説明

高平均出力レーザ用の空間フィルタ

空間フィルタは、第1のフィルタ素子及び第1のフィルタ素子とオーバラップする第2のフィルタ素子を含む。第1のフィルタ素子は、第1の距離だけ離れた第1の対の円柱レンズを含む。第1の対の円柱レンズのそれぞれが第1の焦点距離を有する。第1のフィルタ素子は、第1の対の円柱レンズの間に配置された第1のスリットフィルタも含む。第2のフィルタ素子は、第2の距離だけ離れた第2の対の円柱レンズを含む。第2の対の円柱レンズのそれぞれが第2の焦点距離を有する。第2のフィルタ素子は、第2の対の円柱レンズの間に配置された第2のスリットフィルタも含む。

【発明の詳細な説明】
【声明】
【0001】
[連邦政府委託の研究又は開発で行なわれた発明に対する権利に関する声明]
【0002】
[0001]米国政府は、米国エネルギー省とローレンスリヴァーモア国家安全保障(LLC)の間の契約第DE−AC52−07NA27344号に従って本発明における権利を有する。
【背景技術】
【0003】
[0002]高出力レーザは、高いビーム品質という特徴があるコヒーレント放射のビームをもたらす。好ましくは、高出力レーザのレーザ出力は、均一の波面という特徴がある。高出力レーザシステムは、高出力のコヒーレント放射を生成するので、多種多様な用途に使用されている。高出力レーザの産業用途には、レーザ切断及びレーザ溶接、レーザマーキングなどがある。多くの用途で、重要な測定基準の1つがビーム強度であり、焦点における面積当たりのパワー(W/m)で測定される。均一の波面を有するビームは、回折限界のスポットサイズに理想的に合焦することになる。しかし、レーザビームが、ほぼ常に不完全であるレーザ光学系を通って伝搬するとき、小規模なオブスキュレーション(obscuration)及び位相物体からの散乱により、ビーム全体にわたって、強度及び波面の、高い空間周波数での変動が生じる。このような強度変動により、レーザ光学系の光損傷に関するリスクが増加し、強度変動及び波面変動のどちらによっても、後で合焦されるレーザビームのレーザスポットサイズが増大し、それによってビーム強度が低下する。高いビーム強度に依存する用途にとって、この状況は望ましくない。
【0004】
[0003]ビーム品質を改善するために、レーザビームを空間的にフィルタリングして高い空間周波数の波面及び強度の変動を除去するのにピンホールが利用されている。一般に、レーザビームはレンズを用いて合焦され、ピンホールが焦点面に配置され、ピンホールによって遮蔽された位置で異常な光線を空間的に除去する。次いで、第2のレンズを使用してレーザビームをコリメートし、高強度の用途に適切な、より均一の強度及びより均一の波面を有するビームをもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
[0004]ピンホール空間フィルタによってもたらされるビーム品質の利点にもかかわらず、ピンホールフィルタを使用することによるいくつかの問題が示される。したがって、当技術分野では、高出力レーザ用空間フィルタに関する改善された方法及びシステムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[0005]本発明によれば、光学システムに関する技法が提供される。より詳細には、本発明の一実施形態は、像中継特性を有する多素子空間フィルタを提供する。単なる一例として、本発明は、直交スリットフィルタと対にされた円柱レンズ望遠鏡のオーバラップする(重なり合う)組を含む多素子空間フィルタに適用されている。例示的な別の例では、本発明は、非点収差レンズ及び直交スリットフィルタを有する空間フィルタに適用されている。本明細書に記載の方法及びシステムは、レーザ、増幅器などを含む多数の光学システムにも適用可能である。
【0007】
[0006]本発明の一実施形態によれば、空間フィルタが提供される。空間フィルタは、第1のフィルタ素子及び第1のフィルタ素子とオーバラップする第2のフィルタ素子を含む。第1のフィルタ素子は、第1の距離だけ離れた第1の対の円柱レンズを含む。第1の対の円柱レンズのそれぞれが第1の焦点距離を有する。第1のフィルタ素子は、第1の対の円柱レンズの間に配置された第1のスリットフィルタも含む。第2のフィルタ素子は、第2の距離だけ離れた第2の対の円柱レンズを含む。第2の対の円柱レンズのそれぞれが第2の焦点距離を有する。第2のフィルタ素子は、第2の対の円柱レンズの間に配置された第2のスリットフィルタも含む。
【0008】
[0007]本発明の別の実施形態によれば、空間フィルタが提供される。空間フィルタは、第1の方向に関する第1の焦点距離及び第1の方向に対して垂直な第2の方向に関する第2の焦点距離を有する第1の非点収差レンズを含む。空間フィルタは、第1の非点収差レンズから第1の焦点距離だけ離れた第1のスリットフィルタ及び第1の非点収差レンズから第2の焦点距離だけ離れた第2のスリットフィルタを含む。空間フィルタは、第1の入力方向に関する第3の焦点距離及び第2の入力方向に関する第4の焦点距離を有する第2の非点収差レンズをさらに含む。
【0009】
[0008]本発明の特定の実施形態によれば、ダブルパス増幅器が提供される。ダブルパス増幅器は、入力部分及び反射部分を有する利得媒体、反射部分に光学的に結合された反射素子、及び入力部分に光学的に結合されたビーム経路を含む。ダブルパス増幅器は、ビーム経路に沿って配置された円柱レンズの第1の組も含む。円柱レンズの第1の組は、直交して配向される。ダブルパス増幅器は、ビーム経路に沿って配置された1組の開口をさらに含む。開口の組は、直交して配向される。さらに、ダブルパス増幅器は、ビーム経路に沿って配置された円柱レンズの第2の組を含む。円柱レンズの第2の組は、直交して配向される。さらに、ダブルパス増幅器は、開口の組と円柱レンズの第2の組の間に配置された導入ミラーを含む。
【0010】
[0009]本発明の別の特定の実施形態によれば、マルチパス増幅器が提供される。マルチパス増幅器は、入力部分及び反射部分を有する利得媒体、反射部分に光学的に結合された反射素子、入力部分に光学的に結合されたビーム経路、及びビーム経路に沿って配置された円柱レンズの第1の組を含む。円柱レンズの第1の組は、直交して配向される。マルチパス増幅器は、ビーム経路に沿って配置された1組の開口も含む。開口の組は、直交して配向される。マルチパス増幅器は、ビーム経路に沿って配置された円柱レンズの第2の組をさらに含む。円柱レンズの第2の組は、直交して配向される。さらに、マルチパス増幅器は、開口の組と円柱レンズの第2の組の間に配置された導入ミラーと、開口の組と円柱レンズの第2の組の間に配置された第1の絶縁ループミラーと、開口の組と円柱レンズの第2の組の間に配置された第2の絶縁ループミラーと、第1の絶縁ループミラーから光を受け取って第2の絶縁ループミラーへ光を向けるように動作可能な絶縁ループとを含む。
【0011】
[0010]本発明の特定の実施形態によれば、マルチパス増幅器が提供される。マルチパス増幅器は、ビームを光路に沿って向けるように動作可能な入力光学系及び光路に沿って配置された利得媒体を含む。マルチパス増幅器は、光路に沿って配置された空間フィルタも含む。空間フィルタは、第1のフィルタ素子及び第1のフィルタ素子とオーバラップする第2のフィルタ素子を含む。第1のフィルタ素子は、第1の距離だけ離れた第1の対の円柱レンズを含む。第1の対の円柱レンズのそれぞれが第1の焦点距離を有する。第1のフィルタ素子は、第1の対の円柱レンズの間に配置された第1のスリットフィルタも含む。第2のフィルタ素子は、第2の距離だけ離れた第2の対の円柱レンズを含む。第2の対の円柱レンズのそれぞれが第2の焦点距離を有する。第2のフィルタ素子は、第2の対の円柱レンズの間に配置された第2のスリットフィルタも含む。マルチパス増幅器は、光路に沿って配置された出力光学系をさらに含む。
【0012】
[0011]本発明により、従来の技法に対して多数の利点が実現される。例えば、本システムは、所定の空間周波数より高い強度及び位相の変動を除去する空間フィルタを提供する。さらに、本発明の実施形態は、下流の物体平面でレーザ波面を回復する像中継を提供する。さらに、本発明の実施形態は、高い繰返し率のパルスレーザシステムにおけるビーム品質の維持を提供する。さらに、いくつかの実施形態は、レーザシステムに対する真空要件を低減し、それによって、従来のシステムと比較して、原価を低減し、ポンプ休止時間を短縮する。実施形態次第で、これらの利点の1つ又は複数が実現され得る。これら及び他の利点が、本明細書の全体にわたって、とりわけ以下で、より詳細に説明されることになる。
【0013】
[0012]本発明の、これら及び他の目的及び機能、並びにそれらを達成する方法が当業者には明らかになるはずであり、本発明自体が、以下の詳細な説明を添付図面とともに解釈して参照することにより、最もよく理解されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態による空間フィルタの簡略図である。
【図2A】円形の開口に対する位置の関数として光強度を示す簡略図である。
【図2B】スリット開口に対する位置の関数として光強度を示す簡略図である。
【図3】本発明の別の実施形態による空間フィルタの簡略図である。
【図4】本発明の一実施形態によって屈折性又は回折性の構造体を用いるフィルタリングの簡略図である。
【図5】本発明の一実施形態によって提供された空間フィルタを利用するダブルパス増幅器の簡略図である。
【図6】本発明の一実施形態によって提供された空間フィルタを利用するマルチパス増幅器の簡略図である。
【図7】本発明の別の実施形態によるマルチパス増幅器の簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[0021]上記で論じたように、いくつかの高出力レーザ用途ではピンホールの空間フィルタが利用されている。しかし、ピンホールの空間フィルタには、高出力レーザシステムの状況ではいくつかの問題がある。いくつかの高出力レーザに伴う高い強度のために、ピンホールの中心を取り巻く材料のスパッタリングが動作中に生じ、光学系を汚染するおそれがあるスパッタ物質を生成する可能性がある。スパッタ物質によってレンズが汚染されると、レンズによるレーザ吸収が増加し、最終的にレンズが損傷することになる。このような汚染の問題はパルス用途で特に問題であり、頻繁なスパッタリング事象によってピンホールが消耗し、ピンホールの中心の開いた領域が時間に応じて拡大する。時間の経過につれて、ピンホールの消耗により、ビーム品質及びシステム性能が低下する。
【0016】
[0022]高出力レーザ向けにピンホール空間フィルタを使用することによる別の問題に、ピンホールにおけるビームの電界が空気の絶縁破壊閾値を上回り、ピンホールでプラズマが生成されてレーザ光の吸収又は屈折をもたらすピンホール閉鎖がある。プラズマは、不均一になる傾向があり、レーザビームの波面歪みを引き起こすので、プラズマによる屈折は有害である。ピンホールの縁端部におけるレーザビーム強度が材料をレーザビームの中へと融除するのに十分なときにもピンホール閉鎖が起こり、融除された材料がプラズマに変化する可能性もある。空気の絶縁破壊からのピンホール閉鎖は、直ちにピンホール閉鎖をもたらすが、融除された材料からのピンホール閉鎖は、融除された材料がビームの中へ移動するのに十分な数十ナノ秒の期間の後に起こる。プラズマ又は融除された材料によるレーザビームの吸収又は屈折は、ピンホールを通る長い(例えば数十ナノ秒のピンホール閉鎖時間より長い)パルスの伝搬を妨げる。さらに、パルス用途では、次のレーザパルスの到着までにプラズマが放散していないと、この後続のパルスがプラズマへの吸収又は屈折を受けることがあり、長いパルスの用途に加えてパルス用途も損なわれる。
【0017】
[0023]プラズマ生成及びピンホール閉鎖問題に対する可能な解決策に、ピンホールを真空の中に置くものがある。ピンホールにおけるガス圧力の低下が、プラズマ生成のレベルを低下させることになり、ピンホール閉鎖問題を解決する可能性がある。しかし、本発明者は、真空又は真空に近い条件において可視波長又は紫外線波長で動作するレーザビームは、光学コーティングの劣化に関連すると判断した。コーティングは光学システムの反射を低減するのに利用されるので、このような劣化は問題がある。本発明の範囲を制限することなく、本発明者は、光学系を真空条件で可視レーザ光にさらすと、光学コーティングの中に存在する酸素が可視レーザ光によって光学コーティングから追い出されることがあると考える。次いで、コーティングに残っている酸素不足の材料が光を吸収して、性能に悪影響を及ぼす。
【0018】
[0024]図1は、本発明の一実施形態による空間フィルタの簡略図である。図1に示された空間フィルタ100は、第1のフィルタ素子110と第2のフィルタ素子120との2つのオーバラップするフィルタ素子を含む。第1のフィルタ素子110は、第1の円柱レンズ112及び第2の円柱レンズ114を含む。第1の円柱レンズ112と第2の円柱レンズ114は、第1の距離dだけ離れている。第1の円柱レンズ及び第2の円柱レンズは、どちらも第1の焦点距離(f)によって特徴づけられる。第1のフィルタ素子は、水平の構成に配向されて第1の円柱レンズ112と第2の円柱レンズ114の間に配置された第1のスリットフィルタ116も含む。第1の円柱レンズ112は、レンズを垂直面で通る光線を合焦し、水平面では合焦作用なしに光線を通すように配向される。第1の円柱レンズを通る平面波は、焦点面でスリット形ビームを形成することになり、同ビームは第1のスリットフィルタ116と位置合わせされる。好ましくは、スリット形ビームのパワーの大半が、第1のスリットフィルタ116を通ることになる。第1のスリットフィルタ116を通る光は、垂直面で発散して第2の円柱レンズ114によってコリメートされる。第1のフィルタ素子110は、垂直フィルタと称され得る。
【0019】
[0025]空間フィルタは、第1のフィルタ素子110とオーバラップする第2のフィルタ素子120も含む。第2のフィルタ素子120は、第3の円柱レンズ122及び第2の距離dだけ離れた第4の円柱レンズ124を含む。第3の円柱レンズと第4の円柱レンズは、どちらも第2の焦点距離(f)によって特徴づけられる。第2のフィルタ素子は、垂直の構成に配向されて第3の円柱レンズ122と第4の円柱レンズ124の間に配置された第2のスリットフィルタ126も含む。第3の円柱レンズ122は、レンズを水平面で通る光線を合焦し、垂直面では合焦作用なしに光線を通すように配向される。第3の円柱レンズを通る平面波は、焦点面でスリット形ビームを形成することになり、同ビームは第2のスリットフィルタ126と位置合わせされる。好ましくは、スリット形ビームのほとんどのパワーは、第2のスリットフィルタ126を通ることになる。第2のスリットフィルタ126を通る光は、水平面で発散して第4の円柱レンズ124によってコリメートされる。第2のフィルタ素子120は、水平フィルタと称され得る。
【0020】
[0026]第1のスリットフィルタと第2のスリットフィルタの間の距離は、所定の距離gである。したがって、線焦点の間の距離は所定の距離gと等しい。距離gは、2つのスリットフィルタ116及び126におけるスリット形ビームの長い寸法を決定する。したがって、gは、これらのスリットフィルタにおけるビーム強度も決定する。図1に示された実施形態では、距離gは円柱レンズの焦点距離未満である。
【0021】
[0027]図1に示された空間フィルタは、ビーム断面130によって示された第1の円柱レンズ112におけるビームの縦横比と、ビーム断面132によって示された第4の円柱レンズ124におけるビームの縦横比が等しい、特定バージョンの像中継をもたらす。
【0022】
[0028]図1を参照すると、本発明の特定の実施形態は、同一の焦点距離f=f=fによって特徴づけられる円柱レンズを利用する。この実施形態では、距離dは2fに等しく、距離dは2fに等しく、第1の円柱レンズと第4の円柱レンズの間の距離は2f+gに等しい。示された構成では、合計の中継距離は4fに等しく、空間フィルタ外部の合計の中継距離は4f−2f−g=2f−gに等しい。したがって、この特定の実施形態は、ビームの縦横比を変更せずに像を中継する。ビームサイズが拡大若しくは縮小される実施形態、又はビームの縦横比が変更される実施形態も可能であるため、図1は例示と見なされるべきである。例えば、像を中継するため、又は所望の拡大をもたらすか若しくは縦横比を変化させるために、焦点距離を変化させ得ることが理解されよう。当業者なら、多数の変形形態、変更形態、及び代替形態を理解するであろう。
【0023】
[0029]各フィルタ素子において、第1の対の円柱レンズの配向は、第2の対の円柱レンズの配向に対して垂直である。さらに、第1のスリットフィルタの配向は、第2のスリットフィルタに対して垂直である。したがって、図1に示された構成では、第1のフィルタ素子は、第2のフィルタ素子に対して垂直である。したがって、円柱レンズとフィルタの組合せは、水平と垂直の両方向で第1の円柱レンズ上に入射する光ビームの空間フィルタリングをもたらすが、フィルタで低下したビーム強度によって特徴づけられるスリットフィルタを使用している。これは、従来の、ピンホールを利用して、ピンホールで生じる高いビーム強度により、ピンホール材料のスパッタリング、ピンホール閉鎖、及び上記で論じた他の問題がもたらされる手法と対照をなす。本明細書で説明された技法は、1)フィルタ素子を1つだけ使用し、その結果、フィルタリングが1つの方向でのみ起こる手法、又は、2)2つのフィルタ素子を使用するが像中継を達成するためのスリットフィルタのオーバラップがない構成の手法、のいずれかであるスリットフィルタを使用する手法と対照をなす。さらに、本発明の実施形態は、ビームに非点収差を与えるように傾斜された2つの球面レンズと、互いに直交して配向された2つのスリットフィルタとを使用する手法と対照をなす。具体的には、本明細書に示された、対の円柱レンズ又は非点収差レンズを使用する本発明の実施形態は、はるかに大きな強度低下をスリットフィルタで達成し、それによって、ビームを歪めるか又はビームを吸収するプラズマを発生せず、或いはスリットフィルタの縁端部からの材料のアブレーションを引き起こすこともなく、より大きなパワーのビームをフィルタリングすることができる。
【0024】
[0030]図2Aは、円形の開口に対する位置の関数として光強度を示す簡略図である。図2Aに示された円形の焦点については、高いフルエンスが生成され、従来の空間フィルタに関連した状況では、丸いピンホール開口及び球面レンズを利用する。ピンホールにおけるビーム強度は、Ispotと称され得る。図2Bは、スリット開口に対する位置の関数として光強度を示す簡略図である。図2Aに示された円形の焦点に対する放射照度パターンとは対照的に、スリット開口におけるビーム強度は、線焦点に関連したものとなる。円柱レンズを使用して生成された線焦点は、円形の焦点と比較して低減されたフルエンスをもたらす。例えば、スリット幅がピンホールの直径dと等しく、円柱レンズの焦点距離が球面レンズの焦点距離と等しければ、スリット開口におけるビーム強度はIspot×(d/L)にほぼ等しく、Lはスリット長さである。スリット長さがスリット幅よりはるかに大きいので、スリット開口のビーム強度は円形のピンホール開口と比較して大幅に低下する。したがって、図1の空間フィルタに示されたように円柱レンズ及びスリット開口を利用すると、ビーム強度が低下した線焦点がもたらされ、放射照度及びフルエンスのレベルが低下して、プラズマ生成による光学素子の損傷の閾値を下回る。
【0025】
[0031]本発明の実施形態を利用すると、空間フィルタ素子(すなわちスリットフィルタ)の面におけるビーム強度を、およそ2桁小さくすることができる。例えば、40cm×40cmの開口を有するレーザビームラインでは、1.5mmのピンホールではなく1.5mm×20cmのスリットを使用することにより、空間フィルタ開口の縁端部上の放射照度及びフルエンスは、100分の1未満に低減される。本明細書に説明された実施形態では、ピンホールフィルタではなくスリットフィルタを使用すると、開口壁のピーク放射照度が、プラズマ閾値を下回るレベルに低下することになる。一般に、プラズマ生成の閾値は、約100GW/cmである。本発明の実施形態は、ピーク放射照度を、プラズマ生成のための閾値をかなり下回る数十GW/cm程度以下の値にすることができる。結果として、光学システムのガス圧力を、プラズマ生成による光絶縁破壊の閾値を上回ることなく増加することができる。特に、真空要件が低減されると、運転費用並びにシステムポンプ休止時間が低減することになり、システムのオペレータにとって顕著な利益となる。さらに、光学系上の材料の堆積と関係する問題(例えば光学系の金属化)にも、光学システムに酸素又は他の適切なガスを付加することにより、場合によっては対処することができる。
【0026】
[0032]さらに、本発明の実施形態の開口壁上のピークフルエンスは、多くの材料に対する損傷閾値より1段階下回って低減される。例えば、かすめ入射でのNG−4ガラス壁の光損傷に関する閾値は、5nsで約5kJ/cmである。本発明の実施形態は、ピークフルエンスを、上記の条件でNG−4ガラスへの光損傷に関する閾値をかなり下回る1平方センチメートル当たり数百ジュール程度以下の値に低減する。したがって、ガラスでライニングされたテーパ状の壁を有するスリット開口を使用すると、プラズマ生成と光損傷の両方を回避する可能性が高い。
【0027】
[0033]図3は、本発明の別の実施形態による空間フィルタの簡略図である。図3に示された実施形態では、対の円柱レンズが、垂直と水平の両方向で合焦する能力を有する非点収差レンズで置換されている。図3を参照すると、空間フィルタは、垂直方向で合焦するための第1の焦点距離fv,1及び水平方向、すなわち垂直方向に対して垂直な方向で合焦するための第2の焦点距離fh,1を有する第1の非点収差レンズ310を含む。図3に示された例では、垂直方向は第1の入力方向と称することができ、水平方向は第2の入力方向と称することができる。2つの方向の焦点距離は異なり、焦点距離fh,1は焦点距離fv,1より大きい。
【0028】
[0034]第1のスリットフィルタ322は光路に沿って配置され、第1の非点収差レンズ310から第1の焦点距離fv,1だけ離される。図3に示されるように、第1の非点収差レンズ上に入射する平行ビームは垂直方向に合焦され、合焦されたビームは第1のスリットフィルタ322を通ることができる。第2のスリットフィルタ324も光路に沿って配置され、第1の非点収差レンズから第2の焦点距離fh,1だけ離される。したがって、第1の非点収差レンズ上に入射する平行ビームは水平方向に合焦され、合焦されたビームは第2のスリットフィルタ324を通ることができる。第1のスリットフィルタ322と第2のスリットフィルタ324は、距離gだけ離される。図3に示されるように、第1のスリットフィルタと第2のスリットフィルタは、互いに垂直である。距離gは、2つの垂直方向fh,1とfv,1の焦点距離の差である。
【0029】
[0035]ビームが第1のスリットフィルタ322及び第2のスリットフィルタ324を通るとき、ビームは、第1の入力方向(例えば垂直方向)に関する第3の焦点距離fv,2及び第2の入力方向(例えば水平方向)に関する第4の焦点距離fh,2を有する第2の非点収差レンズ312に到達するまで発散する。2つの方向の焦点距離は異なり、焦点距離fh,2は焦点距離fv,2より小さい。ビームは、第2の非点収差レンズ312によってコリメートされる。
【0030】
[0036]図3に示された空間フィルタは、焦点距離fh,2とfv,1が等しいとき、及び焦点距離fv,2とfh,1が等しいとき、像中継をもたらす。この場合、全体の中継距離Rは、
R=(1−m)t+(1−m)Lであり、
ここで、m=fv,2/fv,1=fh,1/fh,2、L=fv,1+fv,2=fh,1+fh,2であり、tは入力像面と第1のレンズ310の間の距離である。m及びLに関するこれらの式の両方で、垂直方向の焦点距離と水平方向の焦点距離は異なる。
【0031】
[0037]図3に示された空間フィルタによってもたらされる中継像は、図1に示されたものからいくつかの点で異なる。例えば、図3では、入力ビームと出力ビームは断面積が等しいが、ビーム寸法が変えられており、入力ビームは長手方向を水平に配向されたビーム断面330を有し、出力ビームは長手方向を垂直に配向されたビーム断面332を有する。入力ビームが正方形であるとき、出力ビームも正方形であることに留意されたい。さらに、図3及び図4に示されたレンズは長方形(例えば正方形)であるが、本発明の実施形態は、特定の用途に対して円形のレンズ又は他の形状のレンズを必要に応じて利用することができる。当業者なら、多数の変形形態、変更形態、及び代替形態を理解するであろう。
【0032】
[0038]図4は、本発明の一実施形態によって屈折性又は回折性の構造体を用いるフィルタリングの簡略図である。本発明の実施形態には、屈折性、回折性、吸収性、及び反射性の構造体がフィルタリング用に適用可能なので、図4は例示と見なされるべきである。例えば、球面レンズを使用する空間フィルタで、高い次数の空間周波数を除去するのに屈折又は回折を用いる円形の構造体を使用することができると提案されている。このような屈折性又は回折性の構造体の直線状のバージョンは、本発明の実施形態に使用することができ、或いは本明細書で論じた円柱レンズ又は非点収差レンズと組み合わせて使用することができる。当業者なら、多数の変形形態、変更形態、及び代替形態を理解するであろう。
【0033】
[0039]図5は、本発明の一実施形態によって提供された空間フィルタを利用するダブルパス増幅器の簡略図である。図5に示された実施形態では、増幅される光が、1組の直交する円柱レンズ510及び512を使用して増幅器に導入される。これらの直交する円柱レンズは、平行ビームが導入ミラー548に向かって伝搬するとき合焦されて集束ビームになるように調整される。導入ミラーは、一方の寸法に関して非近接場に近く、他方の寸法に関して近接場にあるように配置される。
【0034】
[0040]導入ミラーが導入されたビームの向きを変え、次いでビームは垂直の入力スリット540を通る。垂直に配向されたダブルスリット素子580は、入力スリット540及び出力スリット542を含む。第2のダブルスリット素子582は、水平に配向され、入力スリット544と出力スリット546の2つのスリット開口を含む。図1及び図3に関して論じたように、垂直と水平とに配向されたダブルスリット素子が、直交する入力スリット/出力スリットの対を形成する。光は、直交する入力スリット対540/544を通った後で、直交する円柱レンズ520及び522によって合焦される。平行ビームは、増幅器530として参照される利得媒体を通る2つのパスになる。利得媒体(利得材料とも称される)は、Nd:YAG、Nd:ガラス、Ti:サファイア、Yb:YAG、Yb:ガラス、Yb:S−FAP、Tm:YAG、Er:YAG、Ho:YAG、Nd:SrFなどを含むいくつかの別々の材料のうちの1つであり得る。利得媒体を通る第2のパスをもたらすために、利得媒体を通る第1のパスの後で光を反射するように、ミラー又はグレーティングなどの反射素子532が使用される。グレーティングなどを含むミラー以外の反射素子を利用することができる。
【0035】
[0041]利得媒体530を2回通った後で、増幅された光は、直交するレンズ対520/522によって2度目の合焦がなされ、出力スリット546及び542の組へのビーム経路に沿って伝搬する。図1を参照して、円柱レンズ522と水平に配向された出力スリット546との間の間隔は、円柱レンズ522の焦点距離に等しい。垂直に配向された出力スリット542を通った後で、増幅して空間的にフィルタリングされた光は、直交する円柱レンズの対550及び552によって合焦される。円柱レンズ520と垂直に配向されたスリット542との間の間隔は円柱レンズ520の焦点距離に等しく、円柱レンズ550と水平に配向されたスリット546との間の間隔は円柱レンズ550の焦点距離であり、円柱レンズ552と垂直に配向されたスリット542との間の間隔は円柱レンズ552の焦点距離に等しい。円柱レンズ522と円柱レンズ552の間のビーム経路に沿った光学システムにより、像中継がもたらされる。
【0036】
[0042]図1及び図5を参照すると、両空間フィルタの間の設計の類似性を理解することができる。直交レンズの対522/520が直交レンズの対112/122に対応し、直交レンズの対550/552が直交レンズの対114/124に対応する。図5の直交スリットフィルタは、別々の入力ビームと出力ビームの経路を可能にするようにダブルスリット構成で設けられるが、水平/垂直のスリットフィルタ116/126に全体的に対応する。したがって、図1に示された空間フィルタの利点が、図5に示されたダブルパス増幅器システムで利用可能である。図5に示された光学システムは、円柱レンズ522におけるビームの断面が円柱レンズ552におけるビームの断面に等しい、不変のビーム縦横比をもたらす。図5に示された設計では、導入ミラーのサイズが、従来の入力ミラーと比較して増加されており、入力ミラーは、所与のパワーレベルに対してより低いフルエンスで動作するか、又は所与のフルエンスレベルに対してより高いパワーで動作することができる。
【0037】
[0043]図5に示されたダブルパス増幅器システムでは、導入ミラーは、スリット開口の組と直交する円柱レンズの組550/552の間に配置される。本発明には、この特定の光学設計は必要とされず、他の入力ミラー位置が本発明の範囲内に含まれる。図5に示された実施形態では円柱レンズの組が利用されているが、図3に関して論じたように非点収差レンズを利用することもできる。
【0038】
[0044]図6は、本発明の一実施形態によって提供された空間フィルタを利用するマルチパス増幅器の簡略図である。図6に示されたマルチパス増幅器は、後方へ伝搬するパルスに対する保護をもたらす。図6を参照すると、本明細書で説明されたような空間フィルタを利用するマルチパス(すなわち4つのパス)増幅器の実装形態が示されている。図6に示されたマルチパス増幅器は、対の直交円柱レンズ624及び626と、水平に配向された複数のスリットフィルタ素子622と、垂直に配向された複数のスリットフィルタ素子620と、第2の対の直交円柱レンズ660及び662とを含む空間フィルタを含んでいる。図6の空間フィルタには、図5に示された空間フィルタと、いくつかの類似点並びにいくつかの相違点がある。
【0039】
[0045]フロントエンド光学システム610は、増幅器に入力ビームを供給する。フロントエンド光学システムは、1つ又は複数の自由空間と、1つ又は複数のレーザ源を含むファイバベースの光学コンポーネントとを含むことができる。光ビームは、導入ミラー612に向かって伝搬する集束ビームをもたらすために、フロントエンド光学システムの素子によって合焦され得る。導入ミラー612は、増幅器のビーム経路に光を導入するのに使用される。光は、複数のスリットフィルタ素子620に設けられた4つのスリットのうちの1つである垂直に配向されたスリットフィルタを通る。ダブルスリット素子580に類似のやり方で、光ビームがマルチパスのやり方でシステムを通って伝搬するとき空間的にフィルタリングするのに、複数のスリットが使用される。
【0040】
[0046]水平に配向された複数のスリットフィルタ素子622がビーム経路に沿って配置され、光は、4つのスリットのうちの第1のスリットを、ビーム経路#1(すなわちパス#1)に沿って円柱レンズ624の方へ通る。2つの円柱レンズ624及び626は、直交して配向され、1対の直交円柱レンズを形成する。光は、初回は経路#1に沿って増幅器630を通り、反射性の構造体(例えばミラー)632から反射される。増幅器630を2回通った後で、増幅された光が、直交円柱レンズ626/624の組を通り、次いで水平に配向された複数のスリットフィルタ素子622の第2のスリット及び垂直に配向された複数のスリットフィルタ素子620の第2のスリットを通る。この2回目のパスのためのビーム経路は、図6のパス#2によって参照される。増幅器の材料は、例えばNd:YAG、Nd:ガラスなどの任意の適切な利得材料であり得る。さらに、反射素子は、ミラー、グレーティング、又は他の適切な反射器であり得る。
【0041】
[0047]後方へ伝搬するパルスに対する保護をもたらすために、第1の絶縁ループミラー640と第2の絶縁ループミラー642の間の光路に沿って光学組立体が設けられる。絶縁ループは、対象によって反射されてレーザシステムへ戻るパルスからレーザフロントエンドを絶縁する(又は保護する)。光学組立体は、ミラーと、レンズと、ポッケルスセル、ファラデー回転子などのいくつかのタイプの偏光回転子のうちの1つであり得る回転子652を含む。必要に応じて、偏光は、増幅器への導入に先立って、第2の回転子又はミラー(図示せず)の組合せを使用して、元の状態へ回転して戻される。ビームは、第2の絶縁ループミラー642を使用して再導入される。経路#4に沿って、次いで経路#3に沿って後方へ伝搬し、次いで第2の絶縁ループミラー642から反射される後方伝搬波は、偏光子654によって反射され、ビームダンプ650の中へ向けられることになる。
【0042】
[0048]増幅されるべき光は、第2の絶縁ループミラー642から反射されて経路#3に沿って伝搬し、垂直に配向された複数のスリットフィルタ素子620の第3のスリット及び水平に配向された複数のスリットフィルタ素子622の第3のスリットを通る。第3の経路は、直交円柱レンズ624/626の組を通り、増幅器630を3回通って、反射素子632から反射し、増幅器を通る第4のパスを構成する。増幅された光は、経路#4に沿って伝搬し、直交円柱レンズ626/624の組を通り、水平に配向されたフィルタ素子622及び垂直に配向されたフィルタ素子620の第4のスリットを通って、次いで直交円柱レンズ660及び662の第2の組を通る。増幅器の出力は、円柱レンズ662を通った後にもたらされる。
【0043】
[0049]図6に示された増幅器を利用すると、絶縁ループミラー640及び642におけるフルエンスが、従来の設計と比較して低減される。したがって、球面レンズ及びピンホールを利用する空間フィルタに対して、絶縁ループミラーは、これらの低減されたフルエンスの結果として、より大きな寿命を有する可能性がある。さらに、図6に示された実施形態は、破壊物の破片による光学系の汚染を低減することになる。さらに、本発明の実施形態によって提供された空間フィルタを使用すると、絶縁ループミラー及び他の光学系を損傷することなく、より大きな後方伝搬パルスのエネルギーが許容されることが可能になるはずである。図6に示された実施形態では円柱レンズの組が利用されているが、図3に関して論じたように非点収差レンズを利用することもできる。
【0044】
[0050]本発明の実施形態に利用される円柱レンズは、従来の球面レンズと比較して、後方反射と関係する追加の利点をもたらす。球面レンズ及びピンホールフィルタを使用すると、好ましくはビーム経路に対して垂直に配向される球面レンズからの反射が、垂直な入射で反射してピンホールフィルタを通って戻ることになり、「ペンシルビーム」と称されることがある強いビームをもたらし、このビームが利得媒体で高強度に増幅される可能性がある。したがって、これらの後方伝搬波の増幅による利得消耗並びにこれらの後方伝搬波の高強度による光学コンポーネントの損傷が生じる可能性がある。
【0045】
[0051]後方反射を低減するために球面レンズが傾斜される(ビーム経路に対して垂直に配置されない)と、球面レンズの形状により、入射ビームに対して垂直なレンズの新規の部分がもたらされることになり、ビームのいくらかの部分が後方伝搬波として反射され得る。したがって、球状の光学系を傾斜させることでは、後方伝搬波及びもたらされる問題は容易には解決されない。
【0046】
[0052]それと対照的に、円柱レンズを傾斜させると、後方反射によって生成される後方伝搬波が大幅に低減する。平凸の円柱レンズの入射ビームと向かい合う平面側で、円柱レンズを傾斜させると、ビーム経路に対してある角度で入射ビームを反射することになり、後方伝搬光が、スリットフィルタの非中央部分によって阻止されることになる。一般に、後方伝搬光を阻止するのにd/2f程度の傾斜角なら十分であり、ここで、dは狭い方向のスリット幅であり、fは円柱レンズの焦点距離(スリット開口から円柱レンズまでの距離)である。
【0047】
[0053]図7は、本発明の別の実施形態によるマルチパス増幅器の簡略図である。図7に示されるように、この実施形態は、マルチパス増幅器とともに図1に関して論じた空間フィルタ100を利用する。空間フィルタ100は、単一の水平スリット及び単一の垂直スリットを含んでおり、ビームは、マルチパス増幅器700を通って伝搬するときフィルタリングされる。図7に示されるように、ビームは、増幅の期間中、同じ垂直スリット及び水平スリットを何度も繰り返して通る。本発明の実施形態により、スリットにおける強度がプラズマ生成の閾値未満であるので、同一のスリットにビームを何回も通すことができる。したがって、上記で論じたピンホール閉鎖現象は起こらない。したがって、本発明の実施形態は、球面レンズ及びピンホールフィルタを使用する、以前のパスで生成されたプラズマが後続のパスの期間中に依然として存在する可能性が高い従来の空間フィルタと対照をなす。増幅されたビームが増幅器を通る多数のパスを構成することが可能になることにより、フロントエンドレーザのサイズが、従来の手法と比較して縮小され得て、それによって原価が低減する。
【0048】
[0054]図7を参照すると、入力ビームは、図面の左側から「p」の偏光を有して導入され、入力ビームが偏光子710によって伝送されることを可能にしている。次いで、ビームは、偏光子710並びにポッケルスセル720を通り、ポッケルスセルは、偏光がこのポッケルスセルを通った後で「p」のままであるように低電圧で動作される。次いで、ビームは、初めて増幅器740を通り、次いで空間フィルタ100に到達する。図1に関して説明されたように、この実施形態では円柱レンズ及びスリットフィルタが利用される。追加の実施形態は、空間フィルタ100の代わりに、図3に示された空間フィルタを利用する。当業者なら、多数の変形形態、変更形態、及び代替形態を理解するであろう。
【0049】
[0055]増幅されたビームは、ポッケルスセル722を通る。このポッケルスセルが全電圧で動作するので、偏光が「p」から「s」へ回転され、ビームは偏光子712からミラー732へ反射される。ミラー732による反射の後、ビームは偏光子712に戻り、ここでビームはポッケルスセル722の方へ反射して戻され、ポッケルスセル722は依然として全電圧で動作している。したがって、ポッケルスセル722は、偏光を回転させて「p」偏光へ戻す。光は、再び空間フィルタ100を通った後で、増幅器740で2度目の増幅を受ける。次いで、ビームはポッケルスセル720を通り、ポッケルスセル720は、このとき全電圧であって、ビームの偏光を「s」偏光へ回転させる。「s」偏光されたビームは偏光子710によってミラー730へ反射され、次いで、ミラー730は、光学鎖によってビームを反射して戻す。ポッケルスセル720及び722が全電圧にとどまる限り、その結果、偏光子710及び712における偏光は常に「s」であり、増幅されたビームは、ミラー730と732の間で循環し続けることになる。増幅器を通るパスの回数は、システムオペレータによって決定され得て、特定の実施形態では任意である。図7に示された実施形態によってもたらされる多数のパスの利点は、より大きなビーム増幅であり、したがって、入力パルスを生成するのにより小さなフロントエンドレーザが使用され、それによってシステム原価が低減する。さらに、パスがより多ければ、利得媒体の飽和フルエンスが光学系の損傷フルエンスに対して高いとき、増幅器からのエネルギー抽出効率を改善する付加利益を得ることができる。増幅器の利得が比較的小さく、十分なパスが構成され、その結果、増幅器を通って蓄積されたフルエンスが飽和フルエンスの数倍であれば、出力ビームのフルエンスが飽和フルエンス未満でさえ、効率的な抽出が可能である。
【0050】
[0056]マルチパス増幅器からビームを抽出するために、ポッケルスセル722における電圧がゼロに低下され、偏光子712におけるビーム偏光は「p」になり得る。「p」偏光されたビームは、偏光子712によって伝送されて増幅器から出力される。
【0051】
[0057]ビームが光ビーム経路を通る度に、ビームが空間フィルタ100によって浄化されることに留意されたい。上記で論じたように、スリットを用いると各パスで同一のスリットを再利用することが可能であり(ピンホールでは不可能である)、その理由は、スリット縁端部におけるレーザビーム強度のフルエンスがプラズマ生成の閾値未満にとどまり、それによって、最初のパスの後に続くパスのビームを妨害することになるピンホール閉鎖(又はスリットに対してピンホール閉鎖と同等のもの)を防止するからである。
【0052】
[0058]図5〜図7に示された増幅器は、本明細書で説明された空間フィルタを使用することによって動作パラメータを改善することができる特定の実装形態である。しかし、本発明はこれら特定の実装形態に限定されるものではなく、他の増幅器の構成も、増幅器システムのコンポーネントとして、円柱レンズ又は非点収差レンズとスリットフィルタとの組を有する空間フィルタを集積化することによって利益を得ることができる。単なる例として、Yb:SrF利得媒体を使用するマルチパス増幅器は、本明細書で説明された空間フィルタの集積化から利益を得ることができるシステムである。第2の例として、円柱レンズ又は非点収差レンズを使用する空間フィルタが、「リングレーザ」の設計に組み込まれ得て、同設計では、ビームは閉ループを通る多数のパスを構成し、パス数は1つ又は複数のポッケルスセル及び偏光子によって制御される。この実施形態では、ビームは、ビームが閉ループを通って構成する各往復で、空間フィルタを同一の方向に1回通る。当業者なら、多数の変形形態、変更形態、及び代替形態を理解するであろう。
【0053】
[0059]本明細書に説明された例及び実施形態は説明のためだけのものであり、これらの例及び実施形態の光の様々な変更又は変化が、当業者に示唆されるはずであり、本出願及び添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲内に含まれるべきであることも理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のフィルタ素子と、前記第1のフィルタ素子にオーバラップする第2のフィルタ素子とを具備する空間フィルタであって、
前記第1のフィルタ素子が、
第1の距離だけ離れ、それぞれが第1の焦点距離を有する第1の対の円柱レンズと、
前記第1の対の円柱レンズの間に配置された第1のスリットフィルタと
を備え、
前記第2のフィルタ素子が、
第2の距離だけ離れ、それぞれが第2の焦点距離を有する第2の対の円柱レンズと、
前記第2の対の円柱レンズの間に配置された第2のスリットフィルタと
を備える、空間フィルタ。
【請求項2】
前記第1の焦点距離と前記第2の焦点距離が同一の焦点距離である、請求項1に記載の空間フィルタ。
【請求項3】
前記第1のスリットフィルタと前記第2のスリットフィルタとの間の間隔が、前記同一の焦点距離より小さい所定の距離である、請求項2に記載の空間フィルタ。
【請求項4】
前記第1の対の円柱レンズの第1のレンズと前記第2の対の円柱レンズの第2のレンズとの間の距離が、前記同一の焦点距離と前記所定の距離の和の2倍に等しい、請求項3に記載の空間フィルタ。
【請求項5】
前記第1の対の円柱レンズの配向が前記第2の対の円柱レンズと直交する、請求項1に記載の空間フィルタ。
【請求項6】
前記第1のスリットフィルタが前記第2のスリットフィルタと直交する、請求項1に記載の空間フィルタ。
【請求項7】
前記第1の対の円柱レンズの第1のレンズのビーム縦横比が等しく、前記第2の対の円柱レンズの第2のレンズのビーム縦横比が等しい、請求項1に記載の空間フィルタ。
【請求項8】
第1の方向に関する第1の焦点距離及び前記第1の方向に対して垂直な第2の方向に関する第2の焦点距離を有する第1の非点収差レンズと、
前記第1の非点収差レンズから前記第1の焦点距離だけ離れた第1のスリットフィルタと、
前記第1の非点収差レンズから前記第2の焦点距離だけ離れた第2のスリットフィルタと、
前記第1の方向に関する第3の焦点距離及び前記第2の方向に関する第4の焦点距離を有する第2の非点収差レンズと
を備える、空間フィルタ。
【請求項9】
前記第2の非点収差レンズが、前記第1のスリットフィルタから前記第3の焦点距離だけ離される、請求項8に記載の空間フィルタ。
【請求項10】
前記第2の非点収差レンズが、前記第2のスリットフィルタから前記第4の焦点距離だけ離される、請求項9に記載の空間フィルタ。
【請求項11】
前記第1のスリットフィルタと前記第2のスリットフィルタが、前記第1の焦点距離、前記第2の焦点距離、前記第3の焦点距離、及び前記第4の焦点距離より小さい所定の距離だけ離される、請求項8に記載の空間フィルタ。
【請求項12】
前記第1のスリットフィルタが前記第2のスリットフィルタと直交する、請求項8に記載の空間フィルタ。
【請求項13】
前記第1の非点収差レンズ及び前記第2の非点収差レンズで測定されるビーム領域が同一の領域である、請求項8に記載の空間フィルタ。
【請求項14】
前記第1の非点収差レンズにおける第1のビーム断面が第1の方向と位置合わせされた第1の長軸によって特徴づけられ、前記第2の非点収差レンズにおける第2のビーム断面が前記第1の方向に対して直交して位置合わせされた第2の長軸によって特徴づけられる、請求項13に記載の空間フィルタ。
【請求項15】
前記第1の焦点距離が前記第3の焦点距離より小さく、
前記第2の焦点距離が前記第4の焦点距離より大きい、請求項8に記載の空間フィルタ。
【請求項16】
入力部分及び反射部分を有する利得媒体と、
前記反射部分に光学的に結合された反射素子と、
前記入力部分に光学的に結合されたビーム経路と、
前記ビーム経路に沿って配置され、直交して配向されている円柱レンズの第1の組と、
前記ビーム経路に沿って配置され、直交して配向されている開口の組と、
前記ビーム経路に沿って配置され、直交して配向されている円柱レンズの第2の組と、
前記開口の組と前記円柱レンズの第2の組の間に配置された導入ミラーと
を備える、ダブルパス増幅器。
【請求項17】
前記利得媒体がNd:ガラスを備える、請求項16に記載のダブルパス増幅器。
【請求項18】
前記反射素子がミラーを備える、請求項16に記載のダブルパス増幅器。
【請求項19】
前記円柱レンズの第1の組の第1の円柱レンズが、前記開口の組の第1の開口から前記第1の円柱レンズの焦点距離だけ離される、請求項16に記載のダブルパス増幅器。
【請求項20】
前記円柱レンズの第1の組の第2の円柱レンズが、前記開口の組の第2の開口から前記第2の円柱レンズの焦点距離だけ離される、請求項16に記載のダブルパス増幅器。
【請求項21】
前記開口の組の第2の開口が、2つのスリットを含む空間フィルタ素子を備える、請求項16に記載のダブルパス増幅器。
【請求項22】
前記導入ミラーが、前記2つのスリットのうちの1つを通して前記利得媒体へ光を反射するように動作可能である、請求項21に記載のダブルパス増幅器。
【請求項23】
入力部分及び反射部分を有する利得媒体と、
前記反射部分に光学的に結合された反射素子と、
前記入力部分に光学的に結合されたビーム経路と、
前記ビーム経路に沿って配置され、直交して配向されている円柱レンズの第1の組と、
前記ビーム経路に沿って配置され、直交して配向されている開口の組と、
前記ビーム経路に沿って配置され、直交して配向されている円柱レンズの第2の組と、
前記開口の組と前記円柱レンズの第2の組の間に配置された導入ミラーと、
前記開口の組と前記円柱レンズの第2の組の間に配置された第1の絶縁ループミラーと、
前記開口の組と前記円柱レンズの第2の組の間に配置された第2の絶縁ループミラーと、
前記第1の絶縁ループミラーから光を受け取って前記第2の絶縁ループミラーへ光を向けるように動作可能な絶縁ループと
を備える、マルチパス増幅器。
【請求項24】
前記反射素子がミラーを備える、請求項23に記載のマルチパス増幅器。
【請求項25】
前記円柱レンズの第1の組の第1の円柱レンズが、前記開口の組の第1の開口から前記第1の円柱レンズの焦点距離だけ離される、請求項23に記載のマルチパス増幅器。
【請求項26】
前記円柱レンズの第1の組の第2の円柱レンズが、前記開口の組の第2の開口から前記第2の円柱レンズの焦点距離だけ離される、請求項23に記載のマルチパス増幅器。
【請求項27】
前記開口の組の第2の開口が、4つのスリットを含む空間フィルタを備える、請求項23に記載のマルチパス増幅器。
【請求項28】
前記導入ミラーが、前記4つのスリットのうちの1つを通して前記利得媒体へ光を反射するように動作可能である、請求項27に記載のマルチパス増幅器。
【請求項29】
前記第1の絶縁ループミラーが、前記4つのスリットのうち第2のものを通して前記絶縁ループへ光を反射するように動作可能である、請求項28に記載のマルチパス増幅器。
【請求項30】
前記第2の絶縁ループミラーが、前記4つのスリットのうち第3のものを通して前記利得媒体へ光を反射するように動作可能である、請求項29に記載のマルチパス増幅器。
【請求項31】
前記絶縁ループがビーム回転子を備える、請求項23に記載のマルチパス増幅器。
【請求項32】
光路に沿ってビームを向けるように動作可能な入力光学系と、
前記光路に沿って配置された利得媒体と、
前記光路に沿って配置された空間フィルタと、
前記光路に沿って配置された出力光学系と
を具備する、マルチパス増幅器であって、
前記空間フィルタが、第1のフィルタ素子と、前記第1のフィルタ素子とオーバラップする第2のフィルタ素子とを備え、
前記第1のフィルタ素子が、
第1の距離だけ離れ、それぞれが第1の焦点距離を有する第1の対の円柱レンズと、
前記第1の対の円柱レンズの間に配置された第1のスリットフィルタと
を備え、
前記第2のフィルタ素子が、
第2の距離だけ離れ、それぞれが第2の焦点距離を有する第2の対の円柱レンズと、
前記第2の対の円柱レンズの間に配置された第2のスリットフィルタと
を備える、マルチパス増幅器。
【請求項33】
前記入力光学系が第1の偏光子及び第1のポッケルスセルを備える、請求項32に記載のマルチパス増幅器。
【請求項34】
前記第1の偏光子から光を受け取って前記第1の偏光子へ光を反射するように動作可能な第1のミラーをさらに備える、請求項33に記載のマルチパス増幅器。
【請求項35】
前記出力光学系が第2の偏光子及び第2のポッケルスセルを備える、請求項33に記載のマルチパス増幅器。
【請求項36】
前記第2の偏光子から光を受け取って前記第2の偏光子へ光を反射するように動作可能な第2のミラーをさらに備える、請求項35に記載のマルチパス増幅器。
【請求項37】
前記第1の対の円柱レンズの配向が前記第2の対の円柱レンズと直交する、請求項32に記載のマルチパス増幅器。
【請求項38】
前記第1のスリットフィルタが前記第2のスリットフィルタと直交する、請求項32に記載のマルチパス増幅器。
【請求項39】
前記第1の対の円柱レンズの第1のレンズのビーム縦横比が等しく、前記第2の対の円柱レンズの第2のレンズのビーム縦横比が等しい、請求項32に記載のマルチパス増幅器。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−502723(P2013−502723A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525602(P2012−525602)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/044408
【国際公開番号】WO2011/022209
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(510218043)ローレンス リバモア ナショナル セキュリティー, エルエルシー (7)
【Fターム(参考)】