート7との接触を避けることができる。
この凹み部7bまたはスリット7cは、ハーフエッチングまたはプレス加工等で容易に形成することができる。
凹み部7bおよびスリット7cの幅t6は、蛍光表示管動作時に外部からの振動でフィラメント状陰極5がフィラメントサポート7に接触しない幅が必要になる。例えば、上記短辺の長さが35mmおよび長辺の長さが96mmの蛍光表示管の場合、0.2〜0.6mmの範囲である。
【0014】
凹み部7bは、機械的強度が維持できる場合、幅t6を広くとることができる。また、フィラメント状陰極5に対して、蛍光表示管の中心に向かって開く扇型の幅であってもよい。
さらに、従来例の段差を低くして、凹み部7bまたはスリット7cを設けてもよい。
【0015】
凹み部7bおよびスリット7cの幅t6を上記範囲に、凹み部7bの深さt5を下記範囲にそれぞれ設定することにより、外部からの振動でフィラメント状陰極5がフィラメントサポート7に接触しない。また、フィラメントサポート7が平板状であるので、フィラメント状陰極5をフィラメントサポート7に溶接するときの作業性が向上する。
上記短辺の長さが35mmおよび長辺の長さが96mmの蛍光表示管の場合を例にとり、フィラメント状陰極5が振動によりフィラメントサポート7に接触する場合の状態を図5により説明する。図5はフィラメント状陰極5がフィラメントサポート7に接触するときの関係図である。
図5において、フィラメント状陰極5の他端はフィラメントアンカー7dに固定されて、張力が加えられているのであるが、便宜的にフィラメント状陰極5の両端をフィラメントサポート7の形状としている。
フィラメント状陰極5がフィラメントサポート7のa点で固定されて、フィラメント状陰極5がb点に接触するときの距離txを算出する。フィラメント状陰極5が振動する円弧の半径Rを求めると、R=1841mmとなる。この値を基にフィラメント状陰極5の最大揺れ幅Hは0.5mm、txは0.125mmとなり、凹み部7bの深さt5は、フィラメント状陰極5の振動だけを考慮すれば0.13mmあれば問題ない。同様に、凹み部7bの幅t6も0.13mmあれば問題ない。
【0016】
比較例として、フィラメントサポート7に凹み部7bおよびスリット7cが設けられていない、従来のCIG−VFDを用いて、フィラメント状陰極5の高さを低くした効果について図6より説明する。図6は従来のCIG−VFDの端部断面図である。
図6において、フィラメントサポート7’は凹み部7bおよびスリット7cを設けない代わりに、フィラメントサポート7’の端部が段差7’bを有して形成されて、その段差部分にフィラメント状陰極5が端部7'aの表面に溶接で固定されている。
図2に示す本願発明に係るCIG−VFDの構成との比較を表1に示す。
【0017】
【表1】

表1に示すように、本願発明に係るフィラメントサポート構造とすることにより、フィラメント状陰極5の高さt1は、本願発明の場合に1.05mm、従来構造の場合に1.3mmとなる。本願発明の場合、従来構造に比較して、約20%と大幅に高さを縮めることができた。
【0018】
以下の条件のダイナミック駆動でCIG−VFDを駆動した時、フィラメント状陰極高さt1と輝度との関係を図7に示す。
グリッド高さ :0.5mm
アノード電圧 :30V
グリッド電圧 :30V
カットオフ電圧:1V
デューティ :1/20
【0019】
図7に示すように、従来構造のフィラメント状陰極高さt1が1.3mmの場合、輝度は679Cd/m2であるが、本願発明の1.05mmの場合、その輝度は1200Cd/m2以上となる。このように、t1を約20%と大幅に低くすることができる本願発明は、CIG−VFDの輝度を大幅に向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明のCIG−VFDは、高精細グラフィックCIG−VFDにおいても、表示品位を損なわずにより高い輝度が得られるので、今後全てのCIG−VFDに適用できる。
【符号の説明】
【0021】
1 CIG−VFD
2 陽極基板
3 表示部
4 グリッド
5 フィラメント状陰極
6 ドライバIC
7 フィラメントサポート
8 リードピン
9 スペーサガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極基板上に蛍光体層が設けられた表示部と、この表示部の上方に架設された複数のフィラメント状陰極と、このフィラメント状陰極と前記表示部との間に配置されたグリットと、前記フィラメント状陰極のエンドクーリング領域内の前記陽極基板上に搭載されて前記表示部を駆動するICと、このICを遮蔽すると共に前記フィラメント状陰極端部を支持するフィラメントサポートとを備え、前記フィラメント状陰極から発生する電子を前記蛍光体層に入射させることによりその蛍光体層を励起して発光させる駆動用IC内蔵型蛍光表示管において、
前記フィラメント状陰極端部は前記フィラメントサポートの長辺側で蛍光表示管の一方の短辺側に固定されると共に、このフィラメント状陰極のエンドクーリング領域下方に位置する前記フィラメントサポートの表面に凹み部または前記フィラメントサポートにスリットを設けることを特徴とする駆動用IC内蔵型蛍光表示管。
【請求項2】
前記凹み部または前記スリットは、前記複数のフィラメント状陰極のそれぞれに平行に複数個設けられていることを特徴とする請求項1記載の駆動用IC内蔵型蛍光表示管。
【請求項3】
前記フィラメントサポートに固定される前記フィラメント状陰極の一端は、前記フィラメントサポート表面に固定されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の駆動用IC内蔵型蛍光表示管。
【請求項4】
前記フィラメント状陰極の一端が固定されている前記フィラメントサポート端部は、前記陽極基板との間が開口部となっていることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の駆動用IC内蔵型蛍光表示管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−243377(P2011−243377A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113584(P2010−113584)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000117940)ノリタケ伊勢電子株式会社 (38)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】