説明

高分子配位子、アルミニウム錯体及びポリラクチドの製造方法

【課題】ラクチドの開環重合用触媒を合成する際の出発物質として有利に用いられ得ると共に、かかる開環重合用触媒を用いてラクチドを開環重合せしめた後、反応系内から容易に回収することが出来、その回収物の再利用が可能な高分子配位子を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される原子団が、メリフィールド樹脂又は塩素化ワング樹脂に固定化されてなる構造の高分子配位子を合成した。


(上記式中、R1 は、フェニル基又はt−ブチル基であり、R2 は、水素又はt− ブチル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子配位子、アルミニウム錯体及びポリラクチドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から、植物油や動物油、廃食用油等の様々な油脂を原料とするバイオディーゼル燃料が注目されており、特にヨーロッパにおいて盛んに製造されている。そのようなバイオディーゼル燃料を精製(合成)する際には、副生成物としてグリセリンが産生されることが知られているところ、バイオディーゼル燃料の生産量は世界的に年々、増加していることから、多量に副生するグリセリンの取り扱いが問題となっている。より具体的には、副生成物であるグリセリンには、一般にアルカリ等の種々の不純物が含まれていることから、一部はそのまま焼却処理等されるが、残りは所定の純度まで精製した後に市場へ供給されているため、市場へのグリセリンの供給過多が問題となっているのである。
【0003】
かかる問題を解決するための方策の一つとして、グリセリンについて新たな用途を開拓することが挙げられるが、グリセリンは、水熱反応せしめることによって、高い収率(約90%)にてDL−乳酸に転換することが知られている。
【0004】
一方、生分解性及び生体適合性の点において優れた特性を発揮する高分子として、近年、ポリ乳酸(ポリラクチド)が注目されており、かかるポリラクチドは、環境保全材料や生医学材料等として用いられるようになってきている。現在、利用されているポリラクチドは、L体のラクチド(L−ラクチド)を原料として合成されるが、近年、ポリラクチドのステレオコンプレックス(以下、適宜、ポリラクチドステレオコンプレックスという。)が、熱的安定性に優れている等の点から注目されている。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、ラクチドとは、2分子の乳酸が環化してなるもの(3,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン)を意味する。また、D−ラクチドとは2分子のD−乳酸が環化してなるものを、更に、L−ラクチドとは2分子のL−乳酸が環化してなるものを、加えて、ラセミ体ラクチド(DL−ラクチド)とは、D−ラクチドとL−ラクチドが等モルずつ混合したものを、それぞれ意味する。
【0005】
ここで、従来のポリラクチドステレオコンプレックスは、一般に、モノマー単位が、D−ラクチド単位のみであるポリ(D−ラクチド)と、L−ラクチド単位のみであるポリ(L−ラクチド)とからなるものであって、その製造方法は、それぞれ別途に合成したポリ(D−ラクチド)及びポリ(L−ラクチド)を、溶液中において又は溶融状態において混合せしめる方法が主流である。
【0006】
そのような状況の下、本発明者等の一人は、先に、特にラセミ体ラクチド(DL−ラクチド)の開環重合に有利に用いられ得る開環重合用触媒として、DL−ラクチドを立体選択的に重合せしめて、ステレオブロック構造を呈するポリラクチド分子からなるポリラクチドステレオコンプレックスを有利に製造することが出来るサレン型金属錯体を、特開2003−64174号公報(特許文献1)において提案している。
【0007】
しかしながら、かかる特許文献1において提案した開環重合用触媒は均一系触媒であるため、かかる開環重合用触媒が生成するポリマー中に混入し、触媒の配位子部分によってポリマーが着色するという問題を内在するものであった。このため、特許文献1に記載の開環重合用触媒を用いてラセミ体ラクチド(DL−ラクチド)を開環重合せしめた場合、生成したポリマー(ポリラクチドステレオコンプレックス)中から触媒を除去するためには別途、精製プロセスが必要であったのであり、製造コストの観点から実用性に乏しいという問題があったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−64174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、第一に、ラクチドの開環重合用触媒を合成する際の出発物質として有利に用いられ得ると共に、かかる開環重合用触媒を用いてラクチドを開環重合せしめた後、反応系内から容易に回収することが出来、その回収物の再利用が可能な高分子配位子を提供することにある。また、第二に、特にDL−ラクチドの開環重合において触媒前駆体又は触媒として用いた際に、ステレオブロック構造を呈するポリラクチド分子からなる結晶性のポリラクチドステレオコンプレックスを有利に製造することが出来るアルミニウム錯体を提供することにある。更に、第三に、そのようなアルミニウム錯体を用いたポリラクチドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、かかる課題を解決すべく、下記式(1)で表される原子団が、メリフィールド樹脂又は塩素化ワング樹脂に固定化されてなる高分子配位子を、その要旨とするものである。
【化1】

(上記式中、R1 は、フェニル基又はt−ブチル基であり、R2 は、水素又はt− ブチル基である。)
【0011】
また、本発明は、前記高分子配位子と、アルキル基の炭素数が1〜8であるトリアルキルアルミニウムとを反応せしめて得られる、下記式(2)で表されるアルミニウム錯体も、その要旨とするものである。
【化2】

(上記式中、R1 及びR2 は前記式(1)と同様であり、R3 は、炭素数が1〜8 のアルキル基であり、αは、メリフィールド樹脂又は塩素化ワング樹脂からなる 樹脂部である。)
【0012】
さらに、本発明は、上述のアルミニウム錯体と、ベンジルアルコールとを反応せしめて得られる、下記式(3)で表されるアルミニウム錯体をも、その要旨とするものである。
【化3】

(上記式中、R1 及びR2 は前記式(1)と同様である。αは前記式(2)と同様 である。)
【0013】
一方、本発明は、上述した式(2)で表されるアルミニウム錯体を触媒前駆体として用いて、ラクチドを重合せしめることを特徴とするポリラクチドの製造方法についても、その要旨とするものである。
【0014】
また、本発明は、上述した式(3)で表されるアルミニウム錯体を触媒として用いて、ラクチドを重合せしめることを特徴とするポリラクチドの製造方法についても、その要旨とするものである。
【0015】
なお、それら本発明に従うポリラクチドの製造方法においては、好ましくは、原料たるラクチドとしてDL−ラクチドが用いられる。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明に従う高分子配位子は、上記式(1)で表される如き特徴的な構造を呈する原子団(配位子)が、メリフィールド樹脂又は塩素化ワング樹脂に固定化されてなるものである。また、本発明に従うアルミニウム錯体は、a)上述した構造の高分子配位子と所定のトリアルキルアルミニウムとを反応せしめることによって得られる、上記式(2)で表されるアルミニウム錯体、及び、b)かかるアルミニウム錯体にベンジルアルコールを作用させて得られる、上記式(3)で表されるアルミニウム錯体である。そして、そのような本発明に従うアルミニウム錯体にあっては、例えば、触媒前駆体又は触媒として用いてDL−ラクチドを開環重合せしめると、上述の原子団(配位子)に由来する特徴的な錯体部分によって、DL−ラクチドの立体選択的重合が効果的に進行し、以て、ステレオブロック構造を呈するポリラクチド分子からなる結晶性のポリラクチドステレオコンプレックスが有利に得られるのである。
【0017】
また、本発明に係るアルミニウム錯体は、メリフィールド樹脂又は塩素化ワング樹脂に固定化された構造を呈するものであるところから、かかるアルミニウム錯体を触媒前駆体又は触媒として用いたポリラクチドの合成後には、上述した高分子配位子の形態にて、反応系内から容易に回収することが可能である。回収された高分子配位子は、洗浄、乾燥等した後に再利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例で合成した高分子配位子の製造スキーム中、前半部分を示す説明図である。
【図2】実施例で合成した一の高分子配位子の製造スキーム中、後半部分を示す説明図である。
【図3】実施例で合成した他の一の高分子配位子の製造スキーム中、後半部分を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ところで、本発明に係る高分子配位子は、下記式(1)で表される原子団が、メリフィールド樹脂(Merrifield resin)又は塩素化ワング樹脂(Chloro-Wang resin )に固定化された構造を呈するものである。下記式(1)において、R1 は、フェニル基又はt−ブチル基であり、R2 は、水素又はt−ブチル基である。
【化4】

【0020】
ここで、本発明の高分子配位子を構成するメリフィールド樹脂又は塩素化ワング樹脂は、何れも従来より公知のものであって、メリフィールド樹脂は下記式(4)にて、また塩素化ワング樹脂は下記式(5)にて、それぞれ表されるものである。即ち、本発明の高分子配位子は、下記式(4)で表されるメリフィールド樹脂[下記式(5)で表される塩素化ワング樹脂]中の少なくとも1以上の塩素原子に代えて、上記式(1)で表される原子団が配置せしめられた構造を呈しているのである。
【化5】

【化6】

【0021】
上記式(4)におけるβ1 は、スチレン−4−(クロロメチル)スチレン−ジビニルベンゼン共重合体部であり、上記式(5)におけるβ2 は、スチレン−4−[4−(クロロメチル)フェノキシメチル]スチレン−ジビニルベンゼン共重合体部である。なお、それら共重合体部は、一般に、モノマー単位としてのジビニルベンゼンの含有量が1モル%程度であり、また、β1 における4−(クロロメチル)スチレンの含有量、及びβ2 における4−[4−(クロロメチル)フェノキシメチル]スチレンの含有量は、各々、10モル%程度である。
【0022】
本発明に係る高分子配位子を製造するに際して、その製造方法は特に限定されるものではなく、従来より公知の方法を適宜、組み合わせることによって、合成することが可能である。
【0023】
例えば、出発原料として1,3−ジアミノ−2−プロパノール及びパラホルムアルデヒドを用いる場合には、以下の如きスキームに従って製造される。
(1)出発原料を反応させて5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンを合成す る。
(2)5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンに対して、炭酸カリウムの存在 下、二炭酸ジ−tert−ブチルを作用させて、1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニ ル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンを合成する。
(3)得られた1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−5−ヒドロキシ−1,3− ジアザシクロヘキサンを、メリフィールド樹脂又は塩素化ワング樹脂に固定化せし めて、高分子化合物とする。
(4)かかる高分子化合物を酸加水分解した後に、所定のアルデヒドを縮合せしめる。
【0024】
一方、本発明に係るアルミニウム錯体のうち、下記式(2)で表されるものは、上述の如くして合成された高分子配位子と、アルキル基の炭素数が1〜8であるトリアルキルアルミニウム[(Cn2n+13Al;n=1〜8の整数]とを反応せしめることによって合成される。下記式(2)において、R1 及びR2 は上述した式(1)と同様に、R1 はフェニル基又はt−ブチル基であり、R2 は水素又はt−ブチル基である。また、R3 は、炭素数が1〜8のアルキル基であり、αは、メリフィールド樹脂又は塩素化ワング樹脂からなる樹脂部である。
【化7】

【0025】
ここで、アルキル基の炭素数が1〜8であるトリアルキルアルミニウムとしては、アルミニウム原子に、炭素数が1〜8のアルキル基が3個結合してなるものであれば、如何なるものであっても用いることが可能である。そのようなトリアルキルアルミニウムとしては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムやトリ−n−ヘキシルアルミニウム等を例示することが出来るが、好ましくはトリエチルアルミニウムが用いられる。
【0026】
なお、上記式(2)で表されるアルミニウム錯体は、一般に、上述した高分子配位子及び所定のトリアルキルアルミニウムを、トルエン等の溶媒中に添加し、加熱条件下において撹拌等することによって合成することが可能である。
【0027】
さらに、本発明に係るアルミニウム錯体のうち、下記式(3)で表されるものは、上述した上記式(2)で表されるアルミニウム錯体のベンジルオキシドであって、上記式(2)で表されるアルミニウム錯体にベンジルアルコールを反応せしめることにより合成される。下記式(3)において、R1 及びR2 は上述した式(1)及び式(2)と同様に、R1 はフェニル基又はt−ブチル基であり、R2 は水素又はt−ブチル基である。また、αは上記式(2)と同様に、メリフィールド樹脂又は塩素化ワング樹脂からなる樹脂部である。
【化8】

【0028】
なお、上記式(3)で表されるアルミニウム錯体も、上記式(2)で表されるアルミニウム錯体及びベンジルアルコールを、トルエン等の溶媒中に添加し、加熱条件下において撹拌等することによって合成することが可能である。尤も、上記式(3)で表されるアルミニウム錯体がラクチドの開環重合用触媒として機能するためには、かかるアルミニウム錯体がラクチドの重合反応系内に存在していれば十分である。従って、例えば、トルエン等の溶媒に、上記式(2)で表されるアルミニウム錯体、ベンジルアルコール、及びモノマーたるラクチドを配合してなる混合物を調製し、この溶液を加熱撹拌等することによっても、本発明の効果を有利に享受することが可能である。
【0029】
上述してきた2種類のアルミニウム錯体のうち、上記式(2)で表されるアルミニウム錯体は触媒前躯体として、上記式(3)で表されるアルミニウム錯体は触媒として、それぞれ用いて、ラクチドを重合せしめることにより、ポリラクチドを有利に製造することが可能である。
【0030】
それらアルミニウム錯体を用いて開環重合せしめられるラクチドは、D−ラクチド、L−ラクチド又はDL−ラクチドの何れであっても構わないが、特に有利にはDL−ラクチドである。
【0031】
本発明のアルミニウム錯体を用いてラクチドを重合せしめるに際して、その重合方法については特に制限はなく、例えば、溶液重合法、スラリー重合法、塊状重合法等の何れの方法をも採用することが可能である。また、重合に際して溶媒を用いる場合、ラクチドの重合反応を阻害しないものであれば、如何なるものであっても用いることが可能である。そのような溶媒としては、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒を例示することが出来、それらの中でも、トルエンが好適に用いられ得る。
【0032】
また、本発明に係るポリラクチドの製造方法を実施する際の温度(反応温度)や反応時間等は、用いられるアルミニウム錯体やラクチドの使用量等に応じて、適宜に決定される。
【0033】
そして、そのような本発明のポリラクチドの製造方法に従って、例えば、DL−ラクチドを重合せしめると、下記式(6)で表されるような、ステレオブロック構造を呈するポリラクチド分子からなる結晶性のポリラクチドステレオコンプレックスが有利に得られるのである。なお、下記式(6)において、l、m及びnは、それぞれ独立した正の整数である。
【化9】

【0034】
また、本発明の高分子配位子は、所定の原子団(配位子)がメリフィールド樹脂又は塩素化ワング樹脂に固定化された構造を呈するものであるところから、かかる高分子配位子から得られるアルミニウム錯体を用いてラクチドを重合せしめると、重合反応後に、例えば反応液をろ過等することによって、高分子配位子の形態にて容易に回収され得るのであり、その回収された高分子配位子は、再度の使用が可能である。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には、上述の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。なお、以下の実施例の記載においては複数枚の図面を適宜に参酌しており、それら図面及び本明細書中には本発明に係る高分子配位子等の化学式を示しているが、それらの化学式においては、本発明の理解をより容易にすべく、メリフィールド樹脂(Merrifield resin)は上記式(4)にて表しており、塩素化ワング樹脂(Chloro-Wang resin )は上記式(5)にて表している。
【0036】
先ず、以下に示す手順に従って、高分子配位子1a〜1cを合成した。
【0037】
〈5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンの合成〉
図1に示す合成スキームの前半部分に従って行なった。撹拌子を入れたナスフラスコに、1,3−ジアミノ−2−プロパノール:958mg(10.6mmol)と、パラホルムアルデヒド:305mg(10.2mmol)を入れ、フラスコ内を窒素置換した後、特級メタノール:20mLを加えて70℃までに加熱し、1時間撹拌した。その後、減圧下で濃縮し、アセトニトリル:80mLを加えて沸点近くまで加熱して、粗生成物を溶解させた後、0℃まで冷却することにより、5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンの結晶を得た。なお、生成物は 1H−NMRで確認し、収量は906mg、収率は87%であった。
【0038】
〈5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンのBoc保護 〉
図1に示す合成スキームの後半部分に従って行なった。撹拌子を入れた100mL容ナスフラスコに、5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサン:906mg(8.87mmol)と、炭酸カリウム:3.68g(26.6mmol)を入れた後、脱イオン水:20mLを加えて撹拌し、水溶液とした。一方、撹拌子を入れた30mL容ナスフラスコに、二炭酸ジ−tert−ブチル:4.10mL(17.9mmol)と、テトラヒドロフラン(THF):4mLを加えて撹拌し、この溶液を、0℃に冷却した5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサン水溶液にピペットを用いて滴下した。30mL容ナスフラスコとピペットを、1回当たり1mLのTHFを用いて3回洗浄し、その洗浄液も反応溶液に加えた後、反応溶液を室温に戻し、6時間激しく撹拌した。粗生成物をエーテル:25mLで抽出し、得られた有機層に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した後、減圧下で濃縮することにより、1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンを得た。なお、生成物は 1H−NMRで確認し、収量は2.62g、収率は98%であった。
【0039】
以上のようにして得られた1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンを、メリフィールド樹脂又は塩素化ワング樹脂に固定化せしめ、その後に酸加水分解し、更にアルデヒドを縮合せしめることにより、目的とする高分子配位子1a〜1cを合成した。1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンから高分子配位子1a、1bに至るまでの合成スキームを図2に、また、1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンから高分子配位子1cに至るまでの合成スキームを図3に、それぞれ示す。
【0040】
−高分子配位子1a、1bの合成−
撹拌子を入れて真空加熱乾燥したフラスコに、メリフィールド樹脂(クロロメチル基の導入量:1.1mmol/g):910mg(1.0mmol)を入れて、フラスコ内を窒素置換した。一方、撹拌子を入れて真空加熱乾燥した別のフラスコに、1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサン:938mg(3.10mmol)と、60%NaH:121mg(3.04mmol)とを入れて、フラスコ内を窒素置換をした後、0℃に冷却して、THF:4.0mLと1,3−ジメチルイミダゾリジノン(DMI):2.0mLを加えた。室温に戻して30分以上撹拌した後、この溶液を、先に用意したフラスコ内のメリフィールド樹脂に、キャニュラーを用いて加えた。フラスコとキャニュラーをDMI:0.5mLとTHF:1.0mLで洗浄し、この洗浄液も樹脂に加えた。反応液を、室温で18時間以上撹拌した後、これに脱イオン水:5mLを加えることでカップリング反応を停止させ、1回当たり5mLのTHFを用いて3回、1回当たり5mLのエタノールを用いて2回、1回当たり5mLの水を用いて3回、1回当たり5mLのエタノールを用いて2回、1回当たり5mLのTHFを用いて3回、1回当たり5mLのジクロロメタンを用いて3回、この順に従って、反応物たる高分子化合物[1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンがメリフィールド樹脂に固定化されてなる高分子化合物]を洗浄した後、一晩真空乾燥した。得られた高分子化合物の収量は1.11gであり、これより算出された反応率は76%であった。一方、反応物たる高分子化合物を洗浄した際の洗浄液を濃縮した後、エーテル:25mLで抽出し、水:20mLで洗浄した。有機層に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥し、減圧下で濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1→1:2)で精製し、未反応の1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンを回収したところ、回収量は702mg(2.32mmol)であり、かかる回収量から算出された反応率は78%であった。
【0041】
得られた高分子化合物について、上記カップリング反応を再度行なった。かかる反応の後に回収された高分子化合物Aの質量、及び未反応の1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンの量から、二度のカップリング反応によって最終的に得られた高分子化合物A(図2参照)については、1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンの導入率が96%(0.82mmol/g)であると算出された。
【0042】
以下、最終的に高分子配位子1a、1bが合成されるまでの各反応は、特記しない限り、室温・空気雰囲気下で行なった。また、溶媒の除去は、全てパスツールピペットによって行なった。
【0043】
撹拌子を入れたナスフラスコに、高分子化合物A:498mg(0.41mmol、白色)、パラトルエンスルホン酸一水和物(TsOH・H2O ):322mg(1.69mmol)、及びTHF:4.0mLを入れ、60℃で2時間、加熱撹拌した。その後、溶媒を除去し、再度、パラトルエンスルホン酸一水和物:318mg(1.67mmol)及びTHF:4.0mLを加え、2時間、加熱撹拌した。溶媒を除去した後、反応物を、1回当たり4mLのジクロロメタンを用いて3回、1回当たり4mLのTHFを用いて3回、1回当たり4mLのジクロロメタンを用いて3回、この順に従って洗浄した。かかる洗浄の後、トリフルオロ酢酸:ジクロロメタン=1:1溶液の4mLを加えて、室温で10分、撹拌した。その後、溶媒を除去し、1回当たり4mLのジクロロメタンを用いて3回洗浄することにより、高分子化合物B(図2参照)を得た。
【0044】
そのようにして得られた高分子化合物Bに、ジクロロメタン:3.0mLと、N,N−ジイソプロピルエチルアミン:0.29mL(1.66mmol)を加えて、5分撹拌した。溶媒を除去した後、ジクロロメタン:5.0mLと、N,N−ジイソプロピルエチルアミン:0.29mL(1.66mmol)を加えて、10分撹拌した。その後、溶媒を除去し、3−フェニル−2−ヒドロキシベンズアルデヒド:240mg(1.21mmol)と、オルト蟻酸トリメチル:2.0mLとを加えて、40℃で12時間以上、撹拌した。溶媒を別のナスフラスコに回収した後、反応物を、1回当たり4mLのジクロロメタンを用いて3回、1回当たり4mLのエタノールを用いて2回、1回当たり4mLのジクロロメタンを用いて3回、洗浄する一方、その洗浄液を回収した溶媒に加えた。反応物をろ過によって回収し、一晩真空乾燥した。尚、反応物の収量は495mgであり、黄色を呈するものであった。
【0045】
反応物は黄色を呈しており、また、かかる反応物のIRスペクトルにおいて、C=N二重結合の伸縮振動に由来する吸収ピークが、新規に、1632cm-1にて観測されたことから、得られた反応物は、高分子配位子1a(図2参照)であることが確認された。高分子化合物A中の1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−1,3−ジアザシクロヘキシル−5−ヒドロキシル部位が、全て、N,N’−ビス(3−フェニルサリチリデン)−1,3−プロパンジアミノ−2−ヒドロキシル基に変換されたとして、高分子配位子1aへの配位子の導入率(高分子配位子1aにおける配位子の含有率)を算出したところ、0.73mmol/gであった。
【0046】
一方、3−フェニル−2−ヒドロキシベンズアルデヒドに代えて、3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシベンズアルデヒド:282mg(1.20mmol)を用いて、上記と同様の手順に従って高分子配位子1bを合成した。高分子配位子1bへの配位子の導入率(高分子配位子1bにおける配位子の含有率)を算出したところ、0.70mmol/gであった。
【0047】
−高分子配位子1cの合成−
撹拌子を入れて真空加熱乾燥したフラスコに、塩素化ワング樹脂(4−ベンジロキシベンジルクロリド, ポリマーバウンド, パラクロロメチルフェニル基の導入率:1.27mmol/g):390mg(0.495mmol)を入れて、フラスコ内を窒素置換した。一方、撹拌子を入れて真空加熱乾燥した別のフラスコに、1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサン:303mg(1.00mmol)と、60%NaH:43mg(1.07mmol)とを入れて、フラスコ内を窒素置換した後、0℃に冷却して、THF:2.0mLとDMI:1.0mLを加えた。室温に戻して30分以上撹拌した後、この溶液を、先に用意したフラスコ内の塩素化ワング樹脂に、キャニュラーを用いて加えた。フラスコとキャニュラーを、DMI:0.5mLとTHF:1.0mLで洗浄し、この洗浄液も樹脂に加えた。反応液を、室温で21時間撹拌した後、これに脱イオン水:5mLを加えることで反応を停止させ、1回当たり5mLのTHFを用いて3回、1回当たり5mLのエタノールを用いて2回、1回当たり5mLの水を用いて3回、1回当たり5mLのエタノールを用いて2回、1回当たり5mLのTHFを用いて3回、1回当たり5mLのジクロロメタンを用いて3回、この順に従って反応物たる高分子化合物C[1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンが、塩素化ワング樹脂に固定化されてなる高分子化合物。図3参照。]を洗浄した後、一晩真空乾燥した。得られた高分子化合物Cの収量は493mgであり、これより算出された反応率は76%であった。一方、反応物たる高分子化合物Cの洗浄液を濃縮した後、エーテル:25mLで抽出し、水:20mLで洗浄した。有機層に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥し、減圧下で濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1→1:2)で精製し、未反応の1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−5−ヒドロキシ−1、3−ジアザシクロヘキサンを回収したところ、回収量は195mg(0.644mmol)であった。かかる回収量から算出された、1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンの塩素化ワング樹脂への導入率は、72%(1.02mmol/g)であった。
【0048】
以下、最終的に高分子配位子1cが合成されるまでの各反応は、特記しない限り、室温・空気雰囲気下で行なった。また、溶媒の除去は、全てパスツールピペットによって行なった。
【0049】
撹拌子を入れたナスフラスコに、高分子化合物C:1.94mg(0.198mmol、白色)、パラトルエンスルホン酸一水和物(TsOH・H2O ):154mg(0.811mmol)、及びTHF:2.0mLを入れ、60℃で2時間、加熱撹拌した。その後、溶媒を除去し、再度、パラトルエンスルホン酸一水和物:154mg(0.811mmol)及びTHF:2.0mLを加え、2時間、加熱撹拌した。溶媒を除去した後、反応物たる高分子化合物D(図3参照)を、1回当たり4mLのTHFを用いて3回、1回当たり4mLのジクロロメタンを用いて3回、この順に従って洗浄した。
【0050】
そのようにして得られた高分子化合物Dに、ジクロロメタン:3.0mLと、N,N−ジイソプロピルエチルアミン:0.140mL(0.804mmol)を加えて、10分撹拌した。溶媒を除去した後、ジクロロメタン:5.0mLと、N,N−ジイソプロピルエチルアミン:0.140mL(0.804mmol)を加えて、10分撹拌した。その後、反応物をろ過によって回収し、一晩、真空乾燥した。かかる乾燥後の反応物についてのIRスペクトル測定により、tert−ブトキシカルボニル基のC=O二重結合の伸縮振動に由来する吸収ピーク(1700cm-1)が消失したことを確認した。
【0051】
乾燥後の反応物(白色):118mgに、3−フェニル−2−ヒドロキシベンズアルデヒド:141mg(0.602mmol)と、オルト蟻酸トリメチル:2.0mLとを加えて、40℃で24時間、撹拌することにより反応させた。溶媒を別のフラスコに回収した後、その反応物を、1回当たり4mLのジクロロメタンを用いて3回、洗浄する一方、その洗浄液を回収した溶媒に加えた。反応物をろ過によって回収し、一晩真空乾燥した。尚、反応物の収量は120mgであり、黄色を呈するものであった。
【0052】
反応物は黄色を呈しており、また、かかる反応物のIRスペクトルにおいて、C=N二重結合の伸縮振動に由来する吸収ピークが、新規に、1630cm-1にて観測されたことから、得られた反応物は、高分子配位子1c(図3参照)であることが確認された。高分子化合物C中の1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−1,3−ジアザシクロヘキシル−5−ヒドロキシル部位が、全て、N,N’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチルサリチリデン)−1,3−プロパンジアミノ−2−ヒドロキシル基に変換されたとして、高分子配位子1cへの配位子の導入率(高分子配位子1cにおける配位子の含有率)を算出したところ、0.83mmol/gであった。
【0053】
以上のようにして得られた高分子配位子1a〜1cからアルミニウム錯体2a〜2cを合成した後、かかるアルミニウム錯体2a〜2cを用いて、DL−ラクチドを原料とするポリラクチドの合成を行なった(合成例1〜4)。
【0054】
ここで、以下の各合成例において、精製後に得られたポリラクチドの各特性は、それぞれ以下の手法に従って測定等されたものである。具体的に、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、サイズ排除クロマトグラフィー(ポリスチレン換算、溶出液:クロロホルム)の結果から算出されたものである。また、融点:Tm(℃)は、示差走査熱量測定より得られたものである。更に、ポリラクチドの立体選択性の指標であるPmesoは、13C−NMR測定(100MHz)にて測定された、69.15ppmにおけるピーク面積:aと、68.98ppmにおけるピーク面積:bとを用いて、以下の式から算出されるものである。なお、Pmesoの値が1に近い程、立体選択性に優れていることを意味する。
meso=1−[2a/(a+b)]
【0055】
〈合成例1〉
撹拌子を入れたすり付き試験管を減圧下で加熱乾燥した後、高分子配位子1a:28mg(0.020mmol)を入れて、試験管内を窒素置換した。次いで、精製トルエン:0.20mLと、トリエチルアルミニウム(Et3Al )のトルエン溶液(濃度:0.10M):0.20mL(Et3Al 含有量:0.020mmol)を加え、試験管内を70℃で15時間、撹拌することにより、下記式(7)で表されるアルミニウム錯体2aを合成した。なお、下記式(7)において、β1 は上記式(4)と同様である。
【化10】

【0056】
一方、撹拌子を入れた別のすり付き試験管を減圧下で加熱乾燥した後、DL−ラクチド(ラセミラクチド。以下単にラクチドともいう。):144mg(1.00mmol)を入れて、試験管内を窒素置換した。精製トルエン:2.4mLと、ベンジルアルコール(BnOH)のトルエン溶液(濃度:0.10M):0.20mL(BnOHの含有量:0.020mmol)を加え、試験管内を80℃で加熱撹拌して、DL−ラクチドを溶解させた。このトルエン溶液を、先に調製したアルミニウム錯体2aのトルエン溶液に加え、70℃で7時間、加熱撹拌した。その後、反応溶液を室温にした後、空気下で1%メタノール/トルエン溶液:5mLを加えて30分撹拌し、その後のろ過により、高分子配位子1aを回収した。ろ液中のポリラクチドを、再沈殿操作(良溶媒:トルエン、貧溶媒:メタノール)によって精製した。
【0057】
精製後のポリラクチドのMnは9200であり、Mw/Mnは1.5であり、Tmは150℃であった。また、Pmesoは0.74であったことから、得られたポリラクチドが比較的良好なポリラクチドステレオコンプレックスであることが、確認された。
【0058】
〈合成例2−1〉
本発明に係る高分子配位子の再利用性を確認すべく、以下の操作を行なった。先ず、高分子配位子1aの使用量を25mg(0.018mmol)とすると共に、かかる高分子配位子1aの使用量に応じて、トリエチルアルミニウム、DL−ラクチド及びベンジルアルコールの使用割合が、合成例1における使用割合[高分子配位子1a:Et3Al :BnOH:ラクチド=1:1:1:50(モル比)]と同一になるように、各成分の使用量を決定した。そして、各成分の使用量を変更した以外は合成例1と同様の条件及び手法に従って、ポリラクチドを合成した(合成例2−1)。なお、以下の各合成例においても、合成例1における使用割合と同一となるように、高分子配位子の使用量に応じて、その他の成分の使用量を適宜、決定している。得られたポリラクチドの各特性、及び合成後に回収された高分子配位子1aの量を、下記表1に示す。
【0059】
〈合成例2−2〉
上述の合成例2−1において回収された高分子配位子1aについて、その一部(47mg)を用いてポリラクチドを合成した(合成例2−2)。なお、DL−ラクチドのトルエン溶液を、アルミニウム錯体のトルエン溶液に添加した後の加熱撹拌時間(以下、反応時間と言う)は9時間とした。得られたポリラクチドの各特性、及び合成後に回収された高分子配位子1aの量を、下記表1に示す。
【0060】
〈合成例3−1〉
高分子配位子1bの30mgを用いて、ポリラクチドを合成した(合成例3−1)。反応時間は21時間とした。得られたポリラクチドの各特性、及び合成後に回収された高分子配位子1bの量を、下記表1に示す。なお、本合成例において、高分子配位子1bとトリエチルアルミニウムとの反応によって生ずるアルミニウム錯体2bは、下記式(8)で表されるものである。下記式(8)において、β1 は上記式(4)と同様である。
【化11】

【0061】
〈合成例3−2〉
上述の合成例3−1において回収された高分子配位子1bについて、その一部(45mg)を用いてポリラクチドを合成した(合成例3−2)。反応時間は、合成例3−1と同様に21時間とした。得られたポリラクチドの各特性、及び合成後に回収された高分子配位子1bの量を、下記表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
かかる表1の結果からも明らかなように、本発明の高分子配位子にあっては、ラクチドの合成後に回収されたものであっても、それを出発物質とする開環重合用触媒が優れた触媒能を発揮し得ることが、確認されたのである。なお、高分子配位子1a及び1bの何れにおいても、回収後の質量が増加しているが、これは、高分子配位子の樹脂部に残存する水酸基からポリマーが伸長したものと考えられる。
【0064】
〈合成例4〉
撹拌子を入れたすり付き試験管を減圧下で加熱乾燥した後、高分子配位子1c:23mg(0.019mmol)を入れて、試験管内を窒素置換した。次いで、トリエチルアルミニウム(Et3Al )のトルエン溶液(濃度:0.10M):0.40mL(Et3Al 含有量:0.040mmol)を加え、試験管内を70℃で12時間、撹拌することにより、下記式(9)で表されるアルミニウム錯体2cを合成した。なお、下記式(9)において、β2 は上記式(5)と同様である。室温に戻した後、窒素下でシリンジを用いて溶媒を除去した。
【化12】

【0065】
一方、撹拌子を入れた別のすり付き試験管を減圧下で加熱乾燥した後、DL−ラクチド:145mg(1.01mmol)を入れて、試験管内を窒素置換した。精製トルエン:1.8mLと、ベンジルアルコール(BnOH)のトルエン溶液(濃度:0.10M):0.20mL(BnOHの含有量:0.020mmol)を加え、試験管内を80℃で加熱撹拌して、DL−ラクチドを溶解させた。このトルエン溶液を、先に調製したアルミニウム錯体2cに加え、70℃で23時間、加熱撹拌した。その後、反応溶液を室温にした後、空気下で1%メタノール/トルエン溶液:5mLを加えて30分以上、撹拌し、その後のろ過により、高分子配位子1cを回収した。ろ液中のポリラクチドを、再沈殿操作(良溶媒:トルエン、貧溶媒:メタノール)によって精製した。
【0066】
精製後のポリラクチドについて、Mnは9400であり、Mw/Mnは1.2であり、Tmは152℃であった。また、Pmesoは0.68であった。合成例3−1と比較して、多少、立体選択性の低下が認められたが、これは、高分子配位子1bと1cとの間における、1,3−ジ(tert−ブトキシカルボニル)−5−ヒドロキシ−1,3−ジアザシクロヘキサンの導入率の差が影響しているものと、考えられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される原子団が、メリフィールド樹脂又は塩素化ワング樹脂に固定化されてなる高分子配位子。
【化1】

(上記式中、R1 は、フェニル基又はt−ブチル基であり、R2 は、水素又はt− ブチル基である。)
【請求項2】
請求項1に記載の高分子配位子と、アルキル基の炭素数が1〜8であるトリアルキルアルミニウムとを反応せしめて得られる、下記式(2)で表されるアルミニウム錯体。
【化2】

(上記式中、R1 及びR2 は前記式(1)と同様であり、R3 は、炭素数が1〜8 のアルキル基であり、αは、メリフィールド樹脂又は塩素化ワング樹脂からなる 樹脂部である。)
【請求項3】
請求項2に記載のアルミニウム錯体と、ベンジルアルコールとを反応せしめて得られる、下記式(3)で表されるアルミニウム錯体。
【化3】

(上記式中、R1 及びR2 は前記式(1)と同様であり、αは前記式(2)と同様 である。)
【請求項4】
請求項2に記載のアルミニウム錯体を触媒前駆体として用いて、ラクチドを重合せしめることを特徴とするポリラクチドの製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載のアルミニウム錯体を触媒として用いて、ラクチドを重合せしめることを特徴とするポリラクチドの製造方法。
【請求項6】
前記ラクチドがDL−ラクチドである請求項4又は請求項5に記載のポリラクチドの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−260969(P2010−260969A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113273(P2009−113273)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】