説明

高分子電解質エマルションの製造方法、および高分子電解質エマルション

【課題】燃料電池用部材であるイオン伝導膜あるいは電極用バインダーとして用いた場合に、高い発電特性を発現することのできる高分子電解質エマルションを提供する。
【解決手段】[1]高分子電解質粒子が分散媒中に分散した高分子電解質分散液を分離膜で膜処理する高分子電解質エマルションの製造方法。
[2]上記膜処理が、透析膜を用いた膜処理である[1]に記載の製造方法。
[3]上記いずれかの方法を用いて製造する高分子電解質エマルション。
[4][3]を用いてなる、固体高分子型燃料電池用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質分散液の膜分離を用いた処理方法に関する。さらには、当該処理方法にて得られる、発電性能に優れる燃料電池を与える高分子電解質エマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スルホン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基などの、親水性基を有する重合体は高分子固体電解質を含む高分子電解質エマルションは、燃料電池の部材である、プロトン伝導膜、あるいは白金担持カーボンなどと複合されて触媒層を形成するためのバインダーとして利用されている。例えば、燃料電池に適用する高分子電解質としては、Dupont社製のNafion(登録商標)、旭化成製のAciplex(登録商標)、旭硝子製のFlemion(登録商標)などが市販されている。これらは、いわゆるフッ素系高分子電解質であり、高分子電解質エマルションとしたとき、分散安定性は比較的良好であるという利点がある。その反面、環境への配慮や低コスト化の観点からは、分子内にフッ素原子をほとんど有さない、非フッ素系高分子電解質と呼ばれる高分子電解質、より好ましくは炭化水素系高分子電解質からなる高分子電解質エマルションが切望されていた。
【0003】
このような高分子電解質エマルションとして、例えば、特許文献1にはポリオルガノシロキサンを含有することにより耐水性、成膜性の改善された水系分散体を提供することが開示されている。また、特許文献2には、直接メタノール型燃料電池の燃料クロスオーバーを少なくするために表面にイオン性基を有する炭化水素系の微粒子を含む分散体が開示されている。
しかしながら、特許文献1あるいは特許文献2に開示されている高分子電解質エマルションは、高分子電解質粒子の分散安定性が良好でないことから、乳化剤の添加を必要とするものであった。
【特許文献1】特開2005−132996号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2004−319353号公報(実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に開示されている高分子電解質エマルションを用いて、高分子電解質膜を製造すると、該膜には乳化剤が残存しやすく、かかる乳化剤の残存に起因する特性低下が懸念されていた。本発明者らが詳細に検討したところ、このような高分子電解質エマルションを燃料電池用電極に適用すると、乳化剤の存在によって発電性能低下が生じることが判明した。
そこで、本発明の目的は、燃料電池用部材であるイオン伝導膜あるいは電極用バインダーとして用いた場合に、高い発電特性を発現することのできる高分子電解質エマルションの製造方法、ならびに高分子電解質エマルションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、
[1]高分子電解質粒子が分散媒中に分散してなる高分子電解質分散液を分離膜で膜分離することを特徴とする高分子電解質エマルションの製造方法
を提供するものである。
【0006】
さらに、上記[1]に係る、好適な実施態様として、下記[2]〜[6]を提供する。
[2]上記分離膜が透析膜または限外濾過膜である、[1]の製造方法
[3]上記膜処理が透析膜である、[1]の製造方法
[4]上記高分子電解質粒子に含まれる高分子電解質が、その元素組成におけるフッ素原子の含有量が15重量%以下の高分子電解質である、[1]〜[3]のいずれかの製造方法
[5]上記高分子電解質分散液が、下記の(1)および(2)の工程を経て得られる分散液である、[1]〜[4]のいずれかの製造方法
(1)高分子電解質を、該高分子電解質の良溶媒を含む溶媒に溶解せしめて、高分子電解質溶液を調製する調製工程
(2)(1)で得られた高分子電解質溶液と、該高分子電解質の貧溶媒とを混合する混合工程
[6]上記高分子電解質の良溶媒が、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドからなる群から選ばれる非プロトン性極性溶媒であることを特徴とする、[5]の製造方法
【0007】
また、本発明は、上記いずれかの製造方法に係る下記[7]〜[9]を提供する。
[7][1]〜[6]のいずれかの製造方法を用いて製造される高分子電解質エマルション
[8]高分子電解質エマルションを構成する高分子電解質の良溶媒の含有量が、200ppm以下であることを特徴とする、[7]の高分子電解質エマルション
[9]動的光散乱法により求められる体積平均粒径が100nm〜200μmである、[7]または[8]の高分子電解質エマルション
【0008】
上記の高分子電解質エマルションは、固体高分子型燃料電池を構成する部材を製造する上で好適であり、下記[10]〜[12]を提供する。
[10][7]〜[9]の高分子電解質エマルションからなる固体高分子型燃料電池用電極
[11][10]の固体高分子型燃料電池用電極を含むことを特徴とする膜電極接合体
[12][11]の膜電極接合体を含むことを特徴とする固体高分子型燃料電池燃料電池
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発電特性に優れる燃料電池を与える電極に好適な高分子電解質エマルションを容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について順次説明する。
<高分子電解質分散液の調製>
本発明は、燃料電池、とりわけ燃料電池電極用バインダーに好適に用いることができる、高分子電解質エマルションの製造方法に関して、分離膜による膜分離を行うことを特徴とする。膜分離を行う対象となる、高分子電解質粒子が分散媒中に分散してなる高分子電解質分散液を調製する方法は特に限定されるものではないが、好適な実施態様としては、下記の(1)および(2)での工程を経て得られる分散液が好ましい。
(1)高分子電解質を、該高分子電解質の良溶媒を含む溶媒に溶解せしめて、高分子電解質溶液を調製する調製工程
(2)(1)で得られた高分子電解質溶液と、該高分子電解質の貧溶媒とを混合する混合工程
上記(2)混合工程においては、高分子電解質溶液を、該高分子電解質の貧溶媒に投入・攪拌することにより、該貧溶媒中に高分子電解質を粒子状に析出せしめ、分散液を調製する工程であると好ましい。
なお、該高分子電解質粒子とは、高分子電解質を含有してなる粒子を意味し、高分子電解質からなる粒子、後述するように添加剤を使用する場合は、高分子電解質と添加剤とを含有する粒子を包含するものである。
ここで、「良溶媒」および「貧溶媒」の定義は、「良溶媒」と「貧溶媒」の定義は、25℃における溶媒100gに溶解し得る高分子電解質の重量で規定されるものであり、良溶媒とは、0.1g以上の高分子電解質が可溶な溶媒であり、貧溶媒とは、高分子電解質が0.05g以下しか溶解し得ない溶媒である。これらの溶媒は適用する高分子電解質によって、その溶解度を勘案して選択することができる。
該分散液を製造するための良溶媒および貧溶媒の使用量も、使用する高分子電解質を粒子状に析出できる範囲で適宜最適化できるが、好適には(1)調整工程における高分子電解質溶液の高分子電解質の濃度は、0.1〜10重量%であると、より好ましく、0.5〜5重量%の範囲であると、さらに好ましい。また、(2)混合工程においては、混合する高分子電解質溶液の重量部に対して、使用する貧溶媒が4〜99重量倍であると好ましく、6〜99重量倍であると、さらに好ましく、9〜99重量倍であると、より好ましい。高分子電解質溶液の高分子電解質の濃度および貧溶媒の使用量が、上記の範囲であると、より高分子電解質分散液を得やすいという利点がある。
【0011】
上記高分子電解質溶液を調整する良溶媒としては、上述のように、使用する高分子電解質に対する溶解度を勘案して選択できるものであるが、好ましくは、N,Nジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル―2―ピロリドンが挙げられ、これらを2種以上混合して用いてもよい。これらは、後述する好適な高分子電解質である、炭化水素系高分子電解質に対して、溶解度が比較的高いという利点がある。
【0012】
貧溶媒も、同様に溶解度を勘案して選択できる。かかる貧溶媒としては、水、メタノールやエタノールなどのアルコール系溶媒、ヘキサンやトルエンなどの非極性有機溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、塩化メチレン、酢酸エチルなどの極性有機溶媒、もしくはこれらの混合物が用いられる。しかしながら、工業的に使用した場合の環境負荷低減の観点から、水もしくは水を主成分とした溶媒が好ましく用いられる。
【0013】
<高分子電解質>
本発明に使用される高分子電解質は、例えば、スルホン酸基(−SO3H)、カルボキシル基(−COOH)、ホスホン酸基(−PO(OH)2)、ホスフィン酸基(−POH(OH))、スルホンイミド基(−SO2NHSO2−)、フェノール性水酸基(−Ph(OH)(Phはフェニル基を表す))などの陽イオン交換基を有するものである。あるいは第1級ないし第3級アミン基などの陰イオン交換基を有するものである。中でもスルホン酸基またはホスホン酸基を有する高分子電解質がより好ましく、スルホン酸基を有する高分子電解質がさらに好ましい。
【0014】
かかる高分子電解質の代表例としては、例えば(A)主鎖が脂肪族炭化水素からなる高分子にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入した高分子電解質;(B)主鎖が芳香環を有する高分子にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入した高分子電解質;(C)主鎖に実質的に炭素原子を含まないポリシロキサン、ポリフォスファゼンなどの高分子にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入した高分子電解質;(D)(A)〜(C)のスルホン酸基および/またはホスホン酸基導入前の高分子を構成する繰り返し単位から選ばれるいずれか2種以上の繰り返し単位からなる共重合体にスルホン酸基および/またはホスホン酸基を導入した高分子電解質;(E)主鎖あるいは側鎖に塩基性を有する窒素原子を含み、硫酸やリン酸等の酸性化合物をイオン結合により導入した高分子電解質などが挙げられる。
【0015】
上記(A)の高分子電解質としては、例えば、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ(α−メチルスチレン)スルホン酸、などが挙げられる。
【0016】
上記(B)の高分子電解質としては、芳香環が直接あるいは2価の基によって連結されて主鎖を形成する高分子であり、かつイオン交換基を有するものである。ここで、2価の基としては、オキシ基、チオキシ基、カルボニル基、スルホニル基等が例示される。かかる高分子電解質としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(アリーレン・エーテル)、ポリイミド、ポリ((4-フェノキシベンゾイル)-1,4-フェニレン)、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルキノキサレン等の単独重合体のそれぞれにスルホン酸基が導入されたもの、スルホアリール化ポリベンズイミダゾール、スルホアルキル化ポリベンズイミダゾール、ホスホアルキル化ポリベンズイミダゾール(特開平9−110982号公報)、ホスホン化ポリ(フェニレンエーテル)(J.Appl.Polym.Sci.,18,1969(1974))などが挙げられる。
【0017】
また、上記(C)の高分子電解質としては例えば、ポリフォスファゼンにスルホン酸基が導入されたもの、ホスホン酸基を有するポリシロキサン(Polymer Prep.,41,No.1,70(2000))などが挙げられる。
【0018】
上記(D)の高分子電解質としては、ランダム共重合体にスルホン酸基および/またはホスホン酸基が導入されたものでも、交互共重合体にスルホン酸基および/またはホスホン酸基が導入されたものでも、ブロック共重合体にスルホン酸基および/またはホスホン酸基が導入されたものでもよい。ランダム共重合体にスルホン酸基が導入されたものとしては、例えば、特開平11−116679号公報に記載の、スルホン化ポリエーテルスルホン-ジヒドロキシビフェニル共重合体が挙げられる。
【0019】
上記(D)の高分子電解質において、ブロック共重合体としては、特開2001−250567号公報に記載のスルホン化された芳香族ポリマーブロックを有するブロック共重合体、特開2003−31232号公報、特開2004−359925号公報、特開2005−232439号公報、特開2003−113136号公報等の特許文献に記載の、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホンを主鎖構造とするブロック共重合体を挙げられる。また、これらのブロック共重合体の、スルホン酸基の一部または全部をホスホン酸基に置き換えたブロック共重合体が挙げられる。
【0020】
なお、上記ブロック共重合体は、イオン交換基を有するセグメントと、イオン交換基を実質的に有しないセグメントとを有することが好ましいが、これらのセグメントを一つずつ有するブロック共重合体であってもよく、いずれか一方のセグメントを2つ以上有するブロック共重合体であってもよく、両方のセグメントを2つ以上有するマルチブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0021】
また、上記(E)の高分子電解質としては例えば、特表平11−503262号公報に記載の、リン酸を含有せしめたポリベンズイミダゾールなどが挙げられる。
【0022】
上記に例示した中でも、本発明に適用される高分子電解質は、その元素組成におけるフッ素原子の含有量が15重量%以下である高分子電解質(以下、「炭化水素系高分子電解質」と呼ぶ。なお、元素組成におけるフッ素原子の含有量が15重量%を越えるものを「フッ素系高分子電解質」と呼ぶ)であることが好ましい。かかる炭化水素系高分子電解質は、従来のフッ素系高分子電解質と比較してスルホン酸基の解離度が小さいためか、水媒体中での分散性が悪く、エマルションを安定化するための乳化剤を必要としていた。本発明者らは、このように乳化剤を含むエマルションをバインダーとして、燃料電池の触媒層製造に用いると、該乳化剤が、触媒成分である白金表面に吸着、被毒してしまい、該燃料電池の特性を著しく損なうことを見出した。上記に例示した好適な高分子電解質分散体は、このような乳化剤を使用せずに、分散媒中に炭化水素系高分子電解質からなる高分子電解質粒子を分散させた分散液であり、膜分離を行って得られる高分子電解質エマルションは、高度な分散安定性に加えて、燃料電池用触媒層などに使用した場合、発電性能を向上させることを可能とする。
【0023】
さらに、本発明の製造方法は、炭化水素系高分子電解質に対して、乳化剤を実質的に使用しなくとも、高度の分散性を維持したまま、発電性能に優れる燃料電池用電極を与える高分子電解質エマルションを製造し得ることにおいて特に効果的であるが、従来のフッ素系高分子電解質に対しても、発電性能向上に寄与することが期待される。かかるフッ素系高分子電解質としては、上記背景技術に記した市販のフッ素系高分子電解質に加え、特開平9−102322号公報に記載された炭化フッ素系ビニルモノマと炭化水素系ビニルモノマとの共重合によって作られた主鎖と、スルホン酸基を有する炭化水素系側鎖とから構成されるスルホン酸型ポリスチレン−グラフト−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)や、米国特許第4,012,303号公報または米国特許第4,605,685号公報に準拠して得られる、炭化フッ素系ビニルモノマと炭化水素系ビニルモノマとの共重合体に、α,β,β-トリフルオロスチレンをグラフト重合させ、これにクロロスルホン酸、フルオロスルホン酸等のスルホン化剤にてスルホン酸基を導入して得られる樹脂などが例示される。
【0024】
<膜分離>
次に、本発明に適用する膜分離に関して、好適な実施様態を説明する。
ここで、膜分離法とは分離対象物質の大きさ順に、精密濾過法、限外濾過法、透析法、電気透析法、ナノ濾過法などのように、使用する膜の細孔径により便宜的に分類されている。ここで、精密濾過は、0.1μmより大きい粒子を阻止するものであり、限外濾過は、0.1μm〜2nmの範囲の粒子を阻止するものであり、ナノ濾過は2nmより小さい程度の粒子を阻止するものである。そして逆浸透は加圧により浸透圧差と逆方向に溶媒を移動させるものである。本発明には、これらの分離手段のいずれも使用することができるが、好適には、透析膜を用いた膜分離および/または限外濾過膜を用いた膜分離が好ましく、中でも透析膜を用いた膜分離を用いると、より好ましい。該透析膜の中でも、再生セルロース膜が好適に用いることができる。
透析膜を用いる方法は、濾過法と比較して圧力をかけなくても、処理できることを特徴とし、膜厚みがたいへん薄くできることも特徴である。細孔径は限外濾過膜程度から逆浸透膜程度まで各種のものがある。透析膜の素材としては再生セルロース、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリルなどが使われる。いずれも本発明には、好ましく使用することができる。
透析法に係る、好ましい実施条件としては再生セルロース膜を用い、かかる膜を隔てて一方に高分子電解質分散液を投入した第1の相、他方には適用する高分子電解質分散液調製に用いた貧溶媒を投入した第2の相を配する。第1の相側から、高分子電解質溶液の調製に使用した良溶媒や、高分子電解質製造時の未反応モノマー成分、その他の不純物などが膜を透過して、第2の相側に移動し、第2の相側からは貧溶媒が第1の相側へ移動することで、高分子電解質分散液が、不純物と貧溶媒とが交換されるとともに精製され、好適な高分子電解質エマルションが得られる。かかる膜分離は、通常常温(20〜30℃)程度で実施することが簡便であることから好ましい。
【0025】
上記膜分離において、上記第1の相側から分離されるものは、燃料電池用部材に適用したとき、発電性能を損なうものと想定される。定かではないが、その1つとして上記高分子電解質分散液の調製で使用した、高分子電解質の良溶媒が想定される。好適な膜分離である透析膜を使用すると、このような良溶媒の除去量は、高分子電解質分散液中に含まれる良溶媒の総量を100重量%としたとき、80重量%以上除去できることが判明している。除去量は90%以上であるとさらに好ましく、実質的に100%であるとより好ましい。かかる膜分離を経て得られる高分子電解質エマルション中に残存する良溶媒の含有量で表すと、高分子電解質エマルションの分散媒の総重量に対して、良溶媒が200ppm以下であると好ましく、100ppm以下であるとより好ましく、良溶媒が実質的に含まれない、すなわち公知の分析手段で検出されない程度まで除去することが、特に好ましい。
【0026】
<高分子電解質エマルジョン>
本発明の製造方法を経て得られる高分子電解質エマルションは、含有する高分子電解質粒子を含めた粒子の平均粒径が、動的光散乱法により求められた体積平均粒子径で表して、100nm〜200μmの範囲である。かかる平均粒径としては、好ましくは、150nm〜10μmの範囲であり、さらに好ましくは、200nm〜1μmの範囲である。高分子電解質粒子の平均粒径が上記の範囲であると、得られる高分子電解質エマルションがより高度の貯蔵安定性を有するものとなり、被膜を形成させたとき、該被膜の均一性が比較的良好となる利点がある。
【0027】
さらに、上記の高分子電解質に加え、所望の特性に応じ、燃料電池用電極に適用したとき、触媒の被毒が生じない範囲で他の成分を含んでいてもよい。このような他の成分としては、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、密着助剤、離型剤、保水剤、無機あるいは有機の粒子、増感剤、レベリング剤、着色剤等の添加剤が挙げられ、これらの成分の、触媒被毒能の有無はサイクリックボルタンメトリー法による公知の方法により判定することができる。
このように、本発明により得られる高分子電解質エマルションを、燃料電池用電極の構成成分として使用する場合には、燃料電池の動作中に、該電極において過酸化物が生成し、この過酸化物が拡散しながらラジカル種に変化し、これが該電極と接合しているイオン伝導膜に移動して、該イオン伝導膜を構成しているイオン伝導材料(高分子電解質)を劣化させることがある。この場合、かかる不都合を回避するために、高分子電解質エマルションには、ラジカル耐性を付与し得る安定剤を添加することが好ましい。
これらの他の成分は、上記調製工程において高分子電解質とともに溶媒に溶解して、高分子電解質溶液を調製することにより、本発明の製造方法に適用することができる。
また、このような他の成分は、高分子電解質エマルションを構成する高分子電解質粒子中に含まれていてもよいし、分散媒中に溶解していてもよいし、高分子電解質粒子とは別に、他の成分からなる微粒子として存在していてもよい。
【0028】
<用途>
本発明の製造方法を経て得られる高分子電解質エマルションは、さまざまなフィルム成形法にて、精度のよいフィルムを得ることができる。フィルム成形法としてたとえば、キャストフィルム成形、スプレー塗布、刷毛塗り、ロールコーター、フローコーター、バーコーター、ディップコーターなどが使用できる。塗布膜厚は、用途によって異なるが、乾燥膜厚で、通常、0.01〜1,000μm、好ましくは0.05〜500μmである。
この高分子電解質エマルションは、乾燥膜として燃料電池用プロトン伝導膜や、カーボン、白金触媒と複合されて燃料電池用電極、あるいは基材表面に塗布して改質剤や接着剤として、好適に用いることができる。
【0029】
このような、水素と空気の酸化還元反応を促進する白金などの触媒を含む触媒層と呼ばれる電極を、上記高分子電解質膜の両面に形成したものを膜電極接合体(以下、「MEA」と呼ぶ)、さらに、該MEAにおいて両触媒層の外側にガスを効率的に触媒層に供給するためのガス拡散層を有する形態としたものは、通常、膜電極ガス拡散層接合体(以下、「MEGA」ということもある。)と呼ばれている。
【0030】
かかるMEAは、高分子電解質膜上に直接触媒層を形成する方法や、平板支持基材上に触媒層を形成して、これを高分子電解質膜に転写した後、該支持基材を剥離する方法等を用いて製造される。また、カーボンペーパー等のガス拡散層となる基材上に触媒層を形成した後に、これを高分子電解質膜と接合せしめ、MEGAの形態で製造する方法も挙げられる。
【0031】
本発明の方法で得られる高分子電解質エマルションは、これらのような、プライマーや接着剤、バインダー樹脂、高分子固体電解質膜などに代表される種々用途に応用可能である。
例えば、イオン伝導膜上に、本発明で得られる高分子電解質エマルションと、白金担持カーボンと配合した触媒インクを塗布することにより、MEAを形成すれば、発電特性に極めて優れたMEAを得ることができる。あるいはイオン伝導膜上に本発明で得られる高分子電解質エマルションを塗布し、該エマルション塗膜の乾燥前に電解質と白金担持カーボンが複合された粒子を乗せることにより、MEAを形成すれば、発電特性に極めて優れたMEAを得ることができる。あるいは、膜電極接合体とガス拡散層とを接合するにあたり、本発明の高分子電解質エマルションを接着剤として用いても、発電特性に極めて優れたMEAを得ることができる。
【0032】
次に、本発明の高分子電解質エマルションにより得られたMEAを備える燃料電池について説明する。
【0033】
図1は、好適な実施形態に係る燃料電池の断面構成を模式的に示す図である。図1に示すように、燃料電池10は、イオン伝導膜12の両側に、これを挟むように触媒層14a,14bがなり、これが本発明の製造方法で得られるMEA20である。さらに、両面の触媒層には、それぞれ、ガス拡散層16a,16bを備え、該ガス拡散層にセパレータ18a,18bが形成されている。
ここで、MEA20とガス拡散層16a,16bを備えたものが、上述のMEGAである。
【0034】
ここで触媒層14a,14bは、燃料電池における電極層として機能する層であり、これらのいずれか一方がアノード触媒層となり、他方がカソード触媒層となる。
【0035】
ガス拡散層16a,16bは、MEA20の両側を挟むように設けられており、触媒層14a,14bへの原料ガスの拡散を促進するものである。このガス拡散層16a,16bは、電子伝導性を有する多孔質材料により構成されるものが好ましい。例えば、多孔質性のカーボン不織布やカーボンペーパーが、原料ガスを触媒層14a,14bへ効率的に輸送することができるため、好ましい。
【0036】
セパレータ18a,18bは、電子伝導性を有する材料で形成されており、かかる材料としては、例えば、カーボン、樹脂モールドカーボン、チタン、ステンレス等が挙げられる。かかるセパレータ18a,18bは、図示しないが、触媒層14a,14b側に、燃料ガス等の流路となる溝が形成されていると好ましい。
【0037】
そして、燃料電池10は、上述したようなMEGAを、一対のセパレータ18a,18bで挟み込み、これらを接合することで得ることができる。
【0038】
なお、本発明の燃料電池は、必ずしも上述した構成を有するものに限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜異なる構成を有していてもよい。
【0039】
また、燃料電池10は、上述した構造を有するものを、ガスシール体等で封止したものであってもよい。さらに、上記構造の燃料電池10は、直列に複数個接続して、燃料電池スタックとして実用に供することもできる。そして、このような構成を有する燃料電池は、燃料が水素である場合は固体高分子形燃料電池として、また燃料がメタノール水溶液である場合は直接メタノール型燃料電池として動作することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(イオン交換容量の測定方法)
測定に供する高分子電解質を、溶液キャスト法を用いて膜とした。この膜を、加熱温度105℃に設定されたハロゲン水分率計を用いて、その乾燥重量を求めた。次いで、この膜を0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液5mLに浸漬した後、更に50mLのイオン交換水を加え、2時間放置した。その後、この膜が浸漬された溶液に、0.1mol/Lの塩酸を徐々に加えることで滴定を行い、中和点を求めた。そして、膜の乾燥重量と上記の中和に要した塩酸の量から、膜のイオン交換容量(単位:meq/g)を算出した。
【0042】
(重量平均分子量の測定方法)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定を行い、ポリスチレン換算を行うことによって重量平均分子量を算出された。GPCの測定条件は下記のとおりである。
GPC条件
・GPC測定装置 TOSOH社製 HLC−8220
・カラム Shodex社製 AT−80Mを2本直列に接続
・カラム温度 40℃
・移動相溶媒 DMAc(LiBrを10mmol/dm3になるように添加)
・溶媒流量 0.5mL/min
【0043】
(平均粒径測定方法)
製造されたエマルション中に存在する粒子の平均粒径は、動的光散乱法(濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000[大塚電子製])を用いて測定した。測定温度は30℃、積算時間は30min、測定に用いたレーザーの波長は660nmである。得られたデータを、上記装置付属の解析ソフトウェア(FPARシステム VERSION5.1.7.2)を用い、CONTIN法で解析することで散乱強度分布を得、最も頻度の高い粒径を平均粒径とした。
【0044】
製造例1[4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウムの合成]
攪拌機を備えた反応器に、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン467gと30%発煙硫酸3500gとを加え、100℃で5時間反応させた。得られた反応混合物を冷却した後、大量の氷水中に加え、これに更に50%水酸化カリウム水溶液470mLを滴下した。
次いで、析出した固体を濾過して集め、エタノールで洗浄した後、乾燥させた。得られた固体を脱イオン水6.0Lに溶解させ、50%水酸化カリウム水溶液を加えて、pH7.5に調整した後、塩化カリウム460gを加えた。析出した固体を濾過して集め、エタノールで洗浄した後、乾燥させた。
その後、得られた固体をジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」と呼ぶ)2.9Lに溶解させ、不溶の無機塩を濾過で除き、残渣をDMSO300mLでさらに洗浄した。得られた濾液に酢酸エチル/エタノール=24/1の溶液6.0Lを滴下し、析出した固体をメタノールで洗浄し、100℃で乾燥させて、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウムの固体482gを得た。
【0045】
製造例2[高分子電解質Aの製造]
(スルホン酸基を有する高分子化合物の合成)
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、製造例1で得られた4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム9.32重量部、2,5−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸カリウム4.20重量部、DMSO59.6重量部、及び、トルエン9.00重量部を加え、これらを室温にて撹拌しながらアルゴンガスを1時間バブリングした。
その後、得られた混合物に、炭酸カリウムを2.67重量部加え、140℃にて加熱撹拌して共沸脱水した。その後トルエンを留去しながら加熱を続け、スルホン酸基を有する高分子化合物のDMSO溶液を得た。総加熱時間は14時間であった。得られた溶液は室温にて放冷した。
【0046】
(イオン交換基を実質的に有さない高分子化合物の合成)
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、アルゴン雰囲気下、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン8.32重量部、2,6−ジヒドロキシナフタレン5.36重量部、DMSO30.2重量部、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と呼ぶ)30.2重量部、及び、トルエン9.81重量部を加え、室温にて撹拌しながらアルゴンガスを1時間バブリングした。
その後、得られた混合物に、炭酸カリウムを5.09重量部加え、140℃にて加熱撹拌して共沸脱水した。その後トルエンを留去しながら加熱を続けた。総加熱時間は5時間であった。得られた溶液を室温にて放冷し、イオン交換基を実質的に有さない高分子化合物のNMP/DMSO混合溶液を得た。
【0047】
(ブロック共重合体の合成)
得られたイオン交換基を実質的に有さない高分子化合物のNMP/DMSO混合溶液を攪拌しながら、これに、上記スルホン酸基を有する高分子化合物のDMSO溶液の全量とNMP80.4重量部、DMSO45.3重量部を加え、150℃にて40時間ブロック共重合反応を行った。
得られた反応液を大量の2N塩酸に滴下し、1時間浸漬した。その後、生成した沈殿物を濾別した後、再度2N塩酸に1時間浸漬した。得られた沈殿物を濾別、水洗した後、95℃の大量の熱水に1時間浸漬した。そして、この溶液を80℃で12時間乾燥させて、ブロック共重合体である高分子電解質Aを得た。得られた高分子電解質Aのイオン交換容量は1.9meq/gであり、重量平均分子量は、4.2x105であった。
この高分子電解質Aの構造を下記に示す。なお、下記式における「block」の記載は、スルホン酸基を有するブロック及びイオン交換基を有さないブロックをそれぞれ一つ以上有することを表している。n、mはそれぞれの構造単位の共重合モル分率を表すものである。

【0048】
製造例3[高分子電解質Bの製造]
アルゴン雰囲気下、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、DMSO600ml、トルエン200mL、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム26.5g(106.3mmol)、末端クロロ型である下記ポリエーテルスルホン(住友化学製スミカエクセルPES5200P、Mn=5.4×104、Mw=1.2×105)10.0g、2,2’−ビピリジル43.8g(280.2mmol)を入れて攪拌した。その後バス温を150℃まで昇温し、トルエンを加熱留去することで系内の水分を共沸脱水した後、60℃に冷却した。次いで、これにビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)73.4g(266.9mmol)を加え、80℃に昇温し、同温度で5時間攪拌した。放冷後、反応液を大量の6mol/Lの塩酸に注ぐことによりポリマーを析出させ濾別。その後6mol/L塩酸による洗浄・ろ過操作を数回繰り返した後、濾液が中性になるまで水洗を行い、減圧乾燥することにより目的とする下記ポリアリーレン系ブロック共重合体16.3gを得た。これを高分子電解質B(下式)とする。なお、下記式における「block」の記載は、スルホン酸基を有するブロック及びイオン交換基を有さないブロックをそれぞれ一つ以上有することを表している。

得られた高分子電解質Bのイオン交換容量は2.3meq/gであり、重量平均分子量は、2.7×105であった。なお、t、uは各ブロックを構成する括弧内の繰返し単位の平均重合度を表すものである。
【0049】
製造例4[安定剤ポリマーdの製造]
ポリマーaの合成
減圧共沸蒸留装置を備えた2Lセパラブルフラスコを窒素置換し、ビス−4−ヒドロキシジフェニルスルホン63.40g、4,4’−ジヒドロキシビフェニル70.81g、NMP955gを加え均一な溶液とした。その後、炭酸カリウム92.80gを添加し、NMPを留去しながら135℃〜150℃で4.5時間減圧脱水した。その後、ジクロロジフェニルスルホン200.10gを添加し180℃で21時間反応をおこなった。
反応終了後、反応溶液をメタノールに滴下し、析出した固体をろ過、回収した。回収した固体は更にメタノール洗浄、水洗浄、熱メタノール洗浄を経て、乾燥し275.55gのポリマーaを得た。このポリマーaの構造を下記に示す。ポリマーaはGPC測定によるポリスチレン換算の重量平均分子量が18000であり、NMR測定の積分値から求めたnとmの比がn:m=7:3であった。なお、下記の「random」の表記は、下記ポリマーaを形成する構成単位が、ランダムに共重合されていることを示す。

【0050】
ポリマーbの合成
2Lセパラブルフラスコを窒素置換し、ニトロベンゼン1014.12g、ポリマーa 80.00g、を加え均一な溶液とした。その後、N-ブロモスクシンイミドを50.25g添加し、15℃まで冷却した。続いて、95%濃硫酸 106.42gを40分かけて滴下し15℃で6時間反応をおこなった。6時間後、15℃に冷却しながら10w%水酸化ナトリウム水溶液450.63g、チオ硫酸ナトリウム 18.36gを添加した。その 2Lセパラブルフラスコを窒素置換し、ニトロベンゼン1014.12g、ポリマーa80.00g、を加え均一な溶液とした。その後、N-ブロモスクシンイミドを50.25g添加し、15℃まで冷却した。続いて、95%濃硫酸106.42gを40分かけて滴下し15℃で6時間反応をおこなった。6時間後、15℃に冷却しながら10w%水酸化ナトリウム水溶液450.63g、チオ硫酸ナトリウム18.36gを添加した。その後、この溶液をメタノールに滴下し、析出した固体をろ過、回収した。回収した固体はメタノール洗浄、水洗浄、再度メタノール洗浄を経て乾燥し、86.38gのポリマーbを得た。
【0051】
ポリマーcの合成
減圧共沸蒸留装置を備えた2Lセパラブルフラスコを窒素置換し、ジメチルホルムアミド 116.99g、ポリマーb 80.07g、加え均一な溶液とした。その後、ジメチルホルムアミドを留去しながら5時間減圧脱水をおこなった。5時間後50℃まで冷却し、塩化ニッケルを41.87g添加して130℃まで昇温し、亜リン酸トリエチルを69.67g滴下して140℃〜145℃で2時間反応をおこなった。2時間後亜リン酸トリエチルをさらに17.30g添加し145℃〜150℃で3時間反応をおこなった。3時間後室温まで冷却し、水 1161gとエタノール 929gの混合溶液を滴下して、析出した固体をろ過、回収した。回収した固体に水を添加して十分に粉砕し、5w%塩酸で洗浄、水洗浄を経て、86.83gのポリマーcを得た。
【0052】
ポリマーdの合成
5Lセパラブルフラスコを窒素置換し、35重量%塩酸水溶液1200g、水550g、ポリマーc75.00g、を加え105℃〜110℃で15時間攪拌した。15時間後、室温まで冷却し水1500gを滴下した。その後、系中の固体をろ過、回収し、得た固体を水洗浄、熱水洗浄した。乾燥後目的とするポリマーdを72.51g得た。ポリマーdの元素分析から求めたリンの含有率は5.91%であり、元素分析値から計算したx(ビフェニリレンオキシ基1個当たりのホスホン酸基数)の値は1.6であった。

【0053】
(イオン伝導膜の作製方法)
合成例1で得られた高分子電解質を、N−メチルピロリドンに13.5wt%の濃度となるように溶解させて、高分子電解質溶液を調製した。次いで、この高分子電解質溶液をガラス板上に滴下した。それから、ワイヤーコーターを用いて高分子電解質溶液をガラス板上に均一に塗り広げた。この際、0.25mmクリアランスのワイヤーコーターを用いて塗工厚みをコントロールした。塗布後、高分子電解質溶液を80℃で常圧乾燥した。それから、得られた膜を1mol/Lの塩酸に浸漬した後、イオン交換水で洗浄し、さらに常温乾燥することによって厚さ30μmのイオン伝導膜1を得た。
【0054】
実施例1(高分子電解質エマルション1の作成)
製造例2で得られた高分子電解質A0.9gと製造例4で得られた安定剤であるポリマーd0.1gを、N−メチルピロリドン(NMP)に溶解させ、1重量%の溶液100gを作製した。次いで、この高分子電解質溶液100gを蒸留水900gに滴下速度3〜5g/minで滴下し、高分子電解質溶液を希釈した。この希釈した高分子電解質溶液を、透析膜透析用セルロースチューブ(三光純薬(株)製UC36−32−100:分画分子量14,000)に封入して、72時間流水で曝露し、膜分離処理を行った。処理後の高分子電解質溶液をエバポレーターを用いて、2.0wt%の濃度になるように濃縮し、高分子電解質エマルションを作製した。この高分子電解質エマルションの平均粒径は394nmであった。なお、NMPの残存量をガスクロマトグラフ−質量分析(GC−MASS)で行ったところ4ppmであった。
【0055】
(MEAの作成)
アノード側
市販のナフィオン5wt%溶液(アルドリッチ製)5.0mLに50重量%白金が担持された白金担持カーボン(SA50BK、エヌ・イー・ケムキャット製)を0.696g投入し、さらにエタノールを11mL加えた。得られた混合物を1時間超音波処理したのち、スターラーで5時間攪拌し、触媒インクを得た。引き続き、特開2004−089976号公報に記載の方法に準拠し、上記イオン伝導膜1の片面中央部5.2cm角の領域に触媒インクを塗布した。吐出口から膜までの距離は6cm、ステージ温度は75℃に設定した。8回の重ね塗りをした後、ステージ上に15分間放置して、溶媒を除去し、触媒層を形成させた。もう一方の面にも同様に触媒インクを塗布し、触媒層を形成した。触媒層の組成と塗布した重量から、0.6mg/cm2の白金が配置された、MEAを得た。
カソード側
上記アノード側に触媒インクの塗布されたMEAの反対面に、カソード側の電極を塗布するにあたり、上記高分子電解質エマルション1、2.561gに50重量%白金が担持された白金担持カーボン(SA50BK、エヌ・イー・ケムキャット製)を1.000g投入し、さらにエタノールを16.87g加えた。得られた混合物を1時間超音波処理したのち、スターラーで5時間攪拌し、触媒インクを得た。引き続き、特開2004−089976号公報に記載の方法に準拠し、上記高分子電解質膜1の片面の中央部の5.2cm角の領域に触媒インクを塗布した。吐出口から膜までの距離は6cm、ステージ温度は75℃に設定した。8回の重ね塗りをした後、ステージ上に15分間放置して、溶媒を除去し、触媒層を形成させた。もう一方の面にも同様に触媒インクを塗布し、触媒層を形成した。触媒層の組成と塗布した重量から、0.6mg/cm2の白金が配置された、MEAを得た。
【0056】
(燃料電池セルの作成)
市販のJARI標準セルを用いて燃料電池セルを製造した。すなわち、各実施例または比較例の高分子電解質膜を用いて得られた膜−電極接合体の両外側に、ガス拡散層となるカーボンクロスを配置し、その外側にガス通路用の溝を切削加工したカーボン製セパレータを配し、さらにその外側に集電体及びエンドプレートを順に配置し、これらをボルトで締め付けることによって、有効膜面積25cm2の燃料電池セルを組み立てた。
【0057】
(発電試験)
得られた各燃料電池セルを80℃に保ちながら、アノードに加湿水素、カソードに加湿空気をそれぞれ供給した。この際、セルのガス出口における背圧が0.1MPaGとなるようにした。各原料ガスの加湿は、バブラーにガスを通すことで行い、水素用バブラーの水温は80℃、空気用バブラーの水温は80℃とした。ここで、水素のガス流量は529mL/min、空気のガス流量は1665mL/minとした。そして、電流密度が0.2A/cm2となる時のセル電圧の値を測定して、各燃料電池セルの発電性能を評価した。セル電圧が高いほど、燃料電池セルの発電性能が優れていることを示している。
【0058】
参考例1
<ナフィオン溶液を使用した場合>
実施例1において、カソード側をアノード側と同様に電極を形成し、発電性能を評価した。
【0059】
比較例1
透析を用いない以外は実施例1と同様にして発電性能を評価した。
【0060】
【表1】

【0061】
本発明の方法によって得られた高分子電解質エマルションによって得られた燃料電池は、乳化剤が配合されていないので、触媒被毒もないことから、高い発電性能を示す。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】好適な実施形態に係る燃料電池の断面構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0063】
10・・・燃料電池、12・・・イオン伝導膜、14a,14b・・・触媒層、16a,16b・・・ガス拡散層、18a,18b・・・セパレータ、20・・・MEA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質粒子が分散媒中に分散してなる高分子電解質分散液を分離膜で膜分離することを特徴とする高分子電解質エマルションの製造方法。
【請求項2】
上記分離膜が、透析膜または限外濾過膜である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
上記膜処理が、透析膜である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
上記高分子電解質粒子に含まれる高分子電解質が、その元素組成におけるフッ素原子の含有量が15重量%以下の高分子電解質である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
上記高分子電解質分散液が、下記の(1)および(2)の工程を経て得られる分散液である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
(1)高分子電解質を、該高分子電解質の良溶媒を含む溶媒に溶解せしめて、高分子電解質溶液を調製する調製工程
(2)(1)で得られた高分子電解質溶液と、該高分子電解質の貧溶媒とを混合する混合工程
【請求項6】
上記高分子電解質の良溶媒が、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドおよびジメチルスルホキシドから選ばれる非プロトン性極性溶媒であることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法を用いて得られる高分子電解質エマルション。
【請求項8】
高分子電解質エマルションを構成する高分子電解質の良溶媒の含有量が、200ppm以下であることを特徴とする、請求項7に記載の高分子電解質エマルション。
【請求項9】
動的光散乱法により求められる体積平均粒径が100nm〜200μmである、請求項7または8に記載の高分子電解質エマルション。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載の高分子電解質エマルションからなる固体高分子型燃料電池用電極。
【請求項11】
請求項10記載の固体高分子型燃料電池用電極を有する、膜電極接合体。
【請求項12】
請求項9記載の膜電極接合体を有する、固体高分子型燃料電池。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−31466(P2008−31466A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173800(P2007−173800)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】