説明

高周波発熱体およびそれを用いた高周波加熱機器用調理器具並びに高周波加熱調理器

【課題】マグネタイトを高周波吸収材料とする高周波発熱体は、初期の昇温性能に優れているが、酸化による結晶構造の変化により、昇温性能が低下し、被加熱物の焦げ目が付き難くなり、高周波加熱機器用調理機器としての耐久性、信頼性に劣る。
【解決手段】マグネタイトを含む高周波発熱体3において、マグネタイトの粒子7にマグネタイトの結晶構造の変化を抑制する被覆層8を形成した構成とすることにより、高温環境下での空気中の酸素、水蒸気などの酸化による結晶構造の変化を抑制することができるので、長期に渡り優れた昇温性能を実現することができ、おいしさと適度な焦げ目を両立させることができるとともに、耐久性、信頼性に優れた高周波加熱機器用調理器具1を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジなどに用いられる高周波により発熱する高周波発熱体および高周波加熱により被加熱物の表面に焦げ目を付けることのできる高周波加熱機器用調理器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種の高周波発熱体および高周波加熱機器用調理器具としては、被加熱物を載置する被加熱物載置皿の底面部にフェライトを主成分とする高周波発熱体を設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図6は、特許文献1に記載された従来の高周波発熱体が設けられた被加熱物載置皿31の斜視図である。高周波発熱体は、被加熱物載置皿31の底面(図示せず)に設けられている。
【0004】
図7は、高周波発熱体が設けられた被加熱物載置皿31の一部断面図である。図7に示すように、高周波発熱体32は被加熱物載置皿31を構成する塗装された金属基材33に設けられている。また、高周波発熱体32は、粒子が球状のキュリー温度が200〜300℃のフェライトを主成分とする高周波吸収材料の粒子とゴム材料とからなり、高周波吸収材料の粒子がゴム材料の中に均一に分散した状態にある。
【0005】
調理物が載せられた被加熱物載置皿31を、高周波を発生させるマグネトロンを搭載した高周波調理機器の所定の位置に配置し、グリル調理を開始すると、マグネトロンから発振された高周波を被加熱物載置皿31に設けられた高周波発熱体32が吸収することによって熱に変換され、被加熱物載置皿31が加熱される。そして、加熱された被加熱物載置皿31に接触している被加熱物が加熱され、被加熱物は調理の進行に伴い焦げ目が付く。
【0006】
一般的に、グリル調理を行う場合、被加熱物である調理物おいしさと適した焦げ目を両立させようとすると、被加熱物の種類、量によって異なるが被加熱物載置皿31を150〜300℃の温度に短時間で昇温させる必要がある。
【0007】
また、適用可能な他の高周波発熱体の材料としては、マグネタイトとエラストマーの組成物がある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2007−225186号公報
【特許文献2】特開2007−45975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の高周波発熱体32は、キュリー温度が200〜300℃のフェライトを主成分とする高周波吸収材料を用いているため、高周波吸収材料が高周波を吸収して発熱し、キュリー温度近くに昇温すると、高周波吸収材料が磁気相転移により磁気特性の一つである磁気損失が小さくなり、高周波の吸収性能が低下し、昇温速度が遅くなるという課題を有していた。
【0009】
また、キュリー温度が200〜300℃のフェライトを主成分とする高周波吸収材料からなる高周波発熱体32を高周波加熱機器用器具として用いた場合、被加熱物に適した焦げ目を付けるためには短時間で被加熱物載置皿31を昇温させる必要があるが、高周波吸
収材料の高周波の吸収性能が低下することにより、被加熱物載置皿31の昇温速度が遅くなるため、被加熱物に適度な焦げ目を付けるのに時間を要し、調理時間が長くなるとともに、調理時間が長くなることによる被加熱物の過加熱状態が起こり、被加熱物の内部の水分量が減少し、おいしさが失われるという課題を有していた。
【0010】
一方、キュリー温度の高い材料としてマグネタイト(Fe)がある。マグネタイトのキュリー温度は580℃と高く、300℃では磁気相転移は起こらないが、200℃以上の温度で酸化が急激に進行し、高周波の吸収性能が低いヘマタイト(Fe)に結晶構造が変化する。したがって、マグネタイトは初期の高周波の吸収性能は高いが、酸化により、徐々に高周波の吸収性能が低下するため、長期的に安定した昇温性能が得られないという課題を有していた。
【0011】
また、マグネタイトを主成分とする高周波吸収材料からなる高周波発熱体を高周波加熱機器用器具として用いた場合、高周波発熱体の昇温性能が低下する方向に経時変化するため、被加熱物の初期の適した焦げ目が長期の使用において再現できなくなり、ユーザーの不満につながる。
【0012】
さらに、適した焦げ目を得ようとするとオート調理からマニュアル調理する必要があり、調理機器の操作が煩雑になるとともに、焦げ目を優先すると被加熱物の内部が過加熱になり、被加熱物のおいしさが失われるという課題を有していた。
【0013】
また、マグネタイトとシリコンゴムの組み合わせにおいて、高温環境下でマグネタイトによってシリコンゴムの架橋反応が起こり、シリコンゴムの収縮、硬化する現象が起きる。これによって、高周波発熱体が収縮による被加熱物載置皿からの剥離と、硬化によるクラックが発生し、高周波発熱体としての機能が失われ、高周波加熱機器用調理器具としての耐久性、信頼性が劣るという課題を有していた。
【0014】
なお、マグネタイトの酸化は、空気中の酸素、調理中に発生する水蒸気の拡散、被加熱物載置皿の温度が高い状態で洗浄、冷却される際に用いられる水との接触、ゴム中の酸素原子との反応によって起こるものである。
【0015】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、高周波発熱体に用いる高周波吸収材料であるマグネタイトの安定化を図り、高周波発熱体の昇温性能の経時変化を防止し、常に安定した被加熱物の調理状態を実現することができるとともに、高周波発熱体の剥離、クラックを防止し、優れた耐久性、信頼性を確保することのできる高周波発熱体およびそれを用いた高周波加熱機器用調理器具並びに高周波加熱調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記従来の課題を解決するために、本発明の高周波発熱体は、少なくともマグネタイトを含む高周波発熱体において、マグネタイトの結晶構造の変化を抑制したものである。
これによって、被加熱物載置皿の使用温度範囲において、マグネタイトの結晶構造の変化が原因で起こる高周波の吸収性能の低下を防止することができるので、常に安定した高周波発熱体の昇温性能を実現することができる。
【0017】
また、本発明の高周波加熱器用調理器具は、被加熱物を載置する有機気高分子を含む被覆層が形成された金属製の被加熱物載置皿に、本発明の高周波発熱体を設けた構成としたものである。
【0018】
これによって、高周波発熱体は常に安定した高い昇温性能を有し、かつ、この高周波発熱体を設けた金属製の被加熱物載置皿が優れた熱伝導性を有するため、高周波発熱体で発
熱した熱を効率よく被加熱物載置皿に熱伝達することができるので、短時間で被加熱物に適度な焦げ目を付けることできるとともに、被加熱物内部の水分の減少につながる被加熱物の過加熱が防止され、被加熱物のおいしさを実現することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の高周波発熱体およびそれを用いた高周波加熱機器用調理器具は、高周波吸収材料であるマグネタイトの結晶構造の変化による高周波の吸収性能の低下を防止することができるので、昇温性能に優れた高周波発熱体を実現することができるとともに、この優れた昇温性能を長期に渡り安定して得ることができる。
【0020】
また、マグネタイトによるエラストマーの架橋反応を抑止することができるので、高周波発熱体の剥離やクラックを防止することができ、優れた耐久性、信頼性を実現することができる。
【0021】
さらに、被加熱物の過加熱を防止することができるので、おいしさと適度な焦げ目を両立させる新しい調理方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
第1の発明は、少なくともマグネタイトを含む高周波発熱体において、前記マグネタイトの結晶構造の変化を抑制した構成とすることにより、マグネタイトの結晶構造の変化が原因で起こる高周波の吸収性能の低下が防止され、常に安定した高い昇温性能が得られ、高い耐久性を実現することができる。
【0023】
第2の発明は、少なくとも結晶構造の変化を抑制したマグネタイトを含む高周波吸収材料と、少なくとも1種のエラストマーとの複合物から構成することにより、第1の発明の効果に加えて、高周波吸収材料の粒子がエラストマーの中に分散した構造とすることができるので、外力や落下による機械的衝撃や冷熱の繰り返しによる熱衝撃を受けても高周波発熱体の脱落や破壊を防止することができる。
【0024】
第3の発明は、特に、第1または第2の高周波発熱体において、マグネタイトの粒子の外側に、マグネタイトの結晶構造の変化を抑制する被覆層を備えた構成とすることにより、高周波発熱体を構成するマグネタイトの粒子の外側に設けた被覆層が、高温に加熱された空気中の酸素や水蒸気などの拡散を妨げる作用を有するため、マグネタイトの酸素や水蒸気による酸化が抑制される。この酸化抑制効果により、マグネタイトの結晶構造の変化が抑制され、優れた高周波の吸収性能を維持することができる。
【0025】
第4の発明は、特に、第3の発明の被覆層をマグネタイトの粒子の表面に設けることにより、被覆層がマグネタイトの粒子の一つ一つに形成されているので、マグネタイトの粒子のすべてが酸素や水蒸気との接触から遮断され、マグネタイトの酸化による結晶構造の変化の抑制をより効果的に発揮することができる。
【0026】
また、被覆層をマグネタイトの粒子に形成することにより、マグネタイトとゴム材料が直接接触しない構造とすることができる。これによってマグネタイトの活性点を不活化することができるので、マグネタイトによるゴム材料の架橋反応が阻止され、ゴム材料の収縮と硬化による高周波発熱体の剥離、クラックを防止することができる。
【0027】
また、予めマグネタイトの粒子に被覆層を設ける製造工程とすることができるので、高周波発熱体の形状、大きさが変わってもこれに対応した被覆層の形成処理工程が必要なく、高周波発熱体の生産性を向上させることができる。
【0028】
第5の発明は、特に、第3の発明の被覆層を高周波発熱体の少なくとも一部に設けることにより、高周波発熱体内部への酸素、水蒸気の拡散を抑制することができるので、高周波発熱体を構成するマグネタイトの酸化による結晶構造の変化が抑制され、経時変化のない安定した昇温性能が得られる。
【0029】
また、マグネタイトの粒子自体には被覆層が形成されず、高周波発熱体中のマグネタイトの粒子がお互いに接触した構造となるため、温度が上昇すると半導体の特性が発現し、マグネタイトの粒子間を通じて渦電流が流れ、ジュール熱が発生する。マグネタイトの磁気損失による高周波の吸収・発熱にこのジュール熱が付加され、より高い昇温性能を得ることができる。
【0030】
第6の発明は、特に、第3〜第5の発明の被覆層として、有機シリコン化合物、有機チタン化合物、有機フッ素化合物の少なくとも1種を含むものを用いることにより、耐熱性、耐久性に優れた被覆層とすることができ、マグネタイトの耐酸化性を向上させることができる。
【0031】
また、マグネタイトの粒子に上記材料の被覆層を形成した場合、被覆層に疎水性を発現させることができるので、マグネタイトとエラストマーとの混練性が向上し、混練加工時間を短縮化することができ、生産性を向上させることができるとともに、エラストマー中にマグネタイトの粒子を均一に分散させることができるので、高周波発熱体の発熱面を均一な温度分布とすることができ、高周波加熱機器用調理器具に適用した場合、被加熱物の焦げ目を均一に付けることができる。
【0032】
また、被覆層が形成されたマグネタイトの粒子がエラストマー中に均一に分散することにより、複合物に柔軟性が得られ、被加熱物載置皿にホットプレスで接着する場合、加圧時の複合物の流れ性が向上し、均一な膜厚とすることができ、発熱特性の安定化を図ることができる。
【0033】
第7の発明は、特に、第2〜第6のいずれか1つの発明のエラストマーとして、をシリコンゴムまたはフッ素ゴムを用いることにより、それらが優れた耐熱性と耐化学薬品性を有するため、耐久性、信頼性の高い高周波発熱体を実現することができる。
【0034】
第8の発明は、高周波加熱機器用調理器具として、被加熱物を載置する有機気高分子を含む被覆層が形成された金属製の被加熱物載置皿に被加熱物載置皿の被加熱物が載置されない面の一部に、特に第1〜第7のいずれか1つの発明の高周波発熱体を設けることにより、常に安定した高い昇温性能を実現することができる。
【0035】
また、高周波発熱体を設けた金属製の被加熱物載置皿が優れた熱伝導性を有するため、高周波発熱体で発熱した熱を効率よく被加熱物載置皿に伝達することができるので、短時間で被加熱物に適度な焦げ目を付けることできるとともに、被加熱物の過加熱が防止され、おいしさに必要な被加熱物内部の水分を保持でき、おいしさと適度な焦げ目を両立させた新しい調理方法を実現することができる。
【0036】
第9の発明は、特に、第8の発明の高周波発熱体において、金属製の被加熱物載置皿に設けられる高周波発熱体の面積を0.1m以下とすることにより、所定の消費電力の高周波で被加熱物載置皿およびそれに載置した被加熱物を所定の温度に短時間で昇温させることができ、調理時間の短縮化と省エネを図ることができる。
【0037】
第10の発明は、特に、第8または第9の発明の高周波発熱体の膜厚を0.5〜2mmとすることにより、膜厚が厚くなることによる被加熱物載置皿への熱伝達の低下と、高周
波発熱体自身の熱容量の増加による昇温速度の低下を抑制することができるとともに、膜厚が薄いことによる高周波発熱体の高周波吸収性能の低下を抑制することができるので、高周波発熱体が高周波を吸収して発熱する熱を被加熱物載置皿や被加熱物に効率よく伝達させることができ、調理時間の短縮化と省エネを図ることができる。
【0038】
第11の発明は、特に第8〜第10の発明のいずれか1つの発明の高周波加熱機器用調理器具を備えた高周波加熱調理器とすることにより、短時間で被加熱物に適度な焦げ目を付けることできるとともに、被加熱物の過加熱が防止され、おいしさに必要な被加熱物内部の水分を保持でき、おいしさと適度な焦げ目を両立させた新しい調理方法を実現することができる。
【0039】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また各実施の形態特有の構成を適宜組み合わせることができる。
【0040】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における高周波発熱体を設けた高周波加熱機器用調理器具の断面図を示すものである。
【0041】
なお、本発明の高周波加熱機器用調理器具として用いられる被加熱物載置皿は、従来例で述べた図6の形態が適用される。
【0042】
図1において、高周波加熱機器用調理器具1は、有機気高分子を含む被覆層が形成された金属製の被加熱物載置皿2と、被加熱物載置皿2の下面の一部に高周波発熱体3を設けた構成としている。また、被加熱物載置皿2の両端には、電子レンジなどの高周波加熱機器の庫内の所定の位置に配置するための固定部材4が取り付けられている。この固定部材4は、被加熱物載置皿2の位置決めの機能だけでなく、持ち運びや取り出しなどを行う際の取手の機能、また金属製の被加熱物載置皿2を高周波加熱調理器の後述する加熱室内に配置し、高周波を給電した際のスパーク防止の機能を有するものである。
【0043】
図2は、高周波発熱体3の構造を示す模式図である。
【0044】
図2において、高周波発熱体3は、被覆層が形成されたマグネタイトの粒子5とエラストマー6とからなり、被覆層が形成されたマグネタイトの粒子5は、エラストマー6の中に分散した構造となっている。
【0045】
図3は、被覆層が形成されたマグネタイトの粒子5の断面構造を示す模式図である。
【0046】
図3において、マグネタイトの粒子7に、被覆層8が形成されている。被覆層8は、マグネタイトの粒子7の酸化による結晶構造の変化を抑制するために設けられるものであり、その材料としては、耐熱性、耐久性に優れ、マグネタイトの耐酸化性を向上させることのできる有機シリコン化合物、有機チタン化合物、有機フッ素化合物の少なくとも1種を含むものが適用される。
【0047】
エラストマー6の材料としては、250〜300℃の温度環境下での耐熱性、調味料や水蒸気などの耐化学薬品性に優れていることや機械的衝撃、熱衝撃に強いシリコンゴムやフッ素ゴムを主成分とするものが適用される。
【0048】
次に、本発明の高周波発熱体5の製造方法の一実施の形態について述べる。
【0049】
先ず、有機シリコン化合物、有機チタン化合物、有機フッ素化合物の少なくとも1種を溶媒に溶解または分散させ、この溶液にマグネタイトの粒子7を浸漬した後、乾燥によって溶媒を飛散させ、さらに数百℃で焼成することにより、マグネタイトの粒子7の表面に被覆層8を形成する。次に、被覆層8が形成されたマグネタイトの粒子5とエラストマー6をオープンロールやニーダーなどの混練加工装置を用い、被覆層が形成されたマグネタイトの粒子5がエラストマー6の中に均一に分散するまで混練し、その後、必要に応じて架橋剤を添加し、再度混練する。次に、これらの混練物の固まり、もしくはオープンロールでシート状に分出ししたものを必要量採取し、被加熱物載置皿2の被加熱物を載置しない面に配置してホットプレスで加圧接着、および一次加硫を行う。その後、必要に応じて二次加硫等の熱処理を行うことによって、高周波発熱体3を被加熱物載置皿2に形成した状態の本発明の高周波加熱機器用調理器具1が得られる。
【0050】
なお、混練の際に高周波発熱体3のさらなる耐熱性を付与するための耐熱性剤、老化防止剤、柔軟性を付与するための油脂剤など必要に応じて添加してもよい。
【0051】
また、被覆層8の材料である有機シリコン化合物、有機チタン化合物、有機フッ素化合物が液体の場合は、マグネタイトの粒子7とエラストマー6の混練の際に一緒に添加して混練することによってマグネタイトの粒子7の表面に被覆層8を形成することも可能である。しかし、エラストマー6の存在が被覆層8のマグネタイトの粒子7への被覆率が低下させるので被覆層8の材料の添加量が多くなる欠点を有する。
【0052】
また、高周波発熱体3と被加熱物載置皿2との接着性を向上させるために、高周波発熱体3の接着面、あるいは被加熱物載置皿2の高周波発熱体3が設けられる面に、接着機能を有するプライマーを塗布し、そのプライマーを介して被加熱物載置皿2と高周波発熱体3を接着してもよいし、また、予め、被覆層が形成されたマグネタイトの粒子5とエラストマー6の混練時に接着剤を添加してもよい。
【0053】
図4は、本発明の高周波加熱機器用調理器具1が搭載される高周波加熱調理器の断面図である。
【0054】
図4において、加熱室9は金属材料から構成された金属境界部である右側壁面10、左側壁面11、奥壁面12、上壁面13、底壁面14及び被加熱物を加熱室9内に出し入れする開閉壁面である開閉扉(図示せず)により略直方体形状に構成され、給電された高周波をその内部に実質的に閉じ込めるように形成している。底壁面14には断面が略四角形の絞り部15を設け、絞り部15の略中央部には加熱室9内に給電する高周波の励振部16を設けている。
【0055】
高周波発生手段であるマグネトロン17は、加熱室9に給電する高周波を発生するものであり、マグネトロン17から発生した高周波を励振部16に導くためにマグネトロン17と励振部16間に導波管18を設けている。励振部16には導波管18内に延在し、導波管18を伝送してきた高周波と結合するアンテナ19を設け、このアンテナ19の一端は導波管タイプの指向性を有する放射アンテナとして電波放射手段20と接続している。
【0056】
また、アンテナ19の他端は、電波放射手段20を回転駆動させる駆動手段であるモータ21の出力軸を挿入組立てしている。この電波放射手段20は、モータ21を駆動することで扇型の上面が絞り部15の底面と略平行面において回転駆動する。
【0057】
また、絞り部15の開口部には電波透過材料、たとえばガラス系やセラミックス系の材料からなる封口手段22を設けている。
【0058】
また、加熱室9の上部には、加熱ヒータ23が備えられ、奥壁面12の奥にはコンベクションヒータユニット(図示せず)が設けられ、被加熱物の高周波調理、グリル調理、オーブン調理の機能を有した構成となっている。
【0059】
高周波加熱機器用調理器具1は、加熱室9の右側壁面10、左側壁面11に設けられた係止手段であるレール部24に沿って加熱室9内に挿入され、取り付けられる。
【0060】
また、加熱室9には加熱室9内の温度を検出するサーミスタ25、被加熱物や高周波加熱機器用調理器具1などの温度を検出する赤外線センサ26が設けられている。
【0061】
次に、以上の構成からなる高周波加熱調理器を用い、本発明の高周波加熱機器用調理器具1の動作と作用について説明する。
【0062】
加熱室9内に、被加熱物を載置した高周波加熱機器用調理器具1をレール部24に係止し、開閉扉を閉めた状態で所定の指示操作を行うと、制御手段27によりマグネトロン17が動作して高周波が発生する。発生した高周波は、導波管18、励振部16を経て、電波放出手段20からセラミックなどで形成された封口手段22を通過して加熱室9内に給電される。
【0063】
加熱室9内に給電された高周波は、高周波加熱機器用調理器具1を構成する高周波発熱体3に吸収され、熱に変換される。その熱が高周波加熱機器用調理器具1を構成する被加熱物載置皿2に伝達され、被加熱物載置皿2と接触している被加熱物が加熱される。
【0064】
一般的に、グリル調理を行う場合、被加熱物である調理物のおいしさと適した焦げ目を両立させようとすると、被加熱物の種類、量によって異なるが被加熱物載置皿を150〜300℃の温度に極めて短時間で昇温させる必要がある。
【0065】
従来、高周波発熱体の高周波吸収材料として、Mn−Zn系フェライトが用いられるが、このフェライトのキュリー温度は組成によって異なるが200〜300℃である。フェライト材料の発熱のメカニズムは、主として材料の磁気損失によるものであり、高周波を吸収し熱変換されてキュリー温度(近傍)に到達すると、磁気相転移により磁気損失が小さくなり、高周波の吸収性能が低下することによって、キュリー温度以上の昇温速度は著しく低下する。
【0066】
その結果、被加熱物に適度な焦げ目を付けるのに時間を要し、調理時間が長くなるとともに、被加熱物の過加熱状態が起こり、被加熱物の内部の水分量が減少し、おいしさが失われてしまう。
【0067】
一方、キュリー温度が500℃以上のマグネタイトは、300℃では磁気相転移が起こらないため、速い昇温速度を有する。しかし、200℃以上の温度で酸化が急激に進行し、高周波の吸収性能が低いヘマタイトに結晶構造が変化するため、初期の高周波の吸収性能は高いが、酸化によって徐々に高周波の吸収性能が低下する方向に経時変化する。この経時変化に伴い、高周波発熱体の昇温性能が徐々に低下し、使用時間が長くなるにつれ、被加熱物に適した焦げ目が得られなくなってしまう。
【0068】
さらに、エラストマーの種類、化学組成によるが、マグネタイトは、シリコンゴムなどのエラストマーの架橋反応を促進し、エラストマーの収縮、硬化による高周波発熱体の剥離、クラックが発生する。
【0069】
本発明の高周波発熱体3は、結晶構造の変化を抑制する被覆層が形成されたマグネタイ
トの粒子5を用いている。このマグネタイトの粒子7に形成された被覆層8が、高周波発熱体3内部への酸素、水蒸気の拡散を妨げる作用を有するため、マグネタイトの粒子7の酸化が抑制される。この酸化抑制効果により、マグネタイトの結晶構造の変化が抑制されるため、高周波の吸収性能の低下が防止され、高周波発熱体3のもつ初期の優れた昇温性能を長期に渡って維持することができる。
【0070】
また、被覆層8を設けることにより、マグネタイトの粒子7とエラストマー6が直接接触しない構造とすることができる。これによってマグネタイトの粒子7の活性点を不活化することができるので、マグネタイトの粒子7によるエラストマー6の架橋反応が阻止され、エラストマー6の収縮と硬化による高周波発熱体の剥離、クラックを防止することができる。これによって、耐久性、信頼性の高い高周波発熱体3を実現することができる。
【0071】
また、被覆層8がマグネタイトの粒子7の一つ一つに形成されているので、マグネタイトの粒子7のすべてが酸素や水蒸気の接触から遮断され、マグネタイトの粒子7の酸化が原因で起こる結晶構造の変化の抑制をより効果的に発揮することができる。
【0072】
また、予めマグネタイトの粒子7に被覆層8を形成することにより、高周波発熱体3の形状、大きさが変わってもこれに対応した被覆層8の形成処理工程が必要なく、高周波発熱体3の生産性を向上させることができるとともに、高周波発熱体3の形状、大きさによらず、常に安定したマグネタイトの粒子7の酸化防止効果を実現することができる。
【0073】
また、被覆層8を有機シリコン化合物、有機チタン化合物、有機フッ素化合物の少なくとも1種を含むものを用いることにより、耐熱性、耐久性に優れた被覆層8とすることができ、マグネタイトの粒子7の耐酸化性を向上させることができる。
【0074】
また、マグネタイトの粒子7に有機シリコン化合物、有機チタン化合物、有機フッ素化合物の少なくとも1種を含む被覆層8を形成することにより、被覆層8に疎水性を発現させることができるので、マグネタイトの粒子7とエラストマー6との馴染みが良くなり、混練性が向上する。その結果、混練加工時間を短縮化することができ、生産性を向上させることができるとともに、エラストマー6中に被覆層が形成されたマグネタイトの粒子5を均一に分散させることができるので、高周波発熱体3の発熱面を均一な温度分布とすることができ、高周波加熱機器用調理器具1に適用した場合、被加熱物の焦げ目を均一にすることができる。
【0075】
また、被覆層が形成されたマグネタイトの粒子7がエラストマー6中に均一に分散することにより、複合物に柔軟性が付与され、被加熱物載置皿2にホットプレスで接着する場合、加圧時の複合物の流れ性が向上し、均一な膜厚とすることができ、発熱特性の安定化を図ることができる。
【0076】
また、本発明の高周波加熱機器用調理器具1は、被加熱物載置皿2が金属製の被加熱物載置皿2が優れた熱伝導性を有するため、高周波発熱体3で発熱した熱を効率よく被加熱物載置皿2に熱を伝達することができる。したがって、被加熱物載置皿2を150〜300℃の調理温度に短時間で昇温させることができ、被加熱物に適度な焦げ目を短時間で付けることができる。
【0077】
また、高周波加熱機器用調理器具1は、被加熱物の過加熱を防止することができるので、おいしさに必要な被加熱物内部の水分を保持でき、おいしさと適度な焦げ目を両立させた新しい調理方法を実現することができる。
【0078】
また、高周波発熱体3は、長期的に渡り安定した昇温性能を実現することができるので
耐久性、信頼性に優れた高周波加熱機器用調理器具1を提供することができる。
【0079】
700〜1000Wの消費電力でマグネトロン17を動作させた場合、金属製の被加熱物載置皿2に設けられる高周波発熱体3の面積を0.1m以上とすると、被加熱物載置皿2の面積が大きくなるため、高周波加熱機器用調理器具1自体の熱容量が大きくなることや、表面積の増加による放熱面積の拡大によって放熱ロスが大きくなることにより、被加熱物載置皿2の昇温速度が遅くなり、被加熱物の最適な焦げ目、おいしさが得られなくなる。
【0080】
したがって、最適な焦げ目、おいしさを得るためには、高周波発熱体3の面積を0.1m以下とすることが望ましい。また、これによって、被加熱物載置皿2およびそれに載置した被加熱物を所定の温度に短時間で昇温させることができるので、調理時間の短縮化と省エネを図ることができる。
【0081】
また、高周波発熱体3の膜厚を2mm以上とすると、高周波発熱体3の熱容量が大きくなり、高周波発熱体3の昇温速度が遅くなること、また、高周波発熱体3の熱抵抗が大きくなり、高周波発熱体3の表面からの放熱ロスが大きくなることによって、被加熱物載置皿2へ熱伝導による熱伝達が低下し、被加熱物載置皿2の速い昇温速度が得られなくなる。また、膜厚が厚いことにより、コストが高くなる。
【0082】
一方、高周波熱発熱体3の膜厚を0.5mm以下にすると、被覆層が形成されたマグネタイトの粒子5の量が少なくなり、高周波の吸収効率が低下し、速い昇温速度が得られなくなる。
【0083】
したがって、高周波発熱体3が高周波を吸収して発熱する熱を被加熱物載置皿2や被加熱物に効率よく伝達させるには、高周波発熱体3の膜厚を0.5〜2mmの範囲とすることが望ましい。これによって、被加熱物載置皿2およびそれに載置した被加熱物を所定の温度に短時間で昇温させることができ、調理時間の短縮化と省エネを図ることができる。
【0084】
また、被加熱物載置皿2に設けられる高周波発熱体3は、少なくとも結晶構造の変化を抑制するための被覆層が形成されたマグネタイトの粒子5を含む高周波吸収材料と、少なくとも1種のエラストマー6の複合物の構成が望ましい。この構成によって、エラストマー6が、被覆層が形成されたマグネタイトの粒子5の粒子を保護し、かつ、被加熱物載置皿2との強固な接着を実現することができるので、外力や落下による機械的衝撃や冷熱の繰り返しによる熱衝撃に対して強くすることができ、高周波発熱体3の脱落や破壊を防止することができる。
【0085】
特に、本発明に用いるエラストマー6の材料は、高周波加熱機器用調理器具1として300℃の温度環境下での耐熱性、調味料や水蒸気などの耐化学薬品性、耐機械的衝撃性、耐熱衝撃性に優れていることが要求される。これらの要求仕様を満たす材料としては、シリコンゴム、フッ素ゴムが挙げられ、高周波教発熱体3のエラストマー6として最適である。
【0086】
高周波発熱体3に用いられる被覆層が形成されたマグネタイトの粒子5の含有量は、20体積%以下にすると高周波の吸収性能が低下し、高周波発熱体として満足する昇温性能が得られず、また60体積%以上にするとエラストマーとの複合物が固くなり、ホットプレス時に複合物の流れが悪く、均一な膜厚の高周波発熱体3が得られなくなることや、高周波発熱体3の膜が固くなることから耐熱衝撃や耐機械的衝撃が低下し、落下や冷熱の繰り返しが起こると高周波発熱体3が破損する可能性がある。したがって、優れた昇温性能、耐久性、信頼性を確保するためには、被覆層が形成されたマグネタイトの粒子5の含有
量を20〜60%の範囲とすることが望ましい。
【0087】
(実施の形態2)
図5は、本発明の第2の実施の形態における高周波加熱機器用調理器具の一部断面図である。
【0088】
実施の形態1と異なる点は、マグネタイトの粒子の結晶構造の変化を抑制する被覆層をマグネタイトの粒子の表面でなく、マグネタイトの粒子7とエラストマー6からなる高周波発熱体の一部に設けた点であり、高周波発熱体に用いられる材料、被加熱物載置皿の構造は、実施の形態1と同じものが適用される。
【0089】
図において、高周波加熱機器用調理器具28は、被加熱物載置皿2にマグネタイトの粒子7とエラストマー6を含む高周波発熱体29が設けられ、さらに高周波発熱体29には高周波発熱体29を構成するマグネタイトの粒子7の酸化による結晶構造の変化を抑制する被覆層30が形成されている。
【0090】
この被覆層30を高周波発熱体29の少なくとも一部に設けることにより、高周波発熱体29の内部への酸素、水蒸気の拡散を抑制することができるので、高周波発熱体29を構成するマグネタイトの酸化による結晶構造の変化が抑制され、経時変化のない安定した昇温性能が得られる。これによって、昇温性能、耐久性、信頼性に優れた高周波加熱機器用調理器具28を実現することができる。
【0091】
また、マグネタイトの粒子7自体には被覆層30が形成されていないため、高周波発熱体29中のマグネタイトの粒子7がお互いに接触した構造となっている。この構造により、温度が上昇すると半導体としての特性が発現し、高周波の給電によってマグネタイトの粒子間を通じて渦電流が発生する。この渦電流により、高周波発熱体29にジュール熱が発生し、このジュール熱がマグネタイトの磁気損失による高周波の吸収・発熱に付加され、より高い昇温性能を得ることができる。
【0092】
なお、実施の形態2では、被覆層30を被加熱物載置皿2と反対側の高周波発熱体29の表面全体に形成しているが、これに限定されるものでなく、被覆層30を高周波発熱体29の端面部も含めて形成してもよいし、被加熱物載置皿2側の高周波発熱体29も含めて形成してもよく、さらに、高周波発熱体29が調理性能に影響のない昇温性能の低下の範囲であれば、高周波発熱体29の表面の一部に形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上のように本発明の高周波発熱体は、昇温性能に優れているので、調理機器の発熱体のみでなく、産業用乾燥機や加熱機の用途としても適用可能であり、また、高周波の吸収性能に優れていることから、冷却装置を付加し、電波シールデバイスとしても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の実施の形態1における高周波発熱体が設けられた高周波加熱機器用調理器具の断面図
【図2】本発明の実施の形態1における高周波発熱体の構造を示す模式図
【図3】本発明の実施の形態1における被覆層が形成されたマグネタイトの粒子の断面構造を示す模式図
【図4】本発明の高周波加熱機器用調理器具が搭載される高周波加熱調理器の断面図
【図5】本発明の実施の形態2における高周波加熱機器用調理器具の一部断面図
【図6】従来の高周波発熱体が設けられた被加熱物載置皿の斜視図
【図7】従来の被加熱物載置皿の一部断面図
【符号の説明】
【0095】
1、28 高周波加熱機器用調理器具
2 被加熱物載置皿
3 高周波発熱体
5 被覆層が形成されたマグネタイトの粒子
6 エラストマー
7、29 マグネタイトの粒子
8、30 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともマグネタイトを含む高周波発熱体において、前記マグネタイトの結晶構造の変化を抑制した高周波発熱体。
【請求項2】
少なくとも結晶構造の変化を抑制したマグネタイトを含む高周波吸収材料と、少なくとも1種のエラストマーの複合物からなる高周波発熱体。
【請求項3】
マグネタイトの粒子の外側に設けられ、前記マグネタイトの粒子の結晶構造の変化を抑制する被覆層を備えた請求項1または2に記載の高周波発熱体。
【請求項4】
被覆層は、マグネタイトの粒子の表面に設けられた請求項3に記載の高周波発熱体。
【請求項5】
被覆層は、高周波発熱体の少なくとも表面の一部に形成される請求項3に記載の高周波発熱体。
【請求項6】
被覆層は、有機シリコン化合物、有機チタン化合物、有機フッ素化合物の少なくとも1種を含む請求項3〜5のいずれか1項に記載の高周波発熱体。
【請求項7】
エラストマーは、シリコンゴムまたはフッ素ゴムを含む請求項2〜6のいずれか1項に記載の高周波発熱体。
【請求項8】
被加熱物を載置する有機気高分子を含む被覆層が形成された金属製の被加熱物載置皿と、前記被加熱物載置皿の被加熱物が載置されない面の一部に設けられた請求項1〜7のいずれか1項に記載の高周波発熱体とからなる高周波加熱機器用調理器具。
【請求項9】
金属製の被加熱物載置皿に設けられる高周波発熱体の面積は、0.1m以下とした請求項8に記載の高周波加熱機器用調理器具。
【請求項10】
金属製の被加熱物載置皿に設けられる高周波発熱体の膜厚は、0.5〜2mmとした請求項8または9に記載の高周波加熱機器用調理器具。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の高周波加熱機器用調理器具を備えた高周波加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−12075(P2010−12075A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175426(P2008−175426)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】