説明

高分散性の導電性微粉末とその応用

【課題】酸性域からアルカリ域の幅広いpH域で高い分散性と優れた導電性を有する導電性微粉末分散液とその塗料組成物および透明導電膜を提供する。
【解決手段】pH2〜12の範囲で等電点を持たない導電性微粉末を、水、アルコール、またはアルコール以外の有機溶媒に、イオン性分散剤、非イオン性分散剤、高分子系分散剤、フッ素系分散剤、または両性化合物系分散剤の何れか1種又は2種以上と共に分散させたことを特徴とする導電性微粉末分散液、好ましくは、導電性微粉末がリン0.1〜5wt%および窒素10ppm〜5000ppmを含有した酸化スズ微粉末であり、分散液中の導電性粉末の累積重量95%粒子径〔D95〕が250nm以下である分散液、および該分散液を樹脂と導電性微粉末の含有量比が0.1〜10であるように熱硬化性樹脂ないし紫外線硬化性樹脂に混合してなる塗料組成物およびその透明導電膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性域からアルカリ域の幅広いpH域で高い分散性と優れた導電性を有する導電性微粉末を分散させた分散液と、この分散液を用いた塗料組成物、この塗料組成物によって形成された透明導電膜に関する。本発明の導電性微粉末分散液は幅広いpH域で高い分散性を有し、導電性および透明性に優れた導電膜を形成することができ、帯電防止・帯電制御・静電防止・防塵等の各種材料として利用することができる。
【背景技術】
【0002】
導電性粉末として酸化スズ粉末、アンチモンをドープした酸化スズ粉末(ATO粉末)などが従来から知られており、これらを塗料成分等に分散させた分散組成物によって導電膜が形成されている。しかし、ATO粉末はアンチモンの毒性が問題であるため、アンチモンに代えてゲルマニウム、リン、リチウム、亜鉛などを所定量ドープすることによって低抵抗で無害な白色導電性粉末が知られている(特許文献1)。
【0003】
一方、酸化スズはpH3〜6付近に等電点があり、ATOはpH2.5〜5付近に等電点をもつので、これらの酸化スズ系粉末はpHが中性域付近の溶媒中では粉末どうしの表面電荷による反発が小さくなるので粉末の分散性が悪く、凝集しやすいために均一な導電性を有する導電膜を形成するのが難しく、また膜に曇りを生じ、透明性が低下すると云う問題がある。
【0004】
そこで、これら酸化スズ系粉末の分散性を改善する手段が検討されてきた。例えば、これらの酸化スズ系粉末をシリカによって表面処理することが知られている。シリカの等電点はpH2〜3付近であり、酸化スズ系粉末をシリカで表面処理することによって、pHが中性付近域での分散性を高めることができる。ただし、この方法ではpH4以下の低pH領域では分散性が低下すると云う問題がある。
【0005】
一方、酸化スズやATOにリンをドープさせることによって分散性を高めることも知られている。例えば、特許第2818058号公報(特許文献2)には、酸化スズを導電性フィラーとして分散させた帯電防止膜を設けた光ディスクにおいて、リンを3〜7wt%ドープした酸化スズ粉末を用いることが記載されている。また、特許第3365821号公報(特許文献3)には、酸化スズを主成分とし、リンをP/Sn原子比で2.7×10-2〜1.4×10-1の割合で含有させた導電性微粉末が記載されている。
【0006】
しかし、これらの酸化スズ粉末の分散性は従来のものよりは改善されるものの、幅広いpH域で高い分散性を有するものではなく、分散性に限界がある。また、後者の酸化スズ粉末は800℃以上の高温で焼成することによって粉体抵抗を下げているが、一方で粉体の焼結が進行するために粗粒子化して比表面積が小さくなり、一次粒子にまで分散できないために分散液中で沈降し、透明性が大きく低下すると云う問題がある。
【0007】
さらに、透明導電膜については、膜の導電性および透明性と共に色味が問題になる場合がある。例えば、ATO粉末は青味が帯びているので、ATO粉末を用いた透明導電膜は光学フィルターなどには適さない。
【特許文献1】特公平2−32213号公報
【特許文献2】特許第2818058号公報(特開平5−135408号)
【特許文献3】特許第3365821号公報(特開平6−092636号)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の酸化スズ系粉末を用いた透明導電膜における上記問題を解決したものであり、分散性が良く、かつ導電性および透明性に優れた導電性微粉末を用いた分散液および該分散液を用いた塗料組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば以下の導電性微粉末分散液に関する。
(1)pH2〜12の範囲で等電点を持たない導電性微粉末を、水、アルコール、またはアルコール以外の有機溶媒に、イオン性分散剤、非イオン性分散剤、高分子系分散剤、フッ素系分散剤、または両性化合物系分散剤の何れか1種又は2種以上と共に分散させたことを特徴とする導電性微粉末分散液。
(2)導電性微粉末が、リン0.1〜5wt%および窒素10ppm〜5000ppmを含有した酸化スズ微粉末である上記(1)に記載する導電性微粉末分散液。
(3)導電性微粉末が、粉体体積抵抗率700〜9×106Ω・cm、およびBET比表面積100m2/g以上の酸化スズ微粉末である上記(1)または上記(2)に記載する導電性微粉末分散液。
(4)分散液中の導電性粉末の累積重量95%粒子径〔D95〕が250nm以下である上記(1)〜上記(3)の何れかに記載する導電性微粉末分散液。
【0010】
また、本発明によれば以下の塗料組成物、透明導電膜に関する。
(5)上記(1)〜上記(4)の何れかに記載する導電性微粉末分散液を熱硬化性樹脂に配合してなる塗料組成物。
(6)上記(1)〜上記(4)の何れかに記載する導電性微粉末分散液を、紫外線硬化性樹脂に、光反応開始剤と共に配合してなる塗料組成物。
(7)樹脂と導電性微粉末の含有量比が0.1〜10である上記(5)または上記(6)に記載する塗料組成物。
(8)上記(5)〜上記(7)の何れかに記載した塗料組成物によって形成された、表面抵抗値が1012Ω/□以下、膜厚5μmの光透過率が85%以上およびヘーズ値が3%以下、硬度3H以上の透明導電膜。
【発明の効果】
【0011】
本発明の分散液は、pH2〜12の範囲で等電点を持たない導電性微粉末をイオン性分散剤や高分子系分散剤等と共に用いているので、広い範囲の上記pH域を有する溶液中でも導電性微粉末が凝集し難く、分散性が良い。従って、本発明の導電性微粉末分散液によれば、優れた帯電防止効果を有し、また透明性が高く、低ヘーズであり、可視光透過率が非常に高く、平滑性、耐擦性にも優れた透明導電膜を形成することができる。
【0012】
本発明において用いる導電性微粉末としては、リン0.1〜5wt%および窒素10ppm〜5000ppmを含有した酸化スズ微粉末が好適であり、この酸化スズはpH2〜12の範囲で等電点を持たないので、溶液中で分散性に優れる。具体的には、液中の導電性粉末の累積重量95%粒子径〔D95〕が250nm以下である分散液を得ることができる。また、この酸化スズはアンチモンを含有する必要がないので、アンチモン毒性の問題が無く、安全性が高い。
【0013】
本発明の分散液は導電性微粉末の分散性が良いので、これを熱硬化性樹脂に配合した塗料組成物によって、あるいは光反応開始剤と共に紫外線硬化性樹脂に配合した塗料組成物によって、導電性に優れた導電膜を形成することができる。具体的には、例えば、リン0.1〜5wt%および窒素10ppm〜5000ppmを含有した粉体体積抵抗率700〜9×106Ω・cmおよびBET比表面積100m2/g以上の酸化スズ微粉末を上記分散剤と共に分散させた導電性微粉末分散液を用いた塗料組成物によって、表面抵抗値1012Ω/□以下、膜厚5μmの光透過率85%以上およびヘーズ値3%以下、硬度3H以上の透明導電膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施例と共に具体的に説明する。
本発明の導電性微粉末分散液は、pH2〜12の範囲で等電点を持たない導電性微粉末を、水、アルコール、またはアルコール以外の有機溶媒に、イオン性分散剤、非イオン性分散剤、高分子系分散剤、フッ素系分散剤、または両性化合物系分散剤の何れか1種又は2種以上と共に分散させたことを特徴とする分散液である。
【0015】
〔導電性微粉末〕
本発明で用いる導電性微粉末は、リンを0.1〜5wt%および窒素を10ppm〜5000ppm含有した酸化スズ微粉末が好ましい。上記含有量のリンおよび窒素を有する酸化スズ微粉末はpH2〜12の範囲で等電点を持たず、水やアルコール等の有機溶媒に分散させたときに分散性に優れた導電性微粉末分散液を得ることができる。
【0016】
酸化スズ中のリン含有量は0.1〜5wt%が好ましく、窒素含有量は10ppm〜5000ppmが好ましい。リンの含有量が0.1wt%よりも少なく、また窒素含有量が10ppmより少ないと、等電点を上記pH域から外す効果が不十分であり、凝集し易くなるので導電性が低下し、また導電性の経時的な安定性も低下する傾向がある。一方、リン含有量が5wt%より多いと、粉末のL値が低くなり、透明性が低下する傾向がある。また、窒素含有量が5000ppmより多いと、粉末の透明性が低下し、好ましい色調の範囲から外れるようになる。
【0017】
なお、酸化スズにリンをドープすることによって、酸化スズ微粉末の中性域での分散性を高めたものが従来知られているが、先に述べたように、これらの酸化スズ粉末の分散性は従来の酸化スズよりは改善されるものの、幅広いpH域で高い分散性を有するものではなく、分散性に限界がある。本発明の導電性微粉末は、酸化スズにリンと共に窒素を所定量含有させることによって、幅広い上記pH域においても高い分散性を有する。
【0018】
本発明のリン窒素含有酸化スズからなる導電性微粉末は、L値が60以上、a値が−3〜+3、b値が2〜8の色調を有することができる。L値が60より小さいと透明性が低くなり、a値が上記範囲を外れると緑色や赤味が濃くなり、またb値が8より高いと茶色が入り、また2より小さいと青色が入るようになるので好ましくない。
【0019】
本発明のリン窒素含有酸化スズからなる導電性微粉末は、粉体体積抵抗率700〜9×106Ω・cmの導電性を有することができる。湿式法によって酸化スズ微粉末を製造する際に、焼成温度を上げると一般に酸化スズ粉末の粉体体積抵抗率は低下するが、この抵抗率が700Ω・cmより低くなるまで焼成温度を高くすると、粉末の焼結が進行するため粉末の分散性が低下し、透明性が低下する。一方、粉体体積抵抗率が9×106Ω・cmよりも高いと導電性が低過ぎるので好ましくない。本発明のリン窒素含有酸化スズ微粉末は高い透明性と共に優れた導電性を有することができる。
【0020】
本発明のリン窒素含有酸化スズからなる導電性微粉末は、100m2/g以上のBET比表面積を有することができる。本発明の酸化スズ微粉末は、湿式法による酸化スズの製造方法において、酸化スズにリンと窒素をドーピングすることによって、酸化スズ粉末を焼成する際に焼成温度を下げることができ、焼結によって粉末が粗粒子化するのを避けることができるので、BET比表面積100m2/g以上の微粉末を得ることができる。本発明のリン窒素含有酸化スズからなる導電性微粉末はBET比表面積が大きく、微細であるので、透明性と導電性に優れた透明導電膜を形成することができる。
【0021】
〔導電性微粉末分散液〕
本発明の導電性微粉末分散液は、媒体の溶液として水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、アセトン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、テトラクロロメタン、トリクロロエチレン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミルやエーテル/アルコール、エーテル/エステル等、およびこれらの混合溶液、あるいは珪酸ソーダ等が用いられる。
【0022】
本発明の導電性微粉末分散液は、上記リン窒素含有酸化スズ等からなる導電性微粉末を分散剤と共に上記媒体溶液に分散させたものである。分散剤としては、アニオン性、カチオン性、非イオン性分散剤、高分子系分散剤、両性化合物系分散剤、フッ素系化合物分散等を用いることができる。具体的には、例えば、以下の市販分散剤を使用すると良い。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。特に好ましくは、カチオン性分散剤や高分子系分散剤がよい。
【0023】
〔I〕ソルスパース13940、ソルスパース13240、ソルスパース13940、ソルスパース32550、ソルスパース31845、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000、ソルスパース41090、ソルスパース20000(アビシア社製)
〔II〕ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック164、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック191、ディスパービック192、ディスパービック2001、ディスパービック2050(ビックケミー社製)
〔III〕EFKA−46、EFKA−47、EFKA−48、EFKA−49、EFKA−1501、EFKA−1502、EFKA−1540、EFKA−1550、ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453(EFKAケミカル社製)
〔IV〕アジスパーPB711、アジスパーPA111、アジスパーPB811、アジスパーPB821、アジスパーPW911(味の素株式会社製)
〔V〕フローレンDOPA−158、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−17、フローレンTG−700、フローレンTG−720W、フローレン−730W、フローレン−740W、フローレン−745W(共栄社化学社製)
〔VI〕ジョンクリル678、ジョンクリル679、ジョンクリル62(ジョンソンポリマー社製)
【0024】
本発明の分散液は、分散液中の導電性粉末の累積重量95%粒子径〔D95〕が250nm以下であって、該分散液の色味がL値30〜55、a値−2〜+2、b値−4〜+4である導電性微粉末分散液を得ることができる。この分散液を用いたコーティング組成物によれば透明性が高く、かつ青色等の色味のない導電膜を形成することができる。なお、分散液中の導電性粉末(酸化スズ微粉末)の累積重量95%粒子径〔D95〕は、動的光散乱方式粒度分布計やレーザー回折粒度分布計等を用いて測定することができる。D95が250nmよりも大きいと粉末が沈降し、透明性が低下する傾向がある。
【0025】
〔塗料組成物〕
本発明の上記導電性微粉末分散液を塗料成分の樹脂と混合することによって透明導電膜を形成するコーティング組成物(塗料組成物)を得ることができる。樹脂は熱硬化性樹脂あるいは紫外線硬化性樹脂などが用いられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール、アクリル、エポキシ、ウレタン、キシレン、フラン、ユリア、メラミン、シロキサン、ジアリルフタレート樹脂等があげられる。
【0026】
紫外線硬化性樹脂としては、例えば、アクリレート系樹脂としてウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂、またはエポキシ樹脂等が挙げられる。本発明ではアクリレート系樹脂が好ましく用いられる。アクリルウレタン系樹脂は、一般にポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー、またはプレポリマーを反応させて得られた生成物に更に2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下アクリレートにはメタクリレートを包含するものとしてアクリレートのみを表示する)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の水酸基を有するアクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることができる。市販品として例えば、ユニディックV−4000BA(大日本インキ社製)等が好ましく用いられる。
【0027】
紫外線硬化性樹脂と共に光反応開始剤が添加される。光反応開始剤としては、具体的には、ベンゾイン及びその誘導体、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、α−アミロキシムエステル、チオキサントン等及びこれらの誘導体を挙げることができる。光増感剤と共に使用してもよい。上記光反応開始剤も光増感剤として使用できる。また、エポキシアクリレート系の光反応開始剤の使用の際、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等の増感剤を用いることができる。紫外線硬化樹脂組成物に用いられる光反応開始剤また光増感剤は該樹脂100重量部に対して0.1〜15重量部が適当であり、1〜10重量部が好ましい。
【0028】
上記塗料組成物において、固形分である樹脂と導電性微粉末の含有量比(樹脂量/導電性微粉末量)は0.1〜10が適当であり、1〜5が好ましい。この含有量比が0.1未満であると、塗膜を形成したときに表面抵抗値が1012Ω/□以下の導電性は得られるものの、光透過率が85%未満となり透明性が得にくい。一方、上記含有量比が10を上回ると85%以上の光透過率で透明性は得られるものの、表面抵抗値が1013Ω/□以上となり導電性が得にくくなる。上記含有量比が1〜5のものは高透明な導電性の良い膜が得られる。具体的には、表面抵抗値1012Ω/□以下、膜厚5μmの光透過率85%以上およびヘーズ値3%以下の透明導電膜を形成することができる。
【0029】
また、本発明の透明導電膜は膜硬度が高く、具体的には、好ましくは鉛筆硬度3H以上の透明導電膜を形成することができる。
【0030】
〔製造方法〕
本発明において、導電性微粉末として用いるリン窒素含有酸化スズは、リン酸存在下で水酸化スズを沈澱させ、該沈澱を乾燥後、窒素雰囲気下において、リンを0.1〜5wt%および窒素を10ppm〜5000ppm含有するように、400〜750℃で焼成することによって製造することができる。焼成温度が400℃よりも低いと窒素を上記含有量ドープさせることが難しい。また、焼成温度が750℃より高いと粒子の焼結が進行して粗粒子化する傾向があるので好ましくない。リン酸含有量はリン酸濃度を調整し、また窒素含有量は窒素濃度ないし焼成時間を調整することによって制御すれば良い。
【0031】
〔利用分野等〕
本発明の分散液、塗料組成物、および塗膜は、好ましくはリン窒素含有酸化スズからなる導電性微粉末を用いており、この酸化スズ微粉末はアンチモンを含有する必要がないので、アンチモンの毒性が問題視される分野、例えば食品包装材や梱包材の材料として好適である。
【0032】
また、本発明の導電性微粉末分散液は、塗料、インク、エマルジョン、繊維、その他のポリマーに混合することによって、導電性微粉末を容易に分散させることができる。従って、例えば、塗料成分に混合して導電性微粉末の分散性に優れた塗料組成物を得ることができ、これによって高透明性および導電性に優れた薄膜を形成することができる。
【0033】
さらに、本発明の塗料組成物およびその塗膜は導電性と共に高い透明性を有するので、埃付着防止が要求されるプラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ、CRT、ブラウン管等の分野の材料として好適である。また、薄膜塗料分野、太陽電池、液晶ディスプレイ等の内部電極、更には電極改質剤として電池等の分野における材料として好適である。
【0034】
また、本発明の塗料組成物によって形成した塗膜は導電性に優れるので、静電記録材料として荷電制御が要求されるプリンタ、複写機関連の帯電ローラー、感光ドラム、トナー、静電ブラシ等の分野、ガスセンサー用焼結体原料粉末、光ディスク、FD、テープ等の磁気記録媒体などの各分野に広く用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、等電点は水酸化ナトリウムおよび硝酸を用いてpHを調整した水に粉末を分散させてゼータ電位測定方法によって測定した。粉末の粉体体積抵抗率は、横河電機製測定装置(DM-7561)を用い、試料5gで100kg/cm2加圧にて測定した。粉末のBET比表面積は柴田化学社製の迅速表面積測定装置(SA-1100型)を用いた。粒子径は堀場製作所社製品(LB550)を用いて体積粒子径基準にて測定した。塗膜の表面抵抗は三菱油化社製装置(ハイレスタ表面高抵抗計HT-210)、ヘーズ、光透過率はスガ試験機社製装置(SMカラーコンピューターSM-7-IS-2B)、膜強度は鉛筆硬度試験機をそれぞれ用いて測定した。
分散液中の酸化スズ微粉末の累積重量95%粒子径〔D95〕は堀場製作所社製の動的光散乱式粒径分布測定装置LB−550によって測定した。
【0036】
〔実施例1〕
塩化スズ溶液にリン酸、珪酸ソーダを加え、苛性ソーダ溶液を添加して沈殿物を生成させた。その後、この沈殿物を窒素雰囲気下で十分乾燥した後、窒素雰囲気下、表1に示す温度で焼成してリンおよび窒素含有酸化スズを得た。この酸化スズを粉砕し、表1に示す酸化スズ微粉末を得た。この酸化スズ微粉末のリン含有量、窒素含有量、BET比表面積、等電点、L、a、bの各値、粉体体積抵抗率を表1に示した。
この酸化スズ微粉末(A1〜A5)30gを、カチオン性分散剤5gと共に、メチルエチルケトン400gに分散させて分散液を調製した。この分散液の性状を表2に示した(試料No.C1〜C5)。この分散液を市販のウレタンアクリレート系樹脂(商品名:ユニディックV-4000BA、固形分80%)と混合して樹脂分70gになるように調整し、ダイノーミルでビーズ分散して塗料組成物を得た。この塗料組成物をPETフィルム(厚み100mm、ヘーズ1.8%、光透過率90%)の表面に市販の自動アプリケータ(RODNo.3)を用いて塗布し、膜厚5μmの薄膜を形成した。この薄膜にUV照射した後、表面抵抗、光透過率、ヘーズを測定した。この結果を表2に示した(試料No.C1〜C5)。
【0037】
〔実施例2〕
実施例1で、カチオン性分散剤を高分子系分散剤に変えた以外は同様にして塗料組成物を得た。この塗料組成物をPETフィルム(厚み100mm、ヘーズ1.8%、光透過率90%)の表面に市販の自動アプリケータ(RODNo.3)を用いて塗布し、膜厚5μmの薄膜を形成した。この薄膜にUV照射した後、表面抵抗、光透過率、ヘーズを測定した。この結果を表2に示した(試料No.D1〜D5)。
【0038】
〔参考例〕
表1の酸化スズ微粉末(A1)300gを、トルエン516g、キシレン516gに分散して分散液を調製した。この分散液を市販のアクリル樹脂(商品名:アクリディックA-168、樹脂分50wt%)258gと混合し、ダイノーミルでビーズ分散して塗料組成物を得た。この分散液の性状を表2に示した(試料No.S1)。また、この塗料組成物をPETフィルム(厚み100mm、ヘーズ1.8%、光透過率90%)の表面に市販の自動アプリケータ(RODNo.3)を用いて塗布し、膜厚5μmの薄膜を形成した。この薄膜にUV照射した後、表面抵抗、光透過率、ヘーズを測定した。この結果を表2に示した(試料No.S1)。
【0039】
〔比較例1〕
窒素を含有せず、かつリンの含有量を表1に示すように調整した以外は実施例1と同様にして酸化スズ微粉末を得た。この酸化スズ微粉末の性状を表1に示し、酸化スズ微粉末を含有する薄膜の性状を表2に示した(試料No.B1〜B2)。
この酸化スズ微粉末30gを、カチオン性分散剤5g、メチルエチルケトン400gに分散して分散液を調製した。この分散液を市販のポリウレタンアクリレートエマルジョンに混合し、樹脂分70gになるように調整し、ダイノーミルでビーズ分散して塗料組成物を得た。この分散液の性状を表2に示した(試料No.E1〜E2)。また、この塗料組成物をPETフィルム(厚み100mm、ヘーズ1.8%、光透過率90%)の表面に市販の自動アプリケータ(RODNo.3)を用いて塗布し、膜厚5μmの薄膜を形成した。この薄膜にUV照射した後、表面抵抗、光透過率、ヘーズを測定した。この結果を表2に示した(試料No.E1〜E2)。
【0040】
〔比較例2〕
実施例1で、分散剤の添加をしなかった以外は同様にして分散液を調製した。この分散液を市販のウレタンアクリレート系樹脂(商品名:ユニディックV-4000BA、固形分80%)と混合して樹脂分70gになるように調整し、ダイノーミルでビーズ分散して塗料組成物を得た。この塗料組成物をPETフィルム(厚み100mm、ヘーズ1.8%、光透過率90%)の表面に市販の自動アプリケータ(RODNo.3)を用いて塗布し、膜厚5μmの薄膜を形成した。この薄膜にUV照射した後、表面抵抗、光透過率、ヘーズを測定した。この結果を表2に示した(試料No.F1〜F5)。
【0041】
本発明で用いた酸化スズ微粉末(試料No.A1〜A5)は何れもリンと共に窒素を所定量含有するので、等電点が測定されない。また、この酸化スズ微粉末の分散液は分散剤と共に上記酸化スズ微粉末を分散させているので分散性が良く、D95の粒子径が何れも250mm以下であり、大部分は200mm以下である。従って、表面抵抗が比較試料(No.E1〜F5)よりも低い導電膜を形成することができる。また、本発明の分散液はL値70以上であって明るく、a値およびb値も小さいので白色度が良好であり、この分散液を用いて塗料組成物によって形成した導電膜の光透過率は85%以上、大部分は88%以上であり、ヘーズも3.0以下、大部分は2.5以下であって透明度が高い。
【0042】
一方、リンおよび窒素を含まない酸化スズ微粉末(No.B1〜B2)はpH3.4に等電点を有し、従って、分散液中で凝集しやいので、薄膜の表面抵抗が本発明の酸化スズ微粉末よりも大きい。また、リンのみを10wt%含有する比較試料No.B2はリン含有量が過剰であるためにL値が低く、粉体体積抵抗率および薄膜の表面抵抗が何れも大幅に高い。この酸化スズ微粉末を用いた比較例1の分散液(試料No.E1〜E2)は、塗料組成物によって形成した薄膜上において導電パスが構成されず、また導電フィラーとなっている酸化スズ微粉末の粉体抵抗が高いことによるものである。比較試料NoB1においては、pH2〜12の範囲で等電点を持つため、分散剤の種類によっては分散効果が得られず、形成した薄膜が白化し、ヘーズが大幅に高くなり、透明性低くなる。
また、比較例2の分散液(試料No.F1〜F5)は、本発明の試料No.C1〜D5に比較すると、表面抵抗、光透過率およびヘーズ特性がやや劣る。分散剤添加の有無により、液中での導電フィラーの分散状態が異なり、これら分散液を用いて塗料組成物を調製し、薄膜に塗布した場合、分散剤を添加した方がより望ましい導電パスを構成するからである。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH2〜12の範囲で等電点を持たない導電性微粉末を、水、アルコール、またはアルコール以外の有機溶媒に、イオン性分散剤、非イオン性分散剤、高分子系分散剤、フッ素系分散剤、または両性化合物系分散剤の何れか1種又は2種以上と共に分散させたことを特徴とする導電性微粉末分散液。
【請求項2】
導電性微粉末が、リン0.1〜5wt%および窒素10ppm〜5000ppmを含有した酸化スズ微粉末である請求項1に記載する導電性微粉末分散液。
【請求項3】
導電性微粉末が、粉体体積抵抗率700〜9×106Ω・cm、およびBET比表面積100m2/g以上の酸化スズ微粉末である請求項1または請求項2に記載する導電性微粉末分散液。
【請求項4】
分散液中の導電性粉末の累積重量95%粒子径〔D95〕が250nm以下である請求項1〜請求項3の何れかに記載する導電性微粉末分散液。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れかに記載する導電性微粉末分散液を熱硬化性樹脂に配合してなる塗料組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項4の何れかに記載する導電性微粉末分散液を、紫外線硬化性樹脂に、光反応開始剤と共に配合してなる塗料組成物。
【請求項7】
樹脂と導電性微粉末の含有量比が0.1〜10である請求項5または請求項6に記載する塗料組成物。
【請求項8】
請求項5〜請求項7の何れかに記載した塗料組成物によって形成された、表面抵抗値が1012Ω/□以下、膜厚5μmの光透過率が85%以上およびヘーズ値が3%以下、硬度3H以上の透明導電膜。

【公開番号】特開2008−140605(P2008−140605A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323891(P2006−323891)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)株式会社ジェムコ (151)
【Fターム(参考)】