説明

高さ調整可能な椅子

【課題】ドクターの立位での歯科治療を容易にするとともに患者の治療椅子への乗降を容易にする。
【解決手段】固定基台部40から上方に延長し上端に第1のピストン52を有する第1のピストン軸51と、前記第1のピストン52に液密に係合して上下動する第1のシリンダ53と、座部13から下方に延長し下端に第2のピストン62を有する第2のピストン軸61と、前記第2のピストン62に液密に係合して上下動する第2のシリンダ63とを有する。第1のシリンダと第2のシリンダとは並列にかつ一体的に連結されてなり、第1のシリンダ及び第2のシリンダ内に供給する液体の量を調整することにより、第1及び第2のシリンダを上下動することにより、座部13の高さ位置を調整可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座部の高さを調整できるようにした椅子、より詳細には、2本のピストン・シリンダを効果的に組み合わせて使用することにより、座部の高さを、シリンダ長1本分の低位置からシリンダ長2本分の高位置まで長ストロークに亘って調整可能にした歯科用治療椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、従来の歯科治療椅子の一例を説明するための要部概略斜視図で、該歯科治療椅子は、周知のように、安頭台11,バックレスト12,コンターシート(座部)13,レッグレスト14,レッグレスト15等からなり、バックレスト12がコンターシート13に対して起倒可能な着座部10と、該着座部10を搭載し、該着座部10を上下動及び傾斜動させる移動基台部20と、該移動基台部20を移動可能に支持する固定基台部30と、該固定基台部30を載置するベース部材40とより成っている。
【0003】
歯科治療にあたり、患者は座部13に座り、頭を安頭台11に固定して治療を受ける。歯科治療時、術者(ドクター)は着座部10を上下動、起倒、傾斜動等させて、患者を治療しやすい姿勢にして治療を行う。例えば、歯牙の咬合調整を行うときなど、患者を座らせた状態で、ドクターは立位で患者の口腔位置を直視して歯科治療を行うが、このようなときは、患者の口腔位置を見やすくするため座部13の位置を出来るだけ高い位置に持っていきたい。また、患者の乗り降りのためには最低位置をできるだけ低くしたい。
【0004】
上述のように、上昇・下降機能の付いた歯科治療椅子において、椅子(座部)の最低位と最高位間のストロークの関係が問題になっている。上昇・下降の機能は電気モーターを動力とする方法と、油圧を動力とする方法がある。油圧を動力とする方法では電気モーターを動力とする場合と比べて、(1)下降時の音が静かである、(2)動作が滑らかである、(3)電気回路が簡単である、などのメリットがある。しかし、油圧シリンダを垂直に取り付けたとき、ストロークを長く取ろうとすると、シリンダの全長が長くなってしまい、椅子の最低位が高くなってしまう。一方、最低位を下げようとするとシリンダの全長が短くなってしまい、ストロークが短くなってしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述のごとき実情に鑑みてなされたもので、歯科治療椅子における座部の上下動を2本のピストン・シリンダを効果的に作動させて全体としての上下動ストロークを大きくして座部の上昇位置をより高くしかつ下降位置をより低くすることを可能として、もって、昇降装置を大型化することなく、ドクターの立位での歯科治療を容易にするとともに患者の治療椅子への乗降を容易にすることを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、固定基台部から上方に延長し上端に第1のピストンを有する第1のピストン軸と、前記第1のピストンに液密に係合して上下動する第1のシリンダと、座部から下方に延長し下端に第2のピストンを有する第2のピストン軸と、前記第2のピストンに液密に係合して上下動する第2のシリンダとを有し、前記第1のシリンダと第2のシリンダとは並列にかつ一体的に連結されてなり、前記第1のシリンダ及び第2のシリンダ内に供給する液体の量を調整することにより、前記第1及び第2のシリンダを上下動することにより、前記座部の高さ位置を調整可能としたことを特徴としたものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記第1のシリンダと第2のシリンダは略同一の長さを有しかつ略同一の移動ストロークを有することを特徴としたものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記第1のシリンダ及び第2のシリンダへ液体を供給するそれぞれの流路中に三方弁を有し、前記第1のシリンダと第2のシリンダを同時に又は個別に上下動可能としたことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0009】
患者が治療椅子に乗降する際の座部位置をより低くすることを可能としたので、患者の治療椅子への乗降がより容易になり、かつ、ドクターが立位で治療を行う時の座部位置(患者の口腔位置)をより高くすることを可能としたので、ドクターはより容易に(より楽な姿勢で)治療を行うことができる。
【0010】
歯科治療椅子における座部の上下動を2本のピストン・シリンダを効果的に作動させて全体としての上下動ストロークを大きくしたので、昇降装置を大型化することなく、ドクターの立位での歯科治療を容易にするとともに患者の治療椅子への乗降を容易にすることができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明による治療椅子の昇降動作を説明するための要部構成図で、図1(A)は治療椅子の座部13を最高位置に上昇させた時の概念図、図1(B)は中位置にした時の概念図、図1(C)は最下位置にした時の概念図で、図中、51は下部固定部(例えば、ベース部40)から上方に延長して立設された第1のピストン軸で、該第1のピストン軸51の上端には第1のピストン52が一体的に設けられており、該第1のピストン52は第1のシリンダ53内に液密に係合されており、第1のシリンダ室54内に液体が圧入されると、該第1のシリンダ53は上方に移動して図1(A)に示した状態になる。一方、座部13には、該座部13から下方に延長する第2のピストン軸61が設けられ、該第2のピストン軸の下部には第2のピストン62が一体的に設けられており、該第2のピストン62は第2のシリンダ63内に液密に係合されている。この第2のシリンダ62は前記第1のシリンダ63と並列に一体的に連結されており、従って、この第2のシリンダ63の第2のシリンダ室64内に液体が圧入されると、該第2のピストン62が押し上げられて図1(A)に示す状態になる。この状態で、つまり、第1のシリンダ53と第2のシリンダ63の両方に液体が最大に圧入された状態で座部13は一番高い位置となる。
【0012】
この図1(A)に示した状態で、例えば、第1のシリンダ53内の液体を減少させると、図1(B)に示すように、第1のシリンダ53が下降し、該第1のシリンダ53と一体の第2のシリンダ63も一緒に下降し、従って、座部13が下降し、該座部13は中間の高さ位置を保つことができる。この場合、シリンダ53のシリンダ室54から抜き去る液体の量を調整することにより、該座部13の高さは、図1(A)に示した高さ位置と図1(B)に示した高さ位置の間の任意の高さ位置に調整することができる。
【0013】
更に、図1(C)に示すように、第2のシリンダ63のシリンダ室64内の液体を減少させると、第2のピストン62が下降し、従って、座部13が下降し、該座部13を最下降位置にすることができる。この場合も、第2のシリンダ室64内から抜き去る液体の量を調整することにより、座部13の高さ位置を図1(B)に示した高さ位置と図1(C)に示した高さ位置の間の任意の高さ位置に調整することができる。なお、以上には、説明を簡明にするために、第1のピストン・シリンダを作動させた後に、第2のピストン・シリンダを作動させる例について説明したが、第2のピストン・シリンダを作動させた後に、第1のピストン・シリンダを作動させてもよく、更には、両者を同時に作動させてもよいことは容易に理解されよう。更に、第1のシリンダ53の長さと第2のシリンダ63の長さを等しくした例について説明したが、必ずしも同一長さにする必要はない。
【0014】
図2は、図1に示したピストン・シリンダを作動する液体(油圧)回路の構成例を説明するための図で、70は油圧モータ、80は第1の3方電磁弁、81は第1の流量弁、90は第2の3方電磁弁、91は第2の流量弁、100は排油タンクで、前述のように、第1及び第2の3方電磁弁80、90を同時に開いて、第1及び第2のピストン・シリンダを同時に作動させることも可能であり、いずれか一方を選択的に作動させることも可能である。その際、流量弁81,91によってそれぞれのピストン・シリンダの動作速度を変えることによって、座部13の昇降時の速度を種々に変えることができるようになり、座面の高さ合わせが容易になるうえに、始動時、停止時の振動を緩和することが出来る。なお、油圧回路の流量制御ではサーボ弁を使用する方法もあるが、本発明によると3方弁を使用する場合は、サーボ弁を使用する場合と比べ、上昇・下降時の細かい速度調整が出来ない。しかし、(1)複雑な電子制御がいらない、(2)使用する弁が安価で手に入る、といった利点がある。なお、以上には、液量制御に3方電磁弁や流量弁を用いた例について説明したが、これらは、単に好ましい例を説明したに過ぎず、本発明は、これら図示例のものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による治療椅子の昇降動作を説明するための要部構成図である。
【図2】図1に示したピストン・シリンダを作動する液体(油圧)回路の構成例を説明するための図である。
【図3】従来の歯科治療椅子の一例を説明するための要部概略斜視図である。
【符号の説明】
【0016】
11…安頭台、12…バックレスト、13…コンターシート(座部)、14…レッグレスト、15…レッグレスト、20…移動基台部、30…固定基台部、40…ベース部材、51…第1のピストン軸、52…第1のピストン、53…第1のシリンダ、54…第1のシリンダ室、61…第2のピストン軸、62…第2のピストン、63…第2のシリンダ、64…第2のシリンダ室、70…油圧モータ、80…第1の3方電磁弁、81…第1の流量弁、90…第2の3方電磁弁、91…第2の流量弁、100…排油タンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定基台部から上方に延長し上端に第1のピストンを有する第1のピストン軸と、前記第1のピストンに液密に係合して上下動する第1のシリンダと、座部から下方に延長し下端に第2のピストンを有する第2のピストン軸と、前記第2のピストンに液密に係合して上下動する第2のシリンダとを有し、前記第1のシリンダと第2のシリンダとは並列にかつ一体的に連結されてなり、前記第1のシリンダ及び第2のシリンダ内に供給する液体の量を調整することにより、前記第1及び第2のシリンダを上下動することにより、前記座部の高さ位置を調整可能としたことを特徴とする高さ調整可能な椅子。
【請求項2】
前記第1のシリンダと第2のシリンダは略同一の長さを有しかつ略同一の移動ストロークを有することを特徴とする請求項1に記載の高さ調整可能な椅子。
【請求項3】
前記第1のシリンダ及び第2のシリンダへ液体を供給するそれぞれの流路中に三方弁を有し、前記第1のシリンダと第2のシリンダを同時に又は個別に上下動可能としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の高さ調整可能な椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−295788(P2008−295788A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145873(P2007−145873)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000150671)株式会社長田中央研究所 (194)
【Fターム(参考)】