説明

骨補填材の充填方法及びそれに用いられる充填器具

【課題】患者の骨欠損部を拡張させて骨補填材を充填させると共に、安全性が高く、且つ、前記骨欠損部における周囲組織と骨補填材との結合力を得る。
【解決手段】拡張部24は、骨補填材12が充填される第1拡張体56と、該第1拡張体56の外部に設けられ、活性物質14が充填される第2拡張体58とを備え、前記第1拡張体56の内部において骨補填材12が硬化して患者16の骨欠損部18を補強すると共に、網目状に形成された第2拡張体58から活性物質14を前記骨欠損部18側へと導出させ、該骨欠損部18の周囲組織との結合力を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨腫瘍による骨欠損部や骨粗鬆症による椎体圧迫骨折等に骨補填材を充填する充填方法及びそれに用いられる充填器具に関する。
【背景技術】
【0002】
近時の整形外科の骨粗鬆症治療、骨折治療等においては患者の負担軽減のため低侵襲であることが重要視されている。骨粗鬆症による椎体骨折に対応して経皮的椎体形成術(PVP)が行われるに至っている。この経皮的椎体形成術で椎骨に充填する充填材としては、例えば、リン酸カルシウム系骨セメントやポリメチルメタクリレート(PMMA)等が用いられている。しかしながら、施術に際しては前記充填材を圧力を加えて骨折部位内に送り込むため、これらの充填材が骨折部位から椎体外部へと漏れる可能性があり、副作用や生体不適合性が懸念されている。
【0003】
また、骨セメントを充填する際の圧力を低下させるため、骨折した椎体内にバルーンを挿入し拡張させて、椎体内に空間を形成し、拡張用バルーンを抜き取った後に骨セメントを充填し、固化させることが行われている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、流動性の骨セメントを直接椎体内に挿入するため、椎体の外部に漏れる可能性が依然として残っている。
【0004】
そこで、近年、ハイドロキシアパタイト(HA)ブロックを用いた椎体形成術が開発され、普及しつつある(例えば、特許文献2参照)。このハイドロキシアパタイトブロックは固体であるため、骨折部位から外部へと漏れることによる副作用や生体不適合性を回避することができると共に、硬化時間を気にする必要がないという利点がある。その反面、骨の開口を大きくしなければならず、手術創が大きくなると共に、ハイドロキシアパタイトブロックが充填される骨折部位の内部容積を予め確認し、且つ、前記ハイドロキシアパタイトブロックの供給量を正確に管理する必要があり、煩雑である。
【0005】
【特許文献1】米国特許第4969888号
【特許文献2】特許第3333211号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に係る従来技術においては、骨折部位の内部に対して充填材を低圧力で充填させることができるため、該骨折部位から外部への前記充填材の漏れを抑制することが可能であるが、完全に防ぐことはできない。また、この方法では、充填材が注入される前に、骨折部位内に挿入された拡張部材を取り出す必要がある。さらに、前記充填材に用いられるポリメチルメタクリレート(PMMA)は、骨折部位における骨形成の促進が期待できず、リン酸カルシウム系骨セメント(CPC)では、前記骨折部位における骨形成に長時間を要する。
【0007】
本発明は、前記の課題を考慮してなされたものであり、患者の骨折部等の骨欠損部を拡張させて硬化させることが可能であり、骨欠損部外への漏洩による副作用の発生や補填材の不足によって所望の効果が期待できないような状態を回避し、周囲組織との結合力を増大させると共に、安全性が高く患者と術者の負担を軽減することが可能な骨補填材の充填方法及びそれに用いられる充填器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、充填器具を用いて骨欠損部に骨補填材を充填する骨補填材の充填方法において、
前記骨欠損部の内部に前記充填器具の導入管と接続された拡張部を挿入する工程と、
前記拡張部の第1拡張体に前記導入管を通じて前記骨補填材を充填させ、前記骨欠損部の内部で拡張させる工程と、
前記第1拡張体の外部側に設けられた第2拡張体に前記導入管を通じて活性物質を供給し、前記骨欠損部と前記第1拡張体との間に注入する工程と、
を有することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、充填器具の拡張部を骨欠損部の内部に挿入し、前記拡張部の第1拡張体に導入管を通じて骨補填材を充填し、該第1拡張体の外部側となる第2拡張体に対して前記導入管を通じて活性物質を供給し、前記骨欠損部と前記第1拡張体との間に注入している。
【0010】
従って、第1拡張体を含む拡張部を骨欠損部内に挿入し、該第1拡張体を介して前記骨欠損部に骨補填材を充填することにより、前記第1拡張体によって前記骨欠損部を押し広げて前記骨欠損部における十分な強度を確保することができる。そして、骨補填材が充填された第1拡張体と周囲組織との間に、第2拡張体を介して活性物質が充填されることにより、該活性物質によって前記骨欠損部における第2拡張体と周囲組織の結合力の促進を図ることができ、前記骨欠損部の強度をより一層増大させることができる。そのため、骨補填材による骨欠損部の強度確保と合わせて患者を早期に回復へと導くことができる。
【0011】
また、第1拡張体に骨補填材が充填される工程において、前記骨補填材が前記第1拡張体の外部に漏れることがないため、該骨補填材が骨欠損部外に漏洩することがなく、患者に対する安全性を確保することができる。
【0012】
さらに、骨欠損部と第1拡張体との間に注入された活性物質を、複数の孔を有する第2拡張体を通じて骨欠損部側へと導出させることにより、該導出された活性物質によって前記骨欠損部における第2拡張体と周囲組織の結合力を促進させることができる。
【0013】
さらにまた、本発明は、骨補填材を骨欠損部に充填するための充填器具において、
前記骨補填材が流通する第1通路と、該骨補填材とは別の活性物質が流通する第2通路とを有する導入管と、
前記導入管の端部に設けられ、前記骨欠損部に連通する挿入口から前記骨欠損部に挿入されると共に、前記骨補填材及び活性物質が内部に充填されることにより拡張する拡張部と、
を備え、
前記拡張部は、前記骨補填材が充填される第1拡張体と、該第1拡張体の外側の設けられると共に前記骨欠損部に臨み、前記活性物質が充填される複数の孔を有する第2拡張体とからなることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、骨欠損部に充填される骨補填材を導入管の第1通路を通じて拡張部の第1拡張体へと供給し、前記第1通路とは別の第2通路を介して活性物質を前記拡張部の第2拡張体へと供給している。そして、拡張部が骨欠損部に挿入された状態で、骨補填材が拡張部の第1拡張体に充填されることにより拡張し、前記骨欠損部を満たすと共に、前記拡張部の第2拡張体に対して活性物質を充填することにより、前記活性物質が複数の孔を通じて前記第2拡張体から骨欠損部側へと導出される。
【0015】
従って、骨補填材が充填された第1拡張体の拡張作用下に骨欠損部を好適に押し広げ、且つ、前記骨補填材によって前記骨欠損部における強度を十分に確保することができる。この場合、骨補填材は第1拡張体の外部に漏出することがないため、患者に対する安全性も確保される。
【0016】
また、第2拡張体に充填された活性物質が、該第2拡張体から骨欠損部側へと導出することにより、前記骨欠損部における骨形成が促進され骨強度を早期に増大させて骨結合力を高めることができるため、骨補填材による骨欠損部の強度確保と合わせて患者を早期に回復へと導くことができる。
【0017】
またさらに、第1及び第2拡張体を、骨欠損部の形状に応じて拡張するように形成することにより、前記第1及び第2拡張体の内部に骨補填材及び骨形成促進材を充填した際に、前記第1及び第2拡張体を骨欠損部の形状に応じて拡張させることができるため、前記骨補填材を骨欠損部に対して密に充填させることが可能となり、前記骨欠損部における強度をより増大させることができる。
【0018】
また、第1拡張体と第2拡張体の間に、活性物質の流通路を有する中間体を拡張自在に設けることにより、前記第1拡張体と第2拡張体との間に活性物質が充填されるスペースを確保することができると共に、活性物質の第2拡張体側への流通を遮断することがない。
【0019】
さらに、第2拡張体に設けられる複数の開孔は、活性物質の種類に応じて開孔径が設定されることにより、前記第2拡張体の内部から開孔を通じて骨欠損部側へと導出される活性物質の導出量を該骨形成促進材の種類に応じて自在に調整することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0021】
すなわち、骨欠損部に挿入された第1拡張体に骨補填材を充填し、該骨欠損部を押し広げて該骨補填材を硬化させることにより、前記骨欠損部における十分な強度を確保することができると共に、前記骨補填材の骨欠損部外への漏洩を防止することができ、且つ、前記第1拡張体の外部側となる第2拡張体に活性物質を充填することにより、骨欠損部における周囲組織との結合力の促進を図ることができる。そのため、骨欠損部における強度及び骨結合力を増大させて患者を早期に回復へと導くことができる。
【0022】
また、骨補填材を第1拡張体内に充填することにより、該骨補填材が外部に漏れることがなく、患者の安全性が確保されるため該患者に対する負担が軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る骨補填材の充填方法について、それに用いられる充填器具との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0024】
図1において、参照符号10は、本発明の実施の形態に係る骨補填材の充填方法に用いられ、前記骨補填材を骨欠損部に充填するための充填器具を示す。図4は圧迫骨折を有する椎体が示されており、骨腫瘍による骨欠損部や骨粗鬆症による椎体圧迫骨折等の骨欠損部について、以下に椎体圧迫骨折を用いて説明する。
【0025】
この充填器具10は、図1及び図2に示されるように、骨補填材12及び活性物質14が充填され、該骨補填材12及び活性物質14を患者16(図6参照)の骨欠損部18(図4参照)へと送出可能な注入部20と、前記注入部20が接続され、前記骨補填材12及び活性物質14を前記骨欠損部18へ導く導入管22と、前記導入管22の端部に装着され、前記骨欠損部18に挿入されると共に、前記骨補填材12及び活性物質14が充填されることによって拡張する拡張部24とを含む。
【0026】
注入部20は、骨補填材12が充填され、前記導入管22を通じて拡張部24へと供給可能な第1注入具26と、活性物質14が充填される第2注入具28とからなる。この第1及び第2注入具26、28は、筒状のハウジング30a、30bと、該ハウジング30a、30b内に変位自在に設けられるピストン32a、32bと、前記ハウジング30a、30bとピストン32a、32bとの間に設けられ、それぞれ骨補填材12及び活性物質14がそれぞれ充填される室34a、34bと、該室34a、34bと連通して外部へと開口した導出口36a、36bとを含む。すなわち、第1注入具26は、導入管22の端部に設けられた第1装着部38に導出口36aを介して接続され、第2注入具28が導出口36bを介して前記導入管22の端部に設けられた第2装着部40に接続される。
【0027】
そして、術者44(図6参照)が、それぞれピストン32a、32bを押圧して該ピストン32a、32bを導出口36a、36b側に向かって変位させることにより、第1及び第2注入具26、28の室34a、34bに充填された骨補填材12及び活性物質14が前記ピストン32a、32bによって押圧され、導出口36a、36bを通じてそれぞれ導入管22へと送出される。
【0028】
この骨補填材12には、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)系骨セメント、リン酸カルシウム系骨セメント(CPC)等を用いることができる。これらの材料を用いることにより、前記骨補填材12は流動性を有すると共に、所定時間の経過と共に徐々に硬化していくことになる。また、この骨補填材12には、リン酸カルシウム系セラミックス、アルミナセラミックス、ジルコニアセラミックス、チタンなどの無機材料からなる顆粒等を用いることができる。
【0029】
活性物質14には、例えば、コラーゲンゲル、骨形成因子溶液、低粘度アクリル系接着剤、高粘度接着剤等が用いられ、前記骨補填材12と同様に流動性を有している。
【0030】
この活性物質14としては、周囲の生体組織による線維組織や骨組織の産生を促し、第2拡張体58の開口から該第2拡張体58の内部へと生体組織を侵入させることによって、周囲組織と拡張部24との結合力を強化させるものや、周囲の生体組織と拡張部24とを直接結合させて結合力を強化させるものが好ましい。前者の例としては、コラーゲンゲル、コラーゲン−リン酸カルシウム複合体懸濁液、BMP等の骨形成因子溶液等が挙げられ、後者の例としては、低粘度アクリル系接着剤や高粘度接着剤が挙げられる。
【0031】
導入管22は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等の樹脂製材料から軸線方向に沿って長尺に形成される。すなわち、導入管22は、患部42に照射するX線に対して術者44が被曝することのない位置から遠隔操作が可能であって、且つ操作性を損なわない程度の長さに設定される(図6参照)。
【0032】
この導入管22の一端部には、拡張部24が接合されると共に、他端部側には二股状に分岐した分岐部46と、前記第1及び第2注入具26、28がそれぞれ装着される第1及び第2装着部38、40が形成される。
【0033】
また、導入管22の内部には、該導入管22の一端部から第1装着部38側に向かって貫通する第1通路48と、該導入管22の一端部から第2装着部40に向かって貫通する第2通路50とを備える。導入管22の一端部と分岐部46との間では、前記第1及び第2通路48、50が所定間隔離間して略平行に延在し、前記分岐部46から他端部側に向かって第1通路48と第2通路50とが離間するように延在して第1装着部38及び第2装着部40へとそれぞれ連通している。この第1通路48には、第1装着部38から供給される骨補填材12が流通し、第2通路50には、第2装着部40から供給された活性物質14が流通する。
【0034】
この第1及び第2通路48、50は、図3に示されるように、前記第1通路48の通路径が、第2通路50の通路径より大きく設定されている。すなわち、通路径は、第1及び第2通路48、50をそれぞれ流通する骨補填材12及び活性物質14の流通量に応じた大きさに設定されている。
【0035】
一方、導入管22の一端部では、第1通路48が拡張部24を構成する第1拡張体56に臨むように開口すると共に、第2通路50の端部が封止部材52によって閉塞されている。そして、導入管22の管壁には、第2通路50と貫通する連通孔54が形成され、該連通孔54を通して拡張部24を構成する第2拡張体58と該第2通路50とが連通する。
【0036】
すなわち、第1注入具26から第1通路48へと導出された骨補填材12が、該第1通路48を通じて拡張部24の第1拡張体56へと供給される。一方、第2注入具28から第2通路50へと導出された活性物質14が、該第2通路50及び連通孔54を通じて拡張部24の第2拡張体58へと供給される。
【0037】
また、導入管22の遠位部には、周状のノッチ55(図2参照)が半径内方向に窪んで形成されており、骨補填材12及び活性物質14を充填した後、例えば、前記導入管22の近位部を捩じることにより、拡張部24から前記導入管22を切り離すことができる。
【0038】
拡張部24は、導入管22の一端部に接続され、骨補填材12が内部に充填される第1拡張体56と、前記第1拡張体56の外部を覆うように設けられ、活性物質14が内部に充填される第2拡張体58と、前記第1拡張体56と第2拡張体58との間に設けられる中間体60とを含む3層から構成される。
【0039】
なお、前記拡張部24を骨欠損部18へと挿入して拡張させた際に、最も外側に配設された第2拡張体58の外周面が前記骨欠損部18の内面に当接することとなる。
【0040】
第1拡張体56は、例えば、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等から袋状に形成され、その内部に骨補填材12が充填される第1充填室62が形成される。この第1拡張体56は、シリコーンゴム、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー等の弾性材料によって形成してもよい。具体的には、スチレン系エラストマーとして、クレイトン(シェル化学)、カリフレックス(シェル化学)、タフプレン(旭化成工業)、タフテック(旭化成工業)、アロンAR(アロン化成)、ラバロン(三菱化学)、JSR−TR(日本合成ゴム)、JSR−SIS(日本合成ゴム)、ダイナロン(日本合成ゴム)、セプトン(クラレ)等が挙げられる。また、オレフィン系エラストマーとしては、ミラストマー(三井石油化学)、タフマー(三井石油化学)、住友TPE(住友化学工業)、サーモラン(三菱石油)が挙げられる。これらの材料には必要に応じて可塑剤等の添加剤を加えて使用しても良い。
【0041】
第1拡張体56は、第1充填室62に圧力を付与した際に、例えば、球状又は楕円形状に拡張するように形成されると共に、その耐圧強度が、200psi〜500psiの範囲内に設定される。
【0042】
第1充填室62の容積は、骨欠損部18における内部容積と略同等若しくは若干少なく設定され、前記第1充填室62に充填された骨補填材12が外部へと漏出することがない。
【0043】
この第1拡張体56は薄膜状に形成され、その肉厚は、50μm〜200μmの範囲内に設定されるとよい。好ましくは、80μm〜150μmの範囲内とすると最適である。
【0044】
また、第1拡張体56は、導入管22に接続される開口した第1接合部64を有し、前記第1接合部64が、例えば、熱融着等により導入管22の一端部に接合される。これにより、第1拡張体56が第1接合部64を介して導入管22の一端部に一体的に装着される。
【0045】
さらに、第1拡張体56には、第1接合部64と対向して一直線上となる位置に肉厚が厚く形成された保護部66が設けられていてもよい。
【0046】
また、第1拡張体56の保護部66に、孔径0.01〜0.2μmの孔を有するフィルタ67を設けることにより、流動性の骨補填材12を第1拡張体56に充填する際に、該第1拡張体56内に元々あった空気を前記フィルタ67を通じて第2拡張体58から外部へと排気することができる。これにより、拡張部24の内部における骨補填材12の充填効率を向上させることができる。なお、このフィルタ67は、合成樹脂から形成するようにしてもよいが、セラミック製とすると最適である。
【0047】
第2拡張体58は、例えば、エラストマー製の多孔フィルム、編物、不繊布等の複数の孔を有する材料からなり、特に、網目状に形成される場合にその構成が容易となる。この第2拡張体58の内部には、活性物質14が充填される第2充填室68が形成される。これにより、第2拡張体58の第2充填室68に充填された活性物質14が、複数の第1孔部70を通じて骨欠損部18側へと導出すると共に、前記骨欠損部18側に存在する患者16の生体組織が前記第1孔部70を通じて前記第2拡張体58の内部に入り込むことが可能となる。すなわち、第1孔部70を介して第2拡張体58の外部と内部とが連通している。
【0048】
この第1孔部70の大きさは、第2充填室68内に充填される活性物質14の種類に応じて設定される。例えば、骨形成因子溶液、低粘度アクリル系接着剤等を活性物質14として用いる場合には、第1孔部70の大きさを1μm〜100μmの範囲内に設定すると最適である。一方、コラーゲンゲル、高粘度接着剤等を活性物質14として用いる場合には、第1孔部70の大きさを10μm〜1000μmの範囲内となるように設定すると最適である。このように、活性物質14が、第1孔部70を通じて骨欠損部18側に導出し過ぎることがないように該活性物質14の種類に応じて前記第1孔部70の大きさが設定される。換言すれば、第1孔部70の大きさを、所望の大きさに設定することにより、該第1孔部70を通じて骨欠損部18側へと導出する活性物質14が所望量に制御される。
【0049】
また、第2拡張体58は薄膜の袋状に形成され、その肉厚が50μm〜200μmの範囲内に設定される。好ましくは、80μm〜150μmの範囲内とすると最適である。
【0050】
さらに、第2拡張体58には、導入管22に接続される開口した第2接合部72を有し、前記第2接合部72は、導入管22の一端部に対して、例えば、熱融着させることにより接合される。この際、第2接合部72は、導入管22の連通孔54より分岐部46側となる位置に接合される(図2参照)。これにより、第2拡張体58の内部と導入管22の第2通路50とが連通する。
【0051】
また、第2接合部72から連通孔54の遠位部まで第2拡張体58は、該第2拡張体58における他の部位と比較して孔の開孔径を小さくするか、若しくは、前記孔を設けない構成としてもよい。これにより、活性物質14を第2拡張体58の遠位部まで効果的に充填することができる。さらに、第2拡張体58における孔の開孔径を、該第2拡張体58の近位部から遠位部に向けて徐々に大きくするようにしてもよい。
【0052】
なお、第1及び第2拡張体56、58と導入管22とを接合する方法は、上述した熱融着による場合に限定されるものではなく、例えば、第1及び第2接合部64、72の内周面に接着剤を塗布して導入管22に接着してもよいし、図示しない加締具等によって一体的に加締めるようにしてもよい。
【0053】
中間体60は、例えば、エラストマー製の織物、編み物から網目状に形成され、所定肉厚で形成されている。なお、第1拡張体56と第2拡張体58の間を軸方向に流通路を形成するもので、前記第1拡張体56から第2拡張体58に向かって、あるいは、前記第2拡張体58から第1拡張体56に向かって形成された凸状物によって形成されていてもよい。
【0054】
この中間体60を第1拡張体56と第2拡張体58との間に設けることにより、前記第1拡張体56と第2拡張体58とを所定間隔離間させている。この中間体60は、第2拡張体58の第2充填室68内に設けられているため、該第2充填室68に充填された活性物質14が、該中間体60に形成された複数の第2孔部74内に進入して保持された状態となる。
【0055】
この第2孔部74の大きさは、第2拡張体58における第1孔部70と同様に、第2拡張体58内に充填される活性物質14の種類に応じて設定される。例えば、骨形成因子溶液、低粘度アクリル系接着剤等を活性物質14として用いる場合には、第2孔部74の大きさを10μm〜100μmの範囲内に設定すると最適であり、例えば、コラーゲンゲル、高粘度接着剤等を活性物質14として用いる場合には、第2孔部74の大きさを100μm〜2000μmの範囲内となるように設定すると最適である。換言すれば、活性物質14が、第2孔部74を通じて第2拡張体58側へと流通し過ぎることがないように該活性物質14の種類に応じて前記第2孔部74の大きさが設定される。ここで、第2孔部74の大きさとは、第1拡張体56が椎体76内で拡張した際に、該第1拡張体56と第2拡張体58及び中間体60によって形成される空間を流れる流体について考慮される大きさである。
【0056】
すなわち、第2孔部74の大きさは、第1孔部70の大きさと略同等若しくは大きくなるように設定される。これにより、第2拡張体58の内部に活性物質14が充填された際に、前記中間体60における第2孔部74の大きさが大きいため、活性物質14の流通が前記中間体60によって阻止されることがなく、前記中間体60を介して第2拡張体58へと流通して第1孔部70から外部へと導出させることができる。
【0057】
本発明の実施の形態に係る骨補填材12の充填方法に用いられる充填器具10は、基本的には以上のように構成されるものであり、前記充填器具10を用いた骨補填材12の充填方法について説明する。なお、ここでは、骨粗鬆症の患者16の患部42である椎体76内の骨欠損部18に対して骨補填材12を充填する場合について説明する。
【0058】
先ず、初期処置として患者16に対する麻酔や患部42の椎体76を露呈させる処置を行い、図4に示されるように、金属製の穿刺針78を用いて、前記椎体76に対して挿入口80を開ける。この椎体76の内部には空洞又は密度の低い骨欠損部18があり、挿入口80は該骨欠損部18に連通する。なお、この穿刺針78は、例えば、3種類程度の異なる径のものを準備し、細径のものから順に用いて挿入口80を次第に拡径させるとよい。このようにして挿入口80は拡げられ、充填器具10における導入管22の外径に適合するように調整される。
【0059】
次に、図5に示されるように、充填器具10の第1通路48に第1装着部38側から棒状のガイドロッド82を挿入し、該ガイドロッド82の先端部で第1拡張体56の保護部66を導入管22から離間させる方向へと押圧する。
【0060】
そして、袋状の拡張部24を導入管22と略一直線上となるように変形させ、前記ガイドロッド82を入れたままの状態で充填器具10を挿入口80から骨欠損部18へと挿入する。これにより、幅狭状に変形した拡張部24及び導入管22の一部が、骨欠損部18内に挿入される。この際、保護部66は、第1拡張体56における他の部位より肉厚に形成されているため、ガイドロッド82の先端で押圧された場合でも損傷することがなく、前記ガイドロッド82による押圧力を確実且つ安定して付与することができ、拡張部24を拡張させることが可能である。なお、図示しない管状体を用いて経皮的に椎体76に連通部を形成し、該管状体の内腔を通して充填器具10を挿入してもよい。
【0061】
図6に示すように、X線装置84を動作させて患部42にX線を照射する。このX線装置は、X線の照射部86と、検出部88と、該検出部88で検出したX線を画像として処理する処理部90と、得られた画像をリアルタイムで表示するモニタ92とを有する。これ以後、術者44は、モニタ92の画像を見ながら手技を行うことができる。なお、この術者44と患部42との間にはX線非透過性のパーテーション94を設けておくと好適である。
【0062】
この場合、導入管22は、軸線方向に沿って適度な長さを有していることから遠隔操作が可能であって、照射部86は患部42に対してのみX線を照射しており、しかもパーテーション94が設けられていることから、術者44の手元及びその他の部分が被曝することがない。すなわち、術者44が経皮的椎体形成術を高頻度に行った場合でもX線の被曝量及びその蓄積量は極めて小さい。
【0063】
次に、ガイドロッド82を導入管22から離脱させ、骨補填材12が充填された第1注入具26を第1通路48の端部となる第1装着部38に装着する(図1参照)。そして、術者44が第1注入具26のピストン32aを押圧することにより、前記第1注入具26の導出口36aから第1通路48へと骨補填材12が送出され、前記骨補填材12が第1拡張体56の第1充填室62へと供給される。これにより、図7に示されるように、第1拡張体56が骨補填材12の充填により拡張し、前記第1拡張体56を介して骨欠損部18の内部に骨補填材12が満たされていく。これにより、骨欠損部18が骨補填材12の充填作用下に押し広げられ、骨折前の状態へと復帰させることができる。この際、骨補填材12は硬化性を有しているため、骨欠損部18内において徐々に硬化していく。
【0064】
そして、第2装着部40に装着され、活性物質14が充填された第2注入具28のピストン32bを押圧することにより、前記第2注入具28の導出口36bから第2通路50へと活性物質14が送出され、前記活性物質14が連通孔54を通して第2拡張体58の第2充填室68へと供給される。これにより、第1拡張体56の外部側となるように活性物質14が第2充填室68に充填されて骨欠損部18を満たすように第2拡張体58を拡張させる。この際、活性物質14は、第2充填室68に設けられた中間体60の第2孔部74に満たされ、該第2孔部74を通じて第2拡張体58の第1孔部70へと流通し、該第1孔部70から拡張部24の外部へと導出する。
【0065】
最後に、骨補填材12が所定時間経過して硬化したことを確認し、拡張部24側となる導入管22の一端部側を切断する。この際、導入管22の切断部位は、患者16を傷つけることがないよう患部42に対して十分な距離を確保した位置で行われる。これにより、活性物質14及び硬化した骨補填材12が充填された拡張部24が、骨欠損部18に満たされることにより、該骨欠損部18において十分な補強がなされる。そして、患部42の縫合等の所定の後処置を行い、経皮的椎体形成術を終了する。
【0066】
なお、骨欠損部18に充填された拡張部24に対して導入管22を離脱させる方法は、該導入管22の一端部側を切断する場合に限定されるものではなく、例えば、前記導入管22の一端部側に予め溝部を形成して強度を局部的に小さくしておき、拡張部24に対する充填作業が完了した後に、前記導入管22を捩じることによって前記溝部を折るようにしてもよい。
【0067】
以上のように、本実施の形態では、骨補填材12が充填される第1拡張体56と、該第1拡張体56を覆うように設けられ、活性物質14が充填される第2拡張体58とを備え、前記第1拡張体56で骨補填材12を硬化させて骨欠損部18の強度を十分に確保すると共に、第2拡張体58に設けられた第1孔部70を通じて活性物質14を前記骨欠損部18側へと導出させ、前記活性物質14によって骨欠損部18における骨形成を促進させることができる。
【0068】
換言すれば、骨補填材12が充填された第1拡張体56が椎体76の内部に残存するが、該第1拡張体56の外部に骨欠損部18と結合可能な活性物質14を備えることにより、前記骨補填材12を備えた拡張部24を周囲組織に対して確実且つ好適に結合させることができる。
【0069】
その結果、患者16の骨欠損部18は、第1拡張体56の骨補填材12で押し広げられた上に十分な強度が確保され、且つ、第2拡張体58に充填された活性物質14によって拡張部24の周囲における組織形成が促進されるため、前記骨欠損部18における骨の強度を増大させて患者16を早期に回復へと導くことができる。
【0070】
また、第2拡張体58は、無数の第1孔部70を有する網目状に形成されているため、前記第1孔部70を通じて骨欠損部18側から該第2拡張体58の内部に生体組織が入り込むと共に、該第1孔部70を通じて活性物質14が周囲に導出することにより、第2拡張体58を介して周囲組織と拡張部24とを互いに強固に結合させることができる。これにより、患者16の周囲組織と拡張部24とを一体的に同化させ、骨結合力を高めることができる。
【0071】
さらに、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、リン酸カルシウム系骨セメント(CPC)等からなる骨補填材12が、骨欠損部18において第1拡張体56で覆われているので、該第1拡張体56の外部となる前記骨欠損部18側へと漏出することがない。これにより、骨欠損部18に対して骨補填材12を使用した場合の安全性を確保することができる。
【0072】
さらにまた、骨補填材12及び活性物質14が第1及び第2拡張体56、58に充填されることにより、拡張部24が骨欠損部18の内部に拡張する。このように、骨欠損部18の形状に応じて拡張自在な第1及び第2拡張体56、58を備えることにより、骨補填材12及び活性物質14を骨欠損部18の形状に応じて十分に充填させることができる。そのため、骨欠損部18を押し広げて椎体76の上下の端版を骨折前の状態に近づけ、前記骨欠損部18を含む椎体76において十分な強度を確保することが可能となる。
【0073】
またさらに、充填器具10を用いて経皮的椎体形成術を行う場合に、導入管22は軸線方向に沿った適度な長さを有するため、術者44は患部42から離れた遠隔操作が可能であり、患部42に照射するX線の術者44に対する被曝量を極めて少なくすることができる。
【0074】
また、骨欠損部18に対して流動性の骨補填材12を用いる場合、固形の骨補填材を充填させる場合と比較し、拡張部24を介して流動性である骨補填材12をより一層密に前記骨欠損部18へと充填させることが可能となるため、前記骨欠損部18における強度を一層増大させることができる。
【0075】
なお、上述した本発明の実施の形態に係る充填器具10では、第1拡張体56、第2拡張体58及び中間体60の3層から拡張部24を構成する場合について説明しているが、図9に示す充填器具100のように、前記中間体60を設けずに前記第1及び第2拡張体56、58からなる2層構造としてもよい。
【0076】
また、上述した充填器具10を用いた経皮的椎体形成術の適用対象は椎体76に限らず、これ以外の骨欠損部18に対しても適用可能である。
【0077】
本発明に係る骨補填材の充填方法及び充填器具は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施の形態に係る骨補填材の充填方法に用いられる充填器具の一部断面全体構成図である。
【図2】図1の充填器具における拡張部近傍を示す拡大断面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】患者の椎体に対して穿刺針で挿入口を開けた状態を示す断面図である。
【図5】図4の挿入口からガイドロッドを介して拡張部及び導入管の一部を骨欠損部に挿入した状態を示す断面図である。
【図6】X線装置及び充填器具を用いて経皮的椎体形成術を行う様子を示す模式図である。
【図7】図5の拡張部を構成する第1拡張体に対して導入管を通じて骨補填材を供給した状態を示す断面図である。
【図8】図7の拡張部を構成する第2拡張体に対して導入管を通じて骨形成促進材を供給した状態を示す断面図である。
【図9】第1及び第2拡張体のみから拡張部を構成した充填器具の変形例を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0079】
10、100…充填器具 12…骨補填材
14…活性物質 18…骨欠損部
20…注入部 22…導入管
24…拡張部 26…第1注入具
28…第2注入具 48…第1通路
50…第2通路 54…連通孔
56…第1拡張体 58…第2拡張体
60…中間体 62…第1充填室
64…第1接合部 68…第2充填室
72…第2接合部 76…椎体
80…挿入口 82…ガイドロッド
84…X線装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填器具を用いて骨欠損部に骨補填材を充填する骨補填材の充填方法において、
前記骨欠損部の内部に前記充填器具の導入管と接続された拡張部を挿入する工程と、
前記拡張部の第1拡張体に前記導入管を通じて前記骨補填材を充填させ、前記骨欠損部の内部で拡張させる工程と、
前記第1拡張体の外部側に設けられた第2拡張体に前記導入管を通じて活性物質を供給し、前記骨欠損部と前記第1拡張体との間に注入する工程と、
を有することを特徴とする骨補填材の充填方法。
【請求項2】
請求項1記載の充填方法において、
前記骨欠損部と前記第1拡張体との間に注入された前記活性物質が、複数の孔を有する前記第2拡張体を通じて前記骨欠損部側に導出することを特徴とする骨補填材の充填方法。
【請求項3】
骨補填材を骨欠損部に充填するための充填器具において、
前記骨補填材が流通する第1通路と、該骨補填材とは別の活性物質が流通する第2通路とを有する導入管と、
前記導入管の端部に設けられ、前記骨欠損部に連通する挿入口から前記骨欠損部に挿入されると共に、前記骨補填材及び活性物質が内部に充填されることにより拡張する拡張部と、
を備え、
前記拡張部は、前記骨補填材が充填される第1拡張体と、該第1拡張体の外側の設けられると共に前記骨欠損部に臨み、前記活性物質が充填される複数の孔を有する第2拡張体とからなることを特徴とする骨補填材の充填器具。
【請求項4】
請求項3記載の充填器具において、
前記第1及び第2拡張体は、前記骨欠損部の形状に応じて拡張するように形成されることを特徴とする骨補填材の充填器具。
【請求項5】
請求項3又は4記載の充填器具において、
前記第1拡張体と第2拡張体の間には、活性物質の流通路を有する中間体が拡張自在に設けられることを特徴とする骨補填材の充填器具。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の充填器具において、
前記第2拡張体に設けられる複数の開孔は、近位側の開孔に比べて遠位側の開孔の開孔径が大きく設定されることを特徴とする骨補填材の充填器具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−260359(P2007−260359A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93369(P2006−93369)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【出願人】(304050912)オリンパステルモバイオマテリアル株式会社 (99)
【Fターム(参考)】