説明

高分子ミセルを形成する生分解性分枝状ポリ乳酸誘導体、並びにその製造方法及び用途

本発明は、一般式(1)の生分解性分枝状ポリ乳酸誘導体、並びにその製造方法及びその用途に関するものである。


式中、X、R、I及びnは、それぞれ明細書中で定義されている意を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH4以上の水溶液中で高分子ミセルを形成できる分枝状ポリ乳酸誘導体、及びその製造方法と用途に関するものである。当該分枝状ポリ乳酸誘導体は、高分子鎖の末端にカルボキシル基またはカルボキシアルカリ金属塩基を有する。
【背景技術】
【0002】
水難溶性の薬剤を経口または非経口投与により体内へ送達するためには、基本的に可溶化が求められる。薬剤送達システムは、薬剤の効能と効果を最大とし且つ薬剤の副作用を最小化すべく設計される。特に、水に溶解し難い水難溶性薬剤の効能は、薬剤送達システムにより可溶化することで顕著に向上することができる。大部分の薬剤は、投与後に所望の薬理効果を呈するためには一定の血漿濃度を維持しなければならない。特に、半減期が短い薬剤は、有効な血漿濃度を得るために頻繁に投与しなければならず、また、持続した薬理効果を維持するために製剤から徐放されなければならない。そのためには、水難溶性薬剤を可溶化するために使われる高分子により形成されるミセルがより安定でなければならず、ミセルを安定化するためには、臨界ミセル濃度(CMC)をより低くし、疎水性が高い水難溶性薬剤と共重合体である疎水性ブロックとの間の親和力を高める必要がある。
【0003】
界面活性剤により形成されたミセルの液滴(droplet)の単位サイズは数nm〜数十μmに制御できるので、水難溶性薬剤が斯かる液滴に包含されてから、ミセルは微細な形態で溶液中に分散される。従って、ミセルを形成して水難溶性薬剤を可溶化する方法が最も好ましいと考えられるので、ミセルを用いた可溶化方法の中でも、界面活性剤を使用するものが核心技術の中の1つとなる。
【0004】
近年、水難溶性薬剤の可溶化と送達のための方法として、親水性高分子と疎水性高分子とからなる両親媒性ブロック共重合体で形成されるミセルやナノ粒子のコア内に薬剤を封入する水難溶性薬剤の送達方法に関する多くの研究が行われてきた。
【0005】
例えば米国特許第5,543,158号は、親水性ポリエチレングリコールブロックとポリラクチド及びポリグリコリドブロックの疎水性共重合体とからなる両親媒性ブロック共重合体により形成されるナノ粒子に、薬剤を封入する剤形を開示している。また、米国特許第6,322,805号は、両親媒性二重ブロック共重合体として、モノメトキシポリエチレングリコールとポリラクチドとを含む生分解性高分子を用いて水難溶性薬剤を可溶化する技術を開示している。当該技術では、水難溶性薬剤は物理的にミセルのコアに包含され、化学的に複合化することなく溶液中に可溶化される。
【0006】
前述したように、従来の水難溶性薬剤は、ポリエステルのような生分解性疎水性高分子に加え、コア−シェル構造のためポリエチレングリコールなどの親水性高分子を必要としていた。ここで、ポリエステル系の疎水性高分子は人体内で分解されるのに対して、ポリエチレングリコールのような親水性高分子は生体適合性成分ではあるものの、体内で完全に分解されない。従って、親水性高分子を用いることなく生分解性ポリエステル系疎水性高分子だけでコア−シェル構造を持つ薬剤送達体を開発するための試みがされてきた。
【0007】
特に、ポリ乳酸は非常に優れた生体適合性を有し、人体に無害な乳酸へ加水分解される。従って、分子量2,000ダルトン以上の高分子が水溶液に溶けない性質を利用して、マイクロスフェアやインプラント剤などの形態で開発されたことがある。しかし、この疎水性高分子は水難溶性薬剤を可溶化するためのミセルを形成することができないので、ポリ乳酸高分子だけでは、水難溶性薬剤を可溶化する薬剤送達体として開発できなかった。
【0008】
そこで本発明者らは、水溶液中で高分子ミセルを形成するためポリ乳酸の末端にカルボキシル基を結合することによって、親水性基と疎水性基とのバランスを調節した線形ポリ乳酸誘導体を製造し、韓国出願第2001−64164号として出願した。しかし、このポリ乳酸誘導体は、末端にカルボキシル基が1分子のみ結合される線形構造であるので、水溶液中で高分子ミセルを形成できるポリ乳酸誘導体の分子量は2,000ダルトン以下の範囲に制限された。また、当該誘導体は水溶液中に溶解できないことから、ミセルをより高い分子量で形成することはできなかった。要するに、当該ポリ乳酸誘導体は分子量が比較的低く、形成されたミセルの安定性は低いために、薬剤をミセル中に長期間封入することができない。
【0009】
また、Y.Liらは、薬剤送達体として分枝状高分子または多分枝状高分子で形成された両親媒性高分子を用いる場合、線形高分子より生分解速度が遅いので、ミセルなどの薬剤送達体の構造安全性が向上することを開示した(Polymer,39,pp.4421-7(1998年))。さらに上記論文では、分枝状ポリエチレングリコールを開始剤として使用し、それぞれの分枝にポリ乳酸、ポリグリコリド及びポリカプロラクトンなどの単一重合体または共重合体を連結して分枝状二重ブロック共重合体を合成している。微粒子またはハイドロゲルを含む製剤をこのような高分子から調製すると、薬剤は高分子の生分解速度に従って放出される。また、米国特許出願公開第2002−0156047号では、薬剤送達体として用いるためにポリ乳酸が合成され、それぞれの分枝に親水性のポリエチレングリコールが結合されている。この出願公報には、合成された分枝状ジブロック共重合体は、その中央コア領域に疎水性のポリ乳酸が位置するので、疎水性薬剤を效果的に封入できると記載されている。しかし、当該文献で開示された薬剤送達体は、両親媒性ブロック共重合体の親水性ブロックとしてポリエチレングリコールを使用しているので、使われる親水性高分子が生体内で完全に分解されないという問題点がある。
【0010】
一方、ポリエチレングリコールを使用せずに、生分解性ポリエステル系高分子のみからなる分枝状高分子を合成した報告もある。例えば、ペンタエリトリトールを開始剤として用いて、4−arm分枝状ポリカプロラクトンを合成し、4個の末端ヒドロキシ基に無水マレイン酸を結合させ、UVを利用して架橋結合させた報告がある[M.Lang,et al.,J.Appl.Polymer Sci.,86,2296(2002年)]。また、ポリオールを開始剤として用いて分枝状ポリラクチドを合成し、それぞれの末端ヒドロキシ基にメタクリロイルクロライドを結合させてマクロマー(macromer)を合成した後、過酸化ジベンゾイルを反応させて多孔質骨格(scaffold)を合成した報告がある[M.Schnabelrauch,Biomaterial Engineering,19,295(2002年)]。しかし、これらの分枝状高分子は親水性部分と疎水性部分との均衡のアンバランスから水溶液で可溶化できないので、薬剤送達体として使用できないだけでなく、医療用具用として使用するために機械的物性を改善する目的で架橋結合されることから、人体内で生分解されないという欠点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、安全性の高いポリ乳酸誘導体の高分子ミセルを形成するために、親水性官能基であるカルボキシル基を分枝毎に持つ分枝状ポリ乳酸誘導体を製造し、この分枝状ポリ乳酸誘導体が高分子量でも水溶液中でミセルを形成でき、また、分枝数によって水溶液中で高分子ミセルを形成できる高分子の分子量を増大させ、安定なミセルを形成することができることを明らかにして、本発明を完成した。
【0012】
従って、本発明の目的は、生体適合性に優れ、pH4以上の水溶液中で安定な高分子ミセルを形成できる生分解性分枝状ポリ乳酸誘導体を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、上記生分解性分枝状ポリ乳酸誘導体の製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、上記生分解性分枝状ポリ乳酸誘導体の水難溶性薬剤送達体としての用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第一に、本発明は一般式(1)の分枝状ポリ乳酸誘導体に関するものである。
【0016】
【化1】

【0017】
式中、
Rは−[R1k−[R2m−であり、
ここで、R1は−C(=O)−CHZ−O−であり、
2は−C(=O)−CHY−O−、−C(=O)−CH2CH2CH2CH2CH2−O−または−C(=O)−CH2−O−CH2CH2−O−であり、
ここで、Z及びYはそれぞれ水素原子、メチルまたはフェニルであり、
kは1〜30の整数であり、
mは0〜30の整数であり;
Xは−C(=O)−(CH2a−C(=O)−O−Mであり、
ここで、aは0〜10の整数であり、
Mは水素原子、ナトリウム、カリウムまたはリチウムであり;
Iは、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等のジオール;またはグリセロール、エリトリトール、トレイトール、ペンタエリトリトール、キシリトール、アドニトール、ソルビトール、マンニトール;パラチノース、マルトース一水和物、マルチトール等の二糖類;若しくはD−ラフィノース五水和物等の三糖類から選択される3〜12個のヒドロキシ基を有するポリオールであり;
nは2〜12の整数で、且つIが有するヒドロキシ基の数と同じである。
【0018】
第二に、本発明は、上記分枝状ポリ乳酸誘導体の製造方法であって:
1)開始剤と触媒の存在下にラクチド系のモノマーを重合反応させて分枝状ポリ乳酸を得るステップ;
2)ステップ1)で得た分枝状ポリ乳酸を水溶性有機溶媒に溶解し、pH7以上の水溶液を加えることにより分枝状ポリ乳酸を精製し、真空乾燥して粉末形態の分枝状ポリ乳酸を得るステップ;
3)ステップ2)で得た分枝状ポリ乳酸誘導体を無水コハク酸またはジクロライド化合物と反応させることによって、末端カルボキシル基を有する分枝状ポリ乳酸誘導体を得るステップ;及び
4)好適には、ステップ3)で得た分枝状ポリ乳酸誘導体にアルカリ金属塩を加えることによって、末端カルボキシアルカリ金属塩基を有する分枝状ポリ乳酸誘導体を得るステップ;
を含む方法に関するものである。
【0019】
第三に、本発明は上記分枝状ポリ乳酸誘導体を含有する水難溶性薬剤送達体用組成物に関するものである。
【0020】
第四に、本発明は上記分枝状ポリ乳酸誘導体及び水難溶性薬剤を含有する薬剤組成物に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
Rは本発明の分枝状ポリ乳酸誘導体における分枝であり、生体適合性に優れる生分解性の高分子であり、ラクチド、グリコリド、カプロラクトン、1,4−ジオキサン−2−オンまたはマンデル酸よりなる群から選択される1または2以上の単一重合体または共重合体、またはポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリホスファジン、ポリアミノ酸またはポリカーボネートよりなる群から選択される単一重合体または共重合体である。好ましくは、Rは、ラクチド、グリコリド、カプロラクトン、1,4−ジオキサン−2−オンまたはマンデル酸よりなる群から選択される1または2以上の単一重合体または共重合体である。Rの分子量は、300〜3,000ダルトンが好ましく、より好ましくは500〜1,500ダルトンである。
【0023】
本発明の分枝状ポリ乳酸誘導体の総分子量は、一つの分枝からなるRの分子量に分枝の個数を乗じた値である。例えば、一般式(1)でnが6であれば、6−arm分枝状ポリ乳酸誘導体が得られ、総分子量は数平均分子量で1,800〜18,000ダルトンであり、好ましくは3,000〜9,000ダルトンである。一般式(1)でnは2〜12の整数であるから、本発明の分枝状ポリ乳酸誘導体の数平均分子量は600〜36,000ダルトン、好ましくは1,000〜18,000ダルトンである。
【0024】
上述したように、本発明の分枝状ポリ乳酸誘導体は、総分子量の増加により水溶液中で安定なミセルを形成することができ、また、ミセル内に水難溶性薬剤を可溶化することによりミセルを安定に維持することができる。
【0025】
また、本発明の分枝状ポリ乳酸誘導体は、分枝の各高分子鎖末端にカルボキシル基またはカルボキシアルカリ金属塩基を持つ。好適には、高分子鎖の末端基は、カルボキシアルカリ金属塩基である。カルボキシアルカリ金属塩基は、ナトリウム、カリウムまたはリチウムの1価金属イオン塩形態の分枝状ポリ乳酸誘導体を形成する。
【0026】
上記ポリ乳酸誘導体が水溶液中で高分子ミセルを形成するためには、ポリ乳酸誘導体の分子内に存在する親水性基と疎水性基とが均衡を保たなければならない。線形ポリ乳酸の場合、親水性作用を示すカルボキシル基が一つであるので、高分子ミセルを形成できる分子量は500〜2,000ダルトンである。このような線形ポリ乳酸が幾つか結合されている本発明の分枝状ポリ乳酸は、親水性作用を示すカルボキシル基が分枝ごとに存在するので親水性部分が増加し、増加された親水性部分と均衡を達成すべく疎水性部分もまた増加し得る。従って、本発明の分枝状ポリ乳酸誘導体の安定性を向上すれば、疎水性を示すエステル部分の分子量が増加しても、水溶液中で高分子ミセルを形成することができる。その結果、本発明の分枝状ポリ乳酸誘導体は、安定性が向上したミセルを形成することができる。
【0027】
本発明の実施例で示されるように、一般式(1)の分枝状ポリ乳酸誘導体におけるpHにより溶解度が変化する。当該誘導体はpH4以上の水溶液で完全に溶解され、肉眼で透明な溶液状態で観察された。しかしpHを4未満に調節すると、分枝状ポリ乳酸誘導体は析出する(図4を参照)。一方、生分解性高分子は一般的にpH10以上で徐々に加水分解されるので、本発明の分枝状ポリ乳酸誘導体はpH1〜10の範囲で使用できる。上記高分子が生分解性で、pH4以上の水溶液中で完全に溶解されることを考慮すれば、pH4〜8の範囲で製造して使用することが好ましい。
【0028】
本発明に係る分枝状ポリ乳酸誘導体は、
1)開始剤と触媒の存在下にラクチド系のモノマーを重合反応させて分枝状ポリ乳酸を得るステップ;
2)ステップ1)で得た分枝状ポリ乳酸を水溶性有機溶媒に溶解し、pH7以上の水溶液を加えることにより分枝状ポリ乳酸を精製し、真空乾燥して粉末形態の分枝状ポリ乳酸を得るステップ;
3)ステップ2)で得た分枝状ポリ乳酸誘導体を無水コハク酸またはジクロライド化合物と反応させることによって、末端カルボキシル基を有する分枝状ポリ乳酸誘導体を得るステップ;
4)ステップ3)で得た分枝状ポリ乳酸誘導体にアルカリ金属塩を加えることによって、末端カルボキシアルカリ金属塩基を有する分枝状ポリ乳酸誘導体を得るステップ;
を含む方法によって製造することができる。
【0029】
上記製造方法において、ステップ4)は省略できる。ステップ4)を省略する場合には、金属イオンで置換されていないカルボキシル基を末端に有する分枝状ポリ乳酸誘導体が形成される。
【0030】
ステップ1)で、開始剤としては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールなどのジオール;またはグリセロール、エリトリトール、トレイトール、ペンタエリトリトール、キシリトール、アドニトール、ソルビトール、マンニトール;パラチノース、マルトース一水和物、マルチトールなどの二糖類;若しくはD−ラフィノース五水和物などの三糖類よりなる群から選択される3〜12個のヒドロキシ基を有するポリオールを使用できる。この際、二糖類または多糖類を開始剤として使用すれば、より多い分枝を持つ分枝状ポリ乳酸誘導体を合成することも可能である。
【0031】
これら全ての開始剤はヒドロキシ基を有しており、このヒドロキシ基にラクチドが開環重合されると、高分子が合成される。即ち、開始剤が有するヒドロキシ基の個数によって、高分子の分枝個数が決まる。上記開始剤のいずれを選択しても、反応工程を変えることなく分枝状ポリ乳酸誘導体を合成することができる。分枝の個数が変わるだけである。
【0032】
上記開始剤を定量した後、約80℃の温度で真空ポンプを利用して水分を除去する。ここへ、触媒をトルエンに溶かして加える。その後、真空条件でトルエンを除去し、ラクチド単量体を加え、次いで25〜0.1mmHgの減圧条件下、100〜160℃の温度範囲で6〜24時間反応混合物を重合させることによって、分枝状ポリ乳酸を得る。この際、触媒は単量体の0.1wt%で使用することが好ましい。ステップ1)で触媒として用いられるものとしては、オクチル酸スズなどがある。
【0033】
本発明の分枝状ポリ乳酸誘導体の分子量は、反応に供されるジオールまたはポリオール開始剤と単量体のモル比率により調節することができる。エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオールまたはヘキサンジオールを開始剤として使用する場合には2−armポリ乳酸が合成され;グリセロールを開始剤として使用する場合には3−armポリ乳酸が;エリトリトール、ペンタエリトリトールまたはトレイトールを開始剤として使用する場合には4−armポリ乳酸が;アドニトールまたはソルビトールを開始剤として使用する場合には5−armポリ乳酸が;ソルビトールまたはマンニトールを開始剤として使用する場合には6−armポリ乳酸が;二糖類または三糖類などを開始剤として使用する場合には7以上−armポリ乳酸が合成される。
【0034】
ステップ2)では、段階1)で得られたポリ乳酸を水混和性有機溶媒に溶解した後、未反応の線形ポリ乳酸を除去する。水混和性有機溶媒としては、アセトンやアセトニトリルなどを使用することが好ましい。
【0035】
開始剤と反応しない線形ポリ乳酸は、pH7以上の中性またはアルカリ水溶液などに溶かして除去する。pH7以上の中性またはアルカリ水溶液は特に限定されないが、炭酸水素ナトリウム水溶液を使用することが好ましい。このような精製過程を2回以上行なった後、蒸留水で高分子を洗浄し、真空乾燥して粉末形態の分枝状ポリ乳酸を得る。
【0036】
ステップ3)では、無水コハク酸、またはオキサリルクロライド、マロニルクロライド、グルタリルクロライド、スクシニルクロライド、アジポイルクロライド、セバシン酸ジクロライド、ドデカジオイルジクロライドなどのジクロライド化合物を加えることによって、分枝状ポリ乳酸のヒドロキシ末端にカルボキシル基を導入する。好ましくは、無水コハク酸を使用する。上記反応は、密封条件で6時間以上行なうことが好ましい。
【0037】
反応に使われる無水コハク酸またはジクロライド化合物は、ポリ乳酸誘導体の末端ヒドロキシ基のモル数の約1〜2倍添加することが好ましい。合成された分枝状ポリ乳酸誘導体はアセトンに溶かし、蒸留水中で沈殿させる。沈殿した高分子は濾過し、再び蒸留水で洗浄した後、洗浄した高分子を蒸留水に加え、炭酸水素ナトリウムを少量添加しながら50〜70℃で完全に溶解する。未反応高分子は溶けないので、濾過により除去する。完全に溶かした高分子水溶液へ、1N塩酸を少量ずつ加えて高分子を沈殿させる。沈澱した高分子を蒸留水で3回以上洗浄し、真空乾燥して末端カルボキシル基を有する分枝状ポリ乳酸誘導体(multi−arm PLA−COOH)を得る。この末端カルボキシル基を有する分枝状ポリ乳酸誘導体は、分枝ごとに末端カルボキシル基を有する。
【0038】
さらに、ステップ4)では、ステップ3)で得られたポリ乳酸誘導体をアセトンまたはアセトン水溶液に溶解した後、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウムまたは炭酸リチウムなどのような金属イオン塩を少量加えながら中和し、溶媒を留去して金属イオン塩形態の分枝状ポリ乳酸誘導体を得る。
【0039】
本発明の分枝状ポリ乳酸誘導体は、pH4以上の水溶液中で高分子ミセルを形成するので、水難溶性薬剤送達体として利用できる。即ち、水難溶性薬剤を人体に経口または非経口で投与するためには、本発明のポリ乳酸誘導体を利用してpH4以上の水溶液でミセルを形成した後、形成されたミセルの内部に水難溶性薬剤を包含して可溶化する。水難溶性薬剤を包含する高分子ミセルを人体に投与すれば、水難溶性薬剤は、本発明のポリ乳酸誘導体により形成されたミセル内で安定な状態を保持しながら、ゆっくり溶出されて薬理効果を示す。
【0040】
本発明のポリ乳酸誘導体を利用して可溶化できる水難溶性薬剤としては、水に対する溶解度が10mg/mL以下の水難溶性薬剤であるならば何れも使用可能である。代表的な水難溶性薬剤には、パクリタキセル、ケトコナゾール、イトラコナゾール、シクロスポリン、シサプリド、アセトアミノフェン、アスピリン、アセチルサリチル酸、インドメタシン、ナプロキセン、ワルファリン、パパベリン、チアベンダゾール、ミコナゾール、シナリジン、ドキソルビシン、オメプラゾール、コレカルシフェロール、メルファラン、ニフェジピン、ジゴキシン、安息香酸トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、アズレオナム、イブプロフェン、フェノキシメチルペニシリン、サリドマイド、メチルテストステロン、プロクロルペラジン、ヒドロコルチゾン、ジデオキシプリンヌクレオシド、ビタミンD2、スルホンアミド、スルホニルウレア、パラアミノ安息香酸、メラトニン、ベンジルペニシリン、クロランブシル、ジアゼピン、ジギトキシン、ヒドロコルチゾンブチラート、メトロニダゾール安息香酸塩、トルブタミド、プロスタグランジン、フルドロコルチゾン、グリゼオフルビン、硝酸ミコナゾール、ロイコトリエンB4阻害剤、プロプラノロール、テオフィリン、フルルビプロフェン、安息香酸ナトリウム、安息香酸、リボフラビン、ベンゾジアゼピン、フェノバルビタール、グリブリド、スルフィジアジン、スルファエチルチアジアゾール、ジクロフェナクナトリウム、フェニトイン、塩酸チオリダジン、ブロピリミン、ヒドロクロロチアジド、フルコナゾール等がある。その他にも、抗生物質、消炎鎮痛剤、麻酔剤、ホルモン類、高血圧治療剤、糖尿病治療剤、高脂質症治療剤、抗ウィルス剤、パーキンソン病治療剤、抗痴呆剤、抗嘔吐剤、免疫抑制剤、抗潰瘍剤、下剤及び抗マラリア剤として使われる水難溶性薬剤が含まれる。
【0041】
上記水難溶性薬剤を本発明のポリ乳酸誘導体により形成されたミセル内に包含するために、ポリ乳酸誘導体は80.0〜99.9重量%、水難溶性薬剤は0.1〜20.0重量%配合される。
【0042】
本発明の分枝状ポリ乳酸誘導体は、水難溶性薬剤を含有するミセルの形態に製造され、経口または非経口で投与できる。非経口投与では、難溶性薬剤は血管、皮下、筋肉などを経て注射され、特に上記ポリ乳酸誘導体は、水難溶性薬剤との混合体として筋肉または皮下に注射される。また経口投与は、本発明の分枝状ポリ乳酸誘導体に水難溶性薬剤を混合し、錠剤またはカプセル形態にして行なわれる。また、非経口投与では、pH6〜7の体液でミセルが形成できるような剤形に製造し、経口投与では、pH1〜2の胃では薬剤が放出されずに、ミセル形態で可溶化しpH6〜7の小腸で薬剤を放出するような剤形に製造する。
【0043】
経口投与の際、本発明の水難溶性薬剤を含む薬剤組成物は、胃から小腸へ移動する。この際、胃のpHは小腸のpHに比べて低く、本発明の薬剤組成物に含まれるポリ乳酸は、低pHでは錠剤またはカプセルの形態を維持し、放出されない。しかし、pH6〜7の小腸に移動した後には、薬剤組成物は薬剤を含むミセル形態にゆっくり可溶化され、次いで薬剤は放出され小腸で吸収される。このような特性は、低pH溶液で不安定な薬剤の放出を防ぎ、薬剤の安定性を向上することになる。pH1〜2の溶液で放出されて胃潰瘍などの副作用を誘発する消炎鎮痛剤などの場合、上記特性によりpH6〜7の小腸で薬剤を放出する一方で胃では放出しないことによって、薬剤の副作用が低減されるという利点が呈される。
【0044】
本発明の分枝状ポリ乳酸誘導体を利用して水難溶性薬剤を含むミセルを製造する方法は、以下の通りである。
【0045】
本発明の分枝状ポリ乳酸誘導体と水難溶性薬剤を、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジクロロメタン、エタノール、メタノール、クロロホルムまたは酢酸に溶解した後、有機溶媒を除去することによって、ポリ乳酸誘導体と水難溶性薬剤の均一な混合物を調製する。得られた混合物に蒸留水を加え、水溶液のpHを4〜8に調節すれば、自動的に薬剤含有ミセルが形成される。この水難溶性薬剤含有ミセル水溶液は、凍結乾燥することができる。
【0046】
また、経口製剤を製造するためには、上記ポリ乳酸誘導体と水難溶性薬剤を有機溶媒に溶解した後に溶媒を除去し、得られたポリ乳酸誘導体と水難溶性薬剤の混合物を経口用賦形剤と混合して錠剤を製造するか、カプセルに充填する。
【0047】
本発明の実施例で示されるように、水難溶性薬剤であるパクリタキセルを使用して可溶化実験を行なった結果、ミセルの大きさは10〜50nmであり、上記水難溶性薬剤の溶解度は15〜35mg/mLで可溶化される。
【0048】
以下、実施例と実験例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲が以下の実施例と実験例によって何ら制限されるものではないことは理解されるべきである。
【実施例】
【0049】
製造例1:3−arm PLA−OH(Mn〜3,000)の合成
グリセロール(1g;0.011mol)を止コック付き100mLフラスコに入れ、当該フラスコを80℃に加熱された油浴に入れて、真空条件で30分間、水分を除去した。
【0050】
触媒として、オクチル酸スズをトルエンに溶かした後、ラクチドに対し0.1wt%の容量でここへ添加した。トルエンを減圧留去し、ラクチド(35.8g;0.249mol)を添加し、ラクチドが完全に溶けるまでマグネチックバーを使って攪拌した。次に、反応器内部を真空密封した。重合温度を125〜130℃に設定し、真空条件で約6時間、重合反応させた。このように合成された高分子を、アセトンに溶解した。高分子が完全に溶けたアセトン溶液へ炭酸水素ナトリウム水溶液(0.2N)を少しずつ加え、pHを7〜8に調節し、攪拌して高分子を沈澱させた。
【0051】
沈澱した高分子を蒸留水で3〜4回洗浄し、真空乾燥することによって、粉末形態の3−arm PLA−OH(31g、収率95%)を得た。得られた高分子の数平均分子量を、1H−NMRスペクトル(図1)によって、2,969ダルトンと決定した。
【0052】
製造例2:3−arm PLA−OH(Mn〜1,000)の合成
3gのグリセロールを用いたこと以外は製造例1と同様の方法で、3−arm PLA−OH(29.5g、収率91%)を得た。
【0053】
製造例3:3−arm PLA−OH(Mn〜2,000)の合成
1.5gのグリセロールを用いたこと以外は製造例1と同様の方法で、3−arm PLA−OH(30g、収率92%)を得た。
【0054】
製造例4:3−arm PLA−OH(Mn〜4,000)の合成
0.75gのグリセロールを用いたこと以外は製造例1と同様の方法で、3−arm PLA−OH(30g、収率92%)を得た。
【0055】
製造例5:5−arm PLA−OH(Mn〜4,000)の合成
キシリトール(1g、0.007mol)及びラクチド(29g)を用いたこと以外は製造例1と同様の方法で、5−arm PLA−OH(25g、収率95%)を得た。
【0056】
実施例1:3−arm PLA−COOH(Mn〜3,000)の合成
製造例1で合成した3−arm PLA−OH(100g;0.033mol)を一口フラスコに入れ、真空条件下、125℃で1時間、高分子に含まれた水分を完全に除去した。高分子の末端ヒドロキシ基モル数[0.033×3(分枝数)=0.099mol]に対して、無水コハク酸(19.8g;0.198mol)を添加した後、反応器を密封し、反応温度125℃で6時間反応させた。得られた高分子を溶解したアセトン溶液へ蒸留水を少しずつ加えることによって、高分子を沈澱させた。沈澱した高分子を、炭酸水素ナトリウム水溶液に60℃で完全に溶解した。溶けない部分あった場合には、濾過して除去した。ここへ塩酸(1N)水溶液を少しずつ添加することによって、3−arm PLA−COOHを沈澱させた。得られた高分子を水で3回洗浄し、真空乾燥した。得られた3−arm PLA−COOHの数平均分子量を、1H−NMRスペクトル(図2)によって、3,108ダルトンと決定した。
【0057】
実施例2:3−arm PLA−COOH(Mn〜1,000)の合成
製造例2で合成した3−arm PLA−OH(33g)を用いたこと以外は実施例1と同じ方法によって、3−arm PLA−COOHを得た。
【0058】
実施例3:3−arm PLA−COOH(Mn〜2,000)の合成
製造例3で合成した3−arm PLA−OH(66g)を用いたこと以外は実施例1と同じ方法によって、3−arm PLA−COOHを得た。
【0059】
実施例4:3−arm PLA−COOH(Mn〜4,000)の合成
製造例4で合成した3−arm PLA−OH(132g)を用いたこと以外は実施例1と同じ方法によって、3−arm PLA−COOHを得た。
【0060】
実施例5:5−arm PLA−COOH(Mn〜4,000)の合成
製造例5で合成した5−arm PLA−OH(80g)を用いたこと以外は実施例1と同じ方法によって、5−arm PLA−COOHを得た。
【0061】
実施例6:3−armPLA−COONa(Mn〜3,000)の合成
実施例1で合成した3−arm PLA−COOHをアセトンに溶解し、丸底フラスコに入れた。次いで、攪拌機を取り付けた後、常温でゆっくり攪拌した。ここに、炭酸水素ナトリウム水溶液(1N)をゆっくり加えて中和した。少量のアセトン溶液を多量の蒸留水で希釈し、溶液がpH7となったことを確認した。次に、無水硫酸マグネシウムを加えて過剰な水分を除去し、濾過し、エバポレータでアセトンを減圧留去して白色の固体を得た。この白色の固体を再び無水アセトンに溶解し、濾過して無水アセトンに溶けない物質を除去した後、アセトンを減圧留去することによって、白色固体状の3−armPLA−COONaを得た。
【0062】
得られた3−arm PLA−COONaの数平均分子量を、1H−NMRスペクトル(図3)によって、3,085ダルトンと決定した。
【0063】
実施例7:3−arm PLA−COONa(Mn〜1,000)の合成
実施例2で合成した3−arm PLA−COOHを用いたこと以外は実施例6と同じ方法によって、3−arm PLA−COONaを得た。
【0064】
実施例8:3−armPLA−COONa(Mn〜2,000)の合成
実施例3で合成した3−arm PLA−COOHを用いたこと以外は実施例6と同じ方法によって、3−arm PLA−COONaを得た。
【0065】
実施例9:3−arm PLA−COONa(Mn〜4,000)の合成
実施例4で合成した3−arm PLA−COOHを用いたこと以外は実施例6と同じ方法によって、3−arm PLA−COONaを得た。
【0066】
実施例10:5−arm PLA−COONa(Mn〜4,000)の合成
実施例5で合成した5−arm PLA−COOHを用いたこと以外は実施例6と同じ方法によって、5−arm PLA−COONaを得た。
【0067】
製造例6:3−arm PLGA−OH(Mn〜3000)の合成
ラクチド(20.2g;0.14mol)とグリコリド(16.3g,0.14mol)を用いたこと以外は製造例1と同じ方法によって、3−arm PLGA−OHを得た。
【0068】
実施例11:3−arm PLGA−COOH(Mn〜3,000)の合成
製造例6で合成した3−arm PLGA−OH(100g)を用いたこと以外は実施例1と同じ方法によって、3−arm PLGA−COOHを得た。
【0069】
実施例12:3−arm PLGA−COONa(Mn〜3,000)の合成
実施例11で合成した3−arm PLGA−COOHを用いたこと以外は実施例6と同じ方法によって、3−arm PLGA−COONaを得た。
【0070】
実施例13:3−arm PLA−COOH(Mn〜3,000)の合成
製造例1で合成した3−arm PLA−OH(100g;0.033mol)を一口フラスコに入れ、真空条件下、125℃で1時間、高分子に含まれた水分を完全に除去した。乾燥された高分子を200mLのアセトンに完全に溶解し、反応温度を50℃に設定した。高分子の末端ヒドロキシ基モル数(0.033×3(分枝数)=0.099mol)に対して、スクシニルクロライド(55mL;0.495mol)を加えた。反応器内部に窒素を流入しながら、12時間反応を行なった。得られた高分子を溶解したアセトン溶液を蒸留水に少しずつ加えることによって、高分子を沈澱させた。沈澱した高分子を蒸留水で洗浄した後、炭酸水素ナトリウム水溶液に60℃で完全に溶かした。溶けない部分は濾過により除去した。ここに塩酸(1N)水溶液を少しずつ添加することによって、3−arm PLA−COOHを沈澱させた。得られた高分子を水で3回洗浄して、真空乾燥した。
【0071】
比較例1:線形ポリ乳酸ナトリウム塩(D,L−PLA−COONa)の合成
(1)D,L−ポリ乳酸(PLA−COOH)の合成1
100gのD,L−乳酸を250mLの三口丸底フラスコに入れ、攪拌機を取り付けた後、油浴中で80℃に加熱した。真空アスピレータで25mmHgに減圧しながら、反応を1時間行なって過剰の水分を除去した。反応温度を160℃に上げながら10mmHgに減圧し、反応を12時間行った後、反応を終結した。得られた反応物に1Lの蒸留水を加えて高分子を析出させた。析出した高分子に蒸留水を加え、pH4以下の水溶液に溶解する低分子量のオリゴマーを除去し、析出した高分子を1Lの蒸留水に加えた。ここに炭酸水素ナトリウムを少しずつ加えて水溶液のpHが6〜8になるようにすることによって、高分子を完全に溶解した。この際、水に溶解しない高分子は遠心分離や濾過などで除去した。
【0072】
1N塩酸を少しずつ加えて水溶液をpH2に調節しながら、高分子を水溶液から析出させた。析出した高分子を蒸留水で2回洗浄し、分離し、減圧下で乾燥して非結晶性オリゴマー(D,L−ポリ乳酸66g、収率:66%)を得た。このようにして得られた数平均分子量は、1,140ダルトンであった。
【0073】
(2)線形ポリ乳酸ナトリウム塩(PLA−COONa)の合成1
上記比較例1(1)で合成したD,L−ポリ乳酸(数平均分子量:1,140ダルトン)をアセトンに溶解かし、丸底フラスコに入れ、攪拌機を取り付けた。当該溶液を常温でゆっくり攪拌し、炭酸水素ナトリウム水溶液(1N)をゆっくり加えて中和した。
【0074】
少量のアセトン溶液を多量の蒸留水で希釈し、pHが7であることを確認した。次に、無水硫酸マグネシウムを加えて過剰の水分を除去し、反応混合液を濾過し、エバポレータでアセトンを留去することにより白色の固体を得た。当該白色固体を無水アセトンに溶解し、反応混合液を濾過して無水アセトンに溶けない物質を除去し、アセトンを減圧留去することによって、白色固形状のD,L−ポリ乳酸ナトリウム塩(収率96%)を得た。
【0075】
比較例2:線形ポリ乳酸ナトリウム塩(D,L−PLA−COONa)の合成
(1)D,L−ポリ乳酸(PLA−COOH)の合成2
反応温度を160℃に上げ、圧力を5mmHgに減圧した条件で24時間反応させたこと以外は比較例1(1)と同じ方法によって、D,L−ポリ乳酸を75g(収率75%)得た。数平均分子量は2,500ダルトンであった。
【0076】
(2)ポリ乳酸ナトリウム塩(PLA−COONa)の合成2
比較例2の(1)で合成したD,L−ポリ乳酸(数平均分子量2,500ダルトン)を用いたことを除いては、比較例1の(2)と同じ方法でポリ乳酸ナトリウム塩(収率95%)を合成した。
【0077】
実験例1:分子量に依存したミセル形成
数平均分子量が1,000、2,000、3,000及び4,000ダルトンの3−arm分枝状ポリ乳酸ナトリウム塩をそれぞれ蒸留水に溶かした後、形成されたミセルの粒径をDLS(dynamic light scattery,Zeta Plus,Brookhaven Instruments Corp.)を利用して測定した。粒径に関する結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
表1で示されるように、比較例2のD,L−PLA−COONaの場合、水に溶けなかったためミセルのサイズを測定できなかった。このように、線形のポリ乳酸金属塩は親水性として作用するカルボキシル基は一つであるため、疎水性部分の分子量が限界値(約2,000)を超えると、疎水性が増加して水に溶けない高分子になった。しかし、実施例6と実施例9の分枝状高分子はいくつかのカルボキシル基を持っているので、分子量が増大しても水に溶けてミセルを形成する上に、形成されたミセルのサイズは比較例1より大きい。
【0080】
また、高分子の分子量が高いほど低いCMC値を示している。このことは、分子量が高いほど水溶液中で安定なミセルを形成できることを意味する。
【0081】
線形ポリ乳酸誘導体の場合、ミセルを形成可能な高分子の分子量は最大2,000ダルトンである。しかし、分枝状ポリ乳酸誘導体の場合、最大18,000ダルトンの分子量でも水溶液中でミセルを形成できるので、より安定なミセルを形成することが可能になる。
【0082】
実験例2:水難溶性薬剤の可溶化試験
上記実施例で合成した分枝状ポリ乳酸ナトリウム塩とパクリタキセルを、アセトン、エタノール、酢酸エチル、アセトニトリル、ジクロロメタン及びクロロホルムの有機溶媒にそれぞれ溶かして透明な溶液を製造し、エバポレータで有機溶媒を除去して、水難溶性薬剤とオリゴマーの均一混合物を調製した。それらを蒸留水に溶かした。このようにして製造された水難溶性薬剤含有ミセル水溶液を、細孔径200nmのメンブランフィルタで濾過して溶解されない薬剤を除去した後、水溶液中の薬剤濃度を液体クロマトグラフィで定量した。結果を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
表2に示されるように、本発明の分枝状ポリ乳酸金属塩は、代表的な水難溶性薬剤であるパクリタキセルを效果的に可溶化できることが確認された。即ち、水難溶性薬剤のパクリタキセルは、水に対する溶解度が0.01mg/mL以下であるが、本発明の分枝状ポリ乳酸金属塩を使用する場合、15〜35mg/mLという多量の薬剤をミセル形態で可溶化できるので、多量の薬剤を安定に体内へ投与することができる。
【0085】
実験例3:pHによる分枝状ポリ乳酸誘導体の溶解度
実施例9で合成した分枝状ポリ乳酸ナトリウム塩のpHによる溶解度を測定するために、塩酸(1N)水溶液を用いてpH2に調節した水溶液と蒸留水に分枝状ポリ乳酸ナトリウム塩を溶解させた後、水溶液を観察した。その結果を図4に示す。
【0086】
図4に示されるように、pHが2〜3の範囲では分枝状ポリ乳酸誘導体溶液は可溶化せず、高分子が沈殿していることが確認された。体液と同様の範囲であるpH6〜7では分枝状ポリ乳酸誘導体が可溶化され、透明な液体が形成されることが確認された。また、薄青色を示したことは、水溶液中で形成されたミセルに起因すると判断した。
【産業上の利用可能性】
【0087】
上記に示されるように、一つの末端がカルボン酸またはカルボン酸アルカリ金属塩の形態で、数平均分子量が1,000〜18,000ダルトンである本発明の分枝状ポリ乳酸誘導体は、pH4以上の水溶液に溶解され親水性基及び疎水性基とが均衡をなすことによって、ミセルを形成することができる。形成されたミセルの大きさは10〜50nmであるので、それらは水難溶性薬剤送達体として好適である。本発明のポリ乳酸誘導体は幾つかの末端親水性基を有する分枝状構造を持ち、分子量が高いポリ乳酸でも水溶液で溶解することができる。また、水難溶性薬剤を含有するこれらミセルは、様々な形態の薬剤送達体に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】3−arm PLA−OHの1H−NMRスペクトル(製造例1)である。
【図2】3−arm PLA−COOHの1H−NMRスペクトル(実施例1)である。
【図3】3−arm PLA−COONaの1H−NMRスペクトル(実施例6)である。
【図4】3−arm PLA−COONaのpHによる溶解度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)の分枝状ポリ乳酸誘導体。
【化1】

式中、
Rは−[R1k−[R2m−であり、
ここで、R1は−C(=O)−CHZ−O−であり、
2は−C(=O)−CHY−O−、−C(=O)−CH2CH2CH2CH2CH2−O−または−C(=O)−CH2−O−CH2CH2−O−であり、
ここで、Z及びYはそれぞれ水素原子、メチルまたはフェニルであり、
kは1〜30の整数であり、
mは0〜30の整数であり;
Xは−C(=O)−(CH2a−C(=O)−O−Mであり、
ここで、aは0〜10の整数であり、
Mは水素原子、ナトリウム、カリウムまたはリチウムであり;
Iはジオールまたは3〜12個のヒドロキシ基を有するポリオールであり;
nは2〜12の整数で、且つIが有するヒドロキシ基の数と同じである。
【請求項2】
1,000〜18,000ダルトンの数平均分子量を有する請求項1に記載の分枝状ポリ乳酸誘導体。
【請求項3】
Rがラクチド、グリコリド、カプロラクトン、1,4−ジオキサン−2−オン及びマンデル酸よりなる群から選択される1または2以上の単一重合体または共重合体である請求項1に記載のポリ乳酸誘導体。
【請求項4】
Mがナトリウム、カリウムまたはリチウムである請求項1に記載のポリ乳酸誘導体。
【請求項5】
Iが、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセロール、エリトリトール、トレイトール、ペンタエリトリトール、キシリトール、アドニトール、ソルビトール、マンニトール、パラチノース、マルトース一水和物、マルチトールまたはD−ラフィノース五水和物から選択されるものである請求項1に記載のポリ乳酸誘導体。
【請求項6】
pH4以上の水溶液でミセルを形成する請求項1に記載のポリ乳酸誘導体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1に記載の分枝状ポリ乳酸誘導体の製造方法であって:
1)開始剤と触媒の存在下にラクチド系のモノマーを重合反応させて分枝状ポリ乳酸を得るステップ;
2)ステップ1)で得た分枝状ポリ乳酸を水溶性有機溶媒に溶解し、pH7以上の水溶液を加えることにより分枝状ポリ乳酸を精製し、真空乾燥して粉末形態の分枝状ポリ乳酸を得るステップ;
3)ステップ2)で得た分枝状ポリ乳酸誘導体を無水コハク酸またはジクロライド化合物と反応させることによって、末端カルボキシル基を有する分枝状ポリ乳酸誘導体を得るステップ;
を含む方法。
【請求項8】
請求項7に記載の分枝状ポリ乳酸誘導体の製造方法において、ステップ3)で得た分枝状ポリ乳酸誘導体にアルカリ金属塩を加えることによって、末端カルボキシアルカリ金属塩基を有する分枝状ポリ乳酸誘導体を得るステップを更に含む方法。
【請求項9】
請求項7に記載の分枝状ポリ乳酸誘導体の製造方法において、ステップ1)の開始剤を、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセロール、エリトリトール、トレイトール、ペンタエリトリトール、キシリトール、アドニトール、ソルビトール、マンニトール、パラチノース、マルトース一水和物、マルチトールまたはD−ラフィノース五水和物から選択する方法。
【請求項10】
請求項7に記載の分枝状ポリ乳酸誘導体の製造方法において、ステップ3)で、分枝状ポリ乳酸誘導体を、無水コハク酸、オキサリルクロライド、マロニルクロライド、スクシニルクロライド、グルタリルクロライド、アジポイルクロライド、セバシン酸ジクロライド及びドデカジオイルジクロライドよりなる群から選択される化合物と反応させる請求項7に記載の方法。
【請求項11】
請求項8に記載の分枝状ポリ乳酸誘導体の製造方法において、アルカリ金属塩を、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム及び炭酸リチウムよりなる群から選択する方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれかに記載の分枝状ポリ乳酸誘導体を含有する水難溶性薬剤送達用組成物。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれかに記載の分枝状ポリ乳酸誘導体及び水難溶性薬剤を含有する薬剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−526053(P2006−526053A)
【公表日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508549(P2006−508549)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【国際出願番号】PCT/KR2004/003174
【国際公開番号】WO2005/054333
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(500578515)サムヤン コーポレイション (20)
【Fターム(参考)】