説明

高分子発光媒体組成物及び高分子エレクトロルミネッセンス素子

【課題】反転オフセット印刷法で高分子発光媒体層を形成する際のパターニング精度を向上させる。
【解決手段】転写支持体上に剥離容易にインキ層を備える転写体と、非画線部を凸部とし画線部を凹部とする凹凸表面を有する凸版とを、前記インキ層と凸部とが対面するように密着させて前記凸部に密着した非画線部のインキ層を選択的に凸版に転写させて転写体から除去し、次に、非画線部のインキ層が除去された転写体を非転写体に密着して、画線部に既存するインキ層を被印刷体に転写する反転オフセット印刷法に適用するインキであって、当該インキは微粒子と、微粒子の分散担体である高分子系発光材料を含有し、電圧の印加で発光可能な高分子発光媒体層を形成することができることを特徴とする反転オフセット印刷法用高分子発光媒体インキとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の対向する電極と、その電極に挟持され、両電極間への電圧の印加で発光する高分子発光媒体層を少なくとも具備する高分子エレクトロルミネッセンス(以下、ELとする)素子の、高分子発光媒体層の形成に用いられる組成物及びこの組成物によって高分子発光媒体層を形成された高分子EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の多様化に伴って、従来より使用されているCRTに比べて消費電力や空間占有面積の少ない平面表示素子にニーズが高まり、このような平面表示素子の一つとしてEL素子(エレクトロルミネッセンス素子)が注目されている。
【0003】
EL素子は、導電性のルミネッセンス材料に電圧を加えることにより励起し、発光させる素子である。ルミネッセンス材料として無機化合物を使用した無機EL素子と、有機化合物を使用した有機EL素子とに分けられる。
【0004】
無機EL素子を使用した表示装置(無機ELD)は早くから一部実用化されてきたが、駆動電圧が高すぎるなどの問題で普及が滞っている。
【0005】
それに対して、有機EL素子は高い発光効率を示すことから、今後実用化に向けて盛んに研究が行われることが期待される。この有機EL素子の構造は、例えば、ガラス等の透明基板と、この透明基板上に成膜され、錫をドーピングした酸化インジウムなどの透明なホール(正孔)注入電極とホール注入電極上に成膜されたトリフェニルジアミンなどを含むホール輸送層と、ホール輸送層上に積層されたアルミキノリノール錯体(Alq)などのルミネッセンス材料を含む有機発光媒体層と、ナトリウムなどの仕事関数の小さな金属電極(電子注入電極)とを基本の構成要素として有する。そして、ホール注入電極と電子注入電極との間に、10ボルト前後の電圧を加えることによって、数百ないし数万cd/mというきわめて高い輝度が得られるという特徴を有している。
このような有機EL素子は、とりわけ、カラー表示装置への応用が期待されている。
【0006】
有機EL素子の有機発光媒体層を構成する材料は大きく分けて、低分子系発光材料と高分子系発光材料の2種類に分けられる。低分子系発光材料は一般的に蒸着法によって積層されるが、大型基板に対応した蒸着装置やアライメント精度の点から、大型化は困難である。
【0007】
一方、高分子型発光材料または発光材料と高分子を含んでいる高分子系発光材料(以下単に高分子系発光材料と呼ぶ)は、塗布や印刷等の湿式プロセスが使えるために大型基板に積層するのに有利と考えられる。高分子系材料を積層する湿式プロセスのうち、一般的に知られている方式はスピン塗布方式、インクジェット方式及び版を用いた印刷方式である。
【0008】
スピン塗布方式は、基板中央に高分子系発光材料を滴下し、基板を回転させ、その遠心力を利用して材料を基板上に延展させて塗布する方式である。この方式では、塗布効率が約10%と低く、基板の端部に塗布膜厚が厚くなるという欠点がある上、複数の色(例えば赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の三原色)を塗り分けることが困難である。
【0009】
ノズルから高分子系発光材料の液滴を吐出させて基板上に付着させるインクジェット方式では、微小な液滴に集合体を薄膜とするため、均一な層膜厚を得るのは難しいと言われている。また、大型基板に対する位置精度の問題も残っている。
【0010】
印刷方式には、凹版印刷方式やオフセット印刷方式などがあるが、膜厚が均一で安定している反転オフセット印刷法(特許文献1参照)が注目を集めている。この反転オフセット印刷法は、まず、円筒状または円柱状の転写支持体の外表面をシリコーンゴムなどの弾性材料で構成し、その外表面に均一な膜厚にインキ層を付着させる。そして表面凹凸の凸版を密着させ、前記凸部に密着した非画線部のインキ層を選択的に凸版に転写させて転写体から除去する。次に、転写体を被印刷体に密着して、画線部に既存するインキ層を被印刷体に転写して印刷する。転写支持体に残存するインキ及び凸版表面に残存するインキは溶剤で洗浄除去して再利用することができる。ここでいうインキ層として高分子発光材料を、被印刷体としてホール注入電極または電子注入電極を備えた基板を用いることで、基板上にパターニングされた高分子発光媒体層を形成することができる。
【特許文献1】特開2003−17248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、反転オフセット印刷法ではインキ層の膜強度の調整が困難であるという問題があった。すなわち、均一な膜厚を保持するために十分な量の高分子型発光材料または高分子担体を添加すると、転写支持体上に形成されたインキ層表面が強固な膜を形成するために、凸版をインキ膜に密着させても密着部と非密着部(すなわち非画線部と画線部)との境界のインキ膜が分離せず、凸部形状通りにパターニングできないという現象がおきていた。転写体からインキ膜の非画線部が正確に除去できないため、この残されたインキ膜を被印刷体に転写しても目的とするパターン発光は得られない、あるいは全く発光しないという状態となる。膜強度を弱める目的で高分子材料を減らすと、高分子系発光材料の粘度が低下し、インキ膜厚が一定とならない、インキがだれる、パターンが崩れる等の問題が発生してしまう。
従って、インキの膜厚を一定に保ちつつ、インキ層の膜強度を弱め、正確な高分子発光媒体層のパターニングを可能とする高分子系発光材料が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る第1の発明は、転写支持体上に剥離容易にインキ層を備える転写体と、非画線部を凸部とし画線部を凹部とする凹凸表面を有する凸版とを、前記インキ層と凸部とが対面するように密着させて前記凸部に密着した非画線部のインキ層を選択的に凸版に転写させて転写体から除去し、次に、非画線部のインキ層が除去された転写体を非転写体に密着して、画線部に既存するインキ層を被印刷体に転写する反転オフセット印刷法に適用するインキであって、当該インキは微粒子と、微粒子の分散担体である高分子系発光材料を含有し、電圧の印加で発光可能な高分子発光媒体層を形成することができることを特徴とする反転オフセット印刷法用高分子発光媒体インキである。
本発明の高分子発光媒体インキは、からみあって強い皮膜を形成する高分子鎖同士のつながりを弱め、皮膜の分断を容易にする微粒子を含む。このインキを用いれば、転写体から凸版への非画線部のインキ層の転写時に、転写体上に残留する画線部との境界の分離を容易にし、もって被印刷体上に転写・形成される画線部のパターン精度を向上させることができる。
【0013】
請求項2に係る第2の発明は、前記微粒子は可視光に対して透明であることを特徴とする請求項1記載の反転オフセット印刷法用高分子発光媒体インキである。
微粒子が透明であることによって、電圧印加時に高分子発光媒体層からの発光を妨げることがない。
【0014】
請求項3に係る第3の発明は、前記微粒子は金属または金属化合物であることを特徴とする請求項1記載の反転オフセット印刷法用高分子発光媒体インキである。
微粒子が導電性であるので、微粒子の分散している高分子発光媒体層の電気伝導度が向上し、低い電圧で発光させることが可能となる。
【0015】
請求項4に係る第4の発明は、前記微粒子は顔料であることを特徴とする請求項1記載の反転オフセット印刷法用高分子発光媒体インキである。
目的とする色の特性に応じて顔料を添加すれば、発光色純度を向上させることができる。また、微粒子の分散担体が白色に発光する場合、所望の色の顔料を添加することで、カラー発光が可能になる。
【0016】
請求項5に係る第5の発明は、ホール注入電極と、電子注入電極と、この電極の間に挟持され、両電極間への電圧の印加で発光する高分子発光媒体層とを少なくとも具備する高分子エレクトロルミネッセンス素子において、前記高分子発光媒体層は請求項1乃至4記載の反転オフセット印刷法用高分子発光媒体インキで形成されていることを特徴とする高分子エレクトロルミネッセンス素子である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高分子発光媒体材料に含まれる微粒子が、高分子系発光材料に含まれる高分子鎖の絡まりを抑えるため、膜厚等パターン形状を保持しながら膜強度のみを弱めることができる。これによって凸版による非画線部の正確な除去が可能となり、高分子EL素子の基板上に正確なパターンで高分子発光媒体層を形成することができた。また、正確なパターンで発光する高分子EL素子を提供できた。
本発明の他の形態によれば、微粒子は導電性であるので、高分子発光媒体層の電流密度が増加し、高分子EL素子が低電圧で駆動できた。
本発明の他の形態によれば、微粒子は顔料であるので、高分子発光媒体層の色純度が向上した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明の高分子発光媒体インキは、少なくとも微粒子と、微粒子の分散担体である高分子系発光材料を含有する。
微粒子の分散担体である高分子系発光材料は、高分子型発光材料、または発光材料と高分子のいずれかまたは両方を含み、電圧を印加した際に発光する能力を有する。
高分子型発光材料は、電圧印加により発光可能な高分子型化合物のことであり、例えば2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシロキシ)−1,4−フェニレンビニレン等のポリフェニレンビニレン系、ポリフルオレン系などが挙げられる。
高分子型発光材料は単独で用いることもできるが、発光材料、発光材料と高分子を併用してもよい。
発光材料は、電圧印加により発光可能な低分子化合物であり、高分子発光媒体インキとして用いる場合には担体となる高分子と共に用いる。
このような発光材料としては例えばルブレン、DCM誘導体、Alqなどが挙げられる。
発光材料の担体となる高分子としてはPVK(ポリビニルカルバゾール)などが挙げられる。
高分子系発光材料に占める高分子と発光材料の割合は高分子100重量部に対して発光材料0.1〜5重量部が好ましい。
これらの他、高分子系発光材料には、電子注入効率向上のため、電子輸送材料等を含むことができる。
【0019】
微粒子は、担体となる高分子系発光材料に分散された状態で含まれ、高分子鎖の絡まりを抑えることで、高分子発光媒体インキが形成する皮膜の形状を保ったまま、膜強度を弱める働きをする。具体的には転写支持体上に均一な膜厚で形成されている高分子発光媒体インキ層に表面凹凸の凸版の凸部を密着させ、当該凸部状に部分的に高分子発光媒体インキ層を転写する際に、凸部に写し取られ除去されるインキ層と、転写支持体上に残留するインキ層とが分離されやすくする(いわゆる「きれ」やすくなる)作用を奏する。
【0020】
微粒子としては、透明な有機または無機材料、金属、金属化合物、顔料等が挙げられる。
透明とは可視光線を透過するということであり、有機材料からなる有機透明微粒子と無機材料からなる無機透明微粒子が挙げられる。
有機材料は透明性と耐光性に優れたものが好ましく、アクリル樹脂、メラミン樹脂等を挙げることができる。
無機材料としては、二酸化ケイ素、酸化チタン等が挙げられ、特に透明性と扱いやすさの観点から二酸化ケイ素(シリカ)が好ましい。
【0021】
高分子発光媒体層を電極で挟持し、電圧を印加すると発光するが、この際、同じ電圧に対しても電流密度が高い(導電性が高い)ほど、ホールと電子の再結合が多く行われるため、低電圧駆動に有利である。
そこで、微粒子としては、パターニング精度向上の機能に加えて、高分子発光媒体層の電流密度を向上させる機能を付加するために導電性を有する材料を選択することができる。これらには例えば金、ニッケル、チタンなどの金属や、さきに透明無機材料としても例示した二酸化ケイ素、酸化チタン、他には酸化アルミニウム、酸化すず、酸化亜鉛などの酸化物に代表される金属化合物等が挙げられる。
これら金属または金属化合物は可視光に対して透明または透明に近いことが好ましい。
【0022】
高分子発光媒体層は含まれる発光材料の性質と、存在する場合には隣接するホール輸送/注入層および電子輸送/注入層の効率によりさまざまな色に発光することができる。そこで、微粒子としては、パターニング精度向上の機能に加えて、高分子発光媒体層の色純度を高め目的とする発光色を得るために顔料を選択することができる。
顔料とは、溶剤に溶解せず分散可能な、可視光線に吸収を有する有機または無機の着色料である。微粒子として用いることのできる顔料としては、一般的な顔料を用いることができ、有機系なら例えばアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、縮合多環顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料等を、無機系なら金属等の酸化物、水酸化物、硫化物、クロム酸塩、硫酸塩、炭酸塩が挙げられる。
一種類の高分子系発光材料に複数色の顔料を添加して、複数色の発光を可能にすることができる。特に、白色に発光する高分子系発光材料と所望の色の顔料を合わせれば、高分子系発光材料は一種類のみで多色化を図ることができ、これをパターニングしてフルカラー表示EL素子を製造することもできる。この場合、もとは同じ発光材料であるため、発光色の違いによる寿命等性質の違いを考慮しなくてもよいという利点がある。
反転オフセット印刷時のパターニング精度を保持するためには高分子系発光材料と微粒子の合計重量の10重量%以上を、また90重量%より少ない量を添加することができるが、顔料の場合は可視光の吸収があり、添加は輝度を低下させる方向にあることから、上限は80重量%より少ない程度と他の微粒子に比べて小さい。また、顔料の添加による色純度改善効果は5重量%程度から期待できる。
【0023】
微粒子の粒径は、高分子鎖の絡まりを防ぎつつパターン形状を保持し、発光にも影響を与えないようにするには小さいほど好ましく、下限は1nmである。しかし、粒径が小さいと凝集しやすくなるため、好ましい分散状態を得るためには下限は10nmである。また、高分子発光媒体層の膜厚が通常80〜100nmであることから、上限は60nm程度である。これは膜厚により制限される値であるため、目的とする高分子EL素子の構造によって変動する。例えば、高分子発光媒体層の膜厚を100nm以上にすることは形成は可能であるが、発光には高い電圧を必要とするため通常行わない。しかし、導電性の微粒子を分散させることで導電性を向上させ、電圧の問題を解消することができれば膜厚に応じた粒径の微粒子を添加することができる。
【0024】
微粒子は、高分子系発光材料と微粒子の合計重量の10重量%以上を添加することができる。10重量%より少ないと微粒子を添加した効果が表れない。50重量%でほとんどの非画線部/画線部が分離し、60重量%以上で転写支持体から凸版への不要部の転写が100%となる。一方、80重量%以上となると、高分子EL素子としての発光に支障をきたすほど輝度が低下し、90重量%以上では担体が少なすぎてインキ層パターンとしての形状を保持できなくなる。
これら透明微粒子、導電性微粒子、顔料(着色微粒子)はそれぞれ混合して用いることもできる。
【0025】
微粒子を均一に高分子発光媒体インクに分散させるため、微粒子は一旦溶媒に分散させた後、高分子系発光材料と混合することが好ましい。このとき、高分子系発光材料も溶媒に予め溶解/分散させておくことが好ましく、溶媒は双方とも同じものを用いることが相溶性の観点から好ましい。
なお、微粒子を分散させる溶媒には、後述する高分子発光媒体インキを調整するために添加することのできる溶媒を好ましく用いることができる。
微粒子として顔料等ナノサイズ粒子を用いる場合は、その粒径が非常に細かいことから分散剤を添加して分散液とし、これを高分子系発光材料溶液と合わせるようにすることが好ましい。このような微粒子分散液としては、例えば二酸化ケイ素の分散液である日産化学工業(株)製のシリカゾル(60%含有)が挙げられる。
微粒子を分散させる際には、分散状態を安定させるために分散剤を加えることができる。この場合、分散剤のスクリーニングを行い、高分子系発光材料の発光効率を妨げないものを選択する必要がある。好ましく用いることのできる分散剤としては例えばビックケミー・ジャパン社製の湿潤分散剤・溶剤型分散剤(商品名Disperbyk)等が挙げられる。
【0026】
高分子発光媒体インキは、さらにインキとして用いることができるよう粘度調整のために溶剤を含むことができる。このような溶剤としてはシクロヘキサノン、トルエン、テトラリン等が挙げらる。また、反転オフセット印刷法は転写支持体上でのインキ層形成時にある程度インキ層が溶剤で湿潤し、凸版による非画線部除去時にインキ層表面が乾燥していない状態となることが必要であるため、蒸気圧の高い溶媒を選択することが好ましい。特に高沸点で安定してインキ層を形成でき、一般的に用いることのできる発光材料の溶解度が高いことから、トルエンを好ましく用いることができる。
高分子発光媒体インキは、微粒子を添加するとインキ層表面の粘着性が低下し凸版あるいは被印刷体への転写効率を落とすことがある。この場合、ポリエチレンオキシド等の転写アシスト添加剤を加えることで粘着性の低下を抑えることができる。添加できる転写アシスト添加剤はスクリーニングを行い、高分子系発光材料の発光効率を妨げないものを選択する必要がある。
上記のようにして調整された本発明の高分子発光媒体インキは、反転オフセット印刷法によって高分子発光媒体層を形成するために用いられる。
【0027】
本発明の高分子EL素子は、反転オフセット印刷法により高分子発光媒体インキで形成された高分子発光媒体層と、当該高分子発光媒体層のそれぞれの面に直接または間接的に存在するホール注入電極及び電子注入電極とを少なくとも具備する。
さらに、それぞれの電極と高分子発光媒体層との間には、ホール/電子の輸送効率を高めるための層を有していても良い。すなわち、ホール注入電極と高分子発光媒体層との間にはホール注入層、ホール輸送層、電子ブロック層が設けられていても良く、電子注入電極と高分子発光媒体層との間には電子注入層、電子輸送層、ホールブロック層が設けられていてもよい。また一つの層が複数の機能を兼ねることもできる。あるいは高分子発光媒体層が例えばホール注入層の機能を有していてもよい。
【0028】
本発明の高分子EL素子の構造の一形態を図1に示す。
図1に示す高分子EL素子10は、基板1と、透明基板上にパターン状に形成されたホール注入電極2と、ホール注入電極上に形成されたホール輸送層3と、反転オフセット印刷法により形成された高分子発光媒体層4と、高分子発光媒体層のもう一方の面に設けられた電子注入電極5と、高分子EL素子を外気から遮断し封止する封止板6から構成されている。基板1は透明であり、ボトムエミッション型(発光取り出し面が下)の高分子EL素子である。
【0029】
基板1は、電極と、さらにその上に形成される高分子発光媒体層などの層を支持し、高分子EL素子として完成後は素子の内部構造を湿気や紫外線から保護する役割を果たす。このような基板としては、ガラス、プラスチック、また上部光取り出し(トップエミッション)型の高分子EL素子で透明性が要求されない場合はアルミ等金属を用いることもできる。必要に応じて平滑化処理を行う。透明性、防湿性、耐薬品性、熱膨張性の観点からガラスが好ましい。プラスチックは可とう性に富むため折り曲げ可能な、いわゆるフレキシブルEL素子を製造する際に好ましいが、そのままでは防湿性に劣るため、別途防湿処理を施すことが必要となる。
【0030】
ホール注入電極2は、高分子発光媒体層4にホール(正孔)を供給する電極であり、仕事関数の高いものが好ましい。透明性も高いことから、ITO(インジウム錫オキサイド)が好ましく、例えば真空スパッタリングにより厚さ150nmで基板1上に形成される。
【0031】
ホール輸送層3は、高分子発光媒体層4の発光効率を高めるために設けられる。ホール輸送材料としては例えばポリ(3,4)−エチレンジオキシチオフェン等を選択でき、これらのホール輸送材料を水などの溶媒に溶解して、スピンコート法、あるいはパターニングを要する場合にはインキジェット法や、高分子発光媒体層と同様反転オフセット印刷法によりホール注入電極2を設けた基板1上に積層し、例えば130℃で90分間焼成して形成する。このとき、後から形成される高分子発光媒体層と混じりあうのを防止するため、高分子発光媒体層とホール輸送層は一方の材料が他方の溶媒に対して溶解しないよう溶媒を選択することが好ましい。
【0032】
高分子発光媒体層4は、本発明の高分子発光媒体インキを用いて、反転オフセット印刷法によりホール輸送層3上に通常厚み80〜100nm程度(乾燥時)で形成される。
反転オフセット印刷法の概略を図2に示す。まず、円筒状または円柱状の転写支持体101の外表面をシリコーンゴムなどの剥離容易な弾性材料で構成し、その外表面に均一な膜厚にインキ層102を付着させる。そして表面凹凸の凸版103を密着させ、前記凸部に密着した非画線部のインキ層102Bを選択的に凸版に転写させて転写体から除去する。次に、転写体を被印刷体104に密着して、画線部に既存するインキ層102Aを被印刷体に転写して印刷するという一連の印刷法である。
本発明の高分子発光媒体インキは微粒子を含むため、転写支持体上に形成されたインキ層を凸版により部分的に除去する際、転写支持体側に残留する画線部と、凸版側に転写される非画線部との分離がスムーズにおこなわれ、パターン精度が向上する。
反転オフセット印刷法により被印刷体104上に、例えばストライプ形状のパターン状に形成されたインキ層102Aは例えば90〜150℃程度で90分間加熱を行い、さらに必要に応じて真空加熱乾燥を行い、溶媒や、高分子等の不要な成分を除去することで高分子発光媒体層4(図1)とすることができる。
【0033】
有機発光媒体層4上に、電子注入層(図示せず)を形成することができる。電子注入層は、ナトリウムなどの仕事関数の小さな金属をマスク等を設けて真空成膜することでパターニングして設けることができる。
電子注入電極5は、高分子発光媒体層4に電子を供給する電極であり、仕事関数の低いものが好ましい。この際、低仕事関数の材料(バリウム、カルシウム)からなる層を10nm程度形成し、その上に下層の保護と電極との両方の機能を併せ持つ層として銀やアルミニウムの層を100nm程度形成することが好ましい。バリウムやカルシウムは仕事関数は低いが空気中の水分に弱いからである。
電子注入電極は、例えば真空蒸着法により高分子発光媒体層、あるいはその上に設けられた電子注入層等の層上に設けられる。
【0034】
封止板6は、基板1と同様素子の内部構造を湿気や紫外線から保護する役割を果たす。トップエミッション型や上面と下面の両方から視認可能な透明EL素子である場合には加えて透明性も要求される。材料としては基板1と同様の材料を好ましく用いることができる。支持体ではないため、耐湿性等の基本的な条件を確保できれば、基板1ほどの強度は必ずしも要求されない。例えばボトムエミッション型である場合にはアルミなどの金属箔を、透明性が必要な場合にはガラスを、必要に応じてホール注入電極や高分子発光媒体層等の下層の形状に合わせて凹部を設け、少なくとも基板1との境界面を密閉するように接着剤等(図示せず)で封止する。
封止の際、乾燥剤や吸湿剤をともに封入することができる。
【実施例1】
【0035】
高分子発光媒体インキを次のように調製した。高分子発光材料としてDaw社製Green材料を0.5重量%トルエン中に含有する溶液に、二酸化ケイ素(シリカゾル)を0.5重量%トルエン中に含有する分散液を添加・混合して無機透明微粒子が分散されている高分子発光媒体インキを調整した。なお、二酸化ケイ素粒子の平均粒径は20nmである。高分子発光材料トルエン溶液に添加する分散液の割合を調整し、高分子発光材料と微粒子の合計重量に対して無機透明微粒子が20重量%、40重量%、50重量%、60重量%となるようにした。このようにして得られた無機透明微粒子含有高分子発光媒体インキと、比較のために分散液を添加しなかった高分子発光材料トルエン溶液とを用いて、以下のように転写試験を行った。
【0036】
高分子発光媒体インキを転写支持体(タナック社製シリコーンブランケット)上に膜厚80nmで塗布し、インキ層を形成した。これに幅130μm、長さ3cmの凸部が500μm間隔で60本形成されたガラス製凸版の凸部を押し当て、インキ層と凸部を密着させた後凸版を引き離し、凸版へのインキ層の転移状態を評価した。結果を表1に記載する。なお、転写率とは、凸版の凸部と密着しているインキ層面積を100%とした場合、何%凸版側に転移したかを表す。
【0037】
【表1】

【0038】
高分子発光材料トルエン溶液のみ(無機透明微粒子添加率が0重量%)の場合では、パターンがつながってしまって凸版側に大きなかたまりとなって移行してしまった。しかし、無機透明微粒子の割合が増加するに従い転写率は向上し、60重量%以上の添加で凸部と密着した部分のインク層のみが凸版側に移行して転写率は100%となった。さらに無機透明微粒子の割合を増やすと90重量%を超えたところでインク層がぼそぼそになってパターンの角が欠損するなどパターン形状を保持できなくなった。
なお、添加した微粒子は透明であるため、高分子EL素子の発光に影響を与えることはなかった。
【実施例2】
【0039】
高分子発光媒体インキを次のように調製した。高分子発光材料としてDow社製Green材料を0.5重量%トルエン中に含有する溶液に、金微粒子を0.5重量%トルエン中に含有する分散液を添加・混合して金属微粒子が分散されている高分子発光媒体インキを調整した。なお、金微粒子の平均粒径は20nmである。高分子発光材料トルエン溶液に添加する分散液の割合を調整し、高分子発光材料と微粒子の合計重量に対して金微粒子が50重量%となるようにした金属微粒子含有高分子発光媒体インキを用いて実施例1と同様に転写試験を行ったところ、転写率は95%と良好であることが確かめられた。また、金属微粒子を添加した高分子発光媒体インキと、添加していない実施例1で調整した高分子発光媒体インキを用いて高分子EL素子を作成したところ、金属微粒子を添加していない高分子発光媒体インキを用いた高分子EL素子は1.0×10−1A/cmに達するのに7V必要であったのに対して金属微粒子を添加したインキを用いた高分子EL素子は5Vであった。これは導電性が向上したことから電流密度が増加したためであると考えられる。
【実施例3】
【0040】
高分子発光媒体インキを次のように調製した。高分子発光材料としてDow社製白色材料を0.5重量%トルエン中に含有する溶液に、緑色顔料であるフタロシアニン顔料を0.5重量%トルエン中に含有する分散液を添加・混合して顔料が分散されている高分子発光媒体インキを調整した。なお、フタロシアニン顔料の平均粒径は20nmである。高分子発光材料トルエン溶液に添加する分散液の割合を調整し、高分子発光材料と微粒子の合計重量に対して顔料が40、50、60重量%となるように調整した緑色顔料含有高分子発光媒体インキを用いて実施例1と同様に転写試験を行ったところ、転写率は表2に示すように推移した。
顔料を添加した場合でも、透明微粒子の場合と同様、50重量%以上から転写率が95%以上と精度が得られることがわかる。
【0041】
また、実施例3で調整した緑色顔料含有高分子発光媒体インキを用いて高分子EL素子を形成したところ、xyz表色系で示す色座標と輝度は表2に示すように推移した。
顔料の添加量が増加するにつれて、色座標は緑側に推移したが、輝度は減少していった。これは、顔料は可視光を吸収するため、全体的な明るさでみれば発光を妨げる方向に働くからである。現実的な輝度を考慮すると、全く顔料の添加をしていない際の輝度35000cd/mの10%の発光効率となる80重量%が上限となる。
【0042】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る高分子EL素子の一形態を示す断面図である。
【図2】本発明で用いられる反転オフセット印刷法を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 …基板
2 …ホール注入電極
3 …ホール輸送層
4 …高分子発光媒体層
5 …電子注入電極
6 …封止板
10…高分子EL素子
101 …転写支持体
102 …インキ層
102A…画線部のインキ層
102B…非画線部のインキ層
103 …凸版
104 …被印刷体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写支持体上に剥離容易にインキ層を備える転写体と、非画線部を凸部とし画線部を凹部とする凹凸表面を有する凸版とを、前記インキ層と凸部とが対面するように密着させて前記凸部に密着した非画線部のインキ層を選択的に凸版に転写させて転写体から除去し、次に、非画線部のインキ層が除去された転写体を非転写体に密着して、画線部に既存するインキ層を被印刷体に転写する反転オフセット印刷法に適用するインキであって、当該インキは微粒子と、微粒子の分散担体である高分子系発光材料を含有し、電圧の印加で発光可能な高分子発光媒体層を形成することができることを特徴とする反転オフセット印刷法用高分子発光媒体インキ。
【請求項2】
前記微粒子は可視光に対して透明であることを特徴とする請求項1記載の反転オフセット印刷法用高分子発光媒体インキ。
【請求項3】
前記微粒子は金属または金属化合物であることを特徴とする請求項1記載の反転オフセット印刷法用高分子発光媒体インキ。
【請求項4】
前記微粒子は顔料であることを特徴とする請求項1記載の反転オフセット印刷法用高分子発光媒体インキ。
【請求項5】
ホール注入電極と、電子注入電極と、この電極の間に挟持され、両電極間への電圧の印加で発光する高分子発光媒体層とを少なくとも具備する高分子エレクトロルミネッセンス素子において、前記高分子発光媒体層は請求項1乃至4記載の反転オフセット印刷法用高分子発光媒体インキで形成されていることを特徴とする高分子エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−286247(P2006−286247A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101311(P2005−101311)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】