説明

高周波用電磁接触器

【課題】可動接触子及び固定接触子が接触している通電状態から負荷に対する電力の供給を遮断する遮断状態とする際に、再点弧が繰り返し発生することを確実に防止することができる高周波用電磁接触器を提供する。
【解決手段】絶縁ケース1内に可動接触子5及び固定接触子4a,4bで構成される接点機構CM1〜CM3を複数並列に配設し、各接点機構CM1〜CM3の可動接触子5を駆動する電磁石装置15を備えた高周波用電磁接触器EMCであって、前記複数の接点機構CM1〜CM3の少なくとも2つを、共振周波数低減用インダクタ23を介して直列に接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流路に介挿された固定接触子及び可動接触子を備えた電磁接触器に関し、特に大容量で高周波電流を開閉する高周波用電磁接触器に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電磁接触器としては、例えば3組の主可動接触子及び主固定接触子を有する接点機構を並列に3組備え、これら接点機構の主可動接触子を駆動する電磁石を備えているとともに、接点機構を覆う消弧装置を備えた構成を有する電磁接触器が提案されている(例えば特許文献1参照)。
上記構成を有する電磁接触器は、3組の接点機構を有することから高電圧の3相電力の通電及び遮断を制御することができるものであるが、誘導加熱装置や業務用IH調理器等の例えば1000Vで10kHz程度の高周波電力を必要とする負荷に対する電力供給系統に使用する場合には、3つの接点機構を直列に接続して一方の端部の接点機構の外部接続端子を電力供給源に接続し、他方の端部の接点機構の外部接続端子を負荷に接続するようにして、3つの接点機構で高周波電流の通電及び遮断を行うようにしている。
【0003】
この場合、電磁接触器の負荷側の接点機構の外部接続端子と負荷との間には、接続配線で構成される線路インダクタンスと例えば力率の調整用のコンデンサとが接続されることによりLC直列共振回路が構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−27656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載の従来例にあっては、電力供給源から供給される高電圧且つ高周波電流を3つの接点機構を直列に接続した電磁接触器に供給して、この電磁接触器で誘導加熱装置や業務用IH調理器等の負荷への通電及び遮断を行うことができるものであるが、負荷に高電圧且つ高周波電流を供給している状態で、各接点機構の主可動接触子を主固定接触子から離間させる電流遮断時に、電圧・周波数・電流の条件によっては、主可動接触子が主固定接触子から離間して主可動接触子及び主固定接触子間の絶縁耐力が十分に高まるよりも早く接点の極間電圧が高くなり、再点弧する場合がある。このとき、位相によっては再点弧の電圧と電流は元の数倍になることがある。電流遮断中にさらに再点弧が繰り返し発生すると、主可動接触子及び主固定接触子間に導電性のガスが充満し、遮断不能となる場合が発生するという未解決の課題がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、可動接触子及び固定接触子が接触している通電状態から負荷に対する電力の供給を遮断する遮断状態とする際に、再点弧が繰り返し発生することを確実に防止することができる高周波用電磁接触器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一の形態に係る電磁接触器は、絶縁ケース内に可動接触子及び固定接触子で構成される接点機構を複数並列に配設し、各接点機構の可動接触子を駆動する電磁石装置を備えた高周波用電磁接触器であって、前記複数の接点機構の少なくとも2つを、共振周波数低減用インダクタを介して直列に接続したことを特徴としている。
【0007】
この構成によると、各接点機構の可動接触子が、電磁石装置によって、固定接触子に接触している閉成状態で、電力供給源の電力が各接点機構及び共振周波数低減用インダクタを介して負荷に通電されている。この通電状態から電力供給源から負荷への電流供給を遮断する電流遮断状態とする際に、共振周波数低減用インダクタが各接点機構間に介挿されているので、この共振周波数低減用インダクタによって共振周波数を低く抑制して電流遮断が容易な条件で電流遮断することができる。
【0008】
また、本発明の他の形態に係る高周波用電磁接触器は、前記共振周波数低減用インダクタは、被覆電線をコイル状に巻いて形成されていることを特徴としている。
この構成によると、共振周波数低減用インダクタを被覆電線をコイル状に巻いて形成するので、ターン数や巻き径の調整が容易で現場の状況に合わせて最適なインダクタンスに調整することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高周波用電磁接触器の複数の接点機構の少なくとも2つの接点機構を、共振周波数低減用インダクタを介して直列に接続するようにしたので、高周波用電磁接触器を高周波交流電源及び負荷との間に接続した状態で、通電状態から電流遮断状態とする際に、共振周波数低減用インダクタによって共振周波数を低下させて、電流遮断が容易な条件で電流遮断を行うことができ、電流遮断を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態を示す高周波用電磁接触器を示す平面図である。
【図2】図1のA−A線上の断面図である。
【図3】図1の電気的接続関係を示す回路図である。
【図4】高周波用電磁接触器の電流波形を示す電流波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の高周波用電磁接触器の一実施形態を示す平面図、図2は図1のA−A線上の断面図である。
図中、EMCは高周波用電磁接触器であって、この高周波用電磁接触器EMCは、絶縁性を有する本体フレーム1を有する。この本体フレーム1は下部フレーム1L及び上部フレーム1Uで構成されている。上部フレーム1Uには、図2に示すように、上下方向の中間位置に上方に消弧室2を形成する隔壁3が形成されている。この隔壁3の消弧室2側に前後方向に3つの接点機構CM1、CM2およびCM3が並列に配設されている。
【0012】
これら接点機構CM1〜CM3のそれぞれは、図2に示すように、隔壁3の上面側で後述する支持枠11の上部を挟んで対向する断面U字状の固定接触子4a及び4bと、これら固定接触子4a及び4bの上方に両固定接触子4a及び4b間に接離可能に配設された可動接触子5とで構成されている。
各接点機構CM1〜CM3の固定接触子4a及び4bは、隔壁3の上面に固定されて外方端が上部フレーム1Uの外方に突出延長する主端子板CP1a〜CP3a及びCP1b〜CP3bに電気的に接続されて固定されている。
各接点機構CM1〜CM3の可動接触子5は、接点ホルダ7に緩衝バネ8を介して支持されている。
そして、各接点機構CM1〜CM3の接点ホルダ8は、隔壁3の左右方向の中央部に形成された貫通孔9に上下に摺動自在に支持された共通の支持枠11に主接触スプリング12を介して摺動自在に支持されている。
【0013】
この支持枠11は、下部フレーム1Lに固定された電磁石装置15によって上下に駆動される。この電磁石装置15は、下部フレーム1Lに固定された固定鉄心16と、この固定鉄心16に対向して上下に可動する可動鉄心17とを備えている。
0可動鉄心17は前述した支持枠11の下端側に保持されて上下に摺動可能とされ、固定鉄心16との間に介挿された復帰スプリング18によって、固定鉄心16から上方に離間する方向に付勢されている。
また、下部フレーム1Lには、電磁石装置15を駆動する電子ユニット19が固定されている。
【0014】
そして、上記構成を有する高周波用電磁接触器EMCの例えば主端子板CP1aが例えば1000Vで10kHzの交流電力を出力する高周波交流波電源21に接続され、主端子板CP3bが誘導加熱装置や業務用IH調理器などの高周波電力を必要とする負荷22に接続されている。
さらに、主端子板CP1b及びCP2bが共振周波数低減用インダクタ23によって電気的に接続されているとともに、主端子板CP2a及びCP3aが同様に共振周波数低減用インダクタ24によって電気的に接続されている。ここで、共振周波数低減用インダクタ24としは、図1及び図2に示すように、被覆電線をコイル状に巻いて形成され、そのターン数及びコイル径が通電路の共振周波数を低減して遮断が容易な条件となるように設定されている。
【0015】
したがって、上記接続関係を回路図で表すと、図3に示すようになり、高周波交流電源2から出力される高周波交流電力が高周波用電磁接触器EMCの各接点機構CM1〜CM3がそれら間に共振周波数低減用インダクタ23及び24を直列に接続して状態となり、さらに線路インダクタンスL及び力率調整用コンデンサCを通じて負荷23に供給される。このため、線路インダクタンスL及び力率調整用コンデンサCでLC直列共振回路が構成される。
このLC直列共振回路の共振周波数fR
R=1/{2π√(LC)} …………(1)
で表すことができる。
【0016】
次に、上記実施形態の動作を説明する。
今、高周波用電磁接触器EMCの電磁石装置15における固定鉄心16へ電子ユニット19から励磁電流が供給されていない非励磁状態では、固定鉄心16で吸引力が生じないので、可動鉄心17が復帰スプリング18によって固定鉄心16から上方に離間して、支持枠11が隔壁3の下面に設けられたストッパ26に当接した位置に保持されている。
【0017】
この状態では、図2に示すように、接点ホルダ7に支持されている各接点機構CM1〜CM3の可動接触子5が固定接触子4a及び4bに対して上方に離間して、各接点機構CM1〜CM3が開成状態となっており、高周波交流電源21からの高周波交流電力が負荷22には供給されない電力遮断状態となっている。
この電力遮断状態から負荷22に高周波交流電力を供給するには、高周波用電磁接触器EMCの電子ユニット19から電磁石装置15の固定鉄心16を囲む励磁コイル16aに励磁電流を供給することにより、固定鉄心16で吸引力を発生させて可動鉄心17を復帰スプリング18に抗して吸引する。
【0018】
これによって、可動鉄心17及びこれを保持している支持枠11が下降する。これにより、支持枠11に保持されている各接点機構CM1〜CM3の接点ホルダ7も下降し、可動接触子5が固定接触子4a及び4bに接触することにより、各接点機構CM1〜CM3が閉成状態となる。このため、高周波交流電源21から出力される高周波交流電力が、接点機構CM1、共振周波数低減用インダクタ23、接点機構CM2、共振周波数低減用インダクタ24、接点機構CM3を通じ、さらに配線インダクタンスL及び力率調整用コンデンサCを介して負荷22に供給される通電状態となる。
【0019】
この通電状態から負荷22への電力供給を遮断するには、高周波用電磁接触器EMCの電子ユニット19から電磁石装置15の励磁コイル16aへの励磁電流の供給を停止する。これによって、電磁石装置15の固定鉄心16で発生していた吸引力が消滅することにより、可動鉄心17が復帰スプリング18によって上方に移動して支持枠11がストッパ26に当接することにより停止する。
【0020】
このとき、各接点機構CM1〜CM3の可動接触子5が固定接触子4a及び4bから離間して接触子間の絶縁耐力が十分に高まる状態に移行する場合には、図4(a)に示すように、高周波電流(例えば10kHz)の供給状態から直ちに電流遮断状態となる。
ところが、電流遮断時の電圧、周波数、電流等の条件によっては電流通電路に形成されている線路インダクタンスL及び力率調整用コンデンサCで構成されるLC直列共振回路が直列共振状態となって、図5(b)に示すように、通常時の電流波形に対して周波数及び振幅が大きくなる場合がある。
【0021】
しかしながら、本実施形態では、LC直列共振回路が直列共振状態に移行しようとしても、接点機構CM1及びCM2間に共振周波数低減用インダクタ23が介挿され、さらに接点機構CM2及びCM3間にも共振周波数低減用インダクタ24が介挿されている。
そして、上述したLC直列共振回路の共振周波数fRは前述した(1)式で表されるように、インダクタ成分L及びコンデンサ成分Cを増加させることにより、共振周波数fRを低下させることができる。
このため、上記実施形態では線路インダクタンスLに共振周波数低減用インダクタ23及び24のインダクタンスLa及びLbが加算されることになり、合成インダクタンスLTが増加することにより、共振周波数fRを低減することができる。
【0022】
このように、高周波用電磁接触器EMCの接点機構CM1及びCM2間とCM2及びCM3間とに介挿した共振周波数低減用インダクタ23及び24によって、線路インダンクタンスLより十分に大きいインダクタンスLa及びLbを加えることにより、共振周波数fRを十分に小さい値に低減することができる。このため、接点機構CM1〜CM3の何れかの接点機構で再点弧が発生して、電圧、周波数、電流の条件によって共振状態となった場合でも、図4(c)に示すように、再点弧時の電流波形を図4(b)に示す共振時の電流波形に比較して周波数及び振幅を制限することができ、再点弧が繰り返されることを確実に防止することができる。
【0023】
因みに、共振周波数低減用インダクタ23及び24が介挿されていない場合には、高周波電力の通電状態から、電流遮断する場合に、電磁石装置15の固定鉄心16での吸引力を消滅させて可動鉄心17が復帰スプリング18によって固定接触子4a及び4bから離間して上方に離間する際に、電圧、周波数、電流の条件によっては、可動接触子5が固定接触子4a及び4bから離間して接触子間の絶縁耐力が十分に高まるよりも早く接点機構の極間電圧が高くなり、再点弧する状態となると、前述したLC直列共振回路が共振状態となって、図4(b)に示すように、通常の高周波数10kHzの10倍を超える例えば120kHzで振幅も6倍程度に達する電流波形となり、繰り返しの再点弧が発生することによって、可動接触子5と固定接触子4a及び4bとの間に導電性のガスが充満して遮断不能状態に陥ることがある。
【0024】
しかしながら、上記実施形態では、上述したように、電流遮断時に、共振周波数低減用インダクタ23及び24が通電路に介挿されていることによって合成インダクタンスを大きくすることができ、共振周波数fRを低減させて共振時の電流波形の周波数及び振幅を抑制し、共振電流を低下させて電流のエネルギーを小さく抑制し、電流遮断が容易な条件として電流遮断を行うことができる。このため、高周波電流の遮断時であっても、電流遮断不能を生じることなく確実に電流遮断を行うことができる。
【0025】
しかも、共振周波数低減用インダクタ23,24を、被覆電線をコイル状に巻いて構成するようにしているので、通電路の共振周波数に応じて、共振周波数を低減するインダクタンスとなるようにターン数及びコイル径を任意に設定することができ、インダクタンス調整を現場の状況に応じて容易に設定することができる。
なお、上記実施形態においては、高周波交流電源21で1000V且つ10kHzの高周波電力を出力する場合について説明したがこれに限定されるものではなく、電圧及び周波数は任意に設定することができる。
【0026】
さらに、上記実施形態においては、3つの接点機構CM1〜CM3を直列に接続する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、3つの接点機構CM1〜CM2のうちの2つの接点機構を直列に接続し、その接点機構間に共振周波数低減用インダクタを直列に介挿するようにすればよい。
また、上記実施形態においては、高周波用電磁接触器EMCが3つの接点機構CM1〜CM3を有する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、2つの接点機構を有する場合や4つ以上の接点機構を有する高周波用電磁接触器EMCに本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
EMC…高周波用電磁接触器、1…本体フレーム、1U…上部フレーム、1L…下部フレーム、2…消弧室、3…隔壁、4a,4b…固定接触子、5…可動接触子、CP1a〜CP3a,CP1b〜CP3b…主端子板、CM1〜CM3…接点機構、7…接点ホルダ、11…支持枠、12…主接触スプリング、15…電磁石ユニット、16…固定鉄心、16a…励磁コイル、17…可動鉄心、18…復帰スプリング、21…高周波交流電源、22…負荷、23,24…共振周波数低減用インダクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ケース内に可動接触子及び固定接触子で構成される接点機構を複数並列に配設し、各接点機構の可動接触子を駆動する電磁石装置を備えた高周波用電磁接触器であって、
前記複数の接点機構の少なくとも2つを、共振周波数低減用インダクタを介して直列に接続したことを特徴とする高周波用電磁接触器。
【請求項2】
前記共振周波数低減用インダクタは、被覆電線をコイル状に巻いて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の高周波用電磁接触器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−69434(P2012−69434A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214373(P2010−214373)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(508296738)富士電機機器制御株式会社 (299)
【Fターム(参考)】