説明

高導電性金属材料の抵抗溶接方法

【課題】銅部材又はアルミニウム部材など高導電材料からなる被溶接物を抵抗溶接でき、かつ簡単で安価に、また溶接品質の高い溶接結果を得ることができる。
【解決手段】第1の被溶接物W1の金属材料よりも融点が低い低融点金属材料からなる低融点金属膜Mを前記第1の被溶接物に形成する工程と、前記第2の被溶接物W2にプロジェクションPを形成する工程と、前記第2の被溶接物に形成されている前記プロジェクションを前記第1の被溶接物に形成されている前記低融点金属膜に当接させる工程と、互いに当接している前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物とを、弾性力を含む加圧力で加圧した状態でパルス状溶接電流を通電する工程とを備えることを特徴とする高導電金属材料の抵抗溶接方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な同種又は異種の金属材料からなる被溶接物、特に銅材料と銅材料など従来方法では抵抗溶接が極めて困難とされていた高導電材料同士を抵抗溶接するのに適した高導電性金属材料の抵抗溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
同種の金属材料同士や、鉄系材料とステンレス材料、あるいは鉄系材料と銅材料、又は鉄系材料とアルミニウム材料など、融点や導電率など特性の異なる異種金属材料を接合する方法が種々提案されているが、異種金属材料の接合は例えば鉄系材料からなる金属鋼板同士の接合では、硬ロウによる接合、あるいは超音波接合、又はかしめ、ボルト締めなど機械的な結合などによって、接合される場合が多かった。また、同種の金属材料同士の抵抗溶接でも、導電率が非常に良好な銅材料と銅材料同士、又はアルミニウム材料とアルミニウム材料同士、あるいは銅材料とアルミニウム部材との接合なども同様の手段で行われていたが、このような接合方法では、導電率が非常に良好な銅材料とアルミニウム材料を用いるという用途から見て、それらの界面抵抗を無視できるほどには小さくできない。したがって、異種金属の中でも、導電率が非常に良好な銅材料とアルミニウム材料との抵抗溶接は特に難しいとされている中、界面抵抗を小さくできる抵抗溶接を行う努力が既に行われており、下記のような処理工程を予め行うことによって銅材料とアルミニウム材料との抵抗溶接が可能とする改良技術も開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この方法は、銅材料とアルミニウム材料とを直接抵抗溶接することはできないので、抵抗溶接前に予め銅材料の接合表面をスズにより被覆し、更に処理を行ってその銅材料とスズとの界面に銅とスズとの固溶を生成させたスズ被覆層を形成した後に、そのスズ被覆層とアルミニウム材料とを接触させ、その固溶生成させたスズ被覆層を銅材料とアルミニウム材料との間に介在させた状態で加圧し、溶接電流を流して抵抗溶接を行うものである。この溶接方法を実現するのは、コンデンサ蓄勢式溶接機ではなくインバータ式溶接機を用いて、高周波の溶接電流を銅材料とアルミニウム材料とに流し、銅材料とアルミニウム材料との接合部を溶融させて互いの溶融した銅とアルミニウムとを混じり合わせたナゲットを形成して溶接を行うものである。また、異種金属の抵抗溶接に当たっては、予め異種金属の接合部を最適な特殊形状に加工することによって良好な溶接結果が得られる抵抗溶接方法、及び抵抗溶接装置が報告されている(例えば、特許文献2〜5参照)。また、拡散接合時にアルミニウム又はマグネシウムなどの接合面の酸化膜や汚れを除去する酸洗いなどの前処理を不要にするために、被溶接物双方にプロジェクションを形成し、それらプロジェクションの頂部同士を当接させて溶接する方法も開示されている(例えば、特許文献6参照)。
【特許文献1】特開2001−087866公報
【特許文献2】特開平08−118040号公報
【特許文献3】特開平10−128550号公報
【特許文献4】特開平10−156548号公報
【特許文献5】特開平11−033737号公報
【特許文献6】特開2002−103056公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前掲特許文献1で開示された抵抗溶接方法にあっては、銅材料の接合表面にスズを形成し、銅材料とアルミニウム材料との接合部にナゲットを形成する溶接方法であるので、銅材料とアルミニウム材料との接合部にスズ層が形成されるために、接合部での抵抗が大きくなるという欠点がある。また、相互の金属が溶融することによって形成されるナゲットの熱によって接合部の周囲のスズ層がチリとなって飛散し、その飛散量が多くなるだけでなく、接合部周囲の銅材料とアルミニウム材料とを変色させたり、歪みを生ずるという問題点がある。また、前掲の特許文献2〜5に記載されている接合部の構造は特定の構造の異種金属材料からなる被溶接物に適しているが、特に銅材料と銅材料、又はアルミニウム材料とアルミニウム材料、あるいは銅材料とアルミニウム材料との抵抗溶接にはそのまま適用することは難しく、前掲特許文献に開示されている抵抗溶接装置をもってしても良好な溶接結果が得られない。また、前掲の特許文献6に記載されているように、銅材料とアルミニウム材料との双方にプロジェクションを設けて互いに突合せて溶接しても、アルミニウム材料に比べて銅材料の溶融又は軟化が遅いために満足の行く溶接結果は得られず、実際の製造ラインに特許文献6に記載されている抵抗溶接方法を用いることは今のところ難しい場合が多い。
【0005】
したがって、本発明は前述の問題点を解決し、主として導電率が非常に高い被溶接物同士の抵抗溶接を行うことができ、かつ簡単で安価に、また溶接品質の高い溶接結果が得られる抵抗溶接方法を提供することを主目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、第1の被溶接物と第2の被溶接物との間に電流を流して前記被溶接物同士を拡散接合する高導電性金属材料の抵抗溶接方法において、前記第1の被溶接物の金属材料よりも融点が低い低融点金属材料からなる低融点金属膜を前記第1の被溶接物に形成する工程と、前記第2の被溶接物にプロジェクションを形成する工程と、前記第2の被溶接物に形成されている前記プロジェクションを前記第1の被溶接物に形成されている前記低融点金属膜に当接させる工程と、互いに当接している前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物とを、弾性力を含む加圧力で加圧した状態でパルス状溶接電流を通電する工程とを備えることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法を提供する。
【0007】
第2の発明は、前記第1の発明において、前記第2の被溶接物に形成されている前記プロジェクションが、前記第1の被溶接物の金属材料よりも融点の低い金属材料からなる低融点金属膜で被覆する工程を備えることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法を提供する。
【0008】
第3の発明は、第1の被溶接物と第2の被溶接物との間に電流を流して前記被溶接物同士を拡散接合する高導電性金属材料の抵抗溶接方法において、前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物とにそれぞれプロジェクションを形成する工程と、前記第1の被溶接物に形成されている前記プロジェクションを、前記第2の被溶接物の金属材料よりも融点の低い金属材料からなる低融点金属膜で被覆する工程と、前記第1の被溶接物に形成されている前記プロジェクションと前記第2の被溶接物に形成されている前記プロジェクションとを前記低融点金属膜を介して当接させる工程と、互いに当接している前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物とを、弾性力を含む加圧力で加圧した状態でパルス状溶接電流を通電する工程とを備えることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法を提供するものである。
【0009】
第4の発明は、前記第3の発明において、前記第2の被溶接物に形成されている前記プロジェクションを、前記第1の被溶接物の金属材料よりも融点の低い金属材料からなる低融点金属膜で被覆する工程を備えることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法を提供する。
【0010】
第5の発明は、前記第1の発明ないし前記第4の発明のいずれかにおいて、前記第1の被溶接物及び前記第2の被溶接物は、銅又は銅合金、あるいはアルミニウム又はアルミニウム合金であることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法を提供する。
【0011】
第6の発明は、前記第1の発明ないし前記第5の発明のいずれかにおいて、前記低融点金属膜は、メッキ工程によって形成されることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法を提供するものである。
【0012】
第7の発明は、前記第1の発明ないし前記第6の発明のいずれかにおいて、前記低融点金属膜は、1μmから12μmの範囲の厚みを有することを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法を提供するものである。
【0013】
第8の発明は、前記第1の発明ないし前記第7の発明のいずれかにおいて、前記プロジェクションは環状のものであり、この環状のプロジェクションの頂部の幅は0.8mm以下であることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法を提供するものである。
【0014】
第9の発明は、前記第1の発明ないし前記第7の発明のいずれかにおいて、前記プロジェクションは点状のものであり、この点状のプロジェクションの頂部の直径は0.8mm以下であることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法を提供するものである。
【0015】
第10の発明は、前記第1の発明ないし前記第9の発明のいずれかにおいて、前記パルス状溶接電流は、電流がピーク値までに立ち上がるのに要する時間が10ms以下であることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
前記第1の発明ないし前記第6の発明は、銅材料同士又はアルミニウム材料同士のような高導電金属材料を抵抗溶接できる基本的な技術を提供しており、各種の条件を選定することによって高導電金属材料同士の抵抗溶接を行うことができる。
【0017】
また、前記第7の発明によれば、前記第1の発明ないし前記第6の発明で得られる効果の他に、第1の被溶接物と第2の被溶接物との拡散接合部に低融点金属膜と同じ金属材料の薄い層が形成されないので良好な溶接品質が得られると同時に、低融点金属膜のチリの飛散が少ない。
【0018】
また、前記第8の発明及び前記第9の発明によれば、前記第1の発明ないし前記第8の発明で得られる効果の他に、第1の被溶接物と第2の被溶接物との拡散接合部に低融点金属膜と同じ金属材料の薄い層が形成されないので、拡散接合部の抵抗値が増大せず、良好な溶接品質が得られると共に、第1の被溶接物と第2の被溶接物とが熱によって変形することなく所期の溶接結果を得ることができる。
【0019】
また、前記第10の発明によれば、前記第1の発明ないし前記第9の発明で得られる効果の他に、第1の被溶接物と第2の被溶接物との双方又は一方に形成されるプロジェクションとその当接部だけを塑性流動させて接合する拡散接合が可能になるので、前記第9の発明又は前記第10の発明で得られる効果を確実に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[実施形態1]
図1及び図2によって本発明に係る抵抗溶接の実施形態1について説明する。図1は実施形態1に係る抵抗溶接方法を実現するのに用いられる被溶接物の一例を説明するための図、図2は実施形態1に係る抵抗溶接方法を実現するのに適したコンデンサ蓄勢式抵抗溶接装置の一例を示す図である。先ず、本発明が適用できる範囲は一般的な様々な同種の金属材料同士、あるいは様々な異種の金属材料からなる被溶接物などの抵抗溶接であるが、実施形態1では特に抵抗溶接が難しいとされている銅又は銅合金同士の抵抗溶接(拡散接合)を例として以下に説明する。したがって、本明細書において「銅材料」とは「銅又は銅合金」を意味する。
【0021】
銅材料は、一般に鋼板やステンレス材料に比べて導電率が高く、表面に酸化膜などが形成され易い。金属材料の抵抗溶接(本発明では拡散接合と同意義である。)は、溶接電流が流れるときに金属材料の有する抵抗が生じる発熱によって双方の金属材料の当接面で塑性流動が起こり、拡散接合が行われる。しかしながら、銅材料の抵抗は極めて小さいためにその抵抗により発熱する発熱量が不足し、満足の行く拡散接合は難しいというのが一つ目の大きな理由である。また、銅材料は比較的酸化しやすく、仮にその酸化膜が薄くても溶接電流が流れ難く、爆飛などが起こるので満足の行く拡散接合が難しいというのが二つ目の理由である。実験では拡散接合が可能であっても、被溶接物の接合部の形状や表面状態、溶接電流の条件、溶接装置の諸々の特性など種々の制約が厳しいために実際の製造ラインに適用することは極めて困難であった。本発明では実際の製造ラインに容易に適用することができる抵抗溶接方法を提供する。この発明は、基本的には従来の技術思想などの範囲を制約して組み合わせることによって、銅材料など高導電性金属材料同士の抵抗溶接を実際の製造ラインに容易に適用できるようにしたところに特徴がある。
【0022】
図1(A)、(B)において、第1の被溶接物W1は銅板からなり、第2の被溶接物W2は銅パイプからなる。第1の被溶接物W1の片面には低融点金属膜Mが形成されている。この低融点金属膜Mは、主として銅板の表面が酸化されて接合面域が酸化銅膜で覆われるのを防ぐ働きを行うものであり、銅材料の融点よりも低く、比較的安価な金属材料で銅材料に形成し易い、特にメッキ工程で形成し易いスズ(Sn)、あるいは亜鉛(Zn)、又はリフローによって銅板の面にほぼ一様に形成できるハンダ材料などが好ましい。実施形態1における低融点金属膜Mはスズ材料からなるものとする。スズメッキによって第1の被溶接物W1に低融点金属膜Mを形成するので、ある厚み以上の低融点金属膜Mに覆われている第1の被溶接物W1の面は清浄なままに維持される。
【0023】
低融点金属膜Mを形成するとき、第1の被溶接物W1の他方の面には低融点金属膜Mが形成されていない方が、溶接時に溶接電極に低融点金属膜Mが付着せず、汚れないという面から好ましい。しかし、第1の被溶接物W1の両面に低融点金属膜Mが形成されていてもかまわない。低融点金属膜Mの厚みは1μmから12μmの範囲にあることが好ましい。低融点金属膜Mが1μmよりも薄い膜厚の場合には、低融点金属膜Mの膜厚の不均一性や、第1の被溶接物W1の搬送過程などで低融点金属膜Mが損傷することによって酸化膜が形成される場合があり、この場合には銅部材と銅部材との抵抗溶接は不完全なものになり、満足できる溶接結果が得られない。また、低融点金属膜Mが12μmよりも厚い膜厚の場合には、抵抗溶接部位の切断面を顕微鏡で観察すると、第1の被溶接物W1である銅板と第2の被溶接物W2である銅パイプとの接合面に低融点金属膜Mと同じ金属材料の薄い層が形成されたり、低融点金属膜Mの金属材料が混入された薄層が形成されることがあり、接合面での抵抗値の増加や接合面の脆弱化といった影響が生じるので、低融点金属膜Mの膜厚は12μm以下であるのが好ましい。
【0024】
図1(B)に第2の被溶接物W2である銅パイプの断面を示す。その銅パイプの先端部分は先細りの環状先端部Aになっており、後述するが、その先細りの環状先端部Aは環状のプロジェクションPとして作用する。実施形態1では、第2の被溶接物W2が円筒状の銅パイプであるので、先細りの環状先端部Aは円環状である。したがって、環状のプロジェクションPも円環状である。この環状のプロジェクションPの形成方法は、パイプを抵抗溶接するときに形成する一般的なプロジェクションの形成方法と同じであるので詳しく説明しないが、第2の被溶接物W2である銅パイプの円環状端部の外側、あるいは外側と内側をある傾斜面になるように研磨することによって形成される。実施形態1では銅パイプの先端部分の外側と内側を研磨して先細りの環状先端部A、つまり環状のプロジェクションPが形成されている。プロジェクションPは円環状の頂部P1と外側の傾斜部P2と内側の傾斜部P3とからなる。環状のプロジェクションPの高さは特に限定されないが、つまり頂部P1の高さは特に限定されないが、環状の先細りの環状先端部Aの造り易さや強度などの面から0.3〜0.8mm程度が好ましい。また、外側の傾斜部P2と内側の傾斜部P3とがなす角度は任意でよいが、例えば60〜120度である。ここで環状のプロジェクションPの大切な要件は、図1(B)に示す円環状の頂部P1の幅Dが0.8mm以下でなければならないということである。後述からも分かるように、円環状の頂部P1の幅Dが0.8mmを超えると、溶接強度が低下するなど溶接品質が低下することが確認されている。この原因は円環状の頂部P1の幅Dが0.8mmを超えると、第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との接合面に低融点金属膜Mの金属材料の層が形成され易くなるからである。なお、円環状の頂部P1はその断面が任意の円弧状であっても勿論よい。
【0025】
次に、このような環状のプロジェクションPが形成された銅部材である第2の被溶接物W2と低融点金属膜Mが形成された銅部材である第1の被溶接物W1との抵抗溶接(拡散接合)を実現可能にするコンデンサ蓄勢式の抵抗溶接装置の一例を図2によって簡潔に説明する。この抵抗溶接装置は前掲の特許文献4に記載されたものとほぼ同じである。この抵抗溶接装置が設置される床又はベース部材1に支持機構2が固定されている。支持機構2にはシリンダ装置などからなる加圧機構3が取り付けられ、加圧機構3の先端部には金属材料からなる可動ブロック4が取り付けられている。スプリング又は電磁加圧装置のような加圧補助部材5が可動ブロック4と支持部材6との間に備えられ、溶接電極の加圧応答を向上させる補助的な役割を行っている。銅部材と銅部材との抵抗溶接ではこの加圧補助部材5の働きは大きい。ここで、支持部材6は直接又は間接的に加圧補助部材5の下端部に結合され、給電部としても作用する銅のような金属材料からなる。上部溶接電極7は持部材6に支承されており、上部溶接電極7と向かい合った位置には下部溶接電極8が配置されている。上部溶接電極7については図4で説明するが、銅パイプである第2の被溶接物W2を両側からチャック、つまり把持できるように2分割されている。加圧補助部材5の伸縮の影響を受けない高さの部位に位置する可動ブロック4にはL字形の中間接続部材9が固定されている。支持部材6とL字形中間接続部材9との間を接続する撓み易い第1のフレキシブル導電部材10が備えられ、L字形の中間接続部材9と一方の給電導体12との間は導体11によって接続されている。導体11は、第1のフレキシブル導電部材10に比べて長い第2のフレキシブル導電部材である。上部溶接電極7と下部溶接電極8とは、例えば銅合金からなる。
【0026】
給電導体12と、下部溶接電極8に接続された他方の給電導体13との間に溶接トランス14の2次巻線N2が接続され、これに磁気的に結合された1次巻線N1にはインバータ回路又は半導体スイッチ回路のような放電回路15が接続される。放電回路15にはエネルギー蓄積用コンデンサ16とそのコンデンサを充電する充電回路17とが接続されている。抵抗溶接にあっては、溶接に寄与する溶接電流のほとんどは立ち上がりからピーク値近傍までの電流であるので、ここでは図3に示すように、パルス状の溶接電流のパルス幅をゼロからピーク値に立ち上がるまでの時間Tであるものとし、銅材料と銅材料との抵抗溶接では時間Tが10ms程度以下であることが好ましい。このようなパルス幅の狭い急峻なパルス状電流が銅材料と銅材料との間に流れることができるように、放電回路15、溶接トランス14及び給電導体12、13など、エネルギー蓄積用コンデンサ16の放電電流が流れる通電路はインダクタンスを最小にする回路構成になっている。そのために、例えば給電導体12、13などは最短になっており、また、配線となる導電体はそのインダクタンスを相殺するように配置されている。そして、この構造では上部溶接電極7は僅かな外力で上下方向に上下動できる支持部材6に支えられていると同時に、即応性の高い弾性力を与えることができる加圧補助部材5に結合されているので、第2の被溶接物W2の環状のプロジェクションPとこれに当接する面域の第1の被溶接物W1との塑性流動による上部溶接電極7と第1の被溶接物W1との間の微妙な加圧力の変化に対して、上部溶接電極7が即応することができる。なお、記号18〜20は3相交流入力端子を示す。
【0027】
次に、抵抗溶接回路の概略を示す図4も用いて実施形態1に係る抵抗溶接について説明する。先ず、低融点金属膜Mを上にして第1の被溶接物W1を下部溶接電極8上に載置する。上部溶接電極7はパイプなどの溶接に従来から用いられている分割形の電極であり、2個の分割型電極7Aと7Bとが図面左右方向に動いて拡径又は縮径を自在に行って、パイプをチャック(把持)又はその開放を自在に行える構造のものである。上部溶接電極7は3分割又は4分割、あるいはそれ以上に分割されている分割型電極であっても勿論よい。上部溶接電極7は、分割型電極7Aと7Bとが拡径した状態で銅パイプである第2の被溶接物W2を受け入れ、分割型電極7Aと7Bを縮径させて第2の被溶接物W2を把持する。ここで、溶接時における第2の被溶接物W2の変形防止の面から、図4において第2の被溶接物W2の先細りの環状先端部Aである環状のプロジェクションPとその上の数mm程度が上部溶接電極7から突出するように、上部溶接電極7が第2の被溶接物W2を把持するのが好ましい。
【0028】
次に、上部溶接電極7を降下、又は下部溶接電極8を上昇させて第2の被溶接物W2の環状のプロジェクションPを第1の被溶接物W1に形成されている低融点金属膜Mに当接させる。次に、図2における加圧機構3が動作して下方向に動作し、これに伴い、可動ブロック4、加圧補助部材5、支持部材6及び上部溶接電極7からなる上部溶接ヘッド全体が下降し、上部溶接電極7が第1の被溶接物W1に所定の加圧力を加える。この所定の加圧力を加えている途中、あるいは加圧力がほぼ一定になった段階で、放電回路15がオンして、充電回路17により既にエネルギー蓄積用コンデンサ16に充電されている電荷を、溶接トランス14の1次巻線N1に放出する。これに伴い、1次巻線N1に比べて巻数が大幅に少ない1ターン又2ターン程度の2次巻線N2に大きな電流が発生し、上部溶接電極7と下部溶接電極8とその間に挟まれている第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2とを介してパルス状の溶接電流が流れる。このパルス状の溶接電流は前述したようにほぼ10ms以下の時間で急激にピーク値まで増大し、短時間で急激に低下する単一の電流パルスである。
【0029】
このようなパルス状の溶接電流が低融点金属膜Mを通して銅パイプである第2の被溶接物W2の環状のプロジェクションPに集中して短時間流れる。第2の被溶接物W2の環状のプロジェクションPと第1の被溶接物W1の低融点金属膜Mとの接触抵抗は、第2の被溶接物W2の環状のプロジェクションPと第1の被溶接物W1とが直接当接する場合の接触抵抗よりも大きくなり、かつ例えばスズは銅に比べて融点が四分の一以下と小さいので、低融点金属膜Mは銅に比べて非常に溶融し易い。銅の融点はほぼ1085℃であり、スズ(Sn)の融点はほぼ232℃である。したがって、パルス状の溶接電流が流れるとき、第2の被溶接物W2の環状のプロジェクションPと第1の被溶接物W1の低融点金属膜Mとの接触抵抗により生じる熱によって、パルス状の溶接電流が増大する過程で先ず低融点金属膜Mが溶融する。そして、第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との間にかけられている加圧力によって、第2の被溶接物W2における環状のプロジェクションPの環状の頂部P1(図1)に当接している溶融した低融点金属膜Mは排除され、第2の被溶接物W2における環状のプロジェクションPの頂部P1が第1の被溶接物W1の地肌、つまり銅材料に当接する。したがって、第1の被溶接物W1の地肌は清浄であるので、接触面積の小さな第2の被溶接物W2における環状のプロジェクションPの環状の頂部P1と第1の被溶接物W1の地肌との接触面を通して電流密度の大きな電流が流れ、低融点金属膜Mの溶融時の発熱も加わって、パルス状の溶接電流のピーク値近傍で第2の被溶接物W2における環状のプロジェクションPが塑性流動を起こすと共に、環状のプロジェクションPの環状の頂部P1に当接している第1の被溶接物W1の面域が塑性流動を起こし、良好な抵抗溶接(拡散接合)が行われる。
【0030】
第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との抵抗溶接で、良好な溶接結果が得られるのは前述したように、前記条件の低融点金属膜M及び前記条件の頂部P1を有する環状のプロジェクションPに拠るところが大きいが、図2で述べた抵抗溶接装置の特性に負うところも大きい。したがって、図2に示した抵抗溶接装置の動作について更に詳しく説明する。先ず、加圧機構3が動作して下方向に動作すると、これに伴い、可動ブロック4、加圧補助部材5、支持部材6及び上部溶接電極7からなる上部溶接ヘッド全体が下降する。一方、図2には示さないが、図4を用いて前述したように、第1の被溶接物W1が下部溶接用電極8上にセットされ、そして、上部溶接電極7にクランプされた第2の被溶接物W2が低融点金属膜Mを介して第1の被溶接物W1に当接される。上部溶接電極7と支持部材6とはその位置で停止するが、加圧機構3がさらに下降するのに伴い、加圧補助部材5が収縮され、金属ブロック4は加圧機構3と一緒に下降する。
【0031】
また、可動ブロック4が下降するのに伴い、第2のフレキシブル導電部材11は大きく撓み、第1のフレキシブル導電部材10は可動ブロック4と支持部材6と一緒に動くので最初の状態で下降するが、前述のように支持部材6が停止し、可動ブロック4が加圧補助部材5を収縮させながら下降するとき、最初の状態から少し変形する。しかし、前述のように第1のフレキシブル導電部材10は第2のフレキシブル導電部材11に比べて撓み易く作られているから、支持部材6と上部溶接電極7との動きに対する悪影響が軽減される。したがって、上部溶接電極7の即応性が改善される。
【0032】
加圧機構3が加圧している状態では、上部溶接電極7などが停止した後に金属ブロック4と支持部材6との間の空隙は小さくなり、加圧補助部材5は下向きの機械的エネルギーを蓄え、またそれらはあるレベル以上の上向きの力を吸収する作用を行う。このように、加圧機構3が動作して下降運動を行っている過程で加圧補助部材5が収縮し、そして上部溶接電極7と下部溶接電極8間の圧力が予め決められたレベルに達すると、溶接トランス14及び給電導体12、13から上部溶接電極7と下部溶接電極8に短いパルス幅のパルス状溶接電流が供給される。加圧力が第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2とにかけられる過程において、その加圧力によって第2の被溶接物W2における環状のプロジェクションPの環状の頂部P1の酸化膜が破れ、低融点金属膜Mと環状のプロジェクションPの頂部P1との間の導電性が確保され、そして所定の加圧力で加圧された状態において、電流がピーク値までに立ち上がるのに要する時間Tが10ms程度以下の狭いパルス幅のパルス状溶接電流が流れることにより、前述したように第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2の環状のプロジェクションPとの接触部分における低融点金属膜Mが先ず溶融する。
【0033】
次に第2の被溶接物W2の環状のプロジェクションPの塑性流動化、さらにはプロジェクションPに当接している第1の被溶接物W1の部分の塑性流動化が行われる。第2の被溶接物W2の環状のプロジェクションPの塑性流動化に伴いプロジェクションPが潰れ、第1の被溶接物W1の表面に沿って広がり、このとき一緒に溶融した低融点金属膜Mは排除されるので、塑性流動化したプロジェクションPは第1の被溶接物W1の塑性流動化した地肌に強く押し付けられ、抵抗溶接が行われる。この溶接断面を観察すると、第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との接合面にはナゲットは形成されておらず、この抵抗溶接は拡散接合であることを確認している。前記接合面には低融点金属膜Mを形成する低融点金属材料の層はほとんど形成されておらず、形成されていても拡散接合面の一部分に残留するだけであるので、所望の溶接強度が得られている。
【0034】
説明が少し戻るが、第2の被溶接物W2の先細りの環状先端部Aである環状のプロジェクションPの塑性流動化、さらにはプロジェクションPに当接している第1の被溶接物W1の部分の塑性流動化が始まるに伴って、図2に示した加圧補助部材5がスプリングのような弾性部材であるときに、溶接初期の接合部分の膨張を弾性部材が瞬時に吸収すると共に、常時、弾性部材が接合部分に加圧力を与えているので、第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との塑性流動による沈みに対しても極めて応答の速い加圧を与えることができる。この加圧補助部材5の応答速度が速ければ速いほど、パルス幅の短いパルス溶接電流を、つまり短時間に電流エネルギーを集中して第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との間に流すことができ、銅材料のような熱伝導の極めて良好なものでも、好ましい状態に塑性流動させることができるので、銅部材同士でも満足の行く抵抗接合ができる。加圧補助部材5の応答速度を従来よりも低下させないように働く一方の手段が、撓み易い第1のフレキシブル部材10であり、他方の手段が加圧補助部材5である。そして、加圧補助部材5の応答速度はパルス状の溶接電流のパルス幅よりも速いのが好ましい。このように、溶接電極の応答速度が速く、かつパルス状の溶接電流の幅が電流がピーク値までに立ち上がるのに要する時間Tが10ms程度以下と狭く、更に詳述したような環状のプロジェクションPを一方の銅部材に形成し、他方の銅部材に融点の低い金属材料からなる低融点金属膜を形成しているので、銅部材同士をより安定に、かつ良好に抵抗溶接することができる。
【0035】
前述したような抵抗溶接装置の応答の速い加圧を与えることができるという特性は、銅部材同士の抵抗溶接にとって大切であるのは、このような応答特性を持たない抵抗溶接装置では満足できる抵抗溶接を行えなかったという溶接実験結果から明らかである。しかし、このような高速応答特性を有する抵抗溶接装置をもってしても、銅部材同士の抵抗溶接にあっては、前述したように低融点金属膜Mが1〜12μmの範囲の厚みであり、かつスズ、亜鉛、ハンダなどであることが好ましいという条件、環状のプロジェクションPの断面が台形状、円弧状又は3角形状などであっても、その頂部P1の幅Dが0.8mm以下でなければならないという条件、及び溶接電流のパルス幅、つまりピーク値まで立ち上がるに要する時間Tが10ms以下であるという条件が全てが揃わないと、満足の行く溶接結果が得られなかった。そして、更に溶接強度が要求される場合には、前記条件を守りながら環状のプロジェクションPの頂部P1の直径を大きくしたり、環状のプロジェクションPの個数を増やせばよい。なお、この実施形態1では、第1の被溶接物W1にプロジェクションを形成していないので、溶接面が第2の被溶接物W2における環状のプロジェクションPの頂部P1に密接し得る面を有するものであれば、第1の被溶接物W1は銅板に限ることはなく、任意の形状のものでよい。
【0036】
実施形態1の変形例1として、図5に示すような直径が等しい銅パイプと銅パイプとの突合せ溶接も実施形態1と同じ抵抗溶接方法で同様にできる。銅パイプである第1の被溶接物W1、第2の被溶接物W2の環状先端部A1、A2は図1(B)に示したような環状先端部Aに類似した構造になっており、銅パイプの先端部の外周部を研磨することによって環状のプロジェクションPとなっている。この例でも第1の被溶接物W1、第2の被溶接物W2の環状先端部A1、A2の頂部の幅Dは0.8mm以下となっている。第1の被溶接物W1は、先細りの環状先端部A1が前述の低融点金属膜Mと等しい低融点金属膜M1で覆われている。同様に、第2の被溶接物W2は、先細りの環状先端部A2が低融点金属膜M1と等しい低融点金属膜M2で覆われている。双方の溶接電極が第1の被溶接物W1、第2の被溶接物W2を把持するときに低融点金属膜M1、M2に接触しないように、それらの先端部分のみに低融点金属膜M1、M2が形成されているのが好ましい。銅パイプ同士を突合せて抵抗溶接する場合には、図2及び図4に示した下部溶接電極8としては図4で説明した上部溶接電極7と同様な分割型の構造のものが用いられる。銅パイプ同士の突合せ溶接も実施形態1の抵抗溶接とほぼ同じに行うので詳しく説明しないが、分割型の上部溶接電極、下部溶接電極でそれぞれ第1の被溶接物W1、第2の被溶接物W2を把持し、低融点金属膜M1とM2とを介して第1の被溶接物W1の先細りの環状先端部A1と第2の被溶接物W2の先細りの環状先端部A2とを突合せる。なお、低融点金属膜M1、M2はいずれか一方だけが形成されていても勿論よい。
【0037】
第1の被溶接物W1の先細りの環状先端部A1と第2の被溶接物W2の先細りの環状先端部A2とを突合せた状態で、ピーク値まで立ち上がるに要する時間Tが10ms以下の溶接電流を流すと、そのパルス状の溶接電流は先細りの環状先端部A1と先細りの環状先端部A2とに集中して低融点金属膜M1、M2を介して流れる。通電するパルス状の溶接電流によって先ず低融点金属膜M1、M2が溶融し、続いて先細りの環状先端部A1と先細りの環状先端部A2とが塑性流動化する。このとき、前述と同様に第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2とに加えられている加圧力によって溶融した低融点金属膜M1、M2が先細りの環状先端部A1と先細りの環状先端部A2との間から排除され、先細りの環状先端部A1と先細りの環状先端部A2との地肌の銅材料同士が当接し、抵抗溶接(拡散接合)が行われる。この変形例でも、環状のプロジェクションPとなる先細りの環状先端部A1と先細りの環状先端部A2とが0.3〜0.8mm程度の高さで、かつ前記溶接電流の大きさを選定することによって、先細りの環状先端部A1と先細りの環状先端部A2とが塑性流動化して先細りの環状先端部A1と先細りの環状先端部A2とで良好な抵抗溶接を行うことができ、先細りの環状先端部A1とA2との間には低融点金属膜M1、M2の金属材料による層はほとんど形成されず、残留しても僅かである。
【0038】
次に、実施形態1の変形例2として、図6に示すように銅板である第1の被溶接物W1と銅の丸棒又は角棒である第2の被溶接物W2との抵抗溶接も前述と同じ抵抗溶接方法で同様にできる。銅板である第1の被溶接物W1には環状のプロジェクションPが形成されている。この環状のプロジェクションPは円環状であり、図1(B)に示したような環状先端部Aに類似した構造になっており、円環状の頂部P1を有する。頂部P1の幅は前述と同様に0.8mm以下である。銅板に形成された環状のプロジェクションPの作用などについては実施例2で説明する。この環状のプロジェクションPの形成方法は一般的なプロジェクションの形成方法と同じであるので詳しく説明しないが、第1の被溶接物W1の溶接箇所を機械的に絞り込んで環状のプロジェクションPを形成するものである。この変形例2では、環状のプロジェクションPが形成された部分は金属メッキなどによって前述した金属材料と同様の低融点金属膜M1で覆われている。また、銅の丸棒又は角棒である第2の被溶接物W2の下端面はほぼ平坦であり、先端部分はメッキなどにより形成された低融点金属膜M2で覆われている。低融点金属膜M2は低融点金属膜M1と同じ金属材料からなるのが好ましい。低融点金属膜M1、M2は1〜12μmの範囲の厚みである。この変形例2は実施形態1と同様に図2に示した抵抗溶接装置を用いて抵抗溶接できるので、溶接方法については説明を省略する。なお、第2の被溶接物W2は溶接箇所以外が中空のパイプ形状のものでもよく、また、低融点金属膜M1、M2はいずれか一方だけが形成されていてもよい。
【0039】
[実施形態2]
この実施形態2は、図7に示すように双方とも銅板からなる第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との抵抗溶接方法である。この実施形態2では、図7(A)に示すように、第2の被溶接物W2の片面には低融点金属膜Mが形成されている。この低融点金属膜Mは、銅材料の表面が酸化されて接合面域が酸化銅膜で覆われるのを防ぐ働きを行うものであり、銅材料の融点よりも低く、メッキ工程で形成し易いスズ(Sn)、あるいは亜鉛(Zn)が好ましい。実施形態2における低融点金属膜Mはスズ材料又は亜鉛材料からなるものとする。このとき、第2の被溶接物W2の他方の面には低融点金属膜Mが形成されていない方が、溶接時に溶接電極にスズ膜が付着せず、汚れないという面から好ましい。しかし、低融点金属膜Mが第2の被溶接物W2の両面に形成されていても、溶接品質に悪影響を与えることはない。実施形態1と同様に、低融点金属膜Mの厚みは1μmから12μmの範囲にあることが好ましい。低融点金属膜Mが1μmよりも薄い膜厚の場合には、低融点金属膜Mの膜厚の不均一性や、第2の被溶接物W2の搬送過程などで低融点金属膜Mが損傷することによって酸化膜が形成される場合があり、この場合には銅部材と銅部材との抵抗溶接は不完全なものになり、満足できる溶接結果が得られない。また、低融点金属膜Mが12μmよりも厚い膜厚の場合には、抵抗溶接部位の断面を顕微鏡で観察すると、第1の被溶接物W1である銅部材と第2の被溶接物W2である銅部材との接合面にスズ材料の薄い層が形成されたり、低融点金属膜Mの金属材料が混入された薄層が形成されることがあり、接合面での抵抗値の増加や接合面の脆弱化といった影響が生じるから低融点金属膜Mが12μm以下の膜厚であるのが好ましい。
【0040】
図7(B)に示すように、実施形態2では銅板である第1の被溶接物W1に環状のプロジェクションPを形成しており、抵抗溶接はその銅板の広さに関係なくプロジェクションPの頂部P1の大きさに従って溶接される。その銅板の一部分に形成された環状のプロジェクションPは円環状であり、円環状の頂部P1と外側の傾斜部P2と内側の傾斜部P3とからなる。なお、頂部P1は円弧状になっていてもよい。この環状のプロジェクションPの形成方法は第1の被溶接物W1の溶接箇所を機械的に絞り込んで形成するものである。環状のプロジェクションPの高さ、つまり頂部P1の高さは特に限定されないが、環状のプロジェクションPの造り易さなどの面から0.3〜0.8mm程度が好ましい。ここで環状のプロジェクションPの大切な要件は、図7(B)に示す円環状の頂部P1の幅Dが0.8mm以下でなければならないということである。後述する実施例からも分かるように、円環状の頂部P1の幅Dが0.8mmを超えると、溶接品質が低下することが確認されている。この原因は、後述するが、円環状の頂部P1の幅Dが0.8mmを超えると、第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との接合面に低融点金属膜Mの金属材料からなる層が形成される場合がある。
【0041】
実施形態2では、プロジェクションとして環状のプロジェクションPを用いているので、第1の被溶接物W1の環状のプロジェクションPと第2の被溶接物W2との接触面積が従来の点状のプロジェクションと同程度の大きさであっても、環状のプロジェクションPの環状の線接触面積は従来の点状の接触面積に比べて実質的に広い面域となる。また、前述したように塑性流動した環状のプロジェクションPにおける発熱は環状のプロジェクションPの外側方向だけでなく、その中の面域A側にも伝達されるので、熱バランスがよいだけでなく、環状のプロジェクションPに線接触している第2の被溶接物W2の部分も同様に塑性流動するので、より大きな溶接強度を得やすく、良好な溶接結果を得ることができる。ここで、環状のプロジェクションPの環状の頂部P1の内径又は外径の大きさにかかわらず、環状のプロジェクションPと第2の被溶接物W2の低融点金属膜Mとの線接触面積がほぼ同じであれば、ほぼ同程度のパルス状溶接電流で良好な拡散接合を行うことができる。また、環状のプロジェクションPの環状の頂部P1の内径又は外径を大きくして線接触面積を大きくしても、電流密度をほぼ一定にできるようにパルス状溶接電流のピーク値を大きくすれば、同様に良好の溶接結果を得ることができる。この理由は、環状のプロジェクションPにおける発熱が環状のプロジェクションPに沿った内側部分にも伝達され、つまり外側だけでなく内側にも伝達されるので、熱バランスのよいこともあり、環状のプロジェクションPが好ましく塑性流動して良好な拡散接合が行われるからである。
【0042】
この抵抗溶接方法は図2に示した抵抗溶接装置を用いることによって実現される。抵抗溶接回路の概略を示す図8も用いて実施形態2に係る抵抗溶接について説明するが、実施形態1と基本的には同じであるので、簡単に説明する。先ず、環状のプロジェクションPが形成された面を上にして銅板である第1の被溶接物W1を下部溶接電極8上に載置し、その上に低融点金属膜Mを下にして銅版である第2の被溶接物W2を第1の被溶接物W1の上に載せる。次に、上部溶接電極7を降下、又は下部溶接電極8を上昇させて第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2とに所定の加圧力を与える。この所定の加圧力を加えている途中、あるいは加圧力がほぼ一定になった段階で、放電回路15がオンして、充電回路17により既にエネルギー蓄積用コンデンサ16に充電されている電荷を、溶接トランス14の1次巻線N1に放出する。これに伴い、1次巻線N1に比べて巻数が大幅に少ない1ターン又2ターン程度の2次巻線N2に大きな溶接電流が発生し、そのパルス状の溶接電流が第2の被溶接物W2と低融点金属膜Mとを介して第1の被溶接物W1の環状のプロジェクションPの頂部P1に集中して流れる。このパルス状の溶接電流は、前述したようにほぼ10ms以下の時間で急激にピーク値まで増大し、短時間で急激に低下する単一の電流パルスである。
【0043】
このようなパルス状の溶接電流が低融点金属膜Mを通して銅板である第1の被溶接物W1の環状のプロジェクションPの頂部P1に集中して短時間流れることによって、第1の被溶接物W1の環状のプロジェクションPと第2の被溶接物W2の低融点金属膜Mとの接触抵抗により生じる熱が、パルス状の溶接電流が増大する過程で先ず低融点金属膜Mが溶融する。そして、第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との間にかけられている加圧力によって、第1の被溶接物W1における環状のプロジェクションPの環状の頂部P1に当接している溶融した低融点金属膜Mは排除され、第1の被溶接物W1における環状のプロジェクションPの頂部P1が第2の被溶接物W2の地肌、つまり銅材料に当接する。銅材料のその地肌は清浄であるので、接触面積の小さな第1の被溶接物W1における環状のプロジェクションPの環状の頂部P1と第2の被溶接物W2の地肌との接触面を通して電流密度の大きな電流が流れ、低融点金属膜Mの溶融時の発熱も加わって、パルス状の溶接電流のピーク値近傍で第1の被溶接物W1における環状のプロジェクションPが塑性流動を起こすと共に、環状のプロジェクションPの環状の頂部P1に当接している第2の被溶接物W2の面域が塑性流動を起こし、良好な抵抗溶接(拡散接合)が行われる。第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との抵抗溶接で、良好な溶接結果が得られるのは前述したように、前記条件の低融点金属膜M及び前記条件の頂部P1を有する環状のプロジェクションPに拠るところが大きいが、図2で述べた抵抗溶接装置の特性に負うところも大きい。この点については実施形態1で詳述したので説明を省略する。
【0044】
次に、実施形態2の変形例1について図9によって説明する。図9において、図7で用いた記号は同一の名称の部材を示すものとする。図9(A)、(B)に示すように、この変形例でも銅材料からなる第2の被溶接物W2に前述した低融点金属材料からなる低融点金属膜Mを形成し、銅板からなる第1の被溶接物W1を通常行われているような方法で反対側から打ち出して一方の面に点状のプロジェクションPを形成し、図2に示した抵抗溶接装置を使用して抵抗溶接を行った結果、前述した環状のプロジェクションPの場合とほぼ同じ条件によれば良好な溶接結果が得られる。繰り返すと、低融点金属膜Mが1〜12μmの範囲の厚みを有すること、図9(B)に示すプロジェクションPの点状の頂部P1の直径dが0.8mm以下であること、溶接電流が10ms以下の短時間でピーク値まで立ち上がることの各条件で、図2に示したような高速の加圧応答特性を有する抵抗溶接装置によって溶接すれば、点状のプロジェクションPであっても前述と同様に銅部材同士を抵抗溶接することができる。なお、この変形例1でも点状のプロジェクションPの頂部P1は円弧状になっていてもよい。また、低融点金属膜Mは第2の被溶接物W2の反対面に形成されていてもよく、第1の被溶接物W1のプロジェクションPの存在する面、あるいはその反対面に形成されていても構わない。
【0045】
次に、図10によって実施形態2の変形例2に係る抵抗溶接方法について説明する。図10において、図7及び図9で用いた記号は同一の名称の部材を示すものとする。実施形態2かかる抵抗溶接方法においては、銅部材又はアルミニウム部材のような高導電性金属材料からなる第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との双方に同一構造の環状のプロジェクションPを形成し、第1の被溶接物W1、第2の被溶接物W2の環状のプロジェクションPを前述した低融点金属膜Mと同様な金属材料からなる低融点金属膜M1、M2で被覆し、それぞれ低融点金属膜M1、M2で被覆されたプロジェクションP同士を突合せて溶接する。第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2とは、環状の頂部P1と環状の外側傾斜部P2と環状の内側傾斜部P3とからなる環状のプロジェクションPをそれぞれ有する。第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2とに形成される環状のプロジェクションPは実質的に互いに等しい構造である。環状の頂部P1の幅Dは、実施形態1と同様に0.8mm以下である。この形態の場合には、第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との環状のプロジェクションP同士を位置合わせするという工程が必要ではあるが、第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2との環状のプロジェクションPがそれぞれ低融点金属膜M1、M2で被覆されているので、高導電性金属材料同士をより確実かつ安定に抵抗溶接することができる。なお、図10(B)は第1の被溶接物W1と第2の被溶接物W2における環状のプロジェクションPの平面図を示している。
【0046】
第1の被溶接物W1、第2の被溶接物W2への環状のプロジェクションPの形成方法は前述方法と同じであるので説明しないが、第1の被溶接物W1、第2の被溶接物W2のそれぞれに環状のプロジェクションPを形成した後にメッキで、低融点金属膜M1、M2を形成するか、あるいは低融点金属膜M1、M2としてハンダ材料を用い、プリント基板におけるハンダ付けなどで広く一般的に用いられている溶融ハンダをリフローによって環状のプロジェクションPを被覆するように形成してもよい。この方法は、第1の被溶接物W1、第2の被溶接物W2における環状のプロジェクションPが形成された面全体を低融点金属膜M1、M2で覆いたくない場合に有効である。勿論、全面をンダ材料からなる低融点金属膜M1、M2で覆ってもよい。
【0047】
図10(A)に示すように、第1の被溶接物W1、第2の被溶接物W2における低融点金属膜M1、M2で覆われた環状のプロジェクションP同士を位置合わせし、前述した図2の抵抗溶接装置を用い、図8に示した上部溶接電極7と下部溶接電極8との間に配置する。抵抗溶接方法は基本的に実施形態1と同じであるので詳述しないが、前述条件のパルス状電流が第1の被溶接物W1、第2の被溶接物W2における低融点金属膜M1、M2で覆われた環状のプロジェクションPに集中して流れることにより、双方の低融点金属膜M1、M2が溶融し、第1の被溶接物W1、第2の被溶接物W2における環状のプロジェクションPが塑性流動を開始する。双方の環状のプロジェクションPの塑性流動に伴って双方の環状のプロジェクションPが潰れて拡がり始め、一緒に双方の環状のプロジェクションP間に存在した双方の溶融した低融点金属膜M1、M2が、円環状の頂部P1の幅Dが0.8mm以下であるということもあって双方の環状のプロジェクションP間から全て排出される。この実施形態2の変形例2では、双方の環状のプロジェクションP間に存在する低融点金属膜M1、M2が溶融した後に直ぐに双方の環状のプロジェクションPが塑性流動を起こし、双方の環状のプロジェクションP同士の面域で拡散接合が行われる。したがって、実施形態2の変形例2では双方の環状のプロジェクションP同士の面域で拡散接合を行うことができるので、変形例1に比べて少ない溶接電流で拡散接合を行うことができ、また、双方の環状のプロジェクションP同士の拡散接合面には低融点金属膜M1、M2の低融点材料層は勿論のこと、低融点材料を含まないので、極めて良好な溶接結果を得ることができる。
【0048】
なお、簡単に前述したが、ハンダ材料からなる低融点金属膜Mを環状のプロジェクションP及びその近辺の周囲だけに形成した場合にも、前述と全く同様な抵抗溶接結果が得られる。また、実施形態1、2及びそれらの変形例では銅部材同士の抵抗溶接について詳述したが、被溶接物の溶接箇所を低融点金属膜で覆うことによって、本発明によればアルミニウム部材同士、あるいは銅部材とアルミニウム部材のような同種、異種の高電電金属材料はもとより、ステンレス部材と鋼板、又は鋼板同士などの異種、同種の金属材料も抵抗溶接できるので、必要があればこれらの抵抗溶接にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態1に係る抵抗溶接方法を説明するための被溶接物の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る抵抗溶接方法を実現するための抵抗溶接装置の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る抵抗溶接方法に用いられるパルス状の溶接電流の波形を示す図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る抵抗溶接方法を説明するための溶接回路例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態1の変形例1に係る抵抗溶接方法を説明するための別の被溶接物の一例を示す図である。
【図6】本発明の実施形態1の変形例2に係る抵抗溶接方法を説明するための別の被溶接物の一例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態2に係る抵抗溶接方法を説明するための被溶接物の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施形態2に係る抵抗溶接方法を説明するための溶接回路例を示す図である。
【図9】本発明の実施形態2の変形例1に係る抵抗溶接方法を説明するための別の被溶接物の一例を示す図である。
【図10】本発明の実施形態2の変形例2に係る抵抗溶接方法を説明するための別の被溶接物の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
W1・・・第1の被溶接物
W2・・・第2の被溶接物
P・・・プロジェクション
P1・・・プロジェクションPの頂部
M・・・低融点金属膜
1・・・ベース部材
2・・・支持機構
3・・・加圧機構
4・・・可動ブロック
5・・・加圧補助部材
6・・・支持部材
7・・・上部溶接電極
8・・・下部溶接電極
9・・・L字形の中間接続部材
10・・・第1のフレキシブル導電部材
11・・・第2のフレキシブル導電部材
12、13・・・給電導体
14・・・溶接トランス
15・・・放電回路
16・・・エネルギー蓄積用コンデンサ
17・・・充電回路
18〜20・・・3相交流入力端子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の被溶接物と第2の被溶接物との間に電流を流して前記被溶接物同士を拡散接合する高導電性金属材料の抵抗溶接方法において、
前記第1の被溶接物の金属材料よりも融点が低い低融点金属材料からなる低融点金属膜を前記第1の被溶接物に形成する工程と、
前記第2の被溶接物にプロジェクションを形成する工程と、
前記第2の被溶接物に形成されている前記プロジェクションを前記第1の被溶接物に形成されている前記低融点金属膜に当接させる工程と、
互いに当接している前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物とを、弾性力を含む加圧力で加圧した状態でパルス状溶接電流を通電する工程と、
を備えることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2の被溶接物に形成されている前記プロジェクションが、前記第1の被溶接物の金属材料よりも融点の低い金属材料からなる低融点金属膜で被覆する工程を備えることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法。
【請求項3】
第1の被溶接物と第2の被溶接物との間に電流を流して前記被溶接物同士を拡散接合する高導電性金属材料の抵抗溶接方法において、
前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物とにそれぞれプロジェクションを形成する工程と、
前記第1の被溶接物に形成されている前記プロジェクションを、前記第2の被溶接物の金属材料よりも融点の低い金属材料からなる低融点金属膜で被覆する工程と、
前記第1の被溶接物に形成されている前記プロジェクションと前記第2の被溶接物に形成されている前記プロジェクションとを前記低融点金属膜を介して当接させる工程と、
互いに当接している前記第1の被溶接物と前記第2の被溶接物とを、弾性力を含む加圧力で加圧した状態でパルス状溶接電流を通電する工程と、
を備えることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記第2の被溶接物に形成されている前記プロジェクションを、前記第1の被溶接物の金属材料よりも融点の低い金属材料からなる低融点金属膜で被覆する工程を備えることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかにおいて、
前記第1の被溶接物及び前記第2の被溶接物は、銅又は銅合金、あるいはアルミニウム又はアルミニウム合金であることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかにおいて、
前記低融点金属膜は、メッキ工程によって形成されることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかにおいて、
前記低融点金属膜は、1μmから12μmの範囲の厚みを有することを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかにおいて、
前記プロジェクションは環状のものであり、この環状のプロジェクションの頂部の幅は0.8mm以下であることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれかにおいて、
前記プロジェクションは点状のものであり、この点状のプロジェクションの頂部の直径は0.8mm以下であることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれかにおいて、
前記パルス状溶接電流は、電流がピーク値までに立ち上がるのに要する時間が10ms以下であることを特徴とする高導電性金属材料の抵抗溶接方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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