説明

高分子電解質膜及びその製造方法

【課題】 強酸基あるいは超強酸基を有する高分子電解質からなる膜を製造したときに、ステンレスなどの金属ベルトなどの支持体から容易に自己支持性膜が剥離可能な高分子電解質膜の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、流延法による強酸基あるいは超強酸基を有する高分子電解質膜の製造方法において、特定の高分子電解質100重量部に対して、特定のリン酸エステル、および/または、特定のアミンとリン酸エステルとの塩を0.0005から2重量部含有する高分子電解質溶液を支持体上に流延し、加熱して自己支持性膜になるまで溶剤を蒸発させ、支持体から自己支持性膜を剥離することを特徴とする高分子電解質膜の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜およびその製造方法に関するものであり、特に強酸基あるいは超強酸基を有する炭化水素系高分子電解質膜の製造方法に関する。
【0002】
本発明は、燃料電池、イオン交換膜などに用いる高分子電解質膜およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、環境問題への対応として、燃料電池への期待が大きく高まり、特にプロトン伝導性の高分子電解質膜を用いた高分子型燃料電池は、低温で作動することが可能であり、また、小型軽量化の可能性があることから期待されている。高分子型燃料電池用の高分子電解質としては、例えばナフィオン(Nafion、デュポン社の登録商標。以下同様)に代表される超強酸基含有フッ素系高分子が知られている。
【0004】
超強酸基含有フッ素系高分子が高価であり、また、アルコールの透過性が大きい問題に対し、より安価な非フッ素系ポリマーをベースとした芳香族炭化水素系高分子電解質膜について検討されており、ポリイミド、ポリエーテル、ポリアリーレンなどが、既に多く提案されている(非特許文献1)。例えば、ポリエーテルスルホン系の高分子電解質膜としては、特開平10−21943号公報(特許文献1)、特開平10−45913号公報(特許文献2)、特開平11−116679号公報(特許文献3)などにスルホン化ポリエーテルスルホン系高分子電解質膜が開示されている。さらに、特開平11−67224号公報(特許文献4)などには、スルホン化ポリエーテルスルホン系高分子電解質膜を用いた膜/電極接合体が開示されている。また、特開2003−31232(特許文献5)では、プロトン伝導性の湿度依存性を改良したポリエーテルスルホンブロック共重合体が開示されている。また、特開2005−112985号公報(特許文献6)では、ポリアリーレン系電解質膜が、特表2003−503510号公報(特許文献7)ではポリエーテルケトン系電解質膜とポリエーテルスルホン系電解質膜が、特表2000−510511号公報(特許文献8)では、ポリイミド系電解質膜が開示されている。
【0005】
これらの高分子電解質膜は、工業的には連続的に高分子電解質溶液を支持体上に流延し、加熱して自己支持性膜になるまで溶剤を蒸発させ、支持体から自己支持性膜を剥離する方法によって製造される。このときの支持体として、ステンレスなどの金属ベルトが一般に用いられる。しかし、強酸基あるいは超強酸基を有する高分子電解質膜は、ステンレスなどの金属ベルトから自己支持性膜を剥離することが容易ではなく、剥離中に裂けたり、傷ついたりすることがあった。剥離剤として、リン酸エステルおよび/またはリン酸エステルとアミンとの塩の使用は、特開昭60−244507号公報(特許文献9)に、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の溶液に添加する方法が開示されているが、スルホン酸やリン酸などの強酸基やフッ化アルキルスルホン酸などの超強酸基を含有する高分子電解質膜の製造に関する記載はなかった。

【非特許文献1】M.A. Hickner et al, Chem. Rev., vol.104, p.4587-4612 (2004)
【特許文献1】特開平10−21943号公報
【特許文献2】特開平10−45913号公報
【特許文献3】特開平11−116679号公報
【特許文献4】特開平11−67224号公報
【特許文献5】特開2003−31232号公報
【特許文献6】特開2005−112985号公報
【特許文献7】特表2003−503510号公報
【特許文献8】特表2000−510511号公報
【特許文献9】特開昭60−244507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、強酸基あるいは超強酸基を有する高分子電解質からなる膜を製造したときに、ステンレスなどの金属ベルトなどの支持体から容易に自己支持性膜が剥離可能な高分子電解質膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、流延法による強酸基あるいは超強酸基を有する高分子電解質膜の製造方法において、高分子電解質100重量部に対して、化学式1
【0008】
【化1】

[式中、R1は水素原子または炭素数が6から18のアルキル基または化学式2
【0009】
【化2】

(式中、R3は炭素数が5から18のアルキル基を示し、mは2から30の整数を示す。)
で示される基を表し、R2は炭素数が6から18のアルキル基または化学式2で示される基を表す。]
で示されるリン酸エステル、および/または、化学式3
【0010】
【化3】

[式中、R4からR6は水素原子、ヒドロオキシエチル基または炭素数が1から12のアルキル基を表す。]
で示されるアミンと化学式1のリン酸エステルとの塩を0.0005から2重量部含有する高分子電解質溶液を支持体上に流延し、加熱して自己支持性膜になるまで溶剤を蒸発させ、支持体から自己支持性膜を剥離することを特徴とする高分子電解質膜の製造方法に関する。
【0011】
また、本発明は、上記の製造方法で得られた高分子電解質膜を、さらに、酸水溶液処理を行う、あるいは、アルカリ水溶液処理をした後、酸水溶液処理を行うことを特徴とする高分子電解質膜の製造方法に関する。
【0012】
また、本発明は、高分子電解質が、スルホン化された炭化水素系高分子電解質であることを特徴とする高分子電解質膜の製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、炭化水素系高分子電解質が、主鎖に芳香環を有する芳香族高分子電解質であることを特徴とする高分子電解質膜の製造方法に関する。
【0014】
また、本発明は、芳香族高分子電解質が、化学式4
【0015】
【化4】

[式中、Ar1、Ar2は、芳香族基であり、Z1は、酸素原子を示す。]
で表される構造単位を有する芳香族ポリエーテルであることを特徴とする高分子電解質膜の製造方法に関する。
【0016】
また、本発明は、高分子電解質が、スルホン酸基を有する高分子電解質とスルホン酸基を有さないポリマーとの組成物であることを特徴とする高分子電解質膜の製造方法に関する。
【0017】
また、本発明は、高分子電解質が、スルホン酸基を有する親水性セグメントとスルホン酸基を有さない疎水性セグメントからなるブロック共重合体であることを特徴とする高分子電解質膜の製造方法に関する。
【0018】
また、本発明は上記高分子電解質膜の製造方法により製造されたことを特徴とする高分子電解質膜に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本研究者らは前述の問題について鋭意検討を重ねた結果、リン酸エステルおよび/またはリン酸エステルとアミンとの塩を高分子電解質溶液に添加した溶液を、支持体上へ流延し、加熱乾燥することにより、容易に自己支持性膜が支持体から剥離し、連続的に高分子電解質膜が製造できることを見出し、本発明に到達した。
【0020】
本発明で用いられるリン酸エステルは、化学式1
【0021】
【化1】

[式中、R1は水素原子または炭素数が6から18のアルキル基または化学式2
【0022】
【化2】

(式中、R3は炭素数が5から18のアルキル基を示し、mは2から30の整数を示す。)
で示される基を表し、R2は炭素数が6から18のアルキル基または化学式2で示される基を表す。]
で示されるリン酸エステルであり、例えば、モノカプロイルリン酸エステル、モノオクチルリン酸エステル、モノカプリルリン酸エステル、モノラウリルリン酸エステル、モノミリスチルリン酸エステル、モノセチルリン酸エステル、モノステアリルリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノネオペンチルエーテルのモノリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのモノリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのモノリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのモノリン酸エステル、ジカプロイルリン酸エステル、ジオクチルリン酸エステル、ジカプリルリン酸エステル、ジラウリルリン酸エステル、ジミリスチルリン酸エステル、ジセチルリン酸エステル、ジステアリルリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノネオペンチルエーテルのジリン酸エステル、トリエチレングリコールモノトリデシルエーテルのジリン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウリルエーテルのジリン酸エステル、ジエチレングリコールモノステアリルエーテルのジリン酸エステルなどを挙げることができる。
【0023】
本発明で用いられるリン酸エステルとアミンの塩は、上記リン酸エステルと、化学式3
【0024】
【化3】

[式中、R4からR6は水素原子、ヒドロオキシエチル基または炭素数が1から12のアルキル基を表す。]
で示されるアミンとの塩である。化学式3で示されるアミンは、例えば、アンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、モノヘキシルアミン、モノオクチルアミン、モノラウリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどを挙げることができる。
前記のようなアルキルリン酸エステル塩としては、市販の物を用いても良く、例えば、中京油脂製の「セパール328」「セパール365」 ,「セパール380」 ,「セパール440」 ,「セパール441」 、「セパール517」 ,「セパール521」(以上、商品名)などを挙げることができる。
【0025】
リン酸エステルおよび/またはリン酸エステルのアミン塩は、高分子電解質100重量部に対して、0.001から2重量部、好ましくは、0.002から1.5重量部、より好ましくは0.003から1.0重量部添加される。添加量が、0.001重量部より少ないと効果がなく、一方、2重量部より多くても効果が変わらない。
【0026】
本発明の高分子電解質は、スルホン酸基、リン酸基などの強酸基、あるいは、フッ化アルキルあるいはフッ化アリール基に結合したスルホン酸基などの超強酸基を有するものであり、脂肪族炭化水素系高分子、水素原子がフッ素原子に置換された脂肪族高分子、主鎖に芳香環を有する芳香族高分子などを挙げることができる。
【0027】
そのような高分子としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルベンジルスルホン酸、特表2002−509152号公報、European Polymer Journal,Vol.36, 61(2001)に記載されているようなスルホン酸基を含有するスチレン−(エチレン−ブチレン)−スチレントリブロック共重合体やスチレン−(エチレン−プロピレン)ブロック共重合体、Macromolecules, Vol.28, 8702(1995)やEuropean Polymer Journal,Vol.36, 61(2001)に記載されているようなカルボン酸基を含有するスチレン−(エチレン−ブチレン)−スチレントリブロック共重合体やスチレン−(エチレン−プロピレン)ブロック共重合体、特開2000−11755号公報に記載されているようなホスホン酸基を含有するポリスチレンなどの強酸基含有ポリスチレン系高分子、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸などの強酸基含有ビニル系高分子、ナフィオン(商標登録)、アシプレックス(商標登録)、フレミオン(商標登録)などの超強酸基を有するパーフルオロ系高分子など、主鎖が脂肪族系の高分子を挙げることができる。
【0028】
また、強酸基、あるいは、超強酸基を含有するポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレン、ポリフェニレンスルフィドなどの芳香族高分子電解質を挙げることもできる。例えば、特開昭61−43630号公報、J. Membr. Sci., Vol.83, 211(1993)、J. Polym. Sci., Part A, Polym. Chem., Vol.34, 2421(1996)、J. Polym. Sci., Part A, Polym. Chem., Vol.31, 853(1993)、USP2001/0021764A1、 特開2003−31232号公報に記載されているようなスルホン酸基を含有する芳香族ポリエーテルスルホン、特開昭57−25328号公報、特開昭57−25328号公報、特開平6−93114号公報、J. Membr. Sci., Vol.199, 167(2002)、J. Membr. Sci., Vol.173, 17(2000)、Polymer, Vol.28, 1009(1987)、Solid State Ionics, Vol.106, 219(1998)、Br. Polym. J., Vol.17, 4(1985)、Polym. Int., Vol.50, 812(2001)に記載されているようなスルホン酸基を含有する芳香族ポリエーテルケトン、高分子学会予稿集,Vol.51, 744-746(2002)に記載されているようなスルホン酸基を含有するポリイミド、J. Appl. Polym. Sci., Vol.51, 1399(1994)、J. Appl. Polym. Sci., Vol.29, 4017(1984)、J. Appl. Polym. Sci., Vol.29, 4029(1984)、J. Membr. Sci., Vol.146, 263(1998)に記載されているようなスルホン酸基を含有するポリフェニレンオキシド、特開2005−112985号公報に記載されているようなスルホン化ポリアリーレンなどを挙げることができる。
【0029】
これらの高分子電解質は、共重合体であってもよく、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であっても、グラフト共重合体であってもよい。特に、プロトン伝導性の点からブロック共重合体の構造を有することが好ましい。これらの高分子電解質の中では、耐熱性、コストなどの点から芳香族高分子電解質が好ましく、さらに、イオン伝導性の点から、スルホン酸基を含有する芳香族高分子電解質が好ましい。また、後述するイオン交換容量の範囲で、強酸基あるいは超強酸基を有さないポリマーと前述の強酸基あるいは超強酸基を有するポリマーのブレンドの組成物からなる高分子電解質でも良い。このような強酸基あるいは超強酸基を有さないポリマーとして、具体的には、前述したポリマーの強酸基あるいは超強酸基を有さないポリマーを挙げることができる。組み合わせとしては、強酸基あるいは超強酸基を有するポリマーと、同じ構造単位を有する強酸基あるいは超強酸基を有さないポリマーの組み合わせが好ましい。
【0030】
これらの高分子電解質のイオン交換容量は、0.2ミリ当量/g〜4ミリ当量/gの範囲であることが好ましく、0.3ミリ当量/g〜3.5ミリ当量/gであることがより好ましい。この範囲が0.2より小さいと、例えば、燃料電池用途では、プロトン伝導度が低くなり、一方、4より大きくなると水溶性となり好ましくない。
【0031】
本発明において用いられる溶剤は、対象とする高分子電解質およびリン酸エステルあるいはリン酸エステルとアミンとの塩を溶解するものであれば、特に制限はなく、例えば、芳香族高分子電解質の場合なら、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジフェニルスルホン、フェノール、m−クレゾール、p−クロロフェノールなどの極性溶媒を挙げることができる。
【0032】
本発明の高分子電解質膜の製造方法において、高分子電解質溶液を支持体上に流延し、加熱して自己支持性膜になるまで溶剤を蒸発させるときの乾燥条件は、発泡が生じないならば特に制限がなく、通常、室温から溶剤の沸点+20℃の温度範囲で、0.2分から72時間の範囲で乾燥される。特に真空乾燥あるいは熱風乾燥されることが、乾燥速度を早くできることから好ましい。また、自己支持性膜を支持体上から剥離後、必要ならば室温から280℃の温度範囲で、0.2分から72時間の範囲で更に乾燥することが可能である。
【0033】
本発明の支持体の材質としては、ゴム、樹脂、ステンレスなどの金属、セラミック、ガラスなどを挙げることができ、耐久性の点から、ステンレスなどの金属、セラミック、ガラスなどが好ましい。その形状は、板、ベルト、ロールなどを挙げることができるが、特に、ベルトあるいはロールの形状であることが連続製膜が可能なことから好ましい。
【0034】
本発明では、高分子電解質溶液を支持体上に流延し、加熱して自己支持性膜になるまで溶剤を蒸発させ、支持体から自己支持性膜を剥離し、必要ならば更に乾燥することによって得られた高分子電解質膜をそのまま用いても良いが、例えば燃料電池などの用途によっては、得られた高分子電解質膜を、酸水溶液処理を行うことが好ましい。さらに、必要ならば、アルカリ水溶液処理をしたのち、酸水溶液処理をすることができる。各々の処理は、水溶液に膜を0.05分から600分浸漬することにより行われ、バッチで行われても、連続的に行われてもどちらでも良い。処理時間が短いと処理が不充分となり、一方、処理時間が長くても効果に影響がないことから好ましくない。各処理のあとに、必要ならば、例えば、
(1)アルカリ処理

(2)水洗

(3)酸処理

(4)水洗

(5)乾燥
のように、水洗工程および/または乾燥工程を入れることも可能である。
【0035】
アルカリ水溶液処理は、NaOH、KOH、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムを水に溶解した水溶液を、酸水溶液処理は、塩酸、硫酸、リン酸水溶液を用いることができ、どちらの水溶液も濃度は、0.01Nから5Nの範囲で用いられる。水溶液濃度が0.01Nより低いと処理が不充分になる可能性があり、また、5Nより高いと水溶液の取り扱いが難しくなり好ましくない。どちらの水溶液処理も、温度は、5℃から90℃の範囲で行われ、温度が5℃より低いと処理が不充分となり、90℃より高いと水溶液の取り扱いが難しくなり好ましくない。水洗工程は、浸漬およびシャワーのどちらかをあるいは併用することができる。水洗工程は、上記のアルカリまたは酸処理と同様の時間、温度で行われる。乾燥工程は、特に限定されないが、例えば、室温から200℃の範囲で加熱を行うことにより水分を蒸発させることによって行われる。
【0036】
リン酸エステルあるいはリン酸エステルとアミンとの塩を0.5重量%より多く用いた場合、アルカリ水溶液処理と引き続く酸水溶液処理により、添加されたリン酸エステルあるいはリン酸エステルとアミンとの塩が除去されることが望ましく、最終、高分子電解質膜中のリン酸エステルあるいはリン酸エステルとアミンとの塩は、0.5重量%以下、さらに0.4重量%以下になることが好ましい。リン酸エステルあるいはリン酸エステルとアミンとの塩が多く残留すると耐久性を低下させたり、発電特性を低下させる可能性があることから好ましくない。
【0037】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。尚、実施例および比較例中に示した測定値は以下の方法で測定した。
【0038】
1)溶液粘度
N−メチル−2−ピロリドンを溶媒として、0.5g/dLの濃度で、ウベローデ粘度計を用い、25℃の温度で測定し、次式(1)を用いて計算した。
【0039】
【数1】

(ここで、tは溶液の測定時間、tは溶媒の測定時間、cは溶液濃度を示す。)
【0040】
2)プロトン伝導度の測定
恒温恒湿機中で、幅1.9mm、長さ10mmのスリットを有し、スリットを挟んで白金線が装着してる(間隔:2mm)テフロン(登録商標)板とテフロン(登録商標)平板の間に、膜(幅5mm×長さ20mm)を、長手方向が白金線と90度の方向で挟み、日置電機(株)製3532 LCRハイテスタを用いて、複素インピーダンス測定によりプロトン伝導度を求めた。
【0041】
3)剥離性の評価
ステンレス板(SUS304、40mm×150mm)上に、溶液を流延して所定条件で乾燥した。自己支持性フィルムをステンレス板より剥離したときの状況から評価した。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
【0043】
ブロックポリマーPBの重合
フラスコにビス(4−クロロフェニル)スルホン28.7g、4,4’−ビフェノール18.9gおよび炭酸カリウム16.8gを仕込み、ジメチルスルホキシド160mlとトルエン50mlを添加して窒素気流下、加熱、撹拌した。発生した水をトルエンと共に除去しながら175℃まで昇温し、その温度で16時間撹拌してポリマー溶液Aを調整した。別に、スミカエクセル7600P(住友化学)73gを、ジメチルスルホキシド290mlに溶解した溶液を調整した。この溶液をポリマー溶液Aに添加し、170℃で、1.5時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を熱水中で2回、メタノール中で1回洗浄しブロックポリマーPBを得た。得られたポリマーの溶液粘度ηsp/cは、0.71であった。
【0044】
ブロックポリマーPBのスルホン化
ブロックポリマーPBを98%硫酸200mlに20g溶解し、室温で24時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を水中で5回洗浄し、ポリマーSPBを得た。得られたポリマーのイオン交換容量は、1.43mmol/gであった。後述の方法で得られた膜のTEM観察で、相分離構造が見られたことから、ブロック共重合体であることを確認した。
【0045】
製膜と剥離試験
SPBを20重量%となるようにN,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、モノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩をポリマー成分に対し、0.5重量%添加して、SPB溶液を調整した。この溶液をステンレス板(SUS304、厚み2mm、表面仕上げ0.8S)上に流延し、130℃で1時間、熱風乾燥した。この膜は、ステンレス板から容易に剥離することが可能であった。
【0046】
アルカリ水溶液処理および酸処理
得られた膜を、ステンレス枠に固定し、200℃、30分加熱した。その膜を、枠からはずし、1N-NaOH水溶液に、25℃で2時間浸漬後、水洗して、1N-H2SO4水溶液に4時間浸漬した。2回水洗後、ステンレス枠に固定して、50℃で乾燥した。得られた膜の厚みは35μmであり、50℃、60%RHでのプロトン伝導度は、8.0×10-3S/cmであった。一方、200℃で30分間加熱しただけの膜のプロトン伝導度は、同じ条件で2.3×10-3S/cmであった。
【0047】
(比較例1)
モノステアリルリン酸エステルトリエタノールアミン塩を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、製膜を行った。しかし、ステンレス板と強く密着しており、剥離を試みたが、端部から膜が裂けた。
【0048】
(実施例2)
ランダムコポリマーPRの合成
ビス(4−フルオロフェニル)スルホン 25.42g、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン 15.93g、4,4’−ビフェノール 6.77gを仕込み、ジメチルスルホキシド170mlとトルエン50mlを添加して窒素気流下、加熱、撹拌した。発生した水をトルエンと共に除去しながら175℃まで昇温し、その温度で16時間撹拌してポリマー溶液を調整した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を熱水中で2回、メタノール中で1回洗浄しポリマーPRを得た。得られたポリマーPRの溶液粘度ηsp/cは、0.53であった。
【0049】
ランダムコポリマーPRのスルホン化
ランダムコポリマーPRを98%硫酸200mlに20g溶解し、室温で24時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を水中で5回洗浄し、ポリマーSPRを得た。得られたポリマーのイオン交換容量は、1.41mmol/gであった。後述の方法で得られた膜のTEM観察で、相分離構造が観察されず均一であったことから、ランダムコポリマーであることを確認した。
SPRを20重量%となるようにN,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、セパール365(中京油脂)をポリマー成分に対し0.3重量%添加して、SPR溶液を調整した。この溶液をステンレス板(SUS304、厚み2mm、表面仕上げ0.8)上に流延し、130℃で1時間、熱風乾燥した。この膜は、ステンレス板から容易に剥離することが可能であった。この膜の厚みは、38μmであった。
【0050】
(比較例2)
セパール365(中京油脂)を添加しなかった以外は、実施例2と同様にして、製膜を行った。しかし、ステンレス板と強く密着しており、剥離を試みたが、端部から膜が裂けた。この膜の厚みは、37μmであった。
【0051】
(実施例3)
市販のポリ(オキシ−1,4−フェニレンオキシ−1,4−フェニレンカルボニル−1,4−フェニレン)(アルドリッチ、重量平均分子量約20,800、数平均分子量10,300、融点322℃)10gを98%硫酸100mlに溶解し、そのまま室温で45時間攪拌した。ポリマーを水で沈殿させ、洗浄水が中性になるまで大量の水で洗浄した。これを60℃で減圧乾燥し、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンを得た。得られたポリマーのイオン交換容量は、1.54mmol/gであった。
得られたスルホン化ポリエーテルエーテルケトンを20重量%となるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、セパール365(中京油脂)をポリマー成分に対し、0.5重量%添加して、溶液を調整した。この溶液をステンレス板(SUS304、厚み2mm、表面仕上げ0.8)上に流延し、130℃で1時間、熱風乾燥した。この膜は、ステンレス板から容易に剥離することが可能であった。この膜の厚みは、30μmであった。
【0052】
(比較例3)
セパール365(中京油脂)を添加しなかった以外は、実施例3と同様にして、製膜を行った。しかし、ステンレス板と強く密着しており、剥離を試みたが、端部から膜が裂けた。この膜の厚みは、33μmであった。
【0053】
(実施例4)
1、4、5、8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物13.41g、次の化学式、

の構造を有する芳香族ジアミン17.62g、1、3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン4.87g、m-クレゾール155g、トリエチルアミン12gを窒素気流(30mL/分)下、80℃で均一溶液になるまで攪拌した。温度を175℃まで昇温し、24時間攪拌し、スルホン化ポリイミド溶液を得た。得られた粘稠溶液(固形分20.8重量%、スルホン酸基がトリエチルアミン塩型で計算した)100gに、セパール365(中京油脂)をポリマー成分に対し、0.2重量%添加して、溶液を調整した。この溶液を、ステンレス板(SUS304、厚み2mm、表面仕上げ0.8)上に流延し、130℃で1時間、熱風乾燥した。この膜は、ステンレス板から容易に剥離することが可能であった。この膜の厚みは、27μmであった。
【0054】
(比較例4)
セパール365(中京油脂)を添加しなかった以外は、実施例4と同様にして、製膜を行った。しかし、ステンレス板と強く密着しており、剥離を試みたが、膜が切れて、剥離することができなかった。この膜の厚みは、27μmであった。
【0055】
(合成例1)
3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホンのナトリウム塩の合成。
ビス(4−フルオロフェニル)スルホン120gと30%発煙硫酸250gとをフラスコに仕込み、撹拌しながら110℃で6時間加熱した。得られた溶液を、氷水に徐々に投入し、食塩を加えて固形分を析出させた。得られた固形分を再度水に溶解し、NaOHで中和後、食塩を加えて固形分を析出させた。2-プロパノール/水(7/3)から2度再結晶し、乾燥して白色固体を得た。得られた白色個体は、H-NMRで7.4〜7.5ppm、7.9〜8.0ppm、8.1〜8.2ppmに、積分強度が1:1:1のシグナルが観察され、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホンのナトリウム塩であることを確認した。
【0056】
(実施例5)
ポリエーテルスルホンブロック共重合体PB2の重合
撹拌機、水分定量器、温度計、窒素導入管の付いた4つ口フラスコ中に、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン10.17g、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホンのナトリウム塩27.5g、4,4−ビフェノール18.9gおよび炭酸カリウム17.5gを仕込み、ジメチルスルホキシド210mlとトルエン50mlを添加して窒素気流下、加熱、撹拌した。発生した水をトルエンと共に除去しながら175℃まで昇温し、その温度で16時間撹拌して親水性プレポリマーHP2溶液を調整した。別に、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン81.47g、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン78.99g、炭酸カリウム52gを仕込み、ジメチルスルホキシド600mlとトルエン50mlを添加して窒素気流下、加熱、撹拌した。発生した水をトルエンと共に除去しながら175℃まで昇温し、その温度で16時間撹拌して疎水性プレポリマーSP2溶液を調整した。このSP2溶液をHP2溶液に添加し、170℃で、1.5時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を熱水中で2回、メタノール中で1回洗浄しブロック共重合体PB2を得た。得られたポリマーの溶液粘度ηsp/cは、0.61dl/gであった。また、イオン交換容量は、0.59mmol/gであった。
【0057】
ブロック共重合体PB2のスルホン化(SPB2の合成)
ブロック共重合体PB2を98%硫酸200mLに20g溶解し、室温で24時間撹拌した。溶液を多量の水に投入し、白色固体を析出させ、ろ別した。得られた固体を水中で5回洗浄し、親水性セグメントが、化学式(7)

[式中、pとqは、各構造単位のモル分率を示し、p=0.6、q=0.4である。]
で表されるランダム共重合体の構造であり、疎水性セグメントが、化学式(8)

で表される構造単位を有するスルホン化ブロック共重合体SPB2を得た。得られたポリマーのイオン交換容量は、1.46mmol/gであった。ブレンド物ならばスルホン化後水洗すると、水溶性親水性ポリマーが除去されイオン交換容量が大きく低下する。しかし、SPB2のイオン交換容量は、スルホン化前のPB2のビフェノール残基の各芳香環に1個づつスルホン酸基が導入したとして計算されるイオン交換容量1.49mmol/gとほぼ一致している。このことはSPB2はブレンド物ではなく、親水性セグメントと疎水性セグメントが結合していることを示している。また、後述と同様の方法で得られたSPB2膜のTEM観察で、相分離構造が見られたことから、SBP2は、ブロック共重合体である。疎水性セグメントはこのスルホン化条件ではスルホン化されないため、親水性セグメントのみがスルホン酸基を有する構造である。
【0058】
<製膜>
SPB2およびセパール365(中京油脂)をポリマー成分に対し、0.5重量%添加して、20重量%となるようにN,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、溶液を調整した。この溶液をステンレス板(SUS304、厚み2mm、表面仕上げ0.8)上に流延し、130℃で1時間、熱風乾燥した。この膜は、ステンレス板から容易に剥離することが可能であった。この膜の厚みは、24μmであった。
【0059】
(比較例5)
セパール365(中京油脂)を添加しなかった以外は、実施例3と同様にして、製膜を行った。しかし、ステンレス板と強く密着しており、剥離を試みたが、端部から膜が裂け、また、一部引き伸ばされた大きな変形が見られた。この膜の厚みは、27μmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流延法による強酸基あるいは超強酸基を有する高分子電解質膜の製造方法において、高分子電解質100重量部に対して、化学式1
【化1】

[式中、R1は水素原子または炭素数が6から18のアルキル基または化学式2
【化2】

(式中、R3は炭素数が5から18のアルキル基を示し、mは2から30の整数を示す。)
で示される基を表し、R2は炭素数が6から18のアルキル基または化学式2で示される基を表す。]
で示されるリン酸エステル、および/または、化学式3
【化3】

[式中、R4からR6は水素原子、ヒドロオキシエチル基または炭素数が1から12のアルキル基を表す。]
で示されるアミンと化学式1のリン酸エステルとの塩を0.0005から2重量部含有する高分子電解質溶液を支持体上に流延し、加熱して自己支持性膜になるまで溶剤を蒸発させ、支持体から自己支持性膜を剥離することを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で得られた高分子電解質膜を、さらに酸水溶液処理を行うことを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法で得られた高分子電解質膜を、アルカリ水溶液処理をし、さらに酸水溶液処理を行うことを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の高分子電解質が、炭化水素系高分子電解質であることを特徴とする請求項1から請求項3に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項5】
請求項4の炭化水素系高分子電解質が、主鎖に芳香環を有する芳香族系高分子電解質であることを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項6】
請求項5の芳香族高分子電解質が、化学式4
【化4】

[式中、Ar1、Ar2は、芳香族基であり、Z1は、酸素原子を示す。]
で表される構造単位を有する芳香族ポリエーテルであることを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1および請求項4から請求項6に記載の高分子電解質が、スルホン酸基を有する高分子電解質とスルホン酸基を有さないポリマーとの組成物であることを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1および請求項4から請求項7の高分子電解質が、スルホン酸基を有する親水性セグメントとスルホン酸基を有さない疎水性セグメントからなるブロック共重合体であることを特徴とする高分子電解質膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8に記載の高分子電解質膜の製造方法により製造されたことを特徴とする高分子電解質膜。


【公開番号】特開2007−59228(P2007−59228A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243728(P2005−243728)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】