説明

高周波誘導加熱装置

【課題】発熱を自己制御して温度を一定に制御できる高周波誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】高周波誘導加熱により加熱される発熱部の熱により被加熱物を加熱する高周波誘導加熱装置において、所定の板厚の板状の磁性材を所定の間隙を開けて接合せずに渦巻き状に巻き込んだ略筒形状に形成してなる発熱部と、上記発熱部を覆うように所定の間隙を開けて巻回されて配設された高周波誘導加熱コイルと、上記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を給電する高周波発振器とを有し、上記所定の板厚は、上記発熱部の表面に誘導される渦電流のキュリー温度における浸透深さの2倍以下であるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波誘導加熱装置に関し、さらに詳細には、誘導加熱により加熱される発熱部の熱により被加熱物を加熱する高周波誘導加熱装置に関し、具体的には、誘導加熱により加熱される発熱部の発熱を自己制御する高周波誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、誘導加熱により加熱される発熱部によって被加熱物を加熱する高周波誘導加熱装置の温度制御方法として、例えば、発熱部を構成する磁性材のキュリー温度を利用して、当該キュリー温度以上に昇温させないように発熱部の発熱を自己制御させる技術が知られている。
【0003】

ここで、図1には、キュリー温度以上に昇温させないように発熱部の発熱を自己制御する従来の高周波誘導加熱装置における発熱部の時間と温度との関係を表すグラフが示されている。
【0004】
図1に示すグラフにおいて、発熱部の温度変化を見ると、発熱部を構成する磁性材のキュリー温度である温度Aまでは温度の上昇カーブの傾きは大きいが、発熱部を構成する磁性材のキュリー温度である温度A以降では温度の上昇カーブの傾きが急に小さくなっている。
【0005】
これは、発熱部が当該発熱部を構成する磁性材のキュリー温度に達するまでは磁性を示し、発熱部を構成する磁性材の表面で渦電流が誘導されることにより発熱部が加熱されていたが、発熱部を構成する磁性材が有するキュリー温度を超えると磁性を示さなくなるため、発熱部を構成する磁性材の表面で渦電流が誘導されなくなり発熱部の加熱が著しく低減するためである。
【0006】
しかしながら、こうした従来の高周波誘導加熱装置においては、発熱部を構成する磁性材の有するキュリー温度に達した後も緩やかにではあるが経時的に温度が上昇し、発熱部を構成する磁性材の有するキュリー温度において正確に温度を一定に制御することができないという問題点があった。
【0007】
また、上記したような従来の高周波誘導加熱装置においては、広範囲の領域を均熱状態で加熱したり、気体や液体といった流体を均熱状態で加熱したりすることが容易でないという問題点があった。
【0008】

なお、本願出願人が特許出願時に知っている先行技術は、上記において説明したようなものであって文献公知発明に係る発明ではないため、記載すべき先行技術情報はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記したような従来の技術の有する種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、発熱を自己制御して温度を一定に制御できる高周波誘導加熱装置を提供しようとするものである。
【0010】
また、本発明の目的とするところは、広範囲の領域を均熱状態で加熱したり、気体や液体といった流体を均熱状態で加熱したりすることが容易な高周波誘導加熱装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、板状の磁性材を所定の間隙を開けて接合せずに略筒形状に形成して発熱部を構成し、当該板状の磁性材の板厚を当該磁性材の表面に誘導される渦電流のキュリー温度における浸透深さの2倍以下としたものである。
【0012】
これにより、本発明によれば、高周波誘導加熱により加熱された発熱部の温度が、当該発熱部を構成する磁性材のキュリー温度に達した後は当該キュリー温度を超える温度になることはなく、発熱部を構成する磁性材のキュリー温度より当該発熱部の温度が低下すると再び加熱され当該キュリー温度まで昇温されることになる。
【0013】
従って、発熱部を加熱する際の最高温度は、発熱部を構成する磁性材のキュリー温度で常に一定に制御されることとなる。
【0014】
また、本発明によれば、発熱部の略筒形状を形状や大きさを調整することにより、広範囲の領域を均熱状態で容易に加熱することができるようになり、また、発熱部の略筒形状の軸方向に沿って気体や液体といった流体を流すことにより、気体や液体といった流体を均熱状態で容易に加熱することができるようになる。
【0015】

即ち、本発明のうち請求項1に記載の発明は、高周波誘導加熱により加熱される発熱部の熱により被加熱物を加熱する高周波誘導加熱装置において、所定の板厚の板状の磁性材を所定の間隙を開けて接合せずに略筒形状に形成してなる発熱部と、上記発熱部を覆うように所定の間隙を開けて巻回されて配設された高周波誘導加熱コイルと、上記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を給電する高周波発振器とを有し、上記所定の板厚は、上記発熱部の表面に誘導される渦電流のキュリー温度における浸透深さの2倍以下であるようにしたものである。
【0016】
また、本発明のうち請求項2に記載の発明は、高周波誘導加熱により加熱される発熱部の熱により被加熱物を加熱する高周波誘導加熱装置において、絶縁材よりなる筒部と、所定の板厚の板状の磁性材を所定の間隙を開けて接合せずに略筒形状に形成してなり、上記筒部の内周側に配設された発熱部と、上記筒部の外周側に巻回されて配設された高周波誘導加熱コイルと、上記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を給電する高周波発振器とを有し、上記所定の板厚は、上記発熱部の表面に誘導される渦電流のキュリー温度における浸透深さの2倍以下であるようにしたものである。
【0017】
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、高周波誘導加熱により加熱される発熱部の熱により被加熱物を加熱する高周波誘導加熱装置において、非磁性材よりなる筒部と、所定の板厚の板状の磁性材を所定の間隙を開けて接合せずに略筒形状に形成してなり、上記筒部の内周側に上記筒部の内面と接することなく配設された発熱部と、上記発熱部の内径側に配置されたボビンと、上記発熱部の内径側において上記ボビンの外周側に巻回されて配設された高周波誘導加熱コイルと、上記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を給電する高周波発振器とを有し、上記所定の板厚は、上記発熱部の表面に誘導される渦電流のキュリー温度における浸透深さの2倍以下であるようにしたものである。
【0018】
また、本発明のうち請求項4に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2または3のいずれか1項に記載の発明において、上記略筒形状の断面を略C形形状としたものである。
【0019】
また、本発明のうち請求項5に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2または3のいずれか1項に記載の発明において、上記略筒形状が、上記磁性材を所定の間隔を開けて渦巻き状に巻き込んだ渦巻き形状であるようにしたものである。
【0020】
また、本発明のうち請求項6に記載の発明は、本発明のうち請求項5に記載の発明において、上記渦巻き形状が、渦巻き形状の中心部に所定の空間領域を形成した渦巻き形状であるようにしたものである。
【0021】
また、本発明のうち請求項7に記載の発明は、本発明のうち請求項5に記載の発明において、上記渦巻き形状が、渦巻き形状の中心部に上記板状の磁性材の一方の端部が位置するように形成した渦巻き形状であるようにしたものである。
【0022】
また、本発明のうち請求項8に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3、4、5、6または7のいずれか1項に記載の発明において、上記発熱部は、複数の上記磁性材を所定の間隙を開けて接合せずに略筒形状に形成してなるようにしたものである。
【0023】
また、本発明のうち請求項9に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれか1項に記載の発明において、上記磁性材をインバー材としたものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以上説明したように構成されているので、発熱を自己制御して温度を一定に制御することができるという優れた効果を奏する。
【0025】
また、本発明は、以上説明したように構成されているので、広範囲の領域を均熱状態で加熱したり、気体や液体といった流体を均熱状態で加熱したりすることが容易となるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による高周波誘導加熱装置の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0027】

まず、図2乃至図3を参照しながら、本発明による高周波誘導加熱装置の第1の実施の形態について説明する。
【0028】
図2には本発明の第1の実施の形態による高周波誘導加熱装置の概略構成斜視説明図が示されており、図3には図2に示す高周波誘導加熱装置のA−A線による発熱部の端面構成説明図(高周波誘導加熱コイルの図示は省略している。)が示されている。
【0029】
この図2乃至図3示す高周波誘導加熱装置10は、矩形形状のインバー材を所定の間隔を開けて渦巻き状に巻き込んで略筒形状を形成した発熱部12と、高周波発振器(図示せず。)の一方の端子(図示せず。)に一方の端部14aを電気的に接続された高周波電流を導通する線路たるフィーダー14および高周波発振器の他方の端子(図示せず。)に一方の端部16aを電気的に接続させた高周波電流を導通する線路たるフィーダー16と、フィーダー14の他方の端部14bに一方の端部18aを電気的に接続されるとともにフィーダー16の他方の端部16bに他方の端部18bを電気的に接続され発熱部12を覆うように所定の間隙を開けて巻回されて配設された高周波誘導加熱コイル18とを有して構成されている。
【0030】

より詳細には、発熱部12は、矩形形状のインバー材の一方の端部12bを他方の端部12cの内側に所定の間隔g1だけ離隔して位置するようにして渦巻き状に順次に巻き込んでいき、対向する発熱部12同士が間隔g1を維持するようにした渦巻き状の略筒形状を形成するようにしたものであり、中心部には空間S1が形成されるようになされている(図3を参照する。)。
【0031】
さらに、発熱部12は、発熱部12を形成するインバー材のキュリー温度においてインバー材の表面に誘導される渦電流の浸透深さがインバー材の板厚の1/2以上となるようにインバー材の板厚tが調整されている。
【0032】

なお、インバー材とは磁性材の一種であり、鉄、ニッケル、コバルト、クロムなどの合金よりなるものである。インバー材は、その組成比率を調整することにより所望のキュリー温度を得ることができる。
【0033】

以上の構成において、高周波誘導加熱装置10の発熱部12の外面12a側にトンネル状に巻回された高周波誘導加熱コイル18に、高周波発振器からフィーダー14、16を介して高周波電流が給電されると、高周波誘導加熱コイル18が作る磁束が高周波誘導加熱コイル18により形成されるトンネル内を通過することにより、トンネル内に設けられた発熱部12を通過し、発熱部12の表面で渦電流が誘導されて発熱部12が加熱される。
【0034】
ここで、発熱部12の表面に誘導される渦電流について説明すると、発熱部12の表面に誘導される渦電流は、例えば、図4に示すように、発熱部12の外面12aを端部12cから端部12bへ向けて時計回り方向へ進み、端部12bへ到達すると発熱部12の内面12dへ回り込み、発熱部12の内面12dを端部12bから端部12cへ向けて反時計回り方向へ進み、端部12cへ到達すると再び発熱部12の外面12aへ回り込んで外面12aを時計回り方向に進むものである。
【0035】
このように、発熱部12の表面で誘導される渦電流は、発熱部12の表面を一方向に周回するように進むこととなる。
【0036】

また、発熱部12に誘導される渦電流の浸透深さは、次に示す式1で表される。
【0037】

δ=5.03√(ρ/μf) ・・・ 式1
δ:浸透深さ(cm)
ρ:固有抵抗(μΩ・cm)
μ:比透磁率
f:周波数(Hz)

そして、高周波発振器からの高周波誘導加熱コイル18への給電により、発熱部12が加熱され続けて、発熱部12が発熱部12を形成するインバー材のキュリー温度まで加熱されると、発熱部12はそれ以上加熱されてもキュリー温度以上となることはなく、発熱部12を形成するインバー材のキュリー温度で一定となる。
【0038】
ここで、発熱部12の板厚t、即ち、発熱部12を形成するインバー材の厚さは、発熱部12の表面に誘導される渦電流のキュリー温度における浸透深さの2倍以下となるように設定されている。
【0039】
従って、発熱部12の温度がキュリー温度に達しないときには、その浸透深さは板厚tの半分(t/2)以下となるが、発熱部12の温度がキュリー温度に達したときには、その浸透深さは板厚tの半分(t/2)より大きくなる。
【0040】
このため、発熱部12の温度がキュリー温度に達しないときには、図5(a)に示すように、発熱部12の外面12aと内面12dとにおける渦電流の浸透深さL1(L1≦t/2)は上記式1に従って徐々に大きくなり、また、外面12aと内面12dとに誘導される渦電流が互いに打ち消し合うことがないので、発熱部12の温度は上昇する。
【0041】
一方、発熱部12の温度がキュリー温度に達したときには、図5(b)に示すように、発熱部12の外面12aと内面12dとにおける渦電流の浸透深さL2は板厚tの半分(t/2)より大きくなり、発熱部12がキュリー温度以上に加熱されなくなる。
【0042】
即ち、発熱部12の温度が発熱部12を形成するインバー材のキュリー温度に達するときは、発熱部12の外面12aと内面12dとにおいて渦電流が発熱部12の板厚の1/2より大きい浸透深さL2で誘導されることになり、外面12aにおける渦電流と外面12aにおける渦電流と逆方向に流れる内面12dにおける渦電流とが互いに打ち消し合い、発熱部12が加熱されなくなるものである。
【0043】
このように、高周波誘導加熱装置10においては、発熱部12の外面12aと内面12dとにおいてそれぞれ誘導される渦電流が、発熱部12を形成するインバー材のキュリー温度において互いに打ち消し合うことになるため、発熱部12が当該キュリー温度以上に加熱されることはなくなる。
【0044】

また、発熱部12を形成するインバー材のキュリー温度より発熱部12の温度が低下すると、誘導される渦電流の浸透深さは、発熱部12が当該キュリー温度に達した際に誘導される渦電流の浸透深さL2より小さい浸透深さL1となり、図5(a)に示すように外面12aと内面12dとに誘導される渦電流が互いに打ち消し合うことがない状態となるので、発熱部12が再び加熱されるようになる。
【0045】
こうして、高周波誘導加熱装置10においては、発熱部12が形成する渦巻きにより囲まれた広範囲の領域S1が、発熱部12を形成するインバー材のキュリー温度で一定で均一に加熱されるようになる。
【0046】
従って、広範囲の領域S1を被加熱物が通過すると、その被加熱物を当該キュリー温度で一定かつ均一に加熱することができる。
【0047】

上記において説明したように、高周波誘導加熱装置10によれば、図6に示すように、高周波誘導加熱により加熱された発熱部12の温度が、発熱部12を形成するインバー材のキュリー温度に達した後は当該キュリー温度を超える温度になることはなく、発熱部12を形成するインバー材のキュリー温度より発熱部12の温度が低下すると再び加熱され当該キュリー温度まで昇温するようになされている。
【0048】
従って、発熱部12を加熱する際の最高温度は、発熱部12を形成するインバー材のキュリー温度で常に一定に制御されることとなる。
【0049】
つまり、高周波誘導加熱装置10は、発熱部12を形成するインバー材のキュリー温度において発熱部12の発熱を自己制御できる構成となっている。
【0050】
また、高周波誘導加熱装置10によれば、発熱部12を形成するインバー材の組成比率を変更することによりキュリー温度を選択することができ、所望のキュリー温度のインバー材により発熱部12を形成することによって、所望のキュリー温度において発熱部12の発熱を自己制御することができる。
【0051】
さらに、高周波誘導加熱装置10によれば、発熱部12が形成する渦巻きにより囲まれた広範囲の領域S1が、発熱部12を形成するインバー材のキュリー温度で均一に加熱されるため、領域S1に被加熱物を通過させることにより、発熱部12に接触することなしに被加熱物をキュリー温度で均一に加熱することができる。
【0052】

次に、図7乃至図8を参照しながら、本発明による高周波誘導加熱装置の第2の実施の形態について説明する。
【0053】
なお、以下の説明においては、図2乃至図3を参照しながら説明した本発明による高周波誘導加熱装置の第1の実施の形態と同一または相当する構成については、上記において用いた符号と同一の符号を用いることにより、その構成ならびに作用の詳細な説明は適宜に省略することとする。
【0054】

ここで、図7には本発明の第2に実施の形態による高周波誘導加熱装置の一部を破断して示した概略構成斜視説明図が示されており、図8には図7に示す高周波誘導加熱装置のB−B線による筒部および発熱部の端面構成説明図(高周波誘導加熱コイルの図示は省略している。)が示されている。
【0055】
この図7乃至図8に示す高周波誘導加熱装置20は、絶縁材よりなる略円柱状の筒部22と、筒部22の内周側に配置されるとともに矩形形状のインバー材を所定の間隔を開けて渦巻き状に巻き込んで略筒形状を形成した発熱部24と、高周波発振器(図示せず。)の一方の端子(図示せず。)に一方の端部14aを電気的に接続された高周波電流を導通する線路たるフィーダー14および高周波発振器の他方の端部(図示せず。)に一方の端部16aを電気的に接続させた高周波電流を導通する線路たるフィーダー16と、フィーダー14の他方の端部14bに一方の端部18aを電気的に接続されるとともにフィーダー16の他方の端部16bに他方の端部18bを電気的に接続され筒部22の外面22a側に巻回されて配設された高周波誘導加熱コイル18とを有して構成されている。
【0056】

より詳細には、発熱部24は、筒部22の内周側に配設され、矩形形状のインバー材の一方の端部24bを他方の端部24cの内側に所定の間隔g2だけ離隔して位置するようにして渦巻き状に順次に巻き込んでいき、対向する発熱部24同士が間隔g2を維持するとともに、端部24bが渦巻きの略中心に位置するようにした渦巻き状の略筒形状を形成するようにしたものである(図8を参照する。)。
【0057】
さらに、発熱部24は、発熱部24を形成するインバー材のキュリー温度においてインバー材の表面に誘導される渦電流の浸透深さがインバー材の板厚の1/2以上となるようにインバー材の板厚tが調整されている。
【0058】

従って、本発明の第2に実施の形態による高周波誘導加熱装置20は、筒部22の内周側に発熱部24が配置されている点と、発熱部24が端部24bを渦巻きの略中心に位置するようにした渦巻状の形状となっていることにより発熱部24の中心に大きな空間がない点とにおいて、高周波誘導加熱装置10と異なっている。
【0059】

以上の構成において、高周波誘導加熱装置20における筒部22の外面22a側にトンネル状に巻回された高周波誘導加熱コイル18に、高周波発振器からフィーダー14、16を介して高周波電流が給電されると、高周波誘導加熱コイル18が作る磁束が高周波誘導加熱コイル18により形成されるトンネル内を通過することにより、トンネル内に設けられた筒部22と筒部22の内周側に配設された発熱部24とを通過するが、絶縁材よりなる筒部22では渦電流が誘導されないので誘導加熱されることはなく、筒部22の内周側に配設されたインバー材よりなる発熱部24の表面で渦電流が誘導されて発熱部24が加熱される。
【0060】

ここで、発熱部24の表面に誘導される渦電流について説明すると、発熱部24の表面に誘導される渦電流は、例えば、図9に示すように、発熱部24の外面24aを端部24cから端部24bへ向けて時計回り方向へ進み、端部24bへ到達すると発熱部24の内面24dへ回り込み、発熱部24の内面24dを端部24bから端部24cへ向けて反時計回り方向へ進み、端部24cへ到達すると再び発熱部24の外面24aへ回り込んで外面12aを時計回り方向に進むものである。
【0061】
このように、発熱部24の表面で誘導される渦電流は、発熱部24の表面を一方向に周回するように進むこととなる。
【0062】

また、発熱部24に誘導される渦電流の浸透深さは、上記した式1で表される。
【0063】
そして、高周波発振器からの高周波誘導加熱コイル18への給電により、発熱部24が加熱され続けて、発熱部24が発熱部24を形成するインバー材のキュリー温度まで加熱されると、発熱部24はそれ以上加熱されてもキュリー温度以上となることはなく、発熱部24を形成するインバー材のキュリー温度で一定となる。
【0064】
ここで、発熱部24の板厚t、即ち、発熱部24を形成するインバー材の厚さは、発熱部24の表面に誘導される渦電流のキュリー温度における浸透深さの2倍以下となるように設定されている。
【0065】
従って、発熱部24の温度がキュリー温度に達しないときには、その浸透深さは板厚tの半分(t/2)以下となるが、発熱部24の温度がキュリー温度に達したときには、その浸透深さは板厚tの半分(t/2)より大きくなる。
【0066】
このため、発熱部24の温度がキュリー温度に達しないときには、図5(a)に示すように、発熱部24の外面24aと内面24dとにおける渦電流の浸透深さL1(L1≦t/2)は上記式1に従って徐々に大きくなり、また、外面24aと内面24dとに誘導される渦電流が互いに打ち消し合うことがないので、発熱部24の温度は上昇する。
【0067】
一方、発熱部24の温度がキュリー温度に達したときには、図5(b)に示すように、発熱部24の外面24aと内面24dとにおける渦電流の浸透深さL2は板厚tの半分(t/2)より大きくなり、発熱部24がキュリー温度以上に加熱されなくなる。
【0068】
即ち、発熱部24の温度が発熱部24を形成するインバー材のキュリー温度に達するときは、発熱部24の外面24aと内面24dとにおいて渦電流が発熱部24の板厚の1/2より大きい浸透深さL2で誘導されることになり、外面24aにおける渦電流と外面24aにおける渦電流と逆方向に流れる内面24dにおける渦電流とが互いに打ち消し合い、発熱部24が加熱されなくなるものである。
【0069】
このように、高周波誘導加熱装置20においては、発熱部24の外面24aと内面24dとにおいてそれぞれ誘導される渦電流が、発熱部24を形成するインバー材のキュリー温度において互いに打ち消し合うことになるため、発熱部24が当該キュリー温度以上に加熱されることはなくなる。
【0070】

また、発熱部24を形成するインバー材のキュリー温度より発熱部24の温度が低下すると、誘導される渦電流の浸透深さは、発熱部24が当該キュリー温度に達した際に誘導される渦電流の浸透深さL2より小さい浸透深さL1となり、図5(a)に示すように外面24aと内面24dとに誘導される渦電流が互いに打ち消し合うことがない状態となるので、発熱部24が再び加熱されるようになる。
【0071】
こうして、高周波誘導加熱装置20においては、筒部22内の空間が発熱部24により加熱され、この筒部22内の空間は、発熱部24を形成するインバー材のキュリー温度で一定で均一に加熱されるようになる。
【0072】
従って、筒部22内に被加熱物として気体や液体といった流体を流し込むことにより、その被加熱物を当該キュリー温度で一定かつ均一に加熱することができる。
【0073】
また、高周波誘導加熱装置20においては、断面が渦巻状の発熱部24の巻き数を多くすることにより、筒部22に被加熱物として流し込まれた流体と発熱部24の表面との接する面積が多くなるので、当該被加熱物をより効率的に加熱することができるようになる。
【0074】

上記において説明したように、高周波誘導加熱装置20によれば、図6に示すように、高周波誘導加熱により加熱された発熱部24の温度が、発熱部24を形成するインバー材のキュリー温度に達した後は当該キュリー温度を超える温度になることはなく、発熱部24を形成するインバー材のキュリー温度より発熱部24の温度が低下すると再び加熱され当該キュリー温度まで昇温するようになされている。
【0075】
従って、発熱部24を加熱する際の最高温度は、発熱部24を形成するインバー材のキュリー温度で常に一定に制御されることとなる。
【0076】
つまり、高周波誘導加熱装置20は、発熱部24を形成するインバー材のキュリー温度において発熱部24の発熱を自己制御できる構成となっている。
【0077】
また、高周波誘導加熱装置20によれば、発熱部24を形成するインバー材の組成比率を変更することによりキュリー温度を選択することができ、所望のキュリー温度のインバー材により発熱部24を形成することによって、所望のキュリー温度において発熱部24の発熱を自己制御することができる。
【0078】

次に、図10乃至図11を参照しながら、本発明による高周波誘導加熱装置の第3の実施の形態について説明する。
【0079】
なお、以下の説明においては、上記した第2の実施の形態による高周波誘導加熱装置20と同様に、図2乃至図3を参照しながら説明した本発明による高周波誘導加熱装置の第1の実施の形態と同一または相当する構成については、上記において用いた符号と同一の符号を用いることにより、その構成ならびに作用の詳細な説明は適宜に省略することとする。
【0080】

ここで、図10には本発明の第3に実施の形態による高周波誘導加熱装置の一部を破断して示した概略構成斜視説明図が示されており、図11には図10に示す高周波誘導加熱装置のC−C線による筒部および発熱部の端面構成説明図(高周波誘導加熱コイルの図示は省略している。)が示されている。
【0081】
この図10乃至図11に示す高周波誘導加熱装置30は、ガラスなどの耐熱絶縁材よりなる略円柱状の筒部32と、筒部32の内周側に配置されるとともに断面C形形状に加工された複数のインバー材を組み合わせて断面が略渦巻状となるように形成した略筒形状の発熱部34と、高周波発振器(図示せず。)の一方の端子(図示せず。)に一方の端部14aを電気的に接続された高周波電流を導通する線路たるフィーダー14および高周波発振器の他方の端部(図示せず。)に一方の端部16aを電気的に接続させた高周波電流を導通する線路たるフィーダー16と、フィーダー14の他方の端部14bに一方の端部18aを電気的に接続されるとともにフィーダー16の他方の端部16bに他方の端部18bを電気的に接続され筒部22の外面22a側に巻回されて配設された高周波誘導加熱コイル18とを有して構成されている。
【0082】
より詳細には、発熱部34は、同じ組成比率のインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6を、筒部32の内周側に配置することにより構成されている。
【0083】
ここで、インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6は、それぞれ所定の曲率を有した曲面に加工された断面C形形状を備えており、それぞれが外側もしくは内側に位置する対向するインバー材と間隔g3を開けるとともに隣り合うインバー材と間隔g4を開けるようにして、断面が略渦巻状をした略筒形状を備えるように構成されている。
【0084】
さらに、発熱部34は、発熱部34を構成するインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6のキュリー温度においてインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の表面に誘導される渦電流の浸透深さが各インバー材の板厚の1/2以上となるようにインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の板厚tが調整されている。
【0085】

従って、本発明の第3の実施の形態による高周波誘導加熱装置30は、筒部32の内周側に発熱部34が配置されている点と、発熱部34が複数の断面C形形状のインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6を組み合わせて構成されている点とにおいて、高周波誘導加熱装置10、20と異なっている。
【0086】

以上の構成において、高周波誘導加熱装置30における筒部32の外面32a側にトンネル状に巻回された高周波誘導加熱コイル18に、高周波発振器からフィーダー14、16を介して高周波電流が給電されると、高周波誘導加熱コイル18が作る磁束が高周波誘導加熱コイル18により形成されるトンネル内を通過することにより、トンネル内に設けられた筒部32と筒部32の内周側に配設された発熱部34とを通過するが、ガラスなどの耐熱絶縁材よりなる筒部32では渦電流が誘導されないので誘導加熱されることはなく、筒部32の内周側に配設された発熱部34を構成する各インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の表面で渦電流が誘導され、発熱部34、即ち、各インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6が加熱される。
【0087】

ここで、発熱部34、即ち、各インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の表面に誘導される渦電流について説明すると、各インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の表面に誘導される渦電流は、例えば、図12に示すように、各インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の渦巻き形状の外径側に面する外面34−1a、34−2a、34−3a、34−4a、34−5a、34−6aを渦巻き形状の外径側に位置する端部34−1c、34−2c、34−3c、34−4c、34−5c、34−6cから渦巻き形状の内径側に位置する端部34−1b、34−2b、34−3b、34−4b、34−5b、34−6bへ向けて時計回り方向へ進み、端部34−1b、34−2b、34−3b、34−4b、34−5b、34−6bへ到達するとインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の渦巻き形状の内径側に面する内面34−1d、34−2d、34−3d、34−4d、34−5d、34−6dへ回り込み、インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の内面34−1d、34−2d、34−3d、34−4d、34−5d、34−6dを端部34−1b、34−2b、34−3b、34−4b、34−5b、34−6bから端部34−1c、34−2c、34−3c、34−4c、34−5c、34−6cへ向けて反時計回り方向へ進み、端部34−1c、34−2c、34−3c、34−4c、34−5c、34−6cへ到達すると再びインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の外面34−1a、34−2a、34−3a、34−4a、34−5a、34−6aへ回り込んで外面34−1a、34−2a、34−3a、34−4a、34−5a、34−6aを時計回り方向に進むものである。
【0088】
このように、発熱部34を構成する各インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の表面で誘導される渦電流は、各インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の表面を一方向に周回するように進むこととなる。
【0089】

また、発熱部34を構成する各インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6にそれぞれに誘導される渦電流の浸透深さは、上記した式1で表される。
【0090】
そして、高周波発振器からの高周波誘導加熱コイル18への給電により、発熱部34を構成する各インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6が加熱され続けて、発熱部34が発熱部34を構成するインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6のキュリー温度まで加熱されると、インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6はそれ以上加熱されてもキュリー温度以上となることはなく、インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6のキュリー温度で一定となる。
【0091】
ここで、発熱部34を構成する各インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の板厚tは、各インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の表面に誘導される渦電流のキュリー温度における浸透深さの2倍以下となるように設定されている。
【0092】
従って、発熱部34を構成するインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の温度がキュリー温度に達しないときには、その浸透深さは板厚tの半分(t/2)以下となるが、インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の温度がキュリー温度に達したときには、その浸透深さは板厚tの半分(t/2)より大きくなる。
【0093】
このため、インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の温度がキュリー温度に達しないときには、図5(a)に示すように、インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の外面34−1a、34−2a、34−3a、34−4a、34−5a、34−6aと内面34−1d、34−2d、34−3d、34−4d、34−5d、34−6dとにおける渦電流の浸透深さL1(L1≦t/2)は上記式1に従って徐々に大きくなり、また、外面34−1a、34−2a、34−3a、34−4a、34−5a、34−6aと内面34−1d、34−2d、34−3d、34−4d、34−5d、34−6dとに誘導される渦電流が互いに打ち消し合うことがないので、各インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6により構成される発熱部34の温度は上昇する。
【0094】
一方、発熱部34を構成するインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の温度がキュリー温度に達したときには、図5(b)に示すように、インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の外面34−1a、34−2a、34−3a、34−4a、34−5a、34−6aと内面34−1d、34−2d、34−3d、34−4d、34−5d、34−6dとにおける渦電流の浸透深さL2は板厚tの半分(t/2)以上の大きさとなり、各インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6により構成される発熱部34がキュリー温度以上に加熱されなくなる。
【0095】
即ち、インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の温度がそのキュリー温度に達するときは、インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の外面34−1a、34−2a、34−3a、34−4a、34−5a、34−6aと内面34−1d、34−2d、34−3d、34−4d、34−5d、34−6dとにおいて渦電流がインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の板厚の1/2より大きい浸透深さL2で誘導されることになり、外面34−1a、34−2a、34−3a、34−4a、34−5a、34−6aにおける渦電流と外面34−1a、34−2a、34−3a、34−4a、34−5a、34−6aにおける渦電流と逆方向に流れる内面34−1d、34−2d、34−3d、34−4d、34−5d、34−6dにおける渦電流とが互いに打ち消し合い、各インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6により構成される発熱部34が加熱されなくなるものである。
【0096】
このように、高周波誘導加熱装置30においては、発熱部34を構成するインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の外面34−1a、34−2a、34−3a、34−4a、34−5a、34−6aと内面34−1d、34−2d、34−3d、34−4d、34−5d、34−6dとにおいてそれぞれ誘導される渦電流が、発熱部34を構成するインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6のキュリー温度において互いに打ち消し合うことになるため、発熱部34が当該キュリー温度以上に加熱されることはなくなる。
【0097】

また、発熱部34を構成するインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6のキュリー温度より発熱部34の温度が低下すると、誘導される渦電流の浸透深さは、インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6が当該キュリー温度に達した際に誘導される渦電流の浸透深さL2より小さい浸透深さL1となり、図5(a)に示すように外面34−1a、34−2a、34−3a、34−4a、34−5a、34−6aと内面34−1d、34−2d、34−3d、34−4d、34−5d、34−6dとに誘導される渦電流が互いに打ち消し合うことがない状態となるので、インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6が再び加熱されるようになる。
【0098】
こうして、高周波誘導加熱装置30においては、筒部32内の空間が発熱部34により加熱され、この筒部32内の空間は、発熱部34を構成するインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6のキュリー温度で一定で均一に加熱されるようになる。
【0099】
従って、筒部32内に被加熱物として気体や液体といった流体を流し込むことにより、その被加熱物を当該キュリー温度で一定かつ均一に加熱することができる。
【0100】
また、高周波誘導加熱装置30においては、断面が渦巻状の発熱部34の巻き数を多くすることにより、筒部32に被加熱物として流し込まれた流体と発熱部34の表面との接する面積が多くなるので、当該被加熱物をより効率的に加熱することができるようになる。
【0101】

上記において説明したように、高周波誘導加熱装置30によれば、図6に示すように、高周波誘導加熱により加熱された発熱部34の温度が、発熱部34を構成するインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6のキュリー温度に達した後は当該キュリー温度を超える温度になることはなく、発熱部34を構成するインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6のキュリー温度より発熱部34、即ち、インバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の温度が低下すると再び加熱され当該キュリー温度まで昇温するようになされている。
【0102】
従って、発熱部34を加熱する際の最高温度は、発熱部34を構成するインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6のキュリー温度で常に一定に制御されることとなる。
【0103】
つまり、高周波誘導加熱装置30は、発熱部34を構成するインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6のキュリー温度において発熱部34の発熱を自己制御できる構成となっている。
【0104】
また、高周波誘導加熱装置30によれば、断面C形形状に加工されたインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6を組み合わせて渦巻き形状を形成して発熱部34を構成するため、高周波誘導加熱装置20のように単一のインバー材を渦巻き形状に加工して発熱部24を形成する場合と比較すると、渦巻き形状の発熱部を容易に構築することができる。
【0105】
さらに、高周波誘導加熱装置30によれば、発熱部34を構成するインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6の組成比率を変更することによりキュリー温度を選択することができ、所望のキュリー温度のインバー材34−1、34−2、34−3、34−4、34−5、34−6により発熱部34を構成することによって、所望のキュリー温度において発熱部34の発熱を自己制御することができる。
【0106】

次に、図13乃至図14を参照しながら、本発明による高周波誘導加熱装置の第4の実施の形態について説明する。
【0107】
なお、以下の説明においては、上記した第2の実施の形態による高周波誘導加熱装置20と同様に、図2乃至図3を参照しながら説明した本発明による高周波誘導加熱装置の第1の実施の形態と同一または相当する構成については、上記において用いた符号と同一の符号を用いることにより、その構成ならびに作用の詳細な説明は適宜に省略することとする。
【0108】

ここで、図13には本発明の第4の実施の形態による高周波誘導加熱装置の概念構成斜視説明図が示されており、図14には図13に示す高周波誘導加熱装置のD−D線による筒部、発熱部およびボビンの端面構成説明図(高周波誘導加熱コイルの図示は省略している。)が示されている。
【0109】
この図13乃至図14に示す高周波誘導加工装置40は、アルミや銅などの非磁性材の金属よりなる略円柱状の筒部42と、筒部42の内周側に配置されるとともに断面C字形状に加工されたインバー材よりなる発熱部44と、筒部42の中心位置に配設されるボビン46と、高周波発振器(図示せず。)の一方の端子(図示せず。)に一方の端部14aを電気的に接続された高周波電流を導通する線路たるフィーダー14および高周波発振器の他方の端部(図示せず。)に一方の端部16aを電気的に接続させた高周波電流を導通する線路たるフィーダー16と、フィーダー14の他方の端部14bに一方の端部18aを電気的に接続されるとともにフィーダー16の他方の端部16bに他方の端部18bを電気的に接続されボビン46の表面46aに巻回されて配設された高周波誘導加熱コイル18とを有して構成されている。
【0110】

より詳細には、発熱部44は、矩形形状のインバー材の一方の端部44bと他方の端部44cとを所定の間隔g5を開けて対向させるようにして筒形形状を形成した略円柱形状を備えており、筒部42の内面42aと接することなく配設されている(図14を参照する。)。
【0111】
さらに、発熱部44は、発熱部44を形成するインバー材のキュリー温度においてインバー材の表面に誘導される渦電流の浸透深さがインバー材の板厚の1/2以上となるようにインバー材の板厚tが調整されている。
【0112】

従って、本発明の第4に実施の形態による高周波誘導加熱装置40は、筒部42の中心位置に高周波誘導加熱コイル18が巻回されたボビン46が載置されている点において、高周波誘導加熱装置10、高周波誘導加熱装置20および高周波誘導加熱装置30と異なっている。
【0113】

以上の構成において、高周波誘導加熱装置40におけるボビン46の表面46aに巻回された高周波誘導加熱コイル18に、高周波発振器からフィーダー14、16を介して高周波電流が給電されると、高周波誘導加熱コイル18が作る磁束が発熱部44と筒部42とを通過するが、インバー材よりなる発熱部44では表面に渦電流が誘導されて発熱部44が誘導加熱され、アルミや銅などの非磁性材の金属よりなる筒部42では渦電流が誘導されないので筒部42は誘導加熱されることはない。
【0114】

ここで、発熱部44の表面に誘導される渦電流について説明すると、発熱部44の表面に誘導される渦電流は、例えば、図15に示すように、発熱部44の外面44aを端部44cから端部44bへ向けて時計回り方向へ進み、端部44bへ到達すると発熱部44の内面44dへ回り込み、発熱部44の内面44dを端部44bから端部44cへ向けて反時計回り方向へ進み、端部44cへ到達すると再び発熱部44の外面44aへ回り込んで外面44aを時計回り方向に進むものである。
【0115】
このように、発熱部44の表面で誘導される渦電流は、発熱部44の表面を一方向に周回するように進むこととなる。
【0116】

また、発熱部24に誘導される渦電流の浸透深さは、上記した式1で表される。
【0117】
そして、高周波発振器からの高周波誘導加熱コイル18への給電により、発熱部44が加熱され続けて、発熱部44が発熱部44を形成するインバー材のキュリー温度まで加熱されると、発熱部44はそれ以上加熱されてもキュリー温度以上となることはなく、発熱部44を形成するインバー材のキュリー温度で一定となる。
【0118】
ここで、発熱部44の板厚t、即ち、発熱部44を形成するインバー材の厚さは、発熱部44の表面に誘導される渦電流のキュリー温度における浸透深さの2倍以下となるように設定されている。
【0119】
従って、発熱部44の温度がキュリー温度に達しないときには、その浸透深さは板厚tの半分(t/2)以下となるが、発熱部44の温度がキュリー温度に達したときには、その浸透深さは板厚tの半分(t/2)より大きくなる。
【0120】
このため、発熱部44の温度がキュリー温度に達しないときには、図5(a)に示すように、発熱部44の外面44aと内面44dとにおける渦電流の浸透深さL1(L1≦t/2)は上記式1に従って徐々に大きくなり、また、外面44aと内面44dとに誘導される渦電流が互いに打ち消し合うことがないので、発熱部44の温度は上昇する。
【0121】
一方、発熱部44の温度がキュリー温度に達したときには、図5(b)に示すように、発熱部44の外面44aと内面44dとにおける渦電流の浸透深さL2は板厚tの半分(t/2)より大きくなり、発熱部44がキュリー温度以上に加熱されなくなる。
【0122】
即ち、発熱部44の温度が発熱部44を形成するインバー材のキュリー温度に達するときは、発熱部44の外面44aと内面44dとにおいて渦電流が発熱部44の板厚の1/2より大きい浸透深さL2で誘導されることになり、外面44aにおける渦電流と外面44aにおける渦電流と逆方向に流れる内面44dにおける渦電流とが互いに打ち消し合い、発熱部44が加熱されなくなるものである。
【0123】
このように、高周波誘導加熱装置40においては、発熱部44の外面44aと内面44dとにおいてそれぞれ誘導される渦電流が、発熱部44を形成するインバー材のキュリー温度において互いに打ち消し合うことになるため、発熱部44が当該キュリー温度以上に加熱されることはなくなる。
【0124】

また、発熱部44を形成するインバー材のキュリー温度より発熱部44の温度が低下すると、誘導される渦電流の浸透深さは、発熱部44が当該キュリー温度に達した際に誘導される渦電流の浸透深さL2より小さい浸透深さL1となり、図5(a)に示すように外面44aと内面44dとに誘導される渦電流が互いに打ち消し合うことがない状態となるので、発熱部44が再び加熱されるようになる。
【0125】
こうして、高周波誘導加熱装置40においては、筒部42内の空間が発熱部44により加熱され、この筒部42内の空間は、発熱部44を形成するインバー材のキュリー温度で一定で均一に加熱されるようになる。
【0126】
従って、上記した筒部42内の空間の加熱に伴い、非磁性材よりなる筒部42もキュリー温度で一定で均一に加熱されるようになる。
【0127】

上記において説明したように、高周波誘導加熱装置40によれば、図6に示すように、高周波誘導加熱により加熱された発熱部44の温度が、発熱部44を形成するインバー材のキュリー温度に達した後は当該キュリー温度を超える温度になることはなく、発熱部44を形成するインバー材のキュリー温度より発熱部44の温度が低下すると再び加熱され当該キュリー温度まで昇温するようになされている。
【0128】
従って、発熱部44を加熱する際の最高温度は、発熱部44を形成するインバー材のキュリー温度で常に一定に制御されることとなる。
【0129】
つまり、高周波誘導加熱装置40は、発熱部44を形成するインバー材のキュリー温度において発熱部44の発熱を自己制御できる構成となっている。
【0130】
また、高周波誘導加熱装置40によれば、発熱部44を形成するインバー材の組成比率を変更することによりキュリー温度を選択することができ、所望のキュリー温度のインバー材により発熱部44を形成することによって、所望のキュリー温度において発熱部44の発熱を自己制御することができる。
【0131】
さらに、高周波誘導加熱装置40によれば、発熱部44の発熱により筒部42内の空間が均一に加熱されることで筒部42が加熱されるようになされている。
【0132】
従って、筒部42をアルミや銅などの非磁性材の金属よりなるローラーとして構成することにより、コピー機やレーザービームプリンタなどのトナーの加熱定着装置や鋼板やプラスチックフィルムのラミネート加工装置などのローラーの加熱装置として高周波誘導加熱装置40を利用することができる。
【0133】

なお、上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(5)に示すように変形することができるものである。
【0134】
(1)上記した実施の形態においては、発熱部をインバー材により形成することにより、当該インバー材のキュリー温度を利用して発熱部の発熱を自己制御するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、発熱部をインバー材ではない磁性材で形成するようにして、その磁性材のキュリー温度を利用して発熱部の発熱を自己制御するようにしてもよい。
【0135】
(2)上記した実施の形態においては、発熱部を構成するインバー材のキュリー温度における渦電流の浸透深さが当該インバー材の板厚の1/2以上となるようにインバー材の板厚tを調整するようにしていたが、これに限られるものではないことは勿論であり、発熱部を構成するインバー材のキュリー温度における渦電流の浸透深さが当該インバー材の板厚の1/2以上となるように高周波電流の周波数を調整するようにしてもよい。
【0136】
(3)上記した第3の実施の形態においては、所定の曲率を有する曲面を備えた断面C形形状のインバー材により渦巻状の断面の発熱部を形成したが、これに限られるものではないことは勿論であり、例えば、図16(a)(b)(c)に示すような断面の発熱部を用いるようにしてもよく、発熱部の内部の空間が各インバー材の配置により効果的に加熱されるような構成であればよい。
【0137】
(4)上記した実施の形態においては、発熱部の構造については、各実施の形態間において適宜に置換することができる。即ち、第1の実施の形態による高周波誘導加熱装置10の発熱部として、第2の実施の形態による高周波誘導加熱装置20の発熱部24や第3の実施の形態による高周波誘導加熱装置30の発熱部34や第4の実施の形態による高周波誘導加熱装置40の発熱部44を用いることができ、また、第2の実施の形態による高周波誘導加熱装置20の発熱部として、第1の実施の形態による高周波誘導加熱装置10の発熱部12や第3の実施の形態による高周波誘導加熱装置30の発熱部34や第4の実施の形態による高周波誘導加熱装置40の発熱部44を用いることができ、また、第3の実施の形態による高周波誘導加熱装置30の発熱部として、第1の実施の形態による高周波誘導加熱装置10の発熱部12や第2の実施の形態による高周波誘導加熱装置20の発熱部24や第4の実施の形態による高周波誘導加熱装置40の発熱部44を用いることができ、また、第4の実施の形態による高周波誘導加熱装置40の発熱部として、第1の実施の形態による高周波誘導加熱装置10の発熱部12や第2の実施の形態による高周波誘導加熱装置20の発熱部24や第3の実施の形態による高周波誘導加熱装置30の発熱部34を用いることができる。
【0138】
(5)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(4)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、被加熱物を均一に加熱する均熱炉、コピー機やレーザービームプリンタなどのトナーの加熱定着装置あるいは鋼板やプラスチックフィルムのラミネート加工装置などとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】図1は、キュリー温度以上に昇温させないように発熱部の発熱を自己制御する従来の高周波誘導加熱装置における発熱部の時間と温度との関係を表すグラフである。
【図2】図2は、本発明の第1の実施の形態による高周波誘導加熱装置の概略構成斜視説明図である。
【図3】図3は、図2に示す高周波誘導加熱装置のA−A線による発熱部の端面構成説明図(高周波誘導加熱コイルの図示は省略している。)である。
【図4】図4は、本発明の第1の実施の形態による高周波誘導加熱装置の発熱部の表面に誘導される渦電流の流れを示した説明図である。
【図5】図5(a)は、インバー材のキュリー温度より低い温度で加熱された際の渦電流の浸透深さを示した説明図であり、また、図5(b)は、インバー材のキュリー温度に達したときの渦電流の浸透深さを示した説明図である。
【図6】図6は、本発明による高周波誘導加熱装置における発熱部の時間と温度との関係を表すグラフである。
【図7】図7は、本発明の第2に実施の形態による高周波誘導加熱装置の一部を破断して示した概略構成斜視説明図である。
【図8】図8は、図7に示す高周波誘導加熱装置のB−B線による筒部および発熱部の端面構成説明図(高周波誘導加熱コイルの図示は省略している。)である。
【図9】図9は、本発明の第2の実施の形態による高周波誘導加熱装置の発熱部の表面に誘導される渦電流の流れを示した説明図である。
【図10】図10は、本発明の第3に実施の形態による高周波誘導加熱装置の一部を破断して示した概略構成斜視説明図である。
【図11】図11は、図10に示す高周波誘導加熱装置のC−C線による筒部および発熱部の端面構成説明図(高周波誘導加熱コイルの図示は省略している。)である。
【図12】図12は、本発明の第3の実施の形態による高周波誘導加熱装置の発熱部の表面に誘導される渦電流の流れを示した説明図である。
【図13】図13は、本発明の第4の実施の形態による高周波誘導加熱装置の概念構成斜視説明図である。
【図14】図14は、図13に示す高周波誘導加熱装置のD−D線による筒部、発熱部およびボビンの端面構成説明図(高周波誘導加熱コイルの図示は省略している。)である。
【図15】図15は、本発明の第4の実施の形態による高周波誘導加熱装置の発熱部の表面に誘導される渦電流の流れを示した説明図である。
【図16】図16(a)(b)(c)は、断面C形形状のインバー材を用いて構成した発熱部の変形例を示す断面構成説明図である。
【符号の説明】
【0141】
10、20、30、40 高周波誘導加熱装置
12、24、34、44 発熱部
14、16 フィーダー
18 高周波誘導加熱コイル
22、32、42 筒部
46 ボビン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波誘導加熱により加熱される発熱部の熱により被加熱物を加熱する高周波誘導加熱装置において、
所定の板厚の板状の磁性材を所定の間隙を開けて接合せずに略筒形状に形成してなる発熱部と、
前記発熱部を覆うように所定の間隙を開けて巻回されて配設された高周波誘導加熱コイルと、
前記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を給電する高周波発振器と
を有し、
前記所定の板厚は、前記発熱部の表面に誘導される渦電流のキュリー温度における浸透深さの2倍以下である
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項2】
高周波誘導加熱により加熱される発熱部の熱により被加熱物を加熱する高周波誘導加熱装置において、
絶縁材よりなる筒部と、
所定の板厚の板状の磁性材を所定の間隙を開けて接合せずに略筒形状に形成してなり、前記筒部の内周側に配設された発熱部と、
前記筒部の外周側に巻回されて配設された高周波誘導加熱コイルと、
前記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を給電する高周波発振器と
を有し、
前記所定の板厚は、前記発熱部の表面に誘導される渦電流のキュリー温度における浸透深さの2倍以下である
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項3】
高周波誘導加熱により加熱される発熱部の熱により被加熱物を加熱する高周波誘導加熱装置において、
非磁性材よりなる筒部と、
所定の板厚の板状の磁性材を所定の間隙を開けて接合せずに略筒形状に形成してなり、前記筒部の内周側に前記筒部の内面と接することなく配設された発熱部と、
前記発熱部の内径側に配置されたボビンと、
前記発熱部の内径側において前記ボビンの外周側に巻回されて配設された高周波誘導加熱コイルと、
前記高周波誘導加熱コイルに高周波電流を給電する高周波発振器と
を有し、
前記所定の板厚は、前記発熱部の表面に誘導される渦電流のキュリー温度における浸透深さの2倍以下である
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項4】
請求項1、2または3のいずれか1項に記載の高周波誘導加熱装置において、
前記略筒形状は、断面が略C形形状である
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項5】
請求項1、2または3のいずれか1項に記載の高周波誘導加熱装置において、
前記略筒形状は、前記磁性材を所定の間隔を開けて渦巻き状に巻き込んだ渦巻き形状である
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項6】
請求項5に記載の高周波誘導加熱装置において、
前記渦巻き形状は、渦巻き形状の中心部に所定の空間領域を形成した渦巻き形状である
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項7】
請求項5に記載の高周波誘導加熱装置において、
前記渦巻き形状は、渦巻き形状の中心部に前記板状の磁性材の一方の端部が位置するように形成した渦巻き形状である
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6または7のいずれか1項に記載の高周波誘導加熱装置において、
前記発熱部は、複数の前記磁性材を所定の間隙を開けて接合せずに略筒形状に形成してなる
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6、7または8のいずれか1項に記載の高周波誘導加熱装置において、
前記磁性材は、インバー材である
ことを特徴とする高周波誘導加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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