説明

高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼およびその製造方法

本発明によるステンレス鋼は、重量%で、C:0.02%以下、N:0.02%以下、Si:0.4%以下、Mn:0.2%以下、P:0.04%以下、S:0.02%以下、Cr:25.0〜32.0%、Cu:0〜2.0%、Ni:0.8%以下、Ti:0.01〜0.5%以下、Nb:0.01〜0.5%以下、残部Feおよび不可避的元素からなるステンレス鋼であり、表面に第2不動態皮膜が形成されたステンレス鋼の製造方法において、前記ステンレス鋼を光輝焼鈍あるいは焼鈍・酸洗して、表面に第1不動態皮膜を形成するステップと、前記ステンレス鋼を、50〜75℃の温度で、一定時間の間、10〜20重量%硫酸水溶液で酸洗浄して、第1不動態皮膜を除去するステップと、前記ステンレス鋼を水洗するステップと、前記ステンレス鋼を、40〜60℃の温度で、一定時間の間、10〜20重量%硝酸と1〜10重量%フッ酸の混酸で不動態化処理して、前記第2不動態皮膜を形成する。この構成により、耐溶出性の低減した優れた耐食性を有するステンレス鋼を製造できるだけでなく、60〜150℃の燃料電池の作動条件および多様な表面粗さ条件でも低い界面接触抵抗を有する、長期的な性能に優れた高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼を生産することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池分離板用ステンレス鋼およびその製造方法に関し、より具体的には、多様な表面粗さ条件でもステンレス鋼の不動態皮膜の除去および再不動態化処理の制御が可能となるように表面改質条件を設定することにより、低い界面接触抵抗および優れた耐食性を有する燃料電池分離板用ステンレス鋼およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーの枯渇や環境汚染などが全世界的な問題になるにつれ、化石燃料の代案として、水素エネルギーとこれを用いる燃料電池の重要性が強調されている。燃料電池は、水素燃料が有する化学的エネルギーを電気エネルギーに転換する装置であり、内燃機関を用いないため、騒音、振動がなく、高効率を達成することができ、排出される汚染物質がほとんどないことから、新たなエネルギー源として脚光を浴びている。
【0003】
燃料電池は、電解質の種類により、固体高分子燃料電池、固体酸化物燃料電池、溶融炭酸塩燃料電池、リン酸型燃料電池、直接メタノール燃料電池、アルカリ燃料電池に分けられ、用途に応じて、大別して発電用、輸送用、携帯用などに分けられる。
【0004】
このうち、固体高分子燃料電池は、電解質としてイオン伝導性を有する固体高分子膜を使用するため、常温、常圧で作動可能であり、運転温度が70〜80℃程度と低く、稼働時間が短く、出力密度が高いため、輸送および携帯用、家庭用などの電力源として脚光を浴びており、最近では、100〜150℃でも作動可能な高分子燃料電池の開発が進められている。
【0005】
図1は、一般的なステンレス分離板を含む燃料電池の斜視図である。
【0006】
図1を参照すると、固体高分子燃料電池スタック100は、電解質、電極(anode、cathode)、およびガス密封用ガスケットが備えられた膜電極集合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)110と、流路がある分離板120と、空気の出入口130、140、水素ガスの出入口150、160が備えられたエンドプレートとから構成される。
【0007】
分離板120は、一般的に、黒鉛、カーボン、Ti合金、ステンレス鋼、および導電性プラスチックのうちの1つで形成され、好ましくは、ステンレス鋼で形成可能である。ステンレス鋼は、低い界面接触抵抗、優れた耐食性、熱伝導性、低い気体透過性、および大面積化が可能であり、良好な製品成形性、薄物化が可能なため、燃料電池スタックの体積の低減、重量の減少を実現できるという利点を有する。
【0008】
しかし、ステンレス鋼の分離板120は、分離板120素材の表面に形成される不動態皮膜層の半導体的な特性により、燃料電池の作動条件で分離板の表面と膜電極集合体層との界面接触抵抗を増加させかねないという問題があった。また、強酸性雰囲気を示す燃料電池の運転環境雰囲気における優れた耐食性が要求される。
【0009】
このような問題を解決するために、米国登録特許第6,835,487B2号、韓国登録特許第0488922号では、Cr(16〜45重量%)、Mo(0.1〜3.0重量%)を含み、付加的には、Ag(0.001〜0.1重量%)を含むステンレス鋼材に、表面接触抵抗を100mΩcm以下に抑えるために、表面粗さを示す平均粗さRaを0.01〜1.0μmに、最大高さRyを0.01〜20μmに管理することにより、ステンレス鋼材の表面特性を所望のレベルに獲得することができる方法を開示する。そして、日本国特開2007−026694号では、Cr、Moを含むステンレス鋼に0.01〜1.0μmのマイクロピット(micro pit)を表面全域に形成させることにより、表面特性を所望のレベルに獲得する方法を開示する。また、米国登録特許第6,379,476B1号では、炭化物系介在物(Carbide)とホウ化物系介在物(Boride)を表面にさらす技術的思想から、炭化物系介在物を形成するための0.08%C以上を含むフェライト系ステンレス鋼を、平均粗さRaが0.06〜5μmを有するようにする方法を開示している。日本国特開2005−302713号では、Cr(16〜45重量%)、Mo(0.1〜5.0重量%)を含むステンレス鋼に、局部山頂の平均間隔S=0.3μm以下、表面の粗さ曲線の二乗平均平方根傾斜Δq=0.05以上を確保する技術が開示されている。
【0010】
しかし、このような方法は、ステンレス鋼材の表面粗さ、あるいはマイクロピット、伝導性介在物の調整により接触抵抗を低減させるためのものとしてしか示されておらず、このためにステンレス鋼材の表面粗さを厳しく維持することによる生産性の低下と生産費用の増加問題および再現性の確保が難しいという問題があった。また、これらの発明は、Cr、Moを必須元素として含む成分を所定の範囲に指定し、その他の伝導性介在物を形成するためのAgおよびC、B元素を付加元素として添加することにより、製造費用の上昇をもたらす上に、燃料電池の作動条件(60〜150℃)で接触抵抗の安定性、耐溶出性を確保できるわけでもない。
【0011】
また、日本国特開2004−149920号では、Cr(16〜45重量%)、Mo(0.1〜5.0重量%)を含むステンレス鋼にCr/Fe原子比を1以上に調整することにより、接触抵抗を低減する方法を提案しており、日本国特開2008−091225号では、Cr(16〜45重量%)、Mo(0.1〜5.0重量%)を含むステンレス鋼にマイクロピットを形成させることはもちろん、Cr/Fe原子比を4以上に確保することにより、接触抵抗を低減する方法を提案している。
【0012】
しかし、このような方法は、Cr、Moを必須元素として含む成分を所定の範囲に指定し、多様な表面粗さを有する条件でも、厳しい不動態皮膜制御工程の確保なしには、低い界面接触抵抗を安定的に確保することが難しいという問題があった。また、燃料電池の作動条件(60〜150℃)で接触抵抗の安定性、耐溶出性を確保できるわけでもない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明の目的は、60〜150℃の燃料電池の作動環境でも優れた耐溶出特性および接触抵抗を維持し、多様な表面粗さ条件でも不動態皮膜の除去および再不動態化処理の制御による低い界面接触抵抗および耐腐食性の確保が可能となるように表面改質条件を設定することができる、長期的な性能に優れた高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一側面による燃料電池分離板用ステンレス鋼は、重量%で、C:0.02%以下、N:0.02%以下、Si:0.4%以下、Mn:0.2%以下、P:0.04%以下、S:0.02%以下、Cr:25.0〜32.0%、Cu:0〜2.0%、Ni:0.8%以下、Ti:0.01〜0.5%以下、Nb:0.01〜0.5%以下、残部Feおよび不可避的元素からなる、Moを添加しないステンレス鋼であって、前記ステンレス鋼表面の不動態皮膜の厚さが2〜4.5nmに形成され、Cr/Fe酸化物の比が1.5nm以内の領域内で1.5以上であり、Cr(OH)/Cr酸化物の分布度が1nmの領域内で0〜0.7の比が確保される。
【0015】
また、前記ステンレス鋼は、重量%で、Mo:5%以下を含むことができる。
【0016】
さらに、前記ステンレス鋼は、重量%で、V:0〜1.5%、W:0〜2.0%、La:0〜1.0%、Zr:0〜1.0%、B:0〜0.1%からなる群より選択される1種または2種以上の元素がさらに含まれる。
【0017】
また、前記ステンレス鋼の接触抵抗が10mΩcm以下である。
【0018】
本発明の他の側面による燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.02%以下、N:0.02%以下、Si:0.4%以下、Mn:0.2%以下、P:0.04%以下、S:0.02%以下、Cr:25.0〜32.0%、Cu:0〜2.0%、Ni:0.8%以下、Ti:0.01〜0.5%以下、Nb:0.01〜0.5%以下、残部Feおよび不可避的元素からなるステンレス鋼の表面に第2不動態皮膜が形成されたステンレス鋼の製造方法であって、前記ステンレス鋼を光輝焼鈍あるいは焼鈍・酸洗して、表面に第1不動態皮膜を形成するステップと、前記ステンレス鋼を、50〜75℃の温度で、表面粗さRaに応じて調整される時間の間、10〜20重量%硫酸水溶液で酸洗浄して、第1不動態皮膜を除去するステップと、前記ステンレス鋼を水洗するステップと、前記ステンレス鋼を、40〜60℃の温度で、表面粗さRaに応じて調整される時間の間、10〜20重量%硝酸と1〜10重量%フッ酸の混酸で不動態化処理して、前記第2不動態皮膜を形成するステップとを含む。
【0019】
また、前記第1不動態皮膜を除去するステップにおいて、下記式による処理時間の間酸洗浄する。
【0020】
99−3.18(1/Ra)≦処理時間(t、秒)≦153−3.18(1/Ra)
【0021】
さらに、前記第2不動態皮膜を形成するステップにおいて、下記式による処理時間の間不動態化処理する。
【0022】
120+6.73(1/Ra)≦処理時間(t、秒)≦140+6.73(1/Ra)
【0023】
また、前記ステンレス鋼の接触抵抗が、60〜150℃の燃料電池の作動環境条件で10mΩcm以下である。
【0024】
さらに、前記第2不動態皮膜を形成するステップにおいて、前記第2不動態皮膜の厚さを2〜4.5nmに形成する。
【0025】
また、前記第2不動態皮膜を形成するステップにおいて、前記第2不動態皮膜のCr/Fe酸化物の比が、1.5nm以内の領域内で1.5以上となるようにする。
【0026】
さらに、前記第2不動態皮膜を形成するステップにおいて、前記第2不動態皮膜のCr(OH)/Cr酸化物の分布度が、1nmの領域内で0〜0.7の比が確保されるようにする。
【発明の効果】
【0027】
以上で説明したように、本発明によれば、多様な表面粗さ条件でもステンレス鋼の不動態皮膜の除去および再不動態化処理の制御が可能となるように表面改質条件を設定することにより、低い界面接触抵抗の確保および耐溶出性の低減した優れた耐食性を有するようになり、高分子燃料電池の長期的な性能に優れたステンレス鋼を生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】一般的なステンレス分離板を含む燃料電池の斜視図である。
【図2】表面粗さ別の初期界面接触抵抗の変化を示すグラフである。
【図3】70℃の15重量%の硫酸水溶液内で、飽和カロメル電極を基準電極として、本発明鋼12を浸漬したときの電位の変化を示すグラフである。
【図4】図3を経たステンレス鋼材を水洗した後、15重量%硝酸と5重量%フッ酸の混酸内で、飽和カロメル電極を基準電極として、本発明鋼12を浸漬したときの電位の変化を示すグラフである。
【図5】表面改質処理されたステンレス鋼材を大気雰囲気で熱処理したときの接触抵抗の変化を示すグラフ図である。
【図6】(a)〜(c)は、表2の発明実施例により、初期、表面改質後、定電位分極試験後の第1および第2不動態皮膜の組成分布に対してXPS(X−ray Photoelectron Microscopy)分析を行った例を示すグラフである。
【図7】(a)〜(c)は、表2の発明実施例により、初期、表面改質後、定電位分極試験後の第1および第2不動態皮膜内のCr/Fe酸化物の分布を示す図である。
【図8】表2の発明実施例により、初期、表面改質後、定電位分極試験後の第1および第2不動態皮膜内のCr(OH)/Cr酸化物の分布を示すグラフである。
【図9】(a)〜(c)は、表3の発明鋼9および12の鋼種に対して最適2ステップの表面改質処理によって製造されたステンレス分離板を作製した後、高分子燃料電池の単位セルに取り付けて測定した性能評価の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、本発明の実施例を示す図を参照して、本発明による燃料電池分離板用ステンレス鋼およびその製造方法を具体的に説明する。
【0030】
通常のステンレス鋼冷延材の光輝焼鈍材、焼鈍酸洗材などの多様な表面粗さ条件を有する燃料電池分離板用ステンレス鋼は、焼鈍および酸洗後に形成された表面の不動態皮膜によって接触抵抗が高く、一部の分離板の成形過程で表面が金型との摩擦などによって表面粗さ条件が一部異なるようになる。これにより、通常の多様な表面粗さ条件において、接触抵抗が低いながらも、耐食性が向上した分離板としての要求条件を満たすためには、分離板用ステンレス鋼材に適した表面改質処理を行うことが好ましい。
【0031】
このため、本発明では、高分子燃料電池分離板を目的とする低い界面接触抵抗および優れた耐食性を有するステンレス鋼材およびその製造方法について説明する。多様な表面粗さを有するステンレス鋼で実物の分離板を成形し、分離板に形成された第1不動態皮膜を除去するために、10〜20重量%硫酸水溶液で、50〜75℃の温度と、表面粗さ条件に応じて適正な時間とを維持して、最適な工程条件で酸洗浄する。そして、水洗後、第2不動態皮膜を形成するために、10〜20重量%硝酸と1〜10重量%フッ酸の混酸で、40〜60℃の温度と、表面粗さ条件に応じて適正な時間とを維持して、不動態化処理を行う。これにより、ステンレス鋼表面の不動態皮膜の厚さが2〜4.5nmに形成され、Cr/Fe酸化物の比が1.5nm以内の領域内で1.5以上であり、Cr(OH)/Cr酸化物の分布度が1nmの領域内で0〜0.7の比を有することにより、接触抵抗が10mΩcm以下のステンレス鋼を確保することができる。
【0032】
以下では、高分子燃料電池分離板を目的とする低い界面接触抵抗および優れた耐食性を有するステンレス鋼材についてより詳細に説明する。
【0033】
本発明による高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼は、重量%で、C:0.02以下、N:0.02以下、Si:0.4以下、Mn:0.2以下、P:0.04以下、S:0.02以下、Cr:25.0〜32.0、Cu:0〜2.0、Ni:0.8以下、Ti:0.5以下、Nb:0.5以下、そして、V:0〜1.5、W:0〜2.0、La:0〜1.0、Zr:0〜1.0、B:0〜0.1からなる群より選択される1種または2種以上の元素がさらに含まれ、残部Feおよび不可避的元素の組成を有する。このように、本発明にかかるステンレス鋼はMoを添加しない。
【0034】
一方、Moを追加で添加する場合、その含有量は0.5%以下にすることが好ましい。
【0035】
このような組成を有する合金を製鋼−精錬−連続鋳造によって生産された鋳片に、熱間圧延、焼鈍、酸洗、冷間圧延、焼鈍、酸洗工程を行うことにより、冷延製品が製造される。
【0036】
以下、本発明の組成範囲と、その限定理由をより詳細に説明する。あわせて、以下で説明される「%」は、すべて重量%である。
【0037】
CとNは、鋼中においてCr炭窒化物を形成し、その結果、Cr欠乏層の耐食性が低下するため、両元素は低いほど好ましい。したがって、本発明では、C:0.02%以下、N:0.02%以下にその組成比を制限する。
【0038】
Siは、脱酸に有効な元素であるが、靭性および成形性を抑制するため、本発明では、Siの組成比を0.4%以下に制限する。
【0039】
Mnは、脱酸を増加させる元素であるが、介在物であるMnSは、耐食性を減少させるため、本発明では、Mnの組成比を0.2%以下に制限する。
【0040】
Pは、耐食性のみならず、靭性を減少させるため、本発明では、Pの組成比を0.04%以下に制限する。
【0041】
Sは、MnSを形成し、このMnSは、腐食の起点となって耐食性を減少させるため、本発明では、これを考慮してSの組成比を0.02%以下に制限する。
【0042】
Crは、燃料電池が作動する酸性雰囲気で耐食性を増加させるが、靭性を減少させるため、本発明では、Crの組成比を25%〜32%に制限する。
【0043】
Moは、作動する環境雰囲気で耐食性を増加させる役割を果たすが、過剰添加時には靭性の減少効果および経済性において劣る。したがって、本発明では、基本的にMoを添加しない。このようにMoを添加しない場合にも、本発明が所望する効果を得ることができる。ただし、耐食性の改善が特に必要な場合には、Moを追加で添加することも可能である。この場合、その含有量は5%以下の範囲に制限することが好ましい。
【0044】
Cuは、燃料電池が作動する酸性雰囲気で耐食性を増加させるが、過量添加時にCuの溶出によって燃料電池の性能が低下し成形性が低下し得る。本発明では、これを考慮してCuの組成比を0%〜2%以下の範囲に制限する。
【0045】
Niは、一部の接触抵抗を低減させる役割を果たすが、過量添加時にNi溶出および成形性が低下し得る。本発明では、これを考慮してNiの組成比を0.8%以下に制限する。
【0046】
TiとNbは、鋼中のC、Nを炭窒化物として形成するのに有効な元素であるが、靭性を低下させるため、本発明では、これを考慮して各々の組成比を0.5%以下に制限する。
【0047】
このほか、1種または2種以上のV、W、La、ZrおよびBが添加可能であり、これらの組成比は、次のとおりである。
【0048】
Vは、燃料電池が作動する酸性雰囲気で耐食性を増加させるが、過剰添加時にイオンが溶出して電池の性能が低下し得る。したがって、本発明では、これを考慮してVの組成比を0.1〜1.5%に制限する。
【0049】
Wは、燃料電池が作動する酸性雰囲気で耐食性を増加させ、界面接触抵抗を低減する効果があるが、過剰添加時に靭性を低下させる。したがって、本発明では、これを考慮してWの組成比を0.1〜2.0%に制限する。
【0050】
Laは、鋼中において硫化物系介在物の微細分散を誘導し、不動態皮膜の緻密化を誘導することができるが、過剰添加時にノズル詰まり(clogging)などの問題が発生する。したがって、本発明では、これを考慮してLaの組成比を0.0005〜1.0%に制限する。
【0051】
Zrは、燃料電池が作動する酸性雰囲気で耐食性を増加させるが、過剰添加時に表面欠陥を誘発するため、本発明では、Zrの組成比を0.0005〜1.0%に制限する。
【0052】
Bは、鋼中において窒化物を形成し、その耐食性を改善するが、過剰添加時に表面欠陥を誘発するため、本発明では、Bの組成比を0.0005〜0.1%に制限する。
【0053】
以下において、表面粗さ条件別に処理条件を設定するプロセスについてより詳細に説明する。
【0054】
本発明で製造したステンレス鋼の組成を表1に示す。
【0055】
【表1】



【0056】
発明者は、表1の各々の鋼に対し、140N/cmの接触圧力で初期界面接触抵抗を測定し、本発明による化学的表面改質完了後、その界面接触抵抗を測定した。界面接触抵抗の測定については後述する。
【0057】
発明者は、表面粗さに応じた接触抵抗の変化を観察するために、代表例として、表1の発明鋼12に対し、それぞれ異なる表面粗さを有する試験片を用意した後、大気で形成された不動態皮膜(Air−formed Passive Film)状態の界面接触抵抗を測定した。
【0058】
界面接触抵抗の測定は、直流4端子法によって測定し、2つの分離板をカーボンペーパー(SGL社製GDL10−BA)の間に置き、カーボンペーパーとともに、銅エンドプレートとともに取り付ける。そして、電流印加端子を銅エンドプレートに接続させ、電圧端子を2つの分離板素材に接続させ、圧力に応じた接触抵抗を測定する。このとき、測定する試験片の繰り返し回数は4回以上にした。
【0059】
図2は、表面粗さ別の初期界面接触抵抗の変化を示すグラフである。
【0060】
図2を参照すると、ステンレス鋼材の表面接触抵抗は、接触式表面粗さ測定器で測定した表面の平均粗さRaが粗いほど低い値を示し、同一鋼種であるにもかかわらず、表面粗さに応じて大きな差を示すことが分かる。このような表面粗さに応じた界面接触抵抗の変化は、1/Ra、1/Rq、1/Rp、1/Rt、1/dqと接触抵抗が比例する相関関係がある。しかし、平均粗さRaがそれぞれ0.350、0.055および0.040であるステンレス鋼材の接触抵抗は、高分子燃料電池分離板として適用するには接触抵抗が高い。一般的に、10mΩcm以下のレベルになってはじめて分離板素材として適合する。
【0061】
つまり、このような結果は、表面粗さの制御だけでは、10mΩcm以下の接触抵抗を確保することが難しいことを意味する。本発明者の研究の結果、このような原因は、ステンレス鋼の表面に形成された薄い保護性不動態皮膜によるものであることを見出した。これらの不動態皮膜は、鉄−クロム系酸化物で形成され、鉄の含有量が高く、不動態皮膜の厚さが厚いため、接触抵抗が高い。このような不動態皮膜が形成されたステンレス鋼材は、高分子燃料電池用分離板として使用するための本発明に適合しない。これにより、不動態皮膜を除去しなければならず、特に初期の表面粗さ条件にかかわらず、不動態皮膜の組成および厚さを制御することができる技術が必要であることを本発明者は知ることができた。
【0062】
したがって、本発明では、第1不動態皮膜が形成されたステンレス鋼材に対し、10〜20重量%硫酸水溶液で、50〜75℃の温度と、表面粗さ条件に応じた下記の処理時間とを維持して、最適な工程条件で酸洗浄することにより、第1不動態皮膜を除去した。
【0063】
図3は、本発明の表面粗さ別の最適な酸洗浄条件の実施例として、70℃の15重量%の硫酸水溶液内で、飽和カロメル電極(SCE:Saturated Calomel Electrode)を基準電極として、本発明鋼12を浸漬したときの電位の変化を示すグラフ図である。
【0064】
図3に示すように、第1不動態皮膜が形成された状態での電位は、表面に酸化物がない状態の電位より高く、硫酸水溶液に浸漬してこれを除去すると、25秒以内に電位が急激に低下する。これは、ステンレス鋼材の表面に形成された酸化物で構成された第1不動態皮膜が除去されはじめることであり、その結果、電位が25秒以内で次第に低くなる。そして、一定時間経過後、浸漬したステンレス鋼の表面に形成された酸化物が除去されると、それ以上電位が低くなることなく飽和する。したがって、浸漬初期より低い電位で飽和する時点までステンレス鋼を硫酸水溶液に浸漬させると、ステンレス鋼の表面に形成された第1不動態皮膜(酸化物)を除去することができる。
【0065】
図3のグラフにより、試験片が硫酸水溶液内で反応する様相が表面粗さ条件別に異なることが分かり、これにより、硫酸水溶液内で酸化膜を除去する工程条件も、粗さ条件別に異なる必要があることが分かる。したがって、本発明鋼において、10〜20重量%硫酸水溶液で、50〜75℃の温度において第1不動態皮膜を除去する適正な処理時間は、表面粗さが大きいほど処理時間が長くなる。適正な処理時間は、下記式(1)のとおりである。
【0066】
99−3.18(1/Ra)≦処理時間(t、秒)≦153−3.18(1/Ra) −−−−−− (1)
【0067】
ここで、硫酸水溶液の温度および濃度が低すぎる場合、表面の酸化膜の除去が容易でなく、逆に、高すぎる場合は、母材部の損傷を誘発し得るため、温度は50℃〜75℃に制限し、濃度は重量%で10%〜20%に制限した。また、処理時間が前記条件以下では、界面接触抵抗が高い不動態皮膜の除去が難しく、前記条件以上では、母材部の損傷および界面接触抵抗が高い不動態皮膜の形成により10mΩcm以下の接触抵抗の確保が難しい。
【0068】
その後、第1不動態皮膜が除去されたステンレス鋼材を水洗した。
【0069】
そして、10〜20重量%硝酸と1〜10重量%フッ酸の混酸で、40〜60℃の温度と、表面粗さ条件に応じた処理時間とを維持して、不動態化処理工程を行うことにより、ステンレス鋼材の表面に第2不動態皮膜を形成する。
【0070】
図4は、本発明の表面粗さ別の最適な第2不動態皮膜の形成を実施する例として、図3を経たステンレス鋼材を水洗した後、15重量%硝酸と5重量%フッ酸の混酸内で、飽和カロメル電極を基準電極として、一例として、本発明鋼12を浸漬したときの電位の変化を示すグラフである。
【0071】
図4を参照すると、前記図3から導き出された最適な硫酸水溶液の浸漬条件を適用して、それぞれ異なる表面粗さ条件の試験片を水洗した後、15重量%硝酸と5重量%フッ酸の混酸で、ステンレス鋼材の表面に第2不動態皮膜を形成した。
【0072】
硝酸とフッ酸の混酸のような酸化性酸にステンレス鋼が浸漬される場合、ステンレス鋼の表面には不動態皮膜が形成される。このように、表面に不動態皮膜が形成されると、ステンレス鋼の電位は、時間が経つほど高くなる。このように、本発明によるステンレス鋼を浸漬初期より高い電位で飽和する時点まで硝酸とフッ酸の混酸に浸漬させると、ステンレス鋼の表面に第2不動態皮膜が形成される。
【0073】
この過程で、発明者は、不動態化処理温度が低いほど不動態化処理に多くの時間がかかり、逆に、高すぎる場合は、表面の損傷を誘発して接触抵抗および耐食性にむしろ害を及ぼし得ることを見出した。したがって、第2不動態化処理時、10〜20重量%硝酸と1〜10重量%フッ酸の混酸で、40〜60℃の温度において第2不動態皮膜を形成することが好ましい。そして、第2不動態皮膜の形成は、表面粗さ条件によって異なる必要があり、表面粗さが大きいほど処理時間が短くなり、下記の処理時間tで低い接触抵抗特性を有する分離板を製造できることを見出した。好ましい処理時間は、下記式(2)のとおりである。
【0074】
120+6.73(1/Ra)≦処理時間(t、秒)≦140+6.73(1/Ra) −−−−−− (2)
【0075】
本発明では、硝酸の濃度を10重量%〜20重量%に制限したが、10重量%未満では、不動態化が難しく、逆に、高すぎる場合は、接触抵抗の低減効果がない。
【0076】
また、本発明では、フッ酸の濃度を1重量%〜10重量%に制限したが、1重量%未満の場合、不動態皮膜が不安定になり得、逆に、過剰添加時には、表面の損傷を誘発して接触抵抗および耐食性にむしろ害を及ぼし得る。本発明では、処理時間が前記表面粗さ別の適正時間を超える場合、不動態皮膜が不安定になるか、不動態皮膜の厚さが過度に形成され、接触抵抗が高くなることを本発明者は知ることができた。
【0077】
これにより、本発明によるステンレス鋼材は、10mΩcm以下の初期接触抵抗および燃料電池の環境条件で腐食試験後、接触抵抗値を確保することができた。特に、これらの発明鋼を化学的表面改質処理した場合、耐食性においても腐食電流密度が低く、耐溶出性が優れた特性を有することを確認することができた。耐食性については、表3で後述する。
【0078】
また、実際の燃料電池分離板を作製する過程での密封部の接着過程で分離板を250度までさらすことができ、レーザ溶接のような分離板の溶接時の熱影響による温度上昇が発生する点、最近の高温電解質の開発による作動温度が150度まで上昇する点を考慮して、本発明鋼を前記開発条件下で表面改質処理した場合、接触抵抗の安定性を確認した結果、すべての開発鋼で250度までも10mΩcm以下の安定した結果を得た。その開発鋼18の実施例の一例を図5に示した。
【0079】
表2では、本発明による実施例として、発明鋼12の表面粗さ条件別の各処理時間に応じた界面接触抵抗の変化を示した。
【0080】
【表2】

【0081】
表2から明らかなように、平均表面粗さRaが0.055の場合に、硝酸とフッ酸の混酸の処理時間を一定にし、硫酸の酸洗浄ステップを変更したことによる接触抵抗の変化から、本発明者は、特に硫酸の酸洗浄ステップが接触抵抗に大きい影響を与えることを見出した。そして、処理時間が長いか短いほど接触抵抗が増加することから、表面粗さ条件別の処理時間が重要な影響を及ぼすことを見出した。
【0082】
発明者は、前記表1の各々の鋼に対し、10〜20重量%硫酸水溶液で、50〜75℃の温度における、適正な処理時間[99−3.18(1/Ra)≦処理時間(t、秒)≦153−3.18(1/Ra)]の間の第1不動態皮膜の酸洗浄ステップ後、水洗を経た。その後、10〜20重量%硝酸と1〜10重量%フッ酸の混酸で、40〜60℃の温度において、適正な処理時間[120+6.73(1/Ra)≦処理時間(t、秒)≦140+6.73(1/Ra)]の間に、第2不動態皮膜を形成した。この過程で、測定した接触抵抗および高分子燃料電池雰囲気中、カソード(cathode)雰囲気条件に似た条件、つまり、70℃の1M硫酸と2ppmのフッ酸を混合した溶液で空気をバブリング(bubbling)しながら、飽和カロメル電極を基準電極として、0.6Vを9時間印加する定電位試験(Potentiostatic Test)を行った後、腐食電流密度、定電位試験後の接触抵抗、腐食溶液でICP(Inductively Coupled Plasma Spectroscopy)によってFe、CrおよびNi溶出イオンを測定した耐食性実験の結果を表3に示した。
【0083】
【表3】


【0084】
表3に示すように、本発明の実施例による化学的表面改質処理が施された開発鋼および表面改質処理が施された開発鋼を200℃の温度に20分間、大気雰囲気にさらされた分離板鋼材を140N/cmの接触圧力で接触抵抗を測定した結果、比較鋼に比べて10mΩcm以下の低い接触抵抗を有し、前述した分極実験を行った後に測定した接触抵抗においても低い接触抵抗を有する。また、分極実験後の腐食電流密度も0.12μA/cm以下の低い値を有し、溶出イオンを測定した結果、比較鋼に比べて優れた0.05mg/L以下のFe溶出イオンのみが検出された。特に、既存の特許では、Moが必須元素となっているが、本発明では、Moを添加しない発明鋼でも優れた接触抵抗および耐溶出特性を示した。その一例として、高価なMoが添加されていない発明鋼18、19、20、22および23に対しても、本発明により優れた接触抵抗および耐食性を示すことが分かった。
【0085】
本発明の一実施例により前述した表面粗さ条件によって実施された2ステップの化学的表面改質後、定電位分極試験後の第2不動態皮膜に対してXPS(X−ray Photoelectron Microscopy)分析を行った。
【0086】
図6(a)〜図6(c)は、表2の発明実施例により、初期、表面改質後、定電位分極試験後の第1および第2不動態皮膜の組成分布に対してXPS分析を行った例を示すグラフである。
【0087】
図6(a)〜図6(c)を参照すると、初期の第1不動態皮膜の厚さが約5.5nmで、前述した2ステップの化学的表面改質後に生成された第2不動態皮膜の厚さは約2.2nmと薄くなる。また、前述した定電位分極試験を行った後も、その厚さが約2.3nmと、2ステップの化学的表面改質後と大差がないことが分かる。特に、表3の発明鋼に対する化学的表面改質後の第2不動態皮膜の厚さ範囲は2nm〜3.5nm以下と測定された。
【0088】
図7(a)〜図7(c)は、表2の発明実施例により、初期、表面改質後、定電位分極試験後の第1および第2不動態皮膜内のCr/Fe酸化物の分布を示す図である。
【0089】
図7(a)〜図7(c)を参照すると、初期の第1不動態皮膜内のCr/Fe酸化物の比と比較して、厚さ減少のほか、表面改質後、定電位分極試験後の第2不動態皮膜内のCr/Fe酸化物の比が1nm以内の領域で1.5以上確保されることが分かる。特に、表3の発明鋼に対する化学的表面改質後のCr/Fe酸化物の比に対しても、1.5nm以内の領域で1.5以上になることが分かった。
【0090】
図8は、表2の発明実施例により、初期、表面改質後、定電位分極試験後の第1および第2不動態皮膜内のCr(OH)/Cr酸化物の分布を示すグラフである。
【0091】
図8から明らかなように、不動態皮膜の厚さが1nm内の領域で、初期の第1不動態皮膜のCr(OH)/Cr酸化物の比と比較して、2ステップの表面改質後および定電位分極試験後の第2不動態皮膜内のCr(OH)/Cr酸化物の分布が1nm内の領域で0〜0.52の比を有することが分かる。特に、表3の発明鋼に対する2ステップの化学的表面改質後のCr(OH)/Cr酸化物の分布も、厚さ1nm内の領域で0〜0.7の比になることが分かった。
【0092】
以上の実験で、本発明の組成範囲を有するステンレス鋼の硫酸溶液での第1不動態皮膜を除去する酸洗浄ステップと、水洗後、硝酸とフッ酸の混酸溶液内での第2不動態皮膜を形成する不動態化処理ステップとを含む2ステップの化学的表面改質において、初期の表面粗さは、2ステップの化学的表面改質の処理時間などの条件を設定するのに重要な要因として作用できることを確認した。そして、このような2ステップの化学的表面改質によって処理されたステンレス鋼材の第2不動態皮膜の厚さは2nm〜4.5nm以下に形成された。また、Cr/Fe酸化物の比に対しても、厚さ1.5nm以内の領域で1.5以上になり、Cr(OH)/Cr酸化物の分布も、厚さ1nmの領域内で0〜0.7の比であるとき、接触抵抗および耐食性の優れた鋼材を確保できることが分かった。
【0093】
図9(a)〜図9(c)は、表3の発明鋼9および12の鋼種に対し、最適2ステップの表面改質処理によって製造されたステンレス分離板を作製した後、高分子燃料電池の単位セルに取り付けて測定した性能評価の結果を示す実施例を示す図である。
【0094】
図9(a)〜図9(c)を参照して説明すると、燃料電池の作動温度は70℃、反応ガスの全体の圧力は1気圧に維持しており、燃料極(anode)と空気極(cathode)に供給された水素および酸素の量は、電気化学的に消耗する量の各々の1.5倍および2倍を供給して測定した。そして、使用された膜電極集合体はGORE社製の膜電極集合体を用いて測定した。また、長期性能の測定は、電流密度を0.7mA/cm(17.5A)に維持しながら、標準条件で単位電池の電圧を測定した。
【0095】
図9(a)に示すように、初期性能は、グラファイト(graphite)素材と比較してほぼ類似の性能結果を示した。そして、図9(b)をみると、インピーダンス分析結果においても、オーム(ohmic)抵抗および分極抵抗の値がグラファイトに比べてほぼ類似するか、一部低い値を示した。図9(c)を参照すると、600時間の間測定された長期性能の側面では、開回路電位(OCV:Open Circuit Voltage)が一定に維持され、0.7mA/cm(17.5A)の一定の電流密度における電圧降下は、グラファイトに比べて同等または一部高い性能値を示すことが分かった。
【0096】
つまり、本発明鋼の実施例により、多様な表面粗さ条件でもステンレス鋼の不動態皮膜の除去および再不動態化処理の制御が可能となるように表面改質条件を設定することにより、低い界面接触抵抗の確保および耐溶出性が低減した、優れた耐食性を有するようになり、高分子燃料電池の長期的な性能に優れたステンレス鋼を生産することができる。
【0097】
上述した実施例では、高分子燃料電池分離板を例に挙げて説明したが、その他の多様な燃料電池分離板に適用できることはいうまでもない。
【0098】
本発明の技術思想は、上記の好ましい実施例により具体的に記述されたが、上記の実施例は、それを説明するためのものであり、それを制限するためのものではないことを周知しなければならない。また、本発明の技術分野における当業者は、本発明の技術思想の範囲内で多様な実施例が可能であることを理解することができるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.02以下、N:0.02以下、Si:0.4以下、Mn:0.2以下、P:0.04以下、S:0.02以下、Cr:25.0〜32.0、Cu:0〜2.0、Ni:0.8以下、Ti:0.5以下、Nb:0.5以下、残部Feおよび不可避的元素からなり、Moを添加しないステンレス鋼の表面に第2不動態皮膜が形成されたステンレス鋼の製造方法であって、
前記ステンレス鋼を光輝焼鈍あるいは焼鈍・酸洗して、表面に第1不動態皮膜を形成するステップと、
前記ステンレス鋼を、50〜75℃の温度で、表面粗さRaに応じて調整される時間の間、10〜20重量%硫酸水溶液で酸洗浄して、第1不動態皮膜を除去するステップと、
前記ステンレス鋼を水洗するステップと、
前記ステンレス鋼を、40〜60℃の温度で、表面粗さRaに応じて調整される時間の間、10〜20重量%硝酸と1〜10重量%フッ酸の混酸で、不動態化処理して、前記第2不動態皮膜を形成するステップ
とを含むことを特徴とする、高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【請求項2】
前記ステンレス鋼は、重量%で、Mo:5.0%以下をさらに含むフェライト系ステンレス鋼であることを特徴とする、請求項1に記載の高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【請求項3】
前記ステンレス鋼は、重量%で、V:0.1〜1.5、W:0.1〜2.0、La:0.0005〜1.0、Zr:0.0005〜1.0、B:0.0005〜0.1からなる群より選択される1種または2種以上の元素がさらに含まれることを特徴とする、請求項1または2に記載の高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【請求項4】
前記第1不動態皮膜を除去するステップにおいて、下記式による処理時間の間酸洗浄することを特徴とする、請求項1に記載の高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
99−3.18(1/Ra)≦処理時間(t、秒)≦153−3.18(1/Ra)
【請求項5】
前記第2不動態皮膜を形成するステップにおいて、下記式による処理時間の間不動態化処理することを特徴とする、請求項1に記載の高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
120+6.73(1/Ra)≦処理時間(t、秒)≦140+6.73(1/Ra)
【請求項6】
前記第2不動態皮膜を形成するステップにおいて、前記第2不動態皮膜の厚さを2〜4.5nmに形成することを特徴とする、請求項1に記載の高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【請求項7】
前記第2不動態皮膜を形成するステップにおいて、前記第2不動態皮膜のCr/Fe酸化物の比が、1.5nm以内の領域内で1.5以上となるようにすることを特徴とする、請求項1に記載の高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【請求項8】
前記第2不動態皮膜を形成するステップにおいて、前記第2不動態皮膜のCr(OH)/Cr酸化物の分布度が、1nmの領域内で0〜0.7の比が確保されるようにすることを特徴とする、請求項1に記載の高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【請求項9】
前記第1不動態皮膜の除去ステップ、水洗ステップ、および第2不動態皮膜の形成ステップは、ステンレス鋼の光輝焼鈍あるいは焼鈍・酸洗後、鋼板に実施することを特徴とする、請求項1に記載の高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【請求項10】
前記第1不動態皮膜の除去ステップ、水洗ステップ、および第2不動態皮膜の形成ステップは、ステンレス鋼の光輝焼鈍あるいは焼鈍・酸洗後、分離板の流路成形直前に実施することを特徴とする、請求項1に記載の高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【請求項11】
前記第1不動態皮膜の除去ステップ、水洗ステップ、および第2不動態皮膜の形成ステップは、ステンレス鋼の光輝焼鈍あるいは焼鈍・酸洗後、分離板の流路成形直後に実施することを特徴とする、請求項1に記載の高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【請求項12】
前記ステンレス鋼の接触抵抗が、60〜150℃の作動環境下で10mΩcm以下であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【請求項13】
重量%で、C:0.02以下、N:0.02以下、Si:0.4以下、Mn:0.2以下、P:0.04以下、S:0.02以下、Cr:25.0〜32.0、Cu:0〜2.0、Ni:0.8以下、Ti:0.5以下、Nb:0.5以下、残部Feおよび不可避的元素からなることを特徴とする、高分子燃料電池用ステンレス鋼。
【請求項14】
前記ステンレス鋼は、重量%で、Mo:5.0以下をさらに含むフェライト系ステンレス鋼であることを特徴とする、請求項13に記載の高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼。
【請求項15】
前記ステンレス鋼表面の不動態皮膜の厚さが2〜4.5nmに形成され、Cr/Fe酸化物の比が1.5nm以内の領域内で1.5以上であり、Cr(OH)/Cr酸化物の分布度が1nmの領域内で0〜0.7の比が確保されることを特徴とする、請求項13または14に記載の高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼。
【請求項16】
前記ステンレス鋼は、重量%で、V:0.1〜1.5、W:0.1〜2.0、La:0.0005〜1.0、Zr:0.0005〜1.0、B:0.0005〜0.1からなる群より選択される1種または2種以上の元素がさらに含まれることを特徴とする、請求項13または14に記載の高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼。
【請求項17】
前記ステンレス鋼の接触抵抗が、60〜150℃の作動環境下で10mΩcm以下であることを特徴とする、請求項13〜16のいずれか1項に記載の高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−514297(P2012−514297A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543441(P2011−543441)
【出願日】平成21年12月29日(2009.12.29)
【国際出願番号】PCT/KR2009/007891
【国際公開番号】WO2010/077065
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(592000691)ポスコ (130)
【Fターム(参考)】