説明

高圧モジュール

【課題】高圧モジュール内のゲル状絶縁物中で発生した部分放電などを検出し、高圧モジュールの主要機能回路における絶縁破壊を未然に防ぐための機構を備えた高圧モジュールを提供する。
【解決手段】半導体素子4が搭載される素子搭載用表面金属基板2aが絶縁基板1表面に接合されるとともに、接地電位とされる裏面金属基板3が絶縁基板1裏面に接合され、ゲル状絶縁物5で封止された高圧モジュールにおいて、絶縁基板1表面に素子搭載用表面金属基板2aとは分離して部分放電発生用表面金属基板21を設け、部分放電発生用表面金属基板21の電位は素子搭載用表面金属基板2aと同電位とし、部分放電発生用表面金属基板21の端部の位置は絶縁基板1を挟んで対向する裏面金属基板3の端部に対して絶縁基板端部側により突出した位置とし、裏面金属基板3側で発生する部分放電を検出する部分放電検出手段31を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧モジュールに関し、より詳しくは、高圧モジュール内部でゲル状の絶縁物に保護された半導体素子の絶縁保護機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高圧モジュールは、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)、 ダイオード、GTO(ゲートターンオフサイリスタ)、 トランジスタ等の高圧半導体素子を絶縁容器に密封して構成される半導体装置である。特に、IGBTは、制御が容易で、かつ、大電流かつ高周波の動作が可能なことから、様々な用途への適用が期待されている。近年、IGBT素子の大容量化に伴い、モジュール内部の高電圧化、及び半導体素子の大型化と多チップ化による高密集化により、モジュール内部の絶縁耐力向上が課題となっている。
【0003】
一般的な高圧モジュールの内部絶縁構造について図12を用いて説明する。図12は、従来の高圧モジュールの構成例を示す模式断面図であり、図12(a)および図12(b)に2つの構成例を示している。
【0004】
図12(a)に示した高圧モジュール101内部では、最下部からアース板6、裏面金属基板3、アルミナや窒化アルミ等のセラミックスからなる絶縁基板1、半導体素子4への主要機能回路パターンを形成する主要機能回路用表面金属基板部2A、半導体素子4の順で積層され、半導体素子4は接合部材15により主要機能回路用表面金属基板部2Aに接合されている。絶縁基板1、主要機能回路用表面金属基板部2Aおよび裏面金属基板3からなる基板部構造としては熱伝導率向上のためダイレクト接合構造であるDBC(Direct Bond Copper)基板が用いられている。
【0005】
図12(a)において、主要機能回路用表面金属基板部2Aは、半導体素子4を搭載する素子搭載用表面金属基板2a,中継用表面金属基板2b,2cからなる。高圧電源201と接続されたモジュール外部端子8はボンディングワイヤ10を介して中継用表面金属電極2bに接続され、さらに、中継用表面金属基板2bはボンディングワイヤ11を介して素子搭載用表面金属基板2aに接続され、この素子搭載用表面金属基板2aに半導体素子4が搭載されている。高圧モジュール101内部は、ゲル状絶縁物5を充填することで、高圧部品周辺の絶縁がなされている。なお、ゲル状絶縁物5としては例えばシリコーンゲルが用いられる。
【0006】
図12(b)に示した高圧モジュール101Aは、全体構造としては図12(a)の高圧モジュール101と類似しているが、絶縁基板1の表面上に設けられる主要機能回路用表面金属基板部が素子搭載用表面金属基板2aだけから構成されている点で異なっている。そして、高圧モジュール101Aでは、高圧電源201と接続されたモジュール外部端子8はボンディングワイヤ10を介して直接的に素子搭載用表面金属電極2aに接続されている。
【0007】
高圧モジュールにおいて、ゲル状絶縁物5、特にシリコーンゲルを絶縁に用いる理由としては、ある程度の機械強度を保持しつつ、温度変化や振動等による機械応力がボンディングワイヤ10,11,12などに加わらないように変形可能である(すなわち低弾性率である)ことが挙げられる。しかしながら、シリコーンゲル自体は通常の固体絶縁物に比べて、初期状態での絶縁耐圧が低く、部分放電(以下「PD」(Partial discharge)とも称する)の発生に伴い即座に絶縁性能が低下するという欠点を持つ。後者の原因は、シリコーンゲル中では部分放電発生によりシリコーンゲルと絶縁基板との界面上で空隙が生じて、その空隙部が新たな絶縁欠陥となるためである。この空隙部で持続的に部分放電が発生すると、最終的には絶縁破壊に至る。
【0008】
このような高圧モジュールの絶縁保護技術としては、(1)基板配置の最適化、(2)高圧部のコーティング、(3)充填用ゲル状絶縁物材料の最適化、の対策技術が提案されている。それらの例を下記に示す。
【0009】
(1)基板配置の最適化(特許文献1参照)。
特許文献1に開示されている構成では、絶縁基板の表面と裏面とに設置された金属基板について、金属基板端部から絶縁基板端部までの距離を表裏金属基板で一致させる構造を用いている。この構造を用いることで、金属基板端部の電界集中度が緩和されるため、部分放電開始電圧及び絶縁破壊電圧が上昇するという効果を奏する。
【0010】
(2)高圧部のコーティング(特許文献2参照)。
特許文献2に開示されている構成では、絶縁基板端部を樹脂によりコーティングした上で、シリコーンゲルを充填させている。この構造により、絶縁基板端部はシリコーンゲルよりも絶縁耐圧の高い樹脂で保護されることになる。さらに、コーティングする樹脂の誘電率をシリコーンゲルよりも高くすれば、絶縁基板端部の電界強度自体も低下させることが出来る。以上のような作用により、部分放電開始電圧及び絶縁破壊電圧が上昇するという効果を奏する。
【0011】
(3)充填用ゲル状絶縁物材料の最適化(特許文献3参照)。
特許文献3に開示されている構成では、ベースポリマーの重量平均分子量が30000〜40000であるシリコーンゲルを使用している。重量平均分子量が30000未満であると、強度が不足してボイドやクラックが発生しやすくなり、40000を超えると粘度が高くなって作業性が劣るようになる。以上のような作用から、絶縁欠陥が生じにくいシリコーンゲルを使用することで、絶縁性能(部分放電開始電圧, 絶縁破壊電圧)が上昇するという効果を奏する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−332823号公報
【特許文献2】特開2000−91472号公報
【特許文献3】特開2010−34151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述した従来技術は、高圧モジュール内部で部分放電を発生させないことにより絶縁破壊を防止する技術であり、部分放電発生後に絶縁破壊を防止する技術ではない。上述のように、シリコーンゲルなどのゲル状絶縁物では部分放電発生により絶縁劣化部(空隙)が生じ、その後はこの絶縁劣化部が新たな絶縁欠陥となり、絶縁性能を即座に低下させる。つまり、瞬時的な高電圧、衝撃、加熱等の突発事象やゲル物性の経時変化により部分放電が一度でも発生したモジュールは、電圧レベルが低下しても部分放電が発生し続ける可能性があり、そのまま使用し続けると最終的には絶縁破壊にまで至る可能性がある。
【0014】
このため、本発明は、高圧モジュール内のゲル状絶縁物中で発生した部分放電などを検出し、高圧モジュールの主要機能回路における絶縁破壊を未然に防ぐための機構を備えた高圧モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明者は、上述の例えば図12(a)に示したような、絶縁基板1の表面および裏面にそれぞれ主要機能回路用表面金属基板部2Aおよび裏面金属基板3が接合され、主要機能回路用表面金属基板部2Aのうち素子搭載用表面金属基板2aには半導体素子4が搭載されるとともに、素子搭載用表面金属基板2aおよび裏面金属基板3はそれぞれ高圧電源および接地電位に接続され、絶縁基板1、主要機能回路用表面金属基板部2A、裏面金属基板3および半導体素子4がゲル状絶縁物5で封止された高圧モジュールにおける部分放電の発生機構について検討した。
【0016】
図1は、高圧モジュールにおけるゲル状絶縁物中での部分放電発生箇所を示す模式断面図である。図1には、絶縁基板1の表面および裏面にそれぞれ表面金属基板2および裏面金属基板3が接合され、表面金属基板2には接合部材15を介して半導体素子4が搭載されるとともに、裏面金属基板3は少なくとも裏面金属基板3よりも外周側まで延在するアース板6に接合され、絶縁基板1、表面金属基板2、裏面金属基板3および半導体素子4がゲル状絶縁物5で封止された高圧モジュール101Bを示している。高圧モジュール101Bにおける表面金属基板2に搭載された半導体素子4にはボンディングワイヤ13を介して図示されない高圧電源が接続される。
【0017】
高圧モジュール101Bのゲル状絶縁物5中では、図1に示す、ボンディングワイヤ13周辺(A1部)、表面金属基板2と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)(A2部)、裏面金属基板3と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)(A3部)で電界集中が起き、これらが主な部分放電の発生起点となる。このうち、ボンディングワイヤ13周辺(A1部)は、高電圧となるワイヤ13周辺に接地電位部がないことから、絶縁破壊にまで進展する可能性は小さい。また、裏面金属基板3と絶縁基板4とゲル状絶縁物5との交点(三重点)(A3部)は、裏面金属基板3自体が接地電位であることから、絶縁破壊にまで進展する可能性は小さい。そのため、高圧モジュールの絶縁破壊原因としては特に、表面金属基板2と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)(A2部)の部位から発生する部分放電に着目する必要がある。
【0018】
検討対象を、金属基板周辺の表面金属基板2と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)(A2部)、裏面金属基板3と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)(A3部)に絞って考えると、金属基板の接合及び基板周辺のバリ除去が充分に行われている場合、金属基板周辺であって電界強度が最大となる箇所が部分放電発生箇所となる。
【0019】
この表面金属基板2と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)(A2部)、および裏面金属基板3と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)(A3部)で発生した部分放電をセンサにより直接検出することは困難である。その理由として、音や光によるセンサの場合、部分放電発生の可能性が有る部位が金属基板全周にわたるため、センサを広範囲に取り付けなければならないこと、電気的なセンサの場合、半導体素子の通常動作により流れる電流が高周波かつ大電流であるため、部分放電の微細な高周波電流の弁別検出が困難であること、が挙げられる。
【0020】
そこで、本発明では、高圧モジュールを例えば図2に示すように構成する。図2は、本発明による高圧モジュールの基本構成を例示する模式断面図である。図2に示したように、高圧モジュール101Cにおいて、絶縁基板1の表面に主要機能回路用表面金属基板部として素子搭載用表面金属基板2aを接合するとともに素子搭載用表面金属基板2aには接合部材15を介して半導体素子4を配置し、絶縁基板1の裏面に裏面金属基板3を接合するとともに裏面金属基板3は接地電位に接続して構成した主要機能基板部102を備えるとともに、更に主要機能基板部102とは別に部分放電発生用基板部103を設けている。また、高圧モジュール101C内部は、ゲル状絶縁物5を充填することで、高圧部品周辺の絶縁がなされている。
【0021】
なお、図2に示した高圧モジュール101Cは、主要機能基板部102における絶縁基板1の表面上に設けられる主要機能回路用表面金属基板部が素子搭載用表面金属基板2aだけから構成されている点で、上述の図12(b)に示した高圧モジュール101Aと対応している。一方、主要機能基板部102における絶縁基板1の表面には、素子搭載用表面金属基板2a以外にも、他の金属基板、例えば図12(a)におけるような中継用表面金属基板2b,2cなどが設けられる場合も有り、その場合は、素子搭載用表面金属基板2aと他の表面金属基板とから主要機能回路用表面金属基板部が構成される。
【0022】
図2において、主要機能基板部102における素子搭載用表面金属基板2aにはボンディングワイヤ10を介して高圧電源201が接続されており、主要機能基板部102において素子搭載用表面金属基板2aが最も電位の高い導体部となっている。また、部分放電発生用基板部103にも高圧電源201からの電圧が印加されるようにしている。なお、高圧電源201からは例えば1700V程度以上の高電圧が印加されるが、高圧電源201からの印加電圧の電圧レベルはこれに限定されるものではない。
【0023】
部分放電発生用基板部103は、絶縁基板103aの表面に表面金属基板103bを接合するとともに絶縁基板103aの裏面に裏面金属基板103cを接合して構成されている。表面金属基板103b側には部分放電検出機構103dが配置され、裏面金属基板103cはアース板6に接続される。そして、部分放電発生用基板部103における表面金属基板103bにはボンディングワイヤ14を介して高圧電源201が接続される。
【0024】
なお、部分放電発生用基板部103における部分放電検出機構103dの配置構成は、図2のような、表面金属基板103b上に搭載する構成に限定されるものではない。
また、部分放電発生用基板部103の絶縁基板103aは、主要機能基板部102の絶縁基板1と、図2のように別の構成部材であってもよく、一体の構成部材であってもよい。また、部分放電発生用基板部103の裏面金属基板103cも、主要機能基板部102の裏面金属基板3と、図2のように別の構成部材であってもよく、一体の構成部材であってもよい。一方、部分放電発生用基板部103の表面金属基板103bは主要機能基板部102における素子搭載用表面金属基板2aを含む主要機能回路用表面金属基板部とは電気的に分離された別体の構成部材とする。
【0025】
部分放電発生用基板部103における最大電界強度は主要機能基板部102における最大電界強度よりも10〜30%程度大きくなるように設計しておき、部分放電発生用基板部103で発生した部分放電を部分放電検出機構103dにより検出する。部分放電発生用基板部103で部分放電が発生し、部分放電検出機構103dにより検出された時点で、部分放電検出機構103dからの部分放電検出信号に基づき、例えば高圧モジュール101Cが装着された電力変換装置などのシステム側で警報(アラーム)を発し、当該高圧モジュール101Cの新品への取替えによりシステムへの影響を防止するなどの対策を行うことができる。
【0026】
次に、本発明における「部分放電発生用基板部」について更に説明する。
部分放電発生用基板部103では、上述のように最大電界強度を主要機能基板部102における最大電界強度よりも10〜30%程度大きくする必要がある。このため、主要機能基板部102では、例えば、三重点の最大電界値が最小になるように表面金属基板の端部と裏面金属基板の端部との位置が一致するように構成する。
【0027】
図3〜4は、表面金属基板2と裏面金属基板3の少なくともいずれかの端部位置を変化させた場合の電界強度変化を例示する模式断面図である。ここで、1は絶縁基板、2は表面金属基板、3は裏面金属基板、6はアース板である。図3に示したように表面金属基板2又は裏面金属基板3の端部位置を互いにずらすことで、最大電界強度は変化する。例えば、図3(a)のように表面金属基板2と裏面金属基板3の端部位置を一致させた状態での端部位置を基準位置とした場合に、図3(b)のように表面金属基板2の端部位置を基準位置より端部側に突出させれば、表面側の電界強度は低下し、裏面側の電界強度は上昇する。図3(c)のように裏面金属基板3の端部位置を基準位置より端部側に突出させれば、表面側の電界強度が上昇し、裏面側の電界強度が低下する。
【0028】
また、図4に示したように表面金属基板2と裏面金属基板3の端部位置を一致させた状態では、絶縁基板1の誘電率がゲル状絶縁物5よりも大きい場合は、表面金属基板2と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)、裏面金属基板3と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)での各電界強度は、図4(a)の基準位置に対して、図4(b)のように絶縁基板1を長くして端部までの距離が長くなれば低下し、図4(c)のように絶縁基板1を短くして端部までの距離が短くなれば上昇する。そして、絶縁基板1がアルミナや窒化アルミ等のセラミックスから形成されているとともに、ゲル状絶縁物5としてシリコーンゲルが用いられている構成では、アルミナの比誘電率が約8.3であり、窒化アルミの比誘電率が約8.8であるのに対して、シリコーンゲルの比誘電率が約2.9であることから、上述の場合に相当する。
【0029】
一方、図4において、絶縁基板1の誘電率がゲル状絶縁物5よりも小さい場合は、上述の場合とは逆に、表面金属基板2と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)、裏面金属基板3と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)での各電界強度は、図4(a)の基準位置に対して、図4(b)のように絶縁基板1を長くして端部までの距離が長くなれば上昇し、図4(c)のように絶縁基板1を短くして端部までの距離が短くなれば低下する。
【0030】
このように、表面金属基板2と裏面金属基板3の位置を調整することで部分放電発生用基板部103の最大電界強度を任意に設定することができる。
「部分放電発生用基板部」において部分放電を発生させて検出する方式としては、大きく分けて2つの方式がある。第1の方式は、部分放電発生用基板部103における裏面金属基板側で絶縁破壊に至りにくい部分放電を発生させて、発生した部分放電をセンサで検出する方式である。第2の方式は、部分放電発生用基板部103における表面金属基板側で絶縁破壊に至りやすい部分放電を発生させて、部分放電発生用基板部での短絡をセンサで検出する方式である。上記2つの方式に対応した部分放電発生用基板部の具体的構造について説明する。
【0031】
(本発明の構成)
本発明によれば、半導体素子への主要機能回路パターンを形成する主要機能回路用表面金属基板部が絶縁基板の表面に接合されるとともに、接地電位とされる裏面金属基板が前記絶縁基板の裏面に接合され、前記絶縁基板、前記主要機能回路用表面金属基板部、前記裏面金属基板および前記半導体素子がゲル状絶縁物で封止された高圧モジュールにおいて、 前記絶縁基板に主要機能回路用領域と部分放電発生用領域とを設け、前記絶縁基板の主要機能回路用領域の表面に前記主要機能回路用表面金属基板部を配設するとともに、前記絶縁基板の部分放電発生用領域の表面に前記主要機能回路用表面金属基板部とは分離して部分放電発生用表面金属基板を配設し、前記主要機能回路用表面金属基板部と、前記絶縁基板の主要機能回路用領域と、前記裏面金属基板のうち前記絶縁基板の主要機能回路用領域の裏面に配置されている部分とから、主要機能基板部を構成するとともに、前記部分放電発生用表面金属基板と、前記絶縁基板の部分放電発生用領域と、前記裏面金属基板のうち前記絶縁基板の部分放電発生用領域の裏面に配置されている部分とから、部分放電発生用基板部を構成し、前記部分放電発生用表面金属基板の電位は、前記主要機能回路用表面金属基板部のうち最も高い電位となる高電位表面金属基板と同電位とし、前記高電位表面金属基板、前記部分放電発生用表面金属基板および前記裏面金属基板の各端部と前記絶縁基板の端部とのそれぞれの距離同士の関係を、前記部分放電発生用基板部における最大電界強度が前記主要機能基板部における最大電界強度よりも大きくなるように設定し、前記部分放電発生用基板部で発生する部分放電または短絡を検出する手段を設けた構成とする(請求項1の発明)。
【0032】
上記請求項1の発明によれば、主要機能基板部に比べて最大電界強度をより大きくした部分放電発生用基板部で発生する部分放電または短絡を検出するようにしていることにより、この部分放電または短絡の検出結果に基づき、当該高圧モジュールの主要機能回路における絶縁破壊が発生する前に、当該高圧モジュールの新品への取替えなどの対策を行うことができるので、電力変換装置などのシステムにおける使用状態にある高圧モジュールの主要機能回路における絶縁破壊を未然に防止することができるようになる。
【0033】
次に、上記請求項1に記載の高圧モジュールにおいて、前記部分放電発生用表面金属基板の端部の位置は前記絶縁基板を挟んで対向する前記裏面金属基板の端部に対して絶縁基板端部側により突出した位置とし、前記裏面金属基板側で発生する部分放電を検出する部分放電検出手段を設けた構成とする(請求項2の発明)。
【0034】
次に、上記請求項1に記載の高圧モジュールにおいて、前記絶縁基板は前記ゲル状絶縁物よりも大きな比誘電率を有する材料からなり、前記部分放電発生用表面金属基板の端部の位置は前記絶縁基板を挟んで対向する前記裏面金属基板の端部と一致した位置とするとともに、前記部分放電発生用表面金属基板の端部と前記絶縁基板の端部との距離は前記絶縁基板の表面に接合される全ての金属基板のうちで最も短い距離とし、前記部分放電発生用表面金属基板側で発生する部分放電に伴い生じる前記部分放電発生用表面金属基板と前記裏面金属基板との間の短絡を検出する短絡検出手段を設けた構成とする(請求項3の発明)。
【0035】
次に、請求項2に記載の高圧モジュールにおいて、前記部分放電検出手段として、前記部分放電に伴い発生する電流を検出する電流検出素子を備えた電流式部分放電センサを設けたこと構成とする(請求項4の発明)。
【0036】
次に、請求項2に記載の高圧モジュールにおいて、前記部分放電検出手段として、前記部分放電に伴い発生する音を検出する音検出素子を備えた音響式部分放電センサを設けた構成とする(請求項5の発明)。
【0037】
次に、請求項2に記載の高圧モジュールにおいて、前記部分放電検出手段として、前記部分放電に伴い発生する光を検出する光検出素子を備えた光式部分放電センサを設けたこと構成とする(請求項6の発明)。
【0038】
次に、請求項3に記載の高圧モジュールにおいて、前記短絡検出手段として、前記短絡による電流が通流する抵抗と、前記抵抗の両端の電位差を計測する電位差計測回路部とを備えた短絡センサを設けた構成とする(請求項7の発明)。
【0039】
次に、請求項7に記載の高圧モジュールにおいて、前記抵抗と直列に電流遮断部を介装した構成とする(請求項8の発明)。
次に、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の高圧モジュールにおいて、前記絶縁基板は、セラミックスからなる構成とする(請求項9の発明)。
【0040】
次に、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の高圧モジュールにおいて、前記ゲル状絶縁物は、シリコーンゲルからなる構成とする(請求項10の発明)。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、高圧モジュールの主要機能回路における絶縁破壊を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】高圧モジュールにおけるゲル状絶縁物中での部分放電発生箇所を示す模式断面図である。
【図2】本発明による高圧モジュールの基本構成を例示する模式断面図である。
【図3】表裏金属基板の端部位置を変化させた場合の電界強度変化の例を示す模式断面図である。
【図4】表裏金属基板の端部位置を変化させた場合の電界強度変化の異なる例を示す模式断面図である。
【図5】本発明の実施例1による高圧モジュールの構成を示す図である。
【図6】本発明の実施例2による高圧モジュールの構成を示す図である。
【図7】本発明の実施例3による高圧モジュールの構成を示す図である。
【図8】本発明の実施例4による高圧モジュールの構成を示す図である。
【図9】本発明の実施例5による高圧モジュールの構成を示す図である。
【図10】瞬時的な高電圧に伴う部分放電に対する本発明の作用効果を模式的に示す説明図である。
【図11】ゲル物性の経時変化に伴う部分放電に対する本発明の作用効果を模式的に示す説明図である。
【図12】従来の高圧モジュールの構成例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態を図5〜図9に示す実施例に基づいて説明する。同一の構成要素については、同一の符号を付け、重複する説明は省略する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。
【実施例1】
【0044】
図5は本発明の実施例1による高圧モジュール111の構成を示す図である。図5(a)に高圧モジュール111の断面構造を模式的に示すとともに、図5(b)には高圧モジュール111内における電気接続構成を模式的に示している。また、図5(c)には高圧モジュール111内における電流式部分放電センサ31の構成例を示している。
【0045】
実施例1による高圧モジュール111の内部絶縁構造は、図12(b)で説明した従来の高圧モジュール101Aと、基本的には同様であるが、絶縁基板1の表面上において、素子搭載用表面金属基板2aからなる主要機能回路用表面金属基板部とは分離された部分放電発生用表面金属基板21を更に設けた点で異なっている。すなわち、高圧モジュール111の内部絶縁構造は、図5(a)に示すように、最下部からアース板6、裏面金属基板3、絶縁基板1、「素子搭載用表面金属基板2aおよび部分放電発生用表面金属基板21」の順で積層された構成となっている。また、素子搭載用表面金属基板2aには半導体素子4が搭載されるとともに、部分放電発生用表面金属基板21には電流式部分放電センサ31が取り付けられている。なお、上述の図2で述べたように、絶縁基板1の表面上には、主要機能回路用表面金属基板部として、素子搭載用表面金属基板2aとともに、他の表面金属基板も設けられる場合があるが、以下では、主要機能回路用表面金属基板部が素子搭載用表面金属基板2aからなる構成例について説明する。
【0046】
高圧モジュール111における絶縁基板1、素子搭載用表面金属基板2a、裏面金属基板3および部分放電発生用表面金属基板21からなる基板部構造としては、熱伝導率向上のためダイレクト接合構造であるDBC基板が用いられており、半導体素子4が搭載された素子搭載用表面金属基板2aはボンディングワイヤ10によりモジュール外部端子8と電気的に接続されている。また、裏面金属基板3は少なくとも裏面金属基板3よりも外周側まで延在するアース板6に接合され、アース板6と導電接続されている。また、部分放電発生用表面金属基板21に取り付けられた電流式部分放電センサ31はボンディングワイヤ14によりモジュール外部端子9と電気的に接続されている。
【0047】
高圧モジュール111内部は、ゲル状絶縁物5を充填することで、高圧部品周辺の絶縁がなされている。なお、絶縁基板1はアルミナや窒化アルミ等のセラミックスから形成されている。また、ゲル状絶縁物5としては特にシリコーンゲルが好適に用いられるが、これに限定されるものではない。また、絶縁基板1の両面に接合される各金属基板は例えば銅材から形成することができるが、これに限定されるものではない。また、アース板も例えば銅材から形成することができるが、これに限定されるものではない。なお、絶縁基板1、ゲル状絶縁物5、各金属基板およびアース板6の材料については、以下の実施例2〜5においても同様である。
【0048】
また、絶縁基板1の厚さは例えば0.5mm程度とすることができるが、これに限定されるものではない。また、更に、各金属基板の厚さは例えば0.1mm程度とすることができるが、これに限定されるものではない。なお、絶縁基板1および各金属基板の厚さについては、以下の実施例2〜5においても同様である。
【0049】
高圧モジュール111において、図5(a)に示すように、絶縁基板1に主要機能回路用領域と部分放電発生用領域とを設け、絶縁基板1の主要機能回路用領域の表面に素子搭載用表面金属基板2aを配設するとともに、絶縁基板1の部分放電発生用領域の表面に素子搭載用表面金属基板2aとは分離して部分放電発生用表面金属基板21を配設している。そして、半導体素子4が搭載される素子搭載用表面金属基板2aと、絶縁基板1の主要機能回路用領域と、裏面金属基板3のうち絶縁基板1の主要機能回路用領域の裏面に配置されている部分とから、主要機能基板部112が形成されている。また、電流式部分放電センサ31が取り付けられる部分放電発生用表面金属基板21と、絶縁基板1の部分放電発生用領域と、裏面金属基板3のうち絶縁基板1の部分放電発生用領域の裏面に配置されている部分とから、部分放電発生用基板部113が形成されている。そして、主要機能基板部112とともに部分放電発生用基板部113も含めてゲル状絶縁物5で封止されている。
【0050】
高圧モジュール111では、図5(a)に示すように、絶縁基板1の表面に素子搭載用表面金属基板2aとは分離して部分放電発生用表面金属基板21を設けるとともに、部分放電発生用表面金属基板21の電位は高圧電源201に接続された素子搭載用表面金属基板2aと同電位としている。なお、図5(b)では、素子搭載用表面金属基板2aに搭載された半導体素子4がIGBTである場合であって、半導体素子4のコレクタ側が素子搭載用表面金属基板2aに導電接続されている例を示している。また、図5(b)ではアース板6の図示は略している。
【0051】
そして、部分放電発生用基板部113において、部分放電発生用表面金属基板21の端部の位置は絶縁基板1を挟んで対向する裏面金属基板3の端部に対して絶縁基板1の端部側により突出させている。この構造を用いることにより、部分放電発生用表面金属基板21と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)よりも、裏面金属基板3と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)の電界強度が高くなり、部分放電用基板部113における裏面金属基板3側で部分放電が発生する。
【0052】
そして、実施例1における絶縁基板1に接合される各金属基板の端部と絶縁基板1の端部とのそれぞれの距離L1〜L4は、各距離同士の関係が次の通りになるように設定しており、これにより、高圧モジュール111における各部の電界強度のうち、部分放電発生用基板部113の裏面金属基板3側での電界強度が最大となり、この部分から部分放電301が発生し始めるようにしている(図5(b)参照)。
【0053】
(a)L1=L2。
(b)L3<L1。
(c)L4>L3。
【0054】
ここで、主要機能基板部112においては、素子搭載用表面金属基板2aの端部と絶縁基板1の端部との距離をL1とし、裏面金属基板3の端部と絶縁基板1の端部との距離をL2としている。また、部分放電発生用基板部113においては、部分放電発生用表面金属基板21の端部と絶縁基板1の端部との距離をL3とし、裏面金属基板3の端部と絶縁基板1の端部との距離をL4としている。このようなL1〜L4の意味付けは以下の実施例2〜5でも同様とする。
【0055】
なお、実施例1における距離L3、L4は、例えばL3=5mm、L4=10mmとすることができるが、このような距離設定に限定されるものではない。また、上述のように、実施例1において、裏面金属基板3は少なくとも裏面金属基板3よりも外周側まで延在するアース板6に接合され、アース板6と導電接続されている。裏面金属基板3と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)の電界は、アース板6の存在により、裏面金属基板3の厚さにもよるが、ある程度緩和される。このため、実際には、上記のようなアース板6による電界緩和効果も考慮した上で、部分放電発生用基板部113における裏面金属基板3と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)の電界強度が部分放電発生用表面金属基板21と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)の電界強度よりも高くなるように、距離L3と距離L4とを設定する。
【0056】
そして、高圧モジュール111では、部分放電発生用基板部113の裏面金属基板3側で部分放電301が発生したことを電流式部分放電センサ31で検出する。
高圧モジュール111では、図5(a)に示すように、絶縁基板1の表面上における部分放電発生用表面金属基板21に電流式部分放電センサ31を取り付け、この電流式部分放電センサ31によって部分放電301を検出する。電流式部分放電センサ31は、電気的には、図5(b)に示すように、高圧電源201に接続された外部端子9と部分放電発生用表面金属基板21との間に接続される。なお、電流式部分放電センサ31には、図5(a)に示すように、外部端子9からのボンディングワイヤ14が接合される。
【0057】
電流式部分放電センサ31は、部分放電電流311を検出することにより部分放電検出を行うものであり、例えば、図5(c)に示すように、10kHz〜1MHzを検出可能な高周波変流器(CT)32と、高周波変流器32の電流検出出力に基づいて部分放電検出信号321を出力する信号処理回路部33とを備えた構成とすることができる。なお、本発明では、上記のような電流式部分放電センサの代わりに、例えばオペアンプからなる積分器を取り付けて部分放電電荷量を検出する方式の部分放電センサを適用することもできる。また、信号処理回路部33内にはノイズによる誤動作防止などのための閾値弁別回路などを備えるようにしている。
【0058】
なお、図5(a)では、高圧モジュール111が高圧電源接続用端子として主要機能基板部112用の外部端子8と部分放電発生用基板部113用の外部端子9とを備え、高圧電源201が外部端子8、9の両方に接続される構成を示しているが、高圧モジュール111が高圧電源接続用端子として外部端子8だけを備え、高圧電源201が接続された外部端子8から高圧モジュール111内部の配線により主要機能基板部112と部分放電発生用基板部113とに分岐接続する構成とすることもできる。この点は以下の実施例2〜5においても同様である。
【0059】
実施例1による高圧モジュール111では、絶縁基板1の表面側において、部分放電発生用表面金属基板21は、半導体素子4を搭載した素子搭載用表面金属基板2aとは分離しているため、電流式部分放電センサ31により半導体素子4の通電電流やスイッチング電流の影響を受けずに部分放電電流の検出が可能である。
【実施例2】
【0060】
図6は本発明の実施例2による高圧モジュール121の構成を示す図である。図6(a)に高圧モジュール121の断面構造を模式的に示すとともに、図6(b)には高圧モジュール121内における電気接続構成を模式的に示している。また、図6(c)には高圧モジュール121内における音響式部分放電センサ41の構成例を示している。
【0061】
高圧モジュール121において、図6(a)に示すように、絶縁基板1に主要機能回路用領域と部分放電発生用領域とを設け、絶縁基板1の主要機能回路用領域の表面に素子搭載用表面金属基板2aを配設するとともに、絶縁基板1の部分放電発生用領域の表面に素子搭載用表面金属基板2aとは分離して部分放電発生用表面金属基板21を配設している。そして、半導体素子4が搭載される素子搭載用表面金属基板2aと、絶縁基板1の主要機能回路用領域と、裏面金属基板3のうち絶縁基板1の主要機能回路用領域の裏面に配置されている部分とから、主要機能基板部122が形成されている。また、部分放電発生用表面金属基板21と、絶縁基板1の部分放電発生用領域と、裏面金属基板3のうち絶縁基板1の部分放電発生用領域の裏面に配置されている部分とから、部分放電発生用基板部123が形成されている。そして、主要機能基板部122とともに部分放電発生用基板部123も含めてゲル状絶縁物5で封止されている。なお、最下部からアース板6、裏面金属基板3、絶縁基板1、「素子搭載用表面金属基板2aおよび部分放電発生用表面金属基板21」の順で積層されてなる高圧モジュール121の内部絶縁構造は、図5(a)で説明した高圧モジュール111の内部絶縁構造と同様である。
【0062】
高圧モジュール121における主要機能基板部122および部分放電発生用基板部123の構造、すなわち、絶縁基板1に接合される各金属基板の端部と絶縁基板1とのそれぞれの距離の設定の仕方は、上述の実施例1による高圧モジュール111における主要機能基板部112および部分放電発生用基板部113と同様である。すなわち、実施例2における絶縁基板1に接合される各金属基板の端部と絶縁基板1の端部とのそれぞれの距離L1〜L4は、各距離同士の関係が次の通りになるように設定しており、これにより、高圧モジュール121における各部の電界強度のうち、部分放電発生用基板部123の裏面金属基板3側での電界強度が最大となり、この部分から部分放電301が発生し始めるようにしている(図6(b)参照)。
【0063】
(a)L1=L2。
(b)L3<L1。
(c)L4>L3。
【0064】
そして、高圧モジュール121では、部分放電発生用基板部123の裏面金属基板3側で部分放電301が発生したことを音響式部分放電センサ41で検出する。
高圧モジュール121では、例えば、図6(a)に示すように、部分放電発生用基板部123の部分放電発生用表面金属基板21上における裏面側での部分放電301の発生位置の真上に対応する位置、すなわち、裏面金属基板3とゲル状絶縁物5と絶縁基板1との交点(三重点)の上層にある部分放電発生用表面金属基板21上の位置に音響式部分放電センサ41を取り付け、この音響式部分放電センサ41によって部分放電301を検出する。
【0065】
音響式部分放電センサ41は、部分放電音312、すなわち部分放電301の発生に伴う音波を検出することにより部分放電検出を行うものであり、例えば、図6(c)に示すように、圧電式マイクなどの音検出素子42と、音検出素子42の音検出出力に基づいて部分放電検出信号322を出力する信号処理回路部43とを備えた構成とすることができる。なお、上記の音検出素子42としては、例えば、最大400kHz程度まで検出可能な接触式の高感度な圧電式マイクを用いることが好適である。また、信号処理回路部43内にはノイズによる誤動作防止などのための閾値弁別回路などを備えるようにしている。
【0066】
なお、音響式部分放電センサ41の取り付け位置は、上述の図6(a)に示す位置に限定されるものではなく、部分放電音312を十分な感度で検出可能な位置であればよい。
実施例2による高圧モジュール121では、部分放電発生位置を特定できているため、音検出素子は1つで済み、かつ、音検出素子として指向特性を狭くしたマイクの適用も可能である。
【実施例3】
【0067】
図7は本発明の実施例3による高圧モジュール131の構成を示す図である。図7(a)に高圧モジュール131の断面構造を模式的に示すとともに、図7(b)には高圧モジュール131内における電気接続構成を模式的に示している。また、図7(c)には高圧モジュール131内における光式部分放電センサ51の構成例を示している。
【0068】
高圧モジュール131において、図7(a)に示すように、絶縁基板1に主要機能回路用領域と部分放電発生用領域とを設け、絶縁基板1の主要機能回路用領域の表面に素子搭載用表面金属基板2aを配設するとともに、絶縁基板1の部分放電発生用領域の表面に素子搭載用表面金属基板2aとは分離して部分放電発生用表面金属基板21を配設している。そして、半導体素子4が搭載される素子搭載用表面金属基板2aと、絶縁基板1の主要機能回路用領域と、裏面金属基板3のうち絶縁基板1の主要機能回路用領域の裏面に配置されている部分とから、主要機能基板部132が形成されている。また、部分放電発生用表面金属基板21と、絶縁基板1の部分放電発生用領域と、裏面金属基板3のうち絶縁基板1の部分放電発生用領域の裏面に配置されている部分とから、部分放電発生用基板部133が形成されている。そして、主要機能基板部132とともに部分放電発生用基板部133も含めてゲル状絶縁物5で封止されている。なお、最下部からアース板6、裏面金属基板3、絶縁基板1、「素子搭載用表面金属基板2aおよび部分放電発生用表面金属基板21」の順で積層されてなる高圧モジュール131の内部絶縁構造は、図5(a)で説明した高圧モジュール111の内部絶縁構造と同様である。
【0069】
高圧モジュール131における主要機能基板部132および部分放電発生用基板部133の構造、すなわち、絶縁基板1に接合される各金属基板の端部と絶縁基板1とのそれぞれの距離の設定の仕方は、上述の実施例1による高圧モジュール111における主要機能基板部112および部分放電発生用基板部113と同様である。すなわち、実施例3における絶縁基板1に接合される各金属基板の端部と絶縁基板1の端部とのそれぞれの距離L1〜L4は、各距離同士の関係が次の通りになるように設定しており、これにより、高圧モジュール131における各部の電界強度のうち、部分放電発生用基板部133の裏面金属基板3側での電界強度が最大となり、この部分から部分放電301が発生し始めるようにしている(図7(b)参照)。
【0070】
(a)L1=L2。
(b)L3<L1。
(c)L4>L3。
【0071】
そして、高圧モジュール131では、部分放電発生用基板部133の裏面金属基板3側で部分放電301が発生したことを光式部分放電センサ51で検出する。
高圧モジュール131では、例えば、図7(a)に示すように、部分放電発生用基板部133の部分放電発生用表面金属基板21上における裏面側での部分放電301の発生位置の真上に対応する位置、すなわち、裏面金属基板3とゲル状絶縁物5と絶縁基板1との交点(三重点)の上層にある部分放電発生用表面金属基板21上の位置に光式部分放電センサ51を取り付け、この光式部分放電センサ51によって部分放電301を検出する。
【0072】
光式部分放電センサ51は、部分放電光313、すなわち部分放電301の発生に伴う発光を検出することにより部分放電検出を行うものであり、例えば、図7(c)に示すように、光検出素子52と、光検出素子52の光検出出力に基づいて部分放電検出信号323を出力する信号処理回路部53とを備えた構成とすることができる。また、光検出素子52としては、例えばフォトカプラを用いて、部分放電発生に伴う発光を受光素子で検出する方式を適用することができる。光検出素子52がフォトカプラであれば、受信部および発信部共に絶縁されており、設置個所の自由度も高く、絶縁基板1の表面上における部分放電発生用金属基板21の周辺部に実装する上で好適である。また、信号処理回路部53内にはノイズによる誤動作防止などのための閾値弁別回路などを備えるようにしている。
【0073】
なお、光式部分放電センサ51の取り付け位置は、上述の図7(a)に示す位置に限定されるものではなく、部分放電光313を十分な感度で検出可能な位置であればよい。また、光検出素子52は、当該光検出素子52の焦点が部分放電発生用表面金属基板21の下層にある裏面金属基板3とゲル状絶縁物5と絶縁基板1との交点(三重点)となるように設置すると好適である。
【0074】
実施例3による高圧モジュール131では、光式部分放電センサ51を用いることから、ゲル状絶縁物5には十分に高い透光性を備えたゲルを適用することが必要であり、この点でシリコーンゲルが特に好適である。
【実施例4】
【0075】
図8は本発明の実施例4による高圧モジュール141の構成を示す図である。図8(a)に高圧モジュール141の断面構造を模式的に示すとともに、図8(b)には高圧モジュール141内における電気接続構成を模式的に示している。また、図8(c)には高圧モジュール141内に設ける短絡センサ61の構成例を示している。
【0076】
高圧モジュール141において、図8(a)に示すように、絶縁基板1に主要機能回路用領域と部分放電発生用領域とを設け、絶縁基板1の主要機能回路用領域の表面に素子搭載用表面金属基板2aを配設するとともに、絶縁基板1の部分放電発生用領域の表面に素子搭載用表面金属基板2aとは分離して部分放電発生用表面金属基板21Aを配設している。そして、半導体素子4が搭載される素子搭載用表面金属基板2aと、絶縁基板1の主要機能回路用領域と、裏面金属基板3のうち絶縁基板1の主要機能回路用領域の裏面に配置されている部分とから、主要機能基板部142が形成されている。また、短絡センサ61が接続される部分放電発生用表面金属基板21Aと、絶縁基板1の部分放電発生用領域と、裏面金属基板3のうち絶縁基板1の部分放電発生用領域の裏面に配置されている部分とから、部分放電発生用基板部143が形成されている。そして、主要機能基板部142とともに部分放電発生用基板部143も含めてゲル状絶縁物5で封止されている。なお、絶縁基板1およびゲル状絶縁物5の各材料は、絶縁基板1の比誘電率がゲル状絶縁物5の比誘電率よりも大きくなるように選定しておく。また、最下部からアース板6、裏面金属基板3、絶縁基板1、「素子搭載用表面金属基板2aおよび部分放電発生用表面金属基板21A」の順で積層されてなる高圧モジュール141の内部絶縁構造は、後述の距離L1〜L4の設定以外の点では、図5(a)で説明した高圧モジュール111の内部絶縁構造と同様である。
【0077】
高圧モジュール141では、図8(a)に示すように、絶縁基板1の表面に素子搭載用表面金属基板2aとは分離して部分放電発生用表面金属基板21Aを設けるとともに、部分放電発生用表面金属基板21Aの電位は高圧電源201に接続された素子搭載用表面金属基板2aと同電位としている。そして、部分放電発生用基板部143において、絶縁基板1の表面に接合された部分放電発生用表面金属基板21Aと絶縁基板1の裏面に接合された裏面金属基板3との端部位置を一致させるとともに、部分放電発生用表面金属基板21Aおよび裏面金属基板3の各端部と絶縁基板1の端部との距離を短くしている。この構造を用いることにより、部分放電発生用表面金属基板21Aと絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)の電界強度が高くなり、部分放電用基板部143における部分放電発生用表面金属基板21A側で部分放電301が発生する。また、この構造では、部分放電発生用基板部143における部分放電発生用表面金属基板21Aと裏面金属基板3と間の沿面距離が短いため、部分放電301から絶縁破壊(短絡)302に進展し易くなっている。
【0078】
そして、実施例4における絶縁基板1に接合される各金属基板の端部と絶縁基板1の端部とのそれぞれの距離L1〜L4は、各距離同士の関係が次の通りになるように設定しており、これにより、高圧モジュール141における各部の電界強度のうち、部分放電発生用基板部143の部分放電発生用表面金属基板21A側での電界強度が最大となり、この部分から部分放電301が発生し始めるようにしている(図8(b)参照)。
【0079】
(a)L1=L2。
(b)L3=L4。
(c)L3<L1。
【0080】
なお、実施例4において、絶縁基板1の表面に接合された部分放電発生用表面金属基板21Aと絶縁基板1の裏面に接合された裏面金属基板3との端部位置を一致させているが、実施例4では、上述の実施例1と同様に、裏面金属基板3は少なくとも裏面金属基板3よりも外周側まで延在するアース板6に接合され、アース板6と導電接続されている。このため、部分放電発生用基板部143における裏面金属基板3と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)の電界は、アース板6の存在により、裏面金属基板3の厚さにもよるが、ある程度緩和される。これによって、実施例4では、部分放電発生用基板部143における部分放電発生用表面金属基板21と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)の電界強度が裏面金属基板3と絶縁基板1とゲル状絶縁物5との交点(三重点)の電界強度よりも高くなっている。
【0081】
そして、高圧モジュール141では、部分放電発生用基板部143の部分放電発生用表面金属基板21A側で部分放電301が発生し、部分放電発生用表面金属基板21Aと裏面金属基板3と間で絶縁破壊(短絡)302に至ったことを短絡センサ61で検出する。
【0082】
高圧モジュール141では、図8(a)に示すように、絶縁基板1の表面上における部分放電発生用表面金属基板21Aに隣接する位置に短絡センサ61を取り付け、この短絡センサ61によって部分放電301による絶縁破壊(短絡)302を検出する。短絡センサ61は、電気的には、図8(b)に示すように、高圧電源201に接続された外部端子9と部分放電発生用表面金属基板21Aとの間に接続される。なお、短絡センサ61には、図8(a)に示すように、外部端子9からのボンディングワイヤ14が接合される。
【0083】
短絡センサ61は、基本的には抵抗と電位差計測回路とからなるものであり、例えば、図8(c)に示すように、抵抗値R1を有する抵抗62とR1よりも低い抵抗値R2を有する抵抗63との直列接続回路と、抵抗63両端の電位差を計測する差動電位計方式の電位差計測回路部64と、電位差計測回路部64の電位差検出出力に基づいて短絡検出信号324を出力する信号処理回路部65とを備えた構成とすることができる。また、信号処理回路部65内にはノイズによる誤動作防止などのための閾値弁別回路などを備えるようにしている。
【0084】
部分放電301に伴う絶縁破壊(短絡)302が発生する前は短絡電流314が流れないので抵抗63両端の電位差ΔVはゼロであるが、部分放電301に伴い部分放電発生用表面金属基板21Aと裏面金属基板3と間での絶縁破壊(短絡)302が発生すれば、短絡電流314が抵抗63を流れることによる電位差ΔVが電位差計測回路部64で検出され、これに基づき、信号処理回路部65より短絡検出信号324が出力される。ここで、絶縁破壊(短絡)302発生時の上記電位差ΔVは、ΔV=Is×R2=V×R2/(R1+R2)と表わすことができる。ここで、Vは高圧電源201からの印加電圧であり、Is=V/(R1+R2)は短絡電流314の電流値である。
【0085】
実施例4による高圧モジュール141では、部分放電発生用表面金属基板21Aは、絶縁基板1の表面上において、半導体素子4を搭載した素子搭載用表面金属基板2aとは分離されているため、部分放電発生用表面金属基板21Aを備えた部分放電発生用基板部143側で絶縁破壊(短絡)302が起きても半導体素子4にはダメージを与えない。
【実施例5】
【0086】
図9は本発明の実施例5による高圧モジュール151の構成を示す図である。図9(a)に高圧モジュール151の断面構造を模式的に示すとともに、図9(b)には高圧モジュール151内における電気接続構成を模式的に示している。また、図9(c)には高圧モジュール151内に設ける短絡センサ71の構成例を示している。
【0087】
高圧モジュール151において、図9(a)に示すように、絶縁基板1に主要機能回路用領域と部分放電発生用領域とを設け、絶縁基板1の主要機能回路用領域の表面に素子搭載用表面金属基板2aを配設するとともに、絶縁基板1の部分放電発生用領域の表面に素子搭載用表面金属基板2aとは分離して部分放電発生用表面金属基板21Aを配設している。そして、半導体素子4が搭載される素子搭載用表面金属基板2aと、絶縁基板1の主要機能回路用領域と、裏面金属基板3のうち絶縁基板1の主要機能回路用領域の裏面に配置されている部分とから、主要機能基板部152が形成されている。また、短絡センサ71が接続される部分放電発生用表面金属基板21Aと、絶縁基板1の部分放電発生用領域と、裏面金属基板3のうち絶縁基板1の部分放電発生用領域の裏面に配置されている部分とから、部分放電発生用基板部153が形成されている。そして、主要機能基板部152とともに部分放電発生用基板部153も含めてゲル状絶縁物5で封止されている。なお、絶縁基板1およびゲル状絶縁物5の各材料は、絶縁基板1の比誘電率がゲル状絶縁物5の比誘電率よりも大きくなるように選定しておく。また、最下部からアース板6、裏面金属基板3、絶縁基板1、「素子搭載用表面金属基板2aおよび部分放電発生用表面金属基板21A」の順で積層されてなる高圧モジュール151の内部絶縁構造は、後述の距離L1〜L4の設定以外の点では、図5(a)で説明した高圧モジュール111の内部絶縁構造と同様である。
【0088】
高圧モジュール151における主要機能基板部152および部分放電発生用基板部153の構造、すなわち、絶縁基板1に接合される各金属基板の端部と絶縁基板1とのそれぞれの距離の設定の仕方は、上述の実施例4による高圧モジュール141における主要機能基板部142および部分放電発生用基板部143と同様である。すなわち、実施例5における絶縁基板1に接合される各金属基板の端部と絶縁基板1の端部とのそれぞれの距離L1〜L4は、各距離同士の関係が次の通りになるように設定しており、これにより、高圧モジュール151における各部の電界強度のうち、部分放電発生用基板部153の部分放電発生用表面金属基板21A側での電界強度が最大となり、この部分から部分放電301が発生し始めるようにしている(図9(b)参照)。
【0089】
(a)L1=L2。
(b)L3=L4。
(c)L3<L1。
【0090】
そして、高圧モジュール151では、部分放電発生用基板部153の部分放電発生用表面金属基板21A側で部分放電301が発生し、この部分放電301に伴い部分放電発生用表面金属基板21Aと裏面金属基板3と間で絶縁破壊(短絡)302に至ったことを短絡センサ71で検出する。
【0091】
また、高圧モジュール151における短絡センサ71の配置構成(図9(a)参照)および接続構成(図9(b)参照)も、上述の実施例4による高圧モジュール141における短絡センサ61と同様である。
【0092】
短絡センサ71は、上述の実施例4における短絡センサ61と同様に、基本的には抵抗と電位差計測回路とからなるものであるが、さらに電流遮断部を備えている点が異なっている。短絡センサ71は、例えば、図9(c)に示すように、抵抗値R1を有する抵抗72とR1よりも低い抵抗値R2を有する抵抗73との直列接続回路と、抵抗73両端の電位差を計測する差動電位計方式の電位差計測回路部74と、電位差計測回路部74の電位差検出出力に基づいて短絡検出信号325を出力する信号処理回路部75とを備えるとともに、さらに、信号処理回路部75からの遮断指令信号77に基づき短絡電流314を遮断する電流遮断部76を、上記の抵抗72と抵抗73との直列接続回路に対して直列に接続して設けた構成とすることができる。また、信号処理回路部75内にはノイズによる誤動作防止などのための閾値弁別回路などを備えるようにしている。
【0093】
部分放電301に伴う絶縁破壊(短絡)302が発生する前は短絡電流314が流れないので抵抗73両端の電位差ΔVはゼロであるが、部分放電301に伴い部分放電発生用表面金属基板21Aと裏面金属基板3と間での絶縁破壊(短絡)302が発生すれば、短絡電流314が抵抗73を流れることによる電位差ΔVが電位差計測回路部74で検出され、これに基づき、信号処理回路部75より短絡検出信号325が出力される。
【0094】
短絡センサ71は、さらに、信号処理回路部75からの遮断指令信号77に基づき短絡電流314を遮断する電流遮断部76を備えているので、絶縁破壊(短絡)302の発生後に短絡電流314が流れ続けることを防止することができる。なお、信号処理回路部75から電流遮断部76への遮断指令信号77は、絶縁破壊(短絡)302が検出された時点で発令するようにしてもよく、また、絶縁破壊(短絡)302が検出された時点の後、別のタイミングで発令するようにしてもよい。
【0095】
実施例5による高圧モジュール151では、上述の実施例4による高圧モジュール141と同様に、部分放電発生用表面金属基板21Aは、絶縁基板1の表面上において、半導体素子4を搭載した素子搭載用表面金属基板2aとは分離されているため、部分放電発生用表面金属基板21Aを備えた部分放電発生用基板部153側で絶縁破壊(短絡)302が起きても半導体素子4にはダメージを与えない。
[本発明による作用効果の具体例]
本発明による高圧モジュールは、上述のように、高圧モジュール内のゲル状絶縁物中で発生した部分放電を検出し、高圧モジュールの主要機能回路における絶縁破壊を未然に防ぐための機構として部分放電発生用基板部を備えているが、これによる作用効果の具体例を説明する。
(具体例1)
図10は、瞬時的な高電圧に伴う部分放電に対する本発明の作用効果を模式的に示す説明図である。なお、図10では横軸、縦軸をそれぞれ時間、電界強度としている。図10において、実線A1、破線B1、一点鎖線C1は、それぞれ、ゲルの絶縁破壊強さ、主要機能基板部における最大電界強度、部分放電発生用基板部における最大電界強度を示している。なお、部分放電発生用基板部における最大電界強度は、主要機能基板部における最大電界強度よりも例えば10〜30%程度大きくなるように設計しておく。
【0096】
図10では、高圧モジュールに接続された高圧電源の規定電圧値(定常レベル)からの瞬時的な電圧変動により高圧モジュールが、瞬時的な高電圧を受けて、主要機能基板部における最大電界強度および部分放電発生用基板部における最大電界強度がそれぞれ瞬時的に上昇した場合を想定しており、各基板部における最大電界強度がいずれも時間taで定常レベルから上昇を開始して時間tbで最高レベルに到達し、その後、低下して時間tcで定常レベルに復帰する態様を模式的に示している。なお、ゲルの絶縁破壊強さはゲル物性の経時変化により長期的には低下するが、瞬時的な高電圧の事象を対象とした図10のタイムスケールでは、ゲルの絶縁破壊強さの低下は現れていないものとしている。
【0097】
図10において、部分放電発生用基板部における最大電界強度が上昇し、時間t1でゲルの絶縁破壊強さのレベルを超えた場合、部分放電発生用基板部側で部分放電が発生する可能性があるが、この部分放電が検出された場合、その検出時点で、高圧モジュールから出力される部分放電検出信号に基づき、当該高圧モジュールが装着された電力変換装置などのシステム側で警報(アラーム)を発し、例えば当該高圧モジュールの新品への取替えによりシステムへの影響を防止するなどの対策を行うことができる。また、当該高圧モジュールを取り出して詳細検査を行い、継続使用の可否を判断するという対策も可能である。
【0098】
なお、瞬時的な高電圧の電圧レベルについては、主要機能基板部および部分放電発生用基板部における絶縁破壊、部分放電の事象に対応する各電圧レベルの間に次のような関係がある。
【0099】
VBDm>VPDm>VBDp>VPDp>VPDl
ここで、VBDmは主要機能基板部の絶縁破壊(BD)発生電圧であり、VPDmは主要機能基板部の部分放電(PD)発生電圧であり、VBDpは部分放電発生用基板部の絶縁破壊(BD)発生電圧であり、VPDpは部分放電発生用基板部の部分放電(PD)発生電圧であり、VPDlは部分放電発生用基板部でも部分放電(PD)が発生しない電圧である。
【0100】
まず、VPDl>Vなる電圧レベルVであれば、絶縁の問題はなく、部分放電発生用基板部は動作しない。
次に、VPDm>V≧VPDpなる電圧レベルVであれば、部分放電発生用基板部が動作し、主要機能基板部で部分放電による絶縁劣化が生じている可能性を警告する。しかしながら、この場合は、実際にはVPDmの電圧レベルには達していないので、主要機能基板部で部分放電は発生していない。このため、マージンを含めたリスクについて警告することになる。
【0101】
次に、VBDm>V≧VPDmなる電圧レベルVであれば、部分放電発生用基板部が動作し、主要機能基板部で部分放電による絶縁劣化が生じている可能性を警告する。この場合は、実際に主要機能基板部で部分放電が発生している。ゲル状絶縁物において部分放電が発生した部分は絶縁欠陥となるので、通常電圧レベルに戻しても部分放電を発生し続ける可能性がある。
【0102】
さらに、V≧VBDmなる電圧レベルVである場合は、主要機能基板部が絶縁破壊してしまい、対処できない。
なお、電圧領域としてはVBDm〜VPDmの範囲が広く、VPDm〜VPDpの範囲が狭くなるように設計する。
(具体例2)
図11は、ゲル物性の経時変化に伴う部分放電に対する本発明の作用効果を模式的に示す説明図である。なお、図11では横軸、縦軸をそれぞれ時間、電界強度としている。図11において、実線A2、破線B2、一点鎖線C2は、それぞれ、ゲルの絶縁破壊強さ、主要機能基板部における最大電界強度、部分放電発生用基板部における最大電界強度を示している。なお、部分放電発生用基板部における最大電界強度は、主要機能基板部における最大電界強度よりも例えば10〜30%程度大きくなるように設計しておく。
【0103】
ここで、ゲルの絶縁破壊強さはゲル物性の経時変化により長期的に低下していくが、図11では、その低下の態様を模式的に一定の時間勾配での低下として示している。
ゲルの絶縁破壊強さがゲル物性の経時変化により低下し、時間t1で部分放電発生用基板部における最大電界強度がゲルの絶縁破壊強さより大きくなり、さらに時間t2では、主要機能基板部における最大電界強度もゲルの絶縁破壊強さより大きくなる。
【0104】
そして、本発明では、時間t1で部分放電発生用基板部における最大電界強度がゲルの絶縁破壊強さより大きくなった後、部分放電発生用基板部において部分放電が検出された時点で、高圧モジュールから出力される部分放電検出信号に基づき、当該高圧モジュールが装着された電力変換装置などのシステム側で警報(アラーム)を発し、例えば当該高圧モジュールの新品への取替えによりシステムへの影響を防止するなどの対策を行うことができる。また、当該高圧モジュールを取り出して詳細検査を行い、継続使用の可否を判断するという対策も可能である。
【0105】
なお、バルクのゲル状絶縁物の絶縁破壊強さは材料の分子構造等により決定されるが、実際に使われるゲル状絶縁物の絶縁性能は高圧部位との密着、粘着および接着の状態により支配される。すなわち、高圧部位とゲル状絶縁物との間で空隙が出来にくくする特性が実際の絶縁破壊特性に繋がると考えられる。
【0106】
また、図11においては、ゲル状絶縁物の特性の経年変化として、ゲルの絶縁破壊強さが低下しても比誘電率は変化しないと仮定して、主要機能基板部における最大電界強度(破線B2)、部分放電発生用基板部における最大電界強度(一点鎖線C2)がそれぞれ時間経過に対して一定である態様を示しているが、実際には界面に生じる微細欠陥などの影響により各最大電界強度も経時変化していく可能性がある。
【0107】
以上のように、本発明による高圧モジュールでは、高圧モジュール内部に備えた部分放電発生用基板部からの部分放電検出信号を電力変換装置などのシステム側で常時監視することにより、当該高圧モジュール内で部分放電が起きていないこと、すなわち、例えば、瞬時的な高電圧、ゲル物性の経時変化などに伴う絶縁劣化が起きていないことを保証することができる。
(具体例3)
なお、本発明が対象としている事象には、衝撃や加熱によりゲル状絶縁物の裂けや剥離が生じて部分放電が発生しやすくなることも含まれる。ここで、衝撃としては加減速や振動が想定され、加熱としてはチップ(半導体素子)の温度上昇が想定される。そして、主要機能基板部と部分放電発生用基板部とは高圧モジュール内においてゲル状絶縁物で封止された同じ環境条件に置かれるので、衝撃や加熱により主要機能基板部と部分放電発生用基板部とで部分放電が同程度に発生しやすい状態になったとしても、最大電界強度がより大きな部分放電発生用基板部の方から部分放電が発生し始めるため、この部分放電を検出することにより高圧モジュール内の絶縁劣化の検出ができ、これに基づき、当該高圧モジュールの新品への取替えなどの対策を行うことができる。
[本発明の変形例]
なお、上述の図5〜9により説明した各実施例では、いずれも、高圧モジュールにおける主要機能基板部として、絶縁基板1の表面に接合された素子搭載用表面金属基板2a上に1個の半導体素子4が搭載された構成例を示したが、本発明による高圧モジュールは上記構成に限定されるものではなく、絶縁基板の表面に接合された素子搭載用表面金属基板上に同一種類の複数個の半導体素子が搭載された構成の高圧モジュールや、絶縁基板の表面に接合された素子搭載用表面金属基板上に複数種類の半導体素子が搭載された構成の高圧モジュールにも適用することができる。
【0108】
また、上述の図5〜9により説明した各実施例では、いずれも、部分放電発生用基板部の絶縁基板と主要機能基板部の絶縁基板とが一体の構成部材である構成例を示したが、本発明による高圧モジュールは上記構成に限定されるものではなく、部分放電発生用基板部の絶縁基板と主要機能基板部の絶縁基板とが別の構成部材であってもよい。
【符号の説明】
【0109】
1:絶縁基板
2:表面金属基板
2A:主要機能回路用表面金属基板部
2a:素子搭載用表面金属基板
2b,2c:中継用表面金属基板
3:裏面金属基板
4:半導体素子
5:ゲル状絶縁物(シリコーンゲル)
6:アース板
7:ケース
8,9:外部端子
10,11,12,13,14:ボンディングワイヤ
15:接合部材
21,21A:部分放電発生用表面金属基板
31:電流式部分放電センサ
32:高周波変流器(高周波CT)
33:信号処理回路部
41:音響式部分放電センサ
42:音検出素子
43:信号処理回路部
51:光式部分放電センサ
52:光検出素子
53:信号処理回路部
61:短絡センサ
62:第1抵抗(R1)
63:第2抵抗(R2)
64:電位差計測回路部
65:信号処理回路部
71:短絡センサ
72:第1抵抗(R1)
73:第2抵抗(R2)
74:電位差計測回路部
75:信号処理回路部
76:電流遮断部
77:遮断指令信号
101,101A,101B,101C,111,121,131,141,151:高圧モジュール
102,112,122,132,142,152:主要機能基板部
103,113,123,133,143,153:部分放電発生用基板部(PD発生用基板部)
103a:絶縁基板
103b:表面金属基板
103c:裏面金属基板
103d:部分放電検出機構
201:高圧電源(HV)
301:部分放電(PD)
302:絶縁破壊(短絡)
311:部分放電電流
312:部分放電音
313:部分放電光
314:短絡電流
321,322,323:部分放電検出信号(PD検出信号)
324,325:短絡検出信号(PD検出信号)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子への主要機能回路パターンを形成する主要機能回路用表面金属基板部が絶縁基板の表面に接合されるとともに、接地電位とされる裏面金属基板が前記絶縁基板の裏面に接合され、
前記絶縁基板、前記主要機能回路用表面金属基板部、前記裏面金属基板および前記半導体素子がゲル状絶縁物で封止された高圧モジュールにおいて、
前記絶縁基板に主要機能回路用領域と部分放電発生用領域とを設け、
前記絶縁基板の主要機能回路用領域の表面に前記主要機能回路用表面金属基板部を配設するとともに、
前記絶縁基板の部分放電発生用領域の表面に前記主要機能回路用表面金属基板部とは分離して部分放電発生用表面金属基板を配設し、
前記主要機能回路用表面金属基板部と、前記絶縁基板の主要機能回路用領域と、前記裏面金属基板のうち前記絶縁基板の主要機能回路用領域の裏面に配置されている部分とから、主要機能基板部を構成するとともに、
前記部分放電発生用表面金属基板と、前記絶縁基板の部分放電発生用領域と、前記裏面金属基板のうち前記絶縁基板の部分放電発生用領域の裏面に配置されている部分とから、部分放電発生用基板部を構成し、
前記部分放電発生用表面金属基板の電位は、前記主要機能回路用表面金属基板部の高電位表面金属基板と同電位とし、
前記高電位表面金属基板、前記部分放電発生用表面金属基板および前記裏面金属基板の各端部と前記絶縁基板の端部とのそれぞれの距離同士の関係を、前記部分放電発生用基板部における最大電界強度が前記主要機能基板部における最大電界強度よりも大きくなるように設定し、
前記部分放電発生用基板部で発生する部分放電または短絡を検出する手段を設けた
ことを特徴とする高圧モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧モジュールにおいて、
前記部分放電発生用表面金属基板の端部の位置は前記絶縁基板を挟んで対向する前記裏面金属基板の端部に対して絶縁基板端部側により突出した位置とし、
前記裏面金属基板側で発生する部分放電を検出する部分放電検出手段を設けた
ことを特徴とする高圧モジュール。
【請求項3】
請求項1に記載の高圧モジュールにおいて、
前記絶縁基板は前記ゲル状絶縁物よりも大きな比誘電率を有する材料からなり、
前記部分放電発生用表面金属基板の端部の位置は前記絶縁基板を挟んで対向する前記裏面金属基板の端部と一致した位置とするとともに、前記部分放電発生用表面金属基板の端部と前記絶縁基板の端部との距離は前記絶縁基板の表面に接合される全ての金属基板のうちで最も短い距離とし、
前記部分放電発生用表面金属基板側で発生する部分放電に伴い生じる前記部分放電発生用表面金属基板と前記裏面金属基板との間の短絡を検出する短絡検出手段を設けた
ことを特徴とする高圧モジュール。
【請求項4】
請求項2に記載の高圧モジュールにおいて、
前記部分放電検出手段として、前記部分放電に伴い発生する電流を検出する電流検出素子を備えた電流式部分放電センサを設けたことを特徴とする高圧モジュール。
【請求項5】
請求項2に記載の高圧モジュールにおいて、
前記部分放電検出手段として、前記部分放電に伴い発生する音を検出する音検出素子を備えた音響式部分放電センサを設けたことを特徴とする高圧モジュール。
【請求項6】
請求項2に記載の高圧モジュールにおいて、
前記部分放電検出手段として、前記部分放電に伴い発生する光を検出する光検出素子を備えた光式部分放電センサを設けたことを特徴とする高圧モジュール。
【請求項7】
請求項3に記載の高圧モジュールにおいて、
前記短絡検出手段として、前記短絡による電流が通流する抵抗と、前記抵抗の両端の電位差を計測する電位差計測回路部とを備えた短絡センサを設けたことを特徴とする高圧モジュール。
【請求項8】
請求項7に記載の高圧モジュールにおいて、
前記抵抗と直列に電流遮断部を介装したことを特徴とする高圧モジュール。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の高圧モジュールにおいて、
前記絶縁基板は、セラミックスからなることを特徴とする高圧モジュール。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の高圧モジュールにおいて、
前記ゲル状絶縁物は、シリコーンゲルからなることを特徴とする高圧モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−65694(P2013−65694A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203513(P2011−203513)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】