説明

高分子分散型液晶表示装置及びその製造方法

【課題】 液晶セル内に気泡が介在するようなことがなく、能率的な高分子分散型液晶表示装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 一対の基板間に高分子分散型液晶が封入された高分子分散型液晶表示装置の製造方法において、高分子分散型液晶の封入工程が、所定の間隔を持たせて対向配置された一対の透明基板1、2間にディスペンサー12に接続されている注入管11の一端を挿入し、該注入管11を通して液晶と高分子樹脂との混合液7を透明基板1、2間に封入される量より大きい量を注入する注入工程と、注入管11を一対の透明基板1、2間から取り出した後に一対の透明基板1、2を対向配置した状態で押圧する押圧工程と、一対の透明基板1、2を押圧した状態で光照射により液晶と高分子樹脂とを相分離させる工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子分散型液晶表示装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は薄型化、軽量化等の長所により腕時計、電子卓上計算機、パーソナルコンピューター等に利用されている。しかし従来使用されているTN型液晶表示装置やSTN型液晶表示装置は視覚依存性があるために見る方向により色彩やコントラストが異なる。
【0003】
これに対して高分子分散型液晶(PDLC)表示装置は、図3に示すように、透明電極3、4付きガラス材からなる透明基板1、2間に液晶小滴30が樹脂マトリクス20中に分散保持されたもの、または、樹脂マトリクスが液晶中に粒子状またはネットワーク状に存在しているものである。また、この高分子分散型液晶(PDLC)表示装置は、図3(a)に示すように電圧無印加の時は液晶分子がランダムな方向を向いているために樹脂と液晶の屈折率に差が生じ、光は散乱され、図3(b)に示すように電圧を印加すると液晶分子が電界の方向に配列し、液晶と樹脂の屈折率が一致するために光を透過するという光の散乱・透過現象を利用したものであり、透過率が高く、視覚依存性がないのが特徴である。
【0004】
前述のような一対の基板間に高分子分散型液晶が封入された構成を有する高分子分散型液晶表示装置の製造方法として、一方の基板上に高分子樹脂と液晶とを混合した混合液を塗布した後、一方の基板と他方の基板とを対向させた状態でローラーで加圧しながら移動することにより高分子樹脂と液晶とを混合した混合液を基板内に充填すると共に両基板を貼り合せる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。以下、図2を基に貼り合せ法について説明する。
【0005】
まず図2(a)に示すように透明基板1上に液晶を駆動させる為のITO膜からなる透明電極3等を形成する。
【0006】
次に図2(b)に示すように透明基板1上にスクリーン印刷により紫外線硬化型シール剤5をパターン形成し、続いて、液晶と紫外線硬化型樹脂を所定の比率で混合した混合液7にプラスチックスペーサ6を加えて十分に攪拌したものを塗布する。この時、図2(c)に示すようにシール剤5のパターンには開口部10が設けてある。
【0007】
次に図2(d)に示すように全面にITOからなる対向電極4を形成した透明基板2を、上記透明基板1上に載せ、ローラー8にて透明基板2を加圧しながら、ローラー8を開口部10方向に移動させる。これによって図2(e)に示すようにセルギャップ出しを行うと共に、混合液7の充填を行う。
【0008】
次に、図2(f)に示すように石英板9で透明基板2の上面全面を加圧しながら、全面に紫外線を照射し、混合液7の紫外線硬化型樹脂を硬化させた。この時、シール剤5も同時に硬化される。これにより、ポリマーネットワークが形成され、この中に液晶が分散し、高分子分散型液晶表示装置が得られる。
【0009】
また、高分子分散型液晶表示装置の他の製造方法として、真空注入法と呼ばれるものが知られている。この方法は、一対の電極付きガラス基板を洗浄した後、一方の基板の縁部にシール樹脂を形成し(シール樹脂の一部は注入のための開口部がある)、他方の基板に所定の大きさの隙間を維持するためのスペーサを散在させる。その後両基板を貼り合わせ、加熱することでシール樹脂を硬化させる。そしてこのパネルを減圧した槽内に設置しパネル内を真空にした後、注入口を液晶に接触させ、槽内を常圧に戻すことにより、液晶をパネル内に注入するというものである。
【0010】
【特許文献1】特開平9−5723号公報(第3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら前述の貼り合せ法は一方の透明基板1の上に高分子と液晶とを溶媒に溶解させた溶液を塗布し、他方の透明基板2を貼り合わせる工程時に、一対の透明基板1、2の内側に気泡が入り込んでしまうおそれがある。特に透明基板1、2の周囲にシール材5を設ける場合は注入時の空気抜きのための開口部10を設けてあるが、ローラー8で直接加圧する側の透明基板2の厚さが300μm以下に制限される等の問題があり、ローラー8で基板を加圧しながら張り合わせても内部に気泡が残ってしまう虞があった。また、この気泡が一対の透明基板1、2の対向する電極間に介在すると、電圧印加時にその電極間の液晶にかかる電圧と、気泡が介在しない電極間の液晶にかかる電圧とに差が生じるため、均一な液晶分子配列ができず、表示むらの原因となってしまうという問題があった。
【0012】
また、従来の真空注入法では揮発性の高い材料を用いている場合、真空に引いている間に材料の組成が変化してしまうという問題があった。また、パネル内を真空にするために複雑な真空装置が必要であり、しかも槽内を真空に引くのに時間がかかり、生産性が悪くなってしまうという問題があった。特に、大型基板の場合は、格納する真空装置が大型化し生産性が悪くなり、実用的ではなかった。
【0013】
(発明の目的)
本発明は、このような点に着目してなされたもので、その目的とするところは、能率的な製造を達成でき、かつ液晶セル内に気泡が介在するようなことがない高分子分散型液晶表示装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明の高分子分散型液晶表示装置の製造方法は、一対の基板間に高分子分散型液晶が封入された高分子分散型液晶表示装置の製造方法において、高分子分散型液晶の封入工程が、所定の間隔を持たせて対向配置された一対の透明基板間にディスペンサーに接続されている注入管の一端を挿入し、該注入管を通して液晶と高分子樹脂との混合液を前記透明基板間に封入される混合液の量より大きい量を注入する注入工程と、注入管を一対の透明基板間から取り出した後に一対の透明基板を対向配置した状態で押圧する押圧工程と、一対の透明基板を押圧した状態で光照射により液晶と高分子樹脂とを相分離させる工程とを有することを特徴とする。
【0015】
また、一対の透明基板間に注入される液晶と高分子樹脂との混合液の量はディスペンサーによって所定の量に計量されていることを特徴する。
【0016】
また、注入管の外径が0.6mmから1mmの範囲であり、内形が0.4mmから0.8mmの範囲に設定されていることを特徴とする。
【0017】
また、高分子樹脂が紫外線硬化型樹脂であり、一対の透明基板を押圧する工程を行った後に、透明基板全面に紫外線を照射することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の高分子分散型液晶表示装置は本発明の高分子分散型液晶表示装置の製造方法を用いて製造したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上のように本発明の高分子分散型液晶表示装置の製造方法によれば、液晶パネル内への気泡の混入を防止しながら、極めて短時間で容易に液晶と高分子樹脂の混合液を充填することができる。またパネルを高真空に引かずにすむので、従来の真空注入に比べて大幅に製造時間を短縮することができ、その結果、製造コストを低下させることができ、大型基板にも充分対応が可能である。また歩留が向上すると共に信頼性の高い高分子分散型液晶表示装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施形態における高分子分散型液晶表示装置の製造方法は、所定の間隔を持たせて対向配置された一対の透明基板間にディスペンサーに接続されている注入管の一端を挿入し、この注入管を通して液晶と高分子樹脂としての紫外線硬化型樹脂との混合液をディスペンサーで計量し、透明基板間に封入される混合液の量より大きい量を注入し、その後、注入管を一対の透明基板間から取り出し、一対の透明基板を対向配置した状態で押圧し、余分な混合液を基板外部に排出させ、一対の基板を押圧した状態で紫外線を照射して液晶と紫外線硬化型樹脂とを相分離させることによって、一対の基板間に高分子分散型液晶を封入することを特徴としている。以下、図をもって本発明の具体的な実施例について説明する。
【実施例】
【0021】
図1を用いて本発明の実施例における高分子分散型液晶表示装置の製造方法について説明する。図1は本実施例における高分子分散型液晶表示装置の製造方法を示す模式図で、図1(a)から図1(e)は、製造方法の各工程を示す模式断面図である。本実施例における高分子分散型液晶表示装置の基本的な構成は前述の従来例と類似しているため同様な構成要素については同一番号を付与し説明は省略する。
【0022】
まず、従来例と同様に、透明電極(図示せず)を形成した2枚の透明基板1、2を洗浄した後、一方の透明基板1にスペーサ6として粒状のそろった直径15μmのプラスチック粒へ散布し、固着させておく。
【0023】
次に、図1(a)に示すように、300mm角の大きさの透明ガラス板からなる一対の透明基板1、2を透明電極が対向するように配置し、約1.0mmの間隔をもたせて重ね合わせる。この透明基板1、2の間隔は、後述のディスペンサー12に接続されている注入管11が挿入出来る範囲で小さい方が好ましい。この時、透明基板1、2の両端の間に着脱可能なブロック(図示せず)等を配置して上記間隔を保つようにしてもよい。また、他方の透明基板2は多少傾いていても差し支えない。この所定の間隔を持たせて対向配置された一対の基板1、2間にディスペンサー12に接続されている注入管11の一端を透明基板1、2基板の中央付近まで挿入する。
【0024】
次に図1(b)に示すように、ディスペンサー12を用いて液晶と高分子樹脂として紫外線硬化型樹脂を所定の比率で混合した混合液7を一対の透明基板1、2間に注入する。この時、注入された混合液7が一対の透明基板1、2に接触したことを確認し、その後、更に混合液7を注入する。この時、注入する混合液7の注入量は、ディスペンサー12によって計量され、透明基板1、2内に封入される量の1.35cmの10%増しとし、約1.5cmとした。
紫外線硬化型樹脂としては、公知のアクリル樹脂系のものを用いた。
【0025】
注入管11はステンレス材からなり、外径は0.8mmである。注入管11が透明基板1、2に触れると液晶の配向性が悪くなるので、注入管11の外径を透明電極の間隔より0.1mmから0.5mm小さくすることが好ましい。又、注入管11の内径は、混合液7の粘度によって注入が困難にならない寸法である0.4mm以上であり、注入量が多すぎて注入量のコントロールが行えなくなることのない0.8mm以下であることが好ましい。尚、注入管11の材質については、ステンレス材に限定されず他の金属材料や樹脂材料など自由に用いることができる。
【0026】
次に図1(c)に示すように、混合液7を所定量注入した後、ディスペンサー12に接続されている注入管11を一対の透明基板1、2の外側に引き出して取り外す。そして透明基板1、2の両端の間に配置されているブロック(図示せず)も取り外す。
【0027】
次に図1(d)に示すように、所定の加圧治具(図示せず)を用いて対向配置されている透明基板1、2を加圧する。透明基板1、2の間隔をスペーサ6の大きさの0.15mmにする。これによって、一対の透明基板1、2と混合液7との接触面積が拡大され、最終的に図1(e)に示すように上記接触面が一対の透明基板1、2の全面に広がった状態となる。この時、混合液7は一対の透明基板1、2間に封入される量以上に注入されているので、混合液7の一部が一対の透明基板1、2外にはみ出ることになる。
【0028】
次に、図1(e)に示すように透明基板1、2の間隔をスペーサ6に合わせるように均等な圧力で押圧し、スペーサ6が透明基板1、2の両方に接触した状態を保持し、透明基板2の上方から全面に紫外線を照射し、透明基板1、2内の混合液7の液晶と紫外線硬化型樹脂を相分離させると同時に紫外線硬化型樹脂を硬化させた。その後、不要部分を切断して除去した。これにより、透明基板1、2内の液晶が分散し、高分子分散型液晶表示装置が得られた。このようにして得られた高分子分散型液晶表示装置は、液晶層に厚さが均一で、気泡の混入も認められなかった。
【0029】
以上のように本実施例における高分子分散型液晶表示装置の製造方法によれば、複雑な真空装置を用いることなく、液晶と紫外線硬化型樹脂との混合液7をディスペンサー12に用いて所定の量を注入するという簡易な方法で気泡の混入がなく行うことができ、従来のように液晶パネルを高真空にひく必要がないために製造時間を大幅に短縮することができた。また紫外線硬化型樹脂を硬化させるのでシール樹脂を使わないでシール形成したので、硬化の製造時間も短縮することができた。
【0030】
また、ディスペンサーを用いることで注入する液晶と光硬化型樹脂との混合液7の注入量を計量することが可能となり、混合液7の無駄がなくなり、混合液7の使用量を少なくすることができた。
【0031】
尚、本実施例においては、混合液7を構成する高分子樹脂としてアクリル樹脂系の紫外線硬化型樹脂を用いた例で説明したが、他の光硬化型樹脂でもよく、また、光硬化型樹脂に限らず熱硬化型樹脂や熱可塑性樹脂などを用いて熱により反応させ硬化させても良い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例に係る高分子分散型液晶表示装置の製造方法を説明するための模式図である。
【図2】従来技術における高分子分散型液晶表示装置の製造方法を説明するための模式図である。
【図3】従来技術における高分子分散型液晶(PDLC)表示装置を示し、図3(a)は液晶の光散乱状態を示し、図3(b)は、液晶の光透過状態の動作状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0033】
1、2 透明基板
3、4 透明電極
5 シール剤
6 スペーサ
7 混合液
8 ローラー
9 石英板
10 開口部
11 注入管
12 ディスペンサー
20 樹脂ネットワーク
30 液晶小滴


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板間に高分子分散型液晶が封入された高分子分散型液晶表示装置の製造方法において、
前記高分子分散型液晶の封入工程が、所定の間隔を持たせて対向配置された一対の透明基板間にディスペンサーに接続されている注入管の一端を挿入し、該注入管を通して液晶と高分子樹脂との混合液を前記一対の透明基板間に封入される量より大きい量を注入する注入工程と、前記注入管を前記一対の透明基板間から取り出した後に前記一対の透明基板を対向配置した状態で押圧する押圧工程と、前記一対の透明基板を押圧した状態で光照射により前記液晶と前記高分子樹脂とを相分離させる工程とを有することを特徴とする高分子分散型液晶表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記一対の透明基板間に注入される液晶と高分子樹脂の混合液の量は前記ディイスペンサーによって所定の量に計量されていることを特徴する請求項1記載の高分子分散型液晶表示装置の製造方法。
【請求項3】
前記注入管の外径が0.6mmから1mmの範囲であり、内形が0.4mmから0.8mmの範囲に設定されていることを特徴とする請求項1記載の高分子分散型液晶表示装置の製造方法。
【請求項4】
前記高分子樹脂が紫外線硬化型樹脂であり、一対の透明基板を押圧する工程を行った後に、透明基板全面に紫外線を照射することを特徴とする請求項1または請求項2記載の高分子分散型液晶表示装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の高分子分散型液晶表示装置の製造方法を用いて製造したことを特徴とする高分子分散型液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−138897(P2006−138897A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326066(P2004−326066)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000124362)シチズンセイミツ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】