説明

骨粗鬆症の予測分析方法、並びに、骨粗鬆症の治療剤及びそのスクリーニング方法

【課題】骨粗鬆症を早期に予測分析する方法、並びに、骨粗鬆症の治療剤及び骨粗鬆症及び骨粗鬆症の治療剤をスクリーニングする方法を提供すること。
【解決手段】健常者と被験者の骨髄内細胞におけるId4遺伝子の発現量を測定し、測定値に基づき骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症を将来的に発症する可能性を判断する骨粗鬆症の予測分析方法である。さらに、Id4遺伝子及びその遺伝子がコードするタンパク質の少なくともいずれかを有効成分とすることを特徴とする骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症の治療剤である。さらに、Id4遺伝子を強制発現させた細胞を被験化合物の存在下及び非存在下で培養することにより該細胞中のId4遺伝子の発現量を測定して、これらの発現量を基に被験化合物を骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症の治療剤としてスクリーニングする方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨髄内細胞のId4遺伝子の発現量を測定することにより骨粗鬆症を予測分析する骨粗鬆症の予測分析方法、並びに、Id4遺伝子及びId4遺伝子がコードするタンパク質のいずれかを有効成分とする骨粗鬆症の治療剤及びId4遺伝子を強制発現させた細胞を用いて骨粗鬆症を治療及び予防させる骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は、骨量又は骨塩量の減少によって骨の微細構造が破綻し、骨強度が低下して骨折のリスクが高まった全身性疾患である。日本では骨粗鬆症の患者は約1100万人と言われており、その8割は女性である。さらに、骨粗鬆症は中年以降に多く見られる疾患であるため、近年の高齢化に伴い今後患者数が増加すると推測される。
【0003】
骨粗鬆症は大まかに原発性骨粗鬆症と持続性骨粗鬆症の2つに大別される。原発性骨粗鬆症は、加齢や閉経後に起きる骨粗鬆症のことであり、閉経後の女性に認められる閉経後骨粗鬆症と高齢者に認められる老人性骨粗鬆症に分類され、この両者は退行期骨粗鬆症と総称される。一方、持続性骨粗鬆症は、ステロイド剤の投与や糖尿病、卵巣摘出の疾患等が原因となる骨粗鬆症である。骨粗鬆症の一般的な診断方法はとしては、手の甲のX線撮影を行うMD法、身体の下から2種類のX線を照射して骨量を測定する二重X線吸収骨塩定量(DXA法)、踵骨に超音波を当てて骨量を測定する超音波法等が挙げられる。
【0004】
高齢者人口が増えた現代社会において特に注目されるのが老人性骨粗鬆症である。骨粗鬆症患者の骨は骨量が低下して小さな穴が多発した状態になっているため、骨折する可能性がかなり高い。特に老人性骨粗鬆症患者の場合、骨折による痛みや障害以外にも大腿骨や股関節の骨折から寝たきりにつながることも多く、老人性骨粗鬆症患者の生活の質(QOL)を著しく低下させる危険性を含んでいる。したがって、高齢化を迎えた現代社会においては、老人性骨粗鬆症に対する的確な診断方法や予防方法の必要性が高まっている。
【0005】
骨粗鬆症の予防方法としては、一般的に、日照の不足、運動量の低下、過度のアルコール摂取、カフェインの過剰摂取、喫煙、ステロイド剤の薬剤を回避すること、さらに発症前の食事療法、運動療法、薬物療法等が従来から提唱されている。また、治療方法としては、骨粗鬆症の治療法はエストロゲン等の薬物の投与、リン酸カルシウム骨セメントを注入する手術方法、痛みの原因となる神経に麻酔薬を注射する方法等が知られている。しかしながら、エストロゲン投与は乳癌の発症率が高くなるという副作用、骨セメントを注入する手術方法では骨セメントが骨以外の場所に漏れて固まり神経を圧迫するという危険性、麻酔薬を注射する方法では脊椎専門医や麻酔医の高度な技術の必要性など、それぞれの方法に特有の問題がある。
【0006】
ところで、骨髄内には多分化能を有する間葉系幹細胞が存在することが知られている。この細胞は近年急速に発展している再生医療の分野で注目されており、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、心筋細胞等のさまざまな細胞に分化できる能力を持つ。骨形成に関与する骨芽細胞は、コラーゲン線維をはじめ種々の細胞外マトリックス成分を合成・分泌しており、骨芽細胞の増殖は種々の成長因子やサイトカインにより制御されていることが知られている。
【0007】
一方、哺乳動物の分化抑制因子としてId1〜Id4が知られている。これらの分化抑制因子は、筋肉細胞、赤血球、顆粒球、T細胞、B細胞、脂肪細胞、乳腺細胞、神経細胞や骨芽細胞の分化モデル系において細胞分化を強く抑制することが知られている。また、組織の修復過程や血清刺激による増殖刺激によって発現が誘導される遺伝子でもあり、培養細胞に過剰発現させると細胞増殖を促進し、条件によってはアポトーシスを誘導することも報告されている。このように、分化抑制因子Idsは細胞の分化と増殖に関わる機能を併せ持っているが、その機能や分化抑制の機序については未知の点が多く、骨芽細胞への作用についても不明な点が多い。
【0008】
老化に伴う活性型ビタミンD量の低下などで惹き起こされる老人性骨粗鬆症の特徴は、他の骨粗鬆症とは異なり、骨を形成する骨芽細胞が減少して骨が脆弱化するだけでなく、骨髄内に脂肪細胞が蓄積されて黄色化することである。したがって、骨髄中の脂肪細胞の蓄積が早期に発見できる分析方法や脂肪細胞の蓄積を抑制する治療剤があれば、老人性骨粗鬆症の予防や治療につながると考えられる。骨髄内の間葉系幹細胞から脂肪細胞への分化を抑制する因子は幾つか知られているが、同時に骨芽細胞への分化を抑制するため骨量減少という副作用も報告されており、老人性骨粗鬆症の治療剤としては適切ではない。骨量の維持には脂質生成と骨生成のバランスが重要であると思われるが、間葉系幹細胞から脂肪細胞への分化と骨芽細胞への分化という2つの異なる方向性を決める分子メカニズムは未だに判っていない。
したがって、骨髄中の脂肪細胞の蓄積に注目して老人性骨粗鬆症を早期に予測分析する方法、又は骨髄中の脂質生成と骨生成のバランスを維持する治療剤の提供が望まれているのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、被験試料の骨髄内細胞において、骨髄中の間葉系幹細胞の分化過程の初期段階において脂肪細胞への分化を抑制すると同時に骨芽細胞への分化を促進することで骨髄中の脂質生成と骨形成のバランスを保ち、脂肪細胞の増殖による骨の黄色化と骨芽細胞の減少による骨量低下による骨の脆弱化を阻止するId4遺伝子の発現量を測定することにより、骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症を早期に予測分析することができる骨粗鬆症の予測分析方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、Id4遺伝子及びId4遺伝子がコードするタンパク質のいずれかを有効成分として含むことにより骨髄中の間葉系幹細胞の分化過程の初期段階において脂肪細胞への分化を抑制すると同時に骨芽細胞への分化を促進することにより骨髄中の脂肪細胞の蓄積を抑制しつつ骨芽細胞の量を維持することで骨の黄色化と脆弱化を早期に治療又は予防することができる骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症の治療剤を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、Id4遺伝子を強制発現させた細胞を被験化合物の非存在下で培養した場合の該細胞中のId4遺伝子の発現量と、Id4遺伝子を強制発現させた細胞を被験化合物の存在下で培養した場合の該細胞中のId4の発現量と、を測定することにより、Id4遺伝子の活性を高めることで骨髄中の間葉系幹細胞の分化の初期段階で脂肪細胞への分化を抑制すると同時に骨芽細胞への分化を促進させて骨の黄色化と脆弱化を早期に治療又は予防して骨髄中の脂質生成と骨生成のバランスを維持することができる骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症の治療剤をスクリーニングすることができるスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、骨髄内に存在する間葉系幹細胞を利用して、脂肪細胞と骨芽細胞への分化過程に関わる因子を鋭意研究した結果、分化抑制因子Id4 が、骨髄中の間葉系幹細胞の分化過程の初期段階において脂肪細胞への分化を抑制すると同時に骨芽細胞への分化を促進することを発見し、その結果、被験試料である骨髄内細胞のId4遺伝子の発現量を測定することにより、被験試料の提供者が老人性骨粗鬆症を発症する可能性を有するか否かを早期に予測分析できること、また、Id4遺伝子及びその遺伝子がコードするタンパク質の少なくともいずれかを有効成分とする骨粗鬆症の治療剤を老人性骨粗鬆症の患者の骨髄中に直接投与することにより、間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化抑制と骨芽細胞への分化促進を同時に達成することで優れた治療効果を発揮することができること、さらに、Id4遺伝子を強制発現させた細胞を用いて、骨粗鬆症の治療剤をスクリーニングすることができること、という知見を得て、本発明の完成に至った。
【0011】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 骨粗鬆症の予測分析方法であって、
(a)健常者の骨髄内細胞におけるId4遺伝子の発現量Aと、被験試料である骨髄内細胞のId4遺伝子の発現量Bとをそれぞれ測定する測定工程と、
(b)該発現量Aと、該発現量Bと、に基づき、(B/A)×100(%)の計算値が70(%)以下である場合に、前記被験試料の提供者が骨粗鬆症になる可能性が高いと判断する判断工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
<2> 骨髄内細胞が間葉系幹細胞である、前記<1>に記載の方法である。
<3> 骨粗鬆症が老人性骨粗鬆症である、前記<1>から前記<2>のいずれかに記載の方法である。
<4> Id4遺伝子の発現量の測定が、該遺伝子の転写産物であるRNAをDNAマイクロアレイ、RNaseプロテクションアッセイ、定量的リアルタイムPCR、およびノーザンブロットの少なくともいずれかにより定量することにより行われる、前記<1>から前記<3>のいずれかに記載の方法である。
<5> Id4遺伝子の発現量の測定が、該遺伝子の遺伝子産物であるタンパク質を酵素免疫測定法(ELISA)、ウェスタンブロット、およびドットブロットの少なくともいずれかにより定量することにより行われる、前記<1>から前記<3>のいずれかに記載の方法である。
<6> Id4遺伝子及びその遺伝子がコードするタンパク質の少なくともいずれかを有効成分とすることを特徴とする、骨粗鬆症の治療剤である。
<7> 骨髄内に直接投与される、前記<6>に記載の治療剤である。
<8> 骨粗鬆症が老人性骨粗鬆症である、前記<6>から前記<7>のいずれかに記載の治療剤である。
<9> 骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法であって、
(a)Id4遺伝子を強制発現させた細胞を被験化合物の非存在下で培養した場合の該細胞中のId4遺伝子の発現量Xと、Id4遺伝子を強制発現させた細胞を被験化合物の存在下で培養した場合の該細胞中のId4の発現量Yと、を測定する測定工程と
(b)該発現量Xと、該発現量Yと、に基づき、Y/Xの計算値が1.3以上である被験化合物を、骨粗鬆症の治療剤として選択する選択工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
<10> Id4遺伝子を強制発現させた細胞の培養が液体培養で行われる、前記<9>に記載の方法である。
<11> Id4遺伝子を強制発現させた細胞が動物細胞由来である、前記<9>から前記<10>のいずれかに記載の方法である。
<12> 骨粗鬆症が老人性骨粗鬆症である、前記<9>から前記<11>のいずれかに記載の方法である。
<13> Id4遺伝子の発現量の測定が、該遺伝子の転写産物であるRNAをDNAマイクロアレイ、RNaseプロテクションアッセイ、定量的リアルタイムPCRおよびノーザンブロットの少なくともいずれかにより定量することにより行われる、前記<9>から前記<12>のいずれかに記載の方法である。
<14> Id4遺伝子の発現量の測定が、該遺伝子の遺伝子産物であるタンパク質を酵素免疫測定法(ELISA)、ウェスタンブロットおよびドットブロットの少なくともいずれかにより定量することにより行われる、前記<9>から前記<13>のいずれかに記載の方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、前記従来における諸問題を解決することができる。すなわち、本発明は、被験試料の骨髄内細胞において、骨髄中の間葉系幹細胞の分化過程の初期段階において脂肪細胞への分化を抑制すると同時に骨芽細胞への分化を促進することで骨髄中の脂質生成と骨形成のバランスを保ち、脂肪細胞の増殖による骨の黄色化と骨芽細胞の減少による骨量低下による骨の脆弱化を阻止するId4遺伝子の発現量を測定することにより、骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症を早期に予測分析することができる骨粗鬆症の予測分析方法を提供することができ、また、本発明は、Id4遺伝子及びId4遺伝子がコードするタンパク質のいずれかを有効成分として含むことにより骨髄中の間葉系幹細胞の分化過程の初期段階において脂肪細胞への分化を抑制すると同時に骨芽細胞への分化を促進することにより骨髄中の脂肪細胞の蓄積を抑制しつつ骨芽細胞の量を維持することで骨の黄色化と脆弱化を早期に治療又は予防することができる骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症の治療剤を提供することができ、さらに、本発明は、Id4遺伝子を強制発現させた細胞を被験化合物の非存在下で培養した場合の該細胞中のId4遺伝子の発現量と、Id4遺伝子を強制発現させた細胞を被験化合物の存在下で培養した場合の該細胞中のId4の発現量と、を測定することにより、Id4遺伝子の活性を高めることで骨髄中の間葉系幹細胞の分化の初期段階で脂肪細胞への分化を抑制すると同時に骨芽細胞への分化を促進させて骨の黄色化と脆弱化を早期に治療又は予防して骨髄中の脂質生成と骨生成のバランスを維持することができる骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症の治療剤をスクリーニングすることができるスクリーニング方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の骨粗鬆症の予測分析方法は、骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症の早期の予測分析に好適に使用することができる。
【0014】
本発明の骨粗鬆症の予測分析方法は、測定工程と、判断工程と、を少なくとも含み、さらに必要に応じてその他の工程を含む。
【0015】
<測定工程>
前記測定工程は、健常者の骨髄内細胞におけるId4遺伝子の発現量Aと、被験試料である骨髄内細胞のId4遺伝子の発現量Bと、をそれぞれ測定する工程である。
【0016】
−健常者−
健常者とは、被験試料を提供する時点で骨粗鬆症に罹患していない対象のことであり、尿中デオキシピリジノリン濃度(男性:2.1〜5.4、女性:2.8〜7.6nmol/mmol Cr)、尿中I型コラーゲン架橋N−テロペプチド濃度(男性:13.0〜66.2、女性:9.3〜54.3nmol BCE/mmol Cr)、血清I型コラーゲン架橋N−テロペプチド濃度(男性:9.5〜17.7、女性:7.5〜16.5nmol BCE/mmol Cr)、尿中I型コラーゲン架橋C-テロペプチド(男性:<184.1、女性:40.3〜301.4μg/mmol Cr)および骨型アルカリフォスファターゼ (男性:13.0〜33.9、女性:9.6〜35.4U/L)を基準値としている。
【0017】
−骨髄内細胞−
骨髄内細胞とは骨髄内の海綿状組織に存在する細胞であり、種々の因子により骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、心筋細胞、神経細胞のそれぞれに分化する間葉系幹細胞と血液細胞や免疫細胞に分化する造血幹細胞の2つの幹細胞に大別される。本発明では、骨芽細胞、脂肪細胞等に分化する間葉系幹細胞を用いる。
【0018】
骨髄内細胞の採取の方法は、特に制限はないが、骨髄採取針を用いて腸骨から骨髄を吸引する方法などを利用して採取することが好ましい。
【0019】
−Id4遺伝子−
Id4遺伝子とは文献名:Nucleic Acids Research,1994,Vol.22,No.5,749−755などに記載されている公知の遺伝子であり、マウスの遺伝子は登録番号:NM_031166、ヒトの遺伝子では登録番号:NM_001546としてGenBankに各々対応するアミノ酸配列と共に登録されている。Id4遺伝子は当初、Helix−loop−helix(HLH)モチーフを持つ分化抑制因子Id1、Id2およびId3といったIdファミリーの1つとしてとして哺乳動物から単離されたものであり、分化を決定づける転写因子がDNAへ結合するのは阻害するモチーフをもつタンパクをコードしている(Nucleic Acids Research,1994, Vol.22,No.5,749−755)。Id4遺伝子の公知の機能は、神経細胞の分化やグリア細胞の発生に関わることであるが、本発明者らにより、骨髄由来の間葉系幹細胞株の分化過程の初期段階において、Id4が脂肪細胞への分化を抑制すると同時に骨芽細胞への分化を促進することであり、Id4が骨髄中の脂質生成と骨形成のバランスを保ち、脂肪細胞の増殖による骨の黄色化と骨芽細胞の減少による骨量低下による骨の脆弱化を阻止する機能を有するという新たな知見が得られた。
【0020】
−発現量A−
発現量Aとは、健常者の骨髄内細胞のId4遺伝子の発現量を示し、発現量の測定方法には、特に制限はないが、DNAマイクロアレイ、RNaseプロテクションアッセイ、定量的リアルタイムPCR、およびノーザンブロット等が挙げられるが、特に好ましいのは、定量的リアルタイムPCRである。
【0021】
前記DNAマイクロアレイとは、遺伝子又は遺伝子由来のDNA断片が支持体上の定められた領域に高密度に固定されているものを示し、例えばDNAチップと呼称されるものを包含する。
【0022】
前記DNAマイクロアレイの支持体は、ハイブリダイゼーションに使用可能なものであれば特に限定はなく、スライドグラス、シリコンチップ、ニトロセルロース、ナイロンの膜等が使用される。また、支持体上に固定される遺伝子又はその断片としては、特に限定するものではないが、例えばゲノムDNAライブラリー、cDNAライブラリー、これらを鋳型としたPCR等によって増幅されたDNA断片等が挙げられる。
【0023】
前記DNAマイクロアレイを使用することにより、核酸試料中に含まれる多種類の核酸分子の量を同時に測定することができる。また、少量の核酸試料でも測定できるという利点がある。
【0024】
標識に用いられる前記標識物質としては、放射性同位元素、蛍光物質、化学発光物質、発光団を有する物質等の物質を用いることができる。該蛍光物質としては、特に限定はないが、Cy2、FluorX、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、テキサスレッド、ローダミン等が挙げられる。また、同時に検出できる点から、被験試料、対照として用いる試料をそれぞれ異なった蛍光物質で標識することが好ましい。
【0025】
前記標識の検出法は、標識物質の種類により、適宜選択することができる。例えば、前記Cy3及びCy5を標識物質として用いる場合、Cy3は532nm、Cy5は635nmの波長でスキャンすることにより検出することができる。
【0026】
前記RNaseプロテクションアッセイとは、1本鎖RNAには切断活性を示すが、2本鎖RNAには切断活性を示さない基質特異性を有するRNaseの機能を利用する方法である。すなわち、検出対象となるmRNAに相補的となるようなRI標識したプローブを合成し、組織又は培養細胞より抽出したtotalRNA又はpolyA RNAとハイブリッドを形成させ、次いでRNaseを作用させる。ここで、ハイブリッドを形成しなかった1本鎖RNAは分解されるが、2本鎖RNAは分解されないまま残る。この分解されなかったmRNAの発現量を、電気泳動により分離検出を行うことで目的とするmRNAの定量を行うことができる。
【0027】
前記定量的リアルタイムPCRとは、PCRの増幅産物の量をリアルタイムでモニタリングし、増幅産物が描く増幅曲線を利用して試料中のコピー数を算出する方法である。この方法では、サーマルサイクラーと分光蛍光光度計を一体化したリアルタイムPCR専用の装置が用いられる。
前記定量的リアルタイムPCRにより遺伝子の発現量を測定する場合、段階希釈した既知量のDNAをコントロールとしてPCRを行い、これを基に、コピー数とサイクル数とで検量線を作製することにより、試料の増幅曲線からこの試料中に含まれる遺伝子の発現量を算出することができる。
【0028】
前記ノーザンブロットとは、RNAの混合試料から特定の塩基配列を持つ分子を検出・定量する方法であり、ゲル電気泳動で分離して、ナイロン膜に転写した後、目的のRNA配列に相補的な核酸を標識した核酸プローブとハイブリダイズさせて目的のRNAの発現量、サイズを検出する方法である。
【0029】
前記核酸を標識する方法としてはRIを用いる方法、DIGと抗体を用いるnonRI法、蛍光染色を用いる方法等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
本発明において用いられるId4遺伝子の遺伝子産物であるタンパク質の測定は、酵素免疫測定法(ELISA)、ウェスタンブロット、およびドットブロットにより定量することにより行われるが、特に好ましいのはウェスタンブロットである。
【0031】
前記酵素免疫測定法(ELISA)とは、試料中に含まれるポリペプチドをペルオキシダーゼ、ビオチン等で酵素標識した抗体又は抗原を用いて、抗原抗体反応を利用して、発色色素を吸光光度計で測定する方法である。
【0032】
前記ウェスタンブロットとは、目的のタンパク質をSDS−PAGEにより分離した後、メンブレン上に転写することにより、目的のタンパク質に対する特異的抗体と反応させて、特異的抗体にあらかじめ結合されている酵素の活性を利用した発色反応により目的のタンパク質を検出する方法である。
【0033】
前記ドットブロット法とは、メンブレンに直接RNAをブロットし、プローブによって目的のmRNA量を定量する方法である。
【0034】
−発現量B−
発現量Bとは、被験試料の骨髄内細胞のId4遺伝子の発現量を示す。該発現量の測定方法としては、上記発現量Aと同様の方法により測定することができる。
【0035】
−被験試料−
被験試料とは、骨粗鬆症を発症していない健常者又は骨粗鬆症を発症する可能性のある健常者から直接採取された骨髄内細胞であるが、骨粗鬆症を発症していない健常者又は骨粗鬆症を発症する可能性のある健常者から採取された骨髄内細胞を入手したものでもよい。
【0036】
Id4遺伝子の発現量の測定するために骨髄内細胞から採取する細胞数は、1,000個〜1,000,000個の範囲が好ましく、さらに好ましくは10,000個〜1,000,000個、特に好ましくは1,000,000個である。
【0037】
本発明において、「分化過程の初期段階」とは分化を誘導する処理を行ってから2日以内を指し、細胞増殖が止まり細胞周期が静止期に入る段階を示している。
【0038】
<判断工程>
判断工程は、前記測定工程により測定された該発現量Aと、該発現量Bと、に基づき、(B/A)×100(%)の計算値が70(%)以下である場合に、前記被験試料の提供者が骨粗鬆症になる可能性が高いと判断する判断工程である。
【0039】
−計算値−
前記計算値とは、特に制限はないが、測定されたAとBの値を入力して別々に格納し、格納されたAとBの値から自動的に(B/A)×100(%)を算出して出力する、コンピューター、電卓、等に基づいて計算される数値である。
【0040】
前記計算値は70%以下が好ましく、さらに好ましくは60%以下、特に好ましくは50%以下である。特に50%以下では老人性骨粗鬆症を発症する確率は30%である。
【0041】
<骨粗鬆症の治療剤>
本発明の骨粗鬆症の治療剤は、骨粗鬆症を治療又は予防するための治療剤であり、上述したId4遺伝子及びその遺伝子がコードするタンパク質(以下、Id4と記載)の少なくともいずれかを有効成分として含み、さらに必要に応じてその他の成分を含む。
【0042】
−Id4遺伝子がコードするタンパク質−
Id4遺伝子がコードするタンパク質とは、Id4遺伝子が転写翻訳されたタンパク質のことである。
【0043】
−Id4遺伝子の調製−
本発明の骨粗鬆症の治療剤の有効成分であるId4遺伝子は、骨髄内に直接投与するため、ヒト組織内で発現してId4を産生することができる発現ベクターに導入することが好ましい。
まず、本発明のId4遺伝子は、常法に従い公知の配列を基に調製することができる。例えば、動物細胞からmRNAを抽出し、公知の配列を元にプライマーを作製し、RT−PCR法でクローニングすることにより目的とするId4遺伝子のcDNAを調製することができる。これらのクローニングの技法は、例えば、Molecular Cloning 2nd Ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)) 等のプロトコールを参照することにより行うことができる。
【0044】
常法により調製した全長cDNAは、必要に応じて、Id4をコードする部分を含む適当な長さのDNA断片を調製することができる。該DNA断片、又は全長cDNAを適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、Id4遺伝子の発現可能なベクターを作製することができる。
【0045】
本発明に用いられる発現ベクターとしては、アデノウィルスベクター、レトロウィルスベクター、アデノ随伴ウィルスベクター、およびレンチウィルスベクター等の公知のウィルスベクターが挙げられるが、本発明のId4遺伝子が挿入でき、さらにヒト組織内で発現可能なベクターであれば特に限定されない。
【0046】
−Id4の調製−
本発明の骨粗鬆症の治療剤に含有するId4は、Id4遺伝子のcDNAを挿入した発現ベクターを宿主細胞に導入することで得られた形質転換体を培地中で培養し、宿主細胞内から精製するか、培地中にId4を産生分泌させ、該培地よりId4を抽出して調製することができる。
まず、本発明におけるId4遺伝子は、常法に従い公知の配列を基に調製することができる。例えば、動物細胞からmRNAを抽出し、公知の配列を元にプライマーを作製し、RT−PCR法でクローニングすることにより目的とするId4遺伝子のcDNAを調製することができる。これらのクローニングの技法は、例えば、Molecular Cloning 2nd Ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)) 等のプロトコールを参照することにより行うことができる。
【0047】
常法により調製した全長cDNAを基に、必要に応じて、Id4をコードする部分を含む適当な長さのDNA断片を調製する。該DNA断片、又は全長cDNAを適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、宿主細胞内でId4遺伝子の発現可能なベクターを作製できる。
【0048】
本発明に用いられる発現ベクターとしては、例えば、pET、pCDM8、pSIF、pHIV、pCLXSN、pCLNCX等の公知の発現ベクターが挙げられるが、本発明のId4遺伝子のcDNAが挿入でき、宿主細胞内で発現可能なベクターであれば特に限定されない。
【0049】
発現ベクターを宿主細胞に導入する方法としては、特に制限はないが、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、アデノウィルス法、ワクシニアウィルス法、レトロウィルスベクター法、レンチウィルスベクター法等の公知の方法を用いることができる。
【0050】
宿主細胞の培地としては、大腸菌等の原核生物あるいは酵母等の真核生物を宿主細胞とする場合、栄養源となる炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば特に制限はなく、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0051】
炭素源としては、特に制限はないが、グルコース、フラクトース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプン、デンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類等を用いることができる。
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕、大豆粕加水分解物、各種発酵菌体およびその消化物等を用いることができる。
【0052】
無機塩としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を用いることができる。培養は、通常振盪培養または深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行う。培養温度は15〜40℃がよく、培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中のpHは3.0〜9.0に保持する。pHの調整は、無機または有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行う。
【0053】
また、培養中必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸(IAA)等を培地に添加してもよい。
【0054】
また、前記Id4としては、市販品を使用してもよい。前記市販品は、例えば、シグマ−アルドリッチ株式会社(Sigma−Aldrich Corporation)、コスモバイオ株式会社(COSMO BIO CO.LTD)等から入手可能である。
【0055】
また、前記Id4は、骨髄中の間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化を抑制し、且つ骨芽細胞への分化を促進する作用を有するものであれば、特に制限はなく、例えば、Id4を構成するアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよい。前記実質的に同一のアミノ酸配列とは、アミノ酸配列中、数個のアミノ酸が別種のアミノ酸により置換されたもので、且つ、Id4の生理活性を有するものをいう。また、前記Id4としては、骨髄中の間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化を抑制し、且つ骨芽細胞への分化を促進する作用を有するものであれば、前記ポリペプチドの断片であってもよい。また、前記Id4は、骨髄中の間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化を抑制し、且つ骨芽細胞への分化を促進する作用を有するものであれば、そのN末端及び/又はC末端が修飾されていてもよい。
【0056】
また、前記Id4の形態としては、特に制限はないが、溶液、結晶等が挙げられる。
【0057】
−その他の成分−
本発明の骨粗鬆症の治療剤は、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、アミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、糖アルコールを含んでいてもよい。
【0058】
前記アミノ酸としては、塩基性アミノ酸、例えばアルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等、又はこれらのアミノ酸の無機塩(好ましくは、塩酸塩、リン酸塩の形、すなわちリン酸アミノ酸)を挙げることができる。遊離アミノ酸が使用される場合、好ましいpH値は、適当な生理的に許容される緩衝物質、例えば無機酸、特に塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、蟻酸又はこれらの塩の添加により調整される。この場合、リン酸塩の使用は、特に安定な凍結乾燥物が得られる点で特に有利である。調製物が有機酸、例えばリンゴ酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、フマル酸等を実質的に含有しない場合、又は対応する陰イオン(リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオン、フマル酸イオン等)が存在しない場合に、特に有利である。好ましいアミノ酸は、アルギニン、リジン、ヒスチジン、又はオルニチンである。更に、酸性アミノ酸、例えばグルタミン酸、アスパラギン酸、その塩の形(好ましくはナトリウム塩)、中性アミノ酸、例えばイソロイシン、ロイシン、グリシン、セリン、スレオニン、バリン、メチオニン、システイン、アラニン、芳香族アミノ酸、例えばフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、又は誘導体のN−アセチルトリプトファンを使用することもできる。
【0059】
前記多糖及び単糖等の糖類や炭水化物としては、例えばデキストラン、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、スクロース,トレハロース、ラフィノース等を挙げることができる。
前記糖アルコールとしては、例えばマンニトール、ソルビトール、イノシトール等を挙げることができる。
【0060】
前記含硫還元剤としては、例えば、N−アセチルシステイン、N−アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、並びに炭素原子数1〜7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等を挙げることができる。
【0061】
<剤型>
本発明の骨粗鬆症の治療剤としての剤型には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、中でも、前記治療剤は被検体の骨髄内に投与されることを特徴とすることから、前記骨髄内への直接投与が可能な、注射剤であることが好ましい。前記注射剤としては、例えば、水性注射剤、懸濁性注射剤、用時溶解用固形注射剤などが挙げられる。
【0062】
本発明の骨粗鬆症の治療剤を注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO−50)等と併用してもよい。
【0063】
前記注射剤は、所望により、更にpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等の医薬用の添加剤を添加することにより、製造することができる。
【0064】
前記pH調節剤及び前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。前記等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。前記局所麻酔剤としては、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。
また、溶液製剤の分野で公知の水性緩衝液に溶解することによって溶液製剤を調製してもよい。緩衝液の濃度は一般には1〜500mMであり、好ましくは5〜100mMであり、更に好ましくは10〜20mMである。
【0065】
また、本発明の骨粗鬆症の治療剤は、必要に応じて、有効成分をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる(Remington’s Pharmaceutical Science 16th edition,Oslo Ed.,1980等参照)。更に、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明に適用し得る(Langer et al.,J.Biomed.Mater.Res.1981,15:167−277;Langer,Chem.Tech.1982,12:98−105;米国特許第3,773,919号明細書;欧州特許出願公開第58,481号明細書;Sidman et al.,Biopolymers 1983,22:547−556;欧州特許第133,988号明細書)。使用される製剤上許容しうる担体は、剤型に応じて上記の中から適宜或いは組合せて選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
<投与>
好ましい投与態様においては、前記治療剤は、被験体の骨髄内に直接投与されることにより使用される。中でも、前記被検体としては、骨粗鬆症が好適であり、中でも、初期から進行期までの老人性骨粗鬆症が特に好適である。前記治療剤は、骨髄内に直接投与されることから、経口投与が困難な被検体への適用にも好適である。なお、前記被検体の生物種としては、前記医薬の投与対象となり得る生物であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ウマ、イヌ、ブタ、サル等が挙げられる。好適にはヒト、ウマ、又はイヌであり、より好適にはヒトである。
【0067】
<投与量>
−Id4遺伝子の投与量−
本発明の骨粗鬆症の治療剤におけるId4遺伝子は、発現ベクターに挿入した形態で投与されることが好ましく、前記Id4遺伝子を挿入した発現ベクターを骨髄内に直接投与する場合、成人への1回の投与量は、特に制限はなく、被験対象の年齢、体重、所望の効果の程度、さらに剤型等に応じて適宜選択することができるが、好適には10〜100μg、より好適には25〜100μg、更に好ましくは50〜100μgである。
【0068】
−Id4の投与量−
また、Id4を骨髄内に直接投与する場合、成人への1回の投与量は、特に制限はなく、被験対象の年齢、体重、所望の効果の程度、さらに剤型等に応じて適宜選択することができるが、好適には100〜500μg、より好適には150〜500μg、更に好ましくは250〜500μgである。
【0069】
また、本発明の骨粗鬆症の治療剤は、治療目的で投与されてもよいし、予防目的で投与されてもよい。
【0070】
−治療方法−
本発明の骨粗鬆症の治療剤を注射剤という形で骨髄内への直接投与することにより、骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症に特有の症状、即ち、骨髄中に脂肪細胞が蓄積し骨芽細胞が減少することに起因する骨の黄色化と脆弱化を早期に治療又は予防することができる。
また、本発明の骨粗鬆症の治療剤は、骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症に対する公知の治療法、例えば、運動療法、又はカルシウム剤、活性型ビタミンD、ビタミンK、カルシトニン、ビスフォスネートなどの投与と同時に又は時間を隔てて投与されてもよい。
【0071】
<スクリーニング方法>
本発明の骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法は、測定工程と、選択工程を少なくとも含み、さらに必要に応じてその他の工程を含む。
【0072】
<測定工程>
測定工程は、Id4遺伝子を強制発現させた細胞を被験化合物の非存在下で培養した場合の該細胞中のId4遺伝子の発現量Xと、Id4遺伝子を強制発現させた細胞を被験化合物の存在下で培養した場合の該細胞中のId4の発現量Yと、を測定する工程である。
【0073】
−Id4遺伝子を強制発現させた細胞−
Id4遺伝子を強制発現させた細胞とは、被験者から採取した骨髄細胞、もしくは組織幹細胞であることが望ましい。骨髄内細胞の採取の方法は、特に制限はないが、骨髄採取針を用いて腸骨から骨髄を吸引する方法などを利用して採取することが好ましい。組織幹細胞は、外科的処置により採取した皮下脂肪をコラゲナーゼで消化させ、培養液中に懸濁して遠心分離操作を行ったときに沈殿した細胞分画を示す。
【0074】
−被験化合物−
被験化合物とは、抗骨粗鬆症活性、特に抗老人性骨粗鬆症活性の評価対象となり得る物質であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、低分子化合物、核酸、ポリペプチドなどが挙げられる。前記低分子化合物、核酸、ポリペプチドなどは、天然物から抽出及び精製されたものであってもよく、人工的に合成されたものであってもよい。また、精製されたものに限らず、例えば、未精製の細胞抽出液などであっても、前記被験物質として使用することができる。本発明では、これらの中でも、前記被験化合物を、老人性骨粗鬆症の治療又は予防薬として適用することを考慮した場合、前記被験物質は低分子化合物であることが好ましい。前記被験物質としては、新規な物質に限らず、公知の物質やその改良物であってもよい。例えば、新規な抗骨粗鬆症治療薬や予防薬の開発のため、既存の治療薬又は予防薬やその誘導体につき、本発明の方法により、抗骨粗鬆症活性を評価することができる。
【0075】
−発現量X−
発現量Xとは、Id4遺伝子を強制発現させた細胞を被験化合物の非存在下で培養した場合の該細胞中のId4遺伝子の発現量を示す。該発現量の測定方法には、特に制限はないが、DNAマイクロアレイ、RNaseプロテクションアッセイ、定量的リアルタイムPCRおよびノーザンブロット等が挙げられるが、特に好ましいのは、定量的リアルタイムPCRである。
【0076】
−発現量Y−
発現量Yとは、Id4遺伝子を強制発現させた細胞を被験化合物の存在下で培養した場合の該細胞中のId4遺伝子の発現量を示す。該発現量の測定方法としては、上記発現量Xと同様の方法により測定することができる。
【0077】
<選択工程>
選択工程は、該発現量Xと、該発現量Yと、に基づき、Y/Xの計算値が1.3以上である被験化合物を、骨粗鬆症の治療剤として選択する工程である。
【0078】
−計算値−
前記計算値とは、特に制限はないが、測定されたXとYの値を入力して別々に格納し、格納されたXとYの値から自動的にY/Xを算出して出力するコンピューター、電卓、等に基づいて計算される数値である。
【0079】
前記選択工程の計算値は1.3以上が好ましく、さらに好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.7以上である。特に1.7以上では老人性性骨粗鬆症の治療剤として有効である。
【0080】
本発明のId4遺伝子を強制発現させた細胞の培養は、特に制限はないが、液体培養で行われることが好ましい。
【0081】
該細胞は、特に制限はないが、遺伝子導入効率が良い動物細胞として、293(細胞番号RCB1637:理化学研究所・バイオリソースセンター)、CHO−K1(細胞番号RCB0285:理化学研究所・バイオリソースセンター)、CV1(細胞番号RCB0160:理化学研究所・バイオリソースセンター)、 COS1(細胞番号RCB0143:理化学研究所・バイオリソースセンター)であることが好ましい。
【0082】
(確認方法)
前記スクリーニング方法により選択された、抗骨粗鬆症活性を有すると評価された被験化合物(候補物質)が、実際に骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症の治療又は予防に有効であるかどうかは、例えば、骨粗鬆症モデル動物、特に老人性骨粗鬆症モデル動物への、候補物質の投与実験などにより確認することができる。
前記老人性骨粗鬆症モデル動物としては、例えば、骨粗鬆症モデルマウスKlotho(京都大学・鍋島陽一教授)、老人性骨粗鬆症モデルマウスSAMP6(京都大学・細川昌則教授)等が使用できる。
【0083】
候補物質が投与された前記骨粗鬆症モデル動物又は前記老人性骨粗鬆症モデルマウスの、骨髄中の脂肪細胞蓄積の度合いと骨量を観察することによって、前記スクリーニング方法により選択された候補物質の骨粗鬆症の治療又は予防効果を確認することができる。
【0084】
なお、前記スクリーニング方法により選択された骨粗鬆症治療又は予防薬の候補物質の適用対象となり得る動物としては、骨粗鬆症に罹患する可能性のある動物であれば特に制限はなく、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、マウスなどが挙げられる。
【0085】
(効果)
前記スクリーニング方法によれば、抗骨粗鬆症活性を有する物質、中でも、老人性骨粗鬆症における骨髄中の脂肪細胞を治療又は予防可能な、優れた骨粗鬆症の治療又は予防薬の候補物質を、効率的に選択することができる。
より具体的には、前記スクリーニング方法によれば、所望の効果のバランスを有する、優れた骨粗鬆症治療又は予防薬の候補物質を、効率的に選択することができる。すなわち、骨髄内における間葉系幹細胞から脂肪細胞への分化抑制と、骨芽細胞への分化促進という2種類の効果が、所望のバランスで奏される、優れた老人性骨粗鬆症治療又は予防薬の候補物質を選択することが可能となる。即ち、正常な細胞の増殖は阻害することなく脂肪細胞の蓄積のみを抑制することのできる、副作用の危険性の少ない物質を選択することも可能となり、一方で、骨芽細胞が増殖することにより骨量が増加するという、強い効果の期待できる物質を選択することも可能となる。
【0086】
以下に、Id4遺伝子が間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化を抑制すると同時に骨芽細胞への分化を促進するという機能を有することを証明する実験方法及びその結果を示す。
【0087】
<実験1:脂肪細胞分化誘導>
1.1 siRNAの調製及び細胞への添加
Id4遺伝子の発現を抑制する二本鎖RNAとネガティブコントロールは、Ambion(Austin、テキサス州)及びQIAGENでそれぞれ購入した。
前記二本鎖RNA約150ngとリポフェクトアミン2000試薬(Invitrogen)2μlを添付のプロトコールに従い混和して調製した。
【0088】
細胞株としてマウス骨髄由来のストローマ細胞であるST2細胞(細胞番号RCB0224:理化学研究所・バイオリソースセンター)を用いた。ST2細胞は、10%FBSを含有するRPMI1640培地で37℃、CO濃度5%の条件下で1日間培養し、300,000個/mlの濃度で24ウェルプレートに播種した。上記二本鎖RNAを含有する混和した溶液を1ウェルあたり最終濃度20nMとなるように添加した。4時間後に培養液を脂肪細胞分化誘導培地として調製した10%FBS、0.5mM 3−イソブチル−1−メチルキサンチン、0.25μMデキサメタゾン、5μg/mlインスリン、及び1μM rosiglitazoneを含有するRPMI1640培地に交換した。脂肪細胞分化誘導培地に交換した日を0日目とした。
【0089】
1.2 脂肪細胞への分化誘導及び遺伝子発現量の測定
脂肪細胞分化誘導培地に交換して37℃、5%CO濃度の条件下で2日間培養した後、0.1%トリプシン溶液を用いてST2細胞を回収し、totalRNAをRNeasyカラム(Qiagen、ドイツ)に添付のプロトコールに従い抽出した。抽出したtotalRNAを逆転写酵素により1st strand cDNAを合成し、得られた1st strand cDNAを鋳型としてRT−PCRを行い、遺伝子発現量を測定した。遺伝子発現量の測定は、逆転写産物をテンプレートとしてMx3000P(Stratagene、La Jolla、カリフォルニア州)とPower SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems、Foster City、カリフォルニア州)を用いて添付のプロトコールに従い行った。プライマーの配列は、(GAPDH−forward:5'-TGGAGAAACCTGCCAAGTATG-3')〔配列番号1〕、(GAPDH−reverse:5'-GGAGACAACCTGGTCCTCAG-3')〔配列番号2〕、(Id1−forward:5'-CTGAACGGCGAGATCAGTG-3')〔配列番号3〕、(Id1−reverse:5'-TTTCCTCTTGCCTCCTGAAG-3')〔配列番号4〕、(Id2−forward:5'-GGACATCAGCATCCTGTCCT-3')〔配列番号5〕、(Id2−reverse:5'-AAAGAAAAAGTCCCCAAATGC-3')〔配列番号6〕、(Id3−forward:5'-GAGGAGCTTTTGCCACTGAC-3')〔配列番号7〕、(Id3−reverse:5'-GGAGAGAGGGTCCCAGAGTC-3')〔配列番号8〕、(Id4−forward1:5'-CTCTGTCTCTCTGACCTCACAG-3')〔配列番号9〕、(Id4−forward2:5'-AGGGTGACAGCATTCTCTGC-3')〔配列番号10〕、(Id4−reverse:5'-CCGGTGGCTTGTTTCTCTTA-3')〔配列番号11〕であった。
1.3 Nile Redによる脂肪染色方法
脂肪細胞の分化誘導を確認するために、上記と同様に、脂肪細胞分化誘導培地に交換して37℃、5%CO2濃度の条件下で4日間培養したST2細胞をNile Redを用いて細胞内に蓄積した脂肪を染色した。
まず、4日間培養したST2細胞を回収し、PBSで3回洗浄した後、10%ホルマリンを含有するリン酸緩衝液で固定し、1時間室温に放置した。Nile Redをアセトンに溶解し、最終的に1g/mlとなるようにPBSで調製したものを固定したST2細胞に加えて、室温で10分間培養した。その後、蛍光顕微鏡により蛍光強度脂肪蓄積の増減を確認する共に、Nile Redの発光量を、Wallac 1420 Multilabel counter(PerkinElmer Life and Analytical Sciences,Turku, Finland)で測定した(excitation 485nm;emission 535nm)。
【0090】
<実験2:骨芽細胞分化誘導>
2.1 siRNAの調製及び細胞への添加
実施例1の1.1と同様の方法によりsiRNAの調製を行った。さらに、脂肪細胞分化誘導と同様に、細胞株としてST2を用いた。ST2細胞は、10%FBSを含有するRPMI1640培地で、37℃、CO濃度5%の条件下で培養した。上記二本鎖RNAを含有する混和した溶液を20nMとなるようにST2細胞の培養液に直接加えた。4時間後に培養液を骨芽細胞分化誘導培地として調製した10%FBS、および100ng/mlのBMP4を含有するRPMI1640培地に交換した。骨芽細胞分化誘導培地に交換した日を0日目とした。
2.2 骨芽細胞への分化誘導及び遺伝子発現量の測定
骨芽細胞分化誘導培地に交換して37℃、5%CO濃度の条件下で1日間培養した後、0.1%トリプシン溶液を用いてST2細胞を回収し、上記と同様にtotalRNAを抽出した後2本鎖cDNAを得て遺伝子発現量の測定を行った。遺伝子発現量の測定は、1.1と同様に、逆転写産物をテンプレートとしてMx3000P(Stratagene、La Jolla、カリフォルニア州)とPower SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems、Foster City、カリフォルニア州)を用いて添付のプロトコールに従い行った。
2.3 アルカリフォスファターゼ染色法
骨芽細胞の分化誘導を確認するために、上記と同様に、骨芽細胞分化誘導培地に交換して37℃、5%CO濃度の条件下で6日間培養したST2細胞をアルカリフォスファターゼ染色法により分析した。
ST2細胞をPBSで3回洗浄した後、10%ホルマリン溶液を細胞に加えて室温で20分間放置し、アセトンとエタノールを等量含んだ溶液で1分間固定し、PBSで洗浄した。ST2細胞を固定した。
次いで、アルカリフォスファターゼ染色溶液として、1mgのNaphthol AS−MX(Sigma、セントルイス ミズリー州)を50μlのN,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬、日本)に溶解し、2mMのMgClを含有する10mlの0.1M Tris−HCl緩衝液(pH8.5)に溶解させて、さらに、6mgのFast blue BB salt(Sigma、セントルイス ミズリー州)を加えて、45μmのフィルターで濾過したものを、固定したST2細胞に加えて、37℃で20分間培養した。
【実施例】
【0091】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0092】
<実施例1:骨粗鬆症の予測分析方法>
1.1:測定工程
1.1.1:骨髄内細胞中の間葉系幹細胞の抽出
全身麻酔下の骨粗鬆症に罹患していない健常者10人及び被験試料の提供者10人から骨髄穿刺により骨髄細胞浮遊液10mlを採取した。採取した骨髄細胞浮遊液10mlからキット名:例 CD105マイクロビーズ(ミルテニーバイオテク株式会社)を用いて添付のプロトコールに従い間葉系幹細胞を抽出し細胞数100,000個/mlになるように希釈した。
1.1.2:Id4mRNAの抽出と発現量の測定
上記希釈細胞液からtotalRNAをRNeasyカラム(Qiagen、ドイツ)に添付のプロトコールに従い抽出した。抽出したtotalRNA1μgをテンプレートとして、プライマーとスーパースクリプトII逆転写酵素(SuperScript II reverse transcriptase:Invitrogen、カリフォルニア州 カールズバッド)を用いて、Id4cDNAを合成した。プライマーの配列は(Id4−forward1:5'-CTCTGTCTCTCTGACCTCACAG-3')〔配列番号9〕、(Id4−reverse:5'-CCGGTGGCTTGTTTCTCTTA-3')〔配列番号11〕であった。
次いで、Id4cDNA(totalRNA1μg相当量)をテンプレートとしてMx3000P(Stratagene、La Jolla、カリフォルニア州)とPower SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems、Foster City、カリフォルニア州)を用いて添付のプロトコールに従い遺伝子発現量を測定した。
【0093】
2.1:判断工程
測定された健常者10人の発現量の値の平均値を発現量(A)として、これをコントロールとし、被験試料の提供者10人の値を発現量(B)として、これらの値をコンピューターに入力し、自動的に(B/A)×100(%)の値を算出した。上記提供者10人のうち5人について、算出した値が70%以下であったため、骨粗鬆症を発症する可能性が高いと判断した。
<実施例2:骨粗鬆症の治療剤>
2.1:Id4遺伝子を含む骨粗鬆症の治療剤の調製
実施例1と同様にしてId4cDNAを調製した。次いで、キット名:アデノウィルスCre−loxPキット(タカラバイオメディカル社製)を用いて、Id4cDNAをアデノウィルスベクターに挿入して組換えアデノウィルスベクターを作製した。得られた組換えアデノウィルスベクター10μgを緩衝液100μlに希釈して骨粗鬆症の治療剤とした。
2.2:Id4を含む骨粗鬆症の治療剤の調製
上記4.1と同様にしてId4cDNAを調製した。得られたcDNA1μgと発現ベクター(ベクター名:pCMVベクター)1μgを制限酵素:EcoRIおよびHindIIIで切断し、2本鎖cDNAを発現ベクターに連結することによりId4遺伝子発現ベクターを完成させた。次いで、緩衝液に希釈した該発現ベクター(濃度:100ng/μl)を動物細胞(細胞名:CHO−K1)へリポフェクション法により導入し、培養液DMEM培地中で、37℃、5%CO濃度の条件下で2日間培養した後、カラムクロマトグラフィーにより培養液中に産生分泌されたId4タンパクの抽出・精製を行った。得られたId4タンパクを緩衝液100μlに希釈して骨粗鬆症の治療剤とした。
【0094】
2.3:薬理試験
上記骨粗鬆症の治療剤を老人性骨粗鬆症のマウス10匹に投与し、骨髄中の脂肪蓄積及び骨量の変化を大腿骨の骨密度および尿中I型コラーゲン架橋N-テロペプチド濃度を測定することにより調べた。これらの結果から、本発明の治療剤が骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症モデルマウスに効果的な治療効果を示すことが判明した。
【0095】
<実施例3:骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法>
3.1:測定工程
3.1.1:Id4遺伝子を強制発現させた細胞の調製
Id4遺伝子を強制発現させた細胞株ST2を作成し、この細胞を培養増殖させることにより、本実施例に用いた。細胞株ST2は、10%FBSを含有するRPMI1640培地で、37℃、CO濃度5%の条件下で2日間培養した。培養した細胞を遠心分離(1,000rpm、1min、25℃)にて回収して、培養液に希釈して24ウェルプレートに 細胞数300,000個/mlになるように播種した。24ウェルプレート中で培養後1日目に被験化合物を1μMになるように添加し、同時に被験化合物を添加しない細胞(コントロール)を同条件で用意し、共に2日間培養した。2日間経過した後、個々のウェルの細胞を1.5mlエッペンドルフチューブに回収して、totalRNAをRNeasyカラム(Qiagen、ドイツ)に添付のプロトコールに従い抽出した。抽出したtotalRNAを逆転写酵素により1st strand cDNAを合成した後、得られた1st strand cDNAを鋳型としてRT−PCRを行い、遺伝子発現量を測定した。遺伝子発現量の測定は、逆転写産物をテンプレートとしてMx3000P(Stratagene、La Jolla、カリフォルニア州)とPower SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems、Foster City、カリフォルニア州)を用いて添付のプロトコールに従い行った。
【0096】
3.2:選択工程
測定された被験化合物の非存在下でのId4遺伝子の発現量をX、被験化合物の存在下でのId4遺伝子の発現量Yについてコンピューターに入力し、自動的にY/Xの計算値を算出して、1.3以上の値の化合物について骨粗鬆症の治療剤の候補物質として選択した。
【0097】
以上の結果から、本発明において、Id4遺伝子が間葉系幹細胞からの脂肪細胞への分化と骨芽細胞への分化の両者に関与する遺伝子であるという新たな知見に基づいて、Id4遺伝子の発現量をマーカーとして、骨粗鬆症を早期に予測分析できる方法を確認した。また、Id4遺伝子及びId4遺伝子がコードするタンパク質のいずれかを有効成分とする骨粗鬆症の治療剤が、骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症に特有の症状、即ち、骨髄中に脂肪細胞を蓄積すると同時に骨芽細胞が減少して骨が脆弱化する症状を治療又は予防する優れた治療効果を有することが示された。
さらに、本発明の骨粗鬆症の治療剤のId4遺伝子の発現量を用いたスクリーニング方法では、骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症の治療剤を候補物質としてスクリーニングできることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の骨粗鬆症の予測分析方法は、骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症を発症する可能性を早期に予測するために好適に利用できる。さらに、骨粗鬆症の治療剤は、骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症の治療又は予防に、好適に利用可能である。さらに本発明の骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法は、骨粗鬆症、特に老人性骨粗鬆症を治療及び予防させる候補物質のスクリーニングに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)健常者の骨髄内細胞におけるId4遺伝子の発現量Aと、被験試料である骨髄内細胞のId4遺伝子の発現量Bとをそれぞれ測定する測定工程と、
(b)該発現量Aと、該発現量Bに基づき、(B/A)×100(%)の計算値が70(%)以下である場合に、前記被験試料の提供者が骨粗鬆症になる可能性が高いと判断する判断工程と、
を含むことを特徴とする、骨粗鬆症の予測分析方法。
【請求項2】
骨髄内細胞が間葉系幹細胞である、請求項1に記載の骨粗鬆症の予測分析方法。
【請求項3】
骨粗鬆症が老人性骨粗鬆症である、請求項1から2いずれかに記載の骨粗鬆症の予測分析方法。
【請求項4】
Id4遺伝子の発現量の測定が、該遺伝子の転写産物であるRNAをDNAマイクロアレイ、RNaseプロテクションアッセイ、定量的リアルタイムPCR、およびノーザンブロットの少なくともいずれかにより定量することにより行われる、請求項1から3のいずれかに記載の骨粗鬆症の予測分析方法。
【請求項5】
Id4遺伝子の発現量の測定が、該遺伝子の遺伝子産物であるタンパク質を酵素免疫測定法(ELISA)、ウェスタンブロット、およびドットブロットの少なくともいずれかにより定量することにより行われる、請求項1から4のいずれかに記載の骨粗鬆症の予測分析方法。
【請求項6】
Id4遺伝子及びその遺伝子がコードするタンパク質の少なくともいずれかを有効成分とすることを特徴とする、骨粗鬆症の治療剤。
【請求項7】
骨髄内に直接投与される、請求項6に記載の骨粗鬆症の治療剤。
【請求項8】
骨粗鬆症が老人性骨粗鬆症である、請求項6から7のいずれかに記載の骨粗鬆症の治療剤。
【請求項9】
(a)Id4遺伝子を強制発現させた細胞を被験化合物の非存在下で培養した場合の該細胞中のId4遺伝子の発現量Xと、Id4遺伝子を強制発現させた細胞を被験化合物の存在下で培養した場合の該細胞中のId4の発現量Yと、を測定する測定工程と
(b)該発現量Xと、該発現量Yに基づき、Y/Xの計算値が1.3以上である被験化合物を、骨粗鬆症の治療剤として選択する選択工程と、
を含むことを特徴とする、骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法。
【請求項10】
Id4遺伝子を強制発現させた細胞の培養が液体培養で行われる、請求項9に記載の骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法。
【請求項11】
Id4遺伝子を強制発現させた細胞が動物細胞由来である、請求項9から10のいずれかに記載の骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法。
【請求項12】
骨粗鬆症が老人性骨粗鬆症である、請求項9から11のいずれかに記載の骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法。
【請求項13】
Id4遺伝子の発現量の測定が、該遺伝子の転写産物であるRNAをDNAマイクロアレイ、RNaseプロテクションアッセイ、定量的リアルタイムPCR、およびノーザンブロットの少なくともいずれかにより定量することにより行われる、請求項9から12のいずれかに記載の骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法。
【請求項14】
Id4遺伝子の発現量の測定が、該遺伝子の遺伝子産物であるタンパク質を酵素免疫測定法(ELISA)、ウェスタンブロット、およびドットブロットの少なくともいずれかにより定量することにより行われる、請求項9から13のいずれかに記載の骨粗鬆症の治療剤のスクリーニング方法。

【公開番号】特開2008−187899(P2008−187899A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22359(P2007−22359)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(504013775)学校法人 埼玉医科大学 (39)
【Fターム(参考)】