説明

高圧容器の健全性診断方法および高圧容器の健全性診断装置

【課題】高圧容器の健全性を診断する方法として、多数点の変形を検知する場合でも1本の光ファイバで構成することができ、構造が単純で低コストの高圧容器の健全性診断方法を提供するものである。
【解決手段】同一のブラッグ波長を有する複数のブラッググレーティング2を離散的に形成した光ファイバ3を、複数のブラッグクレーティングが異なる位置になるように高圧容器1に密接して取り付け、高圧容器1へのガス充填後に、光ファイバ3の端部に接続した光の入出射機能を有する光計測器4からの出射光に対するブラッググレーティング2からの反射光の波長分布を光計測器4で計測し、波長分布の経時変化に基づいて、高圧容器1の健全性を診断するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池の燃料となる水素などのガス貯蔵に用いられる高圧容器の健全性診断方法および高圧容器の健全性診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素などのガス貯蔵に用いられる高圧容器は、ガス充填時には高い内圧で高圧容器が外側へ膨らむように変形し、ガス使用時には内圧が下がるにしたがってもとの形に復元している。そのため、ガスの充填と放出とを繰り返すことで高圧容器の変形が繰り返し起こるために、長期間使用すると高圧容器の材質が劣化して強度が低下し、ガスの漏出や異常な変形、最悪の場合にはガス充填時に破裂を起こす恐れがある。そのため、高圧容器へのガスの充填と放出を繰り返す場合には、高圧容器の強度が十分に備わっているかどうか、つまり高圧容器の健全性を診断することが必要になっている。高圧容器の健全性を診断するひとつの方法として、ガス充填時の高圧容器の変形量を、使用開始(新品)の時に測定しておき、その後のガス充填時の変形量と使用開始時の時の変形量とを比較する方法がある。この方法によれば、ガス充填時の高圧容器の変形量に応じて余寿命を予測したり、寿命に達したと判断したりして高圧容器の健全性を診断することができる。
【0003】
高圧容器の健全性を診断する方法のひとつとして、フィラメントワインディング法により、それぞれのブラッグ波長が異なる複数のブラッググレーティングを離散的に形成した光ファイバと樹脂を含浸したガラス繊維とを同時に高圧容器の本体であるアルミ製のシリンダ型容器の外表面に巻き付けて、複合材料で強化した高圧容器を成形する方法がある。フィラメントワインディング法とは、ガラス繊維や炭素繊維などの連続した強化繊維に樹脂を含浸し、成形型に巻きつけて、その後に硬化成形する成形方法である。ブラッググレーティングとは、紫外線を用いて光ファイバのコア中に屈折率が周期的に異なるように形成されたグレーティングであり、狭帯域の波長の光を反射する特性があり、この反射光のピーク波長はブラッグ波長と呼ばれている。この方法によれば、ガラス繊維に埋め込まれた光ファイバの周方向巻きの2点と、螺旋方向巻きの2点に位置するそれぞれのブラッググレーティングからの反射光の波長変化によって、各点の光ファイバの歪みを検知することができる。このような方法で、高圧容器の形状変化を光ファイバからの反射光の波長変化で検知することで、高圧容器の健全性を診断することができる(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、コンクリート製貯蔵容器の健全性を監視する方法として、光ファイバの任意の位置にブラッググレーティングを設けて、このブラッググレーティングで反射されたレーザ光の反射光の波長シフト量を測定し、この波長シフト量からブラッググレーティングの位置における貯蔵容器の歪みを検出する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【非特許文献1】International SAMPE Symposium Exhib. Vol.43, No.1, P444−457(1998)
【特許文献1】特開2001−133584号公報(3頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような高圧容器や貯蔵容器の健全性の診断方法では、ブラッググレーティングが形成され位置の歪みを検知するために、各測定点でのブラッググレーティングのブラッグ波長が異なっている必要がある。そのため、大型の高圧容器に従来の方法を適用する場合には、測定点を増やすために1本の光ファイバにブラッグ波長の異なるブラッググレーティングを多数個形成しなければならない。さらには、ある一点の高圧容器の変形に伴う光ファイバの変形に対するブラッググレーティングからの反射光の波長変化が他の点に位置するブラッググレーティングのブラッグ波長を超えて変化してはいけないという制約がある。なぜなら、他の点に位置するブラッググレーティングのブラッグ波長を越えて変化すると、どの位置の変形に対する波長変化かが判断することが困難になるからである。このため、異なるブラッグ波長の波長間隔はある程度広げる必要があり、ブラッグ波長の波長間隔と光源の発光波長幅との関係から、1本の光ファイバに異なるブラッグ波長をもつブラッググレーティングを形成できる数は、約40個である。したがって、40点以上の多数点の変形を検知するためには、複数の光ファイバを用いる必要があり、構造が複雑になるとともに、高コストになるという問題があった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、高圧容器の健全性を診断する方法として、多数点の変形を検知する場合でも1本の光ファイバで構成することができ、構造が単純で低コストの高圧容器の健全性診断方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る高圧容器の健全性診断方法は、同一のブラッグ波長を有する複数のブラッググレーティングを離散的に形成した光ファイバを、複数のブラッグクレーティングが異なる位置になるように高圧容器に密接して取り付け、高圧容器へのガス充填後に、光ファイバの端部に接続した光の入出射機能を有する光計測器からの出射光に対するブラッググレーティングからの反射光の波長分布を光計測器で計測し、波長分布の経時変化に基づいて、高圧容器の健全性を診断するものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明は、高圧容器へのガス充填後の同一のブラッグ波長を有するブラッググレーティングからの反射光の反射ピークの数と位置とを、正常なとき(使用開始時)と使用中(ガスの充填と放出を繰り返し行なった後)とで比較して、高圧容器の健全性を診断するので、構造が単純で、低コストな診断方法および健全性診断機能を有する高圧容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1における健全性診断機能を有する高圧容器の模式図である。図1において、高圧容器1は、健全性の診断を行なう対象となる高圧容器であり、高圧容器1の外壁には、同一のブラッグ波長を有するブラッググレーティング2を形成した光ファイバ3が密接して取り付けられている。本実施の形態においては、ブラッググレーティング2は、4個(2a、2b、2cおよび2d)形成されており、それぞれ高圧容器1の外壁の異なる位置に配置されている。光ファイバ3の端部には、光計測器4が接続されている。光計測器4は、内部に光源をもち、この光源からの光を光ファイバ3に入射させ、光ファイバ3に形成されたブラッググレーティング2からの反射光の波長分布を計測することができる。光計測器4には、コンピュータ5が接続されており、このコンピュータ5は、光計測器4を制御するとともに、光計測器4で計測された波長分布を記憶し、波長分布の経時変化に基づいて高圧容器1の健全性を判断する機能を備えている。
【0011】
次に、本実施の形態における健全性診断方法の動作について説明する。光計測器4から出射された広帯域光が光ファイバ3に導かれ、各ブラッググレーティング2a、2b、2cおよび2dへ入射する。各ブラッググレーティング2a、2b、2cおよび2dからはブラッグ波長の光が反射され、この反射光が光ファイバ3に導かれて光計測器4へ入射する。光計測器4では、反射光の波長分布が計測され、この波長分布をコンピュータ5に伝送する。コンピュータ5では、送られてきた波長分布を記憶するとともに、波長分布の経時変化に基づいて、高圧容器1の健全性を判断する。
【0012】
健全性の診断方法について、さらに詳細に述べる。図2は、本実施の形態における反射光の波長分布を示す特性図である。まず始めに、高圧容器1にガスが充填されていないとき(非充填時)は、高圧容器1は変形していないので、外壁に密着して取り付けられた光ファイバ3も変形していないため、各ブラッググレーティング2a、2b、2cおよび2dのブラッグ波長は同一であり、図2(A)に示すように反射光のピーク波長は重なって観測される。次に、高圧容器1にガスを充填し(充填時)高圧容器1の内圧が上昇すると、高圧容器1の外壁は外側へ膨らむように変形する。外壁の変形量は場所によって異なるために、各ブラッググレーティング2a、2b、2cおよび2d位置の光ファイバ3の変形量も異なることになる。その結果、各ブラッググレーティング2a、2b、2cおよび2dのブラッグ波長の変化量がそれぞれ場所によって異なるために、非充填時には1つであった反射光の反射ピークが分離して、図2(B)に示すように複数の反射ピークが観測されるようになる。図2(B)では、ブラッググレーティング2bと2dとの位置の変形量が同じ場合の例を示しており、この場合はブラッググレーティング2bと2dとからの反射ピークは一致することになる。
【0013】
コンピュータ5は、光計測器4で観測された反射光の波長分布の経時変化を監視している。各ブラッググレーティング2a、2b、2cおよび2dのブラッグ波長は、高圧容器1の内圧に応じて変化する。このため、高圧容器1が健全な状態であれば、光計測器4で観測される反射光の波長分布は、内圧によって決まる一定の関係を満たすように変化する。つまり、使用開始時に図2(B)に示したような波長分布であった場合、高圧容器1が健全であれば、高圧容器1内に充填されたガスを放出した後に再度ガスを充填したときにも図2(B)と同じ波長分布が再現されるはずであり、反射ピークのずれは発生しない。したがって、長期間に渡って高圧容器1を使用したときに、ガス充填後に反射光の波長分布を観測し、このときの波長分布が使用開始時に測定した波長分布からずれているかどうかをコンピュータ5で監視することにより、高圧容器1の健全性を判断することができる。次の式は、各ブラッググレーティング2a、2b、2cおよび2dの反射光のピーク波長λ2a、λ2b、λ2cおよびλ2d(単位:nm)と高圧容器1の内圧P(単位:MPa)との関係を示したものである。
λ2a(nm)=1545(nm)+α(nm/MPa)×P(MPa)
λ2b(nm)=1545(nm)+α(nm/MPa)×P(MPa)
λ2c(nm)=1545(nm)+α(nm/MPa)×P(MPa)
λ2d(nm)=1545(nm)+α(nm/MPa)×P(MPa)
ここで、1545(nm)はブラッググレーティング2のブラッグ波長であり、α、α、αおよびα(nm/MPa)は、それぞれブラッググレーティング2a、2b、2cおよび2dにおける内圧P(MPa)に対する反射光のピーク波長のシフト量である。
【0014】
図2(A)の状態、つまり非充填時には、P=0であるため、λ2a=λ2b=λ2c=λ2d=1545(nm)となる。次に、ガス充填時の図2(B)の状態では、α=αであるため、λ2b=λ2dであるが、例えば、ブラッググレーティング2bの位置に対応する高圧容器1の外壁の変形量が大きくなった場合、つまり外壁を構成する材料強度が劣化した場合には、α≠αとなり、図2(C)に示すように、ブラッググレーティング2bと2dに対応するピークが分離して、反射光の反射ピーク数が3個から4個に変化する。このように、反射光の波長分布の経時変化測定することで、高圧容器1に不健全な状態が生じていることを検知することができる。
【0015】
本実施の形態のよれば、同一のブラッグ波長を有する複数のブラッググレーティングを形成した光ファイバを高圧容器に密接して取り付け、高圧容器へのガス充填後に、光計測器からの出射光に対するブラッググレーティングからの反射光の波長分布を光計測器で計測し、波長分布の経時変化に基づいて、高圧容器の健全性を診断しているので、一本の光ファイバで多数の計測点を設けることができる。その結果、構造が単純で、低コストなの診断方法および健全性診断機能を有する高圧容器を得ることができる。
【0016】
なお、本実施の形態においては、ブラッググレーティングを4個形成した例を示したが、原理的にはブラッググレーティングの個数に制約はない。また、そのため測定点が増えても1本の光ファイバで構成することが可能ではあるが、光ファイバの配置が複雑になる場合は、光ファイバを2本以上で構成してもよい。さらには、本実施の形態においては、反射光の波長分布の経時変化を光計測器とコンピュータとの組み合わせで検知する例を示したが、光計測器とコンピュータとの機能を併せもつ1つの制御装置を用いてもよい。
【0017】
実施の形態2.
図3は、実施の形態2のおける高圧容器の断面の模式図である。実施の形態1においては、光ファイバを高圧容器の外壁に密着して取り付けたが、本実施の形態では、高圧容器の外壁を繊維強化複合材料により強化し、この繊維強化複合材料に光ファイバを埋設したものである。図3において、アルミ合金製の内部容器6をもつ高圧容器1において、内部容器6の外側が繊維強化複合材料7で補強されており、光ファイバ3は繊維強化複合材料7に埋設されている。繊維強化複合材料として、例えば炭素繊維強化プラスチック材料を用いることができる。このような構造の高圧容器は、フィラメントワインディング法により作製することができる。光ファイバ3には、2a、2b、2cおよび2dの4個のブラッググレーティング形成されている。光ファイバの端部には、光計測器4が接続されており、さらに光計測器4には、コンピュータ5が接続されている。
【0018】
このように構成された高圧容器においては、実施の形態1と同様な方法によって高圧容器の健全性を診断することができるとともに、繊維強化複合材料7によって光ファイバ3を保護することができる。また、外壁よりも内部に光ファイバ3が設置されているので、外壁まで変形が現れない内部の損傷状況を検知することができ、高圧容器の信頼性がさらに向上する。
【0019】
なお、本実施の形態においては、繊維強化複合材料として、炭素繊維強化プラスチック材料を用いる例を示したが、他の繊維強化複合材料を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施の形態1による健全性診断機能を有する高圧容器の模式図である。
【図2】この発明の実施の形態1における反射光の波長分布を示す特性図である。
【図3】この発明の実施の形態2における高圧容器の断面の模式図である。
【符号の説明】
【0021】
1 高圧容器
2、2a、2b、2c、2d ブラッググレーティング
3 光ファイバ
4 光計測器
5 コンピュータ
6 内部容器
7 繊維強化複合材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一のブラッグ波長を有する複数のブラッググレーティングが離散的に形成された光ファイバを、前記複数のブラッグクレーティングが異なる位置になるように高圧容器に密接して取り付け、
前記高圧容器へのガス充填後に、
前記光ファイバの端部に接続した光の入出射機能を有する光計測器からの出射光に対する前記ブラッググレーティングからの反射光の波長分布を前記光計測器で計測し、
前記波長分布の経時変化に基づいて、
前記高圧容器の健全性を診断することを特徴とする高圧容器の健全性診断方法。
【請求項2】
高圧容器に密接して取り付けられた光ファイバと、
この光ファイバに離散的に形成された同一のブラッグ波長を有する複数のブラッググレーティングと、
この複数のブラッグクレーティングからの反射光の波長分布を計測する機能を有し、前記光ファイバの端部に接続された光計測器と
を備えたことを特徴とする高圧容器の健全性診断測定装置。
【請求項3】
高圧容器は繊維強化複合材料で外表面が補強された構造をもち、光ファイバは前記繊維強化複合材料に埋設されたことを特徴とする請求項2記載の高圧容器の健全性診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−139143(P2007−139143A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336752(P2005−336752)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】