説明

駆動装置の駆動方法

【課題】駆動装置の構造の制限により電気機械変換素子の伸長時と縮小時とで振動摩擦部に速度の異なる変位が得られない場合においても、移動部を駆動すること。
【解決手段】伸縮方向で互いに対向する第1及び第2の端部を持つ電気機械変換素子と、この電気機械変換素子の第1の端部に結合された静止部材と、電気機械変換素子の第2の端部に取り付けられた振動摩擦部と、この振動摩擦部と摩擦結合される移動部とを備え、電気機械変換素子の伸縮方向に移動部が移動可能な駆動装置を駆動する場合、電気機械変換素子の伸長する速度と縮小する速度とを等しくし、静止時間を電気機械変換素子の縮小後および伸長後のいずれか一方に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は駆動装置に関し、特に、圧電素子等の電気機械変換素子を用いた駆動装置の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、カメラのオートフォーカス用アクチュエータやズーム用アクチュエータとして、圧電素子、電歪素子、磁歪素子等の電気機械変換素子を使用した(駆動装置)リニアアクチュエータが使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、レンズホルダ(被駆動部材、移動部)を移動させるのに、圧電素子の伸縮方向の一端にガイド棒(駆動部材、振動摩擦部)を接着し、ガイド棒にレンズホルダ(移動部)を移動可能に支持させ、ガイド棒とレンズホルダとの間に摩擦力を発生させる板バネとを備えた駆動装置を開示している。特許文献1では、圧電素子に伸びの速度と縮みの速度とを異ならせるように電圧を印加している。
【0004】
また、特許文献2は、圧電素子と、この圧電素子に結合して圧電素子の伸縮方向に延在する駆動軸(耐摩耗性の振動棒、振動摩擦部)と、この駆動軸に摩擦結合した被駆動部材(ズームレンズ鏡筒、移動部)とを備えた駆動装置を開示している。この特許文献2では、圧電素子に印加する駆動信号を工夫して、被駆動部材(ズームレンズ鏡筒、移動部)を駆動している。
【0005】
特許文献3は、構成部材の弾性変形の影響を受けることのない電気機械変換素子を使用した直線駆動機構を開示している。特許文献3において、固定鏡筒に固着された内筒には半径方向に延びた延長部(静止部材)の軸受に光軸に平行に配置された駆動軸(移動部)が移動自在に支持されている。延長部(静止部材)と作用部材(振動摩擦部)との間には圧電素子(電気機械変換素子)が配置され固着結合される。作用部材の上半分は駆動軸に接触し、作用部材の下半分はばねにより付勢されたパッドが装着され、作用部材及びパッドは駆動軸に対し適当な摩擦力で摩擦結合する。圧電素子に速度の異なる伸縮変位を発生させると、作用部材を介して駆動軸が変位し、駆動軸は被駆動部材であるレンズ保持枠と共に繰り出し繰り込みがなされる。
【0006】
また、特許文献4は、可動子を炭素繊維を含む液晶ポリマーで形成することで、金属材料で形成する場合に比べて、低コスト化と軽量化を図れるとともに、移動速度や駆動力を低下させることなく高い曲げ弾性係数の可動子を用いた高性能な駆動装置を開示している。この特許文献6に開示された駆動装置は、電圧が印加されることにより伸縮する圧電素子(電気機械変換素子)と、圧電素子の伸縮方向一端に固定された駆動軸(振動摩擦部)と、駆動軸に摺動可能に摩擦係合する可動子(移動部)と、圧電素子の伸縮方向他端に接着固定されたウェイト(静止部材、錘)とを備える。圧電素子の伸びと縮みの速度または加速度を異ならせて駆動軸を振動させることにより、可動子(移動部)を駆動軸(振動摩擦部)に沿って移動させる。
【0007】
さらに、特許文献5は、構造を簡単にし、且つ駆動回路の簡単なリニア超音波モータを開示している。この特許文献5に開示されたリニア超音波モータは、伸縮運動する圧電素子(電気機械変換素子)の一方の端部を固定ベース(静止部材)に固定し、他方の端部に摩擦部材(振動摩擦部)を装着し、伸縮運動方向に沿う方向に移動可能な移動子(移動部)を摩擦部材に圧接し、圧電素子への印加電圧を、伸縮運動において、往と復との運動速度の大きさが異なるような鋸歯状としている。
【0008】
とにかく、特許文献1乃至5で開示されているように、従来の駆動装置の駆動方法は、図9に示されるように、電気機械変換素子の振動の伸長時と縮小時とで速度を変化させ、振動摩擦部の鋸歯状の変位で移動部を駆動する方法が一般的である。
【0009】
【特許文献1】特許第2633066号公報(図3)
【特許文献2】特許第3218851号公報(図5、図7)
【特許文献3】特開平9−191665号公報(図6)
【特許文献4】特開2006−304529号公報
【特許文献5】特許第3002890号公報(図2、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
振動摩擦部に対して鋸歯変位を得させるためには、電気機械変換素子への印加電圧を鋸歯状にするか、若しくは、電気機械変換素子に矩形波形の電圧を印加して、駆動装置の構造から決定される伝達関数の特性により、振動摩擦部に鋸歯状変位を得る必要がある。そのため、駆動装置の構造と振動摩擦部の鋸歯状変位が得られる周波数には密接な関係がある。
【0011】
しかしながら、従来の駆動装置の駆動方法のような、電気機械変換素子の伸長時と縮小時とによって振動摩擦部の変位速度に差を生じさせる方法では、駆動装置の構造によっては、このような振動摩擦部に対して速度の異なる変位を得らせるのが困難な場合がある。
【0012】
したがって、本発明の課題は、駆動装置の構造の制限により電気機械変換素子の伸長時と縮小時とで振動摩擦部に速度の異なる変位が得られない場合においても、移動部を駆動することが可能な、駆動装置の駆動方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、説明が進むにつれて明らかになるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、伸縮方向で互いに対向する第1及び第2の端部(441a、441b)を持つ電気機械変換素子(441)と、該電気機械変換素子の前記第1の端部に結合された静止部材(442)と、前記電気機械変換素子の前記第2の端部に取り付けられた振動摩擦部(443)と、該振動摩擦部の振動方向に移動可能な状態に前記振動摩擦部と摩擦結合される移動部(423)とを備えた駆動装置(20)における、前記電気機械変換素子の伸縮により前記移動部を駆動する前記駆動装置の駆動方法であって、前記電気機械変換素子(441)の伸長する速度と縮小する速度とを等しくし、静止時間を前記電気機械変換素子の縮小後および伸長後のいずれか一方に設けることによって、前記移動部(423)を前記電気機械変換素子の伸長方向或いは縮小方向のいずれか一方に駆動することを特徴とする駆動装置の駆動方法が得られる。
【0015】
上記本発明による駆動装置の駆動方法において、前記移動部(423)を前記電気機械変換素子(441)の伸長方向に駆動する場合、a)前記電気機械変換素子を一定速度で伸長して前記振動摩擦部(443)を前記一定速度で前記電気変換素子の伸長方向へ変位させる工程と、b)前記電気機械変換速度を前記一定速度で縮小して前記振動摩擦部(443)を前記一定速度で前記電気変換素子の縮小方向へ変位させる工程と、c)前記電気機械変換素子を駆動せずに前記振動摩擦部(443)を一定時間だけ静止させる工程と、を含み、前記工程a)乃至前記工程c)を繰り返す。この場合、前記工程c)から前記工程a)へ遷移するときに働く加速度(A)と前記工程b)から前記工程c)へ遷移するときに働く加速度(C)では前記移動部(423)は前記振動摩擦部(443)に対して実質的に滑らず、前記工程a)から前記工程b)へ遷移するときに働く加速度(−B)では前記移動部(423)は前記振動摩擦部(443)に対して滑るように、前記一定速度の大きさが設定される。
【0016】
また、上記本発明による駆動装置の駆動方法において、前記移動部(423)を前記電気機械変換素子(441)の縮小方向に駆動する場合、a)前記電気機械変換素子を一定速度で縮小して前記振動摩擦部(443)を一定速度で前記電気機械変換素子の縮小方向へ変位させる工程と、b)前記電気機械変換速度を前記一定速度で伸長して前記振動摩擦部(443)を一定速度で前記電気機械変換素子の伸長方向へ変位させる工程と、c)前記電気機械変換素子を駆動せずに前記振動摩擦部(443)を一定時間だけ静止させる工程と、を含み、前記工程a)乃至前記工程c)を繰り返す。この場合、前記工程c)から前記工程a)へ遷移するときに働く加速度(−A)と前記工程b)から前記工程c)へ遷移するときに働く加速度(−C)では前記移動部(423)は前記振動摩擦部(443)に対して実質的に滑らず、前記工程a)から前記工程b)へ遷移するときに働く加速度(B)では前記移動部(423)は前記振動摩擦部(443)に対して滑るように、前記一定速度の大きさが設定される。
【0017】
尚、上記括弧内の参照符号は、理解を容易にするために付したものであり、一例に過ぎず、これらに限定されないのは勿論である。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、電気機械変換素子の伸長する速度と縮小する速度とを等しくし、静止時間を電気機械変換素子の伸長後若しくは縮小後に設けて、移動部を駆動しているので、駆動装置の構造の制限により電気機械変換素子の伸長時と縮小時とで振動摩擦部に速度の異なる変位が得られない場合においても、移動部を駆動することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
図1は本発明の一実施の形態による駆動装置20を示す外観斜視図である。ここでは、図1に示されるように、直交座標系(X,Y,Z)を使用している。図1に図示した状態では、直交座標系(X,Y,Z)において、X軸は前後方向(奥行方向)であり、Y軸は左右方向(幅方向)であり、Z軸は上下方向(高さ方向)である。そして、図1に示す例においては、上下方向Zがレンズの光軸O方向である。
【0021】
図示の駆動装置20は、図示しない筐体内に配置される。筐体は、カップ状の上側カバー(図示せず)と下側ベース(図示せず)とを含む。筐体の下側ベース上に静止部材(錘)442(後述する)が搭載される。上側カバーの上面は、レンズの光軸Oを中心軸とした円筒部(図示せず)を有する。一方、図示はしないが、下側ベースの中央部には、基板に配置された撮像素子が搭載される。この撮像素子は、可動レンズ(後述する)により結像された被写体像を撮像して電気信号に変換する。撮像素子は、例えば、CCD(charge coupled device)型イメージセンサ、CMOS(complementary metal oxide semiconductor)型イメージセンサ等により構成される。
【0022】
図示の駆動装置20は、オートフォーカスレンズ駆動ユニット40から構成されている。
【0023】
筐体内には、左右方向Yの左側に案内軸(図示せず)が設けられている。この案内軸は、レンズの光軸Oと平行に延在している。案内軸は筐体の下側ベースから立設している。このレンズの光軸Oを間に挟んで、案内軸と反対側である左右方向Yの右側には、後で詳述する、棒状の移動部(移動軸)423が設けられている。すなわち、案内軸と移動軸423とは、レンズの光軸Oまわりに回転対称な位置に配置されている。
【0024】
オートフォーカスレンズ駆動ユニット40は、レンズ可動部42とレンズ駆動部44とから構成される。レンズ可動部42は、オートフォーカスレンズAFLを保持するレンズ保持枠421を含む。レンズ保持枠421は、略円筒状の可動鏡筒422の内部に固定されている。可動鏡筒422は、左右方向Yの左側で半径方向外側に延びる一対の延在部4221(但し、図1では上側のみ図示する)を有する。この一対の延在部4221は、上記案内軸が貫通する貫通孔4221aを持つ。また、可動鏡筒422は、左右方向Yの右側で半径方向外側に延びる一対の延在部4222を有する。この一対の延在部4222は、棒状の移動軸423が貫通して嵌合される嵌合孔4222aを持つ。このような構成により、レンズ可動部42は、筐体に対してレンズの光軸O方向にのみ移動可能である。
【0025】
レンズ駆動部44は、レンズ可動部42をレンズの光軸O方向に摺動可能に支持しながら、後述するようにレンズ可動部42を駆動する。
【0026】
図1に加えて図2乃至図4をも参照して、オートフォーカスレンズ駆動ユニット40のレンズ駆動部44について説明する。図2はオートフォーカスレンズ駆動ユニット40のレンズ駆動部44を棒状の移動軸423と共に示す斜視図である。図3はオートフォーカスレンズ駆動ユニット40のレンズ駆動部44を棒状の移動軸423と共に示す平面図である。図4はレンズ駆動部44の主要部を示す斜視図である。
【0027】
レンズ駆動部44は、電気機械変換素子として働く積層圧電素子441と、静止部材(錘)442と、振動摩擦部443とを有する。積層圧電素子441は、レンズの光軸O方向に伸縮する。積層圧電素子441は、レンズの光軸O方向に複数の圧電層を積層した構造を有する。図5に示されるように、積層圧電素子441は、伸縮方向で互いに対向する第1の端部(下端部)441aと第2の端部(上端部)441bとを持つ。静止部材(錘)442は、積層圧電素子441の第1の端部(下端部)441aに接着剤等で結合される。振動摩擦部443は、積層圧電素子441の第2の端部(上端部)441bに接着剤等で取り付けられている。図示の例では、振動摩擦部443は積層圧電素子441の第2の端部441bに直接結合されているが、振動摩擦部443と積層圧電素子441の第2の端部441bとの間に何らかの部材が介在されていてもよい。
【0028】
なお、図5に示されるような、積層圧電素子441と静止部材442との組合せは、圧電ユニットと呼ばれる。
【0029】
棒状の移動軸423は、この振動摩擦部443と摩擦結合される。図3および図4に示されるように、振動摩擦部443には、当該振動摩擦部443と棒状の移動軸423との間の摩擦結合部に断面V字状の溝443aが形成されている。
【0030】
レンズ駆動部44は、棒状の移動軸423を振動摩擦部443に対して押し付ける(付勢する)ためのばね444を備える。すなわち、ばね444は、振動摩擦部443に固定され移動部423を押えるための押付力を発生する付勢手段として働く。ばね444と棒状の移動軸423との間にV字型構造のパッド445が挟み込まれている。パッド445は、移動部423を間に挟んで振動摩擦部443と対向して配置されている。振動摩擦部443と同様に、パッド445も、当該パッド445と棒状の移動軸423との間の接触部に断面V字状の溝445aが形成されている。振動摩擦部443は、ばね444を保持するための溝443bが設けられている。ばね444は、その一端部がこの溝443bで振動摩擦部443に係合され、その他端部が移動部423側に延在している。これにより、振動摩擦部443とパッド445をばね444で棒状の移動軸423に押し付けている。この結果、棒状の移動軸423は振動摩擦部443に安定して摩擦結合される。
【0031】
詳述すると、移動部423とばね444との間にパッド445が挟み込まれている。これは、ばね444の摩擦磨耗による押付力の劣化をなくし、ばね444の摩擦磨耗による摩擦力の変化をなくすためである。尚、パッド444の摩擦磨耗を防ぐため、パッド444の表面は滑らかであることが望ましい。そのためには、パッド444は、硬い金属か樹脂または繊維強化複合樹脂の材料から成ることが望ましい。
【0032】
また、振動摩擦部443において、振動摩擦部443と移動部423との間の摩擦結合部に断面V字状の溝443aを形成している。振動摩擦部443の断面V字状の溝443aによる移動部423との2直線接触により、摩擦結合部の接触状態が安定し、再現性の良い摩擦駆動が得られると共に、移動部423の一軸移動体としての直進移動性を高めるという効果を奏する。尚、この断面V字状の溝443aの角度θは、30度から180度未満の範囲であることが望ましい。
【0033】
更に、パッド445がV字型構造をしている。パッド445の断面V字状の溝445aによる移動部423との2直線接触により、摩擦結合部の接触状態が安定し、移動部423の一軸移動体としての直進移動性を高めるという効果を奏する。尚、この断面V字状の溝445aの角度θは、30度から180度未満の範囲であることが望ましい。
【0034】
また、振動摩擦部443とパッド445をばね444で移動部423に押し付けている。これにより、振動摩擦部443の断面V字状の溝443aとパッド445の断面V字状の溝445aとを、移動部423に押し付けることで、3部品(移動部423、振動摩擦部443、パッド445)の安定した線接触を可能としている。尚、ばね444による押付力は5〜100gfの範囲にあることが望ましい。
【0035】
レンズ駆動部44とレンズ移動部42とは、図1に示されるように、レンズの光軸Oに対して並置されている。したがって、フォーカスレンズ駆動ユニット40を低背化することができる。その結果、駆動装置20も低背化することができる。
【0036】
次に、積層圧電素子441について説明する。積層圧電素子441は直方体の形状をしており、その素子サイズは、0.9[mm]×0.9[mm]×1.5[mm]である。圧電材料としてPZTのような低Qm材を使用している。厚さ20[μm]の圧電材料と厚さ2[μm]の内部電極とを交互に櫛形に50層積層することによって、積層圧電素子441を製造する。そして、積層圧電素子441の有効内部電極サイズは、0.6[mm]×0.6[mm]である。換言すれば、積層圧電素子441の有効内部電極の外側に位置する周辺部には、幅0.15[mm]のリング状の不感帯部分(クリアランス)が存在する。
【0037】
なお、摩擦結合部の高さ(振動摩擦部443の移動部423と接触する摺動方向の長さ)Hを1.15mm以下とすることにより、移動部423の移動速度を速くし、駆動装置20の低背化を図っている。
【0038】
次に、図6を参照して、本発明の一実施の形態に係る駆動方法による、振動摩擦部443の変位波形とそれに伴う移動部423の変位波形について説明する。図6において、(A)は移動部423を+方向(上方向、電気機械変換素子441の伸長方向)へ移動させる場合の振動摩擦部443と移動体423の変位波形を示し、(B)は移動部423を−方向(下方向、電気機械変換素子441の縮小方向)へ移動させる場合の振動摩擦部443と移動部423の変位波形を示す。
【0039】
最初に図6(A)を参照して、移動部423を+方向(上方向、電気機械変換素子441の伸長方向)へ移動させる場合の振動摩擦部443の変位波形とそれに伴う移動部423の変位波形について説明する。
【0040】
図6(A)から明らかなように、a)電気機械変換素子441を一定速度で伸長して振動摩擦部443を一定速度で上方向(電気機械変換素子441の伸長方向)へ変位させる工程と、b)電気機械変換速度441を上記一定速度で縮小して振動摩擦部443を一定速度で下方向(電気機械変換素子441の縮小方向)へ変位させる工程と、c)電気機械変換素子441を駆動せずに振動摩擦部443を一定時間だけ静止させる工程とを繰り返す。
【0041】
この場合、工程a)で電気機械変換素子441の一定速度の伸長により振動摩擦部443が一定速度で上方向(電気機械変換素子441の伸長方向)へ変位するので、移動部423もそれに伴って上方へ変位する。その後、工程b)で電気機械変換素子441を一定速度で縮小するので振動摩擦部443が一定速度で下方向(電気機械変換素子441の縮小方向)へ変位するが、この切り替え時の加速度で振動摩擦部443と移動部423との間に滑りが生じる。その結果、振動摩擦部443が一定速度で下方向へ変位しても、移動部423は直ちには追従できず、遅れて移動部423が僅かに下方へ変位する。その後、工程c)で振動摩擦部443が静止するので、移動部423も静止する。
【0042】
以上の動作を繰り返すことにより、移動部423は徐々に上方向(+方向、電気機械変換素子441の伸長方向)へ移動することになる。
【0043】
次に図6(B)を参照して、移動部423を−方向(下方向、電気機械変換素子441の縮小方向)へ移動させる場合の振動摩擦部443の変位波形とそれに伴う移動部423の変位波形について説明する。
【0044】
図6(B)から明らかなように、a)電気機械変換素子441を一定速度で縮小して振動摩擦部443を一定速度で下方向(電気機械変換素子441の縮小方向)へ変位させる工程と、b)電気機械変換速度441を上記一定速度で伸長して振動摩擦部443を一定速度で上方向(電気機械変換素子441の伸長方向)へ変位させる工程と、c)電気機械変換素子441を駆動せずに振動摩擦部443を一定時間だけ静止させる工程とを繰り返す。
【0045】
この場合、工程a)で電気機械変換素子441の一定速度の縮小により振動摩擦部443が一定速度で下方向(電気機械変換素子441の縮小方向)へ変位するので、移動部423もそれに伴って下方へ変位する。その後、工程b)で電気機械変換素子441を一定速度で伸長するので振動摩擦部443が一定速度で上方向(電気機械変換素子441の伸長方向)へ変位するが、この切り替え時の加速度で振動摩擦部443と移動部423との間に滑りが生じる。その結果、振動摩擦部443が一定速度で上方向へ変位しても、移動部423は直ちには追従できず、遅れて移動部423が僅かに上方へ変位する。その後、工程c)で振動摩擦部443が静止するので、移動部423も静止する。
【0046】
以上の動作を繰り返すことにより、移動部423は徐々に下方向(−方向、電気機械変換素子441の縮小方向)へ移動することになる。
【0047】
尚、電気機械変換素子441の伸長時と縮小時とで振動摩擦部443の変位速度を等しくする回路構成は、比較的簡単に作ることができる。
【0048】
図7に、移動部423を+方向(上方向、電気機械変換素子441の伸長方向)へ移動させるときの振動摩擦部443の変位とその加速度を示す。また、図8は、移動部423の質量をm、振動摩擦部443と移動部423との間の垂直抗力をN、振動摩擦部443と移動部423との間の摩擦係数をμとしたときに、加速度Aで振動摩擦部443を加速する場合のモデル図である。
【0049】
図7に示されるような振動摩擦部443の変位波形から、その加速度を求めるとする。この場合、静止状態S(工程c))より伸長状態S(工程a))に遷移するときに働く加速度Aと、伸長状態S(工程a))より縮小状態Sに(工程b))に遷移するときに働く加速度−Bと、縮小状態S(工程b))から静止状態S(工程a))に遷移するときに働く加速度Cとが発生している。ここで、速度変化が大きい加速度−Bでは、他の加速度AおよびCよりも大きな力が発生することになる。
【0050】
図8に示されるように、移動部423の質量をm、振動摩擦部443と移動部423との間の垂直抗力をN、振動摩擦部443と移動部423との間の摩擦係数をμとする。
【0051】
この状態において、加速度Aで加速する振動摩擦部443から見て、移動部423には−m・Aの慣性力が働く。ここで、振動摩擦部443から移動部423へ働く摩擦力μNが慣性力−m・Aに勝っていれば、振動摩擦部443と移動部423とは一体に加速する。
【0052】
次に、加速度−Bによって変位方向を変える振動摩擦部443から見て、移動部423には慣性力m・Bと摩擦力−μNとが働く。ここで、慣性力m・Bが摩擦力−μNに勝っている場合、振動摩擦部443と移動部423との間に滑りが生じる。
【0053】
最後に、加速度Cによって静止しようとする振動摩擦部443から見て、移動部423には慣性力−m・Cと摩擦力μNとが働く。ここで、摩擦力μNが慣性力−m・Cに勝っている場合、移動部423は振動摩擦部443とともに静止する。
【0054】
以上の一連の動作の中で、振動摩擦部443から見た慣性力が最も大きく働くのは、速度変化が大きい加速度−Bのときである。
【0055】
従って、加速度AおよびCの時に移動部423が振動摩擦部443に対して実質的に滑らない(若しくは滑りの少ない)条件で、且つ加速度−Bの時に滑りが大きく生じる条件で、上記一定速度の大きさを設定すれば、移動部423を上方向(電気機械変換素子441の伸長方向)へ駆動することが可能となる。
【0056】
以上の説明では、移動部423を+方向(上方向、電気機械変換素子441の伸長方向)へ移動させるときの振動摩擦部443の変位とその加速度について述べたが、移動部423を−方向(下方向、電気機械変換素子441の縮小方向)へ移動させるときの振動摩擦部443の変位とその加速度も同様である。
【0057】
この場合、静止状態S(工程c))より縮小状態S(工程a))に遷移するときに働く加速度−Aと、縮小状態S(工程a))より伸長状態S(工程b))に遷移するときに働く加速度Bと、伸長状態S(工程b)から静止状態S(工程c))に遷移するときに働く加速度−Cとが発生する。ここで、速度変化が大きい加速度Bでは、他の加速度−Aおよび−Cよりも大きな力が発生することになる。
【0058】
従って、加速度−Aおよび−Cの時に移動部423が振動摩擦部443に対して実質的に滑らない(若しくは滑りの少ない)条件で、且つ加速度Bの時に滑りが大きく生じる条件で、上記一定速度の大きさを設定すれば、移動部423を下方向(電気機械変換素子441の縮小方向)へ駆動することが可能となる。
【0059】
以上の説明から明らかなように、駆動装置20の構造の制限により、電気機械変換素子(積層圧電素子)441の伸長時と縮小時とで振動摩擦部443に対して速度の異なる変位が得られない場合においても、本発明による駆動装置20の駆動方法によれば、移動部423を駆動することが可能となる。
【0060】
以上、本発明についてその好ましい実施の形態によって説明してきたが、本発明の精神を逸脱しない範囲内で、種々の変形が当業者によって可能であるのは明らかである。例えば、駆動装置の構成は、上述した実施の形態のものに限定されず、例えば、前述した特許文献1乃至5のいずれの構成であっても良いのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施の形態による駆動方法が適用される駆動装置を示す外観斜視図である。
【図2】図1に図示した駆動装置のレンズ駆動部を棒状の移動軸と共に示す斜視図である。
【図3】図2に図示した駆動装置のレンズ駆動部を棒状の移動軸と共に示す平面図である。
【図4】図2に示したレンズ駆動部の主要部を示す斜視図である。
【図5】図2に図示したレンズ駆動部に使用される圧電ユニットを示す斜視図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る駆動装置の駆動方法による、振動摩擦部の変位波形とそれに伴う移動部の変位波形を示す波形図である。
【図7】移動部を+方向(上方向)へ移動させるときの振動摩擦部の変位とその加速度を示す波形図である。
【図8】移動部の質量をm、振動摩擦部と移動部との間の垂直抗力をN、振動摩擦部と移動部との間の摩擦係数をμとしたときに、加速度Aで振動摩擦部を加速する場合のモデル図である。
【図9】従来の駆動装置の駆動方法による、振動摩擦部の変位波形とそれに伴う移動部の変位波形を示す波形図である。
【符号の説明】
【0062】
20 駆動装置
40 オートフォーカスレンズ駆動ユニット
42 レンズ可動部
421 レンズ保持枠
422 可動鏡筒
4221 延在部
4221a 貫通孔
4222 延在部
4222a 嵌合孔
423 棒状の移動部(移動軸)
44 レンズ駆動部
441 積層圧電素子(電気機械変換素子)
441a 第1の端部(下端部)
441b 第2の端部(上端部)
442 静止部材(錘)
443 振動摩擦部
443a 断面V字状の溝
444 ばね
445 V字型構造のパッド
445a 断面V字状の溝
O レンズの光軸
AFL オートフォーカスレンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮方向で互いに対向する第1及び第2の端部を持つ電気機械変換素子と、該電気機械変換素子の前記第1の端部に結合された静止部材と、前記電気機械変換素子の前記第2の端部に取り付けられた振動摩擦部と、該振動摩擦部の振動方向に移動可能な状態に前記振動摩擦部と摩擦結合される移動部とを備えた駆動装置における、前記電気機械変換素子の伸縮により前記移動部を駆動する前記駆動装置の駆動方法であって、
前記電気機械変換素子の伸長する速度と縮小する速度とを等しくし、静止時間を前記電気機械変換素子の縮小後および伸長後のいずれか一方に設けることによって、前記移動部を前記電気機械変換素子の伸長方向或いは縮小方向のいずれか一方に駆動することを特徴とする駆動装置の駆動方法。
【請求項2】
前記移動部を前記電気機械変換素子の伸長方向に駆動する場合、
a)前記電気機械変換素子を一定速度で伸長して前記振動摩擦部を前記一定速度で前記電気変換素子の伸長方向へ変位させる工程と、
b)前記電気機械変換速度を前記一定速度で縮小して前記振動摩擦部を前記一定速度で前記電気変換素子の縮小方向へ変位させる工程と、
c)前記電気機械変換素子を駆動せずに前記振動摩擦部を一定時間だけ静止させる工程と、
を含み、前記工程a)乃至前記工程c)を繰り返すことを特徴とする、請求項1に記載の駆動装置の駆動方法。
【請求項3】
前記工程c)から前記工程a)へ遷移するときに働く加速度と前記工程b)から前記工程c)へ遷移するときに働く加速度では前記移動部は前記振動摩擦部に対して実質的に滑らず、
前記工程a)から前記工程b)へ遷移するときに働く加速度では前記移動部は前記振動摩擦部に対して滑るように、
前記一定速度の大きさが設定されていることを特徴とする請求項2に記載の駆動装置の駆動方法。
【請求項4】
前記移動部を前記電気機械変換素子の縮小方向に駆動する場合、
a)前記電気機械変換素子を一定速度で縮小して前記振動摩擦部を一定速度で前記電気機械変換素子の縮小方向へ変位させる工程と、
b)前記電気機械変換速度を前記一定速度で伸長して前記振動摩擦部を一定速度で前記電気機械変換素子の伸長方向へ変位させる工程と、
c)前記電気機械変換素子を駆動せずに前記振動摩擦部を一定時間だけ静止させる工程と、
を含み、前記工程a)乃至前記工程c)を繰り返すことを特徴とする、請求項1に記載の駆動装置の駆動方法。
【請求項5】
前記工程c)から前記工程a)へ遷移するときに働く加速度と前記工程b)から前記工程c)へ遷移するときに働く加速度では前記移動部は前記振動摩擦部に対して実質的に滑らず、
前記工程a)から前記工程b)へ遷移するときに働く加速度では前記移動部は前記振動摩擦部に対して滑るように、
前記一定速度の大きさが設定されていることを特徴とする請求項4に記載の駆動装置の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−289350(P2008−289350A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−108511(P2008−108511)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000006220)ミツミ電機株式会社 (1,651)
【Fターム(参考)】