説明

高い初期輝度を有する耐湿性エレクトロルミネッセンス蛍光体及びその製造方法

【課題】
【解決手段】夫々の個別蛍光体粒子が無機コーティング、好ましくはオキソ水酸化アルミニウムによってカプセル化されたエレクトロルミネッセンス(EL)蛍光体が記述されている。カプセル化された蛍光体は、大気中の湿気に対して極めて反応しにくく、ランプにおける初期輝度の軽微なロスだけが問題となる。コーティングを塗布する方法は、ハイブリッドプロセスであり、EL蛍光体粒子を、複数の繰り返しサイクルにおいて複数の前駆材料が連続的に取り込まれる流動床で原子層成長(ALD)法を使用した薄い無機膜でコーティングし、その後に、複数の前駆材料が同時に取り込まれる化学気相成長(CVD)法によって追加のコーティング層を重ねる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮出願60/766,542(2006年1月26日出願)の利益を主張する。
【0002】
本発明は、エレクトロルミネッセンス蛍光体に関し、より詳細には耐湿性処理が施されたエレクトロルミネッセンス蛍光体に関する。更に詳細には、本発明は湿気に起因する特性低下が大幅に軽減されると共に高い初期輝度を有するエレクトロルミネッセンス蛍光体に関する。
【背景技術】
【0003】
エレクトロルミネッセンス(EL)ランプは、一般的に2種類に分類される。即ち、(1)通常、CVD(化学気相成長)法又はスパッタリング法のような蒸着技術によって、硬いガラス基板の上に蛍光体及び誘電性材料からなる複数の膜を交互に積層させることによって形成される薄膜ELランプと、(2)複数の粒子材料が樹脂中に分散され、プラスチックシート上に交互に重なる複数の層の状態にコーティングされることによって形成される厚膜ELランプである。後者の場合、厚膜エレクトロルミネッセンスランプは薄くて柔軟性がある照明装置を構成することができるため、非常に幅広い用途に適用することができる。
【0004】
従来の厚膜ELランプの断面図を、図1に示す。ランプ2は2つの誘電性層20及び22を有している。プラスチック膜12bをコーティングしている第1導電性材料4は、例えばグラファイトであり、ランプ2の第1電極を形成している(この電極は、金属箔を含んでいてもよい)。一方、第2プラスチック膜12aをコーティングしている透明な導電性材料6からなる薄い層は、例えば酸化インジウム錫(ITO:Indium Tin Oxide)であり、第2電極を形成している。2つの導電性電極4及び6の間に挟持されているのは、例えばシアノエチルセルロース、シアノエチルスターチ、ポリ(メチルメタクリレート/エチルアクリレート)及び/又はフッ化炭素ポリマーである誘電性材料14からなる2つの層20及び22である。強誘電性材料10からなる粒子が埋め込まれた誘電性材料14の層は、第1電極4に隣接しており、好ましくはチタン酸バリウムがよい。エレクトロルミネッセンス蛍光体8の複数の粒子が埋め込まれている誘電性材料14の層は、第2電極6に隣接している。交流電圧がこれらの電極に印加されると、可視光が蛍光体から発せられる。
【0005】
厚膜ELランプに適用可能なエレクトロルミネッセンス蛍光体は、例えば銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、マンガン(Mn)、臭素(Br)、ヨウ素(I)及び塩素(Cl)のような様々な活性剤をドープされた硫化亜鉛から主に構成されている。硫化亜鉛を基質としたEL蛍光体の例が、米国特許第5,009,808号、5,702,643号、6,090,311号、及び5,643,496号に記述されている。好ましいEL蛍光体には、塩素(Cl)及び/又はマンガン(Mn)を一緒にドープされてもよいZnS:Cu蛍光体が含まれる。
【0006】
エレクトロルミネッセンス蛍光体の輝度は、特にZnS:Cu蛍光体においては、電場を印加している間に湿気が存在することによって、著しく低下してしまう。硫化亜鉛を基質とした蛍光体の輝度低下は、硫黄欠陥或いは硫黄空孔の増加によって引き起こされることが知られている。ここで、硫黄欠陥は次の反応式によって生成される。
ZnS + 2HO → SO + Zn + 2H
硫黄はSOの形で蛍光体から抜け出ていき、その結果、硫黄欠陥と亜鉛がその蛍光体内に取り残される。
【0007】
従って、ELランプの発光を延命するためには、湿気防止策を取り入れることが重要である。典型的には、EL蛍光体の個別粒子は、湿気に起因する特性低下に対する抵抗性を改善するために、無機コーティングでカプセル化されている。そのようなコーティングの例が、米国特許第5,220,243号、5,244,750号、6,309,700号、及び6,064,150号に記載されている。これらの無機コーティングは、蛍光体がガス流動床内に固定されている間に、化学気相成長(CVD:chemical vapor deposition)反応を経由して形成される。一般的に、薄く連続的なコーティングが複数の蛍光体粒子の表面に積層され、それによって大気中の湿気の影響からそれらを保護する。
【0008】
EL蛍光体にとって好ましいコーティングは、トリメチルアルミニウム(TMA)の加水分解によって生じる。加水分解TMAコーティングやCVD法のプロセスは、参照することにより本明細書に組み込まれる米国特許第5,080,928号、及び5,220,243号に記載されている。加水分解TMAコーティングの構成成分は、主にオキシ水酸化アルミニウム(AlOOH)であると考えられるが、化学反応の条件によって、酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムとの間で成分を変更してもよい。加水分解TMAコーティングの成分は酸化アルミニウム(Al)から水酸化アルミニウム(Al(OH))の幅広い範囲を包含することが理解されているが、ここでは便宜上、オキシ水酸化アルミニウム(AlOOH)であるとする。TMAと水分との反応は、次のように記述することができる。
Al(CH + (3+n)/2HO → AlO(3−n)/2(OH) + 3CH (0≦n≦3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図2は、50℃の温度で相対湿度90%の下にあるELランプにおいて駆動されている従来のAlOOHがCVDコーティングされたEL蛍光体について、100時間後輝度維持率(100-hour maintenance)をアルミニウム含有量(即ち、コーティングの膜厚)の関数として表したグラフである。100時間後輝度維持率は、「100時間後における光出力量(100-hour light output)」を「0時間後における光出力量(0-hour light output)」で割り、100%を掛けたもの、即ち、(100時間後における光出力量/0時間後における光出力量)×100%として定義される。このようなコーティングされていない蛍光体と比べて、CVD法によってコーティングされたEL蛍光体は常に、コーティングプロセスの結果、初期輝度に大きなロスが生じるという問題を有している。この輝度減少は、外側のコーティングが存在することによって蛍光体粒子内部の電場が減少することに起因しているものと推測されている。
【0010】
本明細書では、「初期輝度(IB:initial brightness)」とは、エレクトロルミネッセンスランプが初めて駆動されたときの、エレクトロルミネッセンスランプにおける蛍光体の輝度を意味する。測定をするため、或いは、ランプの光出力量が安定するのを許容するために、数分の短い期間が経過してもよい。これは、「0時間後における輝度(0-hour brightness)」という場合もある。湿気に起因する特性低下によって輝度は急速に低下するので、初期輝度を測定するために、耐湿性容器内においてコーティングがされていない蛍光体を含んでいるELランプをラミネート加工するのが好ましい。コーティングされたEL蛍光体における初期輝度保持率(RIB:retained initial brightness)は、百分率として表され、同条件下においてELランプで駆動されているコーティングされていない同様のEL蛍光体の初期輝度に基づいて決定される。即ち、RIB=(IB(コーティングあり)/IB(コーティングなし))×100%である。好ましくは、本発明に係るコーティングされたEL蛍光体における初期輝度保持率は、少なくとも90%である。
【0011】
原子層成長法(ALD:atomic layer deposition)は、従来のCVD法に比べて、湿気防止のレベル及び初期輝度の高さのレベルを同等に保ちつつ、同時にEL蛍光体粒子上のコーティングを薄くすることができることが見出されている。ALD法は、積層プロセスにおいて原子レベルでの制御を可能にするため、魅力のある薄膜積層技術である。ALDコーティングは、順応性、均一性、再現性、及び正確な膜厚の制御のような多くの優れた特徴を有している。実のところ、ALD法は、気相中の反応炉に同時に2つの化学蒸着前駆材料の双方が存在しないように、定期的に積層システムに2つの蒸着前駆材料を注入するという特殊なタイプのCVD法である。このようにする目的は、ALD積層をしている間に、ガス中ではなく、基板上で前駆材料を反応させるためである。ALDコーティングプロセスの例は、参照することにより本明細書に組み込まれる米国特許第6,913,827号及び6,613,383号に記載されている。
【0012】
ALD積層プロセスにおいて、第1の前駆材料が単原子層として表面に吸着される。このとき、システムは余分な前駆材料を取り除くためにパージされる。第2の前駆材料は、吸着している物質と反応させるために注入される。このとき、システムは再びパージされる。キャリアガスの流れ(典型的には、窒素(N))と真空ポンプは、夫々の前駆材料パルスの後に、パージするために用いられている。ALD積層サイクルは、10から20秒のオーダーの夫々の前駆材料投与時間で、所望の膜厚が達成されるまで繰り返される。これにより、半導体デバイス上における高アスペクト比を特徴とするような非常に複雑な表面上に、均一に積層することができる。この反応は自己制限的(self-limiting)であり、成長レートは典型的には、サイクル毎に0.1から1.5Åのオーダーであり、その結果、非常に欠陥の少ない膜を成膜することができる。このコーティングでは実質的に一度に一つの単原子層が形成されるので、ALD法は従来のCVD法に比べて、より密度の高いコーティングを達成することができる。
【0013】
少なくとも約900Å、より好ましくは約1200Å以上のコーティング膜厚が、湿気に起因する特性低下からEL蛍光体を効果的に保護するために必要であることが、ALD法が適用されたオキシ水酸化アルミニウムのコーティングについて証明されてきた。約1200Åの膜厚に達するためには、800回のオーダーのALD積層サイクルを必要とする。コストの効率性と製造施設の規模を考えると、より少ないALDサイクル、好ましくは100回以下のALD積層サイクルで同等のパフォーマンス(高い初期輝度及び高い耐湿性)が達成できるようにすることが望まれる。そうしないと、EL蛍光体において強い耐湿バリアを形成するためには、ALD法は時間がかかり、あまり費用的に効率的でない方法になってしまう。
【0014】
米国特許第5,080,928号及び第5,220,243号に記載されているCVD法は、ALD法に比べて初期輝度のロスをより大きくする原因となるが、CVD法は商用的な規模において、良好に実証されている。従って、CVD法とALD技術の難点を最小限にしつつ、夫々の利点をとったハイブリッドコーティング法を供給し、強力な耐湿性と高い初期輝度保持率をEL蛍光体に供給することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従って、本発明の一態様では、各々の粒子が無機コーティングでカプセル化されており、硫化亜鉛を基質としたエレクトロルミネッセンス蛍光体の複数の個別粒子を備えたエレクトロルミネッセンス蛍光体が提供される。前記蛍光体は、50℃の温度で相対湿度が90%の下で、400Hzの100V電圧で駆動されているエレクトロルミネッセンスランプに組み込まれると、少なくとも90%の初期輝度保持率及び少なくとも60%の100時間後輝度維持率を示す。更に好ましくは、50℃の温度で相対湿度が90%の下のエレクトロルミネッセンスランプで駆動されたとき、前記初期輝度保持率は少なくとも90%あり、前記100時間後輝度維持率が少なくとも75%であるとよい。
【0016】
本発明の他の態様では、(a)エレクトロルミネッセンス蛍光体粒子の流動床を形成する工程と、(b)第1気相前駆材料を流動床に取り込む工程と、(c)前記流動床をパージする工程と、(d)前記第1気相前駆材料と反応させて前記蛍光体粒子に無機コーティングを形成するために、第2気相前駆材料を前記流動床に取り込む工程と、(e)前記流動床をパージする工程と、(f)所望コーティング膜厚に達するまで、工程(a)から(e)を繰り返す工程と、(g)前記コーティング膜厚を更に増加するために、前記第1及び第2気相前駆材料を流動床に同時に取り込む工程とを含むハイブリッドALD/CVDコーティング法が提供される。
【0017】
AlOOHが好ましいコーティングであるが、他の無機コーティングが同様の効果を伴って本発明の方法によってエレクトロルミネッセンス蛍光体に適用されてもよい。そのような他の無機コーティングには窒化アルミニウム、二酸化シリコン、二酸化チタンが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、夫々の個別蛍光体粒子が無機コーティング、好ましくはオキシ酸化アルミニウムによってカプセル化されたエレクトロルミネッセンス蛍光体である。カプセル化された蛍光体は、大気中の湿気に対して極めて反応しにくく、ランプにおける初期輝度の軽微なロスだけが問題となる。本発明に係る方法は、EL蛍光体粒子に初期輝度のロスがほとんどないコーティングを与えるALD法のメリットと、大規模な製造技術として実証されているCVD法のメリットを結びつけている。
【0019】
特に、本発明に係る方法は、ハイブリッドコーティングプロセスであり、最初に流動床でALD法を使用した薄い無機膜でEL蛍光体粒子をコーティングし、続いてCVD法によって追加のコーティング層を重ねる。より好ましい方法では、ALDコーティングは蛍光体粒子の表面上に一度に1つの単原子層をオキシ水酸化アルミニウムで実質的に積層するために、ABAB...というシークエンスで気化されたトリメチルアルミニウム(TMA)と水蒸気を交互に投入し、蛍光体粒子を流動床に取り込むことによって形成される。これら2つの前駆材料は、気相での反応を防ぐためにパルス間のパージを行いながら、コーティング反応炉に向かって不活性キャリアガスとともに順次パルス的に注入される。流動床の反応炉は、450Kの温度で1Torrの圧力に保たれている。夫々の材料パルスのペア(1サイクル)は単原子層を形成するので、その結果得られる膜厚は、積層サイクルの数によって正確に制御することができる。
【0020】
コーティングの膜厚は、蛍光体に積層されたアルミニウムの量と関連付けられる。例えば、約0.2重量%(wt.%)のアルミニウムは、約110ÅのAlOOHコーティング膜厚と同等である。これはまた、100回のALDサイクルによって積層される量でもあり、EL蛍光体に適用されるALDコーティングの好ましい量でもある。コーティングの膜厚は、スパッタ中性粒子質量分析(SNMS:Sputtered Neutral Mass Spectroscopy)測定と基準材料として標準的なTa膜を用いることによって見積もられる。
【0021】
このとき、ALDコーティングされた蛍光体は、CVD法を使用することによって、流動床の反応炉において更にコーティングされる。CVDプロセスは、気化されたTMA及び水蒸気を前駆材料として、温度が450Kで大気圧の圧力に保たれた流動床の反応炉に同時に入れることによって、実行される。CVDプロセスは、複数の反応物が同時に取り込まれ、反応炉を繰り返しパージする必要がないので、ALD法に比べて、AlOOHコーティングをより迅速に形成する。温度が50℃で90%の相対湿度の下でELランプにおいて100時間後輝度維持率の要求を満足するために、CVDプロセスは積層されたアルミニウムの総量が約1重量%から約2.5重量%、より好ましくは少なくとも約2.2重量%に達するまで続けられることが好ましい。
【0022】
本発明は、以下の実施例において参考文献と共に、更に詳細に述べられる。しかしながら、本発明は決してそのような特定の実施例に限定されることはない。
【実施例】
【0023】
厚膜エレクトロルミネッセンステストランプは、以下の一般的な方法によって構築される。蛍光体は、結合剤(デュポン(DuPont) 超小型回路材料(Microcircuit Materials) Luxprint(登録商標) 8155 結合剤)と混合される。液体結合剤中の蛍光体の百分率は、60重量%(wt%)である。蛍光体懸濁液は、酸化インジウム錫(ITO)からなる透明な導電層を有するPETフィルム、例えばCPフィルム(CP Films)から入手可能であるOC−200上にスクリーン印刷される。ポリエステルスクリーンは、1インチあたり、137若しくは140本のスレッドを有している。乾燥後、誘電性層が、チタン酸バリウムで満たされた誘電性インク(デュポン 超小型回路材料 Luxprint(登録商標) 8153 エレクトロルミネッセンス誘電性絶縁体)の2つの塗布物によって形成される。誘電体層は、蛍光体層上に塗布され、塗布物間で乾燥される。誘電体層を乾燥させた後、後面の炭素電極(デュポン 超小型回路材料 Luxprint(登録商標) 7144 炭素導電体)が誘電体層上に付加される。これらの層をエレクトロルミネッセンスランプに適用する好ましい方法は、スクリーン印刷であり、「シルクスクリーニング(silk-screening)」ともいう。しかしながら、ドローブレードコーティングやロールトゥーロールコーティングのような他のコーティング技術でもうまく使用することができるだろう。乾燥後、エレクトロルミネッセンスランプは、輝度及び輝度の維持率の測定が可能な状態にある。湿度チャンバーにおいてテストされるランプは、液体状の水がランプ内に入ってくるのを防ぐために、後面の炭素電極がカバーされている必要がある。この場合、薄く加圧により粘着するテープ(3M Scotch 821 テープ)が炭素電極に貼り付けられる。
実施例1
約2.0キログラムの緑色発光するZnS:Cuエレクトロルミネッセンス蛍光体(Type 729、 オスラム・シルバニアプロダクツ社 トワンダ市、ペンシルバニア州)が、ALDコーティングのために振動性流動床の反応炉に投入される。流動床の反応炉は、ガス分配機としてメタルディスクを備えたステンレススチール製の容器である。高純度の窒素が、流動ガスとして使用されている。反応炉の全体は、2つ折り型の炉によって囲まれており、反応炉の温度は450Kに保たれている。トリメチルアルミニウム(TMA)及びイオン除去された水が前駆材料として用いられ、その反応はオキシ水酸化アルミニウムコーティングを積層するために、2つの自己制限半反応(self-limiting half reaction)に分けられている。一連の空気圧で稼働されるバルブは、コーティングサイクルの間、自動的且つ連続的に前駆材料の投入を制御する。両方の前駆材料はそれらの蒸気圧を経由して送られ、システムは気体の排出を行い、常に1.0Torrの低圧力に保たれている。夫々の前駆材料が投入された後、システムは反応しなかった前駆材料を取り除くために、反応中に生成されたメタンなどと一緒に窒素で一掃される。このプロセスは、ALDコーティングされた蛍光体を形成するために、ALDコーティングサイクルを100回続けられる。
実施例2
この実施例では、実施例1において作成されたALDコーティングされた600グラムのEL蛍光体が、全長が60cm、内径4.1cmのガラス管に充填された。反応炉における蛍光体粒子の床は、反応炉の底部における細孔の大きさが5μmである金属フリットを通じて、TMA前駆材料と共に窒素ガスを流すことによって流動された。窒素ガスの流れ中に混入された水蒸気は、中空攪拌機を通じて反応炉の中に導かれ、攪拌機内に置かれている金属製の多孔性スパージャーを通じて粒子の流動床に取り込まれた。気化されたTMAと水蒸気はともに、同時に且つ連続的にコーティングプロセスが終了するまで反応炉に流れ込んだ。このTMAと水蒸気の気泡管は、夫々、41℃と74℃に保たれた。TMAと水蒸気の気泡管を通じて窒素キャリアガスが流れ込む割合は、夫々、1.5リットル/分と2.0リットル/分に制御された。加えて、反応炉の温度は、反応炉の周囲にある炉要素によって450Kに保たれた。流動床の反応炉は、常に大気圧の下で駆動された。いくつかの50グラムのサンプルが、2時間のコーテイング実行中における異なる複数の時間に、反応炉から採取された。これらのサンプルは、CVD#1(1時間)、CVD#2(1.25時間)、CVD#3(1.5時間)、CVD#4(1.75時間)、CVD#5(2時間)を含んでいる。これらのサンプルは、ランプテストのために提出され、原子吸光分析法(Atomic Absorption Spectroscopy)によってアルミニウム濃度が分析された。
実施例3
本実施例における蛍光体は、CVDコーティング時間が4.0時間にまで延長されたことを除いて、実施例2と同様に作成された。本実施例から収集されたサンプルは、CVD#6(2.5時間)、CVD#7(3時間)、CVD#8(3.5時間)、CVD#9(4時間)を含んでいる。
【0024】
実施例1において使用されたのと同様のコーティングされていない蛍光体から作られた従来のCVDコーティングされた蛍光体である対照サンプル(control sample)は、ALD/CVDコーティングされた例と比較してテストされた。この蛍光体は気化されたTMA及び水蒸気の前駆材料を同時に流動床からなる反応炉に取り込むことによってカプセル化され、流動床はCVDコーティングプロセスの間、大気圧で温度が450Kに保たれた。コーティングプロセスは、積層されたアルミニウムの量が、従来のCVD法の場合において初期輝度保持率及び高い耐湿性の最良の組み合わせになるコーティング膜厚に相当する3.8重量%になるまで続けられた(図2参照)。追加の対照(control)として、ALDコーティングがなされた蛍光体が、同様のコーティングがされていない蛍光体を使用する800回のALD積層サイクルによって形成された。
【0025】
厚膜エレクトロルミネッセンステストランプは、カプセル化された蛍光体だけでなく、コーティングされていない蛍光体をも含むように形成された。コーティングされていない蛍光体を含むコントロールランプは、ハネウェル(Honeywell)社製の防水性透明フィルムであるACLARで特別にパッケージされているので、コーティングされていない蛍光体の湿気に対する反応性を最小限にすることができた。カプセル化された蛍光体を含む同一の複数のランプは、2つの環境下において100時間の間、40Hzの100Vの電圧で駆動された。ランプテスト#1では、条件は21℃の温度で相対湿度が50%である。ランプテスト#2では、加速環境試験が50℃の温度で相対湿度が90%のチャンバー内で行われた。
【0026】
ランプと蛍光体の測定結果は、表1及び2にまとめられている。湿気に起因する特性低下に敏感な蛍光体は、加速環境試験において、光出力量が急速な減少を示し、その結果100時間後輝度維持率が低い。ALDコーティング及びALD/CVDコーティングされた蛍光体のアルミニウム含有量は、コーティングされた蛍光体の全体の重量の百分率として表され、決定された。
【0027】
表1及び表2に示すように、ALD/CVDコーティングされたランプの100時間後輝度維持率(表中、維持率.% 100時間/0時間)は、アルミニウムの量が増加するに従い、即ちAlOOHコーティング膜厚が増加するに従って、増加する。100時間後輝度維持率に対する蛍光体のアルミニウム含有量をプロットすることによって(図3)、100時間後輝度維持率は、アルミニウム含有量が約0.6重量%以上では、その後に徐々に横ばい状態となるアルミニウム含有量が1.1重量%に達するまで、コーティング重量との線形関係が改善することが示される。
【0028】
表を再び参照すると、サンプルCVD#7(アルミニウム含有量は1.9重量%)におけるコーティングは、まだ薄すぎて、標準的なCVDコーティングされた蛍光体と湿気防止のレベルが同じ蛍光体を供給することができない。尚、夫々の100時間後輝度維持率は、74.3%と76.1%である。800サイクルでは、ALDコーティングされた蛍光体(アルミニウム含有量は1.6重量%)は、標準的なCVDコーティングされた蛍光体の100時間後輝度維持率と一致し、夫々76.9%と76.1%である。従って、より薄い800サイクルALDコーティングされた蛍光体は、わずかに厚いサンプルCVD#7(アルミニウム含有量が1.9重量%)よりも、よい100時間後輝度維持率をも有する。
【0029】
800サイクルのALDコーティングされた対照(control)(76.9%)及びCVDコーティングされた対照(76.1%)と同様の100時間後輝度維持率のパフォーマンスを得るために、ALD/CVDコーティングされた蛍光体におけるコーティング重量は、800サイクルのALDコーティングされた対照に比べて0.6重量%高い約2.2重量%を少なくとも必要とする。ALD/CVDハイブリッドコーティングプロセスによって生成されたサンプルCVD#8及びCVD#9の双方は、800サイクルのALD/CVDコーティングされた対照と比較して、同等若しくはそれ以上の100時間後輝度維持率を有する。コーティングがされていない素の蛍光体と比較して、これら2つのALD/CVDコーティングされた蛍光体は、CVDコーティングされた対照によって問題となる20%のロスに比べて、初期輝度の8−9%だけのロスしか問題とならない。800サイクルのALDコーティングされた対照はコーティングの後、約4%の初期輝度のロスしかないものの、コーティングを形成するために必要とされる800ALDサイクルに求められる時間は、サンプルCVD#8及びCVD#9において用いられている100ALDサイクルとCVDコーティングが結合されたものより、非常に長くなる。結果として、本発明に係るハイブリッドALD/CVDコーティング法は、800サイクルALDプロセスに比べて、よりコスト面の効率がよく、蛍光体の初期輝度の少なくとも90%を保持することができ、更に、高い耐湿性を提供することができる。それに加え、コーティングがより薄くなるので(アルミニウムの含有量(即ち、重量%)をより低くできるので)、TMA前駆材料の消費を従来のCVDプロセスに比べて減少させることができる。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】


ここまで本発明に係る好ましい実施形態について説明してきたが、添付した特許請求の範囲によって定義されるように、その技術分野において本発明の範囲から逸脱しない範囲で様々な変更や修正がされてもよいことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来の厚膜EL蛍光体の断面図である。
【図2】50℃の温度で相対湿度が90%の下においてELランプで駆動されている従来のCVDコーティングされたEL蛍光体における100時間後輝度維持率をアルミニウム含有量の関数として表したグラフである。
【図3】本発明に係るハイブリッドALD/CVD法によって生成されたコーティングがされた蛍光体における全アルミニウムコーティングの重量に対する100時間後輝度維持率を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々の粒子が無機コーティングでカプセル化されており、硫化亜鉛を基質としたエレクトロルミネッセンス蛍光体の複数の個別粒子を備え、
前記蛍光体は、50℃の温度で相対湿度が90%の下で、400Hzの100V電圧で駆動されるエレクトロルミネッセンスランプに組み込まれると、少なくとも90%の初期輝度保持率及び少なくとも60%の100時間後輝度維持率を示す
ことを特徴とするエレクトロルミネッセンス蛍光体。
【請求項2】
前記100時間後輝度維持率が少なくとも75%であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記エレクトロルミネッセンス蛍光体はZnS:Cuであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記無機コーティングがオキシ水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記100時間後輝度維持率が少なくとも75%であることを特徴とする請求項4に記載の蛍光体。
【請求項6】
前記エレクトロルミネッセンス蛍光体は、ZnS:Cuであることを特徴とする請求項4に記載の蛍光体。
【請求項7】
(a)エレクトロルミネッセンス蛍光体粒子の流動床を形成する工程と、
(b)第1気相前駆材料を流動床に取り込む工程と、
(c)前記流動床をパージする工程と、
(d)前記第1気相前駆材料と反応させて前記蛍光体粒子に無機コーティングを形成するために、第2気相前駆材料を前記流動床に取り込む工程と、
(e)前記流動床をパージする工程と、
(f)所望コーティング膜厚に達するまで、工程(a)から(e)を繰り返す工程と、
(g)前記コーティング膜厚を更に増加するために、第1及び第2気相前駆材料を流動床に同時に取り込む工程と
を含むことを特徴とするエレクトロルミネッセンス蛍光体をカプセル化する方法。
【請求項8】
前記第1又は第2気相前駆材料は、気化されたトリメチルアルミニウム又は水蒸気のいずれか一方であり、前記コーティングはオキシ水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)から(e)を約100サイクル繰り返した後に、工程(f)における前記所望コーティング膜厚に達することを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記蛍光体が50℃の温度で相対湿度が90%の下で、400Hzの100V電圧で駆動されているエレクトロルミネッセンスランプに組み込まれると、少なくとも60%の100時間後輝度維持率を示すまで、工程(g)が続けられることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記コーティングされた蛍光体のアルミニウムの含有量が約1重量%から約2.5重量%になるまで、工程(g)が続けられることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
工程(f)における所望コーティング膜厚が約110Åであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記コーティングされた蛍光体のアルミニウム含有量が約2.2重量%になるまで、工程(g)が続けられることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
(a)エレクトロルミネッセンス蛍光体粒子の流動床を形成する工程と、
(b)気化されたトリメチルアルミニウムを流動床に取り込む工程と、
(c)前記流動床をパージする工程と、
(d)前記トリメチルアルミニウムと反応させて前記エレクトロルミネッセンス蛍光体粒子にオキシ水酸化アルミニウムコーティングを形成するために、水蒸気を前記流動床に取り込む工程と、
(e)前記流動床をパージする工程と、
(f)所望コーティング膜厚に達するまで、工程(a)から(e)を繰り返す工程と、
(g)前記コーティングの膜厚を更に増加するために、前記気化されたトリメチルアルミニウム及び前記水蒸気を同時に前記流動床に取り込む工程と
を含むエレクトロルミネッセンス蛍光体をカプセル化する方法。
【請求項15】
前記気化されたトリメチルアルミニウムは工程(d)において取り込まれ、前記水蒸気は工程(b)において取り込まれることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記コーティングされた蛍光体のアルミニウム含有量が約0.2重量%になったときに、工程(f)における前記所望コーティング膜厚に達することを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記コーティングされた蛍光体のアルミニウム含有量が約2.2重量%になるまで、工程(g)が続けられることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
各々の粒子がオキシ水酸化アルミニウムコーティングでカプセル化されており、硫化亜鉛を基質としたエレクトロルミネッセンス蛍光体の複数の個別粒子を備え、
前記蛍光体は、少なくとも90%の初期輝度保持率を示し、CVDコーティングされた蛍光体のアルミニウム含有量が3.8重量%である、オキソ水酸化アルミニウムコーティングを有するCVDコーティングされた蛍光体と同等の耐湿性を持っている
ことを特徴とするコーティングされたエレクトロルミネッセンス蛍光体。
【請求項19】
前記コーティングされた蛍光体のアルミニウム含有量が約2.2重量%であることを特徴とする請求項18に記載のコーティングされた蛍光体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−524735(P2009−524735A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552523(P2008−552523)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【国際出願番号】PCT/US2007/060538
【国際公開番号】WO2007/087479
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(599137208)オスラム−シルヴァニア インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】