説明

高圧水銀ランプの点灯方法、高圧水銀ランプの点灯装置、ランプユニット及び投射型表示装置

【課題】AC電源の入力がオフになっている場合であっても、始動点灯時の放電パルス電圧を低下させることの可能な高圧水銀ランプの点灯方法を提供する。
【解決手段】両端に封止部19、21が設けられた放電容器22に一対の電極30a、30bが対向配置された高圧水銀ランプ11を、電極間に放電パルス電圧を印加することによって始動点灯させる。誘導コイル34をその高周波磁界が高圧水銀ランプに到達するように配置し、放電パルス電圧を印加する前に、誘導コイルに高周波電力を通電することによって、電極および放電容器中に封入された水銀の温度を所定値に上昇させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水銀ランプの点灯方法、および点灯装置、また、その点灯装置と高圧水銀ランプとを組み合わせたランプユニット、及び高圧水銀ランプを光源に用いた投射型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧水銀ランプは、放電容器内の放電空間に発光物質である水銀やハロゲン化物が封入されていると共に、放電空間内では先端同士が対向する状態で一対の電極が設けられている。高圧水銀ランプの始動点灯は、十数kVの放電パルス電圧を印加して電極間の絶縁破壊をすることにより行われる。
【0003】
近年は、高圧水銀ランプの点灯装置の小型化と低価格化の要求に伴い、絶縁距離の短縮化や部材の低耐電圧化が望まれており、放電パルス電圧の低電圧化が求められている。
【0004】
放電パルス電圧を低電圧化する方法として、例えば特許文献1には、安定点灯状態の高圧水銀ランプを消灯してから一定時間が経過し、かつ放電容器の外表面温度が200℃以上にある時間帯に、放電パルス電圧を電極間に印加して高圧水銀ランプを数秒間だけ限時的に点灯させることにより、電極に水銀が付着することを防止する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2004−241324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のように、安定点灯状態の高圧水銀ランプを消灯してから一定時間が経過した後に放電パルス電圧を電極間に印加して、高圧水銀ランプを数秒間だけ限時的に点灯させる技術では、如何なる使用状況によっても放電パルス電圧を低下できるとは言い難い。
【0006】
つまり、例えば高圧水銀ランプが投射型表示装置に使用されている場合、投射型表示装置の電源スイッチをオフにすれば上記の制御を動作させることは可能であるが、ユーザーの使用状況や不測の外的要因によっては、AC電源の入力が直接オフにされる場合があり、そのような場合には、消灯してから一定時間が経過した後に放電パルス電圧を印加することができない。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、AC電源の入力が直接オフにされた場合であっても、始動点灯時の放電パルス電圧を低下させることの可能な高圧水銀ランプの点灯方法、および高圧水銀ランプの点灯装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の高圧水銀ランプの点灯方法は、両端に封止部が設けられた放電容器に一対の電極が対向配置された高圧水銀ランプを、前記電極間に放電パルス電圧を印加することによって始動点灯させる点灯方法であって、誘導コイルをその高周波磁界が前記高圧水銀ランプに到達するように配置し、前記放電パルス電圧を印加する前に、前記誘導コイルに高周波電力を通電することによって、前記電極および前記放電容器中に封入された水銀の温度を所定値に上昇させることを特徴とする。
【0009】
本発明の高圧水銀ランプの点灯装置は、両端に封止部が設けられた放電容器に一対の電極が対向配置された高圧水銀ランプを、前記電極間に放電パルス電圧を印加することによって始動点灯し、ランプの点灯を維持させる点灯装置であって、前記放電パルス電圧を発生して前記電極間に印加し、点灯維持のための制御を行う点灯制御部と、前記高圧水銀ランプに高周波磁界が到達するように配置された誘導コイルと、前記誘導コイルに高周波電力を供給する高周波電力供給部とを備え、前記点灯制御部から前記放電パルス電圧を印加する前に、前記高周波電力供給部から前記誘導コイルに高周波電力を通電することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の高圧水銀ランプの点灯方法によれば、始動点灯前に誘導コイルにより放電空間の加熱を行うことにより、ユーザーの使用状況や不測の外的要因に依存することなく、放電パルス電圧の低下を図ることができる。
【0011】
また、始動点灯前に電極を電磁加熱することによって、始動時の電極材料の飛散の低減および立ち上がり特性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の高圧水銀ランプの点灯方法により放電パルス電圧を低下させることができる理由は、以下のとおりである。
【0013】
従来の技術おいては、高圧水銀ランプ消灯後、放電空間内の温度は低下し、水銀は気体状態から液化し、最低温部である電極に大量に付着する。付着した水銀は、電極からの電子の放出を困難にするため、再度始動点灯するには高い放電パルス電圧が必要になるとされている。
【0014】
そこで、電極および水銀を外部から加熱し、放電空間内の温度を上昇させることによって、電極に付着した水銀が全て蒸発していない状態においても、始動点灯に必要な放電パルス電圧値が変化しないか否かを確認するための実験を行った。
【0015】
その結果、放電空間内の温度を上昇させることによって、水銀が電極に付着した状態、すなわち目視では水銀の蒸発が確認できない状態においても、低い放電パルス電圧値で始動点灯が可能であることを見出した。更に水銀を加熱することによって、水銀は十分蒸発し、放電容器の内壁に付着した。つまり、水銀が導電膜の効果を果たすことによって、低い放電パルス電圧値で始動点灯が可能になるのである。
【0016】
本発明の高圧水銀ランプの点灯方法、および点灯装置は、以上の検討の結果に基づき、始動点灯前に電極および水銀を電磁加熱する構成を採用したものである。
【0017】
上記構成の高圧水銀ランプの点灯装置において、好ましくは、前記誘導コイルは、前記高周波電力を通電されることにより前記電極および前記放電容器中に封入された水銀の温度を上昇させるように配置される。
【0018】
本発明のランプユニットは、両端に封止部が設けられた放電容器に一対の電極が対向配置された高圧水銀ランプと、前記高圧水銀ランプを始動点灯および点灯維持を行うための上記構成の点灯装置を備える。
【0019】
本発明の投射型表示装置は、両端に封止部が設けられた放電容器に一対の電極が対向配置された光源用の高圧水銀ランプと、前記水銀ランプを点灯させるための上記構成の点灯装置と、前記高圧水銀ランプから照射される光を表示素子を介して出射させることにより表示を行う表示ユニットとを備える。
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における投射型表示装置である液晶プロジェクタについて、図面を参照しながら説明する。以下に説明する液晶プロジェクタは、本実施の形態における高圧水銀ランプの点灯装置を用いた、前面投射型の表示装置の一例である。
【0022】
1.液晶プロジェクタの全体構成
図1は、液晶プロジェクタ1の一部を切り欠いて示した斜視図である。この液晶プロジェクタ1は、高圧水銀ランプ(図示省略)を内部に有するランプユニット2、制御ユニット3、高圧水銀ランプを点灯させるための点灯装置を含む電源ユニット4、集光レンズと透過型のカラー液晶表示板と駆動モータが内蔵されているレンズユニット5、および冷却用のファン6等を備え、それらの要素が筐体7の内部に配置されている。
【0023】
制御ユニット3は、外部から入力された画像信号に基づき、カラー液晶表示板を駆動させてカラー画像を表示させる機能を有する。また、レンズユニット5の内部に配されている駆動モータを制御して、フォーカシング動作やズーム動作を実行させる。なお、制御ユニット3は、レンズユニット5の上部に配された基板8と、この基板8に実装された複数の電子・電気部品9から構成される。
【0024】
電源ユニット4は、家庭用AC100Vの電源を所定の直流電圧に変換して、制御ユニット3や点灯装置などに供給する。
【0025】
以上のように構成された液晶プロジェクタ1において、ランプユニット2から出射された光は、レンズユニット5の内部に配されている集光レンズ等で集光されると共に、光路上に配されたカラー液晶表示板を透過する。これにより、液晶表示板に形成された画像が、レンズ10等を介して図外のスクリーン上に投影される。
【0026】
2.ランプユニット
図1におけるランプユニット2の斜視図を、図2に示す。図3は、ランプユニット2の平面図であり、内部の高圧水銀ランプ11の様子が分かるように反射鏡12を切り欠いて示す。
【0027】
ランプユニット2は、高圧水銀ランプ11と、反射鏡12とを備え、反射鏡12の内部に高圧水銀ランプ11が組み込まれており、高圧水銀ランプ11には誘導コイル(図示省略)が巻きつけられている。反射鏡12は、凹面状の反射面13が形成された本体部材14を有している。この本体部材14の開口15に、前面ガラス16が設けられている。本体部材14と前面ガラス16との固着は、例えば、シリコーン系の接着剤を用いて行われている。
【0028】
反射鏡12は、例えば、ダイクロイック反射鏡であり、高圧水銀ランプ11の発光部17から発せられた光を所定方向(前面ガラス16側)へと反射させる。本体部材14の形状は漏斗状をしており、開口径の小さい部分18には、図3に示すように、高圧水銀ランプ11の一方の封止部19が挿入された貫通孔20が形成されている。
【0029】
3.高圧水銀ランプの構成
高圧水銀ランプ11の構成は、図3に詳細に示される。高圧水銀ランプ11は、石英ガラスよりなる発光部17および発光部17の両側に設けられた封止部19、21とから構成された放電容器22と、両封止部19、21に封着された電極構成体23a、23bとからなる。発光部17は内部に放電空間24を有し、電極構成体23a、23bは、放電空間24の内部でその先端(後述する電極部)同士が対向する状態で両封止部19、21に封着されている。
【0030】
電極構成体23a、23bは各々、電極部25a、25b、金属箔26a、26b及び外部リード線27a、27bがこの順で接続(例えば溶接により固着されている)された構成を有する。電極構成体23a、23bの先端部が、電極部25a、25bを形成する。
【0031】
両封止部19、21における発光部17の反対側の端面から、外部リード線27a、27bが、外部に導出されている。外部リード線27bは、図2及び図3に示すように、反射鏡12に形成されている貫通孔28を通って、反射鏡12の外部へと導出されている。
【0032】
電極部25a、25bは各々、電極軸29a、29bと、この電極軸29a、29bの先端に設けられた電極コイル30a、30bとからなり、放電空間24において、電極軸29a、29bが略一直線上となるように対向配設されている。電極部25a、25bは、電極軸29a、29bと電極コイル30a、30bが異なる材料で構成されていても良いし、同じ材料(例えば、タングステン)で構成されていても良い。
【0033】
電極構成体23a、23bは、電極コイル30a、30bの距離を所定寸法に設定した状態で、主に金属箔26a、26bが封止部19、21に封着される。これにより発光部17の内部に放電空間24が形成される。この電極構成体23a、23bが封止部19、21に封着された状態では、図3に示すように、電極部25a、25bが封止部19、21から放電空間24へ延出する。
【0034】
放電空間24には、発光物質である水銀31の他、始動補助ガス、ハロゲンサイクル用のハロゲン化物が封入されている。
【0035】
封止部19、21のうち一方、例えば封止部19における発光部17と反対側の端部には、口金32がセメント33を介して被着されており、外部リード線27aが口金32に接続されている。
【0036】
4.高圧水銀ランプの点灯方法
本実施の形態の高圧水銀ランプ11の点灯方法において、まず、始動点灯方法では、高圧水銀ランプ11に巻きつけられた誘導コイル34に高周波電力を供給し、高周波磁界を発生させる。発生した高周波磁界は、放電空間24内の電極コイル30a、30bと水銀31を電磁加熱する。放電空間24内の温度が所定値に達した後に、高圧の放電パルス電圧を高圧水銀ランプ11に印加して気体の絶縁破壊を引き起こす。
【0037】
次に、高圧水銀ランプ11の点灯制御方法について説明する。図4は、高圧水銀ランプの制御特性を示す図であり、高圧の放電パルス電圧を高圧水銀ランプ11に印加して絶縁破壊させた後に供給されるランプ電圧Vlaと、ランプ電力Wlaの関係を示す図である。図4に示すように、先ず0V〜任意設定電圧区間では定電流制御が実施され、任意設定電圧以上では定電力制御がそれぞれ実施される。
【0038】
5.点灯装置
図5は、上記構成の高圧水銀ランプを点灯させるための点灯装置を示すブロック図である。この点灯装置は、点灯制御部100と高周波電力供給部108からなる。
【0039】
点灯制御部100は、DC電源部101、DC/DCコンバータ102、DC/ACインバータ103、高圧発生部104、制御部105、電流検出部106、及び電圧検出部107を備える。
【0040】
DC電源部101は、家庭用の交流100Vにより直流電圧を生成し、DC/DCコンバータ102に供給する。DC/DCコンバータ102は、DC電源部101から供給された直流電圧を、後述の制御部105からの電力設定信号に従って所定電圧の直流電圧に変換し、DC/ACインバータ103に供給する。DC/ACインバータ103は、供給された直流電圧から所定の周波数の交流矩形電流を生成して高圧水銀ランプ11に印加する。
【0041】
高周波電力供給部108は、家庭用の交流100Vが入力された後に、高圧水銀ランプ11に備えられた誘導コイル34に高周波電力を供給する。誘導コイル34から発生する高周波磁界によって、高圧水銀ランプ11内の電極コイル30a、30bおよび水銀31が電磁加熱される。その後に、高圧発生部104より放電パルス電圧が高圧水銀ランプ11に印加され、高圧水銀ランプ11は始動点灯する。
【0042】
電流検出部106は、高圧水銀ランプ11に流れる電流に相当する電流を検出し、検出結果は制御部105に送られる。電圧検出部107は、高圧水銀ランプ11に印加される電圧に相当する電圧を検出し、検出結果は制御部105に送られる。
【0043】
制御部105は、図4に示す制御特性に従って高圧水銀ランプ11を点灯し、またその点灯を維持する。具体的には、図4の制御特性を示すテーブルを記憶しており、電流検出部106、電圧検出部107で検出された電流・電圧に基づき、テーブルに従って、高圧水銀ランプ11に供給する電力を調整する。
【0044】
6.比較試験
上記構成を有する本実施の形態の点灯方法、つまり、始動点灯前に誘導コイルに高周波電力を供給し、高圧水銀ランプを電磁加熱する点灯方法と、始動点灯前に何もせずに高圧水銀ランプを始動点灯させる従来の点灯方法を比較する試験の結果について説明する。比較試験は、本実施の形態の点灯方法により高圧水銀ランプを始動点灯させた場合と、従来の点灯方法により高圧水銀ランプを始動点灯させた場合について、始動点灯に必要な放電パルス電圧値の測定を行うことで行った。
【0045】
また、始動点灯後のランプ電圧の立上り特性を比較し、電極コイル30a、30bおよび水銀31を加熱することによる高圧水銀ランプの光出力の立上り時間短縮効果の確認を行った。
【0046】
(1)高圧水銀ランプの仕様
高圧水銀ランプ11の仕様としては、例えば、液晶プロジェクタに用いられるものを用いた。すなわち、定格ランプ電力が100W〜300Wタイプのもので、点光源に近づけるために、電極間距離は、0.5(mm)〜2.0(mm)の範囲に設定された、所謂「ショートアーク」タイプの高圧水銀ランプである。
【0047】
発光物質である水銀は、放電空間の内容積あたり0.15(mg/mm3)〜0.35(mg/mm3)の範囲で封入されている。始動補助用ガスには、例えば、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの希ガスが用いられ、当該希ガスは、ランプ冷却時における封入圧力が100(mbar)〜400(mbar)の範囲になるように封入されている。
【0048】
また、ハロゲン化物には、例えば、臭素、沃素などが用いられ、1×10-7(μmol/mm3)〜1×10-2(μmol/mm3)の範囲で封入されている。
【0049】
(2)始動点灯方法
本実施の形態の点灯方法では、始動点灯に必要な放電パルス電圧を印加する前に、誘導コイル34に高周波電力を供給した。誘導コイル34は磁界方向が放電空間に向くように高圧水銀ランプに巻きつけられている。誘導コイル34から発生した磁界は、放電空間24内の電極コイル30a、30bおよび水銀31に渦電流を発生させ、固有の抵抗成分によってジュール熱が発生し、電極コイル30a、30bおよび水銀31は電磁加熱され、放電空間24内の温度が上昇する。本来であれば、放電空間24内の温度を測定することが望ましいが、高圧水銀ランプの設計上、困難であるため、「放電空間の温度」として、放電容器の外表面温度を放射温度計にて測定した。放電容器の外表面温度が100℃以上に達したときに、放電パルス電圧を印加し、気体の絶縁破壊を引き起こした。
【0050】
(3)比較結果
始動点灯に必要な放電パルス電圧値の比較試験の試験結果を、図6に示す。図中の実線が、本実施の形態の点灯方法の結果を示し、図中の破線が従来の点灯方法の結果を示す。
【0051】
なお、本実施の形態の点灯方法では、1kVから500V刻みで放電パルス電圧を上昇させながら印加し、気体の絶縁破壊が発生した時点で試験を終了した。
【0052】
図6から判るように、従来の点灯方法では、絶縁破壊に必要な放電パルス電圧はおよそ10kVである。一方、本実施の形態の点灯方法では、絶縁破壊に必要な放電パルス電圧は5kV以下に抑えられている。
【0053】
図7は、始動点灯後のランプ電圧の立上り特性、すなわち光出力の立上り特性の比較試験の試験結果を示す。なお、図中の実線が本実施の形態の点灯方法での結果を示し、図中の破線が従来の点灯方法での結果を示す。図7から判るように、従来の点灯方法では、ランプ電圧が安定するまでに90秒要する。一方、本実施の形態の点灯方法では、ランプ電圧が安定するまでに60秒まで短縮することができる。
【0054】
加えて、点滅始動を繰り返したときの、飛散した電極材料の放電容器内壁への付着(黒化)を目視によって観察した。従来の点灯方法と比較して、本実施の形態の点灯方法では黒化が低減できていることが確認できた。
【0055】
このように、始動点灯前に誘導コイル34に高周波電力を供給する本実施の形態の点灯方法を用いると、始動点灯前に何もせずに高圧水銀ランプ11を始動点灯させる従来の点灯方法と比べて、絶縁破壊に必要な放電パルス電圧を5kV以下と大幅に低減できることが分かる。また、始動点灯前に電極コイル30a、30bおよび水銀31を加熱することによって、電極コイル30a、30bからの熱電子の放出が容易になり、また水銀31の蒸発も早まるため、高圧水銀ランプの光出力の立上り時間を短縮することができることが分かる。加えて、点灯前に電極コイル30a、30bを加熱することによって、始動時における電極材料の飛散をある程度抑制できることが分かる。
【0056】
7.従来技術との比較
上述のように、安定点灯状態の高圧水銀ランプを消灯してから一定時間が経過した後に放電パルス電圧を電極間に印加して高圧水銀ランプを数秒間だけ限時的に点灯させる技術では、如何なる使用状況によっても放電パルス電圧を低下できるとは言い難い。
【0057】
つまり、点灯装置の電源スイッチにより電源をオフすれば上記の制御は可能であるが、ユーザーの使用状況や停電等の不測の外的要因によっては、AC電源の入力が直接オフされる場合があり、必ずしも消灯後してから一定時間が経過した後に放電パルス電圧を印加できるとはか限らないからである。
【0058】
これに対し、本実施の形態の点灯方法では、始動点灯前に高圧水銀ランプの電極および水銀を加熱することによって放電パルス電圧を低下させているため、如何なる使用状況においても放電パルス電圧を低下させることが可能となる。
【0059】
また、本実施の形態の点灯方法は、外部からの熱源によって放電容器全体およびその一部を加熱するというものではなく、高圧水銀ランプ内の電極および水銀を直接電磁加熱することによって放電容器内の温度を上昇させるものであって、従来から存在するような保護膜の塗布や、導電性トリガの設置は、本発明の技術的範囲に属するものではない。
【0060】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2における高圧水銀ランプの点灯装置について、図8に示すランプユニットを参照して説明する。本実施の形態は、誘導コイル34aの取り付け位置を、実施の形態1とは異ならせた変形例である。
【0061】
実施の形態1では、誘導コイル34を高圧水銀ランプ11の封止部に巻きつけたが、本実施の形態では、誘導コイル34aは、非金属の反射鏡12の外側に取り付けられている。図8に示すように、誘導コイル34aは渦状の構造をしており、誘導コイル34aに印加される高周波電流は、誘導コイル34aから発生する高周波磁界が高圧水銀ランプへ向かうように流れる。
【0062】
本実施の形態により、実施の形態1と同等の、放電パルス電圧の低減と光出力立ち上がり特性の短縮化、および始動時の電極材料飛散の低減を達成できることが確認された。
【0063】
以上のことは、誘導コイルから発生する高周波磁界が高圧水銀ランプに向かうように設定されていれば、どの様な取り付け位置であっても同様の効果が得られることを示している。
【0064】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3における高圧水銀ランプの点灯方法について、図9に示す点灯装置のブロック図を参照して説明する。本実施の形態は、高周波電力供給部108の構成を、実施の形態1とは異ならせた変形例である。
【0065】
実施の形態1においては、高周波電力供給部108を点灯制御部100から独立させているが、図9に示すように、点灯制御部100に組み込んだ形態にしても良い。例えば制御部105によって高周波電力供給部108を制御し、誘導コイル34に印加する高周波電力の印加時間や電力量を調整する構成とすることができる。
【0066】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4における背面投射型の表示装置について、図10に示す斜視図を参照して説明する。実施の形態1では、本発明の点灯方法を適用した高圧水銀ランプを備える表示装置として、前面投射型表示装置について説明したが、本実施の形態は、背面投射型の表示装置に本発明の点灯方法を適用した例である。
【0067】
図10は、背面投射型の表示装置の全体斜視図である。背面投射型プロジェクタ110は、キャビネット111の前壁に画像等を表示するスクリーン112を備え、またキャビネット111の内部には、上記点灯装置を含む電源ユニットとランプユニット2を備える。
【0068】
以上の実施の形態のような変形例以外にも、実施の形態1からの種々の変形例により、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。例えば、放電空間温度の検知方法として、実施の形態1においては、放電容器の外表面温度を放射温度計にて測定する方法を説明したが、この方法に限るものではない、例えば、投入する高周波電力に対する到達温度と所要時間の関係を予め実験等によって求めておき、経過時間によって到達温度を検知しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、高圧水銀ランプの始動点灯に必要な放電パルス電圧の低減と、光出力の立ち上がり時間の短縮化および始動時の電極ダメージ低減を図ることができ、高圧水銀ランプを用いた各種の装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施の形態1における液晶プロジェクタの一部を切り欠いて示した斜視図である。
【図2】同液晶プロジェクタを構成するランプユニットの斜視図である。
【図3】同ランプユニットを、内部の高圧水銀ランプの様子が分かるように反射鏡12を切り欠いて示した平面図である。
【図4】高圧水銀ランプの制御特性を示す図である。
【図5】実施の形態1における高圧水銀ランプの点灯装置を示すブロック図である。
【図6】放電パルス電圧の比較試験の結果を示す図である。
【図7】ランプ電圧の立上り特性の比較試験の結果を示す図である。
【図8】実施の形態2におけるランプユニットを示す断面平面図である。
【図9】実施の形態3における高圧水銀ランプの点灯装置を示すブロック図である。
【図10】実施の形態4における背面投射型の表示装置の全体斜視図である。
【符号の説明】
【0071】
1 液晶プロジェクタ
2 ランプユニット
3 制御ユニット
4 電源ユニット
5 レンズユニット
6 ファン
7 筐体
8 基板
9 電子・電気部品
10 レンズ
11 高圧水銀ランプ
12 反射鏡
13 反射面
14 本体部材
15 開口
16 前面ガラス
17 発光部
18 部分
19、21 封止部
20 貫通孔
22 放電容器
23a、23b 電極構成体
24 放電空間
25a、25b 電極部
26a、26b 金属箔
27a、27b 外部リード線
28 貫通孔
29a、29b 電極軸
30a、30b 電極コイル
31 水銀
32 口金
33 セメント
34、34a 誘導コイル
100 点灯制御部
101 DC電源部
102 DC/DCコンバータ
103 DC/ACコンバータ
104 放電パルス電圧発生回路
105 制御部
106 電流検出部
107 電圧検出部
108 高周波電力供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に封止部が設けられた放電容器に一対の電極が対向配置された高圧水銀ランプを、前記電極間に放電パルス電圧を印加することによって始動点灯させる点灯方法であって、
誘導コイルをその高周波磁界が前記高圧水銀ランプに到達するように配置し、前記放電パルス電圧を印加する前に、前記誘導コイルに高周波電力を通電することによって、前記電極および前記放電容器中に封入された水銀の温度を所定値に上昇させることを特徴とする高圧水銀ランプの点灯方法。
【請求項2】
両端に封止部が設けられた放電容器に一対の電極が対向配置された高圧水銀ランプを、前記電極間に放電パルス電圧を印加することによって始動点灯し、ランプの点灯を維持させる点灯装置において、
前記放電パルス電圧を発生して前記電極間に印加し、点灯維持のための制御を行う点灯制御部と、
前記高圧水銀ランプに高周波磁界が到達するように配置された誘導コイルと、
前記誘導コイルに高周波電力を供給する高周波電力供給部とを備え、
前記点灯制御部から前記放電パルス電圧を印加する前に、前記高周波電力供給部から前記誘導コイルに高周波電力を通電することを特徴とする高圧水銀ランプの点灯装置。
【請求項3】
前記誘導コイルは、前記高周波電力を通電されることにより前記電極および前記放電容器中に封入された水銀の温度を上昇させるように配置された請求項2に記載の高圧水銀ランプの点灯装置。
【請求項4】
両端に封止部が設けられた放電容器に一対の電極が対向配置された高圧水銀ランプと、
前記高圧水銀ランプを始動点灯および点灯維持を行うための点灯装置とを備えたランプユニットであって、
前記点灯装置は、請求項2に記載の点灯装置であることを特徴とするランプユニット。
【請求項5】
両端に封止部が設けられた放電容器に一対の電極が対向配置された光源用の高圧水銀ランプと、
前記水銀ランプを点灯させるための請求項2に記載の点灯装置と、
前記高圧水銀ランプから照射される光を表示素子を介して出射させることにより表示を行う表示ユニットとを備えた投射型表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−27702(P2008−27702A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198199(P2006−198199)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】