説明

高周波電力増幅器および高周波電力増幅器を備えた高周波電力出力装置

【課題】高出力かつ大電力動作時でも出力電力の位相を正確に検出し、任意の位相に制御可能な高周波電力増幅器等を提供する。
【解決手段】
高周波電力増幅器は、入力端子を介して受け取った高周波電力信号を増幅する増幅器と、増幅器に入力される高周波電力信号に基づいて、増幅器から出力された高周波電力信号を直交検波し、同相および直交検波出力信号を出力する直交検波部と、同相および直交検波出力信号に基づいて増幅器から出力された高周波電力信号の位相を検出し、位相情報を出力する位相検出部と、外部から受け取った、設定すべき位相を示す設定位相情報および位相検出部から出力された位相情報に基づいて、位相を変化させるための制御信号を生成する位相制御部と、入力端子と増幅器との間に設けられ、制御信号に基づいて、増幅器に入力される高周波電力信号の位相を変化させる移相器とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RF帯からマイクロ波帯で動作する高周波電力増幅器に関する。より具体的には、高周波電力増幅器から出力される高周波電力信号の位相を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護が世界的に問題となっており、様々な産業分野において、省エネルギーを目的とした技術開発が活発化してきている。
【0003】
たとえば大電力通信機器では、シリコン・カーバイト(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などの高速動作と高耐圧および大電力密度を備えた高効率なパワー半導体デバイスが用いられ、省エネルギー化が進められている。
【0004】
RF帯からマイクロ波帯の高周波を利用する、無線技術を応用した通信機器においては、高周波電力信号の周波数や位相を制御してシステムの効率を向上する技術が存在する。例えば、アダプティブ・アレー・アンテナなどを用いて、アンテナ指向性を制御して送信機および受信機の電力効率を向上させる技術は、その一例である。アンテナ指向性を利用して出力電力の位相を制御することにより、大電力で動作する通信システムでは顕著な省エネルギー効果を発揮することが可能になる。
【0005】
従来、電力増幅器の変調波出力の一部を取り出し、直交復調分離した信号を、送信ベースバンド信号に負帰還することにより、電力増幅器出力の位相補正を行う技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の技術では、増幅器の非線形性による位相の歪み成分を検出して変調信号に負帰還することによって、位相の歪み成分を補償する。これにより、増幅器の増幅効率は改善される。
【特許文献1】特開2000−315921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
増幅器出力の位相を任意に制御するために上述のアダプティブ・アレー・アンテナを利用すると、複数のアンテナが必要になり、設備が大型化する傾向にある。よって、アダプティブ・アレー・アンテナはサイズ的な制約が大きいといえる。増幅器を備えた機器は種々の技術分野にわたって開発されているが、たとえば家電調理機器として小型化の要請が強い電子レンジには、アダプティブ・アレー・アンテナを採用することは困難である。したがって、このようなアダプティブ・アレー・アンテナは汎用性を欠く。
【0007】
また、特許文献1の技術は小型化こそ可能であるが、位相の歪み成分を補償する技術であり、増幅器出力の位相を任意の位相に制御することはできない。
【0008】
本発明の目的は、高出力かつ大電力動作時でも出力電力の位相を正確に検出し、任意の位相に制御可能な高周波電力増幅器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による高周波電力増幅器は、高周波電力信号を受け取る入力端子、前記高周波電力信号を増幅する増幅器、および、増幅された前記高周波電力信号を出力する出力端子を有する高周波電力増幅器であって、前記増幅器に入力される高周波電力信号に基づいて、前記増幅器から出力された高周波電力信号を直交検波し、同相検波出力信号および直交検波出力信号を出力する直交検波部と、前記同相検波出力信号および前記直交検波出力信号に基づいて前記増幅器から出力された高周波電力信号の位相を検出し、位相情報を出力する位相検出部と、外部から受け取った、設定すべき位相を示す設定位相情報および前記位相検出部から出力された前記位相情報に基づいて、位相を変化させるための制御信号を生成する位相制御部と、前記入力端子と前記増幅器との間に設けられ、前記制御信号に基づいて、前記増幅器に入力される高周波電力信号の位相を変化させる移相器とを備えている。
【0010】
前記高周波電力増幅器は、前記入力端子と前記増幅器との間に配置されて、前記入力端子において受け取った前記高周波電力信号を分波する第1分波器と、前記増幅器と前記出力端子との間に配置されて、前記増幅器によって増幅された前記高周波電力信号を分波する第2分波器とをさらに備え、前記直交検波部は、前記第1分波器によって分波された、前記増幅器に入力される高周波電力信号に基づいて、前記第2分波器によって分波された、前記増幅器から出力された高周波電力信号を直交検波してもよい。
【0011】
前記第1分波器および前記第2分波器の少なくとも一方は方向性結合器であってもよい。
【0012】
前記第1分波器は、抵抗分波器であってもよい。
【0013】
本発明による高周波電力出力装置は、基準信号を出力する基準信号発振器と、高周波電力信号を出力する高周波発振器と、前記基準信号の位相と前記高周波電力信号の位相とを比較して、位相差に基づいて前記高周波発振器を制御することにより、前記位相差を小さくする位相ロックループ回路と、前記高周波電力信号を受け取って増幅し、出力する高周波電力増幅器とを備えており、前記高周波電力増幅器は、高周波電力信号を受け取る入力端子と、前記高周波電力信号を増幅する増幅器と、増幅された前記高周波電力信号を出力する出力端子と、前記増幅器に入力される高周波電力信号に基づいて、前記増幅器から出力された高周波電力信号を直交検波し、同相検波出力信号および直交検波出力信号を出力する直交検波部と、前記同相検波出力信号および前記直交検波出力信号に基づいて前記増幅器から出力された高周波電力信号の位相を検出し、位相情報を出力する位相検出部と、外部から受け取った、設定すべき位相を示す設定位相情報および前記位相検出部から出力された前記位相情報に基づいて、位相を変化させるための制御信号を生成する位相制御部とを備えており、前記位相ロックループ回路は、前記基準信号の位相および前記高周波電力信号の位相を比較する位相比較器と、前記制御信号に基づいて、前記位相比較器に入力される前記基準信号の位相および前記高周波電力信号の位相の一方を変化させる移相器とを備えている。
【0014】
本発明による電子レンジは、加熱庫と、高周波電力信号を出力する高周波発振器と、前記高周波電力信号を受け取る、上述の高周波電力増幅器と、前記高周波電力増幅器から出力された高周波電力信号を受け取り、前記加熱庫内に出力するアンテナとを備えている。
【0015】
本発明による他の電子レンジは、加熱庫と、高周波電力信号を出力する高周波発振器と、前記高周波電力信号を受け取る、上述の高周波電力出力装置と、前記高周波電力出力装置から出力された高周波電力信号を受け取り、前記加熱庫内に出力するアンテナとを備えている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、入力電力の一部で出力電力の一部を直交同期検波し、出力電力の位相を検出し、検出した出力電力の位相情報と、外部から入力された設定位相情報を基に、入力電力の移相量を決定して、移相器の移相量を制御する。これにより、高出力かつ大電力動作時でも、出力電力の位相を正確に検出し、制御できる。
【0017】
たとえば、本発明による高周波電力増幅器を電子レンジなどの調理機器に採用すると、数百Wの高周波電力を食品に照射することによって食品を加熱する際、照射する高周波電力の信号の周波数や位相を変化させることにより、調理機器庫内の過熱電磁界分布を制御することが可能になる。これにより、どのような食品でも均一に加熱することができる。
【0018】
また、照射する高周波電力信号の位相を制御することにより、電子レンジの庫内の電磁界分布を自由に制御できる。たとえば、食品の大きさや形状に応じた位相制御によって電磁界分布を制御することにより、反射の少ない状態(送出した電力のほとんどが食品に吸収されている状態)を作り出すことができる。これにより、食品を高効率で加熱することが可能となり、位相を制御していなかった従来のマグネトロンを用いた電子レンジでは実現し得なかった極めて高い省エネルギー化を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(実施形態1)
以下、添付の図1を参照しながら、本発明による高周波電力増幅器の概念を説明する。その後、添付の図2を参照しながら、高周波電力増幅器の実施形態を説明する。
【0020】
図1は、本発明の高周波電力増幅器100の基本構成を示すブロック図である。
【0021】
高周波電力増幅器100は、外部のシステム制御部110と接続されており、システム制御部110から設定位相情報を受け取る。高周波電力増幅器100は、設定位相情報に基づいて出力する高周波電力信号の位相を制御する。
【0022】
高周波電力増幅器100は、入力端子101と、出力端子102と、分波器103と、移相器104と、電力増幅器105と、分波器106と、直交検波部107と、位相検出部108と、位相制御部109とを備えている。入力端子101、分波器103、移相器104、電力増幅器105、分波器106および出力端子102は、この順序で直列に接続されている。
【0023】
高周波電力信号は、入力端子101、分波器103、移相器104を介して、電力増幅器105に入力され、電力増幅器105で増幅された高周波電力信号は、分波器106を介して、出力端子102より出力される。
【0024】
入力端子101は、たとえば高周波電力増幅器100の外部に設けられた高周波発振器(図示せず)と接続され、当該高周波発振器から高周波電力信号を受け取る。分波器103は入力された高周波電力信号を分波する。移相器104は高周波電力信号の位相を変化させる。
【0025】
電力増幅器105は高周波電力信号を増幅する。分波器106は電力増幅器105の高周波出力電力を分波する。そして出力端子102は高周波電力信号を出力する。
【0026】
分波器103によって分波された入力電力の一部と、分波器106で分波された出力電力の一部とは、それぞれ直交検波部107の入力に接続されている。直交検波部107は、入力高周波電力信号の一部を利用して、出力高周波電力信号の一部を直交検波する。このとき、出力高周波電力信号の一部と、入力高周波電力信号の一部の周波数は同一であるので、完全な同期検波となる。直交検波部107からは同相検波出力信号および直交検波出力信号が出力され、位相検出部108へ入力される。
【0027】
直交検波部107の検波出力は位相検出部108に接続され、位相検出部108の出力は位相制御部109に接続されている。移相検出部108は、直交検波部107から入力された同相検波出力信号および直交検波出力信号より、位相を検出する。位相検出部108は、検出された位相を示す位相検出情報を、位相制御部109へ出力する。
【0028】
位相制御部109は、位相検出部108から入力された出力電力の位相情報と、外部のシステム制御部110から入力された、設定位相情報より、移相器104での移相量を決定し、移相器104の移相量制御入力端子に制御信号を出力する。位相制御部109の出力は移相器104の移相量制御信号入力端子に接続されている。
【0029】
移相器104は、位相制御部109から入力された制御信号に応じて、入力電力の位相を変化させる。
【0030】
上述の高周波電力増幅器100の構成によれば、入力電力の一部で出力電力の一部が直交同期検波されて、出力電力の位相が検出される。移相器104は、検出された出力電力の位相情報と、外部から入力された設定位相情報に基づいて、入力電力の移相量を決定し、移相器104が移相量を制御する。よって、高出力かつ大電力動作時でも、電力増幅器の出力電力の位相を、正確に検出し、制御できる、高周波電力増幅器を実現することができる。
【0031】
続いて、図1に示す高周波電力増幅器100のより具体的な構成を説明する。
【0032】
図2は、本実施形態による高周波電力増幅器200のブロック構成図である。
【0033】
高周波電力増幅器200は、入力端子201と、出力端子202と、分波器203と、移相器204と、電力増幅器205と、方向性結合器206と、直交検波部207と、位相検出部208と、位相制御部209と、出力分波電力低域通過フィルタ210と、出力分波電力増幅器211と、入力分波電力低域通過フィルタ212と、入力分波電力増幅器213と、設定位相情報入力端子222とを備えている。
【0034】
直交検波部207は、π/2移相器214、同相(I)側ミキサー215および直交(Q)側ミキサー216を有している。
【0035】
位相検波部208は、同相(I)側アナログ−デジタル変換器217、直交(Q)側アナログ−デジタル変換器218および位相検出演算部219を有している。
【0036】
位相制御部209は、位相制御演算部220およびデジタル−アナログ変換器221を有している。
【0037】
ここで、図2では、電力増幅器205は1つだけ示されているが、これは例である。高出力かつ大電力の出力電力を得るために、電力増幅器205を複数設け、多段直列接続や並列的に合成して構成してもよい。また、方向性結合器206は、2本の平行なマイクロストリップ線路による誘導結合を利用した回路である。方向性結合器206は、電力増幅器205から出力端子202へ出力される順方向電力の一部を分波するように構成されている。
【0038】
入力端子201から入力された入力電力は、分波器203、移相器204を介して電力増幅器205に入力される。電力増幅器205で増幅された出力電力は、方向性結合器206を介して、出力端子202より出力される。
【0039】
分波器203、移相器204、電力増幅器205および方向性結合器206の各構成は周知である。
【0040】
たとえば移相器204は、複数ビットステップ可変型移相器や、連続可変型移相器を用いることができる。
【0041】
複数ビットステップ可変型移相器(たとえば3ビットステップ可変型移相器)は、デジタル制御において用いられ、経路切換えの組合せで、ステップ的に数段階の移相量を制御する。移相量は、外部から入力された移相量を示す制御信号に基づいて決定される。
【0042】
一方、連続可変型移相器はアナログ電圧制御に用いられ、たとえば伝送線を用いたローデッドライン型移相器と、90°ハイブリッドカプラを用いたハイブリッド結合型移相器として知られている。いずれも、バラクタダイオードの逆バイアス電圧を変化させることにより、2つの共振回路での反射位相を変化させ、入力−出力間の挿入移相を変化させる。挿入移相の変化量は外部から入力された移相量を示す制御信号に基づいて決定される。
【0043】
また、分波器203として、方向性結合器を用いてもよいし、他の構成を用いてもよい。たとえば、抵抗分波器、サーキュレーター、ハイブリッドカプラのいずれを用いてもよい。サーキュレーターは磁石を用いた高周波受動素子であり、ハイブリッド・カプラはマイクロストリップ線路による位相操作により、方向性結合器と同様の出力を得る回路要素である。方向性結合器206についても同様に、分波器203と独立して構成を決定することができる。
【0044】
方向性結合器206で分波された、出力電力の一部は、出力分波電力低域通過フィルタ210に入力される。出力分波電力低域通過フィルタ210は、入力端子201より入力される入力電力の高調波を抑圧するよう遮断周波数が決められている。出力分波電力低域通過フィルタ210で高調波成分を抑圧された出力分波電力は、出力分波電力増幅器211によって、後段の直交検波部207で直交検波するのに十分な電力まで増幅されたのち、直交検波部207へ入力される。直交検波部207へ入力された出力分波電力は、2分配され、それぞれ、同相(I)側ミキサー215および直交(Q)側ミキサー216へ入力される。なお、出力分波電力が直交検波するのに十分であり、増幅の必要が無い場合は、出力分波電力増幅器211は省いてもよい。
【0045】
一方、分波器203で分配された入力電力の一部は、入力分波電力低域通過フィルタ212に入力される。入力分波電力低域通過フィルタ212は、前述の出力分波電力低域通過フィルタ210と同様の特性を持ち、入力端子201より入力される入力電力の高調波を抑圧するよう遮断周波数が決められている。入力分波電力低域通過フィルタ212で高調波成分を抑圧された入力分波電力は、入力分波電力増幅器213によって、後段の直交検波部207で直交検波するのに十分な電力まで増幅されたのち、直交検波部207へ入力される。なお、入力分波電力が直交検波するのに十分であり、増幅の必要が無い場合は、入力分波電力増幅器213は省いてもよい。
【0046】
直交検波部207へ入力された入力分波電力は、π/2移相器214に入力され、入力された入力分波電力に対して、同相の同相入力分波電力と、π/2だけ位相aシフトした直交入力分波電力が出力される。同相入力分波電力は同相(I)側ミキサー215へ、直交入力分波電力は直交(Q)側ミキサー216へそれぞれ入力される。
【0047】
同相(I)側ミキサー215は、出力分波電力を、π/2移相器214から入力された同相入力分波電力と積算することによる検波、即ち、出力分波電力を同相入力分波電力で同期検波し、2つの入力信号の乗算結果として、同相(I)成分検波信号が出力され、位相検出部208へ入力される。同様に、直交(Q)側ミキサー216は、出力分波電力を、π/2移相器214から入力された直交入力分波電力で同期検波し、直交(Q)成分検波信号が出力され、位相検出部208へ入力される。このとき、図2には示していないが、同相(I)成分検波信号および直交(Q)成分検波信号のS/N比を向上する目的で、同相(I)側ミキサー215および直交(Q)側ミキサー216のそれぞれの出力に低域通過フィルタを配置してもよい。
【0048】
直交検波部207の同相(I)側ミキサー215および直交(Q)側ミキサー216より出力され、位相検出部208へ入力された同相(I)成分検波信号および直交(Q)成分検波信号は、それぞれ、同相(I)アナログ−デジタル変換器217および直交(Q)アナログ−デジタル変換器218へ入力され、デジタル信号に変換されて、位相検出演算部219へ入力される。
【0049】
位相検出演算部219は、出力分波電力を入力分波電力で直交同期検波して得られた同相(I)成分検波信号および直交(Q)成分検波信号より、出力分波電力の位相をデジタル演算により算出し、演算により算出した出力分波電力の位相情報を位相制御部209に出力する。
【0050】
設定位相情報入力端子222には、外部のシステム制御部223より、設定したい位相情報を表す、設定位相情報が入力される。設定位相情報入力端子222より入力された設定位相情報は、位相制御部209に入力される。
【0051】
位相検出部208の位相検出演算部219より出力され、位相制御部209へ入力された、出力分波電力の位相情報、および、設定位相情報入力端子222より位相制御部209へ入力された設定位相情報は、それぞれ位相制御演算部220へ入力される。位相制御演算部220は、出力分波位相情報と設定位相情報に基づき、移相器204で変化させる移相量を決定し、デジタル−アナログ変換器221でアナログ電圧信号に変換して、移相器204に出力する。このとき、位相制御演算部220は、出力分波位相情報と設定位相情報により、両位相の位相差を算出し、位相差を零にするように移相器204を制御する。
【0052】
上記したように、本実施形態では、入力電力の一部で出力電力の一部を直交同期検波し、出力電力の位相を検出し、検出した出力電力の位相情報と、外部から入力された設定位相情報を基に、入力電力の移相量を決定して、移相器の移相量を制御する。本実施形態による高周波電力増幅器は、電力増幅器が高出力かつ大電力動作により、増幅器出力電力の非線形位相歪みが発生した場合でも、また、電力増幅器の製造バラツキや、動作状態や温度などによりAM−PM特性の変動が大きい場合でも、電力増幅器の出力電力の位相を、正確に検出し、外部より設定した任意の位相に制御することができる。
【0053】
(実施形態2)
本実施形態においては、図1に示す移相器104に代えて、高周波電力増幅器の外部に位相ロックループ(PLL)回路を設けた構成を説明する。
【0054】
図3は、本実施形態による高周波電力増幅装置350の構成を示す。図3において、図1に示す構成要素と同じ機能を有する構成要素には、同じ参照符号を付し、説明を省略する。
【0055】
高周波電力増幅装置350は、基準信号発振器360と、PLL回路370と、高周波発振器380と、高周波電力増幅器300とを備えている。
【0056】
高周波電力増幅器300と実施形態1による高周波電力増幅器100(図1)との差異は、高周波電力増幅器300には移相器104が設けられていないこと、および、位相制御部109からの位相制御信号が、PLL回路370にフィードバックされる点にある。
【0057】
PLL回路370は、TCXOなどの基準信号発振器360の出力信号の位相と、VCOなどの高周波発振器380の出力信号の位相とを比較し、差分に対応する差分信号を出力して高周波発振器380を制御し、両出力信号の位相差が小さく(たとえばゼロに)なるようにフィードバックするループである。
【0058】
図4は、PLL回路370のブロック構成を示す図である。PLL回路370は、分周器371および374と、位相比較器372と、積分器373とを有している。位相比較器372は、基準信号発振器360からの基準信号を分周器371で分周した信号と、高周波発振器380からの高周波信号を分周器374で分周した信号とを比較する。このとき、両者の信号の周波数が同じになるように、分周器371および374の分周数を決定することが可能である。
【0059】
本実施形態においては、位相比較器372において位相を比較する前に、位相制御部109からの位相制御信号を利用して基準信号発振器360から出力された信号の位相を強制的に変化させる。その結果、PLL回路370においてロックされる位相が変化して、高周波発振器の出力信号の位相を変化させることができる。
【0060】
次に、図5〜7を参照しながら、PLL回路の構成の変形例を説明する。
【0061】
図5は、第1の変形例によるPLL回路400の構成を示す。図4に示すPLL回路370との相違点は、PLL回路400は、高周波発振器380からPLL回路400内の分周器374へのフィードバック経路上に移相器375を有していることにある。
【0062】
移相器375は分周器374への入力前に配置されており、位相制御部109からの位相制御信号を受け取る。そしてその位相制御信号に基づいて、フィードバック信号の位相を制御する。なお移相器375の動作周波数は高周波発振器380の出力周波数となる。
【0063】
図6は、第2の変形例によるPLL回路420の構成を示す。図5に示すPLL回路400との相違点は、分周器374および移相器375の位置を入れ替えたことにある。高周波発振器380からPLL回路420へのフィードバック経路上、分周器374と位相比較器372との間に移相器375が配置されている。移相器375は、位相制御部109からの位相制御信号に基づいて、フィードバック信号の位相を制御する。なお、移相器375の動作周波数は、高周波発振器380の出力周波数を分周器374で分周した周波数となる。
【0064】
図6に示す構成によれば矩形波信号を取り扱うため、移相器375として、デジタル移相器を使用できる。
【0065】
図7は、第3の変形例によるPLL回路440の構成を示す。図4に示すPLL回路370との相違点は、PLL回路440は、基準信号発振器360の分周器371と位相比較器372の間に移相器376を配置したことにある。移相器376は、位相制御部109からの位相制御信号に基づいて、基準信号の位相を制御する。なお、移相器376の動作周波数は基準信号発振器360の出力周波数を分周器371で分周した周波数となる。本変形例においても矩形波信号を取り扱うため、移相器376として、デジタル移相器を使用できる。
【0066】
なお、PLL回路440のように、分周器371と位相比較器372との間に移相器376を設ける場合であって、かつ、分周器371を可変分周器と固定分周器の組合せで構成する場合には、図8に示すよう構成してもよい。図8は、移相器376の設置構成例を示す図である。この例では、固定分周器381と可変分周器382との間に移相器376が設けられる。
【0067】
市販されているPLL ICでは、一般に、可変分周器382はICに内蔵されており、固定分周器381を外付けで構成することが多い。そこで、図7に示す分周器371と移相器376とを、図8に示すように構成することが好ましい。
【0068】
(実施形態3)
図9は、本実施形態による電子レンジ901の外観図である。
【0069】
電子レンジ901は、実施形態1による大電力高周波出力装置200と、高周波発振器380と、アンテナ902とを備えている。大電力高周波出力装置200の入力端子101(図1)は高周波発振器380と接続されており、高周波発振器380から出力される高周波電力信号を受け取る。また、大電力高周波出力装置200の出力端子102(図1)はアンテナ902と接続されている。アンテナ902は、大電力高周波出力装置200からの高周波電力を電子レンジ901の加熱庫内に出力する。加熱庫内の食品は、大電力高周波出力装置200のアンテナ902から出力される大電力高周波によって加熱される。
【0070】
上述のように、大電力高周波出力装置200から出力される高周波電力信号の位相は、外部のシステム制御部110を介して設定された位相と一致するように制御されている。加熱庫内の食品に応じて、庫内の過熱電磁界分布が一様になるよう位相を制御することにより、どのような食品でも均一に加熱することができる。
【0071】
また、食品の大きさや形状に応じて照射する高周波電力信号の位相を制御することにより、電子レンジの庫内の電磁界分布を自由に制御できる。食品の大きさや形状に応じて反射の少ない状態(送出した電力のほとんどが食品に吸収されている状態)を作り出すことにより、食品を高効率で加熱することが可能となる。よって、位相を制御していなかった従来のマグネトロンを用いた電子レンジでは実現し得なかった極めて高い省エネルギー化を実現できる。
【0072】
なお、電子レンジ901の大電力高周波出力装置200に代えて、実施形態2による高周波電力増幅装置350を採用することもできる。このとき、PLL回路370のみならず、その変形例にかかるPLL回路400、420および440のいずれを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の高周波電力増幅器は、高出力および大電力動作時の、増幅器出力における正確な位相の検出と制御の課題を、高出力および大電力で動作する移相器などの特殊な高価で大型な部品を使用することなく克服できる。よって、RF帯からマイクロ波帯の高周波の位相を制御して省エネルギー効果を発揮する通信機器や家電機器への展開が容易となり、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】高周波電力増幅器100の基本構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態1による高周波電力増幅器200のブロック構成図である。
【図3】本発明の実施形態2による高周波電力増幅装置350の構成を示す図である。
【図4】PLL回路370のブロック構成を示す図である。
【図5】第1の変形例によるPLL回路400の構成を示す図である。
【図6】第2の変形例によるPLL回路420の構成を示す図である。
【図7】第3の変形例によるPLL回路440の構成を示す図である。
【図8】移相器376の設置構成例を示す図である。
【図9】本発明の実施形態3による電子レンジ901の外観図である。
【符号の説明】
【0075】
100、300 高周波電力増幅器
101 入力端子
102 出力端子
103 入力電力分波器
104 移相器
105 電力増幅器
106 出力電力分波器
107 直交検波部
108 位相検出部
109 位相制御部
110 システム制御部
350 高周波電力増幅装置
360 基準信号発振器
370 PLL回路
380 高周波発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電力信号を受け取る入力端子、前記高周波電力信号を増幅する増幅器、および、増幅された前記高周波電力信号を出力する出力端子を有する高周波電力増幅器であって、
前記増幅器に入力される高周波電力信号に基づいて、前記増幅器から出力された高周波電力信号を直交検波し、同相検波出力信号および直交検波出力信号を出力する直交検波部と、
前記同相検波出力信号および前記直交検波出力信号に基づいて前記増幅器から出力された高周波電力信号の位相を検出し、位相情報を出力する位相検出部と、
外部から受け取った、設定すべき位相を示す設定位相情報および前記位相検出部から出力された前記位相情報に基づいて、位相を変化させるための制御信号を生成する位相制御部と、
前記入力端子と前記増幅器との間に設けられ、前記制御信号に基づいて、前記増幅器に入力される高周波電力信号の位相を変化させる移相器と
を備えた、高周波電力増幅器。
【請求項2】
前記入力端子と前記増幅器との間に配置されて、前記入力端子において受け取った前記高周波電力信号を分波する第1分波器と、
前記増幅器と前記出力端子との間に配置されて、前記増幅器によって増幅された前記高周波電力信号を分波する第2分波器と
をさらに備え、
前記直交検波部は、前記第1分波器によって分波された、前記増幅器に入力される高周波電力信号に基づいて、前記第2分波器によって分波された、前記増幅器から出力された高周波電力信号を直交検波する、請求項1に記載の高周波電力増幅器。
【請求項3】
前記第1分波器および前記第2分波器の少なくとも一方は方向性結合器である、請求項2に記載の高周波電力増幅器。
【請求項4】
前記第1分波器が、抵抗分波器である、請求項2に記載の高周波電力増幅器。
【請求項5】
基準信号を出力する基準信号発振器と、
高周波電力信号を出力する高周波発振器と、
前記基準信号の位相と前記高周波電力信号の位相とを比較して、位相差に基づいて前記高周波発振器を制御することにより、前記位相差を小さくする位相ロックループ回路と、
前記高周波電力信号を受け取って増幅し、出力する高周波電力増幅器と
を備えた高周波電力出力装置であって、
前記高周波電力増幅器は、
高周波電力信号を受け取る入力端子と、
前記高周波電力信号を増幅する増幅器と、
増幅された前記高周波電力信号を出力する出力端子と、
前記増幅器に入力される高周波電力信号に基づいて、前記増幅器から出力された高周波電力信号を直交検波し、同相検波出力信号および直交検波出力信号を出力する直交検波部と、
前記同相検波出力信号および前記直交検波出力信号に基づいて前記増幅器から出力された高周波電力信号の位相を検出し、位相情報を出力する位相検出部と、
外部から受け取った、設定すべき位相を示す設定位相情報および前記位相検出部から出力された前記位相情報に基づいて、位相を変化させるための制御信号を生成する位相制御部と
を備えており、
前記位相ロックループ回路は、
前記基準信号の位相および前記高周波電力信号の位相を比較する位相比較器と、
前記制御信号に基づいて、前記位相比較器に入力される前記基準信号の位相および前記高周波電力信号の位相の一方を変化させる移相器と
を備えた、高周波電力出力装置。
【請求項6】
加熱庫と、
高周波電力信号を出力する高周波発振器と、
前記高周波電力信号を受け取る、請求項1に記載の高周波電力増幅器と、
前記高周波電力増幅器から出力された高周波電力信号を受け取り、前記加熱庫内に出力するアンテナと
を備えた、電子レンジ。
【請求項7】
加熱庫と、
高周波電力信号を出力する高周波発振器と、
前記高周波電力信号を受け取る、請求項5に記載の高周波電力出力装置と、
前記高周波電力出力装置から出力された高周波電力信号を受け取り、前記加熱庫内に出力するアンテナと
を備えた、電子レンジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−4453(P2010−4453A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163215(P2008−163215)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】