説明

高分子化合物の処理方法及び装置

【課題】バージンのポリエチレンを少量、もしくは加えずに、架橋方法の異なる架橋ポリエチレン混在物を熱可塑化して分子量の低下が少ない良質な生成物を得ることが可能な高分子化合物の処理方法を提供する。
【解決手段】高分子化合物とその高分子化合物と反応させる薬剤とを反応用押出機2に供給し、これら高分子化合物と薬剤とを反応用押出機2内で反応させ、高分子化合物を熱可塑化させて高分子処理物を生成する高分子化合物の処理方法において、高分子化合物に対して機械的な力を作用させるためのせん断混練ゾーン29を、反応用押出機2内に少なくとも1ヶ所以上設け、そのせん断混練ゾーン29で、熱可塑化していない高分子化合物をせん断・混練して熱可塑化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物を薬剤との反応と押出機スクリュでの混練により処理する高分子化合物の処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、欧州を中心として世界中の各国で環境問題に対しての取組みが実施されている。省エネ法やWEEE指令、EuP指令を見ても、現存する資源の有効な利用方法の確立や廃棄物のリサイクルといったいわゆる3R(Reuse、Reduce、Recycle)の取組み・技術開発が重要であることは言うまでもない。
【0003】
現在の生活になくてはならないポリマ材料についても、これまで多くのリサイクル技術が検討されてきた。この中でも、マテリアルリサイクルに関する技術開発は、資源使用量の削減やCO2ガス排出抑制に大きく貢献できる可能性がある。
【0004】
ポリエチレンやポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどの熱可塑性ポリマは、加熱により再成形が可能であり、マテリアルリサイクルが容易であるが、架橋ポリオレフィンやエポキシ樹脂、不飽和ポリエステルなどの熱可塑性を有さないポリマは加熱しても流動しないためにマテリアルリサイクルが困難である。
【0005】
電線被覆や給湯用パイプなどに大量に使用されている架橋ポリエチレンも架橋ポリオレフィンの一種であって、熱可塑性を有さないためにマテリアルリサイクルが困難である。従来は、一部が燃料として使用されたものの、そのほとんどが産業廃棄物として埋立処理されていたが、近年、架橋ポリエチレンをマテリアルリサイクルする技術の検討が行われてきており、押出機中でスクリュのせん断力により架橋ポリエチレンを熱可塑化する技術(例えば、特許文献1参照)、超臨界水または亜臨界水を利用して架橋ポリエチレンを熱可塑化する技術(例えば、特許文献2参照)がこれまでに検討されている。
【0006】
その他にも、架橋ポリエチレンを微粉化した後に高温で熱分解させることにより、油状燃料を得る方法(例えば、特許文献3参照)などが検討されている。
【0007】
しかし、これらの方法では、処理後のポリエチレンの分子量の低下が大きいこと、再利用時にバージンのポリエチレンを大量に必要とすること、ワックスや油にまで分解反応を進めてしまった場合には、架橋前の元のポリエチレンに戻すマテリアルリサイクルは難しいことなどの問題がある。
【0008】
そこで、最近になり、シラン架橋ポリエチレンを超臨界または亜臨界のアルコールと反応させることにより、シラン架橋ポリエチレンの架橋点であるシロキサン結合のみを分解する技術が研究されてきた(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
この方法を用いれば、架橋点のみを分解することから反応後のポリエチレンの分子量の低下がほとんどないので、バージンのポリエチレンをブレンドすることなく再利用が可能となる。
【0010】
【特許文献1】特許第3026270号公報
【特許文献2】特開平6−279762号公報
【特許文献3】特開平10−160149号公報
【特許文献4】特開2005−029669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、一度市場に出回り、廃電線などとして回収されてきた架橋ポリエチレンは、シラン架橋ポリエチレンと有機過酸化物などにより架橋されたパーオキサイド架橋ポリエチレンとの区別がほとんどなされないのが現状である。
【0012】
特許文献4で示されるような押出機を利用した装置では、添加する薬剤との化学反応のみを高分子化合物に作用させ、分子量の低下に伴う物性の低下を抑えるために、高分子化合物にかかる機械的な力がなるべく小さくなるように設計していたが、上述のようにパーオキサイド架橋ポリエチレンとシラン架橋ポリエチレンが混在していると、分子をシロキサン結合で架橋したポリマであるシラン架橋ポリエチレンしか熱可塑化することができず、薬剤と化学反応をしないパーオキサイド架橋ポリエチレンを熱可塑化させることはできなかった。
【0013】
そのため、廃材中に混入するパーオキサイド架橋ポリエチレンが熱可塑化されず、反応生成物が十分な熱可塑性を有さなくなってしまう。それに伴って流動性が悪くなり、処理時に反応用押出機中の圧力が異常に変動したり、架橋成分の存在により押出された反応生成物のストランド外径が変動するために、安全性や作業性が悪化してしまう。
【0014】
シラン架橋ポリエチレンとパーオキサイド架橋ポリエチレンは外観からの判別がつきにくいことや、現在のところ有効な分別方法がないことから、特許文献4で示される技術で実廃棄物を処理するためには、パーオキサイド架橋ポリエチレンが混合していても問題なくシラン架橋ポリエチレンを処理することができるような方法や装置の構成を検討する必要がある。
【0015】
一方、このようなシラン架橋ポリエチレンとパーオキサイド架橋ポリエチレンの混合物を処理する場合、押出機でスクリュのせん断力により熱可塑化する特許文献1のような方法では、バージン材を大量に必要とすることや、炭素−炭素結合より結合エネルギーが大きいシロキサン結合を分子中に有しているシラン架橋ポリエチレンは、パーオキサイド架橋ポリエチレンに比べて熱可塑化されにくいなどの問題がある。
【0016】
そこで、本発明の目的は、バージンのポリエチレンを少量、もしくは加えずに熱可塑化させることが可能となり、廃電線などから回収された架橋方法の異なる架橋ポリエチレン混在物を熱可塑化して分子量の低下が少ない良質な生成物を得ることが可能な高分子化合物の処理方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、高分子化合物とその高分子化合物と反応させる薬剤とを反応用押出機に供給し、これら高分子化合物と薬剤とを反応用押出機内で反応させて高分子処理物を生成する高分子化合物の処理方法において、前記高分子化合物に対して機械的な力を作用させるためのせん断混練ゾーンを、前記反応用押出機内に少なくとも1ヶ所以上設け、そのせん断混練ゾーンで、熱可塑化していない前記高分子化合物をせん断・混練して熱可塑化する高分子化合物の処理方法である。
【0018】
本発明は、前記せん断混練ゾーンは、前記薬剤の注入口よりも出口側に少なくとも1つ以上配置される高分子化合物の処理方法である。
【0019】
本発明は、前記せん断混練ゾーンは、その温度を240〜380℃の範囲に保ち、せん断速度(s-1)と混練ゾーンでの樹脂滞留時間(s)との積が2500以上である高分子化合物の処理方法である。
【0020】
本発明は、前記高分子化合物と予め超臨界または亜臨界状態とした前記薬剤とを、超臨界または亜臨界状態とした前記反応用押出機内で反応させる高分子化合物の処理方法である。
【0021】
本発明は、前記高分子化合物は、シラン架橋ポリエチレンとパーオキサイド架橋ポリエチレンとの混合物、またはこれらにバージンのポリエチレンを混合したものであって、前記薬剤は、アルコール類またはアルコール類を含む混合物である高分子化合物の処理方法である。
【0022】
本発明は、高分子化合物とその高分子化合物と反応させる薬剤とを反応させて高分子処理物を生成する反応用押出機を備えた高分子化合物の処理装置において、前記反応用押出機は、その内部に前記高分子化合物に対して機械的な力を作用させ、熱可塑化していない前記高分子化合物をせん断・混練して熱可塑化するためのせん断混練ゾーンを、少なくとも1ヶ所以上備える高分子化合物の処理装置である。
【0023】
本発明は、前記せん断混練ゾーンは、前記薬剤の注入口よりも出口側に少なくとも1つ以上配置される高分子化合物の処理装置である。
【0024】
本発明は、前記せん断混練ゾーンは、その温度を240〜380℃の範囲に保ち、せん断速度(s-1)と混練ゾーンでの樹脂滞留時間(s)との積が2500以上である高分子化合物の処理装置である。
【0025】
本発明は、前記反応用押出機は、前記高分子化合物と予め超臨界または亜臨界状態とした前記薬剤とを、超臨界または亜臨界状態とした前記反応用押出機内で反応させるものである高分子化合物の処理装置である。
【0026】
本発明は、前記高分子化合物は、シラン架橋ポリエチレンとパーオキサイド架橋ポリエチレンとの混合物、またはこれらにバージンのポリエチレンを混合したものであって、前記薬剤は、アルコール類またはアルコール類を含む混合物である高分子化合物の処理装置である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、廃電線を回収する際にシラン架橋ポリエチレンとパーオキサイド架橋ポリエチレンが混在しても、せん断混練ゾーンでせん断力を付与して薬剤と反応しにくいパーオキサイド架橋ポリエチレンを熱可塑化し、薬剤により分解したシラン架橋ポリエチレンと混練させることで、超臨界または亜臨界反応が良好となり、特性の良好な生成物を得ることができる。
【0028】
また、本発明によれば、バージンのポリエチレンを少量または使用しなくとも、良質な再生ポリエチレンを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。
【0030】
図1は、本発明の好適な第1の実施形態を示す高分子化合物の処理装置の概略図である。
【0031】
図1に示すように、第1の実施形態に係る高分子化合物の処理装置1は、高分子化合物と薬剤とを反応させて高分子処理物を生成する反応用押出機2と、反応用押出機2で生成した高分子処理物と薬剤との混合物から薬剤を脱気する脱気用押出機3とを主に備える。
【0032】
反応用押出機2および脱気用押出機3は、二軸押出機であり、シリンダ内に一対のスクリュを互いに同方向、あるいは異方向に回転自在に設けて構成される。
【0033】
反応用押出機2の基部には、高分子化合物を投入するホッパ4が設けられ、その先端の吐出口には反応管5が接続される。ホッパ4と吐出口との間のシリンダには薬剤注入口6が設けられる。
【0034】
薬剤注入口6は、薬剤注入ライン7を介して薬剤タンク8に接続される。薬剤注入ライン7には、薬剤を加圧し反応用押出機2に送り込むための薬剤注入ポンプ9と、薬剤を加熱するための薬剤加熱ヒータ10とが配置される。薬剤は、薬剤注入ポンプ9および薬剤加熱ヒータ10により高温高圧にされ、超臨界または亜臨界状態で反応用押出機2に注入される。
【0035】
薬剤注入口6のホッパ4側には、薬剤注入口6より注入された薬剤がホッパ4へ逆流しないようにシールゾーン11が設けられる。シールゾーン11は、高分子化合物が通過する際、高分子化合物が圧縮されて流路を塞ぐことができるように、スクリュ構造を高分子化合物の流路が狭くなるように設計した部分である。
【0036】
また、反応用押出機2には、そのシリンダ内を所定の温度に保つためのジャケットやヒータなどの図示しない加熱手段が設けられる。反応用押出機2内は、薬剤が超臨界または亜臨界の状態を保持できる温度・圧力に調整される。
【0037】
反応管5は、超臨界または亜臨界状態を保持してシラン架橋ポリエチレンと薬剤とを反応させるものである。反応管5の先端(吐出口)は、反応管5から吐出された高分子処理物と薬剤の混合物を常圧付近まで減圧する圧力調整バルブ14が設けられた吐出ライン12を介して、脱気用押出機3の投入口13に接続される。
【0038】
脱気用押出機3の投入口13の上流側には、高分子処理物と薬剤との混合物から薬剤を脱気するためのバックベント15が設けられ、投入口13の下流側には、バックベント15と同様に薬剤を脱気するフロントベント16が設けられる。バックベント15には、バックベント15を加熱するためのベントボックスヒータ17が設けられる。
【0039】
脱気用押出機3の先端(吐出口)には、脱気した高分子処理物をストランド状にして排出するためのダイス18が設けられる。ダイス18の下流側には、ストランド状の高分子処理物を冷却する冷却水槽19が配置され、その冷却水槽19の下流側には、ストランド状の高分子処理物を切断してペレタイズ(ペレット化)するストランドカッタ20が配置される。
【0040】
バックベント15およびフロントベント16は、吸引ライン21を介して、薬剤中の不純物をトラップするためのトラッパー22に接続される。各吸引ライン21には、バックベント15およびフロントベント16内の圧力を調整するための槽圧調整バルブ23が設けられる。
【0041】
トラッパー22は、凝縮ライン24を介して、薬剤を凝縮して貯留するコンデンサ25に接続される。凝縮ライン24には、バックベント15およびフロントベント16から薬剤を真空吸引し、真空吸引した薬剤をコンデンサ25に凝縮するための真空ポンプ26が配置される。この真空ポンプ26としては、吸引した薬剤とオイルなどの液体が混合することのないドライ式のものを用いるとよい。
【0042】
バックベント15およびフロントベント16には、ベントボックス内を開放するための安全ライン27がそれぞれ接続され、各安全ライン27には安全弁28がそれぞれ設けられる。
【0043】
次に、高分子化合物の処理装置1での処理方法を説明する。
【0044】
高分子化合物の処理装置1では、反応用押出機2のホッパ4より高分子化合物を導入し、反応用押出機2のシリンダに超臨界または亜臨界状態とした薬剤を注入して、反応用押出機2および反応管5の中で超臨界または亜臨界状態を保持して高分子化合物と薬剤とを反応させる。
【0045】
その後、熱可塑化された高分子処理物と反応後の薬剤とは、圧力調整バルブ14を介して常圧付近まで減圧され、脱気用押出機3中で高分子化合物と薬剤とに分離される。
【0046】
薬剤は、脱気用押出機3に設けられたバックベント15およびフロントベント16から真空ポンプ26により真空吸引され、トラッパー22で不純物を除去された後、真空ポンプ26を通過して、コンデンサ25内で凝縮される。
【0047】
分離された高分子化合物は、脱気用押出機3に設けられたダイス18によりストランド状に押出され、冷却水槽19を通して水冷した後にストランドカッタ20によりペレタイズされる。高分子化合物の処理装置1により得た高分子処理物のペレットは、リサイクル材料として用いられる。
【0048】
ここで、高分子化合物の処理装置1で処理される高分子化合物と薬剤について説明する。
【0049】
高分子化合物は、シラン架橋ポリエチレンとパーオキサイド架橋ポリエチレンとの混合物、またはこれらにバージンのポリエチレンを混合したものであり、薬剤はアルコール類やアルコール類を含む混合物である。
【0050】
アルコール類またはアルコール類を含む混合物としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、i−ペンチルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、ベンジルアルコール、およびステロイドアルコールなどを挙げることができ、アルコール類と同様にヒドロキシル基を有するフェノール、クレゾール、2,4,6−トリブロモフェノール、サリチル酸、ピクリン酸、ナフトール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、およびピロガロールなどのフェノール類も使用することができる。これらは、単独で使用してもよく、二種以上併用してもよい。
【0051】
また、高分子化合物のシラン架橋ポリエチレンの代わりにシロキサン結合を持つポリマを用いてもよい。
【0052】
シロキサン結合を持つポリマとしては、例えば、シラン架橋ポリエチレンを含むシラン水架橋ポリマやシリコーンゴム、シリコーン樹脂などが挙げられる。
【0053】
ここで、シラン水架橋ポリマとは、ポリマに、ビニルアルコキシシランなどのシラン化合物をパーオキサイドを用いてグラフトさせ、アルコキシ基の加水分解によって生成したシラノール基の縮合反応により分子間を架橋させたものである。
【0054】
シラン水架橋ポリマに用いられるポリマとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−プロピレンゴムおよびエチレン−オクテンゴムなどを挙げることができ、これらは単独で使用してもよく、二種類以上併用してもよい。また、エチレンとアルコキシシランを有するビニル化合物を共重合したポリマも使用することができる。
【0055】
さらに、高分子化合物として、上記以外にも、架橋ポリマ、プラスチックやゴムなどの熱硬化性または熱可塑性を有しないポリマや、リグニン、セルロース、タンパク質などの天然高分子、さらには合成高分子と天然高分子との混合物、シュレッダーダストのように高分子化合物を主として、これに他の材料が混合したものを適当な薬剤と組み合わせて反応するものを適用することができる。
【0056】
さて、高分子化合物に含まれるパーオキサイド架橋ポリエチレンは、反応用押出機2内で熱可塑化しにくく、アルコール類またはアルコール類を含む混合物からなる薬剤と化学反応しにくいため、パーオキサイド架橋ポリエチレンを含む高分子化合物をそのまま搬送しただけでは熱可塑化されにくい。
【0057】
そこで本発明では、反応用押出機2に、パーオキサイド架橋ポリエチレンにせん断力を付与し、その分子結合を切断して熱可塑化させるためのせん断混練ゾーン29を新たに設けた。これを図1の拡大図である図2により説明する。
【0058】
図2に示すように、高分子化合物の処理装置1は、反応用押出機2の薬剤注入口6の出口側(吐出口側)に、高分子化合物に対して機械的な力を作用させ、高分子化合物をせん断・混練して熱可塑化させるせん断混練ゾーン29が少なくとも1ヶ所(図1では1ヶ所)設けられるものである。
【0059】
せん断混練ゾーン29は、薬剤注入口6より注入した薬剤により、シラン架橋ポリエチレンのシロキサン結合分解反応が十分進む位置に配置するとよい。
【0060】
せん断混練ゾーン29は、反応用押出機2のスクリュ(フライトスクリュなど)の軸に一体に連結したニーディングディスクで構成され、反応用押出機2のスクリュでシリンダ内を押出され搬送される高分子化合物をせん断混練ゾーン29内のシリンダ内で滞留させた状態にして、ニーディングディスクの回転によりせん断力を付与するものである。
【0061】
このニーディングディスクによるせん断速度と樹脂滞留時間、および温度を最適化することで、パーオキサイド架橋ポリエチレンの分子結合を切断して熱可塑化することが可能となる。
【0062】
第1の実施形態の作用を説明する。
【0063】
ホッパ4より投入された高分子化合物は、シラン架橋ポリエチレンと薬剤とを反応させながら、反応用押出機2内を出口側(吐出口側)に搬送され、せん断混練ゾーン29へと搬送される。
【0064】
このとき、薬剤によりシラン架橋ポリエチレンのシロキサン結合分解反応が十分進む位置にせん断混練ゾーン29が配置されており、この結果、せん断混練ゾーン29には、薬剤によりシラン架橋ポリエチレンのシロキサン結合が分解されてできたポリエチレンと、薬剤と反応しにくいパーオキサイド架橋ポリエチレンとの混合物が供給される。
【0065】
せん断混練ゾーン29では、熱可塑化されていないパーオキサイド架橋ポリエチレンを滞留させ、ニーディングディスクでせん断力を付与して分子結合を切断し、これをシラン架橋ポリエチレンが分解されてできたポリエチレンと混練しつつ熱可塑化する。
【0066】
せん断混練ゾーン29の温度は、(1)パーオキサイド架橋ポリエチレンがせん断により十分に熱可塑化される、(2)熱分解による生成物の物性低下の影響が少ない、という条件を満たすように設定される。
【0067】
具体的には、せん断混練ゾーン29の温度は、240〜380℃の範囲に設定される。これは、せん断混練ゾーン29の温度が240℃未満であるとパーオキサイド架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されず、380℃を超えると生成される高分子処理物の分子量が低下してしまうためである。反応用押出機2のせん断混練ゾーン29以外の領域の温度と、せん断混練ゾーン29の温度とはかならずしも一致しない。
【0068】
また、せん断混練ゾーン29でのせん断速度(s-1)と樹脂滞留時間(s)との積は2500以上、好ましくは16000〜17000、より好ましくは16000程度であるとよい。
【0069】
ここで、せん断速度(s-1)とは、単位時間あたりのスクリュの山の頂点の移動距離(mm/s)をスクリュの山の頂点と押出機シリンダとのクリアランスで割った値である。せん断速度はニーディングディスクの回転速度で調整され、樹脂滞留時間はせん断混練ゾーン29の長さで調整される。
【0070】
せん断混練ゾーン29で高分子化合物に加わる機械的なエネルギーは、せん断速度と樹脂滞留時間との積に比例し、それぞれの値が大きくなるほど高分子化合物に加わる機械的な力は増大していく。
【0071】
せん断混練ゾーン29でのせん断速度(s-1)と樹脂滞留時間(s)との積を2500以上とするのは、この値が2500未満であると、高分子化合物に加わる機械的な力が不足し、パーオキサイド架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されないためである。
【0072】
シラン架橋ポリエチレンとパーオキサイド架橋ポリエチレンの混合物を熱可塑化する際には、せん断速度とせん断混練ゾーン29での樹脂滞留時間との積を16000〜17000、より好ましくは16000程度とすれば、高分子処理物の分子量が低下することもなく、特に良好な特性を有する高分子処理物が得られる。
【0073】
また、高分子化合物の熱可塑化に影響を与える他の因子としてせん断混練ゾーン29での圧力が挙げられるが、このせん断混練ゾーン29での圧力は、好ましくは1.0MPa以上であるとよい。
【0074】
このように、本発明によれば、高分子化合物としてシラン架橋ポリエチレンとパーオキサイド架橋ポリエチレンとの混合物を用いても、これを熱可塑化することが可能になる。
【0075】
また、シラン架橋ポリエチレンと薬剤を化学反応させた後に、パーオキサイド架橋ポリエチレンをせん断混練ゾーンで熱可塑化するため、先にシラン架橋ポリエチレンのシロキサン結合を切断してポリエチレンとし、バージンのポリエチレンの代替としてせん断混練ゾーン29に供給することができる。よって、バージンのポリエチレンの添加が不要、もしくは少量で済みむようになり、バージンのポリエチレンを添加しなくても、分子量の低下が少ない良質な高分子処理物を得ることができる。
【0076】
次に、第2の実施形態に係る高分子化合物の処理装置を説明する。
【0077】
図3に示すように、高分子化合物の処理装置31は、図1の高分子化合物の処理装置1の脱気用押出機3を省略し、1台の押出機32で高分子化合物の処理装置1と同様の処理を行うものである。
【0078】
高分子化合物の処理装置31は、基本的に図2の反応用押出機2と同じ構成であるが、これに加えて吐出口の上流側にベント33を設け、このベント33で薬剤を効率よく真空吸引するために、せん断混練ゾーン29の下流側にシールゾーン34を設けたものである。また、押出機32の吐出口には、高分子処理物をストランド状に押出すためのダイス35が設けられる。ダイス35の下流側には、図示しない冷却水槽、ストランドカッタが配置される。
【0079】
ベント33により真空吸引した薬剤は、図1の高分子化合物の処理装置1と同様に、トラッパー、ドライ式の真空ポンプ、コンデンサにより回収される。
【0080】
また、高分子化合物の処理装置31では、押出機32のL/Dを大きくして高分子化合物の樹脂滞留時間をかせぐことにより、反応管の接続を不要とした。
【0081】
高分子化合物の処理装置31は、図1の高分子化合物の処理装置1と同様の処理を行うものであるので、第1の実施形態に係る高分子化合物の処理装置1と同様の効果が得られる。
【0082】
上記実施形態では、せん断混練ゾーンを薬剤注入口の下流側に1ヶ所設けたものを説明したが、これに限定されず、複数のせん断混練ゾーンを設けてもよく、せん断混練ゾーンをシールゾーンよりもホッパ側に追加してもよい。
【実施例】
【0083】
次に、本発明の実施例と比較例を説明するが、その前に、高分子化合物の処理装置1、31と、高分子化合物として用いるパーオキサイド架橋ポリエチレン、シラン架橋ポリエチレン、バージンポリエチレンについて、表1、2を用いて説明する。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
表1に示すように、図1の高分子化合物の処理装置1は、反応用押出機2のせん断混練ゾーン29の温度を230〜390℃まで変化させ、せん断混練ゾーン29以外の領域(薬剤との反応ゾーン)の温度を330℃とした。反応用押出機2としては二軸押出機を用い、スクリュ径30mm、L/D=52.5、せん断混練ゾーンのL/D=4.3〜20とした。
【0087】
また、図3の高分子化合物の処理装置31は、図1の高分子化合物の処理装置1と同様に、押出機32のせん断混練ゾーン29の温度を230〜390℃まで変化させ、せん断混練ゾーン29以外の領域(薬剤との反応ゾーン)の温度を330℃とした。押出機32としては二軸押出機を用い、スクリュ径44mm、L/D=100、せん断混練ゾーンのL/D=2.1〜35とした。
【0088】
また、表2に示すように、ゲル分率77%のパーオキサイド架橋ポリエチレンと、ゲル分率60%のシラン架橋ポリエチレンと、ゲル分率0%のバージンポリエチレン(引張強さ15.6MPa、伸び693%)とを任意の比率で混合し、高分子化合物として用いた。
【0089】
表2において、引張強さ(Tb)および伸び(Eb)は、引張試験により評価した。引張試験は、JIS C 3005に準拠して1mm厚のシート状にプレス成形した高分子処理物をダンベル3号の形状に打ち抜き、200mm/min.の速度でショッパー型引張試験機を用いて行った。
【0090】
また、ゲル分率は、JIS C 3005に準拠して110℃熱キシレン中で24時間抽出した。その後、80℃で4時間真空乾燥した後の重量を秤量し、抽出前の重量との比から下式によりゲル分率を算出した。
【0091】
ゲル分率(%)=(抽出前重量(g)/抽出後重量(g))×100
表2のパーオキサイド架橋ポリエチレン、シラン架橋ポリエチレン、およびバージンポリエチレンを表3の比率で混合し、せん断混練ゾーンでの温度、せん断速度と樹脂滞留時間の積を変化させて、高分子化合物を熱可塑化する実験を行い、熱可塑化後の高分子処理物の特性を評価した。結果を表3に併せて示す。表3において、特性の評価は、表2と同様に引張試験およびゲル分率を測定することにより行った。
【0092】
次に、本実施例1〜12と比較例1〜18を説明する。
【0093】
【表3】

【0094】
(実施例1)
図1の高分子化合物の処理装置1を用いて、せん断混練ゾーン29の温度330℃、せん断速度6.0×102-1、樹脂滞留時間27.0sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンにシラン架橋ポリエチレンを50%混合したものを混練した。供給した高分子化合物に対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の高分子処理物の主な特性は表3に示すとおりであり、ゲル分率が10%未満であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されていることが示唆された。生成物の引張特性も良好であった。
【0095】
(実施例2)
図3の高分子化合物の処理装置31を用いて、せん断混練ゾーン29の温度330℃、せん断速度8.1×102-1、樹脂滞留時間20.5sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンにシラン架橋ポリエチレンを50%混合したものを混練した。供給した高分子化合物に対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の高分子処理物の主な特性は表3に示すとおりであり、ゲル分率が10%未満であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されていることが示唆された。生成物の引張特性も良好であった。
【0096】
(実施例3)
図1の高分子化合物の処理装置1を用いて、せん断混練ゾーン29の温度330℃、せん断速度8.1×102-1、樹脂滞留時間20.5sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンを50%、シラン架橋ポリエチレンを25%、バージンのポリエチレンを25%混合したものを混練した。供給した高分子化合物に対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の高分子処理物の主な特性は表3に示すとおりであり、ゲル分率が10%未満であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されていることが示唆された。生成物の引張特性も良好であった。
【0097】
(実施例4)
図3の高分子化合物の処理装置31を用いて、せん断混練ゾーン29の温度330℃、せん断速度8.1×102-1、樹脂滞留時間20.5sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンを50%、シラン架橋ポリエチレンを25%、バージンのポリエチレンを25%混合したものを混練した。供給した高分子化合物に対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の高分子処理物の主な特性は表3に示すとおりであり、ゲル分率が10%未満であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されていることが示唆された。生成物の引張特性も良好であった。
【0098】
(実施例5)
図1の高分子化合物の処理装置1を用いて、せん断混練ゾーン29の温度330℃、せん断速度4.5×102-1、樹脂滞留時間18.2sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンにシラン架橋ポリエチレンを50%混合したものを混練した。供給した高分子化合物に対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の高分子処理物の主な特性は表3に示すとおりであり、ゲル分率が10%未満であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されていることが示唆された。生成物の引張特性も良好であった。
【0099】
(実施例6)
図3の高分子化合物の処理装置31を用いて、せん断混練ゾーン29の温度330℃、せん断速度6.0×102-1、樹脂滞留時間13.8sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンにシラン架橋ポリエチレンを50%混合したものを混練した。供給した高分子化合物に対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の高分子処理物の主な特性は表3に示すとおりであり、ゲル分率が10%未満であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されていることが示唆された。生成物の引張特性も良好であった。
【0100】
(実施例7)
図1の高分子化合物の処理装置1を用いて、せん断混練ゾーン29の温度330℃、せん断速度4.5×102-1、樹脂滞留時間18.2sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンを50%、シラン架橋ポリエチレンを25%、バージンのポリエチレンを25%混合したものを混練した。供給した高分子化合物に対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の高分子処理物の主な特性は表3に示すとおりであり、ゲル分率が10%未満であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されていることが示唆された。生成物の引張特性も良好であった。
【0101】
(実施例8)
図3の高分子化合物の処理装置31を用いて、せん断混練ゾーン29の温度330℃、せん断速度6.0×102-1、樹脂滞留時間13.8sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンを50%、シラン架橋ポリエチレンを25%、バージンのポリエチレンを25%混合したものを混練した。供給した高分子化合物に対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の高分子処理物の主な特性は表3に示すとおりであり、ゲル分率が10%未満であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されていることが示唆された。生成物の引張特性も良好であった。
【0102】
(実施例9)
図1の高分子化合物の処理装置1を用いて、せん断混練ゾーン29の温度330℃、せん断速度7.5×102-1、樹脂滞留時間29.6sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンにシラン架橋ポリエチレンを50%混合したものを混練した。供給した高分子化合物に対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の高分子処理物の主な特性は表3に示すとおりであり、ゲル分率が10%未満であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されていることが示唆された。生成物の引張特性も良好であった。
【0103】
(実施例10)
図3の高分子化合物の処理装置31を用いて、せん断混練ゾーン29の温度330℃、せん断速度9.6×102-1、樹脂滞留時間24.0sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンにシラン架橋ポリエチレンを50%混合したものを混練した。供給した高分子化合物に対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の高分子処理物の主な特性は表3に示すとおりであり、ゲル分率が10%未満であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されていることが示唆された。生成物の引張特性も良好であった。
【0104】
(実施例11)
図1の高分子化合物の処理装置1を用いて、せん断混練ゾーン29の温度330℃、せん断速度7.5×102-1、樹脂滞留時間29.6sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンを50%、シラン架橋ポリエチレンを25%、バージンのポリエチレンを25%混合したものを混練した。供給した高分子化合物に対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の高分子処理物の主な特性は表3に示すとおりであり、ゲル分率が10%未満であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されていることが示唆された。生成物の引張特性も良好であった。
【0105】
(実施例12)
図3の高分子化合物の処理装置31を用いて、せん断混練ゾーン29の温度330℃、せん断速度9.6×102-1、樹脂滞留時間24.0sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンを50%、シラン架橋ポリエチレンを25%、バージンのポリエチレンを25%混合したものを混練した。供給した高分子化合物に対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の高分子処理物の主な特性は表3に示すとおりであり、ゲル分率が10%未満であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されていることが示唆された。生成物の引張特性も良好であった。
【0106】
(比較例1)
図1の高分子化合物の処理装置を用いて、せん断混練ゾーンの温度330℃、せん断速度6.0×102-1、樹脂滞留時間27.0sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンを混練した。混練後の生成物の主な特性は表3に示すとおりであり、ゲル分率が0%に低下していることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンはせん断により熱可塑化されていると考えられる。しかし、生成物の伸びが77%と小さいことから、分子量が低下していることが示唆された。
【0107】
(比較例2)
図3の高分子化合物の処理装置を用いて、せん断混練ゾーンの温度330℃、せん断速度8.1×102-1、樹脂滞留時間20.5sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンを混練した。混練後の生成物の主な特性は表3に示すとおりであり、ゲル分率が0%に低下していることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンはせん断により熱可塑化されていると考えられる。しかし、生成物の伸びが75%と小さいことから、分子量が低下していることが示唆された。
【0108】
(比較例3)
図1の反応用押出機にせん断混練ゾーンを配置せずに、すなわちせん断混練ゾーンでの樹脂滞留時間とせん断速度の積が0になる条件において、温度330℃でパーオキサイド架橋ポリエチレンにシラン架橋ポリエチレンを50%混合したものを押出した。供給したポリマに対して、アルコールを10wt%注入した。押出後の生成物のゲル分率が10%以上であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレン成分が十分に熱可塑化されていないものと考えられる。
【0109】
(比較例4)
図3の押出機にせん断混練ゾーンを配置せずに、すなわちせん断混練ゾーンでの樹脂滞留時間とせん断速度の積が0になる条件において、温度330℃でパーオキサイド架橋ポリエチレンにシラン架橋ポリエチレンを50%混合したものを押出した。供給したポリマに対して、アルコールを10wt%注入した。押出後の生成物のゲル分率が10%以上であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレン成分が十分に熱可塑化されていないものと考えられる。
【0110】
(比較例5)
図1の反応用押出機にせん断混練ゾーンを配置せずに、すなわちせん断混練ゾーンでの樹脂滞留時間とせん断速度の積が0になる条件において、温度330℃でパーオキサイド架橋ポリエチレンを50%、シラン架橋ポリエチレンを25%、バージンのポリエチレンを25%混合したものを押出した。供給したポリマに対して、アルコールを10wt%注入した。押出後の生成物のゲル分率が10%以上であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレン成分が十分に熱可塑化されていないものと考えられる。
【0111】
(比較例6)
図3の反応用押出機にせん断混練ゾーンを配置せずに、すなわちせん断混練ゾーンでの樹脂滞留時間とせん断速度の積が0になる条件において、温度330℃でパーオキサイド架橋ポリエチレンを50%、シラン架橋ポリエチレンを25%、バージンのポリエチレンを25%混合したものを押出した。供給したポリマに対して、アルコールを10wt%注入した。押出後の生成物のゲル分率が10%以上であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレン成分が十分に熱可塑化されていないものと考えられる。
【0112】
(比較例7)
図1の高分子化合物の処理装置を用いて、せん断混練ゾーンの温度を230℃に設定し、せん断速度6.0×102-1、樹脂滞留時間27.0sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンにシラン架橋ポリエチレンを50%混合したものを混練した。供給したポリマに対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の生成物のゲル分率が10%以上であることから、せん断混練ゾーンの温度が規定値未満であることによりパーオキサイド架橋ポリエチレンの熱可塑化が十分に行われていないことが示唆された。
【0113】
(比較例8)
図3の高分子化合物の処理装置を用いて、せん断混練ゾーンの温度を230℃に設定し、せん断速度8.1×102-1、樹脂滞留時間20.5sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンにシラン架橋ポリエチレンを50%混合したものを混練した。供給したポリマに対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の生成物のゲル分率が10%以上であることから、せん断混練ゾーンの温度が規定値未満であることによりパーオキサイド架橋ポリエチレンの熱可塑化が十分に行われていないことが示唆された。
【0114】
(比較例9)
図1の高分子化合物の処理装置を用いて、せん断混練ゾーンの温度を230℃に設定し、せん断速度6.0×102-1、樹脂滞留時間27.0sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンを50%、シラン架橋ポリエチレンを25%、バージンのポリエチレンを25%混合したものを混練した。供給したポリマに対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の生成物のゲル分率が10%以上であることから、せん断混練ゾーンの温度が規定値未満であることによりパーオキサイド架橋ポリエチレンの熱可塑化が十分に行われていないことが示唆された。
【0115】
(比較例10)
図3の高分子化合物の処理装置を用いて、せん断混練ゾーンの温度を230℃に設定し、せん断速度8.1×102-1、樹脂滞留時間20.5sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンを50%、シラン架橋ポリエチレンを25%、バージンのポリエチレンを25%混合したものを混練した。供給したポリマに対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の生成物のゲル分率が10%以上であることから、せん断混練ゾーンの温度が規定値未満であることによりパーオキサイド架橋ポリエチレンの熱可塑化が十分に行われていないことが示唆された。
【0116】
(比較例11)
図1の高分子化合物の処理装置を用いて、せん断混練ゾーンの温度を390℃に設定し、せん断速度6.0×102-1、樹脂滞留時間27.0sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンにシラン架橋ポリエチレンを50%混合したものを混練した。供給したポリマに対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の生成物のゲル分率が10%未満であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンは熱可塑化されていると考えられる。しかし、表3に示すように伸びが63%と小さいことから、熱分解により生成物の分子量が低下していることが示唆された。
【0117】
(比較例12)
図3の高分子化合物の処理装置を用いて、せん断混練ゾーンの温度を390℃に設定し、せん断速度8.1×102-1、樹脂滞留時間20.5sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンにシラン架橋ポリエチレンを50%混合したものを混練した。供給したポリマに対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の生成物のゲル分率が10%未満であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンは熱可塑化されていると考えられる。しかし、表3に示すように伸びが72%と小さいことから、熱分解により生成物の分子量が低下していることが示唆された。
【0118】
(比較例13)
図1の高分子化合物の処理装置を用いて、せん断混練ゾーンの温度を390℃に設定し、せん断速度6.0×102-1、樹脂滞留時間27.0sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンを50%、シラン架橋ポリエチレンを25%、バージンのポリエチレンを25%混合したものを混練した。供給したポリマに対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の生成物のゲル分率が10%未満であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンは熱可塑化されていると考えられる。しかし、表3に示すように伸びが60%と小さいことから、熱分解により生成物の分子量が低下していることが示唆された。
【0119】
(比較例14)
図3の高分子化合物の処理装置を用いて、せん断混練ゾーンの温度を390℃に設定し、せん断速度8.1×102-1、樹脂滞留時間20.5sの条件で、パーオキサイド架橋ポリエチレンを50%、シラン架橋ポリエチレンを25%、バージンのポリエチレンを25%混合したものを混練した。供給したポリマに対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の生成物のゲル分率が10%未満であることから、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンは熱可塑化されていると考えられる。しかし、表3に示すように伸びが60%と小さいことから、熱分解により生成物の分子量が低下していることが示唆された。
【0120】
(比較例15)
図1の高分子化合物の処理装置を用いて、せん断混練ゾーンの温度330℃、せん断速度2.4×102-1、樹脂滞留時間9.8sの条件(せん断速度と樹脂滞留時間の積が2.4×103)で、パーオキサイド架橋ポリエチレンにシラン架橋ポリエチレンを50%混合したものを混練した。供給したポリマに対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の生成物のゲル分率が10%以上であることから、せん断によるパーオキサイド架橋ポリエチレン成分の熱可塑化が十分に行われていないことが示唆された。
【0121】
(比較例16)
図3の高分子化合物の処理装置を用いて、せん断混練ゾーンの温度330℃、せん断速度3.2×102-1、樹脂滞留時間7.1sの条件(せん断速度と樹脂滞留時間の積が2.3×103)で、パーオキサイド架橋ポリエチレンにシラン架橋ポリエチレンを50%混合したものを混練した。供給したポリマに対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の生成物のゲル分率が10%以上であることから、せん断によるパーオキサイド架橋ポリエチレン成分の熱可塑化が十分に行われていないことが示唆された。
【0122】
(比較例17)
図1の高分子化合物の処理装置を用いて、せん断混練ゾーンの温度330℃、せん断速度2.4×102-1、樹脂滞留時間9.8sの条件(せん断速度と樹脂滞留時間の積が2.4×103)で、パーオキサイド架橋ポリエチレンを50%、シラン架橋ポリエチレンを25%、バージンのポリエチレンを25%混合したものを混練した。供給したポリマに対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の生成物のゲル分率が10%以上であることから、せん断によるパーオキサイド架橋ポリエチレン成分の熱可塑化が十分に行われていないことが示唆された。
【0123】
(比較例18)
図3の高分子化合物の処理装置を用いて、せん断混練ゾーンの温度330℃、せん断速度3.2×102-1、樹脂滞留時間7.1sの条件(せん断速度と樹脂滞留時間の積が2.3×103)で、パーオキサイド架橋ポリエチレンを50%、シラン架橋ポリエチレンを25%、バージンのポリエチレンを25%混合したものを混練した。供給したポリマに対して、アルコールを10wt%注入した。混練後の生成物のゲル分率が10%以上であることから、せん断によるパーオキサイド架橋ポリエチレン成分の熱可塑化が十分に行われていないことが示唆された。
【0124】
以上において、実施例1〜12で生成した高分子処理物は、引張強度、伸びが良好であり、生成した高分子処理物の分子量が低下していないことが分かる。また、ゲル分率も低く、パーオキサイド架橋ポリエチレンおよびシラン架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されている。
【0125】
これに対して、比較例1、2では、パーオキサイド架橋ポリエチレンを100%、シラン架橋ポリエチレンを0%としている。このため、せん断混練ゾーン29でのせん断により生成物の分子量が低下し、伸び(Eb)が低下している。よって、高分子化合物として、パーオキサイド架橋ポリエチレンとシラン架橋ポリエチレンの混合物を用いるとよい。
【0126】
また、比較例3〜6では、せん断混練ゾーンがないため、薬剤と反応しにくいパーオキサイド架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されず、ゲル分率が高くなっている。
【0127】
比較例7〜10では、せん断混練ゾーンの温度を240℃未満としているため、せん断混練ゾーンでパーオキサイド架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されず、実施例1〜4と比較してゲル分率が高くなっている。よって、せん断混練ゾーンの温度は、240℃以上であるとよい。
【0128】
同様に、比較例11〜14では、せん断混練ゾーンの温度を380℃を超える温度としているため、生成物の分子量が低下し、実施例1〜4と比較して伸びが低下している。よって、せん断混練ゾーンの温度は、380℃以下であるとよい。
【0129】
比較例15〜18では、せん断混練ゾーンでのせん断速度と樹脂滞留時間との積が2500未満であるため、せん断混練ゾーンでパーオキサイド架橋ポリエチレンが十分に熱可塑化されず、実施例1〜4と比べてゲル分率が高くなっている。よって、せん断混練ゾーンでのせん断速度と樹脂滞留時間との積は2500以上であるとよい。
【0130】
以上より、(1)パーオキサイド架橋ポリエチレンにバージンのポリエチレンまたはシラン架橋ポリエチレンを混合して、(2)せん断混練ゾーンを設け、(3)せん断混練ゾーンの温度を240〜380℃、好ましくは330℃とし、(4)せん断速度と混練ゾーンでの樹脂滞留時間の積を2500以上、好ましくは16000程度とすることで、高分子化合物が十分に熱可塑化されるとともに、引張特性が良好である高分子処理物が得られることが分かった。
【0131】
また、表3に示す高分子処理物の特性から、図1に示す高分子化合物の処理装置と図3に示す高分子化合物の処理装置のどちらの場合でも、同様の処理が可能であることが示唆された。つまり、図1に示す高分子化合物の処理装置および図3に示す高分子化合物の処理装置のどちらを用いても、シラン架橋ポリエチレンとパーオキサイド架橋ポリエチレンの混合物を処理することができ、十分に熱可塑化され、かつ特性が良好な高分子処理物が得られることがわかった。
【0132】
また、シラン架橋ポリエチレンとパーオキサイド架橋ポリエチレンの割合を50:50、あるいは50:25としたが、本発明は両者が混ざり合っていればよく、特に限定されない。
【0133】
また、600V CVケーブルや屋外用架橋ポリエチレン絶縁電線(OC電線)の絶縁被覆材料(架橋ポリエチレン)などで特に広く使用されているシラン架橋ポリエチレンを回収する際には、製造したメーカー名と製造年度である程度シラン架橋ポリエチレンであるのかパーオキサイド架橋ポリエチレンであるのかを判別することができるので、シラン架橋ポリエチレンが含まれることが確認できれば、パーオキサイド架橋ポリエチレンが混在していても問題なく図1に示す高分子化合物の処理装置および図3に示す高分子化合物の処理装置を用いてマテリアルリサイクルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の好適な第1の実施形態を示す高分子化合物の処理装置の概略図である。
【図2】図1の高分子化合物の処理装置に用いる反応用押出機の拡大概略図である。
【図3】第2の実施形態に係る高分子化合物の処理装置の概略図である。
【符号の説明】
【0135】
1 高分子化合物の処理装置
2 反応用押出機
3 脱気用押出機
29 せん断混練ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物とその高分子化合物と反応させる薬剤とを反応用押出機に供給し、これら高分子化合物と薬剤とを反応用押出機内で反応させて高分子処理物を生成する高分子化合物の処理方法において、前記高分子化合物に対して機械的な力を作用させるためのせん断混練ゾーンを、前記反応用押出機内に少なくとも1ヶ所以上設け、そのせん断混練ゾーンで、熱可塑化していない前記高分子化合物をせん断・混練して熱可塑化することを特徴とする高分子化合物の処理方法。
【請求項2】
前記せん断混練ゾーンは、前記薬剤の注入口よりも出口側に少なくとも1つ以上配置される請求項1記載の高分子化合物の処理方法。
【請求項3】
前記せん断混練ゾーンは、その温度を240〜380℃の範囲に保ち、せん断速度(s-1)と混練ゾーンでの樹脂滞留時間(s)との積が2500以上である請求項1または2記載の高分子化合物の処理方法。
【請求項4】
前記高分子化合物と予め超臨界または亜臨界状態とした前記薬剤とを、超臨界または亜臨界状態とした前記反応用押出機内で反応させる請求項1〜3いずれかに記載の高分子化合物の処理方法。
【請求項5】
前記高分子化合物は、シラン架橋ポリエチレンとパーオキサイド架橋ポリエチレンとの混合物、またはこれらにバージンのポリエチレンを混合したものであって、前記薬剤は、アルコール類またはアルコール類を含む混合物である請求項1〜4いずれかに記載の高分子化合物の処理方法。
【請求項6】
高分子化合物とその高分子化合物と反応させる薬剤とを反応させて高分子処理物を生成する反応用押出機を備えた高分子化合物の処理装置において、前記反応用押出機は、その内部に前記高分子化合物に対して機械的な力を作用させ、熱可塑化していない前記高分子化合物をせん断・混練して熱可塑化するためのせん断混練ゾーンを、少なくとも1ヶ所以上備えることを特徴とする高分子化合物の処理装置。
【請求項7】
前記せん断混練ゾーンは、前記薬剤の注入口よりも出口側に少なくとも1つ以上配置される請求項6記載の高分子化合物の処理装置。
【請求項8】
前記せん断混練ゾーンは、その温度を240〜380℃の範囲に保ち、せん断速度(s-1)と混練ゾーンでの樹脂滞留時間(s)との積が2500以上である請求項6または7記載の高分子化合物の処理装置。
【請求項9】
前記反応用押出機は、前記高分子化合物と予め超臨界または亜臨界状態とした前記薬剤とを、超臨界または亜臨界状態とした前記反応用押出機内で反応させるものである請求項6〜8いずれかに記載の高分子化合物の処理装置。
【請求項10】
前記高分子化合物は、シラン架橋ポリエチレンとパーオキサイド架橋ポリエチレンとの混合物、またはこれらにバージンのポリエチレンを混合したものであって、前記薬剤は、アルコール類またはアルコール類を含む混合物である請求項6〜9いずれかに記載の高分子化合物の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−197138(P2009−197138A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40432(P2008−40432)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/超臨界流体における架橋ポリマーのクローズドリサイクル技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】