説明

高分子含有ミノキシジル水性組成物

【課題】ミノキシジルを比較的高濃度(飽和量以上)に溶解でき、有機溶媒を含むことなく皮膚への刺激、及びベタツキを抑えた液体組成物を提供すること。
【解決手段】組成物に対して0.2重量%〜5重量%のミノキシジル、多量体タンパク質又は複合タンパク質から選ばれる少なくとも1種のタンパク質、及び30重量%以上の水性媒体を含む、液体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度のミノキシジルを含有した水性組成物(液体製剤)に関する。
【背景技術】
【0002】
ミノキシジル(すなわち2,4−ジアミノ−6−ピペリジニルピリミジン−3−オキシド)は、Loniten(登録商標) および Rogaine(登録商標)の活性成分であり、Pharmacia and Upjohn によって、高血圧の処置として、および男性ホルモン性脱毛症(男性型の禿頭症と女性型の禿頭症)の処置および予防として、それぞれ市販されている。ミノキシジルの製法と抗高血圧の使用は、特許文献1に記載されている。頭髪を成長させるための、および男性型禿頭症と女性型禿頭症を処置するための化合物を用いるための方法、および局所の製剤は、特許文献2及び特許文献3に記載されている。
【0003】
Rogaine(登録商標)のような、局所の適応のための医薬組成物は、例えば、溶液、ゲル、懸濁液などの様々な形態を含み得る。一般的に言えば、局所の組成物が溶液もしくはゲルである場合、すなわち活性な成分、例えばミノキシジルが担体溶液に溶解している場合に、懸濁液の形態である局所の組成物と比べて、すなわち活性成分が単に組成物中に懸濁している場合と比べて、吸収の改善が達成される。
【0004】
ミノキシジルは水への溶解性が悪く、水溶媒で溶解させる場合には通常50%以上のエタノールを含んでおり(例えば特許文献4)、それによる悪影響(頭皮への刺激、溶剤量が多くなることによるべとつき等の使用感の悪化)が懸念されている。特許文献5では、組成物により、エタノールによる頭皮への刺激が緩和を提案しているが、エタノール含量は40%以上であり、根本的な解決になっていない。
【0005】
また、特許文献6では、非カルボマー高分子を使用した高ミノキシジルゲル化製剤が開示されているが、この製剤においてもエタノール等の有機溶媒は数10%用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3,461,461号
【特許文献2】米国特許第4,139,619号
【特許文献3】米国特許第4,596,812号
【特許文献4】特開2004−59587号公報
【特許文献5】特開2006−176447号公報
【特許文献6】特表2004−505906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。すなわち、本発明は、ミノキシジルを比較的高濃度(飽和量以上)に溶解でき、有機溶媒を含むことなく皮膚への刺激、及びベタツキを抑えた液体組成物を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、多量体タンパク質又は複合タンパク質がミノキシジルの可溶化剤として機能することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、(i)組成物の重量に対して0.2重量%〜5重量%のミノキシジル、(ii)多量体タンパク質又は複合タンパク質から選ばれる少なくとも1種のタンパク質、及び(iii)組成物の重量に対して30重量%以上の水性媒体を含む、液体組成物が提供される。
【0010】
好ましくは、多量体タンパク質又は複合タンパク質は生体適合性タンパク質である。
好ましくは、多量体タンパク質はゼラチン、酸処理ゼラチン、カゼイン、グロブリン、フィブロイン、フィブリノーゲン、ケラチン、フェリチン、ラミニン、フィブロネクチン、又はビトロネクチンからなる群より選ばれる少なくとも一種もしくはその塩である。
好ましくは、複合タンパク質は、リポタンパク質、糖タンパク質、リン酸化タンパク質、ヘムタンパク質、フラビンタンパク質、又は金属タンパク質である。
好ましくは、多量体タンパク質又は複合タンパク質は、カゼイン又はゼラチンである。
好ましくは、組成物の重量に対する多量体タンパク質又は複合タンパク質の含有量は0.4〜5重量%である。
【0011】
本発明の別の側面によれば、多量体タンパク質又は複合タンパク質から選ばれる少なくとも1種のタンパク質からなる、ミノキシジルの可溶化剤が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液体組成物は、ミノキシジルを比較的高濃度(飽和量以上)で含有し、また皮膚への刺激、及びベタツキが抑制された液体組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態についてさらに具体的に説明する。
本発明の液体組成物は、0.5g/100ml以上のミノキシジルを安定に溶解することを特徴とする。ミノキシジルは、一般名2,4−ジアミノ−6−ピペリジノピリミジン−3−オキサイドで表される化合物であって、高血圧症の治療薬として用いられてきたが、その後、発毛作用が明らかとなり、近年注目されている化合物である。本発明でいう「安定に溶解」とは、25℃で3日間保管後、目視により沈殿を確認した場合に、沈殿が観察されないものをいう。
【0014】
本発明の液体組成物におけるミノキシジルの好ましい含有量は0.2重量%〜5重量%、好ましくは0.2重量%〜5.0重量%であり、さらに好ましくは0.2重量%〜3重量%、最も好ましくは0.2重量%〜1.0重量%である。
【0015】
本発明で見出した驚くべき効果は、多量体タンパク質又は複合タンパク質が、ミノキシジルの可溶化剤として機能することである。ここで、多量体タンパク質又は複合タンパク質としては、安全性の観点から、又性能から生体適合性であることが好ましい。
【0016】
多量体タンパク質の具体例としては、ゼラチン、酸処理ゼラチン、カゼイン、グロブリン、フィブロイン、フィブリノーゲン、ケラチン、フェリチン、ラミニン、フィブロネクチン、又はビトロネクチンであり、このうち好ましくはゼラチンである。
【0017】
複合タンパクの具体例としては、リポタンパク質、糖タンパク質、リン酸化タンパク質、ヘムタンパク質、フラビンタンパク質、金属タンパク質などが挙げられる。糖タンパク質の具体例として例えば、免疫グロブリンG、トランスフェリン、フィブリノーゲン、プロテオグリカンなどが挙げられる。リン酸化タンパク質の具体例として例えば、カゼイン、カゼインナトリウムなどが挙げられる。ヘムタンパク質の具体例として例えば、ヘモグロビンなどが挙げられる。リポタンパク質の具体例として例えば、血中β-リポタンパクなどが挙げられる。また、タンパク質の場合、由来や化学修飾、化学変性等の何れのものにも限定されない。
【0018】
上述のうち、最も好ましいものは、カゼイン又はゼラチンである。本発明でカゼインを用いる場合、カゼインの由来は特に限定されず、乳由来であっても、豆由来であってもよく、α−カゼイン、β−カゼイン、γ−カゼイン、κ−カゼインおよびそれらの混合物を使用することができる。カゼインは、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。ゼラチンを用いる場合、ゼラチンの由来は特に限定されず、魚、牛、豚、山羊、遺伝子組み換え等、いかなる由来でもかまわない。
【0019】
本発明に用いられる多量体タンパク質又は複合タンパク質は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0020】
本発明の液体組成物には、0.2〜15重量%の多量体タンパク質又は複合タンパク質を含有することが好ましく、0.4〜5重量%の多量体タンパク質又は複合タンパク質を含有することがさらに好ましい。
【0021】
本発明の液体組成物には、上述のタンパク質の重量に対して0.1〜200重量%のミノキシジルを含有することがさらに好ましい。
【0022】
カゼイン及びゼラチンをはじめとする生体適合性高分子は、人体に対する安全性も実証されており、可溶化剤としての性能に加えて、安全性の向上が期待できる。
【0023】
本発明に用いる水性媒体は、有機酸または塩基、無機酸または無機塩基の水溶液、又は緩衝液を用いることができる。本発明の液体組成物における水性媒体は30重量%以上であり、好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、最も好ましくは99重量%以上であり、実質的にエタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ジペンチレングリコールなどの有機溶媒を含有しないことが好ましい。
【0024】
有機酸または塩基、無機酸または無機塩基として具体的には、クエン酸、アスコルビン酸、グルコン酸、カルボン酸、酒石酸、コハク酸、酢酸またはフタル酸、トリフルオロ酢酸、モルホリノエタンスルホン酸、2-〔4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル〕エタンスルホン酸のような有機酸;トリス(ヒドロキシメチル)、アミノメタン、アンモニアのような有機塩基;塩酸、過塩素酸、炭酸のような無機酸;燐酸ナトリウム、燐酸カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムのような無機塩基を用いた水溶液が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
本発明において、ミノキシジルは、低pHで目標濃度以上に溶解した状態で生体適合高分子溶液と混合したのち、上述の有機酸または塩基、無機酸または無機塩基水溶液を用いてpHを調整することが好ましい。本発明の液体組成物のpHは、8以上が好ましく、8から12が好ましい。より好ましくはpH10〜12である。pHが高すぎると加水分解の懸念や取り扱い上の危険性があるため、上述の範囲が好ましい。
【0026】
本発明の投与方法としては、経皮・経粘膜投与が挙げられる。
【0027】
本発明で用いるミノキシジル以外の生理活性成分の種類は、皮膚から吸収されて活性を示す成分であれば特に限定されないが、例えば、化粧品用成分、医薬部外品成分又は医薬品成分から選ぶことができる。例えば、保湿剤、美白剤、育毛剤、養毛剤、発毛剤、血行促進剤、抗白髪剤、アンチエイジング剤、抗酸化剤、コラーゲン合成促進剤、抗しわ剤、抗にきび剤、ビタミン剤、紫外線吸収剤、香料、色素剤、制汗剤、冷感剤、温感剤、メラニン生成抑制剤、メラノサイト活性化剤、抗生剤、制癌剤、抗炎症剤、抗アレルギー剤、ホルモン剤、抗血栓剤、免疫抑制剤、皮膚疾患治療薬、抗真菌薬、核酸医薬、麻酔薬、解熱剤、鎮痛剤、鎮痒剤、抗浮腫剤、催眠鎮静剤、抗不安剤、興奮剤、精神神経用剤、筋弛緩剤、抗鬱剤、総合感冒薬剤、自律神経系剤、鎮けい剤、発汗剤、止汗剤、強心剤、不整脈用剤、抗不整脈剤、血管収縮剤、血管拡張剤、抗不整脈剤、血圧降下剤、糖尿治療剤、高脂血漿剤、呼吸促進剤、鎮咳剤、ビタミン剤、寄生性皮膚疾患用剤、恒常性剤、ポリペプチド、ホルモン、不全角化抑制剤、ワクチン、又は皮膚軟化剤などを挙げることができる。上記した生理活性成分は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0028】
本発明のミノキシジルを含む水性組成物はさらに、添加物を含むことができる。添加物としては特に限定することはないが、保湿剤、柔軟剤、経皮吸収促進剤、無痛化剤、防腐剤、酸化防止剤、色素剤、増粘剤、香料、又はpH調整剤から選択される1種以上のものを使用することができる。
【0029】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
実施例1:
塩酸150mM水溶液100mlにミノキシジル1.2gを溶解し、豚由来ゼラチン(新田ゼラチン(株)製)を2g精製水に溶解した100mlのゼラチン溶液を調整する。それぞれのミノキシジル液、ゼラチン溶液を等量混合し、クエン酸を5mMとなるように加え、NaOHでpH6.5に調整したところ、25℃で3日間安定な澄明液を得た。
【0031】
実施例2:
塩酸150mM水溶液100mlにミノキシジル1.2gを溶解し、カゼインナトリウム(和光純薬製)を1g精製水に溶解した100mlのカゼイン溶液を調整する。それぞれのミノキシジル液、カゼイン溶液を等量混合し、クエン酸を5mMとなるように加え、NaOHでpH6.5に調整したところ、25℃で3日間安定な澄明液を得た。
【0032】
実施例3:
塩酸250mM水溶液100mlにミノキシジル1.2gを溶解し、カゼインナトリウム(和光純薬製)を2g、クエン酸ナトリウム88mM、pH7.5となるようにNaOH、精製水にて調整した100mlのカゼイン溶液を調整する。それぞれのミノキシジル液、カゼイン溶液を等量混合し、NaOHでpH6.5に調整したところ、25℃で1週間安定な澄明液を得た。
【0033】
同様の作成方法で、以下の表1に示すサンプルを調製した。
【0034】
【表1】

【0035】
注:アルブミンは単量体タンパク質である。ヘパリン及びコンドロイチン硫酸は多糖類ポリマーである
【0036】
比較例A
1,3−ブチレングリコール30重量%、ミノキシジル1重量%を溶解し、全量100重量%となるようにエタノールを添加した。
【0037】
比較例B
グリセリン15重量%、ミノキシジル1重量%を溶解し全量100重量%となるようにエタノールを添加した。
【0038】
モニター5名に上記実施例1、2、3及び比較例A、Bの使用感を評価したところ、比較例A,Bには使用後手や頭髪にベタツキがある一方で、実施例1、2及び3はさっぱり感に優れている、べたつきがない、など使用感も良好であった。
【0039】
上記の実施例により、本発明の構成により、エタノール等の溶剤を含まない水性製剤で、ミノキシジルを安定に保持できることがわかる。天然高分子を用いることによって安全性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)組成物の重量に対して0.2重量%〜5重量%のミノキシジル、(ii)多量体タンパク質又は複合タンパク質から選ばれる少なくとも1種のタンパク質、及び(iii)組成物の重量に対して30重量%以上の水性媒体を含む、液体組成物。
【請求項2】
多量体タンパク質又は複合タンパク質が生体適合性タンパク質である、請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
多量体タンパク質がゼラチン、酸処理ゼラチン、カゼイン、グロブリン、フィブロイン、フィブリノーゲン、ケラチン、フェリチン、ラミニン、フィブロネクチン、又はビトロネクチンからなる群より選ばれる少なくとも一種もしくはその塩である、請求項1又は2に記載の液体製剤。
【請求項4】
複合タンパク質が、リポタンパク質、糖タンパク質、リン酸化タンパク質、ヘムタンパク質、フラビンタンパク質、又は金属タンパク質である、請求項1から3の何れかに記載の液体製剤。
【請求項5】
多量体タンパク質又は複合タンパク質が、カゼイン又はゼラチンである、請求項1から4の何れかに記載の液体製剤。
【請求項6】
組成物の重量に対する多量体タンパク質又は複合タンパク質の含有量が0.4〜5重量%である、請求項1から5の何れかに記載の液体製剤。
【請求項7】
多量体タンパク質又は複合タンパク質から選ばれる少なくとも1種のタンパク質からなる、ミノキシジルの可溶化剤。

【公開番号】特開2010−180132(P2010−180132A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22159(P2009−22159)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】