説明

高周波用誘電体磁器組成物、及び誘電体部品

【課題】より低温で焼成を行っても所望の比誘電率やQ値を得ることができ、かつ焼成後の機械的強度が良好な高周波用誘電体磁器組成物、及び低温焼成と電極の密着強度の両立が可能な誘電体部品を実現する。
【解決手段】高周波用誘電体磁器組成物は、主成分が、一般式xMgO・ySiO(ただし、xはMgOのモル数、yはSiOのモル数を示す。)で表されると共に、前記xとyの比x/yが、1.8≦x/y<2.0を満足し、かつ、Ba及びSrのうちの少なくともいずれか一方が、前記主成分100重量部に対し、炭酸塩に換算して総計で3.0重量部を超え、かつ10.0重量部以下の含有量で含まれている。また、誘電体部品としての誘電体アンテナは、磁器素体1が高周波用誘電体磁器組成物で形成され、また電極部2はめっき形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波用誘電体磁器組成物、及び誘電体部品に関し、より詳しくは、マイクロ波やミリ波帯等の高周波帯で使用される高周波用誘電体磁器組成物、及びこれを使用した誘電体アンテナ等の誘電体部品に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波やミリ波帯等の高周波帯で使用される誘電体アンテナ等の誘電体部品では、比誘電率εrが低く、Q値の大きい(誘電損失tanδの小さい)誘電体材料が要求される。そして、このような高周波用途に適合した誘電体材料として、従来より、フォルステライト(2MgO・SiO(MgSiO))が広く用いられている。
【0003】
しかしながら、このフォルステライトは、完全に焼結させるためには1500℃を超える高温で焼成させる必要があり、このため生産性に劣り、コスト高を招くという欠点があった。
【0004】
このような欠点を解消する技術として、例えば、特許文献1には、一般式:xMgO−ySiO(ただし、x、yは各成分の重量百分率を表し、40≦x≦85、15≦y≦60、x+y=100である)で表される組成を有する磁器組成物に、焼結することによりバリウム酸化物となる物質(Ba源)及び焼結することによりストロンチウム酸化物となる物質(Sr源)の一方または両方を、それぞれBaCOまたはSrCOに換算して、その合量が0.3〜3.0重量%になるような割合で添加した高周波用誘電体磁器組成物が提案されている。
【0005】
この特許文献1では、主成分をフォルステライト(2MgO・SiO)の理論組成とするか、又は理論組成から若干ずらした組成とし、かつBa及びSrの少なくともいずれか一方を炭酸塩に換算して0.3〜3.0重量%添加することにより、1350〜1400℃の低温で焼成しても、10GHzにおける比誘電率εrが6.4〜8.0と比較的低く、かつQ値が3400〜7200と大きな値を得ることが可能である。
【0006】
【特許文献1】特許第3446249号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1は、純粋なフォルステライト組成に比べると、1350〜1400℃という低温での焼成を行うことが可能であるが、焼成温度の低温化が未だ十分ではなく、生産性に劣り、このため更なる低コスト化を図るべく改善が要求されている。
【0008】
また、誘電体アンテナ等の誘電体部品では、一般に、磁器素体にめっき処理を行うことにより電極を形成している。そしてこの場合、電極と磁器素体との密着性を向上させる観点から、通常はめっき処理の前処理工程で、磁器素体を酸に浸漬し、エッチングを行って表面を粗化している(以下、この酸によるエッチングを「酸エッチング」と記す。)。
【0009】
しかしながら、特許文献1の高周波用誘電体磁器組成物では、焼成後の磁器素体の緻密化が不十分であり、このため、磁器素体を酸に浸漬して酸エッチングを行うと、磁器素体の表面が酸で浸食されて脆化し、その結果電極の密着強度が低下するという問題があった。
【0010】
この場合、磁器素体の緻密化のみに着目すると、焼成温度を高くすることにより解決することは可能であるが、焼成温度を高くすると、上述したように生産性が悪化し、コスト高を招くおそれがある。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、より低温で焼成を行っても所望の比誘電率やQ値を得ることができ、かつ焼成後の機械的強度が良好な高周波用誘電体磁器組成物、及びこの高周波用磁器組成物を使用することにより、低コストでもって誘電特性と機械的強度の両立が可能な誘電体部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するためにMg−Si酸化物系材料について鋭意研究を行ったところ、MgOとSiOとのモル比を所定範囲に限定し、かつBa及びSrのうちの少なくとも一方を添加すると共に、これら添加物の総量を所定範囲に限定することにより、より低温で焼成を行っても所望の比誘電率やQ値を得ることができ、かつ焼成後の機械的強度が良好な高周波用誘電体磁器組成物を得ることができるという知見を得た。
【0013】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る高周波用誘電体磁器組成物は、主成分が、一般式xMgO・ySiO(ただし、xはMgOのモル数、yはSiOのモル数を示す。)で表されると共に、前記xとyの比x/yが、1.8≦x/y<2.0を満足し、かつ、Ba及びSrのうちの少なくともいずれか一方が、前記主成分100重量部に対し、炭酸塩に換算して総計で3.0重量部を超え、かつ10.0重量部以下の含有量で含まれていることを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係る誘電体部品は、磁器素体の表面に電極部が形成された誘電体部品において、前記磁器素体が、上記高周波用誘電体磁器組成物で形成されていることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の誘電体部品は、前記電極部が、めっき処理により形成されていることを特徴としている。
【0016】
さらに、本発明の誘電体部品は、前記電極部が、少なくとも放射電極と給電電極とを有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の高周波用誘電体磁器組成物によれば、主成分が、一般式xMgO・ySiO(ただし、xはMgOのモル数、yはSiOのモル数を示す。)で表されると共に、前記xとyの比x/yが、1.8≦x/y<2.0を満足し、かつ、Ba及びSrのうちの少なくともいずれか一方が、前記主成分100重量部に対し、炭酸塩に換算して総計で3.0重量部を超え、かつ10.0重量部以下の含有量で含まれているので、焼成温度のより一層の低温化が可能となる。
【0018】
すなわち、x/yを2.0未満とすることにより、主成分はMgSiOとMgSiOとの混晶となる。そして、上述した範囲でBa及び/又はSrを主成分に添加させることにより、Mg−Si−Ba及び/又はSrからなるガラス相が形成される。そして、このガラス相の作用により、焼成温度のより一層の低温化が可能となり、生産性が向上し、低コスト化が可能となる。
【0019】
しかも、このようにガラス相を形成しておくことにより、焼成後の磁器素体を酸に浸漬して酸エッチングを行っても、表面が酸に過度に浸食されて脆化するのを回避することができ、これにより機械的強度を確保することが可能となる。
【0020】
また、本発明の誘電体部品によれば、磁器素体の表面に電極部が形成された誘電体部品において、前記磁器素体が、上記高周波用誘電体磁器組成物で形成されているので、より低温で焼成を行っても所望の比誘電率やQ値を維持しつつ、機械的強度が良好な磁器素体を備えた誘電体部品を得ることができる。
【0021】
また、前記電極部が、めっき処理により形成されているので、めっき処理の前処理工程で酸エッチングによる表面粗化処理を行っても、磁器素体の脆化を招くこともなく、良好な電極の密着強度を有する誘電体部品を得ることができる。
【0022】
具体的には、焼成温度を1350℃未満の低温で行っても、高周波用途に適した所望の誘電特性を確保できると共に、電極の密着強度が高い誘電体部品を得ることができる。
【0023】
このように本発明によれば、低温焼成化と密着強度の両立が可能な誘電体部品を安価に得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0025】
本発明の一実施の形態としての高周波用誘電体磁器組成物は、主成分が一般式(A)で表される。
【0026】
xMgO・ySiO…(A)
ここで、xはMgOのモル数、yはSiOのモル数であり、x、yは数式(1)を満足している。
【0027】
1.8≦x/y<2.0…(1)
すなわち、本発明の高周波用誘電体磁器組成物は、主成分が、フォルステライトであるMgSiO(2MgO・SiO)とMgSiOとの混晶で形成されている。
【0028】
そして、上記高周波用誘電体磁器組成物は、Ba及びSrのうちの少なくともいずれか一方が、前記主成分100重量部に対し、炭酸塩に換算して総計で3.0重量部を超え、かつ10.0重量部以下の含有量で含まれている。すなわち、BaCOの含有量α、及びSrCOの含有量βが、主成分100重量部に対し、数式(2)を満足している。
【0029】
3.0<α+β≦10.0…(2)
そして、これにより1350℃未満の低温で焼成しても、良好な比誘電率εr及びQ値を有し、かつ電極の密着強度の高い誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0030】
その理由は以下の通りである。
【0031】
主成分であるxMgO・ySiOは、x/yが2.0の場合はMgSiOであるが、2.0未満の組成領域では、MgSiOとMgSiOの混晶となる。
【0032】
そして、x/yが2.0未満の組成領域において、Ba及びSrの少なくともいずれか一方を添加すると、これらBa及び/又はSrがMgSiOと反応する。その結果、Mg−Si−Ba及び/又はSrからなるガラス相(例えば、BaMgSi、SrMgSi等)が形成される。そして、このガラス相の作用により1350℃未満の低温での焼成が可能となる。
【0033】
また、誘電体部品を作製する場合、通常、誘電体磁器組成物を焼成して得られる磁器素体に対し、めっき処理を施し、これにより磁器素体の表面に電極を形成する。この場合、電極の密着強度を向上させるために、前処理として表面粗化処理が行われる。
【0034】
しかしながら、MgSiOは焼成温度を低下させる作用を有するものの、x/yを2.0未満として主成分をMgSiOとMgSiOの混晶としたのみでは、表面粗化処理での酸エッチングにより、磁器素体の表面が酸で過度に浸漬されるおそれがある。そしてその結果、磁器素体の表面が脆化し、めっき処理後の電極の密着強度が低下する。
【0035】
そこで、本実施の形態では、主成分にBa及び/又はSrを添加してガラス相を形成しておき、これにより酸エッチングを行っても磁器素体の表面が脆化するのを回避するようにしている。そしてその結果、磁器素体の表面にめっき処理を施して電極を形成しても、十分な密着強度を有する誘電体部品を得ることが可能となる。
【0036】
以下、x/y、及び(α+β)を数式(1)、(2)示す範囲に限定した理由を述べる。
【0037】
(1)x/y
x/yを2.0未満として主成分をMgSiOとMgSiOとの混晶とすることにより、MgSiOはBa及び/又はSrと反応して低温焼成化に効果的なガラス相を形成する。
【0038】
しかしながら、x/yが1.80未満になると、MgSiOの含有量が過剰となり、未反応のMgSiOが残存し、その結果、酸エッチングにより磁器素体が浸食されてその表面が脆化し、電極を形成した場合に十分な密着強度を得ることができなくなる。
【0039】
そこで、本実施の形態では、x/yが1.8≦x/y<2.0となるように、MgOとSiOのモル数を調製している。
【0040】
(2)α+β
上述したようにBa及び/又はSrを添加してMgSiOと反応させることによりMg−Si−Ba及び/又はSrからなるガラス相を形成することができ、これにより低温焼成と電極の密着強度の向上を両立させることが可能となる。
【0041】
しかしながら、BaCO、SrCO換算で、Ba、Srの含有量の総計(α+β)が、主成分100重量部に対し3.0重量部以下の場合は、Ba及び/又はSrの含有量が少ないため、十分にガラス相を形成することができず、低温での焼成が困難となる。また、未反応のMgSiOが存在するため、酸エッチング時に磁器素体が浸食され易く、このため磁器素体の表面が過度に粗くなって脆化し、電極の密着強度も低下する。
【0042】
一方、BaCO、SrCOの含有量の総計(α+β)が、主成分100重量部に対し10.0重量部を超えると、前記ガラス相が過剰となる。そしてこの場合も酸エッチングによる溶解量が過度に増加し、電極の密着強度の低下を招くおそれがある。
【0043】
そこで、本実施の形態では、主成分100重量部に対するBaCOの含有量α、SrCOの含有量βの総計(α+β)は、主成分100重量部に対し、3.0重量部を超え、かつ10.0重量部以下となるように添加量を調製している。
【0044】
尚、Ba、Srは、少なくともいずれか一方が主成分100重量部に対し、3.0重量部を超え、かつ10.0重量部以下の含有量で含まれていればよく、したがってBaのみ、又はSrのみ、或いはBaとSrの双方が含まれる場合がある。
【0045】
次に、上記高周波用誘電体磁器組成物を使用した誘電体部品について説明する。
【0046】
図1は誘電体部品の一実施の形態としての誘電体アンテナの斜視図であり、図2は縦断面図である。
【0047】
すなわち、この誘電体アンテナは、上記高周波用誘電体磁器組成物で形成された磁器素体1と、該磁器素体1の表面に形成された電極部2とを備えている。また、この電極部2は、電源を供給する給電電極2aと、接地電極2bと、放射電極2cとを有し、これら各電極2a〜2cは互いに電気的に絶縁されている。
【0048】
この誘電体アンテナは以下のようにして製造することができる。
【0049】
まず、セラミック素原料として、MgO、SiO、BaCO及び/又はSrCOを用意する。
【0050】
次に、主成分が一般式(A)からなり、かつ上記数式(1)、(2)を満足するように、これらセラミック素原料を秤量する。そして、これら秤量物をジルコニアボール等の粉砕媒体や溶媒としての水と共にボールミルに投入し、湿式で十分に混合粉砕し、蒸発乾燥させて混合物を得る。次いで、この混合物を1100℃程度の温度で2時間仮焼し、仮焼粉末を作製する。
【0051】
次に、この仮焼粉末に適量のバインダを添加して造粒し、加圧してプレス成形し、所定寸法の成形体を作製する。
【0052】
そしてこの後、この成形体を1350℃未満の温度下、所定時間保持して焼成し、これにより磁器素体1が得られる。
【0053】
次に、この磁器素体1を硫酸や塩酸等の酸中に浸漬して酸エッチングを行い、該磁器素体1の表面粗化処理を行う。その後、無電解めっき法等でめっき処理を行い、電極部2を形成し、これにより誘電体アンテナが得られる。
【0054】
このように上記誘電体アンテナは、磁器本体1が、上記高周波用誘電体磁器組成物で形成されているので、1350℃未満の従来よりも低温で焼成を行っても結晶組織が緻密で所望の比誘電率やQ値を有する誘電体アンテナを得ることができ、また生産性向上を図ることが可能となる。
【0055】
また、めっき処理の前処理工程で酸エッチングによる表面粗化処理を行っても、磁器素体1の脆化を招くこともなく、したがって電極の密着強度が高く良好な機械的強度を有する誘電体アンテナを得ることができる。
【0056】
すなわち、本実施の形態によれば、低温焼成と機械的強度の両立が可能な誘電体アンテナを低コストで得ることができる。
【0057】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態ではプレス加工して成形体を作製しているが、いわゆるシート工法により成形体を作製してもよい。
【0058】
また、上記実施の形態では、誘電体部品として誘電体アンテナについて、説明したが、他の誘電体部品、例えば回路素子用基板や誘電体共振器用支持台等にも同様に適用できるのはいうまでもない。
【0059】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0060】
セラミック素原料として、MgO、SiO、BaCOを用意し、表1に示すような組成となるように、これらセラミック素原料を秤量した。尚、表1中、BaCOの含有量αは、主成分100重量部に対する含有量を示している。
【0061】
次に、これら秤量物をジルコニアボール及び水と共にボールミルに投入し、湿式粉砕を12時間行った後、蒸発乾燥し、混合物を得た。そしてこの後、この混合物を1100℃で2時間仮焼し、仮焼粉末を得た。
【0062】
次に、この仮焼粉末に適量のバインダを添加して造粒し、加圧してプレス成形し、直径15mm、厚み7.5mmの成形体を得た。
【0063】
次いで、この成形体を1300又は1360℃で4時間保持して焼成し、試料番号1〜13の磁器素体を作製した。
【0064】
次に、これら試料番号1〜13のうち、試料番号1、試料番号3、及び試料番号4について、X線回折装置を使用してX線回折を行った。
【0065】
図3はその測定結果を示している。横軸は回折角2θ(°)、縦軸はX線強度(a.u.)である。また、図中、●印はMgSiO、▼印はMgSiO、◇印はBaMgSiの検出点を示している。
【0066】
試料番号1、3、及び4は、いずれもx/yが1.90であり、またBaCOの含有量が、主成分100重量部に対し、それぞれ2.0、5.0、及び10重量部の試料である。
【0067】
この図3から明らかなように、試料番号1は、●印上のみならず▼印上にもX線強度のピークが発生しており、磁器素体中にMgSiOが含有されているのが分かる。これはBaCOの含有量が、主成分100重量部に対し、2.0重量部と少ないため、ガラス相が十分に形成されず、MgSiOがMgSiOと共に残存しているものと思われる。
【0068】
これに対し試料番号3、4は、●印上にはX線強度のピークが発生しているが、▼印上にはX線強度のピークが発生していない。すなわち、BaCOの含有量が、主成分100重量部に対し、それぞれ5.0、及び10重量部であり、試料番号1に比べて多く、このためMgSiOがBaと十分に反応し、その結果、MgSiOが消失したものと思われる。
【0069】
また、試料番号4は、主成分100重量部に対し、10重量部のBaCOが含有されており、このためBaMgSiのガラス相が顕著に存在している。
【0070】
次に、試料番号1〜13の各試料について、誘電体共振器法を使用し、12GHzの共振周波数で比誘電率εr、及びQ値を測定した。
【0071】
また、これら試料番号1〜13の各試料を硫酸に浸漬し、試料表面を酸エッチングし、その後無電解めっき法を使用し、厚み4μmの銅電極を試料表面の全域に形成した。
【0072】
次に、直径0.5mmの貫通穴が形成された縦1.3mm、横1.6mm、厚み1.5mmの金属端子を用意した。そして、該金属端子の一方の面にはんだペーストを塗布し、該金属端子を銅電極の形成された試料表面に載置し、リフロー炉に通過させて加熱し、金属端子と試料とをはんだ接合した。
【0073】
そして、金属端子の貫通穴に金属製ワイヤーを通し、引っ張り試験機により各試料と金属製ワイヤーを引っ張り、金属端子と試料とが離れたときの引張力を測定し、これにより電極の密着強度を評価した。
【0074】
表1は試料番号1〜13の組成、及び測定結果を示している。すなわち、比誘電率εr及びQ値は共振周波数12GHzにおける測定値であり、密着密度は、面積2.08mm(縦1.3mm、横1.6mm)での測定値である。
【0075】
【表1】

【0076】
試料番号1は、焼成温度が1300℃で比誘電率εrは6.4、Q値は3500、焼成温度が1360℃で比誘電率εrは6.9、Q値は4800と誘電特性は良好である。しかしながら、電極の密着強度は、焼成温度が1300℃で55N、焼成温度を1360℃に上昇させても75Nと低い。これは、BaCOが主成分100重量部に対し2.0重量部と少ないため、MgSiOが消失せずに残存し(図3参照)、このため酸エッチングを行うと、磁器素体が酸に浸食されて磁器素体の表面が脆化し、その結果電極の密着強度が低くなったものと思われる。
【0077】
試料番号5は、x/yは1.90であるが、BaCOが主成分100重量部に対し15.0重量部と過剰であるため、電極の密着強度が焼成温度1300℃で57N、焼成温度を1360℃に上昇させても55Nと低くなった。これはBaCOの含有量が多くなると、Baにより形成されるガラス相が過剰となり、この場合も酸エッチングにより溶解量が増加して表面が脆化し、その結果電極の密着強度が低下したためと思われる。
【0078】
試料番号7〜9は、BaCOの含有量は主成分100重量部に対し3.1〜10.0であるが、x/yが2.00と大きいため、焼成温度を1360℃に上昇させると電極の密着強度は80N以上となるが、焼成温度を1300℃に低くした場合は、53〜61Nに低下した。これは磁器素体の組成がMgSiO(2MgO・SiO)であり、ガラス相が形成されていないため、低温での焼結性が低下し、焼成温度を1300℃に低下させた場合、磁器素体が緻密化せず、このため密着強度の低下を招いたものと思われる。
【0079】
試料番号13は、x/yが1.75と低く、MgSiOの含有量が過剰であるため、電極の密着強度が80N以下となり、またQ値も低下した。
【0080】
これに対し試料番号2〜4、6、10〜12は、x/yが1.80≦x/y<2.00、BaCOの含有量が主成分100重量部に対し3.1〜10.0重量部と本発明の範囲内であるため、焼成温度を1300℃の低温にしても、比誘電率εrが6.7〜7.1、Q値が2700〜3300の良好な誘電特性と、80N以上の密着強度を得ることができ、低温焼成と密着強度の両立した誘電体部品の得られることが分かった。
【実施例2】
【0081】
セラミック素原料として、MgO、SiO、SrCOを用意し、表2に示すような組成となるように、これらセラミック素原料を秤量した。尚、表2中、SrCOの含有量βは、主成分100重量部に対する含有量を示している。
【0082】
そして、その後は〔実施例1〕と同様の方法・手順で試料番号21〜23の試料を作製した。尚、焼成温度は1300℃で行った。また、SrCOの含有量は、いずれも主成分100重量部に対し5重量部である。
【0083】
次に、試料番号21〜23の各試料について、〔実施例1〕と同様、誘電特性(比誘電率εr、Q値)、及び電極の密着強度を測定した。
【0084】
表2は試料番号21〜23の各試料の組成、及び測定結果を示している。
【0085】
【表2】

【0086】
試料番号22は、x/yが2.00である。すなわち、誘電体磁器の組成がMgSiO(2MgO・SiO)であり、MgSiOが含まれていないため、ガラス相が形成されず、低温での焼結性が低下し、電極の密着強度が63Nとなって80N未満に低下することが分かった。
【0087】
これに対し試料番号21、23は、x/yが1.90又は1.80であり、また、SrCOの含有量も主成分100重量部に対し5.0重量部と本発明の範囲内であるため、焼成温度を1300℃の低温にしても、比誘電率εrが6.8〜6.9、Q値が2600〜2900の良好な誘電特性と80N以上の密着強度を得ることができ、低温焼成と密着強度が両立した誘電体部品の得られることが分かった。
【実施例3】
【0088】
セラミック素原料として、MgO、SiO、BaCO、SrCOを用意し、表3に示すような組成となるように、これらセラミック素原料を秤量した。尚、表3中、BaCOの含有量α、及びSrCOの含有量βは、主成分100重量部に対する含有量をそれぞれ示している。
【0089】
そして、その後は〔実施例1〕と同様の方法・手順で試料番号31、32の試料を作製した。尚、焼成温度は1300℃で行った。また、x/yは、1.90とした。
【0090】
次に、試料番号31、32の各試料について、〔実施例1〕と同様、誘電特性(比誘電率εr、Q値)、及び電極の密着強度を測定した。
【0091】
表3は試料番号31、32の各試料の組成、及び測定結果を示している。
【0092】
【表3】

【0093】
この表3から明らかなように、試料番号31、32は、BaCO及びSrCOの総計が、主成分100重量部に対し5.1又は5.0重量部であり、本発明範囲内であるので、焼成温度を1300℃の低温にしても、比誘電率εrが6.8〜6.9、Q値が2800の良好な誘電特性と80N以上の密着強度を得ることができ、低温焼成と密着強度が両立した誘電体部品の得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明に係る誘電体部品としての誘電体アンテナの一実施の形態を示す斜視図である
【図2】図1の縦断面図である。
【図3】実施例1の試料番号1、3、及び4のX線回折線図である。
【符号の説明】
【0095】
1 磁器素体
2 電極部
2a 給電電極
2c 放射電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分が、一般式xMgO・ySiO(ただし、xはMgOのモル数、yはSiOのモル数を示す。)で表されると共に、
前記xとyの比x/yが、1.8≦x/y<2.0を満足し、
かつ、Ba及びSrのうちの少なくともいずれか一方が、前記主成分100重量部に対し、炭酸塩に換算して総計で3.0重量部を超え、かつ10.0重量部以下の含有量で含まれていることを特徴とする高周波用誘電体磁器組成物。
【請求項2】
磁器素体の表面に電極部が形成された誘電体部品において、
前記磁器素体が、請求項1記載の高周波用誘電体磁器組成物で形成されていることを特徴とする誘電体部品。
【請求項3】
前記電極部は、めっき処理により形成されていることを特徴とする請求項2記載の誘電体部品。
【請求項4】
前記電極部は、少なくとも放射電極と給電電極とを有していることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の誘電体部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−274892(P2009−274892A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125947(P2008−125947)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】