説明

高周波高電圧用空芯コイル

【課題】 放射状に延びる複数の巻線保持絶縁板にコイル導線を渦巻き状に巻回した円盤状の空芯コイルにおいて、導線を高周波特性の優れたリッツ線とすることを可能にし、かつ、巻線保持絶縁板の耐圧低下を抑制すること。
【解決手段】 放射状に延びる複数の巻線保持絶縁板を交互に、端部を内側絶縁板11と外側絶縁板12の上面にそれぞれ固定した巻線保持絶縁板14と一端を内側絶縁板11の上面に、他端を外側絶縁板12の下面にそれぞれ固定した巻線保持絶縁板13を配置し、導線15を、巻線保持絶縁板14の上面に、巻線保持絶縁板13の下面に順に渦巻き状に、傾斜のある巻線保持絶縁板13で押えて巻回し、これを絶縁カラー16を介して隙間を設けて積重ねる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波高電圧用空芯コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、電子線照射装置などでは、高周波電圧を変成器で昇圧し、昇圧した高周波高電圧を逓倍整流器で整流して直流の高電圧を得ている。この場合、高電圧を扱う逓倍整流器や変成器は絶縁ガスを充填した容器内に収納され、変成器は鉄芯のない空芯コイルで構成されている。
【0003】
図2(a)平面図、(b)B−B断面図は、このような高周波高電圧用空芯コイルの一例を示すもので、図2(a)(b)において、1は環状の内側絶縁板、2は環状の外側絶縁板、3は巻線保持絶縁板、4は導線である。巻線保持絶縁板3は3a、3bの二つを重ねて構成されており、その一端は内側絶縁板1に固定され、他端は外側絶縁板2に固定され、内側絶縁板1と外側絶縁板2との間の空間に、間隔を隔てて複数が放射状に配置されている。
【0004】
導線4は、巻線保持絶縁板3の一方の巻線保持絶縁板3aの巻線溝に嵌めながら外側絶縁板2側から順に内側絶縁板1側へ渦巻き状に巻回され、巻線保持絶縁板3の他方の巻線保持絶縁板3bを重ね合せて固定されている。また、内側絶縁板1側に位置した導線4を上段に積重ねる巻線保持絶縁板3の一方の巻線保持絶縁板3aの巻線溝に嵌めながら内側絶縁板1側から順に外側絶縁板2側へ渦巻き状に巻回され、巻線保持絶縁板3の他方の巻線保持絶縁板3bを重ね合せて固定されている。そして、2段積重ねた内側絶縁板1と外側絶縁板2は絶縁ボルト5で固定される。なお、4aは巻き始めの端子であり、4bは巻き終わりの端子である。また、2段積重ねた空芯コイルは適宜複数積み重ねて使用される。
【特許文献1】特開平9−247939号公報
【特許文献2】特開平7−302697号公報
【特許文献3】特開2001−257088号公報
【0005】
以上のように巻線保持絶縁板の複数を、間隔を隔てて放射状に配置することにより、巻線保持絶縁板間距離を確保することができ、絶縁ガスなどによる絶縁性能を高めることができる。しかし、外側絶縁板に近づくに連れて巻線保持絶縁板間距離が長くなるため、高周波特性の優れた素線が細く、線自身で形状を保つことのできないリッツ線(ポリウレタンテトロン電線、素線径0.1φ以下を多数拠り合わせた線)では緩みが発生するので使用することができないという問題があった。この問題を解消するために巻線保持絶縁板の幅を広げあるいは巻線保持絶縁板の間隔を縮めるとよいが、このようにすると導線を巻線保持絶縁板で挟んで積重ね、上段の導線と着巻線保持絶縁板および下段の導線とが密着した状態であるため、誘電体損が増大し耐圧が低下し、また、放熱を妨げるという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、環状の内側絶縁板と外側絶縁板との間に巻線保持絶縁板の複数を、間隔を隔てて放射状に配置し、その巻線保持絶縁板に導線を渦巻き状に巻回した空芯コイルにおいて、導線を高周波特性の優れたリッツ線とすることを可能にし、かつ、巻線保持絶縁板の耐圧低下を抑制することができ、もって斯かる問題を解消する点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、環状の内側絶縁板と、環状の外側絶縁板と、一端が前記内側絶縁板に固定され、他端が前記外側絶縁板に固定され前記内側絶縁板から前記外側絶縁板に放射状に延びる複数の巻線保持絶縁板とを有し、導線を前記各巻線保持絶縁板にまたがって渦巻き状に巻回してなる高周波高電圧用空芯コイルであって、巻線保持絶縁板の端部を前記内側絶縁板と外側絶縁板の上面にそれぞれ固定し、その巻線保持絶縁板と隣接する巻線保持絶縁板の端部の一方を前記内側絶縁板の上面に、他方を前記外側絶縁板の下面にそれぞれ固定し、導線を内側絶縁板と外側絶縁板の上面に固定した巻線保持絶縁板の上面に、内側絶縁板の上面と外側絶縁板の下面に固定した巻線保持絶縁板の下面にまたがって渦巻き状に巻回してなることを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、巻線保持絶縁板でコイル導線を挟まず1枚板としてコイル導線を外部に晒しているので、巻線保持絶縁板の数が少なく、また、積重ねたとき隙間を設けるだけで巻線保持絶縁板の誘電体損を低減し、さらに放熱を妨げることも無くなる。また、巻線保持絶縁板を交互に内側絶縁板の上面と外側絶縁板の下面に固定して巻線保持絶縁板を、巻線保持絶縁板間距離が大きくなるにしたがい低く(または高く)なるように傾斜しているので、コイル導線を高周波特性の優れたリッツ線としても緩みなく巻回することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
環状の内側絶縁板と外側絶縁板との間に巻線保持絶縁板の複数を、間隔を隔てて放射状に配置し、その巻線保持絶縁板に導線を渦巻き状に巻回した空芯コイルにおいて、導線を高周波特性の優れたリッツ線とすることを可能にし、かつ、巻線保持絶縁板の耐圧低下を抑制する目的を、巻線保持絶縁板を交互に内側絶縁板の上面と外側絶縁板の下面に固定し、コイル導線を巻線保持絶縁板の上面と下面交互に巻回することにより実現した。
【実施例1】
【0010】
図1は実施例に係る高周波高電圧用空芯コイルの構成を示す図で(a)はその平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。図1において、11は環状の内側絶縁板、12は環状の外側絶縁板、13および14は巻線保持絶縁板、15は導線、16は絶縁カラー、17は絶縁ボルトである。なお、15aは巻き始めの端子であり、15bは巻き終わりの端子である。本実施例では、絶縁板は誘電率・誘電正接が小さく、高耐熱であるポリカーボネート製とし、導線は高周波特性の優れたリッツ線(ポリウレタンテトロン電線、素線径0.06φを1274本撚りした約3.5sq相当の導線)としている。
【0011】
巻線保持絶縁板13と14は交互に放射状に配置され、巻線保持絶縁板13の一端は内側絶縁板11の上面に、他端は外側絶縁板12の下面にそれぞれ固定されている。また、巻線保持絶縁板14の一端は内側絶縁板11の上面に、他端は外側絶縁板12の上面にそれぞれ固定されている。この固定により巻線保持絶縁板13は巻線保持絶縁板14に対して角度α分傾斜し、外側絶縁板12に近づくに連れて高さが大きくなっている。なお、この角度αは外側絶縁板12の厚みで調整することができる。
【0012】
導線15は、巻線保持絶縁板14の上面の巻線溝と巻線保持絶縁板13の下面の巻線溝と順に嵌め込まれ、外側絶縁板12側から順に内側絶縁板11側へ渦巻き状に巻回されている。また、内側絶縁板11側に位置した導線15を上段に積重ねる巻線保持絶縁板14の上面の巻線溝と巻線保持絶縁板13の下面の巻線溝と順に嵌め込まれ、内側絶縁板11側から順に外側絶縁板12側へ渦巻き状に巻回されている。なお、導線15の巻回の仕方自体は適宜であり、巻線保持絶縁板14の上面の巻線溝に嵌め込んで巻回した後、巻線保持絶縁板13で導体15を押えて固定するようにしてもよい。
【0013】
そして、1段目の空芯コイルと2段目の空芯コイルとは、内側絶縁板11と外側絶縁板12の位置で、絶縁カラー16により1段目の空芯コイルと2段目の空芯コイルとの間に隙間を形成して絶縁ボルト17で固定される。なお、このように1段目の空芯コイルと2段目の空芯コイルを重ね、巻き始めの端子(入力端子)15aと巻き終わりの端子(出力端子)15bを共に外側絶縁板12の外側に導出して構成した空芯コイルをさらに積重ねる場合においても、空芯コイル間に絶縁カラー16を挿入し、空芯コイルと空芯コイルとの間に隙間を形成して絶縁ボルト17で固定する。このように空芯コイルと空芯コイルとの間に隙間を形成することにより、その間の絶縁性能を高めることができ、コイル導線を巻線保持絶縁板で挟んだ従来の空芯コイルよりも嵩低く構成することができる。
【0014】
なお、以上の実施例では、導線は高周波特性の優れたリッツ線(ポリウレタンテトロン電線、素線径0.06φを1274本撚りした約3.5sq相当の導線)としているが、導線はリッツ線に限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例に係る高周波高電圧用空芯コイルの構成を示す図で(a)はその平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図2】従来の高周波高電圧用空芯コイルの一例の構成を示す図で(a)はその平面図、(b)は(a)のB−B断面図である。
【符号の説明】
【0016】
11 環状の内側絶縁板
12 環状の外側絶縁板
13、14 巻線保持絶縁板
15 導線(コイル巻線)
16 絶縁カラー
17 絶縁ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の内側絶縁板と、環状の外側絶縁板と、一端が前記内側絶縁板に固定され、他端が前記外側絶縁板に固定され前記内側絶縁板から前記外側絶縁板に放射状に延びる複数の巻線保持絶縁板とを有し、導線を前記各巻線保持絶縁板にまたがって渦巻き状に巻回してなる高周波高電圧用空芯コイルであって、巻線保持絶縁板の端部を前記内側絶縁板と外側絶縁板の上面にそれぞれ固定し、その巻線保持絶縁板と隣接する巻線保持絶縁板の端部の一方を前記内側絶縁板の上面に、他方を前記外側絶縁板の下面にそれぞれ固定し、導線を内側絶縁板と外側絶縁板の上面に固定した巻線保持絶縁板の上面に、内側絶縁板の上面と外側絶縁板の下面に固定した巻線保持絶縁板の下面にまたがって渦巻き状に巻回してなることを特徴とする高周波高電圧用空芯コイル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−179794(P2006−179794A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373447(P2004−373447)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(503237806)株式会社NHVコーポレーション (37)
【Fターム(参考)】