説明

骨格筋由来の心筋幹細胞

【課題】 本発明は、心筋細胞に分化して心筋を再生できる幹細胞を単離すること、及び該細胞を利用して根本的な心筋の再生治療を行う技術を提供することを目的とする。
【解決手段】 採取した骨格筋組織を酵素処理することにより細胞懸濁液を調製し、該細胞懸濁液を、(1)密度勾配法による細胞の分離及び(2)CD34及びCD105の少なくとも1種が陽性である細胞の選択を行うことにより、心筋細胞に分化して心筋を再生できる幹細胞を得、これを利用して心筋の再生治療を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨格筋由来の心筋幹細胞、該心筋幹細胞の調製方法、及び該幹細胞を利用した心疾患の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓の機械的障害、心筋不全、調律異常等による心不全に対する治療としては、従来、利尿薬による血流量の減少、強心薬による心筋収縮力の増強や心房粗細動の脈拍の適正化、血管拡張薬による心臓の負荷の軽減等の対症療法が行われている。これに対して、重症心不全に対しては、上記の対症療法では十分な治療効果が得られず、心臓移植による根本療法が必要とされている。しかしながら、心臓移植は、ドナー不足や拒絶反応等の問題があり、救済医療として充分に機能していないのが現状である。そこで、近年、心臓移植にとって替わる根本療法として、心筋細胞に分化し得る前駆細胞又は幹細胞を移植する方法が注目されている。
【0003】
しかしながら、これまで報告されている細胞移植では、本質的に心筋細胞を再生できるものはほとんど無く、虚血心筋の修復に重要な微小循環の血行上の改善効果や、生着したドナー細胞から分泌されるサイトカインによる二次的な心筋保護効果により心機能の改善を図っているのが殆どである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、これまで、骨髄由来の造血細胞や間葉系幹細胞を中心に心筋細胞に分化する幹細胞の検索が行われているが、従来報告されている細胞では、心筋細胞への分化度は極めて低く、臨床的に実用できるものではない。なお、従来、骨格筋組織から心筋細胞に分化する細胞群の分離の成功例については、全く報告されていない。
【0005】
このような従来技術を背景として、心筋細胞の本質的な再生を行うことができる心筋幹細胞を単離し、これを利用して心筋細胞を障害心筋部位に移植することにより、根本的な心筋の再生治療方法を確立することが望まれている。
【特許文献1】国際公開第03/80798号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決することである。詳細には、本発明は、心筋細胞に分化して心筋を再生できる幹細胞を単離すること、及び該細胞を利用して根本的な心筋の再生治療を行う技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、採取した骨格筋組織を酵素処理することにより細胞懸濁液を調製し、該細胞懸濁液を利用して、(1)密度勾配法による細胞の分離、及び(2)CD34及びCD105の少なくとも1種が陽性である細胞の選択を行うことにより、心筋細胞に分化して心筋を再生できる幹細胞が得られることを見出した。更に、得られた幹細胞を繊維芽細胞成長因子及び上皮細胞増殖因子を含有する培地で培養し増殖させた後、デキサメサゾンを含有する培地で培養することによって、該細胞が心筋細胞に分化することを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることによって完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる発明である:
項1. 心筋細胞に分化する能力を有する、ほ乳動物の骨格筋組織由来の幹細胞。
項2. CD34陽性である、項1に記載の幹細胞。
項3. CD105陽性である、項1又は2に記載の幹細胞。
項4. ほ乳動物がヒトである、項1乃至3のいずれかに記載の幹細胞。
項5. 下記工程を経て調製される、項1に記載の幹細胞。
(i)ほ乳動物から骨格筋組織を採取し、得られた骨格筋組織を酵素処理することにより細胞懸濁液を調製する工程、
(ii)密度勾配法により、上記細胞懸濁液から骨格筋組織由来細胞群を分離する工程、及び
(iii)得られた骨格筋組織由来細胞群から、CD34及びCD105の少なくとも1種が陽性である細胞を選択し、分離する工程。
項6. 下記工程を含有する、項1乃至5のいずれかに記載の幹細胞を調製する方法:
(i)骨格筋組織を採取し、得られた骨格筋組織を酵素処理することにより細胞懸濁液を調製する工程、
(ii)密度勾配法により、上記細胞懸濁液から骨格筋組織由来細胞群を分離する工程、及び
(iii)得られた骨格筋組織由来細胞群から、CD34及びCD105の少なくとも1種が陽性である細胞を選択し、分離する工程。
項7. 項1乃至5のいずれかに記載の幹細胞、又は該幹細胞から分化させた心筋細胞を、心疾患を有する患者の心臓に移植することを特徴とする、心疾患の治療方法。
項8. 下記工程を含有する、項7に記載の心疾患の治療方法:
(i)心疾患を有する患者から骨格筋組織を採取し、得られた骨格筋組織を酵素処理することにより細胞懸濁液を調製する工程、
(ii)密度勾配法により、上記細胞懸濁液から骨格筋組織由来細胞群を分離する工程、
(iii)得られた骨格筋組織由来細胞群から、CD34及びCD105の少なくとも1種が陽性である細胞を選択し、分離する工程、
(iv)上記工程(iii)で分離した細胞を、繊維芽細胞成長因子及び上皮細胞増殖因子を含有する培地で培養することにより、該細胞を増殖させる工程、及び
(v)上記工程(iv)で増殖させた細胞を、上記患者の心臓に移植する工程。
項9. 下記工程を含有する、項7に記載の心疾患の治療方法:
(i)心疾患を有する患者から骨格筋組織を採取し、得られた骨格筋組織を酵素処理することにより細胞懸濁液を調製する工程、
(ii)密度勾配法により、上記細胞懸濁液から骨格筋組織由来細胞群を分離する工程、
(iii)得られた骨格筋組織由来細胞群から、CD34及びCD105の少なくとも1種が陽性である細胞を選択し、分離する工程、
(iv)上記工程(iii)で分離した細胞を、繊維芽細胞成長因子及び上皮細胞増殖因子を含有する培地で培養することにより、該細胞を増殖させる工程、
(v)上記工程(iv)で増殖させた細胞を、デキサメサゾンを含有する培地で培養して、心筋細胞に分化誘導させる工程、及び
(vi)分化した心筋細胞を上記患者の心臓に移植する工程。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の幹細胞は、ほ乳動物の骨格筋組織に由来するものであり、心筋細胞に分化する能力を有している。
【0011】
本発明の幹細胞の由来であるほ乳動物については、特に制限されず、例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ヤギ、サル、ヒト等が挙げられる。本発明の幹細胞をヒトの心疾患の治療に使用する場合には、ヒト由来であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の幹細胞は、ほ乳動物の骨格筋組織に由来するものであれば、その骨格筋組織は如何なる身体部位に由来するものであってもよく、例えば、脚部、腕部、肩部、首部、背部、臀部、顔面/頭部、胸腹部等の骨格筋組織が例示される
本発明の幹細胞は、細胞表面抗原の特性として、CD34陽性及びCD105陽性よりなる群から選択される少なくとも1種が陽性を示す。本発明の幹細胞は、CD34及びCD105のいずれか一方が陽性であればよいが、CD34及びCD105の双方が陽性であってもよい。通常、CD34陽性を示す本発明の幹細胞は、高い割合でCD105陽性を示す。例えば、本発明の幹細胞がヒト由来の場合、CD34陽性細胞の内約90%がCD105陽性を示し、また、マウス由来の場合、CD34陽性細胞の内70〜80%がCD105陽性を示す。本発明の幹細胞がヒト由来の場合であれば、CD105陽性細胞であることが好ましい。
【0013】
本発明の幹細胞は、増殖能と共に、心筋細胞に分化する能力、特に自己拍動する心筋細胞に分化できる能力を有しているので、心筋幹細胞として機能することができる。
【0014】
以下、A.本発明の幹細胞の調製方法、B.心筋細胞への分化誘導方法及びC.心疾患の治療方法について、詳細に説明する。
A.本発明の幹細胞の調製方法
1.細胞懸濁液の調製
まず、ほ乳動物から骨格筋組織を採取し、得られた骨格筋組織を酵素処理することにより細胞懸濁液を調製する(工程(i))。
【0015】
ここで、ほ乳動物からの骨格筋組織の採取は、通常の外科的手法により骨格筋組織を摘出することにより行われる。また、摘出された骨格筋細胞は、酵素処理に先立って、骨格筋組織以外の組織(例えば、血管、神経、腱、靱帯、骨組織等)を極力取り除いておくことが望ましい。また、酵素処理の効率を高めるために、採取された骨格筋組織は、約1mm以下の断片になるまで細切した後に酵素処理に供することが望ましい。
【0016】
上記の骨格筋組織は、適切な緩衝液中で酵素処理に供されることにより、細胞懸濁液が調製される。ここで、使用される緩衝液としては、細胞及び酵素に悪影響を及ぼさない限り特に制限されないが、例えば1容量%のペニシリン−ストレプトマイシン及び0.0584重量%のl−グルタミンを含有するHanks’ Balanced Salt Solution(GIBCO社製)が挙げられる。
【0017】
また、酵素処理は、生体組織片から細胞懸濁液を調製する際に一般的に使用される酵素を使用して行われる。具体的には、コラーゲナーゼ、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン等のプロテアーゼが例示される。これらの中で、好ましくはコラーゲナーゼが挙げられる。かかるコラーゲナーゼとして、具体的には、collagenase type 2(Worthington社製;205U/mg)が例示される。なお、本明細書において、コラーゲナーゼ1Uとは、pH7.5、37℃、5時間で、コラーゲンから1μモルのL−ロイシンを遊離できる酵素量を表す。
【0018】
また、酵素処理条件についても、特に制限されないが、一例として、下記酵素処理条件が例示される:
酵素濃度:例えば、collagenase type 2(Worthington社製;205U/mg)を使用する場合であれば、通常0.2〜0.6重量%、好ましくは0.4重量%程度;或いは骨格筋組織2g当たり、通常3075〜9225U、好ましくは6150U程度となる濃度が挙げられる。
処理温度:通常37℃程度となる温度が挙げられる。
処理時間:通常30〜60分、好ましくは45分程度となる時間が挙げられる。
【0019】
斯くして得られた細胞懸濁液は、酵素処理後に、遠心分離して上清を除去し、細胞の生育に適した培地を添加しておくことが望ましい。細胞の生育に適した培地としては、例えば10容量%び牛胎児血清(FBS)及び1容量%のペニシリン−ストレプトマイシン(5000U/ml penicillin及び5000μg/ml streptomycin sulfateの混合物)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)培地が例示される。
【0020】
2.骨格筋組織由来細胞群の分離
次いで上記細胞懸濁液から、密度勾配法により骨格筋組織由来細胞群を分離する(工程(ii))。
【0021】
本工程において、骨格筋組織由来細胞群の分離は、細胞の分離に通常採用されている密度勾配法により実施することができる。骨格筋組織由来細胞群の分離の好ましい実施態様の一例として、パーコール(percoll)の密度勾配遠心法により骨格筋組織由来細胞群を分離する方法が例示される。パーコールの密度勾配遠心法は、シリカゲルの一種であるパーコールを用いて遠心分離する公知の方法であり、パーコールを層状に用いているため、遠心力により細胞を破壊することなく分離することができる。
【0022】
パーコールの密度勾配遠心法により上記細胞懸濁液から骨格筋組織由来細胞群を分離するには、例えば、上記細胞懸濁液を、容量比で40%及び70%のパーコール溶液からなる不連続密度勾配にて、室温で1000Gで20分間遠心分画すればよく、これによって40%パーコール溶液と70%パーコール溶液の界面に、目的とする骨格筋組織由来細胞群が得られる。
【0023】
3.CD34及び/又はCD105陽性細胞の分離
次いで、上記で得られた骨格筋組織由来細胞群から、CD34及びCD105の少なくとも1種が陽性である細胞を選択し、分離する(工程(iii))。
【0024】
CD34及びCD105の少なくとも1種が陽性の細胞を選択し分離するには、CD34又はCD105を認識する抗体を使用して、公知の方法で実施できる。例えば、蛍光色素やビオチン等のマーカーと結合させたCD34又はCD105を認識する抗体を利用して、ソーテイング機能を備えるフローサイトメーターにより、CD34陽性又はCD105陽性の細胞を選択分離する方法が挙げられる。また、例えば、磁気ビーズと結合させたCD34又はCD105を認識する抗体を利用することにより、CD34又はCD105が陽性の細胞を選択分離することもできる。好適な方法としては、ソーテイング機能を備えるフローサイトメーターを用いる方法が挙げられる。
【0025】
斯くして、CD34及びCD105の少なくとも1種が陽性の細胞を選択し分離することにより、増殖能と共に、心筋細胞に分化する能力を有する幹細胞(骨格筋由来心筋幹細胞)を得ることができる。
【0026】
本工程において、CD34及びCD105の双方が陽性である細胞を選択すると、より均一な分化形態を示す幹細胞を得ることができる。
【0027】
B.心筋細胞への分化誘導
4.心筋幹細胞の増殖
上記幹細胞を、上皮細胞増殖因子(EGF;epidermal growth factor)及び繊維芽細胞成長因子(FGF;fibroblast growth factor)を含有する培地で培養することにより、上記幹細胞を増殖させることができる(工程(iv))。
【0028】
本工程で使用される培地に添加される上皮細胞増殖因子及び繊維芽細胞成長因子の割合については、例えば、上皮細胞増殖因子が20ng/ml程度であり、繊維芽細胞成長因子が10ng/ml程度である割合が例示される。
【0029】
また、本工程で使用される培地には、通常の細胞培養に使用される培地に、上皮細胞増殖因子及び繊維芽細胞成長因子が添加されていればよい。該培地の好適なものとして、例えば、ヒト血清又は牛血清アルブミンを含むDMEM/F12HAM培地に、上記上皮細胞増殖因子及び繊維芽細胞成長因子が添加されてる培地が例示される。また、本工程で使用される培地は、必要に応じて、白血球抑制因子(LIF;leukemia inhibitory factor、10ng/ml);ストレプトマイシン、カナマイシン、ペニシリン等の抗生物質;HEPES(5mM)等を含有していてもよい。
【0030】
上記培地を用いて、通常37℃で、5%CO下で、通常5〜10日間、好ましくは7日間、上記幹細胞(CD34及びCD105の少なくとも1種が陽性の細胞)を培養することにより、上記幹細胞の増殖が認められる。
【0031】
5.心筋幹細胞の心筋細胞への分化誘導
増殖させた上記幹細胞を、デキサメサゾンを含有する培地で培養することにより、心筋細胞に分化誘導させる(工程(v))。
【0032】
本工程では、上記幹細胞の増殖に使用した培地を除去した後に、デキサメサゾンを含有する培地を添加して上記幹細胞を培養することにより、上記幹細胞を一定の割合で心筋細胞に分化誘導させることができる。
【0033】
本工程において、培地に添加されるデキサメサゾンの割合については、心筋細胞への分化誘導が可能である限り特に制限されないが、通常、培地中にデキサメサゾンが1×10-8モル/l程度の割合で含まれていればよい。
【0034】
本工程において、使用される培地の種類については特に制限されないが、好適な培地としてMEM培地(minimum essential medium、GIBCO社製)に、デキサメサゾンが添加されている培地が例示される。また、心筋幹細胞の増殖に使用する培地と同様に、本工程で使用される培地は、必要に応じて、ストレプトマイシン、カナマイシン、ペニシリン等の抗生物質;HEPES(5mM)等を含有していてもよい。
【0035】
上記培地を用いて、通常37℃で、5%CO下で、通常7〜21日間、好ましくは14〜21日間、上記幹細胞を培養することにより、一定の割合で上記幹細胞を心筋細胞に分化誘導することができる。
【0036】
C.心疾患の治療方法
上記心筋幹細胞(CD34及びCD105の少なくとも1種が陽性の細胞)又は該幹細胞から分化させた心筋細胞を、心疾患を有する患者の心臓に移植することにより、心疾患を治療することができる。
【0037】
対象となる心臓疾患は、心筋若しくは冠動脈に障害を来し、収縮力が低下するような心臓疾患であり、具体的には、心筋梗塞、拡張型心筋症、虚血性心疾患、うっ血性心不全等が挙げられる。
【0038】
心筋幹細胞を移植する方法として、例えば、治療目的の心臓部位にカテーテルを利用して上記心筋幹細胞を注入する方法、或いは開胸して直接心筋内に上記心筋幹細胞を注入する方法等が挙げられる。
【0039】
また、上記心筋幹細胞から分化させた心筋細胞を移植する方法としては、例えば、シート状の生体吸収材料に心筋細胞を担持させて、これを心筋障害部位に貼付する方法を例示することができる。
【0040】
本発明の治療方法では、拒絶反応を抑制する観点から、心疾患を有する患者自身の骨格筋組織由来の心筋幹細胞、又は該幹細胞から分化させた心筋細胞を移植することが望ましい。
【発明の効果】
【0041】
本発明は、骨格筋組織に由来し、心筋細胞に分化して心筋を再生できる幹細胞を提供する。故に、本発明の幹細胞によれば、心筋幹細胞又は心筋細胞の移植という新たな心臓疾患の治療方法が可能になる。特に、本発明の幹細胞によれば、簡便且つ大量に心筋細胞を調製できるので、心臓移植に頼らざるを得ない重症心不全患者に細胞移植による新たな治療方法を提供でき、心臓移植に替わる心臓疾患の治療方法として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下に、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
実施例1 マウス由来心筋幹細胞の取得及び該幹細胞の心筋細胞への分化誘導
(1)細胞懸濁液の調製
6〜8週齢の雌C57Bl/6Jマウス(清水実験材料株式会社製)をジエチルエーテル麻酔下に用手的に頸椎脱臼にて安楽死させ、70容量%エチルアルコール水溶液に浸して全身を消毒した。前もって高圧蒸気滅菌を施した尖鋭のピンセット及びはさみを用い、腰部以下両下肢の皮膚を剥離した。極力出血による血球成分の混入を避けるため、鼠径部に露出する大腿動脈を把持鉗子にて結紮後、可視範囲内で結紮部以下の動脈を剥離した。その他の血管、神経、腱、靱帯、骨組織が混入しないよう注意深く筋肉のみを切離し、切離した筋組織は、0.0584重量%l−グルタミン (ICN Biomedicals社製)及び1容量%ペニシリン−ストレプトマイシン(GIBCO社製)を含有するHanks’ Balanced Salt Solution(GIBCO社製)(以下、緩衝液1と記す)内で血液成分が十分除去されるまですすいだ後、新鮮な緩衝液1内に保存した。さらに先鋭のピンセットにて緩衝液1内の組織を破砕しながら、筋肉以外の組織を極力除去していく。滅菌済みのはさみを用いて破砕した筋肉断片を泥砂状になるまで、約1mm3以下の断片にまで細切した。緩衝液1と共に筋肉断片を容量50mlの円錐状チューブに回収し、一旦遠心して上清を除去した。次いで、予め37℃に保温しておいた0.4% collagenase type2 (Worthington社製)を筋組織約4gに対して15ml 加え、37℃恒温漕内で45分間震盪して酵素処理を行った。酵素処理後、緩衝液1を1チューブ当たり20ml加え、よく撹拌後、遠心し上清を除去する。1チューブ当たり、10mlの10容量%FBS(牛胎仔血清)(Hyclone社製)及び1容量%ペニシリン−ストレプトマイシンを含有するDMEM(GIBCO社製)培地を加え、細胞含有液を調製した後、40μm cell strainer(FALCON社製)で濾過した。その後、濾過後細胞含有液を遠心し上清を除去し、1チューブ当たり緩衝液1を3ml加え、よく縣濁した。斯くして、細胞懸濁液を製した。
【0043】
(2)パーコールの密度勾配遠心法による骨格筋組織由来細胞群の分離
パーコール(percoll)原液(Amersham Biosciences社製):10×PBS(-)(GIBCO社製) = 9:1(容量比)の溶液をパーコールストックとした。パーコールストックを1×PBS(-)(GIBCO社製)で希釈し、パーコールストックに対して容量比40%、70%の溶液を作成した。40%パーコール溶液にはフェノールレッド(SIGMA社製)を0.1容量%加えて着色した。容量15mlの円錐状チューブに、まず40%パーコール溶液を3ml注ぎ、続いて電動ピペッターを用いて40%パーコール溶液の下層に70% パーコール溶液を慎重に加えた。続いて上記細胞縣濁液3mlを40%パーコール溶液の上層に慎重に重層した。室温、1000G 20分で、加速減速を極力遅くして遠心分画した。遠心後目的の細胞集団は40%-70% percoll溶液の界面に分布していることが確認された。また、一番底には血球成分が分布しており、40%パーコールの上層には主に細胞破砕物が分布していることが確認された。ピペットにてまず細胞破砕物を除去した後、別のピペットで界面に存在する目的の細胞集団を容量50mlの円錐状チューブに回収した。円錐状チューブに緩衝液1を20ml加え、十分に撹拌した後、遠心して上清を除去した。沈殿を適量のMACS buffer[1×PBS(-)(GIBCO社製)、0.5容量% 牛血清アルブミン(SIGMA社製)含有]を用いて十分に縣濁し、細胞数を血球計算盤でカウントした。
【0044】
斯くして分離された骨格筋組織由来細胞群について、FACS解析を行い、CD34陽性分画(骨格筋組織由来細胞群中の20〜30%に相当する量の細胞)をソーティングした。ソーティングした細胞を、mouse expansion medium[DMEM/F12Ham (GIBCO社製)、20容量%FBS、1容量% penicillin-streptomycin、10ng/ml mouse LIF (CHEMICON社製)、10ng/ml recombinant human basic FGF(Promega社製)、及び20ng/ml mouse EGF (SIGMA社製)含有]を用いて、フィブロネクチン被覆細胞培養ディッシュ(fibronectin-coat cell culture dish)(Becton Dickinson社製)上で、37℃、5%CO下で5日間培養した。培養後の骨格筋組織由来細胞の各種細胞表面抗原(Sca-1、CD34、CD105、CD90、CD45)について分析した。この結果、当該骨格筋組織由来細胞群は、約80%がSca-1陽性であり、その内の約60%がCD34陽性であることが確認された(図1のA図参照)。また、当該骨格筋組織由来細胞群の約60%以上がCD105が陽性であり(図1のB図参照)、当該骨格筋組織由来細胞群の約90%がCD90陽性である(図1のC図参照)ことが分かった。更に、当該骨格筋組織由来細胞群の内、CD34陽性細胞及びCD105陽性細胞はCD45が陰性であり(図1のD及びE図参照)、これらの細胞が骨髄や末梢血由来でないことが確認された。
【0045】
(3)CD34陽性細胞の分離
上記(2)で得られた骨格筋組織由来細胞群の懸濁液を5〜10×105 cellの範囲内で容量5mlの丸底チューブに等量に分配し、そのうちの1本をコントロール、他のものをソーティング用チューブとした。一旦遠心して上清を除去後、100μlのMACS buffer を各tube に加えてよく懸濁し、コントロールのチューブにはビオチン化ラットIgG2a κ isotype control(Pharmingen社製)を、それ以外のチューブにはビオチン標識抗マウスCD34 (Pharmingen社製)抗体をそれぞれ1μlづつ加えてよく撹拌し、氷上で15分間静置した。その後1mlのMACS buffer を各tubeに加えて十分に撹拌後、遠心して上清を除去し、再度100μlのMACS buffer を各tube に加えてよく懸濁した。各チューブにstreptavidin-PEを1μlづつ加えてよく撹拌し、氷上で10分間静置した。次いで、同様に1mlのMACS bufferを各チューブに加えて十分に撹拌後、遠心して上清を除去する。各tube内の沈殿を500μlのMACS bufferに懸濁して、40μm cell strainerに通した濾液をセルソーター(FACSAria cell sorter、Becton Dickinson社製)にアプライした。なお、セルソーターの使用の詳細は製造社発行のマニュアルに従った。斯くして、CD34陽性細胞を得、骨格筋組織由来の心筋幹細胞を取得した。
【0046】
ソーティングしたCD34陽性細胞(心筋幹細胞)はmouse expansion medium [DMEM/F12Ham (GIBCO社製)、20容量%FBS、1容量% penicillin-streptomycin、10ng/ml mouse LIF (CHEMICON社製)、10ng/ml recombinant human basic FGF (Promega社製)、及び20ng/ml mouse EGF(SIGMA社製)含有]を用いて、フィブロネクチン被覆細胞培養ディッシュ(fibronectin-coat cell culture dish)(Becton Dickinson社製)上で、37℃、5%CO下で7日間培養し、CD34陽性細胞(心筋幹細胞)を増殖させた。
【0047】
(4)心筋細胞への分化の確認
上記(3)で増殖させたCD34陽性細胞を遠心分離により回収し、該細胞を1×10-8モル/lのデキサメサゾン及び1容量%のpenicillin-streptomycinを含有するMEM培地(GIBCO社製)で、37℃、5%CO下で21日間培養した。かかる培養により、上記CD34陽性細胞が心筋細胞に分化することが確認された。なお、心筋細胞への分化は、下記の分析結果に基づいて確認された。
<顕微鏡による分析>
培養21日後の細胞について顕微鏡観察したところ、シート状に分化した多核(3〜5個)形成した拍動性骨格筋細胞の存在と共に(図2のA図参照)、細胞内の核が1又は2個の拍動性心筋細胞の存在(図2のC図参照)が確認された。更に、培養後の細胞をアクチン染色することにより骨格筋細胞の存在(図2のB図参照)が確認され、また心筋特異的トロポニン−Iで染色することにより心筋細胞の存在(図2のD図参照)が明らかとなった。
【0048】
<RT-PCRによる分析>
RT-PCRにより、分化誘導開始時、分化誘導開始7日後、及び分化誘導開始21日後において、培養細胞の各種マーカー(心筋特異的トロポニン−I(cTnI)、α-MHC(α-myosin heavy chain)、Flt-1、α-cardiac actin、Oct-4、β-actin)の発現を分析した。得られた結果を図3に示す。この結果、心筋細胞のマーカーであるcTnI、α-MHC及びα-cardiac actinの発現が経時的に増強していることが確認された。血管内皮マーカーであるFlt-1においても、経時的な増強が特に強く認められた。一方、未分化幹細胞が発現するOct-4は、分化誘導開始時には認められたものの、分化誘導時間の経過と共に発現が低下することが確認された。また、内部コントロールとして使用したマーカーであるβ-actinについては、いずれのバンドも同程度であり、いずれのサンプルにおいても同程度の量のcDNAを分析に供していることが確認できる。
【0049】
<リアルタイムRT-PCRによる分析>
培養開始時及び培養21日後の細胞について、各種マーカー(GATA4、Nkx-2.5、α-MHC、β-MHC、cTnI)の発現を、リアルタイムRT-PCRにより分析した。また、比較として、デキサメサゾンの代わりに3μMの脱メチル化剤(5-azacytidine)を含む培地を用いること以外は同じ条件で、上記(2)で増殖させたCD34陽性細胞を培養した場合についても、上記と同様に各種マーカーの発現を分析した。得られた結果を図4に示す。図4から分かるように、5-azacytidine又はデキサメサゾンの存在下で培養することによって、心筋細胞のマーカーであるNkx-2.5、α-MHC及びcTnIが発現されており、上記CD34陽性細胞が心筋細胞に分化したことが確認された。マウスに関しては、5-azacytidineに対する反応の方が、デキサメサゾンに対する反応よりも良好であった。
【0050】
(5)各工程における細胞の形態の観察
上記(1)において酵素処理した後の細胞を、15容量%のKSR(Knock Out Serum Replacement)(GIBCO社製)を含有するGMEM(GIBCO社製)で、37℃、5%CO下で、1週間培養した。培養後の細胞を顕微鏡観察したところ、クラスターを形成してコロニー様増殖した細胞が認められた(図5のA図参照)。
【0051】
上記(2)において得られたCD34陽性細胞を単一細胞にして、これをcomplete methylcellulose medium(Methocult GF, M3534, Stem Cell Technologies社製)を用いて、37℃、5%CO下で7日間培養したところ、クローンの形成が確認された(図5のB図参照)。
【0052】
緑色蛍光色素タンパク(GFP)を発現するマウス(Jackson Laboratoryより購入)から分離した骨格筋由来細胞を、培地[DMEM/F12(GIBCO社製)、B-27 Supplement(50×)、20ng/ml マウスEGF(SIGMA社製)、40ng/ml recombinant human FGF(Promega社製)含有]にて3日間培養したところ、3〜5個の幹細胞からなるクローンが確認された(図5のC及びD図参照)。また、同様の方法で、マウスの骨格筋由来細胞を7及び16日間培養し、観察された細胞のクローンを図5のE及びF図に示す。
【0053】
実施例2 マウス由来心筋幹細胞の移植
上記実施例1で得られたCD34陽性細胞(心筋幹細胞)を、mouse expansion medium (DMEM/F12Ham(GIBCO製)、20容量%FBS、1容量% penicillin-streptomycin、10ng/ml mouse LIF (CHEMICON製) 、10ng/ml recombinant human basic FGF (Promega)、及び20ng/ml mouse EGF (SIGMA)含有)で培養して増殖させた。次いで、増殖させたCD34陽性細胞(約1×106cells)を、15μlのPBS(-)(GIBCO社製)に懸濁し、これを、BD Ultra Fine IIランセット(Becton Dickinson社製)を用いて、10〜12週齢の雌C57Bl/6Jマウス(清水実験材料株式会社製)に作成した梗塞心筋に移植した。心筋幹細胞の移植21日後に、マウスから心臓を摘出した。摘出した心臓の心筋について、緑色蛍光(GFP)発色するCD34陽性細胞のホスト心筋における生着を確認した(図6のA図参照)。また、図6のA図と同一視野において、cTnI染色(赤色として認識される)を行った(図6のB図参照)。図6のA及びB図を重ね合わせると、CD34陽性細胞の存在(緑色)と、cTnI発現の存在(赤色)が重なっており(図6のC図参照)、移植した骨格筋由来のCD34陽性細胞が心筋細胞に分化していることが確認された。
【0054】
実施例3 ヒト由来心筋幹細胞の取得及び該幹細胞の心筋細胞への分化誘導
閉塞性動脈硬化症又は糖尿病性壊疽で下腿切断した患者(50〜85歳、男2人、女1人、性別不明3人)、及び骨肉腫又は軟部組織腫瘍で下肢又は上肢の広範囲切除術した患者(19〜77歳、男2人、女5人、性別不明1人)を被験者とした。当該被験者から採取した骨格筋組織を用いて、上記実施例1に記載の「(1)細胞懸濁液の調製」及び「(2)パーコールの密度勾配遠心法による骨格筋組織由来細胞群の分離」の方法に従って、ヒト骨格筋由来細胞を取得し、増殖させた。得られたヒト骨格筋由来細胞が、クローンを形成している状態の顕微鏡写真を図7のA図に示す。
【0055】
骨格筋組織をコラーゲナーゼ処理して得られた細胞群についてFACS解析を行い、細胞表面抗原(CD56)について分析したところ、CD34陽性細胞は、骨格筋芽細胞を認識するCD56を発現していないことが確認された(図7のB図参照)。また、FACS解析の結果、当該CD34陽性細胞は、CD45は陰性であり、骨髄や末梢血が混入していないことが確認された(図7のC図参照)。また、得られたヒト骨格筋由来細胞を7日間培養することにより増殖させ、得られた細胞のCD105の発現についてFACS解析を行った結果、ヒト骨格筋由来細胞は、殆どCD105陽性細胞として認識されることが確認された(図7のD図参照)。
【0056】
次いで、増殖させたヒト骨格筋由来CD105陽性細胞を、上記実施例1に記載の「(4)心筋細胞への分化の確認」の方法に従って、心筋細胞への分化誘導を行った。これによって、ヒト骨格筋由来のCD105陽性細胞が、心筋細胞に分化することが確認された。なお、心筋細胞への分化は、下記の分析結果に基づいて確認された。
【0057】
<顕微鏡による分析>
ヒト骨格筋由来CD105陽性細胞を分化誘導のための培養を1週間行った後、細胞について顕微鏡観察したところ、筋チューブが一面に認められた(図8のA図参照)。更に、培養後の細胞をアクチン染色することにより骨格筋細胞の存在が確認され、全て多核細胞であり、典型的な骨格筋細胞の特徴を示していた(図8のB図参照)。また、観察された細胞の中には、核が1又は2個の細胞が混在しており、心筋細胞であることが類推された(図8のC図参照)。更に、培養後の細胞を心筋特異的トロポニン−Iで染色することにより心筋細胞の存在(図8のD図参照)が明らかとなった。
【0058】
<リアルタイムRT-PCRによる分析>
分化誘導開始時及び分化誘導開始21日後の細胞について、各種マーカー(GATA4、Nkx-2.5、α-MHC、β-MHC、cTnI)の発現を、リアルタイムRT-PCRにより分析した。また、得られた結果を図9に示す。図9から分かるように、デキサメサゾンの存在下で培養することによって、上記各種マーカーが発現されており、上記ヒト骨格筋由来CD105陽性細胞が心筋細胞に分化したことが確認された。
【0059】
実施例4 ヒト由来心筋幹細胞の移植
上記実施例3で得られたヒト骨格筋由来CD105陽性細胞(心筋幹細胞)を、human expansion medium[DMEM/F12Ham(GIBCO社製)、20容量%FBS、1容量% penicillin-streptomycin、10ng/ml human LIF(SIGMA社製)、10ng/ml recombinant human basic FGF(Promega社製)、及び20ng/ml human EGF(SIGMA社製)含有]で培養して増殖させた。次いで、増殖させたヒト骨格筋由来CD105陽性細胞(約1×106cells)を、上記実施例2と同様の方法でマウス梗塞心筋に移植した。心筋幹細胞の移植21日後に、マウスから心臓を摘出した。摘出した心臓の心筋について、細胞内の核をDAPI(4'6-diamino-2-pheny1indo1e)を用いて青色に染色し、更にヒト由来の心筋細胞をヒト心筋特異的トポロニン−Iを用いて赤色に染色した。この結果、菲薄化した梗塞巣内に移植したヒト骨格筋由来細胞が遊走し生着しており、主に心内膜側に新たな心筋細胞が再生されていることが確認された(図10参照)。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】パーコールの密度勾配遠心法により分離し、表面抗原CD34でソーティングしたマウス由来の骨格筋組織由来細胞群の各種細胞表面抗原特性を示す図である。A図は、Sca-1及びCD34について検出した結果を示す。B図は、Sca-1及びCD105について検出した結果を示す。C図は、CD90について検出した結果を示す。D図は、CD34及びCD45について検出した結果を示す。E図は、CD105及びCD45について検出した結果を示す。
【図2】CD34陽性細胞をデキサメサゾン含有培地で培養し、得られた細胞について顕微鏡観察した結果を示す図である。A図は、シート状に分化した多核(3〜5個)形成した拍動性骨格筋細胞を示す。B図は、アクチン染色により認められた骨格筋細胞を示す。C図は、細胞内の核が1又は2個の拍動性心筋細胞を示す。D図は、心筋特異的トロポニン−1染色により認められた心筋細胞を示す。
【図3】CD34陽性細胞をデキサメサゾン含有培地で培養した細胞について、分化誘導開始時、分化誘導開始7日後、及び分化誘導開始21日後において、培養細胞の各種マーカー(心筋特異的トロポニン−I(cTnI)、α-MHC(α-myosin heavy chain)、Flt-1、α-cardiac actin、Oct-4、β-actin)の発現をRT-PCRにより分析した結果を示す図である。
【図4】CD34陽性細胞をデキサメサゾン含有培地で培養した細胞について、分化誘導開始時及び分化誘導開始21日後において、各種マーカー[GATA4(A図)、Nkx-2.5(B図)、α-MHC(C図)、β-MHC(D図)、cTnI(E図)]の発現を、リアルタイムRT-PCRにより分析した結果を示す図である。図4中、縦軸の数値はGAPDHで補正した値を表す。
【図5】各種処理に供されたマウスの骨格筋由来細胞を培養し、観察された細胞の形態を示す図である。A図は、マウスから切離した筋組織をコラーゲナーゼ処理して得られた細胞を培養することによって、コロニー様増殖形態を示した細胞の顕微鏡写真である。B図は、マウスの骨格筋由来のCD34陽性細胞を単一細胞にして培養することによって、クローンを形成した細胞の顕微鏡写真である。C図は、緑色蛍光色素を発現するマウスの骨格筋由来細胞を3日間培養することによって、観察された3〜5個の幹細胞からなるクローンの顕微鏡写真である。D図は、上記C図において緑色発光をしている所見を示す顕微鏡写真である。E図は、緑色蛍光色素を発現するマウスの骨格筋由来細胞を7日間培養することによって観察されたクローンの顕微鏡写真であり、F図は該細胞を16日間培養することによって観察された細胞群の顕微鏡写真である。
【図6】実施例1で得られたCD34陽性細胞(心筋幹細胞)をマウス梗塞心筋に移植し、観察された該CD34陽性細胞のマウスの心筋における生着の状態を示す図である。A図は、ホスト心筋におけるCD34陽性細胞(緑色)の生着を示す。B図は、A図と同一視野において、cTnI染色(赤色を呈する)した結果を示す。C図は、上記A及びB図を重ね合わせたものである。
【図7】ヒト由来心筋幹細胞の顕微鏡写真及び該細胞の表面抗原特性を示す図である。A図は、ヒト骨格筋組織由来CD105陽性細胞がクローンを形成している状態の顕微鏡写真である。B図は、CD56及びCD34について検出した結果を示す。C図は、CD34及びCD45について検出した結果を示す。D図は、CD56及びCD105について検出した結果を示す。
【図8】ヒト骨格筋由来CD105陽性細胞をデキサメサゾン含有培地で培養し、得られた細胞について顕微鏡観察した結果を示す図である。A図は、筋チューブに分化した細胞を示す。B図は、アクチン染色により認められた骨格筋細胞を示す。C図は、核が1又は2個の細胞が混在していることを示す。D図は、心筋特異的トロポニン−I染色により認められた心筋細胞を示す。
【図9】ヒト骨格筋由来CD105陽性細胞をデキサメサゾン含有培地で培養した細胞について、分化誘導開始時及び分化誘導開始21日後において、各種マーカー[GATA4(A図)、Nkx-2.5(B図)、α-MHC(C図)、β-MHC(D図)、cTnI(E図)]の発現を、リアルタイムRT-PCRにより分析した結果を示す図である。図9中、縦軸の数値はGAPDHで補正した値を表す。
【図10】実施例3で得られたヒト骨格筋組織由来細胞(心筋幹細胞)をマウス梗塞心筋に移植し、観察された該ヒト骨格筋組織由来細胞のマウスの心筋における生着の状態を示す図である。図中、摘出した心筋について、細胞内の核を青色に染色されており、更にヒト由来の心筋細胞を赤色に染色されている。B図は、A図を拡大したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋細胞に分化する能力を有する、ほ乳動物の骨格筋組織由来の幹細胞。
【請求項2】
CD34陽性である、請求項1に記載の幹細胞。
【請求項3】
CD105陽性である、請求項1又は2に記載の幹細胞。
【請求項4】
ほ乳動物がヒトである、請求項1乃至3のいずれかに記載の幹細胞。
【請求項5】
下記工程を経て調製される、請求項1に記載の幹細胞。
(i)ほ乳動物から骨格筋組織を採取し、得られた骨格筋組織を酵素処理することにより細胞懸濁液を調製する工程、
(ii)密度勾配法により、上記細胞懸濁液から骨格筋組織由来細胞群を分離する工程、及び
(iii)得られた骨格筋組織由来細胞群から、CD34及びCD105の少なくとも1種が陽性である細胞を選択し、分離する工程。
【請求項6】
下記工程を含有する、請求項1乃至5のいずれかに記載の幹細胞を調製する方法:
(i)骨格筋組織を採取し、得られた骨格筋組織を酵素処理することにより細胞懸濁液を調製する工程、
(ii)密度勾配法により、上記細胞懸濁液から骨格筋組織由来細胞群を分離する工程、及び
(iii)得られた骨格筋組織由来細胞群から、CD34及びCD105の少なくとも1種が陽性である細胞を選択し、分離する工程。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の幹細胞、又は該幹細胞から分化させた心筋細胞を、心疾患を有する患者の心臓に移植することを特徴とする、心疾患の治療方法。
【請求項8】
下記工程を含有する、請求項7に記載の心疾患の治療方法:
(i)心疾患を有する患者から骨格筋組織を採取し、得られた骨格筋組織を酵素処理することにより細胞懸濁液を調製する工程、
(ii)密度勾配法により、上記細胞懸濁液から骨格筋組織由来細胞群を分離する工程、
(iii)得られた骨格筋組織由来細胞群から、CD34及びCD105の少なくとも1種が陽性である細胞を選択し、分離する工程、
(iv)上記工程(iii)で分離した細胞を、繊維芽細胞成長因子及び上皮細胞増殖因子を含有する培地で培養することにより、該細胞を増殖させる工程、及び
(v)上記工程(iv)で増殖させた細胞を、上記患者の心臓に移植する工程。
【請求項9】
下記工程を含有する、請求項7に記載の心疾患の治療方法:
(i)心疾患を有する患者から骨格筋組織を採取し、得られた骨格筋組織を酵素処理することにより細胞懸濁液を調製する工程、
(ii)密度勾配法により、上記細胞懸濁液から骨格筋組織由来細胞群を分離する工程、
(iii)得られた骨格筋組織由来細胞群から、CD34及びCD105の少なくとも1種が陽性である細胞を選択し、分離する工程、
(iv)上記工程(iii)で分離した細胞を、繊維芽細胞成長因子及び上皮細胞増殖因子を含有する培地で培養することにより、該細胞を増殖させる工程、
(v)上記工程(iv)で増殖させた細胞を、デキサメサゾンを含有する培地で培養して、心筋細胞に分化誘導させる工程、及び
(vi)分化した心筋細胞を上記患者の心臓に移植する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−115771(P2006−115771A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307797(P2004−307797)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】